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第39話 エクソダス 人族編
第39-5話 最後の11人
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○そして11人は残された。
私がコゾロフさんやアスターテさんなどを転移させて、元の世界の司令塔に戻って来たら、家族の皆さんが待っていました。
「終わったな」
「ええ終わりました」
「この世界には私達11人しかいないのですね」ユーリが何か感慨深げにそう言った。
「モーラにお願いがあります」
「最後に見て回るのだろう?」モーラが当たり前の事を言うなよという感じで答えた。
「はい」
「かまわん。行こうか」
塔を飛び立ち、ファーンの町のあった場所を抜け、自分たちの家があったところで一度止まり、そのあとベリアル、ビギナギル、ハイランディス、ロスティアを通って中原を通過し、セリカリナとスペイパルを通り、今度は時計回りに螺旋を描くように飛んでいき、ワームのいた砂漠、魔族との境界線、魔族領そして迷いの森、その横にある湖と再生中だった森。ドワーフの里、サクシーダから氷の神殿、孤狼族の里、南下してダークエルフの森、ホビットやスノークの森を回ってそのまま周回して、この世界の事を知った壁のところに到着する。モーラの手から降りると、切り立った壁には、大量に降り始める雪。私達は全員で壁の中に入り、最深部を目指す。
「いいのか?」
「最後まで気になっていましたからねえ」
「ここで拉致されたりしないわよねえ」アンジーが心配そうに言った。
「でしたら控室で待っていてください」
「このゲートを通れるのかどうか試してみましょう」パムが言った。
「試してみますか?」
ひとりずつそのゲートを通過したが、全員がなんの警告もなく通る事ができた。
「ここも廃棄されたのですかねえ」
全員で奥を目指す。最奥の部屋には、椅子に座ったアスターテさんのダミーが置いてあった。
私達が到着するとアスターテさんのダミーの石化が解けて椅子から崩れ落ちた。周囲の石化した像も石化が解けていき、全てが遺体だった。
「何も返事がありませんね。戻りましょう」私は全員と手をつないで一瞬で外に出る。
「期待したのか?」
「少しは何か聞けるかと思ったのですが・・・残念です」
「この機械の壁や転送の遺跡は転移しないのですか?」ブレンダが尋ねる。
「多分使えないと思いますからね」
「さて、塔に戻るか」
「お願いします」
家もないので、結局指令塔に戻ってくる。
「取りこぼしはなかったな」
「中原に置いた扉に行ってください」
「そうか」
「さて帰りましょう。自分の家に」
「「「「「「「「「「はい」」」」」」」」」」 ああ、声が揃っていますねえ。
中原の中央にポツンと置かれた扉をくぐり、次々と中に入って消えていき、扉はパタンと閉じられた。
私達は、新しい惑星に作っていた中原に同じように扉を作っていて、その扉から降り立った。11人全員が振り返って扉を見ている。
私は、いつでも誰かが元の世界に帰られるようにそこに扉を置いたのです。
「モーラ。私たちを乗せて飛べますか?」
「それくらいは大丈夫じゃ」
ファーンに寄って預けていた馬を受け取りに行き、馬車に乗って自分たちの家に戻った。
「やっと帰ってこられた~」
「モーラは洞窟を持ってきたのでしたか」
「こちらに新たに作ろうと思っておる。もう一回り大きくしないと手狭でなあ」
「また大きくなったのね」
「成長期なのでな」
到着と同時にそれぞれが自分の種族の集落に状況確認に出向いている。私は家の中に入り、家の中を確認する。
まずは地下室。転送の時には確認していたが念のため再確認する。 キャロルのお金の封蝋も問題なかった。
しかし、レールガンとその隣にあるライフルに封印のシールが貼ってあった。おや?いつの間に。戻した時に貼られましたか。
あとは皆さんそれぞれの大事なものが入った箱が置いてあります。スペースの大半はモーラの収集品ですね。これは洞窟が出来たら、そちらに持っていくのでしょう。
私の研究室もちゃんと元通りです。しかし、乱雑なまま転移されているので、ベッドも同じようにしわだらけのままです。いったいいつからここで寝られていなかったのでしょう。
二階の自分の部屋も見に行った。この部屋もほとんど使っていないので、メアのベッドメイクのままになっている。
メアが戻ってきたようだ。二階の部屋を出る時にブレンダと鉢合わせして、一緒に1階に降りて居間に入っていく。
「長命人族は問題ありませんでした」メアがそう言った。
「そうですか良かったですね」
「はい。あの子も生き生きと生活していました」メアが懐かしそうにそう言っている。
「何か困っている事はありませんでしたか?」
「広すぎて困っているようです」
「町に近い集落はできるだけ近くにしたのですが、遠かったですか?」
「周囲が広すぎると言っていました」
「それは・・・慣れてもらうしかないですね」
「ただいま~」エルフィが戻って来た。
「エルフィ早かったですね」
「なんかね~私が必要ないみたい~ちょっと寂しい~」エルフィはそう言って私の胸に抱きついた。
「だからってご主人様に抱きつく必要はないでしょう」メアがたしなめる。
「え~寂しいんだもん~」エルフィは私の胸に自分の胸をグイグイ押しつけてくる。
「そうでしたか。あなたがちゃんと彼らを鍛えたおかげですね」
「褒めて褒めて~」
「はいはい」
「でも~お願いされちゃった~」そこで急にエルフィが動きをとめた。
「何をですか?」
「一族の統合~」エルフィは私の胸に顔を埋めながらそう呟いた。
「難しそうですね」
