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きらきら
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しおりを挟む――二年後
「いや、だからちょっと待てって、」
久々に休日が重なって、二人の時間を楽しんでいたところに絶妙なタイミングで掛かってきた電話。
「その件は、もうちょっと慎重に話を進めるって決めただろ」
これはもう嫌がらせだろう、間違いなく。
「てかその自信はどっからくるんだよ!」
珍しく声を荒げる彼を見て、俺には向けられない感情を引き出せる電話の相手に少し、嫉妬したりして。
「勘?!ふざけんな、ちょっ、おいっ」
電話は一方的に切られたらしい。
「……大丈夫っすか?」
「……あんまり大丈夫じゃないかも…」
はぁぁ、と彼は大きな溜め息を吐く。
そしてあいつはどこまで考えなしなんだ、とぶつぶつ文句を零した。
「はい、できあがり」
「あ、ありがとう」
顔についた髪を払う時、癖なのか彼はぎゅっと目を瞑る。
一緒に住み始めて、半年が経った。
彼は元同僚と始めた会社をなんとか存続させており(社員も一人雇ったらしい)、俺はというと無事学校を卒業して美容室で見習い兼アシスタントとして働いている。
「ごめん晶、ちょっと出てくる」
「うん」
例の共同経営者の暴走を止めに行くのだろう。
あいつを社長にしないで本当によかった、というのが最近の彼の口癖だ。
急いで支度をしている彼の傍ら、俺はケープや床に敷いた新聞紙を片付けていた。
そしてそれにふと、目がいった。
キャビネットの上に置いてあるフォトスタンド。
そこには彼と、彼の娘が映った写真が飾られている。
――会いたいって、言ってくれたんだ
そう言った彼は、涙ぐんでいた。
俺と母親の関係は、相変わらず上手くいってない。
だけど半年に一度くらいは、自分から連絡するようになった。
時間は掛かるだろう。
だけど少しずつでもいい方に、向かっていければいいと思う。
「あっ、河内(カワチ)くん?今、津田と一緒?絶対動かないように見張ってて、すぐ行くから!」
「航平さん、書類」
「あ、ありがと」
玄関で靴を履いていた彼は、封筒を受け取りながら言う。
「できるだけ早く帰ってくるから。晩飯は一緒に食おう」
「うん」
そしてどちらからともなく軽いキスをすると、彼はいってきますと笑顔で言った。
end.
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