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一章 大黒家争乱編
十七話
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大黒は公園のベンチに座って純が来るのを待っていた。
その公園は時代の流れか、遊具の類はほとんど無く、いくつかベンチと木があるだけの、ただの空き地と言ってもいいような場所だった。
普段は少年たちがキャッチボール等をしているその場所は、今晩に限り、人間の尊厳をかけた戦いの場となる。
時計の短針と長針が共に頂点を指そうとした頃、公園の入り口に重そうな荷物を背負った女が現れた。
大黒は女の姿を目に映すと、ベンチから立ち上がって女に話しかけた。
「よお、えらく重装備じゃないか。そんなに色んなもん持ってると、通りすがりのやつから変な目で見られたろ」
女、大黒純は、大黒の家に来た時よりも大量の荷物をこの場に持ち込んできた。
服装こそ昼間と変わらないラフなものだったが、背中には薙刀袋と身長よりも大きな金属ケース、右手にはアタッシュケース、左手にはボストンバッグと、もはや本人の体重よりも荷物の方が重いのでは、というくらいだった。
純は薙刀袋から薙刀を取り出し、それ以外の荷物は公園の端に置いてから公園の中央へと歩いていく。
「備えあれば憂いなし、ですよ。兄さんと戦うのに準備をしすぎるということは無いですからね。本当はもっと持って来たかったのですけど、時間が足りませんでした」
「そんなに持ってきても使う機会無いと思うんだけどなぁ……、お前そういや、いずれ使うかもしれないからっつって物を捨てられないタイプだったっけ」
大黒は呆れたように言いながら、純と同じく公園の中央まで移動する。
「何でも捨てまくる兄さんよりいいと思いますけどね。それより兄さんの方は随分と軽装なようで」
純とは打って変わって、大黒の格好は実に簡素なものだった。
コンビニに行くような服装で、右手に木刀を持っているだけ。昨日のように札を入れているホルダーすら身に着けていない。
「ほら俺、腕がこんなだからさ、あんまり荷物あり過ぎても身動きが取りづらくなるだけだし」
「そうですね。兄さんなら木刀一本さえあれば、どんな相手だろうと倒してしまえるでしょうしそれで十分だという事ですか」
「いやちげーよ、人の話聞いてた?」
相変わらず曲解する妹だな、と思いながら大黒は純に木刀を突き付ける。
「さあ、もう眠くなってくる時間だし、そろそろ始めようぜ。お前も夜更かしして肌を荒らしたくないだろ」
純は木刀を向けられながらもそこから一歩も動かず、地面を均しながら答える。
「陰陽師は夜に活動する人種ですし今更ですよ。肌ケアもばっちりしてますし心配いりません。ですが、そうですね。私も早く決着をつけて女狐を殺しに行かないといけませんし、始めましょうか」
そう言うと純も刃は鞘に納めたまま、薙刀を中段に構え、臨戦態勢をとる。
そして、いざ戦いが始まろうとした時、
「生成、封呪結界」
公園全体が大黒の結界で覆われた。
「…………、……!?」
純は周りを囲った結界を横目で確認した後、自分の体の異変に気付いた。
「お、もう気づいた? 俺からもお前からも霊力を感じないこと」
「兄さん、これは……」
「お察しの通り霊力を完全に遮断する結界だ。この結界の中では符術も呪術も結界術も使えない。大黒家を出て行った後、対陰陽師用に編み出した特製の結界だよ。こんな体で色んな術に対応しきれる訳ねーからな、重い荷物持ってきたところ悪いけど封じさせてもらったぜ」
純は念のため、腰につけてあるポーチに手を入れて、札が本当に発動しないかを確かめたが、それらは大黒の言う通り一切反応する様子が無かった。
「待たせたな、これで準備完了だ。今度こそ戦い始めるか、肉体だけでのガチンコ勝負を!」
大黒は未だ動揺から脱し切れていない純に構わず、闘気を漲らせる。
互いに負けられない理由を背負いながら、大黒家長男と長女の兄妹喧嘩が始まった。
その公園は時代の流れか、遊具の類はほとんど無く、いくつかベンチと木があるだけの、ただの空き地と言ってもいいような場所だった。
普段は少年たちがキャッチボール等をしているその場所は、今晩に限り、人間の尊厳をかけた戦いの場となる。
時計の短針と長針が共に頂点を指そうとした頃、公園の入り口に重そうな荷物を背負った女が現れた。
大黒は女の姿を目に映すと、ベンチから立ち上がって女に話しかけた。
「よお、えらく重装備じゃないか。そんなに色んなもん持ってると、通りすがりのやつから変な目で見られたろ」
女、大黒純は、大黒の家に来た時よりも大量の荷物をこの場に持ち込んできた。
服装こそ昼間と変わらないラフなものだったが、背中には薙刀袋と身長よりも大きな金属ケース、右手にはアタッシュケース、左手にはボストンバッグと、もはや本人の体重よりも荷物の方が重いのでは、というくらいだった。
純は薙刀袋から薙刀を取り出し、それ以外の荷物は公園の端に置いてから公園の中央へと歩いていく。
「備えあれば憂いなし、ですよ。兄さんと戦うのに準備をしすぎるということは無いですからね。本当はもっと持って来たかったのですけど、時間が足りませんでした」
「そんなに持ってきても使う機会無いと思うんだけどなぁ……、お前そういや、いずれ使うかもしれないからっつって物を捨てられないタイプだったっけ」
大黒は呆れたように言いながら、純と同じく公園の中央まで移動する。
「何でも捨てまくる兄さんよりいいと思いますけどね。それより兄さんの方は随分と軽装なようで」
純とは打って変わって、大黒の格好は実に簡素なものだった。
コンビニに行くような服装で、右手に木刀を持っているだけ。昨日のように札を入れているホルダーすら身に着けていない。
「ほら俺、腕がこんなだからさ、あんまり荷物あり過ぎても身動きが取りづらくなるだけだし」
「そうですね。兄さんなら木刀一本さえあれば、どんな相手だろうと倒してしまえるでしょうしそれで十分だという事ですか」
「いやちげーよ、人の話聞いてた?」
相変わらず曲解する妹だな、と思いながら大黒は純に木刀を突き付ける。
「さあ、もう眠くなってくる時間だし、そろそろ始めようぜ。お前も夜更かしして肌を荒らしたくないだろ」
純は木刀を向けられながらもそこから一歩も動かず、地面を均しながら答える。
「陰陽師は夜に活動する人種ですし今更ですよ。肌ケアもばっちりしてますし心配いりません。ですが、そうですね。私も早く決着をつけて女狐を殺しに行かないといけませんし、始めましょうか」
そう言うと純も刃は鞘に納めたまま、薙刀を中段に構え、臨戦態勢をとる。
そして、いざ戦いが始まろうとした時、
「生成、封呪結界」
公園全体が大黒の結界で覆われた。
「…………、……!?」
純は周りを囲った結界を横目で確認した後、自分の体の異変に気付いた。
「お、もう気づいた? 俺からもお前からも霊力を感じないこと」
「兄さん、これは……」
「お察しの通り霊力を完全に遮断する結界だ。この結界の中では符術も呪術も結界術も使えない。大黒家を出て行った後、対陰陽師用に編み出した特製の結界だよ。こんな体で色んな術に対応しきれる訳ねーからな、重い荷物持ってきたところ悪いけど封じさせてもらったぜ」
純は念のため、腰につけてあるポーチに手を入れて、札が本当に発動しないかを確かめたが、それらは大黒の言う通り一切反応する様子が無かった。
「待たせたな、これで準備完了だ。今度こそ戦い始めるか、肉体だけでのガチンコ勝負を!」
大黒は未だ動揺から脱し切れていない純に構わず、闘気を漲らせる。
互いに負けられない理由を背負いながら、大黒家長男と長女の兄妹喧嘩が始まった。
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