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第1章
20.
しおりを挟む最近、気になってる事がある。
給湯室で煙草に火をつけながら、壁にもたれかかった。
自分でも考えすぎだと思う。
ユカリさんや可奈さんに話したら笑われそうだし、裕太はハナで笑った挙げ句嫌味の一つくらい言いそうだ。
まぁそれくらい、何でもないような事なんだけど。
「あれ、寺嶋くん?」
真田が湯呑みがのった盆を手に入ってくる。
おつかれ、と手をヒラヒラさせた。
「どうしたの?」
真面目な顔しちゃって、と湯呑みを洗いながら真田が言う。
「なんか、悩み事?」
「……や、別に」
なんでもないと言おうとしたけど。
ここは一つ、何の事情も知らない相手に訊いてみるのもいいかもしれないと思った。
「……あのさ、ちょっと相談があるんだけど」
「なに?」
「いきなり変な話して、悪いんだけど…」
うんうん、と湯呑みを片付けながら彼女は頷く。
「これまで人付き合いとか超苦手だった奴が、ちょくちょく外で誰かと飯食ってくるようになったり、よく電話するようになったら…どう思う?」
「どうって…、仲が良い友達ができたとか?」
真田は手を止めて俺を見た。
「それか、気になる人ができたとか」
思わず煙草を落としそうになった。
「やっぱそういうのって…あると思う?」
「それは、まぁ…。私の友達にもすごい人見知りで大人しい子がいるんだけど、好きな人ができた途端やたらとアクティブになって。なんか毎日楽しそうで」
もともとお喋りな彼女はペラペラと話し続ける。
だけど俺は、殆ど聞いてなかった。
最近ミケが、よく外で食事をしてくる。
遅くなるっていうLINEはくるけど、誰とどこに行くというような詳しい内容までは書かれてない。
だからといってそれをわざわざ聞き出すのも、なんだか疑ってるみたいで嫌だ。
それで結局、酒は飲むなとか気をつけて帰ってこいだとか、そういう返信しかできなかった。
……けど、やっぱ気になるし…
それに、電話も。
社会人になって多少はメモリも増えただろう彼の携帯が、最近よく鳴っている。
ミケは特に嬉しそうでも楽しそうでもないが、電話にはちゃんと出るしメールもきちんと返している…まぁそれが、普通の事ではあるけれども。
「……もしかして、彼女?」
真田の声で、ぼーっとしていた俺は我にかえった。
「え?あぁ、まぁ…」
「へぇ、そうなんだ」
「……俺って小さい男だね」
はぁ、と溜め息を吐くと真田は笑う。
「なに弱気になってんの。てゆうか、そんなに気になるなら本人に訊いてみたらいいじゃん」
「そうなんだけどさぁ…」
ほんと、どうしたんだ俺。
……あいつに限ってそんなこと、あるわけねーのに…
そうだ、信じてないわけじゃない。
……だけど、
――あの子は魔性よ
いつか可奈さんが笑いながら言ってた事を思い出す。
――本人にその自覚はなさそうだけどね
けどそれって余計タチが悪いような…と再び悶々としていると。
「んー?こんなとこで二人で、なに話してんの?」
突如佐々木さんが乱入してきた。
「寺嶋ぁー…おまえまさか、エリちゃんにちょっかいだしてんじゃ…」
「や、なんにもしてないっすよ!」
あらぬ疑いを掛けられ慌てる俺の隣りで、やだ佐々木さんったら~と真田は笑った。
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