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第38話 エクソダス 魔族編

第38-2話 怪物の行進(前編)

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  必殺の技が打つのは、我が身なのかもしれない
○DTは、かくのたまった。
 私はこんな事に関わっていられないと思うのですよ。前回の攻城戦はまあ、趣味もありましたが、今回は、各種族を回るのに忙しいので回避したいところだったのです。

○プロローグ
 テスト起動した事により、どうやら優男君に塔が見つかってしまったようです。全くどこから情報を手にいれているのでしょうか。遺跡が何を目的に作られているのかも知ってしまったようです。
 当然、何か仕掛けてくるつもりでしょう。
「なるほど、どう使うかはまだ決めていないし、起動することだけ確認したという事ですか」
「断片的な情報からの推測ですから、どこまで真実かはわかりませんよ」
「遺跡自体を壊してしまえば、そもそも面倒な事にはなりませんね」
「ああ、そういう考え方もありますね。それがいい」
「では、壊しに行きましょうか。ついでにその周囲の人族も滅ぼしましょう。そうすれば魔族がやったこの作戦で一気に危機感が芽生えて、まずは魔族を滅ぼそうと考えるようになるでしょうね」
「それは実にいい作戦です」

○魔族の蠕動
 魔族だって効果的な人族の殲滅に関心はあった。上級魔族の中には、魔法の研究を熱心に行っている者もいた。その中のひとりは、人造魔獣を作る事に時間をかけ、ついに魔獣同士をかけあわせることに成功した。その魔族の所に優男は現れて色々とアドバイスをしていた。
「こんにちわ」優男ことジャミロがその魔族の所に現れる。
「おや随分と久しぶりですねえ」培養液を覗き込んでいた魔族が優男を見た。
「成果をそろそろ人にぶつけてみませんか?」
「人にぶつけるといっても、試作品しかできていませんし、これを大量生産するか大型化する必要があるのですよ。まだ無理ですね」
 その魔族は、培養液を覗き込みながら言った。そこには、熊の頭をして体中に頭のある異形の生物が沈んでいる。
「そうでしたか。では、この魔法を教えましょう」優男は、魔族の男に魔方陣を見せる。
「これは?巨大化の魔法ですか。こんな素晴らしい魔法が人族では作られていたのですね。さすがに人族は進んでいる」
「あなただって、本来は合成できない魔族同士の合成を可能にしたではありませんか」
「魔族ではなくて魔獣までですよ。まだ意志のある者の合成には至っておりません。でも、この巨大化の魔法でこの合成キメラを大型化すれば、人族の街を蹴散らすのも簡単ですね」
「蹴散らすにあたってお願いがあるのですよ」
「何をして欲しいのですか?」
「人族の魔法使い達が、昔作った物質の転移ができる遺跡を発掘してしまいまして、それを破壊して欲しいのです」
「そんな面白そうな物を壊すのですか?」
「だって、それが起動したら、魔王城に一気に大量の兵士を送り込むことができるのですよ。まずくないですか?」
「確かにそうですねえ。しかし、キメラを大型化させても問題がありますよ」
「何が問題ですか?」
「そのキメラをコントロールできないのです。ですから歩き出したら、ただ真っ直ぐに目の前のものを破壊しながら突き進みます。キメラを操作したり制御できません」
「目標を教えて、そこに歩かせるのはできますか」
「ああ、それくらいはできますが、一度動き出したら誰にも止められなくなりますよ」
「破壊して欲しいのは塔だけなのです。制御するのは無理ですかねえ」
「しばらくはまだ無理ですね」
「そうですか」
 そこで優男は、その魔族の所から消えた。その魔族はしばらく培養液の中を見ていた。
「本当は、設定さえすれば目標までは正確に歩くのですよ。ただ今はまだ使えないことにしておきましょう。それにぶつけるならあの辺境の魔法使いにぶつけるべきですよ。装甲も厚くして、爆弾でも抱えさせてね」
 その魔族は小さく呟いた。
 それでもその魔族は、教えてもらった巨大化の魔法を使って、キメラの大型化には成功した。培養槽の中でキメラが目を閉じている。本当に熊の魔獣の顔、は虫類お顔、獅子の顔、馬の顔など4つの顔とゴリラの体を持つ2本足の怪物ができていた。大型化はしたものの制御ができないため、起動テストも出来ずにそのまま放置されていた。

