トリニティ・ロンド

清谷ロジィ

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くるりくるんでひとまとめ

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 食欲の秋。薄着の季節も終わり、ダイエットも疎かになる季節。
 中間テストを終えたばかりの私たち仲良し四人組は、打ち上げと称して、先月オープンしたばかりのクレープ店に向かっていた。
 味はもちろん、見映えもいいスイーツは、テレビや雑誌にも取り上げられて大きな話題になっていた。現に、私たちとすれ違う人たちの多くが、その店のクレープを手にしている。

「みんな、早く早く!」

 私たちの数メートル先で、急かすようにマユが手招きしている。彼女が、今日の「打ち上げ」の言い出しっぺだ。
 ユータが苦笑いを浮かべて、小走りに駆け寄っていく。その姿に、コーヘイは、わざとらしく私に肩をすくめてみせた。まったく、ユータはマユに甘いんだから。口にはしないけれど、お互いの顔を見れば、同じことを思っているのが分かる。

「アカリ! コーヘイ!」
「もー、今行くってば! そんなに焦んなくたって、クレープは逃げないよ」
「狙ってるのは数量限定のカボチャクレープなんだってば! 売切れたら食べられないの。ほら、見てよ!」

 マユが指差す先に、ぐねぐね曲がりながら伸びている長い行列が見えた。……たしかに、ちょっと急いだほうがいいかも。私もカボチャのクレープ食べたいし。
 仕方ないなぁという顔で、さり気なく足を速めた。
 私たち四人が出会ったのは中学一年生のとき。仲良くなったきっかけなんて、席が近かったとか、適当に組んだグループが同じだったとか、大したことじゃなかった。
 ただの「友達」が、特別な「仲良し四人組」に変わったのは、中学二年の夏休み。映画を見たあとのコンビニからの帰り道。夕陽がすごくきれいだったあの日。

「俺たち四人はさ、ずっと友達でいような」

 ユータが口にしたそれは、見た映画に影響されただけの青臭い約束だった。でも、私たちは誓い合うように小指を絡め合った。あのくすぐったい感触を、私の小指はまだ覚えてる。
 それから高校二年生の現在までの五年間。十七分の五。約三分の一。人生の約三十パーセント以上を、ずっと一緒に過ごしている。
 行列の近くまで来て、コーヘイがぴたりと足を止めた。

「俺、甘いのダメだから今回はパス」
「なんだよー、せっかくここまで来たんだから、お前も付き合えよ」
「やだよ。クレープなんて食ったら胸焼けするわ。適当に待ってるから気にすんなよ」
「じゃあ、待ってる間に、そこのコンビニで飲み物買っておいてよ。あたし緑茶ね。カボチャだから」
「それで売切れてたら笑える。アカリとユータは?」

 私は紅茶、ユータはコーヒーを頼んで、列の最後尾に並んだ。

「コーヘイのやつ、相変わらず性格悪いんだから」

 コンビニに向かうコーヘイの背中に、マユはぷぅっと頬を膨らませた。しかし、すぐに表情を明るくして、ユータのブレザーの袖を引く。

「ね、ほら見て。SNSでもけっこうこの店の書き込みあるんだよー。これとかすっごく美味しそうでしょ。ね、ユータは何食べる?」

 スマートフォンの小さな画面をのぞき込む二人の髪の毛が、かすかに触れ合っていた。

「どーすっかな。一番人気あるやつってどれなの?」
「えっとね……あ、ほらアカリも見てよ」
「はいはい」

 少し身をかがめて、マユとユータの間から画面をのぞきこんだ。でも、ユータの二の腕にさり気なく添えられたマユの手が、私を遮ってしまう。

「あ。カボチャのクレープってあれじゃね?」
「ホントだ! うわぁ見てよ。ちょー美味しそう! あたし、絶対アレにする!」

 店から出てきた人のクレープを指差して、マユが大騒ぎした。気まずそうに、そそくさと立ち去るその人に、すみません、と心の中で謝りながら軽く頭を下げる。

「ちょっと、マユ」
「え、アカリ、どうかしたの?」

 まったく。マユの天真爛漫さには恐れ入る。出会ったときからずっと変わらない。くるくる変わる表情と、人に許されることに慣れたその性格は、憎たらしいほどに魅力的だ。

「別に。私もカボチャのクレープ食べようっと」
「えー、アカリは違うのにしてよ。同じだと意味ないし」
「意味なくないでしょ。私はそれが食べたいんだから。あ、半分こしようなんてダメだよ。私はあれを一人で一個、全部食べるんだから」
「欲張り」
「欲張りでけっこう。じゃあ、マユが違うの頼んでよ。そしたら一口くらい分けてあげてもいいけど」
「やだ。あたしはここにくる前から決めてたんだから。アカリが違うのにして」
「私だって――」
「はいはい、ケンカしないの。マユとアカリはカボチャ、俺が違うの買ってマユと半分こ。それでいいだろ」

 いつものように、ユータが私たちを取りなす。やっぱり、ユータはマユに甘い。コーヘイじゃないけど、甘すぎて胸焼けしてしまいそうだ。

「は? まだ買えてねーの?」

 コンビニの袋をぶら下げて戻ってきたコーヘイが、未だに長い列の真ん中あたりにいる私たちを見て、わずかに目を丸くする。

「仕方ないでしょー。次はあそこの公園でベンチ取っておいてね」
「人使い荒すぎ。最低」

 ぶつぶつ言いながら、コーヘイは公園に向かっていく。いろいろ不満はあっても、けっきょく私たちは、こうやってマユの思惑通りに動いてしまうんだから、本当にどうしようもない。
 ゆっくりと列が進んでいくにつれ、甘い香りが強くなる。周りの景色はちっとも変わらないのに、私たちの立ち位置は確実に変わっている。

「お待たせしました。次のお客様どうぞ!」

 秋の涼しさに不似合いな汗を額に浮かべた女性店員が、営業スマイルで私たちを呼んだ。
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