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第36話 大演習とある騒動

第36-6話 ビギナギルの白い閃光

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  風か嵐か~白い閃光~ ちょっと!白「き」よ!
○パム、町長から呼び出される
 それは、戦争ごっこが終わって、私が各種族を回り始めようとしていた頃の事でした。
 私が不在の時に、エリスの式神が飛んできて、町長のところに来て欲しいと伝言があったのです。
 いつもなら私とアンジーとメアあたりが呼ばれるのですが、今回はパムが呼ばれています。
「わざわざ来てもらってすまないなあ。ビギナギルとファーンの間で盗賊が出没していて、徐々にわしらの町の方に向かって来ているらしいのだよ」
 町長のいる事務所の応接セットで町長がパムにすまなさそうに言った。
 私が戻ってきたとはいえ、あまり周囲に話さないようにと言っていたので、私を呼ばなかったらしいのです。その辺は、町長さんは配慮してくれていますね。ありがたいです。
「普通の盗賊と違うのですか?」
 パムは首をかしげる。ここの傭兵団は、ビギナギルの傭兵団とほぼ同じくらいの実力と聞いているし、ドワーフや獣人、エルフも参加していて、最近は盗賊も出なくなったくらいなのだから。
「物資は取られるが、最低限の食料や馬には手を出さん。人は殺さぬし、かなり強い。 被害が魔族の部落の境界側の道なので輸送量が結構あってなあ。そちらが危険なので物流が本道に流れ込んできている状況なのだよ」
「なるほど討伐しろということで良いのでしょうか」
「傭兵団が出てくるとしばらく戦った後で引き上げていくのだよ。逃げ足も速い。魔族と獣人達らしくてなあ、こちらにも魔族と獣人が傭兵団に入っているが、追い込めていないのだよ。何の目的でそんな事をしているのかもわからんのだ」
「長命人族のところまで来ていますか?」
「ビギナギルから周辺のエリアにいたらしいが、徐々に移動範囲を広げてきているようだと偵察隊は言っているがのう」
「言葉を濁していますが。偵察隊が手引きしていると?」パムが探るようにそう尋ねる。
「手引きというか脅されている気がするのじゃよ」
「傭兵団がですか?」
「かなり強い手練れが数人いるらしい。出会った時に迫力負けしているようじゃ。話を聞いても怯えて話さぬ」
「わかりました。町民が怯えて暮らすことにならないように調べてみましょう」パムが言った。
「DTがおらんようだが、わしらの手には余るのでなあ。獣人達とドワーフ、エルフ族にお願いした方がよいかと思ったのだよ」
「わかりました。一度戻りまして皆様と話してみます」
「何もなければよいがなあ」
 パムは、事務所を辞して家に戻ってきた。
「・・・という事なのです」
 家に戻って来てパムが言った。最近パムさんが連絡員になっていませんか?
「こやつが出て行かぬわけがなかろう」モーラが私を見る。
「そうよねえ。自分の家の周りが安全でないとか許すわけがないわねえ。でも、あんたずいぶん静かねえ」
 アンジーも私を見る。
「パムさん。キャロルと一緒にビギナギルに行って情報を取ってきませんか?」
「私もですか?」キャロルが自分を指さして驚いている。
「こちらに来てから、お里帰りしていないでしょう?」
「確かにそうですが」キャロルが首をかしげている。
「お里ってあんたねえ」アンジーは、私の言い回しに文句がありそうです。
「特に領主様とメイド長さんは会いたがっていますよ。きっとね」私は強い口調で付け加える。
「それはそうだと思います」キャロルは、私の勢いに少し身を引いてそう言った。
「顔を出してきてください」私は強く言いました。
「みんなで行かないのか?」モーラは私を見ました。
「私は今動けませんから、行ける人達で行ってきてください」
「しかし、わしらが全員でビギナギルに行くと騒ぎになるからなあ。あそこにはおぬしの生還は言っておらぬのだろう?」
「ファーンの町長には広めないでくれとは言っていましたけど、ビギナギルの薬局の豪炎の魔法使いさんは、エリスさんの弟子ですからねえ。それにあそこに顔を出すと、生存の噂が噂だけでなく事実になってしまいます」
「色々とまずいか」
「なので私を除いて全員で行ってきても良いのですが・・・」
「私は~行きますよ~」エルフィが手を挙げた。
「じゃあ私も」ユーリも行きたそうだ。
「私も行って参ります」メアが珍しく手を挙げる。
「ムツミさんに会いに行きますか?」
「それもありますが、メイド長と話がありますので」
「なるほどな」
「残るのはモーラ、アンジー、レイ、エーネとブレンダと私ですね」
「少し不安を感じますが」メアが本当に不安げな顔で言いました。
「ああ、こやつがおるから大丈夫じゃ」モーラがメアの不安を察してそう言った。
「エーネは食事を作れるのかしら?」アンジーが一緒に暮らした時の事を思い出しながら言った。
「それは・・・修行中です。と言うようにメアさんから言われています」
 エーネが言い淀む。おやキャロルと旅して料理が上達したと聞いていますが?
「ブレンダさんはどうですか?」メアが尋ねる。
「私も無理ですねえ」
「でもご主人様が倒れた時に料理を食べさせたと聞きましたが」
「その何倍も失敗作を作っていました」ブレンダが恥ずかしそうに言った。
「まあ、何とかなりますよ」私がさらっと言いました。
「毎食外で焼肉になりそうですね」キャロルでさえ不安そうです。
「いや、居酒屋に行きますから」
「外出禁止にしてたのではありませんでしたか?」パムがつっこむ。
「禁止ではありませんが、頻繁には外出しない方がいいですね。誰かに買ってきてもらいましょう」
「作り置きもしておきます。ただし片づけはちゃんとお願いしますよ」
 メアが心配そうに言った。ええ、本当に家事スキルのない側の人間ばかりですからねえ。
「自分で言うな」モーラが私の心を読んでツッコミを入れました。
「おかしいですね。ご主人様は最初の家で食事も作っていらっしゃったと聞いておりますが」
 メアが首をかしげて言った。
「適当な食事だったわよ。煮物か焼肉しかなかったし。野菜はほとんどなかったし」
「わしらは太らんからな」
「いいえ、皆さん勇者の特訓の時に知ったはずですよ。あれから少しは体型が戻っていますが、また増えています」
 メアがモーラをジロリと見た。
「いつもの 0.1ミリとかじゃろう?」モーラがメアの気迫にちょっとひいている。
「おなかをつまんでみてください。 お菓子の食べすぎではありませんか?」
 メアがだんだん強い口調になっています。おや、ちょっと厳しいかも。
「む。まずいかもしれん」モーラが服の上からつまんでいる。
「あらあらあらあら私もまずいかもしれないわねえ」青ざめるアンジー。
「レイもまずいですからね」メアがレイを睨みました。
「はい」レイの耳がしおれています。
「運動しますかねえ」
「ご主人様は不摂生がたたって痩せ気味ですので、逆に食事をちゃんと摂って運動してください」
 メアが私をジッと見つめて言いました。おお、目に迫力がありますねえ。
「見られているわねえ」
「もっとも、私が言ったところで、私がいなくなったら好き放題されるのでしょうけど」
 メアが深くため息をつく。
「その通りじゃなあ」
「さて、旅の準備をしましょうか」ユーリがタイミング良く声をかけた。

○馬の仲介者
 パムは町長からもう一つ頼まれてきたようです。
「パムさん。実はもうひとつお願いしたい事があるのだ。魔族を怖がらない馬を手に入れて欲しいのだよ」
「魔族を怖がらない馬ですか?」
「ああ、需要がでてきたのでなあ」すまなさそうに町長が言った。
「それは難しいのではありませんか」
「パムさんのところにおる馬は、エーネを怖がらないのであろう?」
「ああ。確かにうちの馬たちは怖がりませんね」
「どこかにつてはないか?」
「わかりました。期待に添えるかどうか判りませんが、探してもらいましょう」
「無理はしなくていい。よろしくな」

「という話がありまして」パムが私に経過を話してくれました。こんな話ばかりですねえ。
「どうでしょうか?」
「あの子はビギナギルで見つけましたから、今回エルフィもビギナギルに行きますから、探してもらいましょう」
「そういえば、エーネは馬に乗りたいですか?」
「馬ですか?余り必要ないのです」エーネは、乗馬自体にピンときていないようです。
「エーネは飛べるものねえ」キャロルも同じ意見のようだ。
「ブレンダは馬に乗りたいですか?」私はブレンダに聞いた。
「楽しそうですけど、転移魔法で十分なのですよねえ」ブレンダも必要性は感じていないようです。
「そういえばそうですね」
 私は、忙しすぎてカイに乗っていない事にようやく気づきました。あの子もきっと寂しいですよねえ。ちゃんと説明してあげないといけませんね。
「うちには今のところ需要はありませんが、エルフィよろしくお願いします」
「ラジャー」エルフィが敬礼した。
「そういえば、ジャガーさんの所にお願いしたジンは、どうしていますかねえ」
 私は、あまり構ってやれなかったジンの事も気になりました。
「牝馬ですよね。リクが結構気難しいので、同性同士ケンカしてないといいのですが」
「それは大丈夫みたいですよ。フェイさんが来るまで、うちの厩舎でおとなしくしていたので」
「そうでしたか」
 その夜は、メアさんは料理をかなり作って、冷蔵庫に詰め込み、指示書を書いて残してくれました。

 翌朝、馬車を5頭立てにして、馬たち全部を連れて行ってもらう事にしました。
「行ってらっしゃい」私達残留組は玄関先から手を振ります。
「行ってきます~」
 エルフィが御者台から声をかけて、馬にムチを当てて走り出しました。私達は道路まで出て手を振り続けます。不安そうなメアさんが馬車の中から私達を見ています。馬車は曲がり角を越えて見えなくなりました。
 馬車の中では、 
「エルフィさん大丈夫ですか?あるじ様と離れて泣いたりしませんか?」ユーリが御者台のエルフィに声をかける。
「もう慣れましたよ~旦那様がずーっといなかったので~」
「それなら良いのですが」
「エルフィ様は、寂しがり屋だったのですね」
「色々逸話はありますね」メアが笑って言った。
「恥ずかしいからや~め~て~」
「エルフィが手綱を握っているから、しばらくしたらこっそり教えましょう」
「も~ユーリってば~」
 エルフィは会話が気になって、馬車の速度が異常に上がっているのにしばらく気づいていませんでした。

 そして家では
「行かせてよかったのか?いつもなら家族は一緒とか言っておったじゃろう」
「そうなんですか?」ブレンダが私の顔をのぞき込む。
「そうなんですけどねえ。まあ今はこんな事をしている場合じゃ無いとも思っているのですよ」
「さて、エーネ」私はエーネを見て声をかけます。
「はい?」急に呼ばれてビックリしているエーネ。
「お父様の様子を見てきてください」
「ディー様いきなりどうしたのですか」
「キャロルがお里帰りしましたので、あなたも同じようにお里帰りしてきてください」
「でも、父は牢屋の中ですよ?それに魔鉱石の作業の時にお話は出来ています」
「私も隣にいましたし、二人だけで話をしてきて欲しいのです」
「確かに話したい事は色々ありますけど・・・」
「モーラ、お願いできますか?」
「魔王城へ行って来いと言うのじゃろう」
「さすがですねえ」
「そんな。私は良いのです」
「良いから一緒に行くぞ」
「私が連絡取っておくわね」アンジーが早速席を立つ。
「アンジー頼む。了解が取れたら送っていく。あくまで父親に会いに行くだけじゃ。喧嘩するような話はするなよ」
「はい。ありがとうございます」
 そうして、アンジーが了解を取ったと連絡が来て、エーネは牢屋に入っているはずの父親のところにモーラと一緒に向かった。
 しばらくして、モーラが戻って来た。
「レイは、気になる事があるからと獣人のところに行ったぞ」
「では、地下室に行きますか。ブレンダさんも一緒にお願いします」
「私もですか?」
「うむ」
 そして、地下室の私の部屋に4人で入った。
「あんたが家に残ると言うから、どうせこんな事だろうと思ったわよ」
「さすが賢者のおふたりですね」
「まあ思いついたのはパムが調査に行くだろうと予想した時だろうがな」
「あの時の身の変わりようは、みんな気付いているわよ」
「メアなんか察しすぎじゃないか。人になってからは顕著じゃのう」
「賢い子だったのでしょうねえ」
「さて。通信機も切ったし、何が話したい」
「三人の意見が聞きたいのです。私は人の心に疎いので」
「早く言いなさいよ」
「家族の皆さんにつらい試練となる事をお願いしたいのです」
「試練とはなんですか?」ブレンダが首をかしげて私に尋ねる。
「これから私は、各種族に説明をして回る事にしているのですが、エルフィ、パム、レイは、自分の種族とそれぞれ因縁がありまして、仲違いをしているのですよ。でも、私の都合で申し訳ないけれど手伝ってもらおうとしています。私は、あまり感情に流される事はないので、その辺は割り切って出来るのですが、彼女らにそれを押しつける事にならないのか、正直不安なのです」
「そうだったのですか」ブレンダはそこで何かを考えていた。
「そうじゃな。最初の頃はおぬしも自分でやろうとしていたが、最近は、かなりあせっているのが感じられるのでなあ。もしかしたらおぬしが頼むのではないかとは、わしも気にはしていた」
「でもそれをさせるの?あなたが言えば、あの子たちは嫌でもやるわよ」
「そこなんですよねえ」
「・・・・」ブレンダは何もコメントを出来ずに静かに聞いている。
「最初から任せるのか?」
「いえ、私が乗り込んだ後に反対派の説得をしてもらいたいのです」
「なるほどな。その種族特有のしがらみを知らないと寄り添えもしないということか」
「はい。私のような部外者が説得しても、難しい部分がきっとで出てくると思います。かなりデリケートな問題です」
「理性では理解しても感情はそうはいかないからねえ」
「はい」
「今から言っておくのか」
「私が各種族を訪れる時には、一緒に行って欲しいのです」
「そうだよなあ」
 「そうよねえ」
「話を切り出すタイミングは、いつがいいですかねえ」
「あまり早すぎても考えすぎるだろう」
「かといって直前であれば葛藤から拒絶するかもしれないしねえ」
「その時期が近付いたら、わしらがそれとなく匂わせて反応を見るわ」
「そのほうがいいかもしれないわ。もっともそういう感情さえ伝わるのよね」
「彼女らから言って来たらお願いしたらどうですか?」ブレンダが考えながら言った。
「そこに行きつきますか」
「それが狙いで今回こうしたのではないのか?」
「そこまで策士ではありませんよ。たまたまです」
「確かにな。おぬし他に考えることがありすぎるじゃろう」
「少しは仕事を回しなさい。ここには辺境の賢者様がいらっしゃるのだから」
「天界一、頭の回転が速い天使もいるじゃろう」
「もう一人、私と同じ模倣使いも増えましたからね」
「今回私は聞き役でしたが、お役に立つ事は何も言えませんでした。これでいいのでしょうか?」
 ブレンダが不安そうだ。
「こういうのは、聞いてもらった方が落ち着くものじゃ」
「結局ね、ブレンダみたいにこいつと同じ感覚の人がいるとね。私達がこいつに聞けない事も代わりに質問できるのよ」
「私はそういう立ち位置なのですか?」ブレンダがちょっと笑った。
「別にそう言うつもりはありませんでしたが、ありがとうございます。また相談しますね」
「では、レイが戻ってエーネを連れ帰ったら、今日は飯でも食べて風呂に入ろうか」
「いつも通りじゃないの」
「いつも通りが一番幸せじゃ」
「そうですね」

○ビギナギル到着
「間もなく到着です」メアが御者台からみんなに告げた。
「けっこう急いだつもりですが、かかりましたねえ」
「これだけの馬車が走っているとさすがに速度があげられませんでしたね」
「途中の獣人の宿は良かったですね~」
「お風呂に入れるとは思いませんでした」
「それは、あるじ様の提案だそうですよ」
「やっぱりそうですか」
「本人は、お風呂の文化を広めるためだと言っていますけどね。お風呂を目的に来る人がいるくらい好評だそうですよ」
「家のお風呂にはまだかないませんが。 これが公衆浴場なのですねえ。もちろん男女別で」
「混浴というのもあるそうですが、まだなじみそうにないですね」
「それはさすがになしですよ」
「おやビギナギルの門のところに人だかりが。どうやらお迎えですねえ」メアが笑って言った。
「なんか恥ずかしくなってきました」キャロルの顔が赤くなっています。
「どうしたのですか?」
「以前ダー様がお見えになった時に自分でお迎えしていましたが、こうして迎えられるとかなり恥ずかしいものなんですね」
「わかりましたか」
「次から絶対やめてもらうようにします」
「お帰りなさい」馬車を止めて、メア以外が馬車から降りると、領主様と商人さんが待ち構えていました。
「ただいま帰りました。みなさんお元気そうで。でもどうしてお知りになったのですか?」
「最近では郵便などを往復させるのに早馬が出ています。 ファーンの方が連絡をくれました」
「そうでしたか。メイド長様もお久しぶりです」
「何か粗相はしていませんね」
「と思います」
「それならばよろしい。お帰りキャロル」そう言ってメイド長はキャロルを抱きしめる。
「ただいまです」
「皆様のお部屋を用意してあります。私の家にお越しください」
「あの~困ります~」小さい声でエルフィが言った。
「以前もお泊りいただいたと思いますが何か不都合でも?」
「夜が遅くなりますので~」パムに隠れるように顔だけ出してエルフィが言った。
「かまいませんよ。何時にお帰りになられても家には入れます」
「うちの旦那様に教えないでくれますか?」恥ずかしそうにエルフィが続ける。
「大丈夫です。お伝えしませんよ」
「では~お願いします」パムの後ろからパッと出てくるエルフィ。嬉しそうにしている。
「領主様が言わなくても私たちが告げ口しますから安心してください」
 馬車から降りたメアさんが冷たい目でエルフィを見て言いました。
「メアさんそんな~~」
「私は本当の事しかお伝えしませんよ。あなたのように誇大に話して回ったりしません」
「ちぇ~」
「荷物を置いたら一度応接にお越しください」領主様は少しだけ厳しい顔になってそう言いました。
「はい」

 パム達は部屋に案内されて荷物を置いて、それぞれ応接室に集まってきた。すでに領主様は椅子に座って待っていた。
「お待たせしました。全員揃いましたので、お話をお聞かせください」
「今回お越しになった事についてですが」
「何かお聞きになっていますか?」
「ファーンの町長様から連絡を受けております」
「なるほど。そうでしたか」
『早馬は町長さんですかね』
『たぶんそうでしょう』
「では、こちらでお持ちの情報があればお聞きしたいのですが」
「最後に噂になったのは、例の魔法使い討伐の話の後、2ヶ月くらいした時ですね。決まった日ではないのですが、このあたりの盗賊がたびたび退治されていることがありました。その盗賊たちが言うにはたったひとりにやられたと言うのです」
「ほう」
「その後、盗賊も少なくなり、その話が聞こえなくなりまして、少し前から盗賊が頻繁に出るようになりました。 しかも人も殺さず、荷物も最低限の食料などしか奪いません」
「ファーンの町長に聞いた話ですね」
「はい。探しても見つからず、馬車などは、その盗賊を警戒して走らせていたのですが、今度は本線の道路ではなく魔族領に近い道に現れるようになりました」
「そうなのですか」
「最近は出没する場所が拡大していて、ファーンの方面まで広がっています」
「ほとんど聞いた話と同じですね」
「ひとつだけとっておきの情報があります」
「なんでしょうか?」
「白い閃光」
「はあ?」
「どうやらその盗賊は「白い閃光」を探しているらしいのです」
「最初に討伐していた人物が「白い閃光」と呼ばれているのでしょうねえ」パムがため息をついた。
「どうやらそうらしいです」
「おや?キャロル顔色が悪いですがどうしましたか?」
 領主様がキャロルの様子が変なのに気づきました。
「いえ、何でもありません」
「もしかして知っているのですか?」横に立っていたメイド長が言いました。
「いいえ知りません。そんな人には会ったこともありません」
「そうですか。信じましょう」
「・・・・」静かになったキャロルが小さく見えます。
「情報ありがとうございました。薬屋の魔法使いさんにも聞いてみます。あと冒険者の皆さんにも」
「よろしくお願いいたします」
 そうして領主の館をでました。
「さて、いただいた情報の信憑性を確認しに行きましょう」
「あのっ!」
「キャロル。家族同士だって秘密があるものですよ。言わなくて良いこともあります。ぬし様はいつもそう言っていますよ」
「はい。この事件が解決したらお話しします」
「別に話さなくてもわかりますから」
「気になるのは「なぜ」の部分ですね」
「それは・・・・」
「キャロルはお酒の飲める年齢になっているのでしたか?」
「え、ええ」
「では、話したくなったらお酒に誘ってください」
「はい・・・」
「私は~話がなくても~一緒に飲みますよ~」
「エルフィさんはブレませんね」
「旦那様とおんなじです~」
 そうして情報収集と周辺探索でさらに2泊しました。やはりこの周辺に盗賊はいないようで、今はファーン方面に出没しているようです。
 早朝に馬車を出して、領主様のところを出発する。
「領主様。お世話になりました」
「もう戻られるのですか?」
「足取りが大体つかめましたので」
「そうでしたか。パム様には、うちの間者候補をもう少し鍛えて欲しかったのですが」
「今回ともに森林などを一緒に捜索しましたが、彼らには経験が足りないだけです」
「そうでしたか」
「領主様色々ありがとうございました。また遊びに来ます」キャロルが頭を下げる。
「いつでもいいんだよ。理由なんていらない」
「ありがとうございます。メイド長様」
「無理しすぎないように。ここにいたときからあなたは頑張りすぎます。くれぐれも体に気をつけて。もう自分一人の体ではないのです。傷つくことで悲しむ方々がそばにいるのですからね」
「心に刻みます」
「それでは」
「ここに残っても良かったのですよ」
「これは私が解決すべき事件です」
「そうなのですか?」
「はい。色々聞きまわった結果、私なりにそう思いました」
「そうですか。怪我だけには十分注意するのですよ」メイド長さんが心配そうに言った。
「はい」キャロルはまた頭を下げた。
「では戻りましょう」
 そうして、馬車はファーンへの道を走り出した。

 家には、エリス経由で情報が先に届いていました。
「ほほう「白い閃光」とな」
「そうなのよ「白い閃光」なんですって」
「探して挑発しているのでしょうねえ」
「魔族なのだろう?」
「そうみたいです」
「そうまでして戦いたいですかねえ」
「まあ自分たちの食い扶持を確保しているだけじゃから、盗賊としては優等生じゃろう」
「盗賊に優等生も劣等生もないわよ」
「まあ確かにな」
「キャロルたちが戻ったらどうするのじゃ」
「何もしませんよ。ただレイに探させます」
「レイは、すでに居所を掴んでいるらしいぞ」
「行動早すぎませんか?」
「わしらのエリアに入って見つからぬわけはないわな」
「ですよねえ」
「戦う理由はできたぞ。領土侵犯じゃからな」
「面倒くさいですねえ」
「あんたは動かないから別にいいでしょ?」
「そうですね」私はそう言って地下に降りていきました。
「ああ言いながらどうせ横で見ているつもりよねえ」私が出て行った、地下への階段の方を見ながらアンジーが言った。
「心配性じゃからなあ」

○帰宅
 数日して、5人は家に到着した。
「ただいま帰りました」キャロルを先頭に玄関から入って来ました。続いて他の人達も入ってくる。
「早かったですねえ。もう少しゆっくりしていればよかったのに」
 私はそう言って、椅子から立ち上がって、皆さんのところに向かう。家にいた人達もお出迎えのために立ち上がった。
「これ以上盗賊を野放しにすると被害が増えますので」
「そうでしたか。何か成果がありましたか?」
「情報ではこの付近に来ているようです」
「そういえばレイが何か言っていましたねえ」私の言葉に全員の顔に緊張が走った。
「ダー様戻りました」最初に入って来たキャロルがお辞儀をする。
「キャロルおかえりなさい。久しぶりのビギナギルの街はどうでしたか?」
「久しぶりに帰ることができてうれしかったです。でも」
「でも?」
「やっぱりここが自分の家だと再確認できました」キャロルはそう言ってモジモジしている。
「そうでしたか。あと何か?」
「しばらくお顔を見られなくて寂しかったです」そう言ってお辞儀をして、階段を駆け上がって消えた。
「どうせだからじっくり顔を見ても良かったのですがねえ」
 私がそう呟くと、両側にいたアンジーとモーラからすねにけりを入れられる。
「デ・リ・カ・シ・ー」アンジーに睨まれました
 私は、その言葉を気にもせず、手持ち無沙汰にしているパム、メア、ユーリ、エルフィを一人ずつ抱きしめます。
「ユーリ久しぶりです。どうでしたか久しぶりのビギナギルは」
「あまり変わりはありませんでした。団長が少しだけお年を召されたような気がしますのでそれが心配です」
「そうでしたか。気になりますか?」
「気にするなと笑われました」
「また見に行ってあげてください」
「はい」
「パムさんいつもこういう話ばかりですいません」
「いいえ、結構好きです。帰って来た時の嬉しさもひとしおです」
「今日はゆっくり休んでください」
「明日から何かありますか?」パムがちょっと笑いながら言いました。
「いえ、そういう意味ではありませんよ。ずーっとゆっくりしていて欲しいです」
「ふふ。すいません」
「エルフィ。泣いていませんでしたか?」
「だいでぃばぜん~」抱きつく前から泣いています。抱きついても胸が邪魔しているんですよねえ。
「どうだったのですか?」私はエルフィの頭を撫でながら、残っていたメアさんに尋ねます。
「泣いてはいませんでしたよ・ ・昼間はですが」
「ああーいっちゃだべぇ~」
「もう少し頑張りましょうかね」
「はいい」
「さてメアさん」私はメアを抱きしめて言いました。
「なんでしょうか」
「こんなに早く帰ってきてくれてありがとうございます」
「先に台所を拝見しましたが、大変きれいでした。逆にどういう生活をしていたのか気になります」
 抱きしめたままメアさんが、私を疑いのまなざしで見ています。
「台所は毎日ちゃんと掃除していましたよ。イダダダダ。強く抱きしめすぎです。背骨がきしんで痛いです」
「先ほどのキャロルに対する態度は一体なんですか」
「ず・・ずびばぜん。はあ。メイド長さんは元気でしたか?」
「お年を感じさせないくらい元気でした。ただキャロルの事をかなり気にされていました」
「どんな感じで?」
「肌を傷つけたり、ケガしないかと」
「けっこうお転婆ですからねえ」
「その点に涙を浮かべられていました」
「そうでしたか」
「さて、夕ご飯ですが・・・」
「わかりました。居酒屋へ行きましょう」
「よしっ」
「やったわ」
「やったあ」
「よかったー 」
「この反応はなんですか?」
「こいつの作るご飯がおいしくないのよ」
「ああ、決定的にまずいわけではないし、食べられるのだがなあ」
「つらかったです」ブレンダまでゲンナリしている。
「でも私はうれしかったですよ。ディー様の手料理ですから」
 嬉しそうにエーネがそう言いました。
「て、手料理を食べられたのですか?」
 メアが少し驚いて声が大きくなると部屋から全員が飛び出してきました。2階からも降りてきました。
「そんな!全員が居間に戻ってくるほどの事ですか!!」
「私の作り置きの他に作ったのですか?」
「ええ、物足りなさそうな顔をしていましたので、肉を炒めたり」
「この中で食べたことがあるのはモーラ様とアンジー様くらいであとは食べたことないのですよ」
「ああそうだったのか。せっかくだ おぬし食べさせて、残念な食事なのを教えてやれ」
「なんですかその言いぐさ。作ってもらって文句しか言わないじゃないですか。作る方だってつらいのですよ」
「朝食もですか?」
「さすがに朝食は問題なかったわ」
「じゃが夕食がなあ」
「あの時より腕が落ちていないかしらねえ」
「理由を知っています。あなた様はキャロルの事が気になっていて上の空だったのですよ」
「そういう理由?」
「ああそうだったのですねえ」
「自覚なしか」
「ありゃ~またキャロルが自分の部屋に戻っていきましたよ~」
「今頃ベッドの上で身もだえしていそうじゃのう」
「ごはん。ごはん~」レイが踊っています。真似してエルフィが踊っています。
「では出かけるか」
「そうね」
「早すぎませんか?」
「今夜は風呂に入ってすぐ寝るに決まっているであろう」
「旅行帰りですものねえ」
 居酒屋に行って、軽く食事をしたあと、お酒をもっと飲みたがるエルフィを担いで家に戻ってきました。
 お風呂も、いつもどおり全員で入りました。
「私達がいない間は、お風呂をどうしていたのですか?」メアが私を見て聞いた。
「まあ、いつもどおりですよ初日を除けばですが」
「初日に何がありましたか?」パムが気になるようです。
「私達がブレンダを阻止しながら入っていたから落ち着かなかったわねえ」
「ここぞとばかりにモーションを起こすのでなあ。最後にはレイがブレンダに張り付いていたわ」
「でも、楽しかったですよ」ブレンダが笑っている。
「そうね、わざと転んだり、浴槽で前のめりにあんたに向かって行ったりしたわねえ。本当にレイがいい仕事をしたわ」アンジーの前を犬かきで横切るレイ。
「初日で諦めてくれてよかったわ」
「この状況ではどうなるのか知りたかったのです。もうやりませんから安心してください」
「そうしてくれると助かるわ」
 お風呂は、いつもどおり、私が掃除をしてから部屋に戻りました。

○深夜の活動
 そして深夜過ぎ。
「着替えをする音がするわねえ」アンジーがモーラと話している。
「あやつら行動がはやいな。帰ってすぐとはなあ」
「あいつに知られる前に早く決着をつける気ね」
「あやつはどうした」
「地下室よ」
「ふ~ん地下室か。なるほどな」モーラはニヤリと笑った。

 エーネの部屋にキャロルが来た。
「エーネお願いできますか?」
「あれは封印したはずではなかったのですか」
「ビギナギルでも私だとバレたくなかったのです。まさかこんな事になるとは思いませんでしたけど」
「キャロル。あの旅の事を思い出しますね」
「そうね。ではお願いします。レイさんが居場所を突き止めてくれていますから」
「早く片付けてディー様の負担を少しでも軽くしないとね」
「では出撃」
 そう言って二人は裏口から家を出た。
「キャロル。場所はわかるのですか?」
「レイさんから大体の位置は聞いたから。近づいたら後はお願いね」
「わかりました」
 そうして二人は森の中に消えた。
 二人は森を抜けてしばらく走っている。モーラの洞窟を過ぎてしばらく行ったところで、エーネがキャロルをとめた。
「この先にいるのね」キャロルの言葉に頷くエーネ。エーネの表情が緊張しているのがわかる。
 キャロルとエーネがしばらく様子を見ながら歩いて行くと、少し開けた場所にたき火が見えた。しかし、人影は無い。そのたき火の方に、様子を見ながら近づく。エーネが急に後ろを振り返った。
 そこには、数人の影があった。先頭の男は体格からして人ではない。角も生えている。猿人のような顔をしているのが見えている。
「やっと出てきたか。待っていたぜ」
「あなた達が最近ビギナギルからこちらまで盗賊をしていた人たちですね」
 キャロルは剣に手をかけながらそう言った。
「ああ、申し訳ないが俺らの食い扶持は確保させてもらったよ」
 笑いながらその魔族は言った。
「その人数の食料は大変でしょうね」
 キャロルとエーネはすでに囲まれていて、周囲に十数人いる事が感じられた。
「それも今日までさ」
「今日まで?」
「念のため聞くが、あんた白い閃光だよな。もっともその格好でわかるんだが念のため確認するわ」
 キャロルは、戦闘服である白いゴスロリメイド服を着ていた。
「はい、私が白き閃光ですよ」
「よかったぜ。俺は、周辺の盗賊から雇われたんだよ。いつ現れるかわからないお前のおかげで、一時期足を洗うやつが多くてね。その打開策としてお前を倒して安心安全な盗賊ライフをしたいんだってよ」
「確かにねぐらを襲ったりしていましたから。その成果はあったようですね」
「そこで俺は依頼されたんだが、突然いなくなったろう?」
「活動休止していましたから」
「依頼された俺としては、あんたをおびき出すしかなくなったのさ」
「そのままにしておけば良かったではありませんか」
「前金をたんまりもらったんでなあ。何もしないでいたら、俺の信用が落ちるだろう?」
「ならば前金で満足して帰りなさい」
「あんた殺さないんだろう?」
「そうですね。でも次に盗賊を続けていたら、手足切り落とします。と警告はしています。知っている限り、その方たちは二度と盗賊をやっていなかったと思いますが」
「だからだよ。恐ろしくて盗賊を続けられないんだってよ。殺された方がましだなんておかしな話だよなあ。
 まあ、俺としては、強い奴と手合わせしたかっただけなんでね。そりゃあ、盗賊の寝込みを襲ったとしても、たったひとりで戦って、しかも自分も相手も無傷で戦いを終わらせているじゃないか。
 そこで、戦う前に約束したいんだ、俺とあんたが戦って、あんたが負けたら金輪際盗賊には手を出さない。俺が負けたら潔く引く。依頼者とはそう約束済みだ。だから、あんたが負けたら、二度と盗賊に手を出さないで欲しいんだよ。もし手を出したらその時はあんたを殺さなきゃならないんでなあ。もっともこれからの戦いで死ぬかもしれないがね。どうする戦うかい?それとも逃げ出すかい?」
「一対一を希望しますか?」
「そんな事は言わないよ。そっちももう一人来ているだろう?だったら全員で戦おうじゃないか」
 その魔族はキャロルの後ろにいるエーネを見て言った。
「彼女は・・・」
「私はその他大勢の方とやりますから、お二人は1対1でやってください。もちろん彼女がやられても私は手は出しませんから」
「そんな誘いには乗らねえ。俺はそれでよく騙されているからなあ。それに仕事は完璧にこなしたいのでね」
「わかりました。ではエー・・・黒き迅雷さんよろしくお願いします」
「では、戦いを始めましょうか。周囲の人達には申し訳ありませんが、一瞬で片付けさせてもらいますね」
 エーネは杖で地面をトンとつく。その瞬間エーネの頭の周りに5つの球体が発生して合体。細かい粒になって拡散して周囲の魔族達に降り注ぐ。周囲の魔族達は、何も出来ないままその場にバタバタと倒れていく。
「一体何をした?俺たちには魔法耐性と防具にも同様の魔法がかけてある。半端な魔法では効かないと思うのだが」
 一人残された魔族は呆然とそれを見ていた。
「これで1対1になりましたね」
 エーネが笑いながらそう言った。もっともベールを被っているので魔族には見えていませんが。
「そいつの異常な魔力量。ひょっとして」
 その魔族は、エーネを見て何かを察したらしい。
「言ったら死にますよ」
 エーネが杖をその魔族に向けた。
「あ、ああ。聞かない事にする。まあ一対一でいいならやろう。いくぜ白い閃光!!」
「どうぞ」
 その魔族は、真っ直ぐにキャロルに向かってくる。キャロルはその剣を受け流し、通り過ぎようとする魔族の背中にレイピアを3回ほど刺してから、魔族の方に向き直り、魔族がこちらを向くのを待っている。
「今何をした」
 魔族は背中を気にしながらキャロルを睨んでいる。

「何もしていませんよ。では、茨の星」
 キャロルは魔族に向かってレイピアを何回も刺す仕草をして、自分の前に100個ほどの光の棘を作り出す。
「なんだそれは。剣の残像を空中に残したのか?」
「魔法ですよ。流星の棘!」
 キャロルはレイピアを前に突き出す。空中に浮かんでいた棘が魔族に向かって一斉に飛んでいく。
「うおおおおおお」
 魔族は叫びながら、飛んでくる棘を剣ではじき返そうとした。しかし数が多すぎてかなりの数の棘が全身に刺さっている。
「こんなもの大したことはない・・・」
 魔族は腕に刺さった一本の棘を抜こうとしているが、触るたびに中に食い込んでいく。
「どうなっている」
 自分の体に刺さった棘を取ろうと体を動かすたびに棘が食い込み痛みを増していく。
「さて、そのまま動き続けると筋肉を動かす腱が切断されて動けなくなりますよ」
「なんだと!」魔族が剣を握り直す。
 しかし、腕の腱が切れたらしく、腕に力が入らなくなってきて、剣がダラリと垂れ下がった。手の腱は切れていないのか、剣は握ったままだ。
「どうなっているんだ」
「しばらくして棘が消えれば、魔族の快復力ならすぐ復活しますよ。まだ続けますか?」
「これは勝てないな。負けたよ」魔族はついに膝をついた。
「わかりました」キャロルはそこで指を鳴らす。どうやら棘の魔法を解除したようです。
「さて、黒き迅雷さん。周囲の魔族はどう倒したのかしら?」
「あれはこけおどしですよ。眠らせただけです」
「なるほどね。ねえ久しぶりにアレをやらない?」
「いいですよ。やりましょう」
 そう言って二人は魔族が見ているのも気にせずに背中を合わせて立つ。

「黒き闇夜の悪人達達を」
「白き光で暴き出し」
「白黒つけて悪を断つ」
「白き閃光!」
「黒き迅雷!」
「ここに参上!」
 そう言って二人はキメポーズを作っていた。
「久しぶりにやったわねえ」
「あの旅以来ですです」
 二人で両手をつないでぴょんぴょん跳ねて喜んでいる。その横ではポカーンと口を開けてそれを見ている魔族がいた。
「あっけなかったわねえ」
 ガサガサと横の草むらを掻き分けてアンジーが出てきました。
「ア、アンジー様。見ていらっしゃったのですか」
「家から出ていく気配に気づかないわけがないでしょう」
「そうでしたか」二人は肩を落としている。
「あんたたちも出てきなさい。周りで見ていたのでしょう?」
「可愛いかったですねえ」メアがウットリしている。
「ええ。旅立つ前にユーリと練習していた決めセリフもぜひ見たいです」パムまでがそう言いました。
「そうそう。隠れて練習していたの知っていますよ~」
「見たい見たい」
「そうですか。ダー様もいないようなので。エーネいいかしら」
「そちらは本当に久しぶりです」
 そうして、別バージョンの台詞のスタンバイをした。

「天知る地知る人が知る。悪を暴けと天使が呼ぶ」
「誰が呼んだかしらないけれど、白き閃光!」
「黒き迅雷!」
「「ここに参上」」
「おー」みんなで拍手をする。
「それは可愛いですねえ」私は拍手をしながら森の奥の方からやってくる。
「ダ、ダー様」
「ディー様、見ていらしたのですね」
「もう一度見せてとは言いませんが、活躍の場が欲しいところですねえ」
「は、恥ずかしい」
「さあ帰りましょう。そこの魔族さん。明日にでも全員でファーンの町長の所に行きましょうか」
「ああ、そうだな」
「約束を守らないとわかりますよね?」私の後ろにモーラが立っていて、オーラを出しています。
「逃げたりはしないよ。そうかそうだったのか」

○事件の収束
 翌日早朝には、魔族達がファーンの入り口に集まっていた。
「とりあえずは、これまでの被害の分は借金としておく。お金が貯まったら払いに来るがいい」
「だが、金など稼げないぞ」
「それはこちらで仕事を斡旋するわ」
「それは助かる。いや俺たちは犯罪者だぞ。信用していいのか」
「人は殺していませんよね」
「ああ、白い閃光をおびき出すために、さすがにそこまでする気はなかったからな。俺たちは盗賊じゃないし」
「それと一つお願いがあります」
「何をさせたい?」
「馬探しを手伝ってください」
「馬だと?」
「はい。魔族が乗っても怖がらない馬を」
「いるのか?」
「多分。エルフィ!」
「はい~」
「この方にコツを」
「申し訳ありませんが~おでこを~」
「どうするのだ」
「こうして・・ 」
「なるほどな。これを一頭一頭やることになるのか?」
「顔を近づけて後ずさるのは無理ですね~。固まるくらいなら見込みありです。あと~聞こえたら頷くように言えばわかりますよ~」
「なるほどな。わかった試してみよう」
「そんなにいるとは思えないので気長にお願いします~」
「そんな馬を一体誰につかうんだ?」
「この町の近くには魔族も住んでいるので、荷物を運ぶ荷馬車が必要なのだそうですよ」
「そうか。あんたたち・・・いや何も聞かない」
「賢明な魔族じゃな」モーラが笑って言った。
「やっぱりそうか。まあ薄々わかっていたがこれで納得だ。これからは普通に生きろという事か」
「そうですねえ」
 連絡体制を作ってから魔族達は町長にまかせて、私達は家に戻りました。
 
○家にて
「白い閃光に黒い迅雷が復活していましたか」
「いえ、白き閃光だけです。ダー様がいない間、ビギナギルで一人暮らしをしていた時に、顔を隠すにはちょうど良かったのです」
「でも戦っていても可愛いかったですねえ」私は思い出してウットリしていました。
「それはそうです」
「本当に~うっとり~」
「やはり夜に黒はダメでしたねえ」私はちょっと考え込みます。
「溶け込みすぎましたね」メア
「改善が必要です。色は夜になったら変わるようにしないとだめですかねえ」
「そもそも夜の闇に溶け込んだ方がいいのではありませんか?」
 ブレンダが私を軽蔑したような目で見ました。
「そうでしたね」
 そうして白い閃光の・・・違った白き閃光の・・・・「盗賊の事件」は解決したのです。

Appendix
 しばらくは、家の中で決め台詞がはやっていました。しかもフリ付きで。
「今度は全員で名乗りましょう。何が良いですかねえ」私の言葉に一部を除いてノリノリでした。
「もう・・・やめてあげて。キャロルとエーネの精神はマイナスよ」
 私達に遊ばれて、うつろな目になっている二人をブレンダが庇っていました。

Appendix+
「あの技名を叫ぶのはいいなー」とはユーリです。
「いや、技名がないだけで、裏袈裟切りとか膝切り落としとか色々技を持っていますよね」パムが言った
「ああそうか。名前をつけなきゃ駄目なのですね。でもそれは面倒ですね。やめておきます」
「そうですよ。名前を呼ぶ暇がありませんし。叫んだ時には、相手は大概倒れていますから」
「ぬし様は叫ばないのですか?」
「これまでの戦いでは叫んでいませんねえ」
「嘘言わないでよ。黒い霧の時にサンダーとかファイヤーとか叫んでいたわよねえ」
「あれは・・最初の方だけですよ。叫んでいる暇も無くなりましたから」
「おぬしたち。まず自分達の技の速さを思い出せよな。言っている暇なんかないじゃろう。しかも先に技名叫んだらバレるだろうが」
「確かに」


 続く

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