「実は~最初に集落が出来た時から~言われていたんですよね~」
「頑張るしかないですね」
「でも~まだいいかな~」
「ただいま。おやエルフィ抜け駆けかしら。やるわね」アンジーはそう言って私のそばに来る。
「そう言いながら~アンジー様も~旦那様に~くっついていますよね~」
「私も疲れたのよ。まったり時空でまったりさせて」
「何かありましたか?」
「アンジー教の大集会をやるそうよ。全くわけがわからないわ」アンジーがため息をついた。
「なぜ今なのですか?」
「移住成功は、私のおかげらしいわよ。みんなが頑張ったおかげなのにね」
「人族は他種族に頼り切りでしたからねえ」
「本当よ。他の種族や魔力持ちに感謝しなさいよ」そう言って私から離れて椅子に座る。
「出席するのですか?」
「する訳ないでしょう」腕を組んでフンっと横を向くアンジー。
「でもちゃんと説明しないといけませんね」メアが心配そうにアンジーを見ている。
「あなたにお願いするわ。教祖代行様」
「私も嫌ですよ」
「どうしようかしらねえ」テーブルに肘をつき顎ののせて考え込むアンジー
「声明文でも代読させたらいかがですか」メアが心配そうに言った。
「ああ、それがいいかもしれないわね。メア。ナイスアイディアよ」
「戻ったぞ」
「モーラ早かったですねえ」
「おぬし謀ったな」そう言ってモーラは立っていた私の膝を軽く蹴った。
「何を測りましたか?」私は両手でワイヤーをひろげて見せる。
「言葉遊びをするな。洞窟を用意しておったろう」
「お気に召さなかったですか。それは申し訳ありませんでした」
「いや、完璧すぎるわ。なんじゃあの作り。一回り以上大きくして、しかも定位置が入口より少し低くしてある。しかも非常口付きとか。わしのイメージ通りではないか。わしの頭を覗いたか?」
私の顔を見上げながらモーラは自分の頭を指さして言った。
「あれだけ細かく話してくれていたのでイメージが掴みやすかったですよ」
「ありがとうな」今度は私の尻を軽く叩いてから自分の椅子に座った。
「気に入ってもらってよかったです。私は一度地下室に入って書類の整理をしていますから、出かけるときには連絡してくださいね」
私はちょっと嬉しくて、ちょっと照れくさくて部屋に逃げようとする。しかし、ブレンダに腕をつかまれて戻れなくなる。その様子を見てエルフィやメアが笑っている。しかたなく自分の席についた。
「ただいま戻りました」
「パム早かったわねえ」
「ウンが嬉しそうに走ってくれました」
「そうなの?にしても早すぎないかしら」
「それは・・・私も早く戻りたかったので。そうそう、集落は問題がないようでしたが、エルフィが言っていたように、やはり里の統合を手伝って欲しいと言われました」
「そうなのね。そうなればレイもそうでしょうね」
「はいそうです」そう言ってレイが扉を開いて入ってくる。
「でも少し離れたところに新たな集落を作りたいそうです」
「里の掟に縛られず、でもそばにいたいと」
「お互いに何か起きた時に助け合いたいそうです」レイがそう言った後、獣化して私の膝に飛び込んでくる。
「そのほうが良いのかもしれんな」モーラが何かを考えている。
「エルフィ。そういえば、迷いの森はうまくいっているのかしらねえ」アンジーがエルフィに聞いた。
「はい、噂ではそう聞いていますよ」
「で、どう思っているの?」
「私も統合よりはそのほうがいいかもしれないと思います」
「パムはどう?」
「同じです」
「エーネ聞こえてる?」
『同じです。もっとも私たちは魔族の境界にいましたから、似たようなものでしたけど、魔族領に近いほうがいいかもしれませんね』
『ならチューゲント・フェルバーンが独立したのでそこに住みませんか?』ユーリの声が飛び込んでくる。
『ユーリ今どこなの?』アンジーが聞いた。
『ファーンから家に戻る途中です』
『確かにファーンが家から遠くなったものねえ』
『キャロルはどこなの?』
『ユーリ様と一緒です』
『傭兵団では何か聞けたのかしら?』
『どうやらビギナギルが国になるみたいです』キャロルの困惑までもが一緒に伝わってくる。
『今まででも十分国だったじゃない』
「ただいま」「ただいまもどりました」
「ああ、本当に近くまできていたのねえ」
「ユーリ様はすごいのですよ。王国復興の初代王女になって欲しいそうですよ」
「私は嫌ですよ。あそこの国はチューゲント様にお願いしようと思います。それよりもキャロルは、ビギナギルの騎士になるらしいですよ」
「絶対に辞退します。領主様の思惑が見え透いていて」ユーリの決意が聞き取れる。
「そのまま次の国王に持っていくつもりでしょうねえ」アンジーが笑いながら言った。
「そんな話まで噂になっているところに私は絶対戻りませんよ」キャロルがなぜか怒っている。
「うちは姫様ばかり揃っているからねえ」アンジーが全員を見回す。
「私たちを見ますか?」パムがびっくりしている。
「本当ならあなたが当主でも問題ないでしょうし、レイだって実力主義な孤狼族の中では当主になっても問題ないわよね」
「僕には想像できません」
「戻りました~」
「おや、魔王領の次期当主が帰ってきたわね」
「なんですかそれは、もう噂を聞いたのですか?」エーネがビックリしている。
「噂?」
「全く失礼してしまいます。お嫁に出した私を次期魔王になんてあり得ませんよ」
エーネもそう言いながら席について全員がようやくテーブルに着くことができた。
メアが全員にお茶を配ってしばらくまったりしている。疲れているのか全員が静かにしている。
「そろそろ居酒屋に行きませんか?」私はお腹がすいてしまいました。気が抜けたせいでしょうか。
「おや人族統合国家元首様のご発言ですね」パムが笑いながらそう言いました。
