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第37話 エクソダス 各種族編

第37-3話 スペイパルの遺跡

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○スペイパルの遺跡
 各種族への1回目の説明が終了して、次回の説明の日程回数などを調整してもらうために、しばらく間を開けていた時の事だった。
「ご主人様、お忙しいところ申し訳ありません。相談がございます」
 メアが夕食後のお茶の際に言いました。
「なんでしょうか」
 私はお茶に添えてあるクッキーを頬張って言った。
「町長様から伝言で、スペイパルの第2王子様からお願いしたいことがあるとのことです」
 メアが話した内容に、私は、クッキーをかみ砕いてしまった。
「そうでしたか。町長を通してとはかなりの問題なのでしょうかね」
 というか、私の生存が確認された途端、依頼してくるとか。それはどうなのでしょうかねえ。
「私達への連絡は、町長への言付けかエリス様を通すしかありませんから」
「私に依頼するような問題など、あの国にあるのですかねえ」私はお茶を飲みながらそう言った。
「遺跡が出たそうです」メアの言葉にブレンダを除いた全員が動きを止める。
 ブレンダだけが全員の動きに驚いて左右を見渡した。
「なるほど。今まで遺跡を探していた様子もなかったのに、なぜ急に遺跡を発見したのですかねえ」
「ご主人様があの辺を探索なさっていたのが気になってあちこち見て回ったようですね」メアがそう言った。
 メアさん。どうしてそんなに詳しいのでしょうか?
「あなたのお父上を助けた時についでに立ち寄って、魔鉱石の鉱床を探していた時に出会ったのですから、かなり前なのですよ」私はそう言ってあの時の事を思い出す。
 あの国に魔鉱石の鉱床が見つかったおかげで、今回の移転に必要な魔鉱石をある程度確保できたのです。超ラッキーでしたね。もっともその時は、自分の魔鉱石が欲しかっただけなのですが。 
「毎日探索をしていた訳ではないそうですが、たまに探させていて見つかったようです」
 だからメアさん。どうしてそんなに経過を知っているのでしょうかねえ。
「あの遺跡はたまに異空間につながりますから、非常に危険なのですよ。前回のエーネのようにならなければ良いのですが」
 私は、エーネを見ながら言った。
「あの時はエーネが敵の目を見て感情を読み取ろうとしたからだしなあ」
 モーラもエーネを見て言った。全員の目がエーネに集まる。
「あれからは、そうしないように訓練しました。今は大丈夫です」
 エーネは恥ずかしそうに下を向いている。
「残念ながら違う事態のようです。人が・・・・」メアが言いかけた。
「人が殺されているのですか?」キャロルがそう言った。
「遺跡の中にいる時に、目の前で人が消えるのだそうです」
 メアさんどうしてそんなに詳しいのですか?あれ?手紙か何か後ろに隠していませんか?
「さてメアさん。それ以外に何かありますか?」
「調査団の一員として参加して欲しいとの事です」
「そうでしたか」私はちょっとだけ興味を引かれています。
 この世界を離れる事になった時に、いくつか気になることがあるのです。ひとつは遺跡を起動してみたいのと、もうひとつが、例の壁の中を調べたいと思っていたのです。なので今回、遺跡を調査するのは願ったり叶ったりなのですが、時間があまりありませんね。
「あんた忙しいのよねえ」アンジーが私の顔を見て、強い口調で釘を刺しました。
「スペイパルの騒動の時に、この方に大変にお世話になっているのですよねえアンジー」
 私は自分が行きたいので、理由付けに必死です。
「はあ。確かに私が断れる話ではないわねえ」アンジーがため息をつきました。まあ、正しい反応ですね。
「行きましょう。せっかく助けたスペイパルの国民が行方不明なら真相を解明する必要があります」
 私は胸の前で拳を握りしめて、決意を込めた目でそう言いました。しかし、皆さんは私の言葉よりも感情の方を読んで、私のワクワクをしっかりと感じています。ええ、バレバレですね。
「まあおぬしならそう言うだろうなあ。なにやらワクワクしているようだし」モーラもあきれている。
「そうねえ」アンジーはすでに勝手にすれば~という感じですね。
「いつもこうなのですか?」ブレンダがみんなを見て言った。
「そうですね~」エルフィは嬉しそうだ
「あるじ様ならそうです」ユーリは頷き、
「やはりですか」エーネは大丈夫か不安顔で、
「そうなるのですね」キャロルも心配そうだ。
「どこか行くのですね」レイは話を聞いていません。
「では事前調査に先に出ます」パムは乗り気だ。
「パムさん。ブレンダが来てから全員で旅をしていないのですよ。またみんなで一緒に行きませんか?」
