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第39話 エクソダス 人族編
第39-2話 DT人の説得に回る2
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○ 次は~ロスティア~ロスティア~
ハイランディスの国王に第1回目の説明が終わったので、次の国に行くと挨拶をして、国王の住む城塞都市を出ました。
「さて、次ヘ行きますか」
『ブレンダさんは今どこですか?』
『・・・』
『ああそうでした。ブレンダ。今どこですか?』
『マクレスタ・チェイス公国にいます』
『忙しくなければこちらに来ませんか?』
『まだ仕事がありますので。終わったら合流します』
『わかりました』
「ブレンダもおぬしも相変わらずじゃなあ。おぬしも「さん」づけをやめられんのか?」
「だって、ついついつけたくなるのですよ。自分の中の格付けなんでしょうかねえ」
「アンジー様とモーラ様には、敬語をつけいないのにどうしてですか?」キャロルがちょっと不服そうだ。
「アンジーもモーラもどっちも、私にとっては腐った関係ですからねえ」
「なんじゃその腐った関係とは」
「だってねえ。大体、面倒ごとはお二人がらみですし、私をいじるのもお二人ですからねえ」
「まあ、すまぬ」モーラは本当にすまなさそうだ。
「それはお互い様でしょう?」アンジーは負けていない。
「あとはメアさんとパムさんはさんづけですよね」エーネも何か言いたそうだ。
「エルフィを除いて年上なのですよ」
「どうして私は~さんづけじゃないのですか~?」エルフィはそう気楽に聞いた。
「精神年齢じゃな」モーラが即答した。
「そうですね」とパム
「あーそうですね納得です」とユーリ
「そうなりますね」とキャロル
「ですです」
「みんな~ひどい~」
「いやひどくないわよ。当たり前じゃないの」アンジーがエルフィを撃沈する。
馬車の中で倒れ込むエルフィ。すかさずレイがエルフィに飛びついた。
「みんな~ひどいよね~」エルフィはレイをモフりながら寂しそうに言った。
レイは、してやったりという顔でエルフィにモフられている。やりますね。レイ。
「と言うことはですよ。ディー様にとってブレンダさんは・・・」エーネがそう言いかける。
『エーネそれ以上はダメよ』ブレンダがやさしい声で割って入ってくる。
「おおうブレンダ。聞いておったか。やるなあ」
「でも納得しました」ユーリが頷き、
「そうです大人の魅力です」キャロルも頷き、
「です」とエーネが頷いた。
「で、実年齢的にどっちなのじゃ?」モーラが私に聞いた。
『モーラ様、その・・・お願いしますから』ブレンダが釘をさした。
「私の元いた世界では、女性は一定の年齢になると、誕生日は毎年来ますが、年齢は増えなくなるらしいのですよ」
私が言うと全員が頷いた。
「そういうものか?」とはモーラが
「そういうものよ」とアンジーがこの話を締めた。
○ロスティア
くだらない話をしながら、ハイランディスからロスティアに馬車で向かう。ハイランディスからしばらく走ったあと、一瞬でロスティアの中心都市の門に到着する。
門の所では、前回のように大々的に入ったりせず、そーっと中に入った。もっとも門兵は、私達に気づいていたが、見ないふりをしてくれていたようだ。
アンジーはロスティアの孤児院へと向かい、孤児院の様子を確認した後に国王の城へと向かった。
ロスティアの城は大きい。地方都市プリカミノの城など比べものにならないくらいの大きさだ。我々は、田舎から出てきたお上りさんのように門の前で口を開けて城を見上げていた。
私は、ハイランディスの門の時と同じように話して、中に入れてもらおうとしたが、門番の兵士に笑われてしまった。そこにはすでにイオンが待っていたからだ。
「お久しぶりです。賢者様」イオンは丁寧に私にお辞儀をする。
「そういえば攻城戦の後は、お会いしていませんでしたね」
「あの時の戦いは新鮮でした。それに色々ありましたし」イオンは複雑な表情をした。
「悪いことをしたとは思っていますよ」
「実際私の不甲斐なさから、あのような事になりました。サフィを悩ませていたとは・・」
「もういいでしょう。さて、こちらに来た用件は、すでにご存じですね」
「はい。アンジー様、ハイランディスでは色々とお話をされているようですが」
「私はね看板なのよ。こいつが・・・失礼、この人が話をしているわ」
「そうでしたね。すでにハイランディスでの話がこちらにも伝わってきています。パム様からはお聞きしておりましたが、この世界が滅亡するのは本当なのですね?」イオンが私を真剣な目で尋ねる。
「正確に言えば、滅亡はすぐではありませんよ。そうでしたらこんな悠長なことはしておりません」
「ならば今すぐではなくても良いのではありませんか」
「私がこの事に気づいた事を、神を名乗る者が知って、すぐにでもこの世界を放棄するかもしれませんから」
「そうなのですか?」
「わかりません。私は神を名乗る者ではありませんから」
「・・・」
「イオンさん?私は国王に会いたいのだけれど会わせてもらえるのかしら」
「もちろんです。さあお入り下さい」
イオンの手があがり、馬車が横に何台も同時に通れるような大きな橋が降ろされた。私達は兵士達に見守られながら中に入って行く。
エルフィはまたも馬車で待機すると言って中に入らない。他の全員が中に入って行く。
長い階段をいくつも昇り、ようやく謁見の間に到着する。すでに私は疲れていました。体力が足りません。
イオンの妹である女王は椅子に座り、横の椅子にはイオンが座っている。どうやって先に階段を昇ってきたのでしょうか?