「どこからそんな大層な名前が出てきますか。ありえないですし、各国が黙っていませんでしょ」
「さすがにそれは冗談よね」
「居酒屋は大丈夫なのだろうなあ」
「ああ、居酒屋はちゃんと運営で来ているらしいわよ。移転からかなりたっているから問題も無く運営しているって」
「お・さ・け~」エルフィが嬉しそうに立ち上がって手を波打たせて踊り出した。
「生還祝いか」
「はい、まだ食料品の調達ができておりませんので、そのほうがよろしいかと」
「じゃあ行きますか?」
「その後のお風呂は大丈夫ですか?」
「見てきますね」
「大丈夫ですね。では行きましょうか」
「場所取り~いくよ~」
「町長のところに顔を出しましょうか」
「そうじゃな」
「そうね」
そうして、全員でファーンにむかう。こんな風に全員で道を歩いているのは初めてかもしれませんね。・・そう思っていると、
「あのー。歩きでは難しいですよ」ユーリが言った。
「はい。馬でも結構な距離ですから」キャロルが追い打ちをかける。
「転移魔法で行くのかと思っていました~」エルフィが私を見た。
「モーラお願いできますか?」
「帰りは頼むな」
「わかりました。私が皆さんを連れて行きます」ブレンダが胸を叩いて言った。
「おお、さすがニセ模倣使い様。ありがたやありがたや」モーラが手をあわせて拝んでいる。
「モーラ様は、お一人で向かってくださいね」
「わかった。頼む一緒に連れて行ってくれ」
「そんなに飛ぶのがつらいですか?」
「わしがまだここの環境になじんでないからなのかもしれんからかなあ」
「モーラは他のドラゴンとは違って、来たばかりですものねえ」
「馬車が追い駆けてきましたよ~」
「うちの皆さんは本当に気が回りますねえ」私はこちらに走ってくる馬車を見て感心しています。
小さい方の馬車を引っ張って、アとウンが走ってくる。私は2頭を撫でまくります。
「でも、少し狭いですよ」
「しばらくの我慢じゃ」
そうして、馬車に揺られながらファーンを目指す。
○ファーンに到着
城壁がさらに大きくなっていました。デカいです。壁を見上げてその大きさを眺めてから馬で中に入って行く。
「意外に大きかったのですねえ」
「おぬしは、ここに城壁がない時にしか来ていないのだったか」
「確かに、城壁はモーラが作ったのでしたよねえ」
「そうじゃ。コッソリだがなあ」
私達がその中に入ると、セリカリナで見たような近代的な建物が建ち並び始めていました。
「レンガ造りにし始めましたか」
「いや、周囲の環境に森がほとんどないであろう?土以外に建物を作る材料がないのじゃよ」
「確かに、草木のドラゴンさんが、成長促進は諸刃の剣だと言っていましたからねえ」
「どの都市もそうならざるを得ないらしいわ」
「まだ改善の余地はありましたねえ」
「あんたねえ。あんな突貫工事で惑星作っただけでもすごいでしょうが。これからはこの環境で生きていくの。それは仕方が無い事なの」アンジーが作った本人である私に説教しています。
「そうでした」
そうして、新しい街の中を歩いて町長の事務所に向かう。
「こんにちは。というには夕方ですねえ」私達は事務所に入っていく。
「おお、DTか。今回は大変だったなあ」
「宴会のついでで申し訳ありませんが、挨拶に来ました。先にこの星に来てもらったり、色々ありがとうございました」
「まだやる事はあるぞ。各国との距離が離れたおかげで道路整備が必要じゃ」
「細い道はつけてありますから、そこをなぞるように馬車が走っていればそのまま道になりますよ。次第に道ができていきます。魔獣もいないから安全に走れますよ」
「そうじゃな。ファーンは自給自足が前提だから徐々に道になってもかまわんのだが、ビギナギルは違うのじゃ。ファーンとベリアルの農製品やら繊維やらに依存していてなあ。速く走れる道がないと輸送もままならなくてなあ。供給不足に悩んでおる」
「だから自給率をあげろとあれほど言ったのに」
「おかげでわしらが潤っているのも事実だからなあ」
「これだけ広い面積になれば自給率も上げざるを得ないでしょうね」
「おぬし、わしらの所の品質を上げてくれたであろう?」
「そうですよ。高級品質は付加価値がついて値が下がりませんからね」
「おかげでどんなに高くても売って欲しいそうじゃ」
「それはそれで問題ですねえ」
「解消策はあるのか?」
「その話は明日にしませんか」
「ああそうじゃな。生産量を上げて欲しいとせっつかれていてな。すまない」
「今日は居酒屋ですが一緒にどうですか?」
「そうじゃな。皆来ておるだろう?」
「もちろんです」
「では行こうかのう」
その日初めてこの惑星に出来た居酒屋に向かった。
○DT門番をする(正確には扉の番ですが)
「最後にはこうなるわよね」アンジーがブーたれています。
「ここの門番だけは私がしなければならないのですよ」
私はそう言って、草原の真ん中にあるどこでもドアから少し離れた所に建てた、私が最初に建てた家を真似して作った小屋の中から出てくる。横にはかまどと岩風呂が置いてある。
「どの位ここで暮らす事になるのかしらねえ」
「エルフィの予言ではそう遠くないと言っていましたし、扉に張り紙していますからいなくても良いのですがね」
どこでもドアには、張り紙がしてあり、「横の小屋に誰もいない場合は、小屋の中に置いてあるベルを押してしばらく小屋でお待ちください」と書いてある。
「こんな事しても説得するのでしょう?」
「ええまあ。それが約束ですから」
「私としては、あんたと二人でこうしてゆっくりしていられるから幸せなんだけどね」
アンジーは、私がかまどで簡単な炒め物を作っているところに近付いて来て背中にくっついてくる。
「そういえば、一番最初は二人だけで暮らしていましたよね」
