手をつないで(BL)

kotori

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Xmas編

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ある日の放課後。
俺は、先輩のクラスへと急いでいた。
手には限定発売のドーナツが入った紙袋。

……まだいるよね、靴あったし

うきうきしながら、教室のドアを勢いよく開けた。

「せーんぱいっ!」
「………」
「………」
「……あれ?」

俺はその場に固まった。
確かに先輩はそこにいたけど、一人じゃなかった。
先輩は知らない奴と、あられもない姿で抱きあっていた。





「……で、また浮気されたと」
「……っまたって言うなー!!」
「けど、そういうことだろ」

号泣する俺の隣で、ドーナツを食べている巽(タツミ)は微妙な顔をした。

「これ、イマイチだな」
「……なら食うな!!」

一日百個限定の話題のドーナツ。
先輩が食べたいって言ってたから、学校サボって朝から並んだのに…。

「うぅっ…先輩、なんで?」

俺の事好きって言って、ぎゅーって抱きしめてくれたじゃん。
キスしながら愛してるって言ってくれたじゃんっ。
ラブラブだった時の事を思い出しながら、ベットの上をごろんごろんと転がった。

「まぁ、口だけならなんとでも言えるよな」
「おまえなんでそんな事ゆーの?!」

……それでも親友か!!

「うわ、鼻水ついてっし」
「布団の方が大事か!」
「俺の布団だし」
「薄情者ー!!」
「いや俺、かなり心広いだろ。てゆうか淳(アツシ)、おまえ男見る目なさすぎ」
「……っ、」

巽は昔からクールとゆうかストレートとゆうか、言動にも行動にも容赦がない。

「毎回毎回ヤリ逃げされやがって」
「ヤリ逃げじゃねーもん!つきあってたもん!」
「でもソッコー浮気されてんじゃん。ヤリ捨てか?」
「ひどいいい!!」
「おまえがつきあう奴らがな。大体さぁ、おまえの学校ってどうなってるわけ?」

煙草に火をつけながら巽が言う。

「……どうってフツーじゃん」
「男同士がフツーにつきあってる時点でフツーじゃねーよ」

俺が通っている高校は男子校だ。
そのせいかゲイの比率がちょっと高い。
男同士で手をつないだり、抱き合ったりするのは結構日常的な光景だったりする。
それが巽には信じられないらしい。

……いや、俺も最初は驚いたけど…

ちなみに巽は共学の高校に通っている。

「……まぁ、元気だせよ」

よしよしと頭を撫でられる。

「……淳はさ、もうちょっと慎重になれ。で、おまえの事を大切にしてくれる奴を見つけろ」
「……大切…」

……俺を?

「いるのかな、そんな奴…」
「さあ。世界中探してみればいるんじゃね?物好きが」

そんなに探さねーといねーのかよ!!
俺はもっと身近な奴がいい!





俺はよく、浮気される。
それは自覚してる。
でも勿論、それを望んでる訳じゃない。

……呪われてんのか?

夜道を歩きながら、ぐずぐずと考えた。
巽の家と俺の家は近い。
家に帰ると、母さんが台所から顔を出した。

「あっくん、ご飯は?」
「いらね。巽んトコで食ってきた」
「そう…今日はせっかくハンバーグ作ったのに…」
「由香里、じゃあそれは僕が食べるよ」
「耕二さん…でも、もうお腹いっぱいでしょ?」
「由香里が作ったご飯だったら、いくらでも食べられるよ」
「やだ…耕二さんったら」

俺の存在を完全に無視して、甘い空気を漂わせ始める二人。

「……あのさ、俺もう上行ってもいい?」
「どうぞー」
「………」

自分の部屋に入って深い溜め息を吐いた。
俺の両親は、それはもう気持ち悪いくらいに仲がいい。
再婚だからって事もあるだろうけど、それにしても度を越している。
息子の前で平気で抱きあったりするし。
仲が悪いよりいいんじゃねえのって、巽は言うけど。
確かにそうかもしんないけどさ…。

……幸せ、だよな

二人を見ているといつも思う。
相手の事を誰よりも想ってる。
そして自分も、想われてる。
だから、一緒にいる。

……先輩、

なんで浮気したの?
なんであの時、俺の方を見てくれなかったの?
なんで何も言ってくれなかったの?

「……好きだったのにな…」

じわりと滲んだ涙で、視界がぼやける。

いつもこうだ。
今度こそ大丈夫だと思ったら、裏切られて。
もう誰も好きになれないって思うのに。
そのうちまた誰かを好きになって。
そしてまた、傷ついて。
その繰り返し。

「……もうやだ…」

そう呟いた時、ケータイが鳴った。

……先輩?