「え?」
「前回も全員で旅をしましたし、せっかくですからまた皆さん一緒に旅をしましょう」
「わ~い」全員が拍手しています。ブレンダは困惑している。パムはえーっという顔をしています。
「良いのですか?行方不明者となれば急いだほうが」パムがあんたいい加減にしなさいと言う顔で私を見ています。
「確かにそうですが、こちらが一瞬で到着するのもまずいでしょう?」
 まだ、人族には勇者を除いて披露していませんので、知られるとまずいと思いますが、あの王子はすでに見ていましたねえ。
「そういえばあそこには魔法使いがおったろう。連絡して、緊急性があるかどうか確認してもらえば良いじゃないか」
「大丈夫なのでしょうか」パムは不安そうだ。
「明日町長に話しに行くついでに、皆さんに関係者の裏取りもしてもらいましょうか」
 私は全員の顔見た。ブレンダが裏取り?という顔をしていたので、パムから説明されていました。
「まだ必要なのか?」モーラが面倒そうな顔をしています。
「私の事を様子見している状態が続いていますから。変な連中が聞きつけて何かしてこないとは限りません」
「なるほどな」
「私の方でも当たってみます」パムもあきらめたようです。
「私も~エルフは噂好きですからね~」エルフィが言った。
「僕も最近流通の護衛でみんな頑張っていますので、何か聞けるかもしれません」レイ
「そうですね縄張りの護衛の人たちがいますので動向を聞いてみます」エーネ
「皆さん色々頑張っているんですねえ」
「そういえば、長命人族さん達には、公書整理と書類保管を請け負ってもらっていますよ」メアが言った。
「なるほど。確かに保管は長生きの方が良いですね。ああ、それぞれ役割ができたのですね。よかったですねえ」
 私は、ちょっとだけ嬉しかった。
「あんたの一言でね」アンジーが冷たい目で私を見ています。
「私ですか?」
「自覚なしですか」メアがため息をつく
「まあよい。明日からは忙しくなりそうだから早めに寝るぞ」
「え~カードゲームは~」
 エルフィは最近始めたカードゲームがお気に入りで、家の中でちょっとブームになっていました。
「風呂上がりに1時間だけな」
「ズルしないでくださいね」キャロルがモーラを見て言いました。
「そうなのよ。負けそうになるとズルをするからねえモーラは」アンジーが同意した。
「たかがカードゲームなのですから負けてもいいじゃないですか。ドラゴン同士の戦いは適当に逃げていたのでしょう?」
 私もツッコミを入れる。
「それはまあそうだったがなあ。家での勝負は割と本気になるなあ」モーラが頭をかく。
「楽しいからですよ」ブレンダがそこで嬉しそうに言った。
「ああそうなのか」
「皆さん食器を片付けてください。お風呂ですよ」
「は~い」心が揃っていますねえ。お風呂の時だけは。
 そして入浴タイム。ブレンダが来た時に部屋数を増やすために家の拡張をしたのですが、拡張の最大の理由が浴槽を広げる事でした。
 ですが、キャロルとエーネは端の方に、ブレンダの両脇に恥ずかしそうに入っている。
「相変わらず慣れぬか」
「やっぱりおかしいですよ」キャロルは、肩の所にタオルを置いて、胸が隠れるようにしている。
 タオルを湯船に入れるのはマナー違反ですからね。まあ、その位置に置くのはしょうがないですが。
「ならば独りで入るか?」いじわるそうにモーラが言う。
「いや、それもちょっと寂しいです」キャロルは複雑な顔をしている。
「その感覚が正常なのですよ」私はさすがにそう思い、上を見上げた。
「おやエーネがなにやらもぞもぞしているが、あやつの心を覗いたな?」
「リンクしやすいのです。なのでディー様のその・・・」
「こいつもやっと正常な男性に戻ったからねえ」アンジーがニヤついている。
「だからえい」私は、目をつぶって思考を遮断する。
「今度はなんじゃ。ああ鎮静音楽か?いや呪文か何かか?なんの数字の羅列じゃ」
「ああ円周率ねえ。どこまで言えるのかしら。あら今度はモールス信号?やるわねえ」
「そんなことをしていたら頭が休まりませんよ~」
 エルフィが私を後ろから抱きしめて、自分のところに引き寄せる。当然体は浮き上がろうとします。
「だからエルフィ。背中に胸をつけて私を・・・」言いかけたところで、レイがとおりかかる。
「カプ」レイは、目の前に浮かんできた私が腰に巻いているタオルを噛んだ。
「う」私はちょっとだけ悶絶する。
「レイそれはダメだって!」ユーリが赤い顔をしながらもレイを持ち上げる。
「あ、泳いでいたら浮かんできたのでつい」レイがまずいものを噛んだような顔をした。
「前回は私のしっぽを舐めていましたよね」エーネがレイを恨めしげに見て言った。
「飴かなと思ったのです」レイは悪びれることもなくそう言った。
「いつでもおなかが空いておるな」
「そうなのですよ」
「あ、ダー様が沈んでいきます」