私は、背中にアンジーの体温を感じてそれを思い出しました。
「最初の頃に思っていた暮らしが出来ているわ」
「よかったです」
○彼の地へ戻りたがる者
中原の小屋のところにひとりの男が扉の所に立った。私は人影を見つけて、小屋を出て男を見た。知り合いだった。
「おや。やっぱり戻りますか?」
「私は、神の使徒たるホムンクルスです。あの世界を見守るために作られました。ですからあの世界に戻ります」
「あの世界は、すでに崩壊のプログラムに入りました。それをあなたも感じているのでしょう?わかりませんか。神はあの世界を放棄したのです。あの世界を維持するために魔族を殺すというあなたの役目は終わり、神に従う意味も無いのです。それにあの崩壊の中にいても、神が作ったあなたでさえ、神はあなたを殺せないのです。そして、そのまま崩壊する世界にいても死ねないのですよ。たぶん箱庭のあった位置に意識のあるまま魔力の続く限り漂うことになる」
「ならば頼む。私を殺してくれ」彼は私の胸を両手で叩くようにして、もたれかかってきた。
「残念ですが、私にはできません。あなたが私にどんな仕打ちをしてきたにしても、今のあなたを殺すことはできません。むしろ生きていて欲しいと思っています。この世界唯一のホムンクルスとして」
「たかがそんなことでか。あのアスターテという男なら作ることも可能であろう」
彼の頬には二筋の光が流れた後がついている。
「いいえ、今の魔力の少ないこの環境であなたはどうやって維持しているのでしょうか?彼からもたぶん研究させて欲しいと言われるでしょう。そして得がたい存在です。私達のこともこの世界に来た人たちのことも神のことも全て知っているのですから。私はあなたのことを人材として必要なのです」
「俺はお前を憎み殺そうとした男だぞ」
「あの時はそうでしょう。神のためにあの箱庭の世界を守るためにそうしていました。今は、その必要が無いのでしょう?」
「お前はどこまで馬鹿なんだ。人の心をなんだと思っている。ああ、この心の有りようさえお前から学んだものだったな。わかったよ。ここに残ろう。俺は何をすれば良い?」
「お願いしたいのは、この世界を見守ってください。そして定期的に私を監視して、評価してください。この世界に混乱を招く者か否か。もし混乱を招くようであれば、他の種族の方達と共に私を抹殺してください。できれば私に宣告してから」
「ああそうか。今ならわかる。お前は恐いのだな。お前自身がこの世界の脅威になることが」
「ええ恐いです。特にこの後自分が自分の進める研究が間違った方向に進んでしまうことが。私は研究馬鹿なので研究のためなら世界を滅ぼしても実験したいと思えるのですから」
「なるほどこの世界を守るか。神から与えられた使命に近いな。わかったそうして生きていこう。覚悟しろよDT」
「ありがとうございます。私の家族では決してできないことなので」
「それでも、魔力はお互いほとんど無いのだろう?大丈夫じゃないのか」
「少ない魔力を高効率に使うこともできるのですよ」
「そうか。なるほど。ではここを去る。この扉にはもう近づかないから安心しろ」
「悩んだらここに来てください」
「ホムンクルスはな。単純なんだよ。命令に従うそれだけさ。じゃあな」
彼は笑ってそこから消えた。
私はしばらくそこに佇んでいた。
「なんじゃ、敵までデレさせるか。さすがじゃのう。他種族たらしの面目躍如じゃなあ」
後ろからモーラの声がした。
「聞いていたんですか。彼には役割が必要なんですよ。生きていくためのね。私は提示しただけです」
「あんたが自分の能力に恐怖を感じているとか私達は感じたことはないけどねえ」
アンジーも小屋から出てきた。
「私も一応男ですから、女性に恐怖は感じさせたくないですから」
「それにしては、私の胸でずいぶん泣いていたじゃない」
「ええ、無い胸でねえ。顔が痛い位には泣けますねえ」
「くっ、確かにそうね」
○ もう一つ残されていた物語
魔王城が惑星に転移され、しばらく混乱していた時に、魔王アモンの所に突然連絡が入る。
アモンは魔王城を飛び出した。しかし、魔素の影響で早く飛ぶことは出来ない。
そうして、魔族領の境界線のところにポツンと小屋が建っていて、小屋の前には、ひとりの女性が座っていた。
アモンはその女性の前に降り立つ。女性はアモンを見上げて微笑んだ。
「シュトリ、お前、生きていたのか・・・」
そう言ってアモンは、膝から崩れ落ちて、シュトリと呼ばれた女性の膝に顔をうずめた。
「バレてしまいましたね」
「なぜあの時私の前に現れなかった」
「私は今でもあなたの前に現れるつもりはありませんでしたよ」
「なぜだ。またあの男の仕業か」
「いいえ、私の意志ですよ」
「パムさんとエーネがお前が死んだと言ったが」
「私がお願いしたのです。死んだことにして欲しいと」
「なぜなんだ?」
「あなたのそばにいるのがつらくなったのです。死んだことにするのが、逃げるのに一番楽だったのです」
「私の事が嫌いになったのか?」
「今でも変わらず愛していますよ」
「ならばなぜ?」
「私の存在があなたを苦しめるからです。もちろんこれは私のわがままです。でもあなたの隣にいるのがつらくなったのも事実です」
「そうだったのか。今なら考え直してもらえるということかい?」
「はい。娘もようやく独り立ちしてくれましたので」
「そうか、戻って来てくれるか」
「はい、一度はあなたを裏切って死んだふりをした私ですが、戻っても良いのでしょうか」
「お前がいてくれないと私はダメなのだよ」
「それでは困ります。これからは仕事と妻は別に考えてくださいね」
「ああ頑張る。だからお願いだ。私の所に戻って来てずっとそばにいてくれ」