「初めまして国王様。私はアンジー。この街の孤児院を作った者よ。色々と便宜を図っていただいてありがとうございます」
アンジーはまず頭を下げた。
「あら、それは知らなかったわ。こちらこそ、みなし子のために尽力していただきありがとうございます」
女王は玉座から頭を下げた。
「さて、ハイランディスの国王から聞いているのでしょう?この国でも同じように話をしたいのだけれど良いかしら」アンジーの態度がガラリと変わる。
「止められないのでしょう?なら好きにすれば良いわ」女王はそうさらりと言った。
「ありがとうございます」私は頭を下げた。
「でもね、嘘だったら殺すわよ」女王は前のめりになって、すごんで言った。
「こんな法外な嘘をついてどうしますか」私は落ち着いてそう答える。
「まあ世間をたぶらかす詐欺師というところかしらね」女王は、イオンの慌てる様に気づきながらそう言った。
「世間知らずなお嬢さん。わしはなあ、こうみえてドラゴンじゃ。少しはこの男とその家族に敬意を持て。な?おぬしの身に今後何が起きてもしらぬぞ」
モーラがそう言ってオーラを少しだけ放出する。モーラの後ろにドラゴンの姿が映し出され、その部屋の中にいたものは全て怯えている。その中でイオンと横に並んでいた勇者パーティーの者達だけは平然としていた。
「わ、わかりました。敬意を持って接しましょう」椅子の肘掛けを握りしめて女王は言った。手足は震えているようだが、なんとか威厳を保ったようだ。
「そうじゃ、そうするがいい。これまで蝶よ花よと育てられ、姉がふがいなくて腹立たしいと思っていたのであろう?その考えは間違っておる。わしらのような者とおぬしの姉は対等に会話できるのだからな。勇者に対して敬意を持つがいい。わかるな」
「は、はい」
「よしよし、良い子じゃ」
「ひぃぃぃ」
「ちょっとモーラ。脅かしてどうするの」
「それは私の役目でしたよねえ」
「これ以上はせぬ。なにせ世界に不干渉なのがドラゴンじゃからなあ」
「すでに干渉していますよねえ」
「まったくよ」
「女王様・・ああ、イオンさんそれでは失礼します。その・・・国王様をよろしくお願いします」
「わかりました」
そうして、私は街に行き、話を始める。私の顔を覚えている兵士が多く、真剣に話を聞いてくれている。瞬く間に話は街中に広がり、聞く人間の数はどんどん膨れ上がった。私は、各街区ごとに回る事にして、区切りの良いところで広場での説明を中止した。
「すごい人気ねえ」
「不死身の魔法使い、復活の賢者など色々と呼ばれていますね」パムが言った。
「私の噂より、話をちゃんと聞いて欲しいところですが」私はなんとなく納得できていません。
そうして、私の1回目の説明は滞りなく、かつ効率よく進められて、ハイランディスと同じくらいの期間で終わった。
○マクレスタ・チェイス公国
ロスティアの王女に、1回目の説明が終わった事を報告と感謝の挨拶をしたかったのですが、来なくていいと言われてしまい、ロスティアの都市から直接マクレスタ・チェイス公国に飛んだ。
「絶対モーラが脅したせいだわ」アンジーがご機嫌斜めです。
「すまん」モーラが小さくなっています。
「別にいいじゃないですか。無事説明も終わったことですし」私はそう気軽に言った。
「孤児院に何かあったらモーラのせいですからね」アンジーが恨めしそうにモーラを見る。
「その辺はアンジー教が何とかするのではありませんか?」メアが尋ねる。
「ロスティアには、教会を作れなかったみたいですよ。表立っては活動をしていないようです」
合流していたブレンダが説明してくれた。
「ねえブレンダ。次に行くマクレスタ・チェイス公国の様子が一番わからないのよ」アンジーがブレンダを見た。
「孤児院はありましたが、残念ながらアンジー教が動いている様子はありませんね」
「むしろその方が良いわ。宗教はロクな事にならないから」
「天使であるアンジーがそれを言いますか」私がツッコミを入れる。
「神を崇めるのと宗教を信仰するのとは全然違うわ」アンジーは何か思うところがあるのか、そう呟いた。
そして、マクレスタ・チェイス公国この首都の城塞都市の門に到着する。門の兵士が私達の馬車を見て、門の中に合図を送っている。
「どういう反応をするのでしょうかねえ」
「ジャガーあたりが何か余計なことを言っていなければよいがなあ」モーラが心配そうに言った。
「おや、噂をすれば・・・現れましたよ」メアが門から出てきた人影を見て言いました。
私達は、ジャガーとフェイ、レティとバーナビーが立っている場所に馬車を止めて、全員で降りて挨拶をする。
「DT様、皆様お久しぶりです」ジャガーが声をかけ、後ろの3人が頭をさげる。
「ジャガーさんそしてフェイさんレティさんバーナビーさんお久しぶりです」私も頭を下げて、家族も頭を下げた。
「これからどうなさいますか?」
「とりあえず皆さんとは堅苦しい挨拶は抜きにしましょう」私がそう言うと、アンジーとキャロルとブレンダがフェイのところにエルフィとレイとエーネがレティのところにメアとユーリがバーナビーのそばに行きました。私とモーラとパムがジャガーとともに話をしている。
「国王はどんなご様子ですか?」パムがしばらく話した後にジャガーに尋ねる。
「噂に翻弄されています。すでにハイランディスとロスティアの話は聞こえてきて、私達にどうすれば良いのか聞いてきました・・・」
ジャガーが丁寧にゆっくりと話してくれる。しかし、そこで言葉に詰まりフェイを見た。アンジー達と楽しそうに話していたフェイは、こちらの様子を見てアンジーやキャロル、ブレンダと共にこちらに来る。
「国王の様子ですね?」
「そうです。何か教えてもらえますか?」
「公国であるここは、国王が決定権を持っていますが、自治に関しては合議制を取っております。噂に振り回されているのは国王だけです」フェイが説明してくれている。
「そうですか。合議をする方達も含めてお話しをするのが効率的ですかね」
「はい。DT様が民衆にお話しをしたいだけであれば、大丈夫とは思いますが、念のため民衆に説明する内容を事前に聞いてもらう必要がありますね」フェイがそう言った。
「わかりました。皆さんがここで待っていたのは、私達の到着を国王に伝えるためですか?」
「それと、合議を行う者達を集めるための時間稼ぎですね」フェイが苦笑いしている。
「時間稼ぎって。私はいくらでも待ちますよ」
「残念ですが、DT様は神の使いアンジー様の代弁者であり不死の魔法使い。粗相があってはならないという結論が出てしまっていたのです」フェイがそう言いながらあきれている。
「それは噂が作った幻想でしょう?実際に間者を各国に送り込んで見ているわよねえ。どうしてそんな結論なのよ」
アンジーは納得がいかない様だ。
「アンジー様がハイランディスに入城した時の事、そしてロスティアでモーラ様が女王を威圧した逸話を知って、議員達は萎縮しているのです。そしてDT様が英雄に刺されて死んだ時、その場にいた間者達が死体まで確認しています。ですから。DT様の復活は間違いないと報告されています」
「さすがに、お3方ともやり過ぎましたね」パムがあきれている。
「まあそれで押し切るしか無いわね」アンジーが眉間に指を当てて言った。
「どうやら、準備が出来たようですね」私は怯えた兵士がフェイのところに来て何かを伝えたのを見てそう言った。
「では、まずは城塞都市の中に、そしてそのまま城の方に向かいましょう」
フェイが言いながら別な方を見て笑っている。その方を見ると、レティと一緒に妖しい踊りを踊っている皆さんがいた。踊る人がだんだん増えていませんか?
そうして、御者台にはフェイとエルフィが、後ろに残り全員が乗って、開かれた門を抜けて進む。その間もレティの妖しい踊り教室が続いていた。アンジーはそれをジト目で見ています。
「アンジー、混ざりたいですか?」
「ばっ、何を言うのよ」アンジーが顔を真っ赤にしている。
この状況で踊っていられるのはうらやましいですよねえ。私もこの緊張感を投げ打って一緒に踊りたいですよ。
そして、謁見の間ではなく、円卓のある会議場に案内される。そこの部屋には国旗が正面に掲揚されていて、その下に国王が座り、円卓の両脇に偉そうなお役人達が座っている。私とアンジーとモーラが王の正面に座らされて、他の家族は、私達の後ろに椅子席が用意されていた。ジャガーたちは、国王の右に席が用意されて座っている。
