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第31話 DT独りでお出かけ
第31-2話 いきなり戦闘
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好きだあったのよあなた~胸の奥でずうっと~
○救助作業と余計な戦闘
「カイが馬を連れて戻ってきています~」
「エルフィ確認できたか。道まで迎えにいってやれ。あやつもあれからパタッと連絡を寄越さなくなりおって、無線機があるんだから連絡くらいしろ」
「待つしかありません」メアがすまなさそうにそう言った。
「そうね、このまま普段どおりの生活を続けましょう。それがあいつがして欲しいことなのでしょうからね」
アンジーのその言葉に家族はションボリしている。
皆さんが、そんな話をしている時に、私はあの塔に到着していました。
「さて彼を救出をしましょうか。残念ながらこの事は誰にも知られてはいけなのです。ごめんなさい」
私は、キャロルの過去を確認した後、空間転移をしました。その壁の入り口付近にポイントを設置していたので、そこに空間転移しました。雪は無く、私が姿を現した瞬間に大量に雪が降り出して、もう遭難しそうです。
「やはりそうなんですねえ」
私はくだらないだじゃれをつぶやいて、ひとりで笑いながら、壁のスイッチを操作する。扉は開き、私は中に入る。背中には大きな袋を抱えて。
そこから前回と同じように最初の部屋から次の部屋に行った。しかしその部屋は、前回の形とは違っていた。
「ようこそいらっしゃいました。あなたの処刑場へ」
あのスリーピースの男、ジャミロッティとその後ろに3人立っている。
「お待ちしていましたよ。きっとここに来ると思っていましたから」
「私の行動を先読みしていましたか」
「あなたのような研究バカ・・・もとい研究熱心な方は、必ずここに戻ってくると思いまして。それに、愛する女性の父親をそのまま放っておくなんて、あなたにはできませんものねえ」
嫌みっぽく優男が言った。
「そうですねえ、確かにうかつでした。あの時無理にでも連れて帰るのでした」
「そんなことをすればすぐにでも私に知られますよ。もっとも今回私に遭わなければあなたも彼も無事に元の世界に戻ることができたでしょうけど。残念ですねえ」
「おい、いい加減にしろ。さっさと戦わせろ」
横の甲冑を着た女が言った。
「そうですよ、あの時の屈辱を晴らすために私はここにいるのですから」
優男の反対側の僧侶風の魔法使いが言った。どちらも見覚えがある。もう一人の女魔法使いも見たことがある。しかも同じ事件の時に会っている。
「まあ、そうあせらずに。3名とも自己紹介をされてはいかがですか」
優男はニヤニヤ笑いながらそう言った。下品!
「そうですねえ、忘れてしまっているので、是非お願いします」
「貴様!俺の顔を忘れたとは言わせんぞ」
甲冑の女は手に持った剣を振り上げて私に向けて言った。
「そうですねえ、顔には見覚えはありますが、名前を聞いた覚えがありませんね。いったいどちら様ですか」
「俺は、イオン王女様の剣としてそばにお仕えしている。メリカイ・サドーファだ」
「ああ、やっと名前がわかりました。そういう名前だったのですねえ。はて、王女様のそばにいなくて良いのですか?」
「お前のせいだろう。お前に負けたから王女様から見捨てられたんだよこのくそ野郎が」
吐き捨てるようにそう言って、剣を振り回す。
「下品ですねえ。そんな言葉遣いでは、姫様もそばに置きたくないですよね」
「いちいちうるさい。全部お前のせいだ。お前が・・・お前が・・・」メリカイがなぜか地団駄を踏んでいます。
「まあまあ、残るお二方も自己紹介した方が良いのでは?」
優男が落ち着かせるように言った。
「ああ、あの時は名乗りもしなかったがな。この卑怯者。よく聞け。私の名はレオナード・ヴォルカ、主任国家魔法士だ」
「元でしょう?」
隣の女が笑いながら言った。
「お前だって勇者の仲間から外されたはぐれ者じゃないか」
「そうなのよ、魔法使いさん初めまして。私は、パンドール・ルージェ。もっともあなたにとっては、お久しぶりなのよねえ」
「そうですね。少しは改心しているかと思ったのですが、どうやらだめみたいですね」
「ええ、王女様に私の悪行がばれてね。そこの狂犬とプライドだけのバカ魔法使いと一緒に国から追放になったのよ。そうそう、しばらく大きな魔法が打てなくなったのって、あなたが指先に仕掛けたんですってね。しばらく病気になったのかと心配になったわ。その心配した分と苦労した分そっくりあなたに仕返しさせてもらうわ」
「3人とも逆恨みですか。自業自得という言葉を知っていますか?」
「そんな言葉知らないわねえ」パンドールと名乗った女魔法使いはそう言って笑った。
「いいから早くやらせろ。俺の力がどうなったか見せつけて、お前をズタズタにしてやる」
「そうですよ。私の本当の魔法を見せてあげましょう」
「まあ、そういうことだから。死んで欲しいのよねえ」
その3人の怒りの様子を私はぽかーんと見ています。どうもやる気になりません。私はとりあえず抱えてきた荷物を壁際に置いてから、部屋の中央に戻った。