 しばらくして、魔族領に轟音が響いた。
 震源地であろう研究施設にあの研究者の魔族がいて、呆然と破られた培養槽を見上げている。
「何があった」彼の元に警備の者なのか、研究者の上司なのかが、走り込んできて、その魔族に説明を求めた。
「テストで作った怪物が、動き出して逃げ出しました」
「どういう事だ?」
「辺境の魔法使いにぶつける予定で怪物を製作していましたが、意識がないはずの試験体に意識が宿り、培養槽を破壊して研究施設を脱走しました」
「何だと?何か対策はないのか」
「こうなっては、破壊するしかないと思います。しかし、あの魔法使いを倒すために作ったので、外装は、厚い金属で強化して、さらに防御魔法もかなり強固に仕上げてあります。通常の魔法攻撃や物理攻撃では破壊できないと思います」
「どうやったら止められる?」
「残念ですが、我々には止めようがありません。ルシフェル様にご報告をお願いします。このまま人族の都市を壊滅でもしたら、間違いなく魔族と人族の全面戦争に発展します」
「そんな大げさな事になるのか?」
 呆然とするその上司は、指示も出せないままその場に立ちすくみ、その周辺には、怪物の足音だけが響いている。

○警報発令
 報告を受けたルシフェルは、魔族領内で何とかしようと精鋭軍に魔法攻撃をさせるも、弱点がわかっていながら、魔法の防壁を破壊することすらできなかった。ルシフェルは、魔法使いの里に連絡。怪物の討伐を依頼した。
 魔族領の境界線に監視の兵士を置いていたハイランディスが、魔族領のかなり奥からゆっくりと進んでくる怪物を見つける。森を見下ろすその怪物の姿にハイランディスの国王が魔法使いの里に連絡を入れて、何とか倒して欲しいと言ってきた。そしてその情報は、各国の薬屋の魔法使いの耳にも入った。当然エリスのところにも届いた。
 私とレイ、そしてブレンダが不在の私の家にエリスの式神が飛んできて、家族の朝の団らんを脅かしました。
 テーブルの上に式神が着地して「緊急、緊急」と叫んでいる。モーラがそれに触ったら、メモになった。
「なんじゃと?」モーラはそのメモを読むと、不在の私の席を越えてアンジーに手渡す。
「へえ。魔族領で怪物がねえ」アンジーがメアに見せる。メアは見た後、パムに見せた。
「モーラ様、アンジー様、いかがいたしますか?」パムが二人を見比べながら言った。
「最悪、あやつを呼び戻すことになるじゃろうなあ。不本意であるがな」
「まあ、聞きつけたら勝手に戻ってくるでしょう?」
「今回の件は、魔族側の不手際だと明言しているから、関係者の裏取りは不要じゃな。もっとも、わしとアンジーは事実確認をする必要があるじゃろう。わしはちょっと行ってくるわ」
「私達は待機ですか」パムが動きたくてウズウズしている。
「今回は、かなりのデカさの怪獣らしいからな。わしが相手にする事になるかもしれぬ」
 そう言ってモーラは里に、アンジーはメアと共に町に向かい、アンジーはルシフェルに連絡をしに、メアはエリスのところに向かった。
 アンジーは、ルシフェルから状況を説明されたあと、先に薬屋のエリスのところに到着していたメアと合流する。
「あいつはどうしたの?」エリスは質問した。
「レイと一緒に孤狼族の別な獣人族の所に行って、説明をまだ聞いていなかった獣人達に説明しに行っているわ」
「なるほどね。彼がいない間で申し訳ないけど、念のため今回の依頼の内容を話しておきたいのよ」
「もう依頼する気なのかしら。あなたの様子だと、私達に何か関係する話なのね」
「そうよ。まず最初から話すわね。その怪物はDTを倒すために作られていたそうよ。しかし、制御が出来ないために試作の段階でプロジェクトは止まっていたのよ」
「フーン」
「それが突然動き出したのだそうよ」
「それで?」
「目的地があの塔なのよ」
「あの塔なの?誰があの塔を見つけたのかしら。塔は2回だけしかその姿を現していないのよ?」
「それを私に聞かれてもねえ」
「まあ、誰が魔族にリークして、この騒動を引き起こしたのか心当たりが無いとはいわないけど」
「それにしてもモーラが戻ってこないわねえ」