「わかりました。善処します」
「ありがとう」
そうして、魔王の妻は魔王の元に戻ってきた。
続く
私がコゾロフさんやアスターテさんなどを転移させて、元の世界の司令塔に戻って来たら、家族の皆さんが待っていました。
「終わったな」
「ええ終わりました」
「この世界には私達11人しかいないのですね」ユーリが何か感慨深げにそう言った。
「モーラにお願いがあります」
「最後に見て回るのだろう?」モーラが当たり前の事を言うなよという感じで答えた。
「はい」
「かまわん。行こうか」
塔を飛び立ち、ファーンの町のあった場所を抜け、自分たちの家があったところで一度止まり、そのあとベリアル、ビギナギル、ハイランディス、ロスティアを通って中原を通過し、セリカリナとスペイパルを通り、今度は時計回りに螺旋を描くように飛んでいき、ワームのいた砂漠、魔族との境界線、魔族領そして迷いの森、その横にある湖と再生中だった森。ドワーフの里、サクシーダから氷の神殿、孤狼族の里、南下してダークエルフの森、ホビットやスノークの森を回ってそのまま周回して、この世界の事を知った壁のところに到着する。モーラの手から降りると、切り立った壁には、大量に降り始める雪。私達は全員で壁の中に入り、最深部を目指す。
「いいのか?」
「最後まで気になっていましたからねえ」
「ここで拉致されたりしないわよねえ」アンジーが心配そうに言った。
「でしたら控室で待っていてください」
「このゲートを通れるのかどうか試してみましょう」パムが言った。
「試してみますか?」
ひとりずつそのゲートを通過したが、全員がなんの警告もなく通る事ができた。
「ここも廃棄されたのですかねえ」
全員で奥を目指す。最奥の部屋には、椅子に座ったアスターテさんのダミーが置いてあった。
私達が到着するとアスターテさんのダミーの石化が解けて椅子から崩れ落ちた。周囲の石化した像も石化が解けていき、全てが遺体だった。
「何も返事がありませんね。戻りましょう」私は全員と手をつないで一瞬で外に出る。
「期待したのか?」
「少しは何か聞けるかと思ったのですが・・・残念です」
「この機械の壁や転送の遺跡は転移しないのですか?」ブレンダが尋ねる。
「多分使えないと思いますからね」
「さて、塔に戻るか」
「お願いします」
家もないので、結局指令塔に戻ってくる。
「取りこぼしはなかったな」
「中原に置いた扉に行ってください」
「そうか」
「さて帰りましょう。自分の家に」
「「「「「「「「「「はい」」」」」」」」」」 ああ、声が揃っていますねえ。
中原の中央にポツンと置かれた扉をくぐり、次々と中に入って消えていき、扉はパタンと閉じられた。
私達は、新しい惑星に作っていた中原に同じように扉を作っていて、その扉から降り立った。11人全員が振り返って扉を見ている。
私は、いつでも誰かが元の世界に帰られるようにそこに扉を置いたのです。
「モーラ。私たちを乗せて飛べますか?」
「それくらいは大丈夫じゃ」
ファーンに寄って預けていた馬を受け取りに行き、馬車に乗って自分たちの家に戻った。
「やっと帰ってこられた~」
「モーラは洞窟を持ってきたのでしたか」
「こちらに新たに作ろうと思っておる。もう一回り大きくしないと手狭でなあ」
「また大きくなったのね」
「成長期なのでな」
到着と同時にそれぞれが自分の種族の集落に状況確認に出向いている。私は家の中に入り、家の中を確認する。
まずは地下室。転送の時には確認していたが念のため再確認する。 キャロルのお金の封蝋も問題なかった。
しかし、レールガンとその隣にあるライフルに封印のシールが貼ってあった。おや?いつの間に。戻した時に貼られましたか。
あとは皆さんそれぞれの大事なものが入った箱が置いてあります。スペースの大半はモーラの収集品ですね。これは洞窟が出来たら、そちらに持っていくのでしょう。
私の研究室もちゃんと元通りです。しかし、乱雑なまま転移されているので、ベッドも同じようにしわだらけのままです。いったいいつからここで寝られていなかったのでしょう。
二階の自分の部屋も見に行った。この部屋もほとんど使っていないので、メアのベッドメイクのままになっている。
メアが戻ってきたようだ。二階の部屋を出る時にブレンダと鉢合わせして、一緒に1階に降りて居間に入っていく。
「長命人族は問題ありませんでした」メアがそう言った。
「そうですか良かったですね」
「はい。あの子も生き生きと生活していました」メアが懐かしそうにそう言っている。
「何か困っている事はありませんでしたか?」
「広すぎて困っているようです」
「町に近い集落はできるだけ近くにしたのですが、遠かったですか?」
「周囲が広すぎると言っていました」
「それは・・・慣れてもらうしかないですね」
「ただいま~」エルフィが戻って来た。
「エルフィ早かったですね」
「なんかね~私が必要ないみたい~ちょっと寂しい~」エルフィはそう言って私の胸に抱きついた。
「だからってご主人様に抱きつく必要はないでしょう」メアがたしなめる。
「え~寂しいんだもん~」エルフィは私の胸に自分の胸をグイグイ押しつけてくる。
「そうでしたか。あなたがちゃんと彼らを鍛えたおかげですね」
「褒めて褒めて~」
「はいはい」
「でも~お願いされちゃった~」そこで急にエルフィが動きをとめた。
「何をですか?」
「一族の統合~」エルフィは私の胸に顔を埋めながらそう呟いた。
「難しそうですね」
「実は~最初に集落が出来た時から~言われていたんですよね~」
「頑張るしかないですね」
「でも~まだいいかな~」
「ただいま。おやエルフィ抜け駆けかしら。やるわね」アンジーはそう言って私のそばに来る。