「では、私はしばらくこの部屋から出ていましょうか」
そう言って彼は、次の部屋への通路の入り口の所に移動しました。私と3人の周囲に壁に沿って透明なシールドが作られる。さらに彼のところには、椅子が床から現れて、そこに座ってこちらを見ている。
「この部屋は、何をしても大丈夫ですから安心して戦ってください。どちらかが倒れるまではこのままにしておきますから。もちろん時間制限もありません」
嬉しそうに優男が言った。
「この人達に何か強化魔法をかけていませんか?」
「もちろん、本人達の望み通りに強化してあります。お気をつけて」
「あまりやりたくありませんねえ」
「いい加減にしろ。いくぞ」
そう言って女剣士が突進してくる。ほとんど同時にパンドールと名乗った女の魔法使いが、火炎魔法を女剣士の横から打ってくる。
そして、女剣士の反対側からは、レオナードと名乗った男の魔法使いが、私の下に魔方陣を描き、床から氷の針を突き上げる。私はその氷から逃げるように体勢を少し変え、女剣士の剣をかわした。
「貴様、私の剣から逃げるな」
「嫌ですよ。それにしても、強化されたとはいえ、そんな剣さばきでは誰も倒せませんよ」
「うるさい!」
そう言ってメリカイと言う女騎士は、私に向き直り、剣を構えてから突き進んでくる。その間にも、横にいる2人が炎の魔法やら氷の魔法やらで私を攻撃してきて、私は、両手を使ってそれぞれの魔法をシールドで受けて、はじき返している。
何度か女剣士の剣をかわし、それでもその女剣士は、徐々に踏み込みが深くなり、私の体に剣がかすり始めている。
2人の魔法も徐々に威力を増してくる。私の防御魔法が耐えられなくなりそうになり、女剣士の剣を左腕で防御せざるを得なくなり、ついに氷の魔法を躱しきれずに頬をかすめていった。
「いけるぞ」レオナードの声がする。
私は、少しずつ後ろに下がりながらその攻撃をかわし、女剣士の剣をかわし、動きが単調になったところで急に炎が下から吹き上がった。一瞬私の姿が見えなくなる。
「やったか?」
炎がおさまり、私の姿が現れると、剣の攻撃が鋭くかつ速度を増して私の体を切り裂こうとしてくる。そして、上下左右から魔法攻撃を間断なく受け続け、ついには後ろに下がれなくなってしまう。
「さて、もう逃げられないぞ。死ね」
メリカイは、剣を構えて胸元を狙い突進してくる。私は避けようとするが、氷の壁と炎の壁に塞がれ、左右どちらにも逃げ場がなくなった。
ガキィィィ
鈍い音とともに剣の突進が止まる。私は両手の指からワイヤーを出して、その剣を絡めて動きを止めた。剣にワイヤーが食い込んでいる。ギリギリと互いの力で押し合う状態になった。
「「その瞬間を待っていた」」
男女の魔法使いが同時に叫び、動けない私に巨大で鋭利な氷を上から落とし、さらに抑えている剣に沿って炎がほとばしり、私に向かってくる。
氷は、私を貫くように下に落ちていき、剣を抑えていたワイヤーを持つ手も炎で見えなくなる。ワイヤーで止められていた剣も支えを失い、私に向かって動きだして私のいたところ落ちてきた氷の表面を削っている。私の立っていた位置に氷は床に突き刺さった。
「奴はどこだ」左右を見ても私はいない。私は氷の後ろから出てくる。
「壁際に追い詰めていて後ろに逃げ場はなかったはず。壁の中にでも入っていたのか」
「いいえ、壁際までまだ距離がありましたよ」
私は、いつもの壁フェイクをそこで使っていた。
「壁に張り付いていただろう」
「あれは、私が自分で作ったシールドですよ。壁まではまだ隙間があったのです」
「姑息な真似を」
「私はいつでも姑息ですよ」
私はそう言って、一瞬で女剣士のところに移動し、剣を持つ腕に触る。剣を持った腕がだらりと下に下がる。
「何をする。うっ剣が重い。貴様!何をした!」
メリカイは、手から剣がこぼれ落ちていく様子と私を交互に見てそう叫んだ。
「いや、あなたにかかっていた魔法を解除したのです」
「なんだと!うあああああああ。なんだこの痛みは!」
女剣士は、剣を落とし両肩を自分で抱きしめるようにして膝をついた。
「魔法で筋力を上げていた負荷に筋肉が耐えられなくなっていたのですよ。あと数分そのままだったら、あなたの手足は破裂していました」
「そんなばかな。訓練中にはそんなことにはならなかったぞ」
「練習の時よりもかなり無理していませんでしたか?たぶん、限界に近い使い方をしていたのではありませんか」
すでに筋肉や腱がブチブチと切れた音がする。両肩を抱えていた腕がダラリと下がる。膝から崩れ落ちたあと腹ばいになり、体を動かそうと、もがいているが両手両足共に変な方向を向いている。
「どうしたんだ、手も足も動かせない、痛みもない」
倒れているので表情は見えないが、その声には絶望が感じ取れる。
「とりあえず最低限の治療はしましょう」
私は、服の中にあった薬草を両手両足に貼り付ける。しかし、効果はあまり出ているとは言えず。立ち上がろうにも立ち上がれずにいる。
「練習中の疲労が蓄積していますね。そのまましばらく寝ていてください」
私は立ちあがり、二人の魔法使いを見る。
「さて、続きをしますか」
「も、もちろんだ。いくぞ」
男の魔法使いは、詠唱を初めて私の足下に魔方陣を作り、私を拘束したようだ。
「以前もこの魔法を使いましたよねえ」