「初めまして、私がマクレスタ・チェイス公国の王である」王は立ち上がって、そう言ってお辞儀をした。
「初めまして、私が」私は立ち上がって名前を名乗ろうとすると
「いや、自己紹介は必要ありません。それに魔法使いは名乗らないと聞いております」
「では、初めまして。辺境の魔法使いの代理です」
「私はアンジーよ」
「わしはモーラじゃ」
二人も順に立ち上がって挨拶をする。
「さて、御用向きを念のためお尋ねしたいのですが」王の右隣に座っていた者が立ち上がってそう尋ねる。
「この世界の滅亡とその回避方法について、私の考えを国民全員に聞いていただきたいのですが、話しても良いですか?」
「やはりその話ですね」
「はい。すでにハイランディスもロスティアも、いずれの国もほとんどの市民に話し終えています」
「両国からもあなたを止める術はないと聞いております。それはご自由にしてください」
「ありがとうございます。そしてまず、皆様にもお話ししたいと思いますし、現地を直接見てもらいたいのです」
「2国と全く同じ事をしようというのですね」
「はい。いけませんでしたか?」
「国の王にそう告げて強制的に移動するよう命令すればいいではありませんか」席に座った男がそう尋ねる。
「強制はしたくありません。でも全員連れて行きます」
「矛盾しているでしょう。嫌な人も連れて行くなら強制していますよね」
「それは心のありようの問題です。説得しますが、強制はしたくありません」
「それについては何度も話をされていますので今更でしょうね」国王の左隣に座っていた者がそう言うと、話そうとしていた全員が静かになった。
「はい」
「移転する日程はどうなっていますか?」
「意外と順調に進んでいますので、これから回る小国が終わればすぐにでも」
「わかりました。とりあえず説明を聞かせていただき、現地を見せていただけますか」右隣の席の者が私に言った。
「ファーンがすでにあの世界に住んでいます。そこもお見せしますね」
「わかりました。説明の日程はここに作ってあります」
その男は1枚の紙を用意していていた。ブレンダがそれを受け取りに行き、パムとメアに見せている。
「それはありがたいです」
「それではまず私達に説明してください」
「わかりました」
私は、そこにいる全員に説明をして、それからそこにいた人達を半分にわけて、その場から直接惑星に連れて行った。全員が戻って来て席に着いたが、言葉も無く、ただジッと座って考え込んでいる。
「もし質問があれば、いただいた日程どおりに説明していますので、その時にお願いしますね。それでは失礼します」
私は家族を促して、その会議場を去った。
「あのまま出てきて良かったのかしら?」アンジーが私に聞いた。
「仕方がないですよ。返事もせずただそこに座り込まれても」
「あとはフェイ達に任せるとするか」モーラが言った。
「それしかありませんね」
そして、国王やその下の合議体の人達は、それぞれの住む街区に戻ったそうで、街区での説明にあたって事前に話をしていたらしく、混乱も無く説明が終わった。
「ハイランディスやロスティアのような混乱がなかったですね」
私はブレンダが何か知っているのではないかとブレンダを見ました。
「はい。実は」ブレンダが説明を始める。
「ここの国は合議制をとっていますが、各街区の長が議員として合議に参加しています。その人達はほとんどが商人なのです」
「商人だと混乱を起こさないのですか?」メアが不思議そうに言った。
「各国ですでに説明を聞いていたのです」ブレンダがそう言った。
「は?」
「市民権や戸籍などの概念が十分に発達していないので、両方の国の市民として暮らしているのです」
確かにこの世界では、住民登録はしても、それを管理して、そこから納税している訳ではありませんでした。もっぱら商人や雇用主から徴収しているのでした。
「なるほど」
「それって、もしかしたら説明を聞き漏らす人がでると言う事かしら?」アンジーが嫌そうに言った。
「いいえ。重複しているだけで、どちらかでは聞いていると思います」
「各国には念のため話をしておいた方がいいのではありませんか?」パムは私を見て言った。
「先に惑星に移動した人を探す国がでますかねえ」
私は少しだけ考えました。
「まあ、どちらかの国が移動する時に惑星に行ってしまえば、何とかなりそうなので考えないことにします」
「そうなるわよねえ。結局全員を移住させるのだから」
「説明を二重に聞いている人がいるかもしれないのですね?」エーネが尋ねる。
「そんな暇な人がいるでしょうか」キャロルがそう言って首をかしげている。
「いましたよ」後ろに立っていたメアが言った。全員がメアを振り返る。
「誰ですか?」私はメアに聞いた。モーラとアンジーは、その段階で察したようだ。
「あの男です」メアはあえて名前を出しません。
「優男ですか?」
「はい。少なくとも各国1回ずつは彼の姿を見ています」
「暇人ねえ。やること無いのかしら」
「まあ、見ているだけならかまいませんよ」
そして、私達は、マクレスタ・チェイス公国での説明を終えて、国王と議員団とジャガーたちに挨拶をして、その国を出た。
○その他の国
それ以外にも国はある。マクレスタ・チェイス公国の隣のデューアリス、その北のサクシーダ、デューアリスの南のカロリンター、その東のセリカリナのさらに東の先にオリオネア、セリカリナの南にスペイパル、カロリンターの南にヨルドムンドがある。
それ以外は国とはいえず、町の規模は、ビギナギルより、ベリアルくらいの小さな都市がスペイパルの北東の方に乱立していた。
さすがに国を標榜しているところは、3国の状況を調べていて、私達に対しては何もせず。むしろ怯えて対応するところがほとんどで、混乱している国民を私達が落ち着かせなければならない状態だった。
地方都市(と言っていいものか?)の方がもっとひどくて、私達が現れると、白旗を振って、「降伏するから殺さないでくれ」と騒がれた。どうやら、怪しげな噂が飛び交って、不死の魔法使いが次々と都市を攻めて自分のものにしている事になっていた。
「誰が一体そんな馬鹿話を広めたのですかねえ」私は怒ってしまいました。
「まあまあ。噂なんてそんなものです」パムが私をなだめる。
「あ!恐怖の大王だ!」アンジーがそう言って私を指さす。エーネやエルフィが「キャー」と叫んで私を見て怯えているフリをした。
「あ、侵略者がキター」ブレンダが私を見て怯えたふりをする。ユーリやキャロルまでも怯えたような仕草をする。
「あんた達いい加減にしなさい。回りで人が見ているわよ。しかもバカを見る目でね」
「あ」周囲を見ると冷たい目で見ている人達がいるし、指さしている子ども叱っている母親までがいる。
「まあよかろう。イメージが少しでも恐く無くなれば儲けものじゃないか。そうじゃったキャー」
そう言ってモーラまでもが怯えたふりをする。好きにしてください。
そうして小国各国と各地方都市を回った。
その中でも3カ所は、色々と問題があった。そう。これまで関わりのあった3国。オリオネアとサクシーダとスペイパルである。
オリオネアは、あの時の元魔王様の里の件もあり、乗り込んだ瞬間、国王は土下座状態でした。特にユーリに対しては、何とか上手く取りなしてくれるよう、慈悲を請い始める始末でした。
そして、ワームの件で関係があったサクシーダ。国王に始めて会い、説明をした。
「それが本当であるならすぐにでも移動をしなければなりませんね」
国王が強い目で私を見つめて言いました。
「お待ちください。まず私が全国民に説明をしたいのです」
「わかりました」国王は簡単に了解してくれて、私は説明に回った。
しかし、どこで説明しても答えが、
「私達は国王様を信じています。国王様の考えに従います」と皆さん口を揃えて言います。私はそれにもくじけずに国民全員に説明を終えて、国王の所に報告にもどった。
「国王様。説得しましたね」私は疑いの目で国王を見ました。
「なんと言われたのですか?」国王は笑いながら私に尋ねる。
「皆さん国王様に従いますと言っていました」
「そうでしたか。私は事前に説得などしていませんよ。ただ私は、自分で言うのものなんですが、国民に慕われているのですよ。それに私も現地を見せていただきました。ほとんどここと同じではありませんか。あえて同じ環境を作ってもらったのでしょう?それには感謝しています」