○ドラゴンの里
 ドラゴンの里の始祖龍様の屋敷に、モーラがお付きの者達の制止を振り切って、始祖龍様のいる奥の部屋に入っていった。
「なんじゃ騒々しい」始祖龍様がモーラの無礼な侵入に露骨に嫌そうに言った。
「魔族領で何か起きているそうじゃないか」モーラはあぐらをかいて座った。
「ああ、ルシフェルに確認したわ。とりあえずちょっと待て」
 始祖龍様は付き人に手招きし、呼び寄せて何か小さい声で話し、その付き人は頷いてどこかへ言った。
「さて、状況を話そうか」
「そんな悠長な事で良いのか?」
「そう言うな。まずこれは魔族側の事故じゃ。魔族にも止められなかったとさ。そして、怪物はゆっくりとおぬし達の町に向かっている」
「何?」
「正確には、おぬしらが見つけた塔じゃよ」始祖龍様がニヤリと笑って言った。
「誰にも見られていないはずだがなあ」モーラがとぼけた顔をした。
「風はその様子を見ていたぞ。最初はすぐに見えなくなったが、次に地上に出てきた時は、結構長い間、塔は立ち上がったままだったし、各地で微動が感じられていたからな。それで気づいた者達も多かろう」
「うむ、それはあるか」モーラはその言葉に考え込む。
「おぬしが来たからちょうど良い。あれはなんじゃ?災害以前に一度見た記憶もあるが、何に使うものかは気にしておらなかったんでな」
「災害前にいた魔法使い達の作った転移装置なんじゃと」モーラは正直に話した。
「その時も魔法使い達はこの世界から逃げるつもりだったのか?」始祖龍様が身を乗り出す。
「いいや、単に災害の時に土地を浮かせて、災害から逃がれるつもりだったらしい」
「今の魔法使いの里みたいに飛ばしてか」
「そうらしい」
「それならば、おぬし達も必要ないのでは無いか?」
「転移先さえちゃんとすれば、あの惑星まで一度に大量に転移できるらしい。その辺の理屈はわしも詳しくは知らん」
「そうだったのか。移転計画に最初からこの遺跡は入っていたのか?」
「いいや、本当に偶然じゃ」
「まあいい。今そちらにゆっくりと進んでいるが、どうするつもりなのか」
「魔族が攻撃しても無理だったのであろう?」
「ああ、次は魔法使いの里が出てくるらしい。しかし成果が出るかどうか怪しいそうだ」
「はあ?怪物という位だから生物なのだろう?」
「何種類もの魔獣を掛け合わせた生き物らしいぞ。おぬしの所の魔法使いにぶつけるつもりだったから、外皮はものすごく硬くして、しかも魔法障壁も分厚くしているそうでなあ。魔族が自分たちでも倒せないと言っている位だから相当なものなのだろうなあ」
「余計なことをしてくれる。わしらの出番になるのか?」
「魔法使いの里は、倒すつもりで攻撃するそうじゃが、ダメだった場合の事も想定して、念のためにおぬしの所の魔法使いに依頼しておくつもりらしいぞ」
「あやつが出てくるのであれば、結局魔族の思うつぼじゃないか。でもあやつを倒すつもりで作ったのならあやつでもダメかもしれないんじゃろう?」
「原初の魔女の話では、あの魔法使いは秘密兵器を持っているそうじゃないか」始祖龍様はニヤリと笑って言った。
「秘密兵器?」モーラが首をかしげる。
「すごい破壊力のある光線を出せるとか言っておったぞ」始祖龍様は興味津々です。
「あれか?あれは、魔獣に襲われた時にあやつが即席で作った物だしなあ。使ってはみたが、当たらなかったから、今使っても当たらんかもしれないものだぞ。そんなものだから、ダメならどうする」
「なんだ。お前やりたいのか、その怪物と」始祖龍様はニヤニヤ笑いながらモーラに聞く。
「あ?ああ、まあやれと言われればやるつもりじゃがなあ」モーラは頭をかく。
「やりたいと顔に出ているぞ。じゃが、進行方向から行くと水の縄張りじゃ。おぬしが暴れるのは感心せんな」
「水なら良いのか」モーラはちょっと文句が言いたそうだ。
「それはそうだろう。進む先には都市やら町やらあるからな。わしらは原則不干渉とはいえ、想定外のことなら何とかしないとならんだろう。ましてや今は、人族に怪我人や死人が出ては、移住に支障がでるのではないか?」
「確かにな。また余計な時間がかかってしまうかもしれないからなあ」
「まあ、おぬしが戦いたいのなら、水に進行方向を曲げてもらって、おぬしの縄張りに入るか、水が対応できなくて、水がおぬしに頼んだら許可してやるわ」始祖龍様は嬉しそうにそう言った。
「水にできなかった事をわしができると思うか?」
「その前におぬしの懐刀が何とかしそうじゃがな」
「確かにあやつはこういう時のために何か考えているとは思うがな」
「では、戻るがいい」
「念のためもう一度聞くが、魔族側の陰謀ではないのだな?」
「くどい!」始祖龍様の機嫌がいきなり悪くなったようだ。
「わかりました。では戻ります」モーラはあぐらのままお辞儀をして、そこから立ち上がる。
「頼んだぞ」始祖龍様の目は真剣だった。
「はい」モーラもその目を見て頷いた。