「ああ、拘束は私の得意とする魔法だからな。どうだ動けまい。その状態で氷づけにしてやる」
嬉しそうに笑いながらレオナードは言った。
私の周囲を氷の壁で囲い、さらに蓋をする。そこに女の魔法使いが隙間から炎を注ぎ込む。しかし、中に炎が入ってくるとすぐ消えてしまう。何度も炎を中に注ぎ込むがすぐに消える。私は、自分の後ろに穴を開け、炎が通りやすくした。炎は、今度は私にまで到達して反対側まで貫通していく。ただし、私を避けて流れていく。
「どういうことだ」男の魔法使いは、氷でさらに壁を作り私を完全に閉じ込めた。
私は拘束を解き、その氷に手を当てる。氷の中に振動が起き、一瞬にして粉々に破壊される。
「なんだと」
男の魔法使いは驚いているが、女の魔法使いは、すぐさま炎の魔法を使って私を火だるまにする。しかし、私はどこにも焦げ跡はない。何回も繰り返すが一向に燃えもしなければ焦げもしない。
「もう気が済みましたか?」
「どうして攻撃が通じないのかしら」
パンドールが急に丁寧に尋ねてくる。
「残念ですが、私の周囲に風を起こして、氷を常に削り取り、炎は、気流のおかげで私まで届かないようにしています。あなた達程度の威力の魔法では、私に攻撃を当てることはできないのです」
「風でそんなことができるの?」
「まあ、正確には、重力差を発生させて気圧を変化させ、真空状態を作っています。と言ってもわからないでしょうけどね。このような閉じた空間ではかなり有効なのですよ」
私は、風の渦を手の中に作ってみせる。
「さて、それでも続けますか」
「まあ仕方が無いけど、ここで炎ではなく爆発させればそんなものは無効にできるわよねえ」
パンドールは、両手を胸のあたり置いて、両手のひらの中に何か玉のようなものを作り始める。
「よせ!やめろ!自爆するつもりか。自殺行為だ」
レオナードが慌ててそう言った。
「まあ、この部屋の中で爆発しても私だけは多分守れるわ」
パンドールはそう言いながら両手の中の炎の玉が徐々に膨らんでいく。大きくなっては収縮し、そうやって繰り返し圧縮されていく。小さいけれど、収縮直前の恒星のような赤黒い球体だ。
「それを撃った後どうするのですか?身を守れるのですか?」
私は念のため尋ねる。
「大丈夫よ。爆発までしばらくかかるから。この男が作る氷の壁で防いでもらうわ」
「一度試したことがあるのですか?」
「この大きさのはないわねえ。その時は広い場所でテストしたし、魔力量も少なかったし、魔法も強化してなかったしねえ」
パンドールは妖しげな笑みを浮かべてそう言った。その笑いは炎のせいもあるが、気味が悪いくらい狂気に満ちていた。
「私が降参と言ってもやめませんよねえ」
私は、両手をあげて降参の仕草をする。
「当たり前じゃない。あなたにされた仕打ちは絶対に忘れないわ。だからここで死んでちょうだい」
相変わらず邪悪な微笑みだ。
「私まで巻き添いにするつもりか」
レオナードが慌てている。
「だからあなたは氷の壁を作ってちょうだい。大丈夫。死なないわよ」
そう言ってどんどん炎を燃やし続け火球が大きくなると圧縮してまた大きくしていくのを繰り返している。
「わかりました。この方をその氷の壁に入れてあげてください。このままだと死んじゃいますから」
「あらいい覚悟ね。レオナード。あなた、その女を部屋の隅に連れて行って壁を作る用意をして」
パンドールはそう言いながら自分もシールドの隅に移動して、レオナードがメリカイを引きずって同じ隅に行った。
「あなた余裕ねえ。本当に死んじゃうかもよ」
「しかたないですよ。あなたの自業自得としてもこれだけ恨まれればねえ」
「ええ、死んでちょうだい」
パンドールの手の中の炎の玉は徐々に大きくなり、両肩よりも大きくなり、それを天に抱え上げるように持ち上げ、そして私に投げつけた。
無音でそれは部屋の中心で爆散して、部屋中に炎を余すところなく燃え広がる。彼らは、部屋の隅に氷の壁を天井まで張り巡らし、炎をしのいでいる。やがてその氷にひびが入り一瞬にして砕け散り、彼らもまた炎に焼かれている。そうして炎がおさまり、透明なシールドがすすで真っ黒になったが、照明は生きている。なぜだろう。不思議な空間だ。ああ、天井まで透明なシールドが張ってある文字通りガラス張りの檻だったようだ。
煤だらけのガラスの檻の中で、唯一煤にまみれていないところがあった。私の立っている場所と私だ。そして部屋の隅には瀕死の魔法使い達と死んでいるかもしれない女剣士が倒れている。私は、彼女らに近づき、煤だらけの女剣士の脈をとり、生きていることを確認する。
「そんな・・・どうして無事なの」
パンドールは、息も絶え絶えに尋ねる。
「私は、重力使いなのですよ。あの恒星の末期のような状態のあの火球をさらに圧縮して、闇の空間に放り出しました。もしかしたら、どこかで超新星爆発して恒星ができているかもしれませんねえ。と言っても何を言っているかわかりませんでしょうけど」
「だけど、爆発したじゃない」
「ええ、あの爆発を圧縮するときに少し失敗しました」
私は両手を見せる。黒く焦げている。
「負けたわ。もう恨む気持ちも失せたわ。さようなら。私はこれまでにする。もう二度とあなたとは会いたくない。たった今そう思ったわ」
怯えた目で私を見て両肩を抱いて震えている。
「私もこんな狭い空間でこんな危険な魔法を使う人とは、二度と会いたくないですねえ。さて、そちらの魔法使いさんはどうですか」
彼は、私を見ることもなく背中を向けて怯えている。私は3人に薬草を胸や背中に貼り付ける。
「私の手持ちも使い切りましたので、あとは自分の生命力を信じてくださいね。信じる者は必ず生き残れます。希望を捨ててはいけません」
私は立ち上がり、ガラスの向こう側にいるあの男に声をかける。
「終わりましたよ。あなたにとって好ましくはない結果でしょうけど」
私が言うと、煤けたガラスが消えて、視界が明るくなる。そして部屋の中も白い空間に戻り、そこにいた3人も一緒にどこかに消えた。
「好ましくはない?いいえ。薬草を使い果たさせた。それだけでもかなり有利になりましたよ」
ちょっと引きつった顔で優男は笑って言った。
「まだ何かやるつもりですか。あなたは手を出せないのでしょう?相手は・・・」
私は言いかけて、彼の後ろに女性がいるのを見た。
「はい。次の相手はいますよ。ここにね」
そこには、本当に見知った人がいました。忘れたくても忘れられない人が。
「どうも~久しぶり~私の愛しい旦那様~」
そう言って手を振るのは、エースのジョーだった。
「おや、お久しぶりです。あなたとはもう二度とお会いしたくなかったのですがねえ」
私は心底そう思った。だって戦いたくないです。あの人の過去を知ってしまったから。
「あら?私は会いたかったわ、この人に記憶を戻してもらってからは特にね。せっかく私が愛して殺そうと思っても、死ななかった理想の恋人が出来たのですもの、狂おしいほどに会いたかったわ。そうそう、魔法使いの里も記憶を封印するなんてひどいと思わない」
「どうやって里から出られたのですか」
「私はいたって普通の魔法使いなのよ。普通に更生して里を出たのよ。里を出てすぐこの人に会ったの。彼にとっては記憶の封印の解除なんて簡単だったみたいね」
「いつ頃出てきたのですか」
「ここに来る少し前ね。すぐにあなたの所に飛んでいきたかったけど、あなたも忙しそうに歩き回っていて、すれ違っていたのよ。ここにいれば必ず来ると言われて。楽しみにしていたわ」
「私としては、本当に会いたくなかったのですよ」
「ひどいわねえ。でも、今回はたったひとりで来たのねえ。残念だわ。あなたが私に殺されるところを彼女たちに見せたかったのに。彼女たちの誰よりも私が、あなたの一番近くに居続ける事になるのを見せつけたかったのにね」
ジョーはそう言って普通に笑っている。
「遠慮しておきます」
「積もる話もあるでしょうけど、今度は肉体言語ってやつで語り合ったらどうですか」
優男は、いい加減してくれという感じで会話を切った。
「さっきの戦闘を見て悲しくなっちゃった。だって、私と戦ったときより、全然おとなしかったんですもの。だから私とは熱く語り合いましょう?」
「先ほどの戦闘で私の魔力量は、かなり消耗しているのですが、別の機会になりませんかねえ」
「いやよ。そこが良いんじゃない。あなたの生死をかけたギリギリの戦い。そのために前座が頑張ってくれたんじゃない」
「あなたもその男も悪趣味ですねえ」
「ええ、あなたを愛してしまうくらいですもの」
「それは・・・確かに悪趣味かもしれませんね」
「お二人とも、この戦いに私は興味はありません。ただ黙ってここで見ていますね」
「それはいただけないわねえ。観覧料を払ってもらうわ」
彼女は、その男に何かを投げつけたように見えた。しかし、男はそれをかわした。
「何をするんですか、記憶を戻してあげて、こうしてセッティングしてあげた私に」
「感謝はしているけど、こういう形で会いたくはなかったの。だからね」
彼女はそう言って、いつの間にか手に持っていた彼の左手首を彼に放り投げる。
「え?私の左手?」
優男は、彼女が放り投げた自分の左手の手首を右手で条件反射で受け取り、交互に手首のなくなった左腕と右手に持った左手首を見ている。
「とっとと治療に帰りなさいね。ここは私と私の愛する人の二人だけの愛の部屋なのだから」
「はいはい。では、どちらが死んでもかまいませんので、お二人で楽しんでください。では」
彼は、青ざめた顔でそう言って。そこから消えた。彼女は私を見て微笑んだ。
「さあ、邪魔者は消えたわ。楽しみましょう」
いままでの優しい微笑みとはうって変わった憎悪の微笑みを私に向ける。そして、私にとっての第2ラウンドが始まった。
Appendix
ただいま帰りました。
おうお帰りカイ。なんや新入りも連れて来たんかい
初めまして、名前はジンになりました。よろしくたのんます。
ずいぶん早い戻りやったなあ。だんなはどうした?
途中でこいつを連れ帰れと言われましてん。せやから命令に従いました。
それはしゃあない。だんなの命令は絶対や。
そやな
ジン。お前メスやな。
おや、わかりますか。
ああ、男言葉は使っていてもわしにはわかる
匂いはオスっぽいですけど
いいや、多分メスの匂い消してるな
はあ、オスがうるさいと思っていたらなんかできるようになったんですよ
ほう、珍しいやっちゃ。
おまえ、それならなおさら、あの筋肉男のところに行かされるわ
え?そうなんですか?
その話はあとや。とりあえず今日は二人とも休め、かいばを食え。ジンは明日テストや。
よろしくお願いします
大丈夫ですよ。わしと走ってようついてきましたから
なら大丈夫そうやな
まあ、しばらくはゆっくりせえ
はい
続く
○救助作業と余計な戦闘
「カイが馬を連れて戻ってきています~」
「エルフィ確認できたか。道まで迎えにいってやれ。あやつもあれからパタッと連絡を寄越さなくなりおって、無線機があるんだから連絡くらいしろ」
「待つしかありません」メアがすまなさそうにそう言った。
「そうね、このまま普段どおりの生活を続けましょう。それがあいつがして欲しいことなのでしょうからね」
アンジーのその言葉に家族はションボリしている。
皆さんが、そんな話をしている時に、私はあの塔に到着していました。
「さて彼を救出をしましょうか。残念ながらこの事は誰にも知られてはいけなのです。ごめんなさい」
私は、キャロルの過去を確認した後、空間転移をしました。その壁の入り口付近にポイントを設置していたので、そこに空間転移しました。雪は無く、私が姿を現した瞬間に大量に雪が降り出して、もう遭難しそうです。
「やはりそうなんですねえ」
私はくだらないだじゃれをつぶやいて、ひとりで笑いながら、壁のスイッチを操作する。扉は開き、私は中に入る。背中には大きな袋を抱えて。
そこから前回と同じように最初の部屋から次の部屋に行った。しかしその部屋は、前回の形とは違っていた。
「ようこそいらっしゃいました。あなたの処刑場へ」
あのスリーピースの男、ジャミロッティとその後ろに3人立っている。
「お待ちしていましたよ。きっとここに来ると思っていましたから」
「私の行動を先読みしていましたか」
「あなたのような研究バカ・・・もとい研究熱心な方は、必ずここに戻ってくると思いまして。それに、愛する女性の父親をそのまま放っておくなんて、あなたにはできませんものねえ」
嫌みっぽく優男が言った。
「そうですねえ、確かにうかつでした。あの時無理にでも連れて帰るのでした」
「そんなことをすればすぐにでも私に知られますよ。もっとも今回私に遭わなければあなたも彼も無事に元の世界に戻ることができたでしょうけど。残念ですねえ」
「おい、いい加減にしろ。さっさと戦わせろ」
横の甲冑を着た女が言った。
「そうですよ、あの時の屈辱を晴らすために私はここにいるのですから」
優男の反対側の僧侶風の魔法使いが言った。どちらも見覚えがある。もう一人の女魔法使いも見たことがある。しかも同じ事件の時に会っている。
「まあ、そうあせらずに。3名とも自己紹介をされてはいかがですか」
優男はニヤニヤ笑いながらそう言った。下品!
「そうですねえ、忘れてしまっているので、是非お願いします」
「貴様!俺の顔を忘れたとは言わせんぞ」
甲冑の女は手に持った剣を振り上げて私に向けて言った。
「そうですねえ、顔には見覚えはありますが、名前を聞いた覚えがありませんね。いったいどちら様ですか」
「俺は、イオン王女様の剣としてそばにお仕えしている。メリカイ・サドーファだ」
「ああ、やっと名前がわかりました。そういう名前だったのですねえ。はて、王女様のそばにいなくて良いのですか?」
「お前のせいだろう。お前に負けたから王女様から見捨てられたんだよこのくそ野郎が」
吐き捨てるようにそう言って、剣を振り回す。
「下品ですねえ。そんな言葉遣いでは、姫様もそばに置きたくないですよね」
「いちいちうるさい。全部お前のせいだ。お前が・・・お前が・・・」メリカイがなぜか地団駄を踏んでいます。
「まあまあ、残るお二方も自己紹介した方が良いのでは?」
優男が落ち着かせるように言った。
「ああ、あの時は名乗りもしなかったがな。この卑怯者。よく聞け。私の名はレオナード・ヴォルカ、主任国家魔法士だ」
「元でしょう?」
隣の女が笑いながら言った。
「お前だって勇者の仲間から外されたはぐれ者じゃないか」
「そうなのよ、魔法使いさん初めまして。私は、パンドール・ルージェ。もっともあなたにとっては、お久しぶりなのよねえ」
「そうですね。少しは改心しているかと思ったのですが、どうやらだめみたいですね」
「ええ、王女様に私の悪行がばれてね。そこの狂犬とプライドだけのバカ魔法使いと一緒に国から追放になったのよ。そうそう、しばらく大きな魔法が打てなくなったのって、あなたが指先に仕掛けたんですってね。しばらく病気になったのかと心配になったわ。その心配した分と苦労した分そっくりあなたに仕返しさせてもらうわ」
「3人とも逆恨みですか。自業自得という言葉を知っていますか?」
「そんな言葉知らないわねえ」パンドールと名乗った女魔法使いはそう言って笑った。
「いいから早くやらせろ。俺の力がどうなったか見せつけて、お前をズタズタにしてやる」
「そうですよ。私の本当の魔法を見せてあげましょう」
「まあ、そういうことだから。死んで欲しいのよねえ」
その3人の怒りの様子を私はぽかーんと見ています。どうもやる気になりません。私はとりあえず抱えてきた荷物を壁際に置いてから、部屋の中央に戻った。
「では、私はしばらくこの部屋から出ていましょうか」
そう言って彼は、次の部屋への通路の入り口の所に移動しました。私と3人の周囲に壁に沿って透明なシールドが作られる。さらに彼のところには、椅子が床から現れて、そこに座ってこちらを見ている。
「この部屋は、何をしても大丈夫ですから安心して戦ってください。どちらかが倒れるまではこのままにしておきますから。もちろん時間制限もありません」
嬉しそうに優男が言った。
「この人達に何か強化魔法をかけていませんか?」
「もちろん、本人達の望み通りに強化してあります。お気をつけて」
「あまりやりたくありませんねえ」
「いい加減にしろ。いくぞ」
そう言って女剣士が突進してくる。ほとんど同時にパンドールと名乗った女の魔法使いが、火炎魔法を女剣士の横から打ってくる。
そして、女剣士の反対側からは、レオナードと名乗った男の魔法使いが、私の下に魔方陣を描き、床から氷の針を突き上げる。私はその氷から逃げるように体勢を少し変え、女剣士の剣をかわした。
「貴様、私の剣から逃げるな」
「嫌ですよ。それにしても、強化されたとはいえ、そんな剣さばきでは誰も倒せませんよ」
「うるさい!」
そう言ってメリカイと言う女騎士は、私に向き直り、剣を構えてから突き進んでくる。その間にも、横にいる2人が炎の魔法やら氷の魔法やらで私を攻撃してきて、私は、両手を使ってそれぞれの魔法をシールドで受けて、はじき返している。
何度か女剣士の剣をかわし、それでもその女剣士は、徐々に踏み込みが深くなり、私の体に剣がかすり始めている。
2人の魔法も徐々に威力を増してくる。私の防御魔法が耐えられなくなりそうになり、女剣士の剣を左腕で防御せざるを得なくなり、ついに氷の魔法を躱しきれずに頬をかすめていった。
「いけるぞ」レオナードの声がする。
私は、少しずつ後ろに下がりながらその攻撃をかわし、女剣士の剣をかわし、動きが単調になったところで急に炎が下から吹き上がった。一瞬私の姿が見えなくなる。
「やったか?」
炎がおさまり、私の姿が現れると、剣の攻撃が鋭くかつ速度を増して私の体を切り裂こうとしてくる。そして、上下左右から魔法攻撃を間断なく受け続け、ついには後ろに下がれなくなってしまう。
「さて、もう逃げられないぞ。死ね」
メリカイは、剣を構えて胸元を狙い突進してくる。私は避けようとするが、氷の壁と炎の壁に塞がれ、左右どちらにも逃げ場がなくなった。
ガキィィィ
鈍い音とともに剣の突進が止まる。私は両手の指からワイヤーを出して、その剣を絡めて動きを止めた。剣にワイヤーが食い込んでいる。ギリギリと互いの力で押し合う状態になった。
「「その瞬間を待っていた」」
男女の魔法使いが同時に叫び、動けない私に巨大で鋭利な氷を上から落とし、さらに抑えている剣に沿って炎がほとばしり、私に向かってくる。
氷は、私を貫くように下に落ちていき、剣を抑えていたワイヤーを持つ手も炎で見えなくなる。ワイヤーで止められていた剣も支えを失い、私に向かって動きだして私のいたところ落ちてきた氷の表面を削っている。私の立っていた位置に氷は床に突き刺さった。
「奴はどこだ」左右を見ても私はいない。私は氷の後ろから出てくる。
「壁際に追い詰めていて後ろに逃げ場はなかったはず。壁の中にでも入っていたのか」
「いいえ、壁際までまだ距離がありましたよ」
私は、いつもの壁フェイクをそこで使っていた。
「壁に張り付いていただろう」
「あれは、私が自分で作ったシールドですよ。壁まではまだ隙間があったのです」
「姑息な真似を」
「私はいつでも姑息ですよ」
私はそう言って、一瞬で女剣士のところに移動し、剣を持つ腕に触る。剣を持った腕がだらりと下に下がる。
「何をする。うっ剣が重い。貴様!何をした!」
メリカイは、手から剣がこぼれ落ちていく様子と私を交互に見てそう叫んだ。
「いや、あなたにかかっていた魔法を解除したのです」
「なんだと!うあああああああ。なんだこの痛みは!」
女剣士は、剣を落とし両肩を自分で抱きしめるようにして膝をついた。
「魔法で筋力を上げていた負荷に筋肉が耐えられなくなっていたのですよ。あと数分そのままだったら、あなたの手足は破裂していました」
「そんなばかな。訓練中にはそんなことにはならなかったぞ」
「練習の時よりもかなり無理していませんでしたか?たぶん、限界に近い使い方をしていたのではありませんか」
すでに筋肉や腱がブチブチと切れた音がする。両肩を抱えていた腕がダラリと下がる。膝から崩れ落ちたあと腹ばいになり、体を動かそうと、もがいているが両手両足共に変な方向を向いている。
「どうしたんだ、手も足も動かせない、痛みもない」
倒れているので表情は見えないが、その声には絶望が感じ取れる。
「とりあえず最低限の治療はしましょう」
私は、服の中にあった薬草を両手両足に貼り付ける。しかし、効果はあまり出ているとは言えず。立ち上がろうにも立ち上がれずにいる。
「練習中の疲労が蓄積していますね。そのまましばらく寝ていてください」
私は立ちあがり、二人の魔法使いを見る。
「さて、続きをしますか」
「も、もちろんだ。いくぞ」
男の魔法使いは、詠唱を初めて私の足下に魔方陣を作り、私を拘束したようだ。
「以前もこの魔法を使いましたよねえ」
「ああ、拘束は私の得意とする魔法だからな。どうだ動けまい。その状態で氷づけにしてやる」
嬉しそうに笑いながらレオナードは言った。
私の周囲を氷の壁で囲い、さらに蓋をする。そこに女の魔法使いが隙間から炎を注ぎ込む。しかし、中に炎が入ってくるとすぐ消えてしまう。何度も炎を中に注ぎ込むがすぐに消える。私は、自分の後ろに穴を開け、炎が通りやすくした。炎は、今度は私にまで到達して反対側まで貫通していく。ただし、私を避けて流れていく。
「どういうことだ」男の魔法使いは、氷でさらに壁を作り私を完全に閉じ込めた。
私は拘束を解き、その氷に手を当てる。氷の中に振動が起き、一瞬にして粉々に破壊される。
「なんだと」
男の魔法使いは驚いているが、女の魔法使いは、すぐさま炎の魔法を使って私を火だるまにする。しかし、私はどこにも焦げ跡はない。何回も繰り返すが一向に燃えもしなければ焦げもしない。
「もう気が済みましたか?」
「どうして攻撃が通じないのかしら」
パンドールが急に丁寧に尋ねてくる。
「残念ですが、私の周囲に風を起こして、氷を常に削り取り、炎は、気流のおかげで私まで届かないようにしています。あなた達程度の威力の魔法では、私に攻撃を当てることはできないのです」
「風でそんなことができるの?」
「まあ、正確には、重力差を発生させて気圧を変化させ、真空状態を作っています。と言ってもわからないでしょうけどね。このような閉じた空間ではかなり有効なのですよ」
私は、風の渦を手の中に作ってみせる。
「さて、それでも続けますか」
「まあ仕方が無いけど、ここで炎ではなく爆発させればそんなものは無効にできるわよねえ」
パンドールは、両手を胸のあたり置いて、両手のひらの中に何か玉のようなものを作り始める。
「よせ!やめろ!自爆するつもりか。自殺行為だ」
レオナードが慌ててそう言った。
「まあ、この部屋の中で爆発しても私だけは多分守れるわ」
パンドールはそう言いながら両手の中の炎の玉が徐々に膨らんでいく。大きくなっては収縮し、そうやって繰り返し圧縮されていく。小さいけれど、収縮直前の恒星のような赤黒い球体だ。
「それを撃った後どうするのですか?身を守れるのですか?」
私は念のため尋ねる。
「大丈夫よ。爆発までしばらくかかるから。この男が作る氷の壁で防いでもらうわ」
「一度試したことがあるのですか?」
「この大きさのはないわねえ。その時は広い場所でテストしたし、魔力量も少なかったし、魔法も強化してなかったしねえ」
パンドールは妖しげな笑みを浮かべてそう言った。その笑いは炎のせいもあるが、気味が悪いくらい狂気に満ちていた。
「私が降参と言ってもやめませんよねえ」
私は、両手をあげて降参の仕草をする。
「当たり前じゃない。あなたにされた仕打ちは絶対に忘れないわ。だからここで死んでちょうだい」
相変わらず邪悪な微笑みだ。
「私まで巻き添いにするつもりか」
レオナードが慌てている。
「だからあなたは氷の壁を作ってちょうだい。大丈夫。死なないわよ」
そう言ってどんどん炎を燃やし続け火球が大きくなると圧縮してまた大きくしていくのを繰り返している。
「わかりました。この方をその氷の壁に入れてあげてください。このままだと死んじゃいますから」
「あらいい覚悟ね。レオナード。あなた、その女を部屋の隅に連れて行って壁を作る用意をして」
パンドールはそう言いながら自分もシールドの隅に移動して、レオナードがメリカイを引きずって同じ隅に行った。
「あなた余裕ねえ。本当に死んじゃうかもよ」
「しかたないですよ。あなたの自業自得としてもこれだけ恨まれればねえ」
「ええ、死んでちょうだい」
パンドールの手の中の炎の玉は徐々に大きくなり、両肩よりも大きくなり、それを天に抱え上げるように持ち上げ、そして私に投げつけた。
無音でそれは部屋の中心で爆散して、部屋中に炎を余すところなく燃え広がる。彼らは、部屋の隅に氷の壁を天井まで張り巡らし、炎をしのいでいる。やがてその氷にひびが入り一瞬にして砕け散り、彼らもまた炎に焼かれている。そうして炎がおさまり、透明なシールドがすすで真っ黒になったが、照明は生きている。なぜだろう。不思議な空間だ。ああ、天井まで透明なシールドが張ってある文字通りガラス張りの檻だったようだ。
煤だらけのガラスの檻の中で、唯一煤にまみれていないところがあった。私の立っている場所と私だ。そして部屋の隅には瀕死の魔法使い達と死んでいるかもしれない女剣士が倒れている。私は、彼女らに近づき、煤だらけの女剣士の脈をとり、生きていることを確認する。
「そんな・・・どうして無事なの」
パンドールは、息も絶え絶えに尋ねる。
「私は、重力使いなのですよ。あの恒星の末期のような状態のあの火球をさらに圧縮して、闇の空間に放り出しました。もしかしたら、どこかで超新星爆発して恒星ができているかもしれませんねえ。と言っても何を言っているかわかりませんでしょうけど」
「だけど、爆発したじゃない」
「ええ、あの爆発を圧縮するときに少し失敗しました」
私は両手を見せる。黒く焦げている。
「負けたわ。もう恨む気持ちも失せたわ。さようなら。私はこれまでにする。もう二度とあなたとは会いたくない。たった今そう思ったわ」
怯えた目で私を見て両肩を抱いて震えている。
「私もこんな狭い空間でこんな危険な魔法を使う人とは、二度と会いたくないですねえ。さて、そちらの魔法使いさんはどうですか」
彼は、私を見ることもなく背中を向けて怯えている。私は3人に薬草を胸や背中に貼り付ける。
「私の手持ちも使い切りましたので、あとは自分の生命力を信じてくださいね。信じる者は必ず生き残れます。希望を捨ててはいけません」
私は立ち上がり、ガラスの向こう側にいるあの男に声をかける。
「終わりましたよ。あなたにとって好ましくはない結果でしょうけど」
私が言うと、煤けたガラスが消えて、視界が明るくなる。そして部屋の中も白い空間に戻り、そこにいた3人も一緒にどこかに消えた。
「好ましくはない?いいえ。薬草を使い果たさせた。それだけでもかなり有利になりましたよ」
ちょっと引きつった顔で優男は笑って言った。
「まだ何かやるつもりですか。あなたは手を出せないのでしょう?相手は・・・」
私は言いかけて、彼の後ろに女性がいるのを見た。
「はい。次の相手はいますよ。ここにね」
そこには、本当に見知った人がいました。忘れたくても忘れられない人が。
「どうも~久しぶり~私の愛しい旦那様~」
そう言って手を振るのは、エースのジョーだった。
「おや、お久しぶりです。あなたとはもう二度とお会いしたくなかったのですがねえ」
私は心底そう思った。だって戦いたくないです。あの人の過去を知ってしまったから。
「あら?私は会いたかったわ、この人に記憶を戻してもらってからは特にね。せっかく私が愛して殺そうと思っても、死ななかった理想の恋人が出来たのですもの、狂おしいほどに会いたかったわ。そうそう、魔法使いの里も記憶を封印するなんてひどいと思わない」
「どうやって里から出られたのですか」
「私はいたって普通の魔法使いなのよ。普通に更生して里を出たのよ。里を出てすぐこの人に会ったの。彼にとっては記憶の封印の解除なんて簡単だったみたいね」
「いつ頃出てきたのですか」
「ここに来る少し前ね。すぐにあなたの所に飛んでいきたかったけど、あなたも忙しそうに歩き回っていて、すれ違っていたのよ。ここにいれば必ず来ると言われて。楽しみにしていたわ」
「私としては、本当に会いたくなかったのですよ」
「ひどいわねえ。でも、今回はたったひとりで来たのねえ。残念だわ。あなたが私に殺されるところを彼女たちに見せたかったのに。彼女たちの誰よりも私が、あなたの一番近くに居続ける事になるのを見せつけたかったのにね」
ジョーはそう言って普通に笑っている。
「遠慮しておきます」
「積もる話もあるでしょうけど、今度は肉体言語ってやつで語り合ったらどうですか」
優男は、いい加減してくれという感じで会話を切った。
「さっきの戦闘を見て悲しくなっちゃった。だって、私と戦ったときより、全然おとなしかったんですもの。だから私とは熱く語り合いましょう?」
「先ほどの戦闘で私の魔力量は、かなり消耗しているのですが、別の機会になりませんかねえ」
「いやよ。そこが良いんじゃない。あなたの生死をかけたギリギリの戦い。そのために前座が頑張ってくれたんじゃない」
「あなたもその男も悪趣味ですねえ」
「ええ、あなたを愛してしまうくらいですもの」
「それは・・・確かに悪趣味かもしれませんね」
「お二人とも、この戦いに私は興味はありません。ただ黙ってここで見ていますね」
「それはいただけないわねえ。観覧料を払ってもらうわ」
彼女は、その男に何かを投げつけたように見えた。しかし、男はそれをかわした。
「何をするんですか、記憶を戻してあげて、こうしてセッティングしてあげた私に」
「感謝はしているけど、こういう形で会いたくはなかったの。だからね」
彼女はそう言って、いつの間にか手に持っていた彼の左手首を彼に放り投げる。
「え?私の左手?」
優男は、彼女が放り投げた自分の左手の手首を右手で条件反射で受け取り、交互に手首のなくなった左腕と右手に持った左手首を見ている。
「とっとと治療に帰りなさいね。ここは私と私の愛する人の二人だけの愛の部屋なのだから」
「はいはい。では、どちらが死んでもかまいませんので、お二人で楽しんでください。では」
彼は、青ざめた顔でそう言って。そこから消えた。彼女は私を見て微笑んだ。
「さあ、邪魔者は消えたわ。楽しみましょう」
いままでの優しい微笑みとはうって変わった憎悪の微笑みを私に向ける。そして、私にとっての第2ラウンドが始まった。
Appendix
ただいま帰りました。
おうお帰りカイ。なんや新入りも連れて来たんかい
初めまして、名前はジンになりました。よろしくたのんます。
ずいぶん早い戻りやったなあ。だんなはどうした?
途中でこいつを連れ帰れと言われましてん。せやから命令に従いました。
それはしゃあない。だんなの命令は絶対や。
そやな
ジン。お前メスやな。
おや、わかりますか。
ああ、男言葉は使っていてもわしにはわかる
匂いはオスっぽいですけど
いいや、多分メスの匂い消してるな
はあ、オスがうるさいと思っていたらなんかできるようになったんですよ
ほう、珍しいやっちゃ。
おまえ、それならなおさら、あの筋肉男のところに行かされるわ
え?そうなんですか?
その話はあとや。とりあえず今日は二人とも休め、かいばを食え。ジンは明日テストや。
よろしくお願いします
大丈夫ですよ。わしと走ってようついてきましたから
なら大丈夫そうやな
まあ、しばらくはゆっくりせえ
はい
続く
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