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Unrequited love
Unrequited love
しおりを挟む榊(サカキ)とは同じクラスだけど、まともに話したこともなかった。
だから奴がどんな人間で何を考えてるかなんて、まったくもって知らなかった。
「……榊って、どんな曲よく聞くの?」
そんなことを訊いてみたのは別にこいつに興味があったわけではなくて、なんとかしてこの場の空気を変えたかったからだ。
「……音楽とか、あんまり聞かねぇ」
「……ふうん」
……てか、じゃあなんでここに来たわけ?
「……でも意外だよなー、榊がカラオケとかさぁ」
敢えて明るく言ってみる。
てか歌ってるとことか全然想像できないんですけど。
「初めてきた」
「……へぇ…」
会話終了。
……え、これなんの罰ゲーム?
ほんとワケわかんないんだけど。
てゆうかカラオケ初めてって…しかも歌も歌わず、さっきから俺をガン見してるし。
……なんなのこいつ、
でもこうなることがなんとなくわかってて、でも断るのがちょっと怖くてついてきちゃった俺も何?
……あぁもう、帰りてえ…
背が高くてガタイが良くて、無愛想。
なに考えてんのかわかんない。
それが俺の榊に対する印象だった。
顔立ちは整ってるけど、いつもムスッとしててなんか怖い。
威圧的、というか。
でも女子にはわりと人気がある。
硬派で男らしい感じ、がいいらしい。
俺にはよくわからないけど。
そんな榊が、放課後一人で教室に残っていた俺に声をかけてきた。
――……おまえ、今日ヒマ?
「……おまえ、楽しいか?」
唐突に榊が言った。
「……は?」
お互い歌うこともせず会話もなく、ソファに座ったまま三十分。
雰囲気はまるで通夜だ。
氷が溶けて薄くなったコーラを飲みながら、帰る理由を必死で探していた俺はぽかんとして榊を見た。
……いや、そんなわけないだろ
今この状況で、何を楽しめと。
「……てゆうかさ、榊はなんで俺を誘ったの?」
今更すぎて聞きにくかった質問。
「………。話がしたかったから」
「なんの?」
「………」
その時、テーブルの上で俺のケータイが震えた。
――とりあえず、うまくいった!けどあの店高くねぇ?今月マジで金ない…
田上からのLINEだった。
どうやら彩と仲直りしたらしい。
――よかったじゃん。まぁ、頑張れよ
ケンカの理由は、田上の浮気。
よくあることだった。
でもやるならやるでバレないように、バレたらバレたでシラを切り通せばいいのに、素直に白状してしまうのがあいつらしいというか。
きっと彩も、田上のそういうところが憎めないんだと思う。
――佐伯、マジどうしよう!
彩と何かある度に、田上は泣きそうな顔をして俺に助けを求めてきた。
彩と俺は幼なじみだ。
その付き合いの長さから彼女の性格や嗜好などを把握しきっている俺は、仕方なしに打開策を考えてやった。
好きな食べ物や趣味、幼い頃からの癖…彩のことなら大概わかる。
なんせ昔、一緒に風呂に入ってた仲だし。
「………」
ずずーっと薄くなったコーラを飲む。
……そうやって、いつも俺は…
「……お前さ、それでいいわけ?」
榊の声にはっとして顔をあげた。
榊はじっと俺を見据えていた。
「……なにが?」
「好きな奴が他の奴と一緒にいるのを、遠くから見てるだけでいいのかよ」
「………」
目を見開いた。
「……は?」
「どうする気もないなら、さっさと諦めれば?」
顔がかあっと熱くなる。
「……関係ないだろ」
……てかお前に何が、わかるんだよ
「俺、帰るわ」
イラついた俺は勢いよく席を立った。
が、ふと気づく。
……てゆうかなんでコイツが、知ってんの?
