nesessary(BL)

13

　
翌朝、小さな物音で目が覚めた。
隣りに祐希の姿はない。

「あ…ごめん、起こした？」

起き上がる気配に気づいたのか、薄暗い部屋のなかで制服に着替えていた祐希が振り返った。

「……今日、学校だったのか？」
「卒業式」
「……そっか」

それがわかってたら、昨夜はもうちょっと加減したのに…。

「………」

いや、やってたか。



「大丈夫か？」

鍋で牛乳を沸かしながら声をかける。

「大丈夫じゃねぇし。皐月って絶対ドSだよね」
「今更だろ」
「……知ってたけど。てか、開き直り？」

笑いながらほら、と作りたてのココアを渡す。

「熱いから気をつけろよ」
「うん」
「……祐希、」
「ん？」
「……俺が仕事を辞めようと思ったのは、おまえの為とか金の為とか、そんなんじゃない」
「……え？」
「浩介から聞いた」

自分の存在が俺の負担になってるんじゃないかって、悩んでたこと。

「……あいつまた、余計なこと…」

小さく舌打ちした祐希を見て、俺は笑いながらその柔らかな髪を撫でた。

「心配してたぞ？」
「いらねーし」

そんなふうに文句を言うわりに、浩介には素直に悩みを打ち明けてるあたりが俺は少し、気に入らなかったりする。
大人気ないから言わないけど。

「……俺はただ、おまえと一緒に晩飯が食いたかったんだ」
「……ばんめし？」

祐希はぽかんとして俺を見た。

「……え、なんで？」
「俺がそうしたかったから」

俺が笑って言うと、祐希は更にわけがわからない、という顔をした。

……一緒に飯を食って、いろんなことを話して、

そしてもっと、お互いをわかりあえるようになりたい。
恋人として、家族として。
それに俺は単純に、おいしそうに飯を食ってるこいつを見るのが好きなんだ。

「だから気にするな」
「………」

祐希はしばらく黙った後、わかったと返事をした。

「……皐月、」
「ん？」
「帰ってきたら、いっぱいぎゅうってして」
「あぁ、」

甘い、ココアの匂い。

「いっぱい好きって、言って」
「……気が向いたらな」
「えぇー…」

ぶぅ、とむくれる祐希の頬を摘む。

「もう浮気すんなよ？」
「うん…じゃなくて、してねえから！」
「時間、大丈夫か？」
「あ、やばっ」

祐希はいってくるねと言うと、慌てて部屋を出ていった。

急に静かになった部屋で煙草に火をつけ、からからと窓を開けてベランダに出る。
空は曇ってたけど、俺はなんだかとても清々しい気分だった。