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97.りんごがバニラと番う時

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「楽しかったな」
「そうだね」

 みんなと別れてから口数の減った光琉。逆にこの後の事を考えると、誤魔化すように口数が増えてしまう俺。

 だって緊張するじゃん。

 マンションの入口で止めてもらい、車を降りる。

 このマンション、オートロックを開けるまでは他のマンションとそう違いはない。でもエントランスはホテルのロビーみたいだし、コンシェルジュって人がいるんだ。スーツ着てるし次元が違いすぎるって思うけど、管理人さんだと思うことにしている。

「あっ! 俺やりたい」
「ふっ。はい、どうぞ」

 しかも低層階と高層階で使用するエレベーターが違うんだよ? 俺達は高層階用のエレベーターとも別だし。ペントハウス? ってやつらしい。

 だからエレベーターに乗るときにも、カードをかざさないと乗れないんだ。

 先週初めてここに来た時、光琉がかざしてた姿がカッコよくてさ。帰りは俺が! って思ったのに、下に降りる時はかざさなくても乗れたのが、ほんのちょっと残念だったんだ。

 俺がかざした後に開いたドア。嬉しくてドヤ顔で光琉を振り返ってしまった。

「もう、日向が可愛すぎる」

 そんな俺をエレベーターに乗った瞬間に後ろから抱きしめ、匂いを嗅いでくる。

「ちょっと! まだ家に着いてないからダメ」
「誰も乗ってこないよ」
「そうだけどっ、それでもダメなの」

 光琉に顔を後ろに向けられ、キスされそうになるのを抑えてみる。分かってても途中で誰かが乗ってくるかもって気になって、恥ずかしいんだよ。

 でもそんな抵抗むなしく、キスに応じてしまうんだけどな。

 光琉は器用にも、玄関のドアまでキスをしながら開けちゃうし。

「んっ…」

 増してしまった俺の緊張をほぐすように、光琉は優しいキスを繰り返してくれる。  

「ふぁ……っ」

 思わず口から息が漏れ、その瞬間を逃すまいと熱い舌が入ってきた。

「っ…んっ…」

 どんどん強くなるバニラシナモンの香り。

 光琉のフェロモンをたくさん浴びせられ、溺れてしまいそうになる。

 もう俺1人じゃ立ってられないよ。

 いつもならすぐ腰を支えてくれるのに、そのまま押し倒された……まだ玄関なのに。

「ひか…」

 ベッドに行きたい、それすら言う隙を与えてくれなくて。

 でもここじゃ嫌だと、首を振って光琉に訴える。

「日向? いや? 怖い?」
「ちがっ」

 嫌じゃない。怖いんじゃない。場所が嫌なだけなんだ。

「どうしたの?」

 自然と出てきてしまった俺の涙を舐め取りながら、優しく頭を撫でてくれる光琉。

「ん…」

 光琉に撫でられるの、好きだなぁ…。

「ここ、や」

 しばらく撫でてもらうと気持ちが落ち着き、ベッドに連れて行って欲しいとようやく伝えることが出来た。

 もう色々ぐちゃぐちゃだし、力も入らないし、なにより物凄く光琉に甘えたい気分。

「だっこ…」

 まだわずかに残っている理性的な俺が、きっと言わなくても抱っこしてくれただろうなって思っているけど。

 光琉は可愛いすぎるって言いながら、嬉々として寝室に連れて行ってくれた。


「日向、いい?」
「ん」


 光琉に強制的に発情させられ、俺達は今日、番になる。

 
 いつの間にか外されたネックガード。ずっと付けていたそれがなくなり、ほんの少しだけ怖くなったことは、光琉には内緒。


 噛む場所を確かめるかのように、項を何度も舐められ…何度も吸われ…

 何がなんだかわけがわからなくなるくらい、光琉は俺を愛してくれる。


 番になろうと体の向きを変えられ…後ろから愛されながら、早く早く! と、光琉に何度もおねだり。

 早く噛んでっ。

「日向、噛むよっ」
「うんっ、噛んでぇっ」

 待ち望んだ願いを叶えてもらえるのが嬉しい。

 光琉の歯が項に当たり…やっと噛んでもらえる! って思った瞬間、ガリっと言う音と共に首に痛みが走る。でも痛いって思ったのは一瞬だけで、それ以上に気持ちがいい。

 体の中から俺自身が作り変えられていくようなそんな感覚が、怖いような、嬉しいような。

 光琉の番になれたんだって、実感する。

 あぁ…幸せってこのことだったんだ。



 卒業したら番う…まさかそれが卒業式の日だとは、約束したあの日は思いもしなかった。

 そもそも、上位アルファはオメガを強制発情させることができるなんて、知らなかったからな。

 しかも方法は簡単。アルファの本気のフェロモンを浴びせるだけとか。

 アルファが本気をだせば抑制剤の効果なんて吹き飛ばせるとか…その上俺達は運命の番。元々お互いに効き目が薄かったし尚更だよな。

 最近はヒートを待たずに誘発剤を飲んで強制的に発情し、番になる人も少なくないみたいだし。

 このことを宇都宮に知られたら、ありえないって言われそうだなぁ…。

 なんて幸せに浸っていたら、いつの間にか光琉の腕の中で眠っていた。



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