誰にも話したことないのに…そう思って振り返った瞬間、強い力で腕を掴まれた。
「……関係なくねぇよ」
「は?!……っわ!」
いきなり引き寄せられたかと思うと、そのまま乱暴にソファに押し倒される。
「痛っ…!ちょっ、何?!」
両腕を掴まれたまま身体全体で抑え込まれると、身動きすらとれない。
「榊?!」
「バカじゃねぇの?楽しくなんかねぇくせにニコニコニコニコ笑いやがって。見てらんねぇんだよ」
苛立たしげな、榊の声。
「……はぁ?何ワケわかんねーこと…」
いつも無表情で無口なイメージしかない榊が、えらく感情的になっている事に戸惑った。
てゆうか、怖い。
「……あのさ、とにかく離し…んっ…ん……ん?」
一瞬目の前が暗くなったと思ったら、キスされていた。
「ん、んーーっ?!」
まさかの展開に、頭の中が真っ白になる。
……なんで?!
抵抗しようにも、押さえ込まれたこの状態ではどうにもならない。
「…んーーっ!!」
なんとか首を動かし、顔を逸らせて唇を離したが、今度は耳を舐められた。
「……っ!」
ざらりとした生温い感触に、背筋がゾクリとする。
「やめろって…!」
思わず叫んで榊を睨みつけたら、再び強引に唇を塞がれた。
「ふ…っ!…ん、んっ」
なんの躊躇もなく侵入してきた榊の舌が、口の中を這い回る。
同時にクチュクチュといやらしい水音が間近で聞こえてきて、羞恥のあまり耳を塞ぎたかったけどそれすら適わない。
「………っはぁっ…」
散々口内を弄ばれて、やっとその長いキスは終わった頃にはもう放心状態だった。
「………」
「…あ…っ」
うなじに口づけられ、そのまま首筋に舌を這わされると身体がびくり、と震える。
頭がぼおっとして、つい流されそうになった。
「……!ちょっ、待て待て待てっ」
だめじゃん俺!!!
シャツをめくりあげられたところで我に返り、必死で身をよじる。
「何してんの?!何しようとしてんの?!」
「セックス」
「はぁ?!」
なんでこんな所で!
いやそういう問題じゃないけど!!
「やめろってば!離せ!!」
「嫌だ」
「~~~っ!!」
俺だって嫌だ!!
なんでこんなとこで…てゆうかなんでおまえなんかと!!
でもこの状況じゃ、なす術もない。
……ヤバい、このままじゃマジで犯られる…!!
「……!カメラ!」
「……は?」
「こういうトコって、カメラがあんだよ!」
咄嗟の思いつきだった。
「……どこに?」
「どっ、どこって…、隠してあるから…」
「なんの為に、」
「……こんな事してる奴がいないか、チェックする為だよ!」
我ながら、滅茶苦茶なことを言ってるって思ったけど。
「………」
舌打ちが聞こえた後、ふと身体が軽くなった。
俺は荒い息を落ち着かせながらフラフラと立ち上がる。
……助かった…
と思ったのは束の間。
「だっ、だから何で?!」
店を出て即逃げようとしたけどあっさりと捕まってしまった俺は、そのまま引きずられるようにしてラブホ街に連れてこられた。
「離せってば!!」
周囲に助けを求めるべく散々喚いてみたが、他人から見れば不良に絡まれている高校生くらいにしか見えないのか、皆見て見ぬフリだ。
「榊っ、おまえマジ何考えて」
ぎゃあぎゃあ言ってるうちに首根っこを掴まれて、すぐ傍にあった建物に連れ込まれる。
「あのなぁ、こういう事は普通合意の上で…」
「じゃあ合意しろ」
……できるかあぁ!!
部屋に入ると、榊は冷蔵庫からビールを出して飲んでいた。
「飲むか?」
「いっ、いらない…」
とにかくここから逃げ出す事ばかり考えていた俺は、ぶんぶんと首を振る。
来たことがなかったので仕組みはよく知らないが、一度部屋に入ったらドアはロックされ、金を払わないと出られなくなっているらしい。
……なんでこんな事に!!
ドアの前で半泣きになっていると、榊が近づいてくる気配がした。
「おっ、おまえなぁ、こういうの強姦ってゆうんだぞっ!犯罪だぞ犯罪っ」
「ふうん」
「ふうんって…!」
振り返った瞬間、抱きしめられた。
「……っ!」
「まだなんにもしてねぇだろ」
……けど、する気満々じゃねぇか!!てゆうか耳元で喋るな!!
