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12.テスト勉強② side光琉

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 窓から差し込む夕日が、集中して勉強に取り組んでいる日向の顔に当たって綺麗だ。

 日向はどちらかといえば可愛いよりも綺麗な顔をしている。だからオメガらしくないと本人は思っているようで、危機感が少ないのが心配で仕方ない。言動がすごく可愛い事にも気付いてないし。

「やばっ、もう18時じゃん」
「本当だ。そろそろ帰ろうか」
「あー電車混んでそう」

 帰宅ラッシュか。朝ほどではなくても確実に混んでいるだろう。俺達が一緒とはいえ本当は日向を電車に乗せたくない。

「車で送るよ。今日はいいでしょう?」
「一樹も?」

 はい、でた。また日比野。

「日比野は暖が送るって」
「俺? まぁいいけど」
「私は親に用事があるので先に帰っていてください」

 初めてだ…初めて二人きりになれる。日向の気が変わる前に迎えの車を呼ぼう。



「お、お邪魔します…」
「ふっ」
「笑うなよ! 家の車と全然違うし、見るからに高級車なんて緊張するに決まってるだろ」
「ごめん、可愛いなって思ってさ」
「っ! か、可愛くなんてないし」

 そんな耳まで真っ赤にして言ったって説得力ないぞ。

「あのさ…今日はありがとな。光琉のお陰で結構良い点取れそう」

 そう何度もお礼を言わなくたっていいのに。いつもより長く一緒にいれて俺の方がお礼を言いたいくらいなんだ。

「役に立てて良かったよ。明日も一緒に勉強する?」
「英語も教えてくれると嬉しい」

 日向は照れると顔を横に向ける。俺が話しかける時によく見る光景だ。それは運命だからなのか、俺自身を意識してくれているからなのか。

「じゃあ明日は英語にしようか」
「お願いします」

 大分打ち解けては来ている。でも今の会話だって日比野だったら『おう!』とか『頼むな』とかもっとフランクに頼んでいるだろう。……暖でも同じかもしれない。

 理由はどうあれ緊張しているからだと分かっているが、早く俺が一番近い存在になりたい。

 ………何したって可愛いと思ってしまうのに、本能を無視して好意を抱けるか確認なんて俺にできるんだろうか。今だって眠そうに眼をこすっているのが可愛いとか思っちゃてるし。

「疲れただろう? 寝ていいよ。着いたら起こすから」
「いや、だぃじょぶ……」

 これは寝るな。

 それにしても、日向がお手洗いに席を立った時の日比野には驚かされたな。何にも考えていないやつだと思っていたけど、思いの外日向を大事にしているようだった。

***

「なぁ、香坂ってもしかして日向のこと好きだったりする?」
「だったら?」
「いや、いいんだけどさ。アルファって異性のアルファとオメガしか恋愛対象じゃないと思ってたから。女子ならベータでもあるのかもしれないけど…日向男子じゃん? もしかして女子に興味ないとか?」

 こいつ、日向がオメガだと知らないのか。

「男も女も関係ない。俺は日向にしか興味ないだけ」

 そう伝えると少し考えてから話しだした日比野。

「あのさ…選ぶのは日向だから俺が言うことじゃないんだけど、あいつすげぇいいやつなんだ。普通に幸せになってほしいっていうか。だから…だからさ、あいつの意思を無視して無理やり付き合うとか、好きな女子ができた時に邪魔するとか、そういうのはやめてほしい」
「言われなくても」
「まぁ…日向も満更じゃなさそうだけどな! 頑張れよっ」

 そう言って笑って肩を叩いてきた。………日向の親友だから許してやろう。

「あぁ」
「……ほんっと日向がいないと愛想ないよな」
「必要ないだろ」

***

 ベータだし恋愛に発展することはないだろうが、信頼し合っているこの関係が羨ましい。

 はぁ。日向が大事にしている相手だから、認められたいと思ってしまう俺もいるんだよな。

「日向、起きて」
「ん。。」
「ぽやぽやしてる」

 つい声に出してしまった。

「??」
「家についたよ」
「………っ! ごめん寝てた」
「遅くまで勉強してたしね」
「送ってくれてありがとな。その、光琉が家に着くのが遅くなっちゃってごめん」

 日向って『ありがとう』と『ごめんなさい』をちゃんと言えるよな。そもそも俺は間違えることの方が少ないけど、プライドが邪魔して謝るのが苦手。日向のこういうところ、尊敬できる。思いやりの心もあって、日比野が言うように本当にいいやつなんだ。

「俺が送りたかっただけだから。それに俺の家、ここから結構近いしね」
「そっか。光琉ん家って門とかあって敷地内も車で移動とかしてそう」
「流石にそこまでじゃないよ」

 車が出るまで外で見送るつもりの日向と、家の中に入るまで動かないという俺の攻防戦を繰り広げる事数分。両者の要望を叶えるため、日向が自室から見送ってくれることに。

 日向の部屋が道路に面しているのが嬉しいような、危機感のない日向がカーテンを開けたまま着替えたりしないか心配なような、少しだけ複雑な気分になった。



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