「旦那様ぁ~~~」

 そして翌朝です
「さて、みんな行こうか」
「はい」
 私は股間をおさえながら町に向かいます。回復魔法で傷はありませんが、何か違和感があります。
 モーラは里へ、パム、エルフィ、レイはそれぞれの種族の住むエリアに向かいました。エーネはブレンダと一緒にちょっと遠くの魔族の里に飛びました。ユーリとキャロルは傭兵団のある冒険者組合へ向かい、アンジーも連絡員のいる孤児院に、メアもエリスさんの所へ、残った私だけが町長のところに行きます。
「すまんなあ」
 町長は私を応接セットに座るよう促して自分も応接セットに座る。そしてテーブルに書状を置いた。
「まずは読んでくれないか」
「はい」私はそれを読んでいる。
「行方不明になって、1週間後に疲労している状態で戻ってくると。その間の記憶もないのですか・・・」
 私は読みながらついつい口に出してしまった。
「DTよ。どうするのじゃ?」町長は不安げだ。
「町長。とりあえず緊急の問題はなさそうですが、以前ファーンに見つかった遺跡との関連もあります。スペイパルの遺跡を調べて、結果を明らかにしないと、こちらの遺跡が連動して変な動きをしないとも限りません。それでは皆さんが不安で暮らせませんよね」
「じゃが、他国の話まで関わらんでも良いのじゃぞ」
「いや、書状を渡しておいてそれはないでしょう」私は町長に、何を言っているんだという顔をした。
「国の公式の書状じゃ。渡さなかったらわしが問題になる。じゃが断ることもできるぞ」
「町長。とりあえず調査が必要だとは思いますので一度行ってきます」
「そうか。それならよろしく頼む」町長は説得をあきらめたようです。
「それでは、行く準備をしますので」
「いつも面倒ごとに巻き込んですまんなあ」
「そんな事はありませんよ。では」
 私は一礼してから町長のところを出て家に戻った。
『里はシロじゃ』とはモーラ
『魔族も表面上、動きはないわね』とアンジー
『魔法使いの里も動きはないみたいです。スペイパルの魔法使いには連絡をしてもらいましたが、今回の件は何も知らないそうです』とメア
『遺跡の話は色々なところで聞きますよ~でも誰も入れていないみたいです~』とエルフィ
『はい冒険者たちも遺跡の中に入れずに諦めているみたいです』とユーリ
『魔族領の中にはさすがにないみたいです』とエーネ
『うちの里周辺にはないみたいです』とパム
『以前の遺跡の騒動と同じと考えていいのでしょうかねえ』
 私は結果を聞いて少しだけ考えています。
「メアの父親が何か解明していないのか」モーラが戻って来て部屋に入ってくる。
「そうでした。あれから何か進展していないか聞きましょうか」
「あんたどうしたのよ。さっきまであんなにワクワクしていたじゃない」アンジーも部屋に入ってきた。
「皆さんと旅行はしたいのですが、どうもその遺跡は、人が消えて戻って来てその間の記憶がないらしいので、遺跡には興味がありますが、皆さんに危険が及ぶのでは無いかと考えてしまって」
「相変わらず家族には心配性が発動するのう。それにしてもおぬしにしては珍しいな。ああ。大事な仕事がある時には些末な事に気を使いたくないタイプだったな」
「それもありますけどね。私が動くと私に感心が向くじゃないですか。なので、遺跡の調査ではなく、表向きの用事を考えないとダメなのではと思ったのですよ。もちろん今回は息抜きを兼ねて行きますけどね」
「セリカリナに寄ってアスターテに会えればちょうど良いではないか」
「ああそうですね。メアさんとブレンダの里帰りを名目にさせてもらいましょう。メアさんよろしいですか?」
 いつの間にか後ろに立っていたメアに尋ねる。
「願ったりかなったりです」
「それと、族長会議向けには、スペイパルの地盤の状況を見に行くついでという事ではだめですかねえ」
「ああその辺で手を打たんとなあ」

○そうしてセリカリナに行く
 道中はとても楽しい旅でした。今回は、ヨルドムンド国の首都を通って、カロリンターを抜けてセリカリナに向かいました。
「こうして皆さんと旅をするのは良いですね。途中の野営で入った露天風呂の開放感も良いです。はまりそうです」
 ブレンダが露天風呂に入りながら夜空を眺めながら嬉しそうに言った。
「本当になあ。こやつの作る岩風呂もまたいいのう」
 モーラは、そう言いながら、後頭部を岩に乗せて湯船に浮かんでいる。子ども体型とはいえ、はしたないです。
「誰かに見られていそうで恥ずかしいです」エーネがキョロキョロしながら言った。
「確かにね、エーネの言うとおりかもしれないわ。でもこの開放感がいいですねえ」キャロルが満足げに言った。
「エルフィどうなの?周囲に誰かいるのかしら」アンジーが珍しく聞いた。
「いたら~私の弓が~黙っていませんよ~」こちらもふたつの丘が水面から浮き上がっています。はしたない!