胸の中に抱きしめられたままずんずん押されて、後ろ向きのまま歩かされる。
「う、わッ」
そのままベットの上に押し倒されて、もうまったくシャレにならない状況。
そしてまた、唇が重なる。
「んっ、ん…、っ!」
鏡張りの天井に映る榊の広い背中と、その下にほぼ隠れてしまっている俺の貧相な身体。
体格差がありすぎる。
卑怯だ、と思いつつ、己の非力さを呪った。
そしてもう殆ど諦めて、身体の力を抜いた。
「…んぅ、ぁ…」
「………」
ふと、榊が唇を離した。
「……もう抵抗しないのか?」
「……しても、仕方ないじゃん」
「………」
榊は俺をじっと見つめる。
全てを見透かされるような眼差しに俺の心臓は、ドクン、と大きな音をたてた。
「……おまえは、いつもそうなんだな」
「……は、あ?」
「臆病者」
「な…っ」
……この状況でお前がそれ言うか?!大体、なんでよく知らねー奴にそこまで言われなきゃなんねーんだよ!!
「離せよ!!」
さすがに頭にきて怒鳴ると、必死で身を捩った。
榊は、俺が動けないように押さえつけたまま言った。
「おまえ、ズルいんだよ」
目を見開いた。
――ズルいよ
前にも言われた。
――アキちゃんは、ズルいよね
あの時、彩は泣きながら言った。
――いつも、にこにこ笑ってばっか…
榊は俺の制服を脱がせながら、身体の至る所に口づける。
「……ふ、ぁ」
与えられる刺激に、身体は素直に反応した。
だけど俺は、うわの空だった。
榊の向こう側にある、鏡の中の自分の姿から目を逸らせないでいた。
――私、知ってたんだよ?なのにどうして責めないの?
熱が、集中する。
――どうして、怒らないの?
なのに、心は渇いたまま冷たくて。
――おまえさ、そんなんでいいのかよ
――楽しくもないのに、にこにこ笑いやがって
「……仕方ねぇじゃん」
あの時と同じ言葉が、零れ落ちる。
……諦める以外に、どうすればよかったんだよ
ずっと好きだったんだ。
高校に入って、同じクラスになってからずっと。
自分の性癖を知ったのも、その頃だった。
戸惑ったし、悩んだ。
でも、誰にも相談出来なかった。
そしてその事に誰よりも先に気づいたのは、彩。
俺が彼女の事を大抵わかるなら、彼女もまた同じだった。
――今の子、誰?
――あぁ、幼なじみ
――……超かわいくね?
その日は偶然、田上が家に遊びに来ていた。
そして、俺の母親と話している彩を見た。
彩とは家族ぐるみで仲が良かったので、俺がいない時でも家に来たりしていた。
田上の声を聞いて、またか…と思った。
いつもの、一目惚れ。
――おまえさ…なんでそんなに惚れっぽいの?
俺は呆れたフリをして、そう言ったけど。
本当は、違うことを言いたかったんだ。
……なんで、俺じゃないんだよ
わかってる。
田上が俺をそういう風に見ることなんて絶対ないって。
だけどこんなに、好きなのに。
なんで気づいてくれないんだよ。
また毎日、聞きたくもない話を聞かなきゃなんねーのかよ。
知らない女の子の事なら、まだ我慢できた。
けど…なんでよりによって、彩なんだ…。
田上が女好きだって事は、その頃にはもう嫌って程わかってた。
だから俺は、何の行動も起こさなかった。
そんな素振りも見せなかった。
友達として傍にいる為には、俺の気持ちを知られるわけにはいかなかったから。
だから俺を選ばない田上に対して怒るのは筋違いだし、それが自分勝手な感情だとわかってた。
わかってたけど。
――ひどいよ、アキちゃん
彩は泣いて、俺をなじった。
俺は何も言わなかった。
言えなかった。
それからしばらくして、二人はつきあう事になった。
田上は有頂天だったけど、彩は違った。
会うたびに、無言で俺を責め続けた。
田上に彩を紹介してほしいと言われた時、俺は最低な事を考えた。
彩の気持ちが俺に向いてるうちは、あいつは彩の心を手に入れられない。
だから、本当の意味で結ばれる事はない。
だったら、ずっとそのままでいて欲しい。
俺と同じで、報われない恋をすればいい。
醜く歪んでしまった想い。
臆病で狡い俺は、好きな人の幸せを願ってあげられなかった。
そして大切な幼なじみの気持ちに応える事も出来ずに、ただ傷つけ続けた。
――今日、彩ちゃんがさ…
何も知らない田上は、幸せそうに俺に話しかける。
俺は笑顔でそれに応じた。
心の中で、汚い感情をどろどろに溢れさせながら。
俺は紛れもなく、最低な人間だった。
「………」
身支度を整え始めた榊を、俺はぼんやりと見ていた。
「……帰んの?」
「あぁ」
久しぶりに泣いたので、少し頭が痛い。
「……ここまで来て、なんにもせずに?」
榊は何も言わずに、テーブルの上に金を置いた。
「……おまえほんとに、なんなの?」
「……泣いてる奴に、何しろって言うんだよ」
「………」
なんでいきなり紳士?
……さっきまで、強姦しようとしてたくせに
「……なあ、おまえさ。俺の事好きなの?」
「………。さぁな」
……おい、
「ただ、おまえ見てるとすげーイラつくんだよ。俺は我慢してます、みたいな感じが」
「……言ってくれんじゃん」
俺は半分脱がされていた服もそのままに起き上がり、榊の前に立った。
「……俺は別に、我慢なんかしてねえし」
そんなに健気じゃない。
むしろ自分勝手に人の気持ちを弄んで笑ってる、最低な奴だ。
「………」
「てゆうか、こんなトコまで連れて来といて置き去りってどうなんだよ?」
「………」
「超無責任」
……ガキか、俺は
言ってる事めちゃくちゃだし。
何、ムキになってんだろ。
よかったじゃん、こいつにヤられなくてさ…。
「……俺も帰る」
そう呟いて、シャツを拾おうとした時――後ろから、抱きしめられた。
「……あ、あっ」
榊のその長い指になぞられるたびに、俺の身体は熱を持った。
そしてその唇が触れるたびにジン、と震える。
「……おまえ、初めてじゃないだろ」
「そりゃそう、だけど…っ、ん…っ、榊、は…?」
「……男とは、初めて」
……てか、ヤってる最中にする話かよ…
「……なんでさっき、引き止めた?」
「………。イラついた、から」
「……そうか、」
もう我慢ができなくなり、首に腕を絡めて耳元で呟く。
「……挿れろよ、早く」
「……意外と、やらしいな」
榊は小さく笑って、俺の頬を撫でた。
「……っ!あああ…っ!」
「……佐伯っ…」
まさに繋がろうとしている時、初めて名前を呼ばれた。
「…はあ…っ!ん、あ、あ、ああっ」
俺のなかにある、異質なモノ。
それは大きくて、とても熱かった。
榊は俺を気遣うように、ゆっくりと動いた。
カラオケの時といいここに来た時といい、初めはあんなに強引だったのに。
「あ、あっ!さか…っ榊っ…」
「……なんだ、」
「……もっ、と、激しくっ…して…」
「……っ!」
その先の事はよく覚えてない。
榊が俺の要望どおりに激しく求めてきて、俺はそれを受けとめるのに必死だった。
何回イったなんて覚えきれない程夢中になって、狂ったように、ただひたすら身体を重ねた。
こんな自分なんて、消えてしまえばいい。
ずっとそう、思ってた。
三学期に入る前、ゲーセンで対戦ゲームをしながら、田上は言った。
――彩ってさぁ、ほんとはおまえの事好きなんじゃないの?
一瞬、言葉を失った。
――……まさか
――………
田上は画面を見入ったまま、手を動かしている。
それまで響いていた派手な電子音が、消えた。
――……違うって。俺はただの、幼なじみで…彩は…
聞こえるのは、自分の声と心臓の音だけ。
――……おまえが、好きなんだよ
今まで何度、その言葉を飲み込んできただろう。
学校。
駅までの帰り道。
こうやって一緒にいる時。
いつも気持ちが溢れそうになるたびに、ぐっと我慢して。
田上の笑っている顔を見ると、すごく泣きたくなった。
今みたいに。
――……うん
――………
――彩って、かわいいよなぁ
音が、戻ってくる。
俺の心も、平静を取り戻す。
――うりゃ
――……!うわ、ありえなくね?!なんだよ今の!!
