迷子猫(BL)

kotori

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第3章

10.

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「……え?」

ミケが目を見開く。

「……俺、あいつの母親と寝たんだよ」





普通に話していただけなのに、まるで酒を飲み過ぎた時みたいに頭がぼんやりとしていた。

そして美咲の母親はやたらと俺の身体に触れ始め、なんだか気持ちが悪くなって部屋で待たせて欲しいと頼んだ。

――あの子の部屋は、二階の一番奥よ

何かがおかしいと思った時点で、帰ればよかったのに。
そんな余裕は、もうどこにもなかった。
なんとか部屋には辿り着いたものの、足に力が入らなくて床に倒れこんだ。
その時視界に入ったのは、スリッパを履いた彼女の足。
そして音をたてて閉まった扉。





「……それから先は、よく覚えてない」

気がついたら、すべてが終わった後だった。
愕然としている俺に背を向けて、彼女はブラジャーのホックを留めながら言った。

――このことは二人の秘密にしましょうね

――……な、んで……こんな…

混乱していた。わけがわからなかった。

――………。それはね、

彼女は背を向けたまま、とても信じられないような言葉を口にした。

――……う、そだ…

――……そう思うなら、あの子に訊いてみれば?あぁほら、戻ってきた。自転車の音がする

――……!

そう言われて、俺は飛び起きた。
そして、そこが美咲の部屋だということに気づいた。
と同時に自分が彼女のベットで、彼女の母親と何をしたのか、はっきりと理解した。

玄関で、美咲と鉢合わせた。

――海斗?

血相を変えて出てきた俺を見て、美咲は驚いた顔をしていた。

――どうしたの?

――……触るな!!

振り払ったはずみで、美咲が持っていたケーキの箱が落ちた。





「気持ち悪かった。マジでどうにかなりそうだった」

家に帰る途中、何度か吐いた。

「……汚いと思った」

美咲の母親を、美咲を。
そして何より…自分自身を。

「それからすぐ、塾をやめた。電話にもでなかったし、LINEも無視した。何度か家にも来てたみたいだけど、会わなかった。学校でも全く話さなくなった」

美咲がどんなに悲しそうにしていても、気づかないふりをした。
そうするしかなかった。

「顔を見たら、もうダメだった。それだけで、吐きそうになって…」

とてつもない罪悪感と、嫌悪感に襲われた。

「……もういいよ、」

小さな声。

「……もう、わかった」

ミケはぎゅっと俺を抱きしめた。

「……ミケ?」
「………」
「……ごめんな、変な話して…」

思い出さないようにしてきた過去。
でもそれはまるで澱(オリ)のように、ずっと心のどこかに引っ掛かっていた。

「……俺はあんたのこと、何もわかってなかったんだね」

そう呟いたミケの身体は、いつものように冷たくて。

「……ミケ、泣くなよ」
「……泣いてない」

それがなんだか、心地よかった。


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