迷子猫(BL)

kotori

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第5章

7.ミケside

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いつも、心のどこかで考えてたような気がする。

あいつは俺を求めてくれる。
俺もあいつの傍は、居心地がよくて。

だけどあいつは俺といるせいで、色んなものを失ってるんじゃないか。
そしていつかそのことを、後悔する日がくるんじゃないかって。





視界に映る景色が、少しずつ色や形を取り戻していく。

「………」

そこにあるのは、見覚えのある天井。

「目が覚めたか、」
「……な、んで、」

そこはあの、古めかしいホテルだった。
窓際で煙草を吸っていた河西は、備え付けの冷蔵庫からペットボトルを出して持ってくる。

「飲め」
「………」

身体を起こし、黙ってそれを受け取った。
なんだか頭が痛い。

「どうしてここにいるのか、わかるか?」
「………」
「川原で倒れたんだよ、おまえ」

……あぁ、そっか

確かコンビニに行こうとして…。
それまでずっと、部屋で海斗を待ってたんだ。
はっとして、窓の外を見る。

……あいつ、今どこに…

慌てて立ち上がろうとすると、くらりと眩暈がした。

「無理するな」
「……電話、どこ」

すると河西は、テーブルに置いてあった俺の携帯を持ってきた。
それを受け取ろうとした瞬間、ぐいっと腕を引かれる。

「……っ!はな、」

すぐに振り払おうとしたけど、身体に力が入らない。
ペットボトルが音をたてて床に落ち、俺はそのままベットに押し倒された。



「……はなせ、」

睨みつける俺を見て、河西は笑う。

「言っただろ?おまえは戻ってくるって」

目を見開く。

「捨てられたんだろ」
「ちが…違うっ、そんなんじゃ」
「だけど、帰ってこないんだろ?」
「……!そ、れは」 

きっと何か、事情があったからで。

「気づいたんだよ、あいつは」

そう言うと、河西は茫然としている俺の服を脱がせ始めた。

……気づいたって、何に?

身体に触れてくる河西の手は、海斗のそれとはまるで違う。
だけどその温度を、感触を、俺は確かに知ってる。

「……っ」

震える手で、ぎゅっとシーツを握りしめた。
あいつが俺を、ここから連れだしてくれたのに。
そして今まで知らなかった大切なことを、たくさん教えてくれたのに。
なのに俺はまた、あの何の色もない日々に戻ろうとしている。



「……だ、」

首筋を這う生温い感触に、全身が強張った。

「……嫌だ、」

ずっと一緒にはいられないのかもしれない。
いつか、後悔する日がくるのかもしれない。

だけどそれでも失いたくない。
あいつの笑顔を、優しい声を、言葉を、ぬくもりを。

「嫌だっ…!」

信じていたい。
あいつの、あいを。


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