 モーラは途中でヒメツキに会いに行った。
「ヒメツキ。方向は変えられそうか?」
「多分無理ね。魔法防御の塊だもの」ヒメツキはため息をついた。
「直接手で触れられないのか」
「始祖龍様からは、方向を変えるだけならかまわないが、極力干渉するなとは言われているのよ。倒すなってことでしょう?」
「おいおい。わしへの指示と違うぞ」
「何を言われたの?」
「ヒメツキが方向を変えられたら、わしの縄張りで倒せと、方向を変えられなかったら、ヒメツキの許可が出たら倒してもいいと言われたぞ。もっともDTに先にやらせろと言っていたがな」
「私にはやらせないという事なのかしらね」ヒメツキが考え込む。
「まあ、わしが何かやった方が始祖龍様にとっては、何かと都合がよいのじゃろうな」
「まだ魔族領を出ていないから手は出さないわよ」
「どの辺にいるのだ?」
「ついてきて」
 モーラはヒメツキの後について、魔族領ギリギリまで近づいた。
「確かにデカいな。しかも異形すぎる」
「魔獣のつぎはぎってグロテスクねえ」ヒメツキは汚い物を見るような目をする。
「体には何か巻き付けられているな」
「何かしらねえ。防御魔法のおかげで良く見えないわ」
 そうしてモーラとヒメツキは、そこから移動した。

 そしてエリスの店にいるアンジーとメア
「そうなの。魔族側からも話があったのね。陰謀では無いと。わかったわ」
「それにしても、魔法使いの里が出てくるなら、あいつなんかいらないじゃない」
「私達には怪物との戦闘経験はないわ。そして統率もない」あっけらかんとエリスは言った。
「なるほどね」妙に納得しているアンジー。
「そして、あの魔法使いには、秘密兵器がある」
「はあ?どうしてそんな事を確信持って言えるのよ」
「ビギナギルのレールガンを覚えているかしら」
「あー。でもあれは雨どい使って作った「やっつけ」よ?もうないわよ」
「紫から連絡でね、多分作って持っているはずだと」エリスがそう言って笑った。
「まあ、持っていそうだけど。メア何か知っている?」
「秘密です」
「メア。それはご主人様から秘密にして欲しいと言われたのね」アンジーが意地悪く聞く。
「その通りです」メアは表情を変えずに返事をした。
「それは作って持っていると言っているようなものじゃない」アンジーはあきれている。
「別に知られても良いとは言っていましたから」メアは表情を変えていない。
「わかったわ」
「と言うことなので、あの男には家で待機して欲しいのよ。よろしくね」エリスが今度は真顔で言った。
「報酬は・・・まあ、引っ越しの時にはよろしくね」アンジーは振り返りもせず手を振り返す。
「そうしてちょうだい」エリスも奥に引っ込んだ。
 アンジーはメアと一緒に家に戻った。

