melt(ML)

しるし(3)

　
「……おいコラ」
「はい？」
「これはやりすぎだろ」

翌朝。
着替えようとして、太ももの内側がえらいことになってる事に気づいた。

「そうですか？」
「そうですかじゃねぇよ…」

そこに残されたおびただしい数の痕跡は、ちょっと痛々しいほどだ。

「見えないとこならいいって言ったじゃないですか」
「それにしたって限度があるだろ！」

以前、身体じゅうにこれをつけられたことがある。
それはもう大惨事で、さすがに困ってアトをつけるならもうしないと釘をさした。

省エネという名目の光熱費削減、うちの会社もクールビズを推奨している。
それに営業という仕事柄、暑苦しい格好というのはあまり印象がよくない。

だけど一番困るのは、コレを見る度にあれこれ思い出してしまうことだ…なんて、絶対言えないけど。

……まぁ一応、約束は守ってくれてるしな…

これくらいは我慢するか、と俺は小さく溜め息を吐いた。





「てゆうかおまえさー、なんか怒ってる？」

戸倉が用意してくれた豪華な朝飯を食べながら言う。

「いえ、別に…」
「嘘つけ。なんだよ、俺がアトつけんなって言ったから？」

最中に言ったのは確かに悪かったけど。

「………。蒔田さんにお願いがあります」

戸倉はおもむろに口を開いた。

「他の人の前での居眠りはやめてください」
「……はぁ？」
「昼休みです」

……昼休み？

いきなりなんの話だよ、とは思ったが。

「いやそれ居眠りっつーか昼寝だし…」

それも自分の机に十分くらい突っ伏してるだけだし。

「……昼飯食ったら眠くなるじゃん？」
「………」
「てゆうかなんで？」
「先輩の寝顔を見てムラムラする人がいるかもしれないじゃないですか」
「いるわけねぇだろ」
「少なくとも俺はします」

さらりとそんなことを言われて言葉を失くす。

「………」
「………」
「……わかったよ」
「約束ですよ」

渋々了承した俺に、戸倉は笑顔で言う。

「破ったら、その場でおはようのキスを」
「わかった！わかったから！」

こいつの場合、本当に実行しそうで怖い。

……てゆうか、

やたらとアトをつけたがるとこといい、昼寝の件といい。
もしかしてこいつ相当独占欲強いんじゃね…？と最近気がつきつつある俺だった。



end.