まだ別れたわけじゃないし…もしかしたら…。
その直後、俺のほのかな期待は見事に粉砕された。
LINEはさっき別れたばかりの巽からだった。

『今度の日曜、どっか遊びに行こう』

巽は口は悪いけど優しい。
このLINEだって、俺が今頃泣いてるってわかってて送ってきたんだと思う。
そういう奴だ。

『じゃあ、なんかメシ奢って』
『ずーずーしいな、おまえ』

巽の短くて軽い内容のLINEは、俺の心を和ませてくれる。

『イタリアン食いたい』

中学ん時同じクラスになって、俺と巽はすぐに仲良くなった。
俺は男運はよくないけど友達には恵まれていると思う。
巽は俺が男が好きだって知っても、以前と変わらず接してくれた。
ほんとにいい奴だ。





日曜日。
いつものように巽が俺を迎えに来た。

「……さみーな」
「そろそろ雪、降るんじゃね?」

巽は寒いのが嫌いだ。
今日も黒いダウンにマフラーをぐるぐる巻きにした重装備。
俺は寒いのは平気だけど夏は苦手だ。
毎年夏バテしてぶっ倒れて、よく巽に看病してもらった。



「……あ、ツリー」

駅前の商店街の中央に大きなもみの木が飾られていた。
もうすぐ、クリスマスだ。

「………」

あれから先輩とはなんにも話してない。
電話もないし、メールもこない。
自分からしようかとも思ったけど、結局怖くてできなかった。

……このまま、自然消滅するのかな…

「……なあ、」

ぼーっとツリーを眺めてると、巽が言った。

「今年のクリスマス、うち来ねえ?」
「……え?」
「飲み会しよーぜ、リクたちも誘って」
「……けどおまえ、愛ちゃんは?」

愛ちゃんは巽の彼女だ。
確か同じ高校。

「とっくに別れたけど」
「えええ?!俺聞いてねーし」
「言ってねーし。ちなみにその後真由ちゃんとつきあってたけど、一昨日別れたし」
「はあああ?真由ちゃんって誰」
「担任」

巽はモテる。
年上からもタメからも年下からも、とにかく女という女にハンパなくモテる。
中学ん時も、学年で一番かわいい子とつきあっていた。
顔もいいしスタイルもいいし、口は悪いけど女の子には優しいし。
モテる要素は満載。
けど教師って!

「……知らなかった…」
「訊かなかったじゃん」

そうだけど!!

……絶対コイツからフったんだろーな…

巽の短所。
それはすごく飽きっぽいところ。
いろんな事に興味は持つくせに、すぐ飽きる。

「……パス」
「なんで?もしかして、あの浮気野郎と約束してんの?」
「……違うけど」

……せっかくのクリスマスに、何も俺といなくても…誘う女ならいくらでもいるだろ…

「ならいーじゃん。おまえんちの親、いねえんだろ?」
「……は?」
「旅行行くって言ってたぜ?何おまえ、知らなかったの?」
「……知らなかった」

……ってゆうかなんでおまえが知ってんのに、息子の俺が知らないの?


 
なんとなく入ったゲーセンで、俺はクレーンゲームの魔力に取り憑かれていた。
このテのゲームは苦手なのについついハマってしまう。

「うううっ、」

既に幾ら使ったのかわからない。
熱中している俺の隣で、巽が心底呆れた顔をしていた。

「てゆうかおまえ、そのぬいぐるみ欲しいわけ?」
「微妙!!」
「………。代われ」

チャラッチャ~ラ~♪♪という間抜けな電子音とともに、あっという間にでっかいウサギのぬいぐるみが俺の手に!マジかよ!!

「すげーっ」

近くで見ていた子ども達に羨望の眼差しを向けられる巽。
その後も何個かぬいぐるみを取ると、傍で見ていた小学生くらいの女の子に渡した。

「兄ちゃん、俺も!」
「俺、あれ欲しい!」
「女の子しかダメ~」
「えー!!」

ぬいぐるみを貰った小さな女の子は、ほっぺをぽっと赤くしていた。

「ほら、行くぞ」

ぐい、と手を引っ張られる。

「……かっこいー」
「おまえに言われてもな」
「悪かったなああ」

ウサギのぬいぐるみを抱きしめつつ、唸る。
だいたい俺は女の子じゃねーっつの。
ちくしょう、ちょっといいなって思っちゃった俺のバカ!!
ムクれる俺を見て、巽は笑った。

「変な顔」

ぶに、と頬をつねられる。

「……巽、」
「なんだよ」
「ありがと」
「何が」
「……ウサギ」
「ああ」

どうでもよさそうに先を行く、巽のもこもこの背中を追いかけた。

ウサギも嬉しかったんだけど。
今日誘ってくれた事とか、クリスマスの事とか。
ほんとはそのお礼が言いたかったんだ。
巽はなんだかんだ言っても、いつも一緒にいてくれるから。

「てか恥ずかしいから横歩かないでくれる?」
「おまっ、なんでそんな事言うの?!」
「不審者じゃん。男がそんなん持ってたら」
「おまえがくれたんじゃん!」



昼飯は俺の希望通り、イタリアンだった。
雰囲気がいいお店で料理もおいしくて、いかにも女の子が喜びそうな感じ。
巽はそういうのに詳しい。

「……淳、」

パスタを食いながら、不意に巽が言った。

「なに」
「おまえ、次はいい男見つけろよ?」
「………」
「おまえを一番、大切にしてくれる奴にしろ」
「……うん」

素直に頷くと巽はすごく優しい顔で笑って、大きな手でくしゃりと俺の髪を撫でた。

その時、胸の奥がちくりと痛んだ。
理由はわからなかったけど。
いやほんとは、わかってた気もするけど。
とりあえず俺はわからないフリをしたんだ。


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