「モーラ様これをどうぞ」パムが小瓶とお椀を差し出した。
「これは果実酒ではないか」モーラがお椀に注がれた液体の匂いを嗅いで、嬉しそうに言った。
「はい。ベリアルの裏手の森の中に棚を作って、果実を育ててみました。でも一口だけですよ」
 パムがわざわざ馬車にコッソリ積んで持って来たようだ。
「なるほどな。こうして風呂に入りながら星を眺めて酒を飲む。良い気分じゃ」
「エルフィもどうですか?」
「え~飲んじゃっていいの~」
「ああ、レーダーが効果を失うか。もうその辺には誰もおらんのであろう?大丈夫じゃ」
「じゃあいただきます~」
「ブレンダはどうじゃ?」
「じゃあ私もいただきます」すかさず手を出すブレンダ。
「メアー」
「もちろんいただきます」
「アンジー」
「しょうがないわねえ」
「他の者達はまだだめか?」モーラの言葉に
「私はほんの一口だけ」キャロルが最初に言った。
「私も」ユーリが
「僕も」レイが
「ですです」エーネも手を上げる。
「ああ、一瓶では足りませんでしたねえ」パムが自分のお椀に入れるとちょうど無くなった。
「それは帰ってからの楽しみにしようかのう」
「はい」
 そうして、野中の露天風呂での星見酒は軽く済ませた・・・はずだった。
 翌日の朝
「やられた。前のわしの酒の時と同じじゃないか」モーラが頭を抱えている。
「しかもたった一口ですよ?」パムが頭を抱えている。
「パムあまり大きな声をださないで。メア。どうして教えてくれなかったのかしら」アンジーが恨めしげにメアを見て言った。
「私は補助脳ではありませんので計測しませんでした。すいません」メアも頭を抱えている。
「あの時は補助脳だったものねえ」
「無事なのはハズ様だけですか」ブレンダもこめかみに手を当てている。
「代謝を上げれば直るのではなかったのですか?」
 私は全員を見ながらため息をついて、寝具を馬車に積んでいきます。今朝は食事は無理そうですね。
「それで済む人はいいのですが、それ以外の人はまずいのよ」
「体調が戻るまでは私が御者台で頑張りますからね」
「お願い。静かに走って」
「ハイハイ」
 それから荒ぶる馬たちを説得してゆっくり走って、ようやくセリカリナに到着する。紫さんとエルミラさんにお会いして、いまだ地下室に籠もっているアスターテさんの所に向かう。
「こんにちはアスターテさん」
「ああ、DTさんじゃないですか。何か必要なものができましたか?」
 彼は、棚にぶら下がっている蝙蝠に何かを結びつけている。
「もしかして、リッチーさんとはそうやって連絡を?」
「あの方はすごいですよ。蝙蝠を使って連絡文書を交換しています。おかげで非常に助かっています。本当はこちらに来ていただけると良いのですが」
「やはり来てもらえませんか」
「居心地が良いみたいです。それで、また何か問題でも?」
「新たな遺跡が見つかりまして、お願いしたいことがあります」
「古代語の解析ですか?」
「はい。どこまで進んでいますでしょうか。別件を急がせておいてあれもこれもと申し訳ありません。それと遺跡に一緒に来ていただきたいのですが」
「新たな遺跡なのですね?」
「スペイパルにあるそうです。しかし、人が吸い込まれて1週間後に吐き出されて、記憶は消され、何をしていたか覚えていない。そして体力はかなり消耗しているという事が起きているそうです」
「それはたぶん身体エネルギーの吸収ですね」アスターテさんはさらりと言った。
「魔力ではなく?」
「そうです。身体エネルギーの魔素変換ですね。その遺跡は起動しようとしているのかもしれません」
「今更ですか?」
「あなたが考えている事と近い事を遺跡自体が行おうと準備しているのでしょうね」
「私が考えている事ですか?」
「転移することですよ。もっともこの世界の中でですが、それほど大規模ではありませんが、準備に入ろうとしているのだと思います」
「以前の魔法使い達は、実験しようとしていたと?」
「実験をしようとしている時に、天変地異が起きる事がわかって、自分たちは土地を空中に浮かべて災害から逃れようとしていたみたいです。今の魔法使いの里や天界のように地面を浮かせようとしたみたいですね」
「ああなるほど。でも・・」
「ええ。実験は失敗したのです。そしてほぼ全滅したようです。ただ大規模な実験場ではなく小規模な実験場を作動させてそこで失敗しています」
「それはどこなのですか」
「地図に現在の地形を合わせてみるとファーンのあたりの遺跡群がそうらしいです」