――油断してっからじゃん。つーか何ノロケてんの?
俺は笑って、言った。
どうして、男を好きになったりしたんだろう。
どうして、俺もあいつも男なんだろう。
どうして、報われないとわかってるのに俺はあいつと居続ける?
想い続ける?
こんなに、ぼろぼろになってまで。
ほんとはずっと、苦しかった。
助けて欲しかった。
誰かにすがりたかった。
この邪な気持ちも汚い心も言葉も笑顔も俺から生まれたもの全部。
全部消えてしまえばいいのに。
……でもそれでも結局、自分の事しか考えてないんだよ俺は
電話の音で、目が覚めた。
布団の中で半ば寝ぼけたまま受話器を取る。
『チェックアウトのお時間ですが、延長なさいますか?』
「………!!」
隣に寝ている図体のデカい男を見て、愕然とする。
すぐ出ます、と言って電話を切った。
「榊っ、起きろ」
「……う、ん…?」
眠そうに目を擦る仕草が意外にもかわいくて、一瞬見入ってしまう。
が、はッと我に返って怒鳴った。
「もう朝だから!」
「……ふうん…」
「ふうんじゃなくて、起きろって!」
「……元気だな」
榊はそう言うと、電話に手を伸ばした。
「延長で」
「……はいい?!」
……なんでだよ!つーか学校!!
「おいっ…!」
「……俺は眠いんだよ」
不機嫌そうに言うと、榊は俺を抱き寄せた。
バランスを崩した俺は、易々と彼の腕の中に納まってしまう。
「……それにまだ、こうしてたいし」
ぎゅうっと抱きしめられて、慌てた。
「もう充分しただろうが!」
「足りない」
「……っ」
……元気なのはてめえじゃねぇか!!
文句を言おうとした瞬間、唇を塞がれる。
「んッ…、っ…」
……こいつ、なんでこんなにキス上手いんだろ
骨の髄まで溶けてしまいそうに熱くて、いやらしいキス。
つい、抵抗するのを忘れて没頭してしまう。
俺はこういうのに弱いのかもしれない…。
「……佐伯、」
唇が離れてもまだぼんやりしている俺に、好きだと榊は言った。
「……は?」
ぽかんとしている俺を見て、榊は笑った。
初めて見た、榊の笑顔。
「……あのさ、俺は」
「忘れられるまで、待っててやるから」
「………」
言葉を失った。
……なんなんだよ、こいつ…
だいたい俺、榊の事をなんとも思ってないし。
てゆうか同じクラスってだけで、こいつの事殆ど何も知らないし。
ヤっちゃったのは気分ってゆうか、モヤモヤした気持ちを何かにぶつけたかっただけだし。
その割にすげえ夢中になったのは単に欲求不満だったからだし。
そう、思ったけど。
榊の笑顔を見たらなんでか前よりも少しだけ、心が軽くなった気がした。
結局家に帰ったのは夕方で、無断外泊について母親に叱られ父親には呆れられ、翌日はサボりについて教師に延々と説教された。
そんなこんなで心身共に疲れきっているところに、田上からLINEがくる。
またしても彩を怒らせたらしい。
もう知らねえよと思いつつ、ついその理由を訊ねるLINEを送ってしまう俺は本当に馬鹿なんだろう。
視線に気づいて振り返れば、傍に不愉快そうな表情をした榊が立っていてびっくりした。
てか勝手に覗くな。
「………」
「……そんな顔すんなよ」
仕方ねえじゃん、と俺は苦笑いして歩きだす。
現状は、何も変わってなんかない。
俺はやっぱり田上の事が好きだし、彩ともまだ話ができてない。
ただ、榊という友達(今んとこセフレ?)ができて、口説かれてる真っ最中。
それに応えるかどうかはまだ未定だけど。
でもなんでだろう、あいつといると妙に落ち着く。
ちゃんと自分の気持ちを吐き出せる。
そして…前よりはちゃんと、笑えてる気がした。
……それに、
「……佐伯、」
「……たぶん、もうちょっとだからさ、」
「……は?」
「待ってて」
……こいつの笑った顔、もう一回見たいかも…
追いかけてくる足音を聞きながら、俺はそんな事を思っていた。
end.
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