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しおりを挟む高校に進学して学校が別々になっても、那波はよく俺の家に遊びに来た。
その頃からあいつは髪を染めたり夜遊びしたりと、どんどん素行が悪くなっていったけど、中身は相変わらず昔のままだった。
少なくとも、俺の前では。
そして大学でまた一緒になった。
――近くに住んでた方が、何かと便利じゃん
調子のいい那波はそんな事を言い、俺が住むアパートの近くの部屋を借りた。
それでまた、腐れ縁は継続されたのだった。
「なー、コンビニ行かね?」
風呂からあがると那波が言った。
「なんで」
「腹減った」
駄々をこねる子どものような顔をしている。
……てか、全然進んでねーじゃん…
テーブルの上にはまだ殆ど白紙状態のレポート。
ほんとに間に合わせる気、あんのか?
「……簡単なモンでよかったら、作ってやるけど」
「えっ、マジで?」
嬉しそうなあいつを見て、また甘やかしてしまったと少し後悔する。
……ほんと世話が焼ける…
時間も遅かったので、蕎麦を茹でる事にした。
あとは夕飯の残り物をレンジで温める。
「……超うめえ。浩介、料理上手い」
ずるずる蕎麦をすすりながら、那波が感心したように言った。
「……蕎麦なんか、誰が作っても同じだろ」
「いやいやいや。ちゃんとダシとってあるし、この煮物も味染みてるし」
「………」
一人暮らしをして、節約の為に始めた自炊。
人に誉められたのは初めてだったので、ちょっとだけ嬉しい。
「てか手料理食ったの、久々かも。なあ、今度うちで作ってよ」
……そうきたか…俺は便利屋かよ…
「やだよ。彼女にでも作って貰えよ」
「いねえっつーの」
「じゃあ女友達。いっぱいいるだろ」
那波は基本的に、女の子にモテる顔立ちをしている。
背が高いしスタイルもいいし、明るい性格なので男女問わず友達が多かった。
「てかおまえ、眼鏡は?」
「曇るから」
俺の裸眼の視力は0.1以下だ。
コンタクトはあんまり好きじゃないので、学校に行く時だけつけることにしている。
「早く食えよ。終わんないぜ?それ」
はーい、と返事をした那波は箸をくわえてへらりと笑った。
それから二時間後。
那波は相変わらず、うんうん唸りながら悪戦苦闘している。
俺はその隣りで文献を探すのを手伝ったり、誤字のチェックをしていた。
「……おまえ寝たら殺すから」
那波は勉強すると、五分もせずにウトウトし始める。
それを起こすのも、昔から俺の役目だ。
「……わかってるってば」
そう言いつつ、那波は既に眠そうな目をこする。
あれは小学校の夏休み。
最終日に真っ黒に日焼けした那波に泣きつかれて、宿題を手伝った。
俺のをそのまま写すとバレるので、ところどころわざと間違えたり、字を真似したり。
八月最後の日は一緒に徹夜、というのはもはや恒例行事になっていた。
……でも始業式で二人とも居眠りして、結局怒られたんだっけ…
そんな事をぼんやり思い出していると、不意に那波が口を開いた。
「……あのさ、浩介」
「……なに、」
……てゆうか俺、いっつも巻き添えになってるよな…
子どもの時、近所のおじいさんに怒られたのも那波が壁に壮大な落書きをしたせいだし、小学生の時カンニングを強要されて反省文書かされたのも、中学ん時夜の学校に忍び込んでプールで花火をしたのがバレて、あやうく謹慎処分になりかけたのも、よくよく考えたら…。
「ずっと黙ってたんだけどさ…」
全部こいつのせいだし。
てゆうかとばっちりだし。
今になってみれば確かにいい思い出もあるかもしんないけど…ちょっとムカつくな…。
「俺、ゲイなんだよね」
「てか、俺ばっか巻き込むなよ」
……ん?
「……は?」
今なんつった、こいつ。
「………。そうだよな」
ポカンとしている俺の前で、那波が悲しそうに笑う。
……いや、ちょっと待て
「いきなりそんな事言われても、困るよな」
……そうじゃなくて!!
俺の頭の中は、いっきに混乱し始めた。
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