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二章 混ざり怪編
九話
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「……!」
少々頬を赤らめてスキンシップを許すハクに、大黒は思わず飛びつきそうになる。
「我慢……! 我慢だ……! ここでハクに抱きついたらまた好感度が下がってしまう……!」
「そうやって自制を効かせてくれるのはいいですが、壁に頭を打ち続けるのは止めてくれませんか。とても不気味です」
ゴツ、ゴツ、と頭蓋骨が壁に当たる音を鳴らし続ける大黒に、ハクは吐瀉物を見るような眼差しになる。
先程まで頬が上気していたとは思えない双眸で見られて、さすがの大黒も冷静さを取り戻した。
「いや、悪い。まさかハクがそんなことを言ってくれるなんて夢にも思ってなくて」
「貴方は……、いえ何でもないです。それよりそろそろ磨も起きてくる頃だと思うので、本当にしっかりしてくださいね?」
「あ、ああ。それはちゃんとするけどハクは何を言いかけたんだ? そんな言葉の切られ方をすると気になってしょうがないんだけど」
「気にしないでください。この生活が続くのならば、いずれ言う時も来るでしょう。その時までお預けということで」
「ふーん……? まあ楽しみにしとくよ」
本当はもう少し突っ込んで聞きたかった大黒だったが、リビングに近づいてくる足音に気付き、話を切り上げることを優先した。
そして三人目の同居人が遠慮がちにリビングへと入ってきた。
「……おは、よう?」
何故か疑問符を浮かべながら朝の挨拶をしてきた磨に、大黒も穏やかに微笑みながら挨拶を返す。
「おはよう、昨日はよく眠れたか?」
「……ええ、久しぶりによく眠れたわ」
「そりゃ良かった。出来るだけ早めに磨のベッドも買いにいくから、少しの間は俺のベッドで我慢してくれると助かる」
「私の、ための物なんて必要ない。そんなことであなたの手を煩わせたくないの」
磨は伏し目がちに大黒の提案を拒む。
「あー、磨がいいんならそれでもいいけど……。欲しくなったらいつでも言ってくれ、最高級のベッドを用意するから」
「そういうところが逆に負担になるんですよ。何故そうも極端に走るのですか」
サラダの入った大皿を持ってキッチンから出てきたハクは、妄言を吐いていた大黒に制止をかける。
「極端って言っても、子供に良いベッドを用意するなんて普通のことじゃないか。睡眠は子供の成長には特に大事なものだし」
「それはそうなんですけど……、じゃあ貴方の想定していた最高級のベッドとやらがどんなのか説明してみてください」
「まあオーダーメイドは当然のこととして……」
「もう極端ですね」
ハクは大黒の話を最後まで聞かずにテーブルへと大皿を置きにいくと、まだ話し続けている大黒を無視して磨の方へと振り返った。
「おはようございます。よく眠れたのは幸いですが、やはり自分のベッドはあった方がいいですよ? あの人はああいう人ですし遠慮をするだけ損というものです」
「おはよう。いいの、今の状態でも私は恵まれすぎてるから」
「……磨は中々珍しい価値基準を持ってるようですね。それを悪いとは言いませんが、もう少し楽に考えても罰は当たりませんよ?」
ハクの言葉に磨は首をふるという形で返事をした。
「……分かりました。無理強いはしません、とりあえずはあの人の言うように欲しくなったら、ですね。では朝御飯にしましょうか。ほら、貴方はいつまで寝具の話をしているんですか! 早く食事を運ぶなりなんなりしてください!」
ハクは背中をてしてしと叩くことで大黒を現実に引き戻し、三人は少し遅めの朝食へとありついた。
少々頬を赤らめてスキンシップを許すハクに、大黒は思わず飛びつきそうになる。
「我慢……! 我慢だ……! ここでハクに抱きついたらまた好感度が下がってしまう……!」
「そうやって自制を効かせてくれるのはいいですが、壁に頭を打ち続けるのは止めてくれませんか。とても不気味です」
ゴツ、ゴツ、と頭蓋骨が壁に当たる音を鳴らし続ける大黒に、ハクは吐瀉物を見るような眼差しになる。
先程まで頬が上気していたとは思えない双眸で見られて、さすがの大黒も冷静さを取り戻した。
「いや、悪い。まさかハクがそんなことを言ってくれるなんて夢にも思ってなくて」
「貴方は……、いえ何でもないです。それよりそろそろ磨も起きてくる頃だと思うので、本当にしっかりしてくださいね?」
「あ、ああ。それはちゃんとするけどハクは何を言いかけたんだ? そんな言葉の切られ方をすると気になってしょうがないんだけど」
「気にしないでください。この生活が続くのならば、いずれ言う時も来るでしょう。その時までお預けということで」
「ふーん……? まあ楽しみにしとくよ」
本当はもう少し突っ込んで聞きたかった大黒だったが、リビングに近づいてくる足音に気付き、話を切り上げることを優先した。
そして三人目の同居人が遠慮がちにリビングへと入ってきた。
「……おは、よう?」
何故か疑問符を浮かべながら朝の挨拶をしてきた磨に、大黒も穏やかに微笑みながら挨拶を返す。
「おはよう、昨日はよく眠れたか?」
「……ええ、久しぶりによく眠れたわ」
「そりゃ良かった。出来るだけ早めに磨のベッドも買いにいくから、少しの間は俺のベッドで我慢してくれると助かる」
「私の、ための物なんて必要ない。そんなことであなたの手を煩わせたくないの」
磨は伏し目がちに大黒の提案を拒む。
「あー、磨がいいんならそれでもいいけど……。欲しくなったらいつでも言ってくれ、最高級のベッドを用意するから」
「そういうところが逆に負担になるんですよ。何故そうも極端に走るのですか」
サラダの入った大皿を持ってキッチンから出てきたハクは、妄言を吐いていた大黒に制止をかける。
「極端って言っても、子供に良いベッドを用意するなんて普通のことじゃないか。睡眠は子供の成長には特に大事なものだし」
「それはそうなんですけど……、じゃあ貴方の想定していた最高級のベッドとやらがどんなのか説明してみてください」
「まあオーダーメイドは当然のこととして……」
「もう極端ですね」
ハクは大黒の話を最後まで聞かずにテーブルへと大皿を置きにいくと、まだ話し続けている大黒を無視して磨の方へと振り返った。
「おはようございます。よく眠れたのは幸いですが、やはり自分のベッドはあった方がいいですよ? あの人はああいう人ですし遠慮をするだけ損というものです」
「おはよう。いいの、今の状態でも私は恵まれすぎてるから」
「……磨は中々珍しい価値基準を持ってるようですね。それを悪いとは言いませんが、もう少し楽に考えても罰は当たりませんよ?」
ハクの言葉に磨は首をふるという形で返事をした。
「……分かりました。無理強いはしません、とりあえずはあの人の言うように欲しくなったら、ですね。では朝御飯にしましょうか。ほら、貴方はいつまで寝具の話をしているんですか! 早く食事を運ぶなりなんなりしてください!」
ハクは背中をてしてしと叩くことで大黒を現実に引き戻し、三人は少し遅めの朝食へとありついた。
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