手をつないで(BL)

kotori

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手をつないで

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――優しくしてくれるなら、誰でもいいんじゃねぇの?

そう言った巽は蔑むような、冷たい目をしていた。
誰でもいいとかそんなんじゃない、けど。
もっきーに抱きしめられて、少しも心が動かなかったって言ったら嘘になる。

思えば今まで、本当に辛い時や悲しい時はいつも誰かが傍にいてくれた気がする。
もしかしたら無意識に、優しくされることを望んでたのかもしれない。
巽はそんな俺の浅ましさに呆れたのかもしれない。





重い瞼を開くとまず白い天井が目に映った。
そして視界の端には、見慣れた横顔。

「……巽、」

振り向いた巽に起こしたか、と訊かれ小さく首を振る。

「いつ来たの、」
「さっき」

俺が入院してから巽は毎日ここに来る。
お菓子とか漫画とか、いろんな差し入れを持って。

「具合は?」
「平気…」
「そっか」

……きっと勉強とか色々、忙しいはずなのに

「……ごめん、」

小さく呟いたその声は、本人には届かなかったらしい。
巽は冷蔵庫から箱を出しながら言った。

「これ、お袋から。今食うか?」
「あ…、うん」

駅前にある洋菓子屋さんのプリン。
巽の家に遊びに行くとよくおやつに出てくるそれが、俺は大好きだった。

「……おいしい、」
「よかったな」

プリンは甘くてほろ苦くて、どこか懐かしい味がして。

巽は優しかった。
ここしばらく、進路の事やケンカの事には一切触れてこなかった。
だからますます不安になった。

「あ、あのさ巽…」
「ん、」

意を決して顔をあげる。

「俺っ…、あんまり甘えないようにするし、もう迷惑かけないようにするから、だから、」

……だから?

なんて言おうとしたんだっけ?

「………」

ずっと考えてたはずなのに、続く言葉が見つからない。
ぎゅっとスプーンを握りしめた。
胸がくるしい。

「……淳、」

俯いた俺の頭に、ぽんと手が置かれる。

「……無理すんな」
「え、」
「また来るから、」

そう言うと、巽はそっと俺の髪を撫でた。
いつもは少し照れ臭いけれど安心するその仕草も、今はなんだか。



ぱたりと閉まる病室のドア。
部屋に残された俺は、途方に暮れる。
もうプリンの味さえわからなくなっていた。

好きだから離れたくない、傍にいたい。
それに巽がいないと俺は…。

……俺は?


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