「そう言いながら~アンジー様も~旦那様に~くっついていますよね~」
「私も疲れたのよ。まったり時空でまったりさせて」
「何かありましたか?」
「アンジー教の大集会をやるそうよ。全くわけがわからないわ」アンジーがため息をついた。
「なぜ今なのですか?」
「移住成功は、私のおかげらしいわよ。みんなが頑張ったおかげなのにね」
「人族は他種族に頼り切りでしたからねえ」
「本当よ。他の種族や魔力持ちに感謝しなさいよ」そう言って私から離れて椅子に座る。
「出席するのですか?」
「する訳ないでしょう」腕を組んでフンっと横を向くアンジー。
「でもちゃんと説明しないといけませんね」メアが心配そうにアンジーを見ている。
「あなたにお願いするわ。教祖代行様」
「私も嫌ですよ」
「どうしようかしらねえ」テーブルに肘をつき顎ののせて考え込むアンジー
「声明文でも代読させたらいかがですか」メアが心配そうに言った。
「ああ、それがいいかもしれないわね。メア。ナイスアイディアよ」
「戻ったぞ」
「モーラ早かったですねえ」
「おぬし謀ったな」そう言ってモーラは立っていた私の膝を軽く蹴った。
「何を測りましたか?」私は両手でワイヤーをひろげて見せる。
「言葉遊びをするな。洞窟を用意しておったろう」
「お気に召さなかったですか。それは申し訳ありませんでした」
「いや、完璧すぎるわ。なんじゃあの作り。一回り以上大きくして、しかも定位置が入口より少し低くしてある。しかも非常口付きとか。わしのイメージ通りではないか。わしの頭を覗いたか?」
私の顔を見上げながらモーラは自分の頭を指さして言った。
「あれだけ細かく話してくれていたのでイメージが掴みやすかったですよ」
「ありがとうな」今度は私の尻を軽く叩いてから自分の椅子に座った。
「気に入ってもらってよかったです。私は一度地下室に入って書類の整理をしていますから、出かけるときには連絡してくださいね」
私はちょっと嬉しくて、ちょっと照れくさくて部屋に逃げようとする。しかし、ブレンダに腕をつかまれて戻れなくなる。その様子を見てエルフィやメアが笑っている。しかたなく自分の席についた。
「ただいま戻りました」
「パム早かったわねえ」
「ウンが嬉しそうに走ってくれました」
「そうなの?にしても早すぎないかしら」
「それは・・・私も早く戻りたかったので。そうそう、集落は問題がないようでしたが、エルフィが言っていたように、やはり里の統合を手伝って欲しいと言われました」
「そうなのね。そうなればレイもそうでしょうね」
「はいそうです」そう言ってレイが扉を開いて入ってくる。
「でも少し離れたところに新たな集落を作りたいそうです」
「里の掟に縛られず、でもそばにいたいと」
「お互いに何か起きた時に助け合いたいそうです」レイがそう言った後、獣化して私の膝に飛び込んでくる。
「そのほうが良いのかもしれんな」モーラが何かを考えている。
「エルフィ。そういえば、迷いの森はうまくいっているのかしらねえ」アンジーがエルフィに聞いた。
「はい、噂ではそう聞いていますよ」
「で、どう思っているの?」
「私も統合よりはそのほうがいいかもしれないと思います」
「パムはどう?」
「同じです」
「エーネ聞こえてる?」
『同じです。もっとも私たちは魔族の境界にいましたから、似たようなものでしたけど、魔族領に近いほうがいいかもしれませんね』
『ならチューゲント・フェルバーンが独立したのでそこに住みませんか?』ユーリの声が飛び込んでくる。
『ユーリ今どこなの?』アンジーが聞いた。
『ファーンから家に戻る途中です』
『確かにファーンが家から遠くなったものねえ』
『キャロルはどこなの?』
『ユーリ様と一緒です』
『傭兵団では何か聞けたのかしら?』
『どうやらビギナギルが国になるみたいです』キャロルの困惑までもが一緒に伝わってくる。
『今まででも十分国だったじゃない』
「ただいま」「ただいまもどりました」
「ああ、本当に近くまできていたのねえ」
「ユーリ様はすごいのですよ。王国復興の初代王女になって欲しいそうですよ」
「私は嫌ですよ。あそこの国はチューゲント様にお願いしようと思います。それよりもキャロルは、ビギナギルの騎士になるらしいですよ」
「絶対に辞退します。領主様の思惑が見え透いていて」ユーリの決意が聞き取れる。
「そのまま次の国王に持っていくつもりでしょうねえ」アンジーが笑いながら言った。
「そんな話まで噂になっているところに私は絶対戻りませんよ」キャロルがなぜか怒っている。
「うちは姫様ばかり揃っているからねえ」アンジーが全員を見回す。
「私たちを見ますか?」パムがびっくりしている。
「本当ならあなたが当主でも問題ないでしょうし、レイだって実力主義な孤狼族の中では当主になっても問題ないわよね」
「僕には想像できません」
「戻りました~」
「おや、魔王領の次期当主が帰ってきたわね」
「なんですかそれは、もう噂を聞いたのですか?」エーネがビックリしている。
「噂?」
「全く失礼してしまいます。お嫁に出した私を次期魔王になんてあり得ませんよ」
エーネもそう言いながら席について全員がようやくテーブルに着くことができた。
メアが全員にお茶を配ってしばらくまったりしている。疲れているのか全員が静かにしている。
「そろそろ居酒屋に行きませんか?」私はお腹がすいてしまいました。気が抜けたせいでしょうか。
「おや人族統合国家元首様のご発言ですね」パムが笑いながらそう言いました。
「どこからそんな大層な名前が出てきますか。ありえないですし、各国が黙っていませんでしょ」
「さすがにそれは冗談よね」
「居酒屋は大丈夫なのだろうなあ」