 アンジーが家に到着してお茶を飲んでいると、モーラも戻って来た。二人で家族全員に経過を話している。
「出番はありませんか」ユーリがガッカリしている。
「全員で近くまでは行くけど、出番のイメージがないのよ。メアとエルフィ、ブレンダは動いてもらうことになるけどね」アンジーの言葉に3人は頷いた。
「進行方向の周辺の住民の避難をさせなければなりませんね」パムが顎に手を当てて、考えながら言った。
「そうねパム。良いところに気づいたわね。メア、悪いけどエリスのところに行って、どうするのか確認してちょうだい」
「わかりました。すぐ行ってきます」
『何かありましたか?』私がようやっと連絡を入れた。
『確かに説明している時には通信機を切るとは言っていたけど、レイの通信機は入れておいてもよかったんじゃないの?』
『ああ、レイが入れてなかったのですね?』
『とりあえず、説明が終わったなら戻って来て欲しいのよ。緊急事態なの』
『これから質問への回答と現地視察があるのですが』
『遺跡の塔が破壊されて、ファーンやビギナギルが破壊されてもいいなら、そっちを優先しなさい』
『わかりました。すぐ戻ります』
『緊急事態と言ったらすぐ戻る!』
『はい!』
「まったく」
「アンジー様、少し厳しすぎませんか」パムが心配そうに言った。
「私が緊急事態と言ったのをちゃんと真摯に受け止めて欲しかったのよ。私は緊急事態なんて事をいつもは言わないのだから」
「そうですが・・」
「いつも思うのですが、アンジー様はダー様に厳しすぎませんか?」キャロルがちょっとむくれている。
「え?」アンジーがキャロルの言葉に動揺している。
「まあ、そう思わないでもないですね」ブレンダが言った。
「え?私、あいつに厳しいかしら」アンジーがかなり動揺してみんなの顔を見回す。
「厳しいよなあ」とモーラ
「ですです」
「仲が良いとも思いますが」ユーリ
「厳しいかも~」
「私達に対する時とは違って、かなり強い口調ですね」パムがトドメを刺す。
「ただいま帰りました」私は空気を読まずに戻って来ました。
「えっとあの。おかえりなさい」アンジーが気まずそうに言った。
「アンジー?熱でもあるんじゃないですか?大丈夫ですか?」
「先程の会話で、アンジー様がダー様にいつも厳しい言い方をされていると皆様から指摘されていました」
「ああ、気にしてませんよ。だって、アンジーの愛情を感じていますから」
 そこで全員がずっこける。
「わかった、おぬし虐められて喜ぶタイプじゃな」
「そんな事はありませんよ」
「でもヒエラルキーが最下位でも幸せそうですし」ブレンダが言った。
「まあ確かに、昔から下僕体質ではありますから」
「柳に風ですね」ブレンダがため息をついた。
「さて、急いで戻って来ましたが、何かありましたか?アンジー?」
 先程から落ち込んでいるアンジーに声を掛ける。
「おおへこんでおる。実はなあ」モーラが代わりに状況を説明する。
「わかりました。面倒ごとは早めに片付けましょう」
「ただ今戻りました」そこでメアが帰ってくる。レイがメアに駆け寄っている。多分おやつが欲しいのだろう。
「まだ、出動命令が出ていないのよ」
「どうしたのですかアンジー。そんな事では一流の指揮官とは言えないですよ」
 私はそう言って、アンジーの背中を軽く叩く。
「わかったわ。メアどうだったの」深く息を吸ってアンジーが気合いを入れた。
「さすがに魔法使いの里では、人族しか対応しないそうで、それ以外の種族は無理と言われました」
「じゃあ、町に行って避難用物資を用意して行くわよ。馬車は多い方が良いから使える馬車を全部使うわ」
「ラジャー」
 そうして、2両の馬車を用意して、大きい方の後ろに小さい馬車を連結。小さい馬車には秘密兵器を入れて、それ以外は、できるだけ人が乗れるようにスペースを取って、暖房用の毛布を購入して積み込んで出発した。