私はサクシーダの環境に近い土地は作りましたが、別にそこに住んで欲しいとは思っていませんでした。こんな不便なところは、絶対回避したいだろうと思っていましたから。
しかし、そこが気に入ったそうです。現地を見た皆さんにも聞いたのですが、ここが良いと声を揃えて言いました。やはり似た環境が良いのでしょうかねえ。
さらにスペイパルです。あのヤクドネル王子がいるので、うまく説得してくれるかと思ったのですが、説明する事の了解はとれましたが、移住に対して、国王だけが難色を示していて、その説得に一番かかりました。
話は平行線になり、ヤクドネル王子もついに強硬手段を取りました。
「父は、これ以上話してもだめですね。申し訳ありませんが、第1王子と私、そして父を直接現地に連れていってもらえませんか?」
私も、昼はスペイパル国民への説明、そして夜な夜な国王に説明をしていましたが、埒が明かなかったため、ヤクドネル王子の案を採用して強硬手段に出ました。国王は、ファーンの生活を直接見て、実際に町長から説明を受けてようやく納得しました。国民はヤクドネル王子の人望からか、全く問題がなかったというのに。
最後にセリカリナについてだけ一言。残っていた全員を集めてもらって説明をしましたが、その表情は暗く、レスポンスも悪く、質問も何もない。支配人兼町長が話を整理してくれていたが、すでに生きる気力さえ無くしているようだった。
「こういう人達が一番問題なのですよ。どうしますかねえ」
それでも何度か話して、移住をすることには同意を取れました。
そうして、ようやく人族への説明が終了しました。
○怪しい動き
説明を聞いても納得できず、不満を持つ者も当然出ます。理解はしても納得できないし、現状を維持し続けたい、変化を嫌がる人達です。
「ぬし様お話があります」パムが私の元に来た。
「何か動きでもありましたか?」
「はい、断定はできませんが、どうやら移住を失敗させるために何か画策している者達がいます」
「そうですか。どの種族の説明の時にも、「邪魔をしたら罰がありますよ」と言っておいたのですがねえ。それにしえもパムさん、どうして突き止められたのですか?」
「実は、里に説得に向かったところ、里の入り口で族長の息子・・・いえ現族長に止められました」
「なるほど」
「そして影に隠れて待機するように言われました。そこで見たのがあの優男だったのです。まあ、その場で糾弾して一族が分断されるよりは、様子を知らせた方が良いと判断したのでしょう」
「賢明な判断ですね」
「はい。で、どうしたら良いかと思いまして」
「放置します」私はキッパリと言った。
「良いのですか?」パムが驚いた顔をした。
「さすがにそちらに人員を割くだけの余裕がありません。襲撃されるまで何もしない方が効率が良いです」
「大丈夫でしょうか」パムは不安げだ。
「他の里も、もしかしたら同じ状態かもしれません。ここで私達が動くと、さらに地下に潜ってしまい、動きがわからなくなるかもしれません。今動くのはあまり得策ではないと思います」
「わかりました。各種族に張りついている私の同志たちにも動くなと連絡しておきますか?」
「そうですね。こちらに連絡があったら、今は探るな、動くな、監視だけしてくれと言ってください」
私はそこで深いため息をついた。
「わかりました。ぬし様、お体大丈夫ですか?」パムは私の表情を見て不安げに尋ねる。
「研究とは違って、やりたくないことはしんどいですね」私は苦笑いをする。
「それだけではないと思います。お休みください」パムは私が笑ってごまかしているを見て怒っています。
「私の座右の銘は、やりたくないことはすぐやれ、やりたいことは時間十分とってやれですから」
「相変わらず座右の銘がたくさんありますね」パムはあきれています。
「座右の銘の名言集を作るまでは言い続けますよ」私は笑って言った。少しだけ元気が出た。
「なんじゃ、そやつらをつぶさんのか」モーラがいつの間にかそばに来ている。
「ええ、雑草は育ちが早いので、しばらく生え揃うまで待ちます。今刈り取るとまた伸び始めて、また刈り取らなければなりません」
「それは、座右の銘か?」モーラが笑っている。
「いいえ、私の兵法です」
「なるほどのう。さて、わしも心配の種を放ってはおけんな。念のため里に行ってくるわ」モーラが心配そうにして言った。
「引っかき回さないでくださいね」
「ああわかっておる。どうもなあ。火と闇そして光の奴らの動きがつかめていないのでな。始祖龍様に話を聞きたかったのじゃ」
「ちゃんと同意したんですよねえ」
「言質は取ったし、魔力の供給にも協力してもらっておる。しかし念のためその辺の再確認じゃ」
「わかりました」私は玄関から出て行こうとするモーラを送り出す。パムと一緒に外に出た。
「お気をつけて」パムがそう言ったとたんモーラは飛び立った。
「さて、私は罰の算段をしに行きますか」
私は、遺跡の塔の中に入って行く。
「こんにちは。遺跡の調整は進んでいますか?」
「ああDTさんでしたか。大丈夫ですよ。問題ありません」
アスターテさんさんがコンソールから顔を上げて私を見た。
「おぬし、本当にこれを使うのか?」背中を向けて壁の制御盤を見ていたコゾロフさんが振り返って言った。
「私の魔力量では、土地を持ち上げて、空間を開いて、惑星に送り込むのは、小さい範囲を繰り返すしかありませんからねえ」
「おや、DTさんじゃない。久しぶりねえ」紫がメアと一緒に現れる。手には食事を持っているようだ。
「これから食事ですか。では少し席を外しましょうか?」
「ご主人様の分もありますよ」メアが持っていた篭を少しだけ持ち上げて見せてくる。
「ここに来るのがわかっていましたか?」私はビックリして尋ねた。
「この子はねえ。いつあなたに会ってもいいようにと、あなたの分も余計に作っているのよ」
「それは違いますよ。これは昔からの習慣です。妖精さんの分ですから」メアがちょっとだけ照れながら言った。
「メアさんそれはいつも言っていましたねえ」
「メア。そこは自分をアピールしておくべきじゃないの?」紫が不満そうだ。
「お母様。そもそもそのようなアピールは必要ないのですから」メアが顔を赤らめている。
「あらそうだったの・・・では一緒に食事をしましょうかね」
「ありがたくいただきます」
「こちらに来る予定ではなかったはずよねえ。何かあったのかしら?」
「食事中にする話ではありませんよ」
「そう言わず話しなさい」紫に何でか叱られた。
「厄介ごとが起きそうなのです」
「まあ想定内ねえ。魔法使いの出番はあるのかしら?」紫がそう言って私を見た。
「遺跡の一部を防衛しようと思います。そこには勇者さん達にお願いしようと思っていて、そのフォローをお願いしたいのです。勇者さん達は空中戦が不得意ですから」
「わかったわ」紫は私の言葉を聞いてからパンを口に運んだ。
「私達に用事ではなかったのですか?」
「もしかして、食事を目当てに来たのね」紫がこいつやっぱりという顔をした。
「メアさんの料理は美味しいですからね」
「あなたやるわねえ」紫が笑って言った。
○風説の流布ってなんですか?(誤用)
「パムさん、ブレンダ、お願いがあります」
「なんでしょうか」パムがそう言い、「なんですか?」と呼び捨てにされてご機嫌なブレンダ。
「いつもこんな事にばかり駆り出してすいませんが、風説の流布をお願いします」
「風説の流布?なんですかそれは。ああ、虚偽の噂を流すのですね。どんな噂を流せば良いですか」パムが変な顔で私を見た。
「発見した遺跡を解明して、これを使って新天地に向かうと。すでにファーンとベリアルで実験済みで、エネルギー供給はベリアルの周囲の遺跡を使っていて、そこを破壊するとあの世界への転移は阻止できる。という重大な秘密を流出してください」
「実際にそうなのではありませんか?」パムが首をかしげる。
「違いますよ。小規模実験場の遺跡は必要ないのです。これは反乱軍を呼び寄せるための囮です。さらに各遺跡に反乱軍が集結したら、今度は塔を破壊しなければ意味がないという噂を集まって来た反乱軍に流して、塔に集まってきてもらいます」
「そんな事をバラして大丈夫なのですか」ブレンダが私を疑いの目で見て言った。