「ああ、居酒屋はちゃんと運営で来ているらしいわよ。移転からかなりたっているから問題も無く運営しているって」
「お・さ・け~」エルフィが嬉しそうに立ち上がって手を波打たせて踊り出した。
「生還祝いか」
「はい、まだ食料品の調達ができておりませんので、そのほうがよろしいかと」
「じゃあ行きますか?」
「その後のお風呂は大丈夫ですか?」
「見てきますね」
「大丈夫ですね。では行きましょうか」
「場所取り~いくよ~」
「町長のところに顔を出しましょうか」
「そうじゃな」
「そうね」
そうして、全員でファーンにむかう。こんな風に全員で道を歩いているのは初めてかもしれませんね。・・そう思っていると、
「あのー。歩きでは難しいですよ」ユーリが言った。
「はい。馬でも結構な距離ですから」キャロルが追い打ちをかける。
「転移魔法で行くのかと思っていました~」エルフィが私を見た。
「モーラお願いできますか?」
「帰りは頼むな」
「わかりました。私が皆さんを連れて行きます」ブレンダが胸を叩いて言った。
「おお、さすがニセ模倣使い様。ありがたやありがたや」モーラが手をあわせて拝んでいる。
「モーラ様は、お一人で向かってくださいね」
「わかった。頼む一緒に連れて行ってくれ」
「そんなに飛ぶのがつらいですか?」
「わしがまだここの環境になじんでないからなのかもしれんからかなあ」
「モーラは他のドラゴンとは違って、来たばかりですものねえ」
「馬車が追い駆けてきましたよ~」
「うちの皆さんは本当に気が回りますねえ」私はこちらに走ってくる馬車を見て感心しています。
小さい方の馬車を引っ張って、アとウンが走ってくる。私は2頭を撫でまくります。
「でも、少し狭いですよ」
「しばらくの我慢じゃ」
そうして、馬車に揺られながらファーンを目指す。
○ファーンに到着
城壁がさらに大きくなっていました。デカいです。壁を見上げてその大きさを眺めてから馬で中に入って行く。
「意外に大きかったのですねえ」
「おぬしは、ここに城壁がない時にしか来ていないのだったか」
「確かに、城壁はモーラが作ったのでしたよねえ」
「そうじゃ。コッソリだがなあ」
私達がその中に入ると、セリカリナで見たような近代的な建物が建ち並び始めていました。
「レンガ造りにし始めましたか」
「いや、周囲の環境に森がほとんどないであろう?土以外に建物を作る材料がないのじゃよ」
「確かに、草木のドラゴンさんが、成長促進は諸刃の剣だと言っていましたからねえ」
「どの都市もそうならざるを得ないらしいわ」
「まだ改善の余地はありましたねえ」
「あんたねえ。あんな突貫工事で惑星作っただけでもすごいでしょうが。これからはこの環境で生きていくの。それは仕方が無い事なの」アンジーが作った本人である私に説教しています。
「そうでした」
そうして、新しい街の中を歩いて町長の事務所に向かう。
「こんにちは。というには夕方ですねえ」私達は事務所に入っていく。
「おお、DTか。今回は大変だったなあ」
「宴会のついでで申し訳ありませんが、挨拶に来ました。先にこの星に来てもらったり、色々ありがとうございました」
「まだやる事はあるぞ。各国との距離が離れたおかげで道路整備が必要じゃ」
「細い道はつけてありますから、そこをなぞるように馬車が走っていればそのまま道になりますよ。次第に道ができていきます。魔獣もいないから安全に走れますよ」
「そうじゃな。ファーンは自給自足が前提だから徐々に道になってもかまわんのだが、ビギナギルは違うのじゃ。ファーンとベリアルの農製品やら繊維やらに依存していてなあ。速く走れる道がないと輸送もままならなくてなあ。供給不足に悩んでおる」
「だから自給率をあげろとあれほど言ったのに」
「おかげでわしらが潤っているのも事実だからなあ」
「これだけ広い面積になれば自給率も上げざるを得ないでしょうね」
「おぬし、わしらの所の品質を上げてくれたであろう?」
「そうですよ。高級品質は付加価値がついて値が下がりませんからね」
「おかげでどんなに高くても売って欲しいそうじゃ」
「それはそれで問題ですねえ」
「解消策はあるのか?」
「その話は明日にしませんか」
「ああそうじゃな。生産量を上げて欲しいとせっつかれていてな。すまない」
「今日は居酒屋ですが一緒にどうですか?」
「そうじゃな。皆来ておるだろう?」
「もちろんです」
「では行こうかのう」
その日初めてこの惑星に出来た居酒屋に向かった。
○DT門番をする(正確には扉の番ですが)
「最後にはこうなるわよね」アンジーがブーたれています。
「ここの門番だけは私がしなければならないのですよ」
私はそう言って、草原の真ん中にあるどこでもドアから少し離れた所に建てた、私が最初に建てた家を真似して作った小屋の中から出てくる。横にはかまどと岩風呂が置いてある。
「どの位ここで暮らす事になるのかしらねえ」
「エルフィの予言ではそう遠くないと言っていましたし、扉に張り紙していますからいなくても良いのですがね」
どこでもドアには、張り紙がしてあり、「横の小屋に誰もいない場合は、小屋の中に置いてあるベルを押してしばらく小屋でお待ちください」と書いてある。
「こんな事しても説得するのでしょう?」
「ええまあ。それが約束ですから」
「私としては、あんたと二人でこうしてゆっくりしていられるから幸せなんだけどね」
アンジーは、私がかまどで簡単な炒め物を作っているところに近付いて来て背中にくっついてくる。
「そういえば、一番最初は二人だけで暮らしていましたよね」
私は、背中にアンジーの体温を感じてそれを思い出しました。
「最初の頃に思っていた暮らしが出来ているわ」
「よかったです」
○彼の地へ戻りたがる者