「あそこは実験場の跡地なのですね」
「実験場を監視する塔があるはずで、その塔から小規模実験場と大規模実験場の両方を見渡せるようになっていて、その塔はファーンとベリアルとビギナギルの中間にあるはずです」
「なるほど。実験の失敗の原因は何なのでしょうか?」
「魔力不足でしょう。そもそも持ち上げるだけなら今でも十分可能です。多分転移の実験をしようとしたのではありませんか」
「転移と言ってもどこからどこまで?」
「多分小規模実験場から大規模実験場へと」
「原因はわかりますか?」
「残念ながら。もしかしたらそれが原因で災害が起きたかもしれません。さらに遺跡の安全装置が働いて制御系の遺跡は自動的に地中に退避したようです。今の遺跡の状態から推察したので、全て仮定の話ですけれどね」
「その資料はファーンのそばの遺跡で見つかったのですか?」
「いいえ。長命人族のところの遺跡にあった資料を分析して、偶然侵入できたのです」
「他の遺跡にも入れますか?」
「同じ構造なら多分入れると思います」
「まだ入っていないのですか?」
「前回は紫と一緒に行きましたが、一人ではさすがに行く気にはなりません。トラップもありそうですしね。スペイパルには同行しますよ、面白そうですしね」
「わかりました。一緒に来てください」
 そうして、山を越えてスペイパル王国に向かう。馬車は2両、紫の乗った馬車も一緒に行く事になった。
「たまにこの人を引っ張り出さないとねえ。お腹の出具合が気になるのよ」
「うちのご主人様は、痩せ気味ですので食べて欲しいのですが」
 アスターテ一家の馬車にはエルミラも乗っていて、4人で馬車の旅を満喫していたようだ。 

○スペイパル
 スペイパルに到着する。どこから聞きつけたのか、城塞都市の入り口で王子は待っていた。
「お久しぶりです魔法使い様。それに皆様。わざわざお越しいただきありがとうございます」
「さっそくですいませんが、その遺跡はどこにありますか?」
「スペイパルの西、ヨルドムンドとのちょうど中間あたりになります。封印はしてありますが、冒険者たちが噂を聞いて入り込もうとしています。危険だと言っているのですが」
「被害が出た時の経過を知りたいのですが」
「調査にあたって事前に私も遺跡の入り口に入りました。最奥の部屋にたどり着いたところで周囲の壁に光が点滅して、危ないからと通路に避難しようとした時に、逃げ遅れて再奥の部屋の中にいた数人の者がその場で消えました。数日は監視体制を取って交代で見に来ていたのですが変化もなく、1週間後に見に来ると消えた人たちが倒れていました」
「奥の部屋で何かしたのですか?」
「解らないのです。何をしたのかさえ覚えていないそうです」
「その人達には会えますか?」
「かまいません。ここにはいませんので、明日にでも呼びましょう」
「その遺跡の入り口に野宿するつもりですので、そこに連れてきてください。ああ、遺跡の前で野宿は可能ですかねえ」
「宿に泊まらず野宿ですか?」王子が驚いている。
「はい。色々と調べますので。かまいませんか?」
「ええ良いですけど。一緒にいても良いですか?」
「かまいません」
「では、私は部下に連絡をして、後から来てもらうことにします」
「すいませんが、場所まで案内してください」
「はい」
 王子を乗せて私の馬車とセリカリナからの馬車の2両が現地に向かった。
「モーラお願いします」
「では行ってくる」
「よろしくお願いします」私が言うとモーラはスッと飛び上がったあと消えた。

 モーラは空中に静止して、周囲を見回す。
「よう、久しぶり」草木のドラゴンがすでに待っていた。
「ああおったか。すまぬなあ騒がせて」
「この辺で人が騒いでいて、しばらくしてお前が来るのがわかったから、何があるのか興味があったんだ。何が起きている?」
「草木の。おぬしは遺跡について何か知っておらぬか?」
 モーラはそう言って、これまでの遺跡に関する情報を話した。
「そういえば災害が起きた時、今馬車が止まっているあたりに何かあったのは覚えているけどなあ。何が起きたのかは知らないな」
「色々と問題のありそうな遺跡らしいのだ」
「その時は、魔力が膨大になった後、急に光らなくなって土の中に消えてしまったからな」
「なるほどな。すまんがしばらく調査のためここにおる。勘弁してくれ」
「構わない。この件は里に話しても問題ないのか?」
「ああ、里には話してあるから、聞かれたら答えてくれ」
「わかった」
 そうしてモーラは、草木のドラゴンと別れた。

「ここは多分キーになる遺跡ですね。ラッキーでした、中に入って、資料を手に入れましょう」
 中に入って、アスターテさんは先頭に立ってガンガン中に入って行く。
「そうなるとやはり塔を見つけないとなりませんね」
 私はアスターテさんの横を歩きながら言った。
「使うつもりなのですか?事故が起きていたなら使えないかもしれませんよ」
 アスターテさんは横目で私を見て言った。
「リッチーさんに聞けませんかねえ」
「その辺の事をあまり話してくれませんからね」
「そうなのですよ。遺跡に触るなとまで言われていましたからね」
 そうして、大光量ランタンで照らしながら進むと、正面に大きな空間が現れました。
「お二人ともそこで止まってください」後ろからヤクドネル王子の声が響いた。
 私は大光量ランタンを手前の通路の上に取り付けて、作戦会議をする。
「さて、侵入にあたって段取りをつけておきましょうか」
「ブレンダさんこれを」
 言われたブレンダは横を向いた。
「あ・・・ブレンダこれを」
「はい」今度は微笑んで私からマーカーを受け取る。
「だいぶ面倒な女になっていないか?」モーラがアンジーに顔を近づけてヒソヒソと話した。
「確かにそうね」
「あるじ様が照れています。これはまずいのでは」ユーリはキャロルとエーネに近づいて小声で言った。
「アドバンテージの取り方が大人ですです」エーネが感心している。
「さすが私たちの師匠です」キャロルが頷いています。
「ごほん」ブレンダが3人をちょっと冷たい目で見ていました。
「今回ここにくるまでに色々考えましたが、転送された時につながっていると大丈夫なのか、それとも魔力を持った者が入った場合にはどうなるのか試す必要があると思います」
 私の言葉にアスターテさんだけが頷いています。
「出たな研究バカ」
「相変わらずウキウキねえ」
「研究者としては当然ではありませんか?」ブレンダが当然のことのように言った。
「ユーリを光らせるくらいにはマッドなんじゃがなあ」
「確かにそれは言えます」
「ユーリさん光ったのですか。どんなふうに?見たい!見たいです」
 エーネが目を輝かせてユーリを見ていますが、ユーリはちょっと嫌そうです。
「だったら今度はエーネが光らせてもらいなさい」キャロルが怒って言った。
「それは恐いです」
「光属性だったら、エーネが消えてしまうかもしれませんね」
「それはダメです。あきらめます」
「ごほん。話が進みませんね」全員がシュンとする。
「という事で、中に入るのは、私とユーリ、パムさん、レイとします」
「おぬしも危ないのではないか?」
「被験者だけを向かわせるわけには行きません。どこに飛ばされるかわからないのですから」
「魔法使いが入れば正常に起動するのではないのかしら」
 アンジーが前回の話を思い出している。
「確認してからです」
「慎重ですね」ブレンダが言った。
「その割に家族は巻き込むのよねえ」
「最初に私が入って、その後にパム、レイ、ユーリの順に入ります」
「納得したわ」アンジーが言った。
「いけません。それなら私でも問題ないはずですが」ブレンダがそこで手を上げる。
「解析能力は私の方が上です」
「しかし」
「家族を危険にさらすわけにはいきません」
「相変わらず言っている事とやっている事に整合性がないわね」
「何か予測しているな」
「そんな感じよねえ」
「ではお先に」
 私は中に入った。しかしヤクドネルさんの話では、何かが点滅するらしいですが、それもありません。
「何も起きない?」アスターテさんが首をかしげる。
「まだわかりませんよ。おお、光がつきましたね」
「魔法使いは別か」
「では、パムさんお手を」
「はい」パムが私の手を取って中に入る。すると何か音がして、私とパムが飛ばされそうになる。
「おや、やはり飛ばされますか。手を握っていてくださいね」
「はい」
 そして私とパムさんはどこかに消えた。
「どこに飛んだのじゃ」
「知覚エリアにはいませんね」ブレンダが目を閉じて言った。
「エルフィどうじゃ」
「洞窟の中だし無理かも~」エルフィが両耳に手を当てて目をつぶっているがダメだったようだ。
「オロオロしないだけましになったわね」アンジーが言った。
「でも、ちょっと不安~」
「あ、戻ってきた」
「どこにおった?」
「わかりません。パムの様子がおかしかったので、マーカーだけ置いてすぐ戻ってきました」
「眠らされていますねえ」紫がパムの様子を見ている。
「マインドガード」アンジーが声を発した。
「あ、目が覚めた」エーネがビックリしている。
「私は・・・はっ。ここは。ああ戻ってきたのですか」パムが寝そべった状態で目を覚まして、周囲を見る。
「再び飛ばそうとはしないようですねえ」
「パムよ魔力量は減っている感じはあるか?」
「わかりません」
「ここは魔力の収穫装置ですね。罠とも言いますが」アスターテさんがさらりと言った。
「魔法使いが無事なのはなぜじゃ」
「魔力量の低い者はエサだというくらいに考えているのではありませんか?」今度は私が言った。
「魔法使いは優先か?選民思想か」モーラが嫌そうな顔をしている。
「そこまでは言いませんけどね。 アスターテさんどうですか?」
「今回消えた人達は、ここの遺跡の魔力が充填されたので、違う遺跡の魔力を充填するために送り込まれているみたいですねえ」
「転移してそこで魔力を吸収して戻すと」
「空間的にはつながっているけど、物理的にはつながっていないというところかなあ」
 顎に手を当ててアスターテさんは、首をかしげる。
「私が一度そこに行きますので、誰か探知してもらえますか?」
「遺跡の中から出られますか?」
「暗かったので中は見ずに戻ってきました」
「ここは大規模転送装置の一部で、制御はここではしませんね。この施設は魔力を充填して放出するためだけの装置ですねえ」中に入ったアスターテさんが周囲を見ながらそう言った。
「そこまでわかるものですか」
「あくまで推測ですが、装置の調整をした後にここから離れないとまずいのですよ。転移に巻き込まれる可能性が少しだけあります」
「巻き込まれる?」
「制御側で制御しきれず暴走した場合にはなりそうですね」
「ずいぶん機械に造詣がありますね」私はビックリしてつい聞いてしまった。
「私、出身が量子力学なのですよ」アスターテさんがさらりと言った。
「ええ?今は生物学ですよねえ」
「粒子加速器に頭を入れて無事だった人に遺伝子の変容があったという話を聞いて、遺伝子に興味が出てしまってここにいますからねえ。あははは」アスターテさんは笑いながら頭をかいて言った。
「まったく畑違いな気がしますが」
「遺伝子と原子は似ていますよ」アスターテさんが私に笑いながら文句を言いました。
「ああなんかわかりました」
 それからしばらくアスターテさんは中の様子を見て、メアに指示をしていた。作業が終了したようで、アスターテさんが私の所に戻ってくる。
「つまりここもいじる必要はなく洞窟を封印した方がいいという事ですね」
「そうです。魔力を吸われるだけですので、違う場所の魔力の充填が終わればいつかは止まると思いますよ」
「個々の遺跡は充填済みなのですね」
「はい。転移先はこれから探すのでしょう?」
「遺跡に置いてきたマーカーの位置をたどれれば、大丈夫ですね」
「それまでの間にこの装置の状態を見ますね」
「調整できそうですか?」
「いや、暴走させないようにします。爆発したらどうなるかわかりませんから」
「では、一度行ってきます」
「私も行っていいかしら。少し古代語覚えたから」アンジーが言った。
「じゃあお願いします」
「ここに空間転移用の穴を作っておきますから、私があちらからここにつなげます」
「待っているわ」
 私はそこで消えた。
「そういえば、彼は転移魔法の使い手ではなくて、空間を捻じ曲げる魔法使いだったわねえ」紫が思い出したようにそう呟く。
「そうじゃったな。わしらも忘れていたわ」
「あいつ、ほとんど使わないからねえ」アンジーがそう呟く。
「私も初めて聞いた気がしますが。重力魔法使いではなかったのですね」ブレンダが驚いている。
「それは二次副産物だったそうよ。メインで使っているけどね」アンジーが言った。
「開けましたよ」私は開いた空間から顔を出す。
 アンジーとアスターテさん、そして紫が中に入った。
「私もそちらに行きますね」ブレンダも中に入る。元の部屋にはメアしか残っていない。他は廊下で待機している。
 4人が入った部屋にランタンが灯り、中の様子が見える。
「ここが制御室のような気がします。装置の種類が違いますから」
 アスターテさんが自分の持っているランタンで照らしながら壁の制御盤を見ている。
「ここが本命ですか」
「たぶんそうです。起動すれば塔になるはずですよ」
「メアさん来られますか」
