短編集(2)(BL)

kotori

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「子どもの頃から、他人と関わるのは苦手だった」

近くにあった自販機で缶コーヒーを買い、土手に座ると西は淡々と話し始めた。

「絵を描くことより興味があることなんてなかったし」

むしろそれ以外のことは煩わしかった。
高校だって行きたくなかったけど、絵を描いていくのに必要だったから通ってただけで。

「村尾のことも、同じクラスだってことくらいしか知らなかったし」

明るくて友達が多い。
いつも騒がしくて、よく先生に怒られている。
自分とはまるで正反対な彼と、接点なんてなかった。

「初めて話したのは、二年の終わり頃で」

クラスの奴らにからかわれたのがきっかけだった。

「担任のヌードを描けって言われたんだ」

いかにも単純で浅はかな男子学生が考えそうなことだ。

「中学の時もそういうことを言ってくる奴はいたし、相手にするのも面倒で、適当に描こうとした」

そこに割って入ってきたのが村尾だった。



――おいおまえら、これを見ろ!

じゃーんと自ら効果音を発した彼が、得意気な顔で取り出したのはグラビアアイドルのDVD。

――しかも激レア限定版!秘蔵映像付!

俺に絡んでた奴らはすぐに食いついた。



「別に助けてもらったとか、そういう意識はなかったけど」

その日の帰り道、村尾に呼び止められた。

「謝られたんだ」



――おまえ、あんまクラスの奴と喋んないじゃん?だからよく考えたら俺、余計なことしたかもって

――……そんなことないよ。嫌だったし

そう答えると、村尾はきょとんとした。

――だったらそう言えばいいのに

それは責めてるふうではなく、単に思ったことを言ってるみたいだった。

――てゆうかさぁ、

村尾は笑った。

――初めて喋ったよな、俺ら



「それからたまに学校で話すようになって、」

時々一緒に帰ったりもするようになった。



――すげぇよなぁ、そんなに打ち込めるもんがあるとか。まじ尊敬するわ

――別に…他に出来ることもないし

――いやいや、それだけで充分だろ



村尾は元々話すのが得意じゃない自分といても、つまらなかったと思う。
それにどちらかというと、友達というよりただのクラスメイトという距離感だった。

けれどそれまで殆ど他人と関わってこなかった自分にとって、彼の存在は大きかったらしい。
それからしばらくして、君は変わったねと美術の教師に言われた。

「作風が変わったとかじゃなくて、描いてる様子が楽しそうだって」

そして気がついた。
自分は少しだけ好きになっていた。
ずっと煩わしい事ばかりだと思っていた、だけど彼がいるこの世界を。

「……たぶんそれが、きっかけだった」


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