中原の小屋のところにひとりの男が扉の所に立った。私は人影を見つけて、小屋を出て男を見た。知り合いだった。
「おや。やっぱり戻りますか?」
「私は、神の使徒たるホムンクルスです。あの世界を見守るために作られました。ですからあの世界に戻ります」
「あの世界は、すでに崩壊のプログラムに入りました。それをあなたも感じているのでしょう?わかりませんか。神はあの世界を放棄したのです。あの世界を維持するために魔族を殺すというあなたの役目は終わり、神に従う意味も無いのです。それにあの崩壊の中にいても、神が作ったあなたでさえ、神はあなたを殺せないのです。そして、そのまま崩壊する世界にいても死ねないのですよ。たぶん箱庭のあった位置に意識のあるまま魔力の続く限り漂うことになる」
「ならば頼む。私を殺してくれ」彼は私の胸を両手で叩くようにして、もたれかかってきた。
「残念ですが、私にはできません。あなたが私にどんな仕打ちをしてきたにしても、今のあなたを殺すことはできません。むしろ生きていて欲しいと思っています。この世界唯一のホムンクルスとして」
「たかがそんなことでか。あのアスターテという男なら作ることも可能であろう」
彼の頬には二筋の光が流れた後がついている。
「いいえ、今の魔力の少ないこの環境であなたはどうやって維持しているのでしょうか?彼からもたぶん研究させて欲しいと言われるでしょう。そして得がたい存在です。私達のこともこの世界に来た人たちのことも神のことも全て知っているのですから。私はあなたのことを人材として必要なのです」
「俺はお前を憎み殺そうとした男だぞ」
「あの時はそうでしょう。神のためにあの箱庭の世界を守るためにそうしていました。今は、その必要が無いのでしょう?」
「お前はどこまで馬鹿なんだ。人の心をなんだと思っている。ああ、この心の有りようさえお前から学んだものだったな。わかったよ。ここに残ろう。俺は何をすれば良い?」
「お願いしたいのは、この世界を見守ってください。そして定期的に私を監視して、評価してください。この世界に混乱を招く者か否か。もし混乱を招くようであれば、他の種族の方達と共に私を抹殺してください。できれば私に宣告してから」
「ああそうか。今ならわかる。お前は恐いのだな。お前自身がこの世界の脅威になることが」
「ええ恐いです。特にこの後自分が自分の進める研究が間違った方向に進んでしまうことが。私は研究馬鹿なので研究のためなら世界を滅ぼしても実験したいと思えるのですから」
「なるほどこの世界を守るか。神から与えられた使命に近いな。わかったそうして生きていこう。覚悟しろよDT」
「ありがとうございます。私の家族では決してできないことなので」
「それでも、魔力はお互いほとんど無いのだろう?大丈夫じゃないのか」
「少ない魔力を高効率に使うこともできるのですよ」
「そうか。なるほど。ではここを去る。この扉にはもう近づかないから安心しろ」
「悩んだらここに来てください」
「ホムンクルスはな。単純なんだよ。命令に従うそれだけさ。じゃあな」
彼は笑ってそこから消えた。
私はしばらくそこに佇んでいた。
「なんじゃ、敵までデレさせるか。さすがじゃのう。他種族たらしの面目躍如じゃなあ」
後ろからモーラの声がした。
「聞いていたんですか。彼には役割が必要なんですよ。生きていくためのね。私は提示しただけです」
「あんたが自分の能力に恐怖を感じているとか私達は感じたことはないけどねえ」
アンジーも小屋から出てきた。
「私も一応男ですから、女性に恐怖は感じさせたくないですから」
「それにしては、私の胸でずいぶん泣いていたじゃない」
「ええ、無い胸でねえ。顔が痛い位には泣けますねえ」
「くっ、確かにそうね」
○ もう一つ残されていた物語
魔王城が惑星に転移され、しばらく混乱していた時に、魔王アモンの所に突然連絡が入る。
アモンは魔王城を飛び出した。しかし、魔素の影響で早く飛ぶことは出来ない。
そうして、魔族領の境界線のところにポツンと小屋が建っていて、小屋の前には、ひとりの女性が座っていた。
アモンはその女性の前に降り立つ。女性はアモンを見上げて微笑んだ。
「シュトリ、お前、生きていたのか・・・」
そう言ってアモンは、膝から崩れ落ちて、シュトリと呼ばれた女性の膝に顔をうずめた。
「バレてしまいましたね」
「なぜあの時私の前に現れなかった」
「私は今でもあなたの前に現れるつもりはありませんでしたよ」
「なぜだ。またあの男の仕業か」
「いいえ、私の意志ですよ」
「パムさんとエーネがお前が死んだと言ったが」
「私がお願いしたのです。死んだことにして欲しいと」
「なぜなんだ?」
「あなたのそばにいるのがつらくなったのです。死んだことにするのが、逃げるのに一番楽だったのです」
「私の事が嫌いになったのか?」
「今でも変わらず愛していますよ」
「ならばなぜ?」
「私の存在があなたを苦しめるからです。もちろんこれは私のわがままです。でもあなたの隣にいるのがつらくなったのも事実です」
「そうだったのか。今なら考え直してもらえるということかい?」
「はい。娘もようやく独り立ちしてくれましたので」
「そうか、戻って来てくれるか」
「はい、一度はあなたを裏切って死んだふりをした私ですが、戻っても良いのでしょうか」
「お前がいてくれないと私はダメなのだよ」
「それでは困ります。これからは仕事と妻は別に考えてくださいね」
「ああ頑張る。だからお願いだ。私の所に戻って来てずっとそばにいてくれ」
「わかりました。善処します」
「ありがとう」
そうして、魔王の妻は魔王の元に戻ってきた。
続く
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