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第29話 怪獣退治
第29-2話 下準備と生態調査
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大地を蹴って素早いジャンプ、ジャガーのキックが敵を~・・裂かなかった
○前回の戦闘をおさらい
「戻ったぞ」
「何かわかりましたか?」
「怪獣のせいかはわからんが、岩が風化しているらしい」
「は?」
「岩の中を掘り進めるワームなんじゃと」
「そうなのですか」
「ああ、そのおかげで砂漠化が進行しているらしい。止めねばこの先、あの町まで砂漠化が進み、住む土地がなくなるわ」
「モーラ。前回の攻撃の様子を見る前に砂の中の怪獣の動きを確認してください」
「ああやってみるか」モーラは膝をついて右手を地面に当てている。しばらくして。
「どこにもおらんな。どこへ行った?土の中でわしの探索にひっかからないなどありえんがなあ」
「わかりました。では前回の攻撃の再現をしてもらいます。怪獣役は私が」
「どうするつもりなのか?」
「砂の上で土人形を作ります」
「わしがやろうか?」
「じゃあお願いします。土人形を作るだけですよ」
そうして、砂漠からかなり離れたまだ砂漠化していない土地に移動して、前回の戦闘を再現しました。
「準備できました。始めます」
「このぐらいの高さですかー」
私はモーラに土人形を作ってもらいました
「もうちょっと大きいです」
「このぐらいですか?」
「そのぐらいです。見てもいないのにずいぶんあのワームに似ているのですが?」
「ワームなんてそんなものじゃ」
「そうですか。そこにジャガーさんが突進しました」
実際にジャガーが走って行ってパンチを入れる真似をする。
「お腹のあたりにパンチを入れると少し後ろにのけぞりましたが、すぐジャガーさんを食べようとしました」
土人形なのですがモーラがすこしだけのけぞらせた後、前の方に頭を曲げました。
「そこで、雷撃を打ち込みましたが、ひるむ事無くジャガーさんを口に入れかけました。ジャガーさんは、その口の上唇に掴まり、頭を上げた怪獣から跳躍して、怪獣の顔を蹴って怪獣の顔が横に向きました」
ジャガーは飛び上がって土人形の口を掴もうとしましたが、土なので簡単に崩れて掴めずにそのまま落下します。おお、うまく着地しました。
「その鼻先をレティシアさんが炎と風の混合魔法で焼きましたが、煤が着いただけで動きに変化はありませんでした」
実際にレティさんが土人形を焼きましたが、確かに黒くなっただけで崩れませんでした。モーラやりますね。
「ジャガーさんが着地したところに怪獣が突き進んで来たので、拘束魔法をかけましたが一瞬で拘束が解けて、怪獣は砂に潜りました。
しばらく様子を見ていたら、再び出てきたので、ジャガーさんが同じように攻撃を仕掛けますが、やはり効果がなく、今度は拘束魔法から闇魔法で闇に落とそうとしましたが、地面の下の体が予想以上に大きくて闇魔法が解除されました」
さすがに同じ攻撃なのでモーラは何もしないで、ジャガーにパンチを打たせて、穴を開けさせています。
「そこで怪獣が土に潜って出てこなくなりました」
モーラはそこで、土人形を崩