「そうなのですが、暗躍する人達にはエサが必要なのです。できればその人達を一網打尽にしたいのですよ」
「餌をぶら下げて集まってくるのを待つと」パムが感心している。
「面白そうね」ブレンダがニヤリと笑った。
「そのとおりです。この噂に乗ってくれるといいのですが」
「ぬし様らしい効率の良い方法ですね。塔を狙われたら危険ではありませんか?」
「壊されたら、使うのをあきらめられますので」
「わかりました」
「楽しみだわ」
「こんな事ばかりさせてすいません。これを最後にしたいです」
「私はかまいませんよ。今回の事は面白そうです。では、盛大に信じ込ませましょう」
パムがブレンダを見て微笑んだ。
「私は何回やってもいいわよ」ブレンダは楽しそうに言った。
「よろしくお願いしますね」
続く
ハイランディスの国王に第1回目の説明が終わったので、次の国に行くと挨拶をして、国王の住む城塞都市を出ました。
「さて、次ヘ行きますか」
『ブレンダさんは今どこですか?』
『・・・』
『ああそうでした。ブレンダ。今どこですか?』
『マクレスタ・チェイス公国にいます』
『忙しくなければこちらに来ませんか?』
『まだ仕事がありますので。終わったら合流します』
『わかりました』
「ブレンダもおぬしも相変わらずじゃなあ。おぬしも「さん」づけをやめられんのか?」
「だって、ついついつけたくなるのですよ。自分の中の格付けなんでしょうかねえ」
「アンジー様とモーラ様には、敬語をつけいないのにどうしてですか?」キャロルがちょっと不服そうだ。
「アンジーもモーラもどっちも、私にとっては腐った関係ですからねえ」
「なんじゃその腐った関係とは」
「だってねえ。大体、面倒ごとはお二人がらみですし、私をいじるのもお二人ですからねえ」
「まあ、すまぬ」モーラは本当にすまなさそうだ。
「それはお互い様でしょう?」アンジーは負けていない。
「あとはメアさんとパムさんはさんづけですよね」エーネも何か言いたそうだ。
「エルフィを除いて年上なのですよ」
「どうして私は~さんづけじゃないのですか~?」エルフィはそう気楽に聞いた。
「精神年齢じゃな」モーラが即答した。
「そうですね」とパム
「あーそうですね納得です」とユーリ
「そうなりますね」とキャロル
「ですです」
「みんな~ひどい~」
「いやひどくないわよ。当たり前じゃないの」アンジーがエルフィを撃沈する。
馬車の中で倒れ込むエルフィ。すかさずレイがエルフィに飛びついた。
「みんな~ひどいよね~」エルフィはレイをモフりながら寂しそうに言った。
レイは、してやったりという顔でエルフィにモフられている。やりますね。レイ。
「と言うことはですよ。ディー様にとってブレンダさんは・・・」エーネがそう言いかける。
『エーネそれ以上はダメよ』ブレンダがやさしい声で割って入ってくる。
「おおうブレンダ。聞いておったか。やるなあ」
「でも納得しました」ユーリが頷き、
「そうです大人の魅力です」キャロルも頷き、
「です」とエーネが頷いた。
「で、実年齢的にどっちなのじゃ?」モーラが私に聞いた。
『モーラ様、その・・・お願いしますから』ブレンダが釘をさした。
「私の元いた世界では、女性は一定の年齢になると、誕生日は毎年来ますが、年齢は増えなくなるらしいのですよ」
私が言うと全員が頷いた。
「そういうものか?」とはモーラが
「そういうものよ」とアンジーがこの話を締めた。
○ロスティア
くだらない話をしながら、ハイランディスからロスティアに馬車で向かう。ハイランディスからしばらく走ったあと、一瞬でロスティアの中心都市の門に到着する。
門の所では、前回のように大々的に入ったりせず、そーっと中に入った。もっとも門兵は、私達に気づいていたが、見ないふりをしてくれていたようだ。
アンジーはロスティアの孤児院へと向かい、孤児院の様子を確認した後に国王の城へと向かった。
ロスティアの城は大きい。地方都市プリカミノの城など比べものにならないくらいの大きさだ。我々は、田舎から出てきたお上りさんのように門の前で口を開けて城を見上げていた。
私は、ハイランディスの門の時と同じように話して、中に入れてもらおうとしたが、門番の兵士に笑われてしまった。そこにはすでにイオンが待っていたからだ。
「お久しぶりです。賢者様」イオンは丁寧に私にお辞儀をする。
「そういえば攻城戦の後は、お会いしていませんでしたね」
「あの時の戦いは新鮮でした。それに色々ありましたし」イオンは複雑な表情をした。
「悪いことをしたとは思っていますよ」
「実際私の不甲斐なさから、あのような事になりました。サフィを悩ませていたとは・・」
「もういいでしょう。さて、こちらに来た用件は、すでにご存じですね」
「はい。アンジー様、ハイランディスでは色々とお話をされているようですが」
「私はね看板なのよ。こいつが・・・失礼、この人が話をしているわ」
「そうでしたね。すでにハイランディスでの話がこちらにも伝わってきています。パム様からはお聞きしておりましたが、この世界が滅亡するのは本当なのですね?」イオンが私を真剣な目で尋ねる。
「正確に言えば、滅亡はすぐではありませんよ。そうでしたらこんな悠長なことはしておりません」
「ならば今すぐではなくても良いのではありませんか」
「私がこの事に気づいた事を、神を名乗る者が知って、すぐにでもこの世界を放棄するかもしれませんから」
「そうなのですか?」
「わかりません。私は神を名乗る者ではありませんから」
「・・・」
「イオンさん?私は国王に会いたいのだけれど会わせてもらえるのかしら」
「もちろんです。さあお入り下さい」
イオンの手があがり、馬車が横に何台も同時に通れるような大きな橋が降ろされた。私達は兵士達に見守られながら中に入って行く。
エルフィはまたも馬車で待機すると言って中に入らない。他の全員が中に入って行く。
長い階段をいくつも昇り、ようやく謁見の間に到着する。すでに私は疲れていました。体力が足りません。
イオンの妹である女王は椅子に座り、横の椅子にはイオンが座っている。どうやって先に階段を昇ってきたのでしょうか?
「初めまして国王様。私はアンジー。この街の孤児院を作った者よ。色々と便宜を図っていただいてありがとうございます」
アンジーはまず頭を下げた。
「あら、それは知らなかったわ。こちらこそ、みなし子のために尽力していただきありがとうございます」
女王は玉座から頭を下げた。
「さて、ハイランディスの国王から聞いているのでしょう?この国でも同じように話をしたいのだけれど良いかしら」アンジーの態度がガラリと変わる。
「止められないのでしょう?なら好きにすれば良いわ」女王はそうさらりと言った。
「ありがとうございます」私は頭を下げた。
「でもね、嘘だったら殺すわよ」女王は前のめりになって、すごんで言った。
「こんな法外な嘘をついてどうしますか」私は落ち着いてそう答える。
「まあ世間をたぶらかす詐欺師というところかしらね」女王は、イオンの慌てる様に気づきながらそう言った。
「世間知らずなお嬢さん。わしはなあ、こうみえてドラゴンじゃ。少しはこの男とその家族に敬意を持て。な?おぬしの身に今後何が起きてもしらぬぞ」
モーラがそう言ってオーラを少しだけ放出する。モーラの後ろにドラゴンの姿が映し出され、その部屋の中にいたものは全て怯えている。その中でイオンと横に並んでいた勇者パーティーの者達だけは平然としていた。
「わ、わかりました。敬意を持って接しましょう」椅子の肘掛けを握りしめて女王は言った。手足は震えているようだが、なんとか威厳を保ったようだ。
「そうじゃ、そうするがいい。これまで蝶よ花よと育てられ、姉がふがいなくて腹立たしいと思っていたのであろう?その考えは間違っておる。わしらのような者とおぬしの姉は対等に会話できるのだからな。勇者に対して敬意を持つがいい。わかるな」
「は、はい」
「よしよし、良い子じゃ」
「ひぃぃぃ」
「ちょっとモーラ。脅かしてどうするの」
「それは私の役目でしたよねえ」
「これ以上はせぬ。なにせ世界に不干渉なのがドラゴンじゃからなあ」
「すでに干渉していますよねえ」
「まったくよ」
「女王様・・ああ、イオンさんそれでは失礼します。その・・・国王様をよろしくお願いします」
「わかりました」
