15 / 78
第1章
15.ミケside
しおりを挟む寺嶋の体温は高い。
「………んっ」
熱い手のひらが直に触れて、まるで何かを確かめるように身体の線をなぞっていく。
寺嶋は、まるで壊れ物を扱うみたいに俺に触れた。
やめたほうがいい事はわかっていた。
面倒くさい奴だし、客でもないし。
こんな事したって、なんの得にもならない。
……それはわかってるのに
何度も降ってくる口づけは不器用だけど優しかった。
「………」
……俺は何を、戸惑ってるんだろう
そのままゆっくりとベットに寝かされる。
そして俺の服を脱がせると、寺嶋は目を見開いた。
「……萎えた?」
その顔をぼんやりと眺めながら、尋ねた。
俺の身体には、至る所に昨夜の痕跡が残っていた。
河西は、いつもはここまで跡を残したりはしなかった。
俺のバイトの事は知ってるけど別にそれを配慮してくれてるわけじゃなくて、単なる趣向の問題だ。
彼は身体より、精神的な部分を責めるやり方を好む。
「……おまえ、もうちょっと自分を大切にしろよ…頼むから…」
「………」
……なんでおまえが、そんな顔するんだよ
抱きしめられながら、思った。
「……何やってんの、あんたは」
ユカリさんが呆れた顔で言うのを、テーブルにつっ伏したまま聞いていた。
「誘拐されるわよ?」
「……補導じゃなくて?」
「最近、物騒なんだから」
「……ごめんなさい」
素直に謝ると、ユカリさんは溜め息を吐いてメンソールの煙草に火をつけた。
軒先で雨宿りしつつ店が開くのを待ってたら、知らない男に絡まれてユカリさんに助けられた。
「……何かあったの?」
「………」
ユカリさんが作ってくれたホットミルクは、甘くて優しい味がする。
「……変な奴がいてさ、」
「変って……まさか、ストーカーじゃないでしょうね」
半分、当たり。
「……隣りのクラスの奴が、毎日家にくんの」
「……なんだ、それなら追い出せばいいじゃない」
「……そうなんだけど、」
なんで俺はそうしないんだろう。
「……ミケ?」
その時バタンと店のドアが開き、パンツスーツ姿の女が入ってきた。
「ちょっと聞いてよ、ユカ姉!!」
「可奈…あのさ、まだ開店前…」
「隆弘、やっぱあの女と切れてなかった…」
彼女はスツールに座った途端、号泣を始める。
「ちょっと、落ち着きなさいって」
「ビールっ!ビールちょうだい!!」
ユカリさんはまた溜め息を吐き、俺を見てゴメンと口パクで言った。
苦笑いで首を振り、立ち上がる。
「ちょっ、ちょっとミケ!あんた帰れないんじゃ…」
慌てて引き止めたユカリさんの言葉に、泣いていた女は反応した。
「なに?あんた帰れないの?じゃあちょっとお姉さんに付き合って」
「は?」
「待って可奈、その子まだ高校生…」
「いいじゃん、コーラでも飲んどけば。ねえお願い!!」
彼女は俺の腕を掴んだまま、放す気はなさそうだった。
「じゃあその隆弘って人、もともと別の人とつきあってたんだ」
「そうだけどっ、でも別れるって約束したんだよ?!」
可奈さんは広告代理店で働いているらしい。
現在二十八歳独身。
同じ部署で同期の男とつきあって三年、最近結婚の話は出てたものの、実は元カノ(二十三歳秘書課)と切れてなかった事が発覚したらしい。
「ねえっ、あんまりじゃない?確かにその子は若くて可愛いよ?でもさぁ、もう関係ないって言ったんだよ?」
ハイピッチでビールを飲んだ可奈さんは、その後焼酎をロックでがぶ飲みしだした。
俺はなんだかおもしろくなってきて、黙って話を聞いていた。
可奈さんと隆弘と元カノの話は昼ドラにでもでてきそうな、よくありがちな展開だったけど、俺が興味を持ったのはそこじゃなかった。
「ねえ、可奈さん。どうしてその隆弘って人の事を、信じられたの?」
「はぁ?」
「だからさ、その元カノと別れるとか結婚とか、どうして信じられたの?」
「どうしてって、好きだからに決まってるじゃん」
可奈さんは相当酒に強そうだったけど、目が据わってきていた。
ユカリさんが他のお客さんの相手をしながらも、心配そうにこっちを見ている。
「……スキだから、信じるの?」
「あたりまえじゃない。信じられない男を、どうやったら好きになるのよ」
「……怖くないの、」
「何が」
「嘘つかれたり、裏切られたりすること」
それまでひっきりなしに煙草を吸っていた彼女が、まじまじと俺を見た。
「……そりゃ怖くなる時もあるよ。でも、それが恋愛じゃん」
「……レンアイ…」
「そりゃあ、傷ついた事だっていっぱいあるよ?二股だって初めてじゃないし、お金騙し取られた事もあるし、年齢とか嘘つかれたことも、犯罪の片棒を担がされそうになったこともあるけど」
……どんだけ男運ないんだよ、この女…
言葉をなくしていると、でもねと彼女は言った。
「やっぱり信じるよ。確かに色々ヒドい目にはあったけど、後悔はしてない」
そう言い切った可奈さんの表情は、凛としていた。
「……騙されてたのに?」
俺には、まったく理解出来ない。
「そうだよ、好きだからね。ムカつく事に!」
最後の言葉を強調して、可奈さんはグラスの酒を飲み干す。
「……なに?あんたもしかして、恋してんの?」
一気に酔いがまわったのか、呂律が怪しい。
そんなんじゃないけどと答えて、頬杖をついた。
「……なんか変な奴がいて、俺のことが好きなんだって、そいつ」
「いいじゃん。で?あんたはその子のこと、どう思ってんの?」
「……どうって、別に、」
ふうん、と可奈さん。
「………」
身体じゅうに、キスされた。
好きだって何度も言われて、抱きしめられた。
「……けどなんか俺、そういうの無理ってゆうか」
「………」
「一緒にいたいとかなんでそんな事、マジな顔して言えんのって、」
寺嶋の言葉はいつも真っ直ぐで、迷いがなくて、それが俺を息苦しくさせる。
逃げ場がなくなる、感じ。
「……あいつといると、自分がよくわかんなくなる」
「………。あんた今まで、本気で誰かを好きになったこと、ある?」
「………」
「最近の子って、そういうの早いって聞くのにね。あんたモテそうだし」
「……どうだろ」
知ってる奴とも知らない奴とも、数え切れないくらいヤッたけど。
「……でもそういうのって、めんどくさい。結局やることは一緒なのにさ」
0
お気に入りに追加
25
あなたにおすすめの小説
壊れた番の直し方
おはぎのあんこ
BL
Ωである栗栖灯(くりす あかり)は訳もわからず、山の中の邸宅の檻に入れられ、複数のαと性行為をする。
顔に火傷をしたΩの男の指示のままに……
やがて、灯は真実を知る。
火傷のΩの男の正体は、2年前に死んだはずの元番だったのだ。
番が解消されたのは響一郎が死んだからではなく、Ωの体に変わっていたからだった。
ある理由でαからΩになった元番の男、上天神響一郎(かみてんじん きょういちろう)と灯は暮らし始める。
しかし、2年前とは色々なことが違っている。
そのため、灯と険悪な雰囲気になることも…
それでも、2人はαとΩとは違う、2人の関係を深めていく。
発情期のときには、お互いに慰め合う。
灯は響一郎を抱くことで、見たことのない一面を知る。
日本にいれば、2人は敵対者に追われる運命…
2人は安住の地を探す。
☆前半はホラー風味、中盤〜後半は壊れた番である2人の関係修復メインの地味な話になります。
注意点
①序盤、主人公が元番ではないαたちとセックスします。元番の男も、別の女とセックスします
②レイプ、近親相姦の描写があります
③リバ描写があります
④独自解釈ありのオメガバースです。薬でα→Ωの性転換ができる世界観です。
表紙のイラストは、なと様(@tatatatawawawaw)に描いていただきました。
新しいパパは超美人??~母と息子の雌堕ち記録~
焼き芋さん
BL
ママが連れてきたパパは超美人でした。
美しい声、引き締まったボディ、スラリと伸びた美しいおみ足。
スタイルも良くママよりも綺麗…でもそんなパパには太くて立派なおちんちんが付いていました。
これは…そんなパパに快楽地獄に堕とされた母と息子の物語…
※DLsite様でCG集販売の予定あり
あなたに誓いの言葉を
眠りん
BL
仁科一樹は同棲中の池本海斗からDVを受けている。
同時にストーカー被害にも遭っており、精神はボロボロの状態だった。
それでもなんとかやっていけたのは、夢の中では自由になれるからであった。
ある時から毎日明晰夢を見るようになった一樹は、夢の中で海斗と幸せな時を過ごす。
ある日、他人の夢の中を自由に行き来出来るというマサと出会い、一樹は海斗との約束を思い出す。
海斗からの暴力を全て受け入れようと決意してから狂いが生じて──。
一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!
当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。
しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。
彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。
このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。
しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。
好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。
※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*)
※他のサイトにも重複投稿しています。
侯爵令息セドリックの憂鬱な日
めちゅう
BL
第二王子の婚約者候補侯爵令息セドリック・グランツはある日王子の婚約者が決定した事を聞いてしまう。しかし先に王子からお呼びがかかったのはもう一人の候補だった。候補落ちを確信し泣き腫らした次の日は憂鬱な気分で幕を開ける———
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
初投稿で拙い文章ですが楽しんでいただけますと幸いです。
【R18】奴隷に堕ちた騎士
蒼い月
BL
気持ちはR25くらい。妖精族の騎士の美青年が①野盗に捕らえられて調教され②闇オークションにかけられて輪姦され③落札したご主人様に毎日めちゃくちゃに犯され④奴隷品評会で他の奴隷たちの特殊プレイを尻目に乱交し⑤縁あって一緒に自由の身になった両性具有の奴隷少年とよしよし百合セックスをしながらそっと暮らす話。9割は愛のないスケベですが、1割は救済用ラブ。サブヒロインは主人公とくっ付くまで大分可哀想な感じなので、地雷の気配を感じた方は読み飛ばしてください。
※主人公は9割突っ込まれてアンアン言わされる側ですが、終盤1割は突っ込む側なので、攻守逆転が苦手な方はご注意ください。
誤字報告は近況ボードにお願いします。無理やり何となくハピエンですが、不幸な方が抜けたり萌えたりする方は3章くらいまでをおススメします。
※無事に完結しました!
童貞が建設会社に就職したらメスにされちゃった
なる
BL
主人公の高梨優(男)は18歳で高校卒業後、小さな建設会社に就職した。しかし、そこはおじさんばかりの職場だった。
ストレスや性欲が溜まったおじさん達は、優にエッチな視線を浴びせ…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる