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90.バイト②

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 やったー! 俺、明日からカフェ店員になります。

 光琉からバイトの許可をもらって、すぐに応募したんだ。

 食堂もだし、校内にあるカフェは学校が休みの日は閉まっている。だから募集しても中々人が集まらないそうで、すんなり俺に決まった。

 俺的には平日のみってのがありがたいけどな。

 協力してくれた一樹と蓮には報告しておこう。

「どうやって説得したわけ?」
「………正直に話した」
「香坂くんの誕生日プレゼントを買いたいって言ったの?」
「言った」

 俺だって黙っていたかったけど、『バイトしたい』『ダメ』の攻防戦が続くだけだし、光琉の機嫌がどんどん悪くなるしで、言うしかなかったんだ。

「まぁでも良かったね」
「おう。ありがとな」



「じゃあレジの仕方を教えるね」
「お願いします!」

 制服に着替え、記念すべき初バイト。教えてくれるのは稜里大学に通うベータの男性。基本的にこの先輩から仕事を教えてもらうんだ。
 ちなみに俺以外、店長含めスタッフは全員ベータ。

「後ろに付いてるから、次に来たお客さんで対応してみようか」
「はい!」

 という会話が聞こえていたんだろう。すでにアップルティーを注文し、レジから一番近い席に座っていた光琉が注文をしに来た。

「いらっしゃいませ」
「アップルティーを」
「かしこまりました」

 慣れない手つきでレジを打ち、会計をして……

 って、写真撮り過ぎ。

「光琉……」
「日向可愛い」
「…………」

 ここで邪魔するなら帰ってくれと言えない俺も俺だよな。

 実は結構緊張しているから、店内に光琉がいてくれて安心する。

「すいません」

 無事に初接客を終えてから、後ろにいる先輩に謝っておいた。

「さっきの、彼氏?」
「はい///」
「そっか。俺、ベータだってちゃんと伝えておいてね」
「え? 分かりました…?」

 なんで? 

「アルファの嫉妬は怖いからね」
「俺、声に出してましたか?」
「顔に書いてたかな。分かりやすいって言われない?」

 よく言われますって言おうとしたら、アップルティーを受け取った光琉が、レジの向こうから腕を伸ばして抱きしめてくる。

「光琉、俺今仕事中」
「浮気」

 なにかと思えば、ムスッとして濡れ衣を着せてきた。

「してないから」
「さっき顔、赤くしてた」
「それは…光琉の話をしてたからで」
「ふーん」

 バイト前にも大量に付けてきたフェロモンをさらに追加してきて…俺は心地いいけど、先輩は少し嫌そうな顔をしている。恐らく、ベータにも伝わるほどの威圧フェロモンを付けているんだろう。 

「先輩…俺、長く働けないかもしれません」
「確実に無理だろうね」
「ですよね…」

 それからも俺がバイトの日は光琉が居座るようになった。たまにパソコンで作業をしながら…

「カッコいい」
「ははっ。岩清水くんも大概だね」
「え?」
「彼の重い愛を普通に受け入れてるし」

 重い愛?

「カッコいいとしか思わないんでしょ?」
「はい……?」

 だって光琉がパソコンに向かって仕事をしている姿、カッコよくないか? あの姿を見たら、光琉を好きになる人がもっと増えちゃうって心配するレベルだぞ?

「君たちお似合いだと思うよ」
「/// ありがとうございます」
「あまり顔を赤くしないで。後が怖いから」

 ? 何が怖いのかは謎だけど、お似合いだと言われて嬉しい。


 バイトが終わり、着替えを済ませ、裏口から出ると光琉が待ってくれている。

「光琉、お待たせ」
「お疲れ様」

 毎回、俺が着替えている間に片付けて、裏口に回ってきてくれるんだよな。

「ふふ」
「ん?」
「なんでもない」

 お疲れ様と言いながら、ぎゅっと抱きしめてもらえるのが嬉しい。

「日向、バイト続けたい?」
「え?」

 応募の時点で長く働けないかもとは伝えていた。これはオメガの生徒のあるあるらしく、店長は笑って俺を働かせてくれたけど…。

 光琉もバイトをしてるし、俺に合わせて、これ以上光琉に無理をさせたくないんだけどなぁ。

「光琉、大変じゃない?」
「心配いらないよ。ただ、日数は減らしてほしいかな」
「わかった。店長に相談してみる」

 バイトを続けられるなら、紅茶の淹れ方も教えてくれるって言われてるんだ。俺、アップルティーを美味しく淹れられるようになりたいから。


 相談の結果、週1~週2で働くことになった。

 それと…

「日向に感謝しかないよ」

 蓮も一緒に働くことになった。学校内だし、俺が一緒だからと親の許可をもらえたらしい。蓮は医学部に行くための費用をできるだけ稼いでおきたいそうで。

「勉強時間減るよ?」
「日向と違ってコツコツしてるから大丈夫」
「………事実すぎて何も言えない」

 俺も内部進学の道も残しておけるよう、成績を落とさないよう気をつけよう。



 今月働いた分は来月に入金されると知り、数日後プレゼント代を親に借金することになると、この時の俺はまだ知らない。


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