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二日酔い
しおりを挟む……あー…
脳みそががんがんする。
ついでに胃もむかむかする。
昨日はあきらかに飲み過ぎた。
つまりこれはあれだ、二日酔いだ。
……昔はあれくらい、平気やったんに…
リアルに歳を感じてちょっと憂鬱な気分になりつつ、屋上から嫌味な程に晴れ渡った空を見上げる。
「………」
――俺は狡いんです
あの時の、彼の言葉が。
――ひとの優しさにつけこむ、狡い奴なんです
歳に似合わないその表情が、ずっと頭から離れない。
……なんなん、一体…
「なぁんか、元気ないですねぇー」
振り返ると、そこには橋本まどかが立っていた。
「……寝不足やねん」
「えー、大丈夫ですかぁ?」
「あんま大丈夫やないかも。慰めてくれる?」
「高いですよぉ?」
「冗談やっちゅうねん」
まどかとは例の忘年会以来、特に親しくなったわけではないが軽口を言い合うような仲にはなった。
「……そういや橋本って、あいつと同期やんなぁ」
「あいつって?」
「神崎くん」
「あぁ、はい」
「あいつの事、なんか知っとる?」
「ん~…そんなに仲が良いってわけじゃないんで~」
「そか…」
「アオちゃんがどうかしたんですかぁ?」
……アオちゃんて、
「……や、なんでもあらへん」
先戻るわ~と背を向けた俺に、そういえばぁと彼女は言った。
「アオちゃんの両親って、もうずっと前に亡くなったらしくて~」
思わず足を止めて振り返る。
「それからしばらく、課長の家にお世話になってたって」
「……は?なんで?」
「なんかぁ、親戚らしいですよぉ?」
「……親戚、」
え、なんやそれ。
「だから課長の事は、すっごく慕ってるみたいですねぇ」
「………」
「課長、面倒見よさそうだしぃ」
「せやかて、不倫は不倫やんか」
「え?」
しまった、と思った時にはもう遅い。
「………」
「……や、橋本今のは、」
「確かにそうですよねぇ、課長子どもいるしぃ」
「え」
「でも課長も、突き放せなかったんじゃないですかぁ?ほらアオちゃん、メンタル弱そうだしなんか暗いしあんま友達とかいなさそうだしー」
「橋本おまえ、」
俺の顔を見て、ふふっとまどかは笑った。
「この前同期会があって、その後に一緒に飲んだんですよぉ。アオちゃんお酒弱いのに、結構飲んじゃっててぇ。その時に」
でもぉ、とまどか。
「さっきから聞いてて思ったんですけどー、中沢さんって案外女々しいんですねぇ」
唖然とした。
「女々しいって、俺が?」
「はい。だってぇ、こんなとこでぐだぐだ悩む暇があるなら本人に好きや!って言ってくればいいやないですかぁ」
「……けったいな大阪弁使わんといて」
「でもなんかそういうの、中沢さんらしくないと思いますよぉ?」
「いや俺らしいって何やねん…」
てゆうかおまえ俺の何を知っとんねん。
「……大体な、あいつは男で」
だから好きとか別にそんなんやないけど…なんか気になってもうて、心配になって、もやもやして…って、あれ?
「どうかしましたぁ?」
……いや、まて
「………」
……まてまてまて!嘘やろ、そんなんあるわけ…
「………」
手で顔を覆った。
「せんぱーい?」
「……橋本、」
「はい?」
「おおきになぁ」
半ば放心状態で呟くと、まどかは笑顔で言った。
「お礼は叙〇苑の焼肉でいいですぅ」
……誰かを好きになるって、
そういえば、こんな感じだった気がする。
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