○現地はどこ?
 とりあえず塔から怪物までモーラに飛んでもらう事にして、モーラの手に乗せてもらう。
「魔族が対あんた用に作り出した兵器だそうよ。ついにあんたも怪物扱いね」アンジーの言葉に元気がない。さっきの事を気にしているらしい。
「アンジー。私が気にしていないのですからしょげちゃダメですよ」
「そうなのだけれどねえ。あんたが隷属主なんだからちょっとは気を遣うべきだったのかもしれないと思ってしまってねえ」
『シャキッとせんか』
『ハイハイ。モーラにまで言われちゃあねえ』
『そろそろ見えるぞ』モーラはヒメツキさんの縄張りも堂々と飛んでいる。
 そして、その巨大な怪物は、森の中をゆっくりと歩いて向かってくる。モーラは進行方向から少し離れてホバリングしている。
「すごくでかいですねえ」
『森の木と比較してみるがいい。全然違うだろう』
『全高30メートルくらいですかねえ』
『各都市の城壁よりかなり高いですよ、あんなのが通っただけで、都市の中の住民は、ひとたまりもありません』ブレンダが言った。
『モーラ戻ってもらっていいですか?直線上にいくつか都市がありました。進行方向を少しでも曲げないとまずいですね』
『下に集落はなさそうじゃな。戻るか』
『お願いします』
 かなり遠くに着陸して、モーラも人間の姿に戻った。そこからでも怪物が見える。かなり大きいのが実感できる。
「ここにいたのね」突然後ろで声がした。紫がそこに立っていた。
「魔法使いの里の攻撃はいつ頃からですか?」
「ドラゴンの里から連絡が来て、今の進攻コースを都市に直撃しないコースに曲げてみると言ってきたので、しばらくは動かないわよ」
「そうでしたか」
「進行方向はほぼ直線で、山があれば山を登り、谷があれば谷を下って、それさえも何の障害とも思わず、目的位置に向かって方向を修正しながら歩いてきています」メアの補助脳が観察結果をメアの代わりに答えている。
 モーラが何を感じたのか上空を見上げてから飛びたってそして消えた。
 しばらくすると羽の音がして、怪物の少し上の空中に人が静止しているのがわかった。どうやら水のドラゴンのヒメツキさんが到着したらしい。
 魔族領の境界を越える前ではあるが、水のドラゴンであるヒメツキは、水の竜巻を作り、怪物を囲んで持ち上げようとするが、持ち上がらない。さらに地面を水で泥にして、足を止めようとするが、足の大きさと歩くスピードに泥の沼を作るのが間に合わない。かなり遠くに沼地を作って足止めをしようとするが、ぬかるみをものともせずに中から這い出てきて止めることはできなかった。さらに水で怪物に直接攻撃を行ってみるが、それも効果がない。
「泥でも足止めができないとはどういう事だ」
「沼とはいっても底はありますから、呼吸ができなくても前に進めるなら、そのまま歩けるのでしょうね」
「持ち上げて少しだけ位置を曲げても、補正して目的地へのルートに戻っています」メアが分析して言った。
「どうあっても無理なのですねえ」
「ヒメツキ様が~諦めたようです」エルフィがそう言った。すると人の姿のままヒメツキさんがこちらに来た。
「これは、あなたにも無理そうよ」ヒメツキさんがモーラに向かって言った。
「土に埋めても這い上がってきそうじゃな」
「パワーが桁外れにあるのよ。泥濘でも重量があるから固い地盤まで到達して歩き続けられている。これはまずいわねえ」ヒメツキがモーラと二人でため息をついた。


Appendix
救援活動で全員出動かけられたけどなあ仕事あまりありそうにないなあ。
出番とはいえ、あまり走ることもないとか、わしらの存在意義はあらへんなあ。
そうやな。どうやってもだんなとあのおんなはんには、かなわんからなあ。
仕方がないやろ。なんやらこの世界自体がヤバいことになっとるらしいし。
それに次の世界にもう少しで送り込まれそうやしなあ。
しばらくは大人しくしてなあかんくなるか。
しかたないなあ。


続く
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木島綾太
ファンタジー
 特に秀でた部分も無く、自らを平凡と自称する高校生──暁黒斗(アカツキ・クロト)は長年遊び続けているMMORPGをプレイしていた。  日課であるクエストをクリアし、早々とゲームからログアウトしようとしていた時、一通のメールが届いている事に気づく。  中身を確認したクロトは不審がり、そのメールを即座に消去した。だがそれには彼の人生を左右する内容が書かれていて……!?  友達とバカやったり、意地張ったり、人助けしたり、天然だったり、アホだったり、鋭かったり。  これだけの個性を持っておいて平凡とか言っちゃう少年が織りなす、選択と覚悟の物語。  異世界に飛び込んだクロトによる、青春コメディ学園ストーリーが始まる! 注意! ・度々、加筆・修正を行っていたり、タイトルが変わる可能性があります。 ・基本的に登場人物全員が主人公だと思っていますので視点がコロコロ変わります。なるべく分かりやすく書いていくのでご了承ください。 ・小説家になろう様、ハーメルン様、カクヨム様で同作者、同名作品で投稿しております。

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