「部屋に誰もいなくなっても大丈夫ですか?」
「パムさんがいるなら、邪魔が入ったら連絡してくれるでしょう」
「わかりました」
 メアが中に入ってきた。
「この場所の位置がどこか判りますか」
「地磁気が強くて判りませんね。ここはかなりの地下なのではないでしょうか」
「地中なのですか。困りましたねえ」
「なあ、制御装置の壁に空間魔法で穴をあけたら外に出られないか」モーラが言った。
「壁の厚さもわかりませんから、土しか見えませんよ。それにうかつに穴をあけたら装置を壊しそうですし」
「だめか。なら、わしが一度スペイパルの方で外に出る。そして揺らせ、かなりの範囲なら感知できるぞ」
「それは無理ですね。埋設した時にかなり耐震には気を使っているみたいです。それに揺らすとまずいですよ。塔への危機を察して何か起こるかもしれません。もしかして塔が起動するかもしれませんが」
 アスターテさんが言った。
「今はまだ起動したくないですしねえ。見つかると色々なところから標的にされますから」
「では、しばらく置いておくのですね」紫が言った。
「探す必要はあるのだろう?」
「モーラ。話によると塔はファーンのそばにあるそうです。戻って探しましょう」
「仕方がないか」
 そうして全員で元の場所に戻ってくる。
「空間をつなげる時にはどうして円形なのかしらねえ」
 紫とブレンダとアンジーは、私が作った空間を繋いだ楕円形の接合部を見ている。
「そこにはもう魔法はありませんよ」
「あら、私も覚えようと思ったのに、残念だわ」紫の言葉にブレンダが頷く。さすが魔法使いさん達です。
 もっとも私も人の事は言えませんがね。
 そして、大体の調査を終えて、私達は遺跡の洞窟を戻っている。
「何か判りましたか」ヤクドネル王子が私に聞いてきた。
「ここは洞窟を土の壁でふさぎます」
「どうやらこの遺跡は各地にあって、魔力を吸う機能を持たせているみたいです。満タンになると停止するとは思いますが、このままにはしておけませんので封をします。よろしいですか」
「調査に入ると魔力を吸われると」
「一定以上の魔力を持つ魔法使いを除いてですがね」
「そうなのですか」
「なので、そのままにすれば一般の人が迷惑をこうむりますね」
「それでは仕方がありませんね」
「余計な人が入り込まぬようにした方が国のためとは思います」
「わかりました。国に何かメリットがあればと思いましたが、むしろ市民に迷惑をかけるのであれば封をしましょう」
「必要になったら封は解けるようにしておきますし、誰かが解いたらあなたに知らせるようにしますので、安心してください」
「わかりました」
 そうしてヤクドネル王子は、追い付いてきた部下の馬車に乗って戻って行った。

 私達は、遺跡の洞窟の封印を前に少し話をする。
「以前話した時に位置がある程度確認できると言っていましたが」
「ここの場所がわかったので、推計は出来ますよ」アスターテさんがそう言ってメアを見た。
「では、帰りは情緒はありませんが、スペイパルから少し離れたら飛びますよ」
「さすがにセリカリナまでは馬車で走れよ」モーラがあきれている。
「そうでした」
「さすがに余裕がないわねえ」
「皆さん息抜きの旅は出来きましたか?」私は馬車の中でみんなに聞いた。
「おぬしが聞かれる方じゃろうが」モーラが少しだけイラッとして私に突っ込む。
 そうして、数日走ってセリカリナに到着する。
「セリカリナに到着したわよ」
「さて、地図に位置を落としてみましょうか」
「なるほどな。かなりでかい円がかけるな」
「お互いの円を見渡せる位置はビギナギルまでの山の中ですねえ」
「探すのか?」
「それは帰ってから考えましょう」


Appendix
「そうですか。私があの魔法使いとアモン様の取り次ぎをした時から、アモン様は何か作業をさせられていたとは聞いていましたが、罪の減刑の為だったのですね」
「ああ、さすがにまだ自由にはしてもらえないが、多少の事には目をつぶってくれるそうだ」
「そうでしたか」

Appendix
わしら最近出番が少ないわ
久しぶりに遠出になったが、描写もあまりないなあ
結構早く、遠征先に到着しているのに、その描写もないしな。
むしろ遅く走らされて、しんどかったわ
せやなあ
まあそれでも暇な時は走りに行かせてもらっているしなあ
そうやな


 続く

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