そうして、私は街に行き、話を始める。私の顔を覚えている兵士が多く、真剣に話を聞いてくれている。瞬く間に話は街中に広がり、聞く人間の数はどんどん膨れ上がった。私は、各街区ごとに回る事にして、区切りの良いところで広場での説明を中止した。
「すごい人気ねえ」
「不死身の魔法使い、復活の賢者など色々と呼ばれていますね」パムが言った。
「私の噂より、話をちゃんと聞いて欲しいところですが」私はなんとなく納得できていません。
そうして、私の1回目の説明は滞りなく、かつ効率よく進められて、ハイランディスと同じくらいの期間で終わった。
○マクレスタ・チェイス公国
ロスティアの王女に、1回目の説明が終わった事を報告と感謝の挨拶をしたかったのですが、来なくていいと言われてしまい、ロスティアの都市から直接マクレスタ・チェイス公国に飛んだ。
「絶対モーラが脅したせいだわ」アンジーがご機嫌斜めです。
「すまん」モーラが小さくなっています。
「別にいいじゃないですか。無事説明も終わったことですし」私はそう気軽に言った。
「孤児院に何かあったらモーラのせいですからね」アンジーが恨めしそうにモーラを見る。
「その辺はアンジー教が何とかするのではありませんか?」メアが尋ねる。
「ロスティアには、教会を作れなかったみたいですよ。表立っては活動をしていないようです」
合流していたブレンダが説明してくれた。
「ねえブレンダ。次に行くマクレスタ・チェイス公国の様子が一番わからないのよ」アンジーがブレンダを見た。
「孤児院はありましたが、残念ながらアンジー教が動いている様子はありませんね」
「むしろその方が良いわ。宗教はロクな事にならないから」
「天使であるアンジーがそれを言いますか」私がツッコミを入れる。
「神を崇めるのと宗教を信仰するのとは全然違うわ」アンジーは何か思うところがあるのか、そう呟いた。
そして、マクレスタ・チェイス公国この首都の城塞都市の門に到着する。門の兵士が私達の馬車を見て、門の中に合図を送っている。
「どういう反応をするのでしょうかねえ」
「ジャガーあたりが何か余計なことを言っていなければよいがなあ」モーラが心配そうに言った。
「おや、噂をすれば・・・現れましたよ」メアが門から出てきた人影を見て言いました。
私達は、ジャガーとフェイ、レティとバーナビーが立っている場所に馬車を止めて、全員で降りて挨拶をする。
「DT様、皆様お久しぶりです」ジャガーが声をかけ、後ろの3人が頭をさげる。
「ジャガーさんそしてフェイさんレティさんバーナビーさんお久しぶりです」私も頭を下げて、家族も頭を下げた。
「これからどうなさいますか?」
「とりあえず皆さんとは堅苦しい挨拶は抜きにしましょう」私がそう言うと、アンジーとキャロルとブレンダがフェイのところにエルフィとレイとエーネがレティのところにメアとユーリがバーナビーのそばに行きました。私とモーラとパムがジャガーとともに話をしている。
「国王はどんなご様子ですか?」パムがしばらく話した後にジャガーに尋ねる。
「噂に翻弄されています。すでにハイランディスとロスティアの話は聞こえてきて、私達にどうすれば良いのか聞いてきました・・・」
ジャガーが丁寧にゆっくりと話してくれる。しかし、そこで言葉に詰まりフェイを見た。アンジー達と楽しそうに話していたフェイは、こちらの様子を見てアンジーやキャロル、ブレンダと共にこちらに来る。
「国王の様子ですね?」
「そうです。何か教えてもらえますか?」
「公国であるここは、国王が決定権を持っていますが、自治に関しては合議制を取っております。噂に振り回されているのは国王だけです」フェイが説明してくれている。
「そうですか。合議をする方達も含めてお話しをするのが効率的ですかね」
「はい。DT様が民衆にお話しをしたいだけであれば、大丈夫とは思いますが、念のため民衆に説明する内容を事前に聞いてもらう必要がありますね」フェイがそう言った。
「わかりました。皆さんがここで待っていたのは、私達の到着を国王に伝えるためですか?」
「それと、合議を行う者達を集めるための時間稼ぎですね」フェイが苦笑いしている。
「時間稼ぎって。私はいくらでも待ちますよ」
「残念ですが、DT様は神の使いアンジー様の代弁者であり不死の魔法使い。粗相があってはならないという結論が出てしまっていたのです」フェイがそう言いながらあきれている。
「それは噂が作った幻想でしょう?実際に間者を各国に送り込んで見ているわよねえ。どうしてそんな結論なのよ」
アンジーは納得がいかない様だ。
「アンジー様がハイランディスに入城した時の事、そしてロスティアでモーラ様が女王を威圧した逸話を知って、議員達は萎縮しているのです。そしてDT様が英雄に刺されて死んだ時、その場にいた間者達が死体まで確認しています。ですから。DT様の復活は間違いないと報告されています」
「さすがに、お3方ともやり過ぎましたね」パムがあきれている。
「まあそれで押し切るしか無いわね」アンジーが眉間に指を当てて言った。
「どうやら、準備が出来たようですね」私は怯えた兵士がフェイのところに来て何かを伝えたのを見てそう言った。
「では、まずは城塞都市の中に、そしてそのまま城の方に向かいましょう」
フェイが言いながら別な方を見て笑っている。その方を見ると、レティと一緒に妖しい踊りを踊っている皆さんがいた。踊る人がだんだん増えていませんか?
そうして、御者台にはフェイとエルフィが、後ろに残り全員が乗って、開かれた門を抜けて進む。その間もレティの妖しい踊り教室が続いていた。アンジーはそれをジト目で見ています。
「アンジー、混ざりたいですか?」
「ばっ、何を言うのよ」アンジーが顔を真っ赤にしている。
この状況で踊っていられるのはうらやましいですよねえ。私もこの緊張感を投げ打って一緒に踊りたいですよ。
そして、謁見の間ではなく、円卓のある会議場に案内される。そこの部屋には国旗が正面に掲揚されていて、その下に国王が座り、円卓の両脇に偉そうなお役人達が座っている。私とアンジーとモーラが王の正面に座らされて、他の家族は、私達の後ろに椅子席が用意されていた。ジャガーたちは、国王の右に席が用意されて座っている。
「初めまして、私がマクレスタ・チェイス公国の王である」王は立ち上がって、そう言ってお辞儀をした。
「初めまして、私が」私は立ち上がって名前を名乗ろうとすると
「いや、自己紹介は必要ありません。それに魔法使いは名乗らないと聞いております」
「では、初めまして。辺境の魔法使いの代理です」
「私はアンジーよ」
「わしはモーラじゃ」
二人も順に立ち上がって挨拶をする。
「さて、御用向きを念のためお尋ねしたいのですが」王の右隣に座っていた者が立ち上がってそう尋ねる。
「この世界の滅亡とその回避方法について、私の考えを国民全員に聞いていただきたいのですが、話しても良いですか?」
「やはりその話ですね」
「はい。すでにハイランディスもロスティアも、いずれの国もほとんどの市民に話し終えています」
「両国からもあなたを止める術はないと聞いております。それはご自由にしてください」
「ありがとうございます。そしてまず、皆様にもお話ししたいと思いますし、現地を直接見てもらいたいのです」
「2国と全く同じ事をしようというのですね」
「はい。いけませんでしたか?」
「国の王にそう告げて強制的に移動するよう命令すればいいではありませんか」席に座った男がそう尋ねる。
「強制はしたくありません。でも全員連れて行きます」
「矛盾しているでしょう。嫌な人も連れて行くなら強制していますよね」
「それは心のありようの問題です。説得しますが、強制はしたくありません」
「それについては何度も話をされていますので今更でしょうね」国王の左隣に座っていた者がそう言うと、話そうとしていた全員が静かになった。
「はい」
「移転する日程はどうなっていますか?」
「意外と順調に進んでいますので、これから回る小国が終わればすぐにでも」
「わかりました。とりあえず説明を聞かせていただき、現地を見せていただけますか」右隣の席の者が私に言った。
「ファーンがすでにあの世界に住んでいます。そこもお見せしますね」
「わかりました。説明の日程はここに作ってあります」
その男は1枚の紙を用意していていた。ブレンダがそれを受け取りに行き、パムとメアに見せている。
「それはありがたいです」
「それではまず私達に説明してください」
「わかりました」
私は、そこにいる全員に説明をして、それからそこにいた人達を半分にわけて、その場から直接惑星に連れて行った。全員が戻って来て席に着いたが、言葉も無く、ただジッと座って考え込んでいる。
「もし質問があれば、いただいた日程どおりに説明していますので、その時にお願いしますね。それでは失礼します」
私は家族を促して、その会議場を去った。
「あのまま出てきて良かったのかしら?」アンジーが私に聞いた。
「仕方がないですよ。返事もせずただそこに座り込まれても」
「あとはフェイ達に任せるとするか」モーラが言った。
「それしかありませんね」
そして、国王やその下の合議体の人達は、それぞれの住む街区に戻ったそうで、街区での説明にあたって事前に話をしていたらしく、混乱も無く説明が終わった。
「ハイランディスやロスティアのような混乱がなかったですね」
私はブレンダが何か知っているのではないかとブレンダを見ました。
「はい。実は」ブレンダが説明を始める。
「ここの国は合議制をとっていますが、各街区の長が議員として合議に参加しています。その人達はほとんどが商人なのです」
「商人だと混乱を起こさないのですか?」メアが不思議そうに言った。
「各国ですでに説明を聞いていたのです」ブレンダがそう言った。
「は?」
「市民権や戸籍などの概念が十分に発達していないので、両方の国の市民として暮らしているのです」
確かにこの世界では、住民登録はしても、それを管理して、そこから納税している訳ではありませんでした。もっぱら商人や雇用主から徴収しているのでした。
「なるほど」
「それって、もしかしたら説明を聞き漏らす人がでると言う事かしら?」アンジーが嫌そうに言った。
「いいえ。重複しているだけで、どちらかでは聞いていると思います」
「各国には念のため話をしておいた方がいいのではありませんか?」パムは私を見て言った。
「先に惑星に移動した人を探す国がでますかねえ」
私は少しだけ考えました。
「まあ、どちらかの国が移動する時に惑星に行ってしまえば、何とかなりそうなので考えないことにします」
「そうなるわよねえ。結局全員を移住させるのだから」
「説明を二重に聞いている人がいるかもしれないのですね?」エーネが尋ねる。
「そんな暇な人がいるでしょうか」キャロルがそう言って首をかしげている。
「いましたよ」後ろに立っていたメアが言った。全員がメアを振り返る。
「誰ですか?」私はメアに聞いた。モーラとアンジーは、その段階で察したようだ。
「あの男です」メアはあえて名前を出しません。
「優男ですか?」
「はい。少なくとも各国1回ずつは彼の姿を見ています」
「暇人ねえ。やること無いのかしら」
「まあ、見ているだけならかまいませんよ」
そして、私達は、マクレスタ・チェイス公国での説明を終えて、国王と議員団とジャガーたちに挨拶をして、その国を出た。
○その他の国
それ以外にも国はある。マクレスタ・チェイス公国の隣のデューアリス、その北のサクシーダ、デューアリスの南のカロリンター、その東のセリカリナのさらに東の先にオリオネア、セリカリナの南にスペイパル、カロリンターの南にヨルドムンドがある。
それ以外は国とはいえず、町の規模は、ビギナギルより、ベリアルくらいの小さな都市がスペイパルの北東の方に乱立していた。
さすがに国を標榜しているところは、3国の状況を調べていて、私達に対しては何もせず。むしろ怯えて対応するところがほとんどで、混乱している国民を私達が落ち着かせなければならない状態だった。
地方都市(と言っていいものか?)の方がもっとひどくて、私達が現れると、白旗を振って、「降伏するから殺さないでくれ」と騒がれた。どうやら、怪しげな噂が飛び交って、不死の魔法使いが次々と都市を攻めて自分のものにしている事になっていた。
「誰が一体そんな馬鹿話を広めたのですかねえ」私は怒ってしまいました。
「まあまあ。噂なんてそんなものです」パムが私をなだめる。
「あ!恐怖の大王だ!」アンジーがそう言って私を指さす。エーネやエルフィが「キャー」と叫んで私を見て怯えているフリをした。
「あ、侵略者がキター」ブレンダが私を見て怯えたふりをする。ユーリやキャロルまでも怯えたような仕草をする。
「あんた達いい加減にしなさい。回りで人が見ているわよ。しかもバカを見る目でね」
「あ」周囲を見ると冷たい目で見ている人達がいるし、指さしている子ども叱っている母親までがいる。
「まあよかろう。イメージが少しでも恐く無くなれば儲けものじゃないか。そうじゃったキャー」
そう言ってモーラまでもが怯えたふりをする。好きにしてください。
そうして小国各国と各地方都市を回った。
その中でも3カ所は、色々と問題があった。そう。これまで関わりのあった3国。オリオネアとサクシーダとスペイパルである。
オリオネアは、あの時の元魔王様の里の件もあり、乗り込んだ瞬間、国王は土下座状態でした。特にユーリに対しては、何とか上手く取りなしてくれるよう、慈悲を請い始める始末でした。
そして、ワームの件で関係があったサクシーダ。国王に始めて会い、説明をした。
「それが本当であるならすぐにでも移動をしなければなりませんね」
国王が強い目で私を見つめて言いました。
「お待ちください。まず私が全国民に説明をしたいのです」
「わかりました」国王は簡単に了解してくれて、私は説明に回った。
しかし、どこで説明しても答えが、
「私達は国王様を信じています。国王様の考えに従います」と皆さん口を揃えて言います。私はそれにもくじけずに国民全員に説明を終えて、国王の所に報告にもどった。
「国王様。説得しましたね」私は疑いの目で国王を見ました。
「なんと言われたのですか?」国王は笑いながら私に尋ねる。
「皆さん国王様に従いますと言っていました」
「そうでしたか。私は事前に説得などしていませんよ。ただ私は、自分で言うのものなんですが、国民に慕われているのですよ。それに私も現地を見せていただきました。ほとんどここと同じではありませんか。あえて同じ環境を作ってもらったのでしょう?それには感謝しています」
私はサクシーダの環境に近い土地は作りましたが、別にそこに住んで欲しいとは思っていませんでした。こんな不便なところは、絶対回避したいだろうと思っていましたから。
しかし、そこが気に入ったそうです。現地を見た皆さんにも聞いたのですが、ここが良いと声を揃えて言いました。やはり似た環境が良いのでしょうかねえ。
さらにスペイパルです。あのヤクドネル王子がいるので、うまく説得してくれるかと思ったのですが、説明する事の了解はとれましたが、移住に対して、国王だけが難色を示していて、その説得に一番かかりました。
話は平行線になり、ヤクドネル王子もついに強硬手段を取りました。
「父は、これ以上話してもだめですね。申し訳ありませんが、第1王子と私、そして父を直接現地に連れていってもらえませんか?」
私も、昼はスペイパル国民への説明、そして夜な夜な国王に説明をしていましたが、埒が明かなかったため、ヤクドネル王子の案を採用して強硬手段に出ました。国王は、ファーンの生活を直接見て、実際に町長から説明を受けてようやく納得しました。国民はヤクドネル王子の人望からか、全く問題がなかったというのに。
最後にセリカリナについてだけ一言。残っていた全員を集めてもらって説明をしましたが、その表情は暗く、レスポンスも悪く、質問も何もない。支配人兼町長が話を整理してくれていたが、すでに生きる気力さえ無くしているようだった。
「こういう人達が一番問題なのですよ。どうしますかねえ」
それでも何度か話して、移住をすることには同意を取れました。
そうして、ようやく人族への説明が終了しました。
○怪しい動き
説明を聞いても納得できず、不満を持つ者も当然出ます。理解はしても納得できないし、現状を維持し続けたい、変化を嫌がる人達です。
「ぬし様お話があります」パムが私の元に来た。
「何か動きでもありましたか?」
「はい、断定はできませんが、どうやら移住を失敗させるために何か画策している者達がいます」
「そうですか。どの種族の説明の時にも、「邪魔をしたら罰がありますよ」と言っておいたのですがねえ。それにしえもパムさん、どうして突き止められたのですか?」
「実は、里に説得に向かったところ、里の入り口で族長の息子・・・いえ現族長に止められました」
「なるほど」
「そして影に隠れて待機するように言われました。そこで見たのがあの優男だったのです。まあ、その場で糾弾して一族が分断されるよりは、様子を知らせた方が良いと判断したのでしょう」
「賢明な判断ですね」
「はい。で、どうしたら良いかと思いまして」
「放置します」私はキッパリと言った。
「良いのですか?」パムが驚いた顔をした。
「さすがにそちらに人員を割くだけの余裕がありません。襲撃されるまで何もしない方が効率が良いです」
「大丈夫でしょうか」パムは不安げだ。
「他の里も、もしかしたら同じ状態かもしれません。ここで私達が動くと、さらに地下に潜ってしまい、動きがわからなくなるかもしれません。今動くのはあまり得策ではないと思います」
「わかりました。各種族に張りついている私の同志たちにも動くなと連絡しておきますか?」
「そうですね。こちらに連絡があったら、今は探るな、動くな、監視だけしてくれと言ってください」
私はそこで深いため息をついた。
「わかりました。ぬし様、お体大丈夫ですか?」パムは私の表情を見て不安げに尋ねる。
「研究とは違って、やりたくないことはしんどいですね」私は苦笑いをする。
「それだけではないと思います。お休みください」パムは私が笑ってごまかしているを見て怒っています。
「私の座右の銘は、やりたくないことはすぐやれ、やりたいことは時間十分とってやれですから」
「相変わらず座右の銘がたくさんありますね」パムはあきれています。
「座右の銘の名言集を作るまでは言い続けますよ」私は笑って言った。少しだけ元気が出た。
「なんじゃ、そやつらをつぶさんのか」モーラがいつの間にかそばに来ている。
「ええ、雑草は育ちが早いので、しばらく生え揃うまで待ちます。今刈り取るとまた伸び始めて、また刈り取らなければなりません」
「それは、座右の銘か?」モーラが笑っている。
「いいえ、私の兵法です」
「なるほどのう。さて、わしも心配の種を放ってはおけんな。念のため里に行ってくるわ」モーラが心配そうにして言った。
「引っかき回さないでくださいね」
「ああわかっておる。どうもなあ。火と闇そして光の奴らの動きがつかめていないのでな。始祖龍様に話を聞きたかったのじゃ」
「ちゃんと同意したんですよねえ」
「言質は取ったし、魔力の供給にも協力してもらっておる。しかし念のためその辺の再確認じゃ」
「わかりました」私は玄関から出て行こうとするモーラを送り出す。パムと一緒に外に出た。
「お気をつけて」パムがそう言ったとたんモーラは飛び立った。
「さて、私は罰の算段をしに行きますか」
私は、遺跡の塔の中に入って行く。
「こんにちは。遺跡の調整は進んでいますか?」
「ああDTさんでしたか。大丈夫ですよ。問題ありません」
アスターテさんさんがコンソールから顔を上げて私を見た。
「おぬし、本当にこれを使うのか?」背中を向けて壁の制御盤を見ていたコゾロフさんが振り返って言った。
「私の魔力量では、土地を持ち上げて、空間を開いて、惑星に送り込むのは、小さい範囲を繰り返すしかありませんからねえ」
「おや、DTさんじゃない。久しぶりねえ」紫がメアと一緒に現れる。手には食事を持っているようだ。
「これから食事ですか。では少し席を外しましょうか?」
「ご主人様の分もありますよ」メアが持っていた篭を少しだけ持ち上げて見せてくる。
「ここに来るのがわかっていましたか?」私はビックリして尋ねた。
「この子はねえ。いつあなたに会ってもいいようにと、あなたの分も余計に作っているのよ」
「それは違いますよ。これは昔からの習慣です。妖精さんの分ですから」メアがちょっとだけ照れながら言った。
「メアさんそれはいつも言っていましたねえ」
「メア。そこは自分をアピールしておくべきじゃないの?」紫が不満そうだ。
「お母様。そもそもそのようなアピールは必要ないのですから」メアが顔を赤らめている。
「あらそうだったの・・・では一緒に食事をしましょうかね」
「ありがたくいただきます」
「こちらに来る予定ではなかったはずよねえ。何かあったのかしら?」
「食事中にする話ではありませんよ」
「そう言わず話しなさい」紫に何でか叱られた。
「厄介ごとが起きそうなのです」
「まあ想定内ねえ。魔法使いの出番はあるのかしら?」紫がそう言って私を見た。
「遺跡の一部を防衛しようと思います。そこには勇者さん達にお願いしようと思っていて、そのフォローをお願いしたいのです。勇者さん達は空中戦が不得意ですから」
「わかったわ」紫は私の言葉を聞いてからパンを口に運んだ。
「私達に用事ではなかったのですか?」
「もしかして、食事を目当てに来たのね」紫がこいつやっぱりという顔をした。
「メアさんの料理は美味しいですからね」
「あなたやるわねえ」紫が笑って言った。
○風説の流布ってなんですか?(誤用)
「パムさん、ブレンダ、お願いがあります」
「なんでしょうか」パムがそう言い、「なんですか?」と呼び捨てにされてご機嫌なブレンダ。
「いつもこんな事にばかり駆り出してすいませんが、風説の流布をお願いします」
「風説の流布?なんですかそれは。ああ、虚偽の噂を流すのですね。どんな噂を流せば良いですか」パムが変な顔で私を見た。
「発見した遺跡を解明して、これを使って新天地に向かうと。すでにファーンとベリアルで実験済みで、エネルギー供給はベリアルの周囲の遺跡を使っていて、そこを破壊するとあの世界への転移は阻止できる。という重大な秘密を流出してください」
「実際にそうなのではありませんか?」パムが首をかしげる。
「違いますよ。小規模実験場の遺跡は必要ないのです。これは反乱軍を呼び寄せるための囮です。さらに各遺跡に反乱軍が集結したら、今度は塔を破壊しなければ意味がないという噂を集まって来た反乱軍に流して、塔に集まってきてもらいます」
「そんな事をバラして大丈夫なのですか」ブレンダが私を疑いの目で見て言った。
「そうなのですが、暗躍する人達にはエサが必要なのです。できればその人達を一網打尽にしたいのですよ」
「餌をぶら下げて集まってくるのを待つと」パムが感心している。
「面白そうね」ブレンダがニヤリと笑った。
「そのとおりです。この噂に乗ってくれるといいのですが」
「ぬし様らしい効率の良い方法ですね。塔を狙われたら危険ではありませんか?」
「壊されたら、使うのをあきらめられますので」
「わかりました」
「楽しみだわ」
「こんな事ばかりさせてすいません。これを最後にしたいです」
「私はかまいませんよ。今回の事は面白そうです。では、盛大に信じ込ませましょう」
パムがブレンダを見て微笑んだ。
「私は何回やってもいいわよ」ブレンダは楽しそうに言った。
「よろしくお願いしますね」
続く
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欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
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小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
魔境暮らしの転生予言者 ~開発に携わったゲーム世界に転生した俺、前世の知識で災いを先読みしていたら「奇跡の予言者」として英雄扱いをうける~
鈴木竜一
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お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
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注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
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前世ポイントッ! ~転生して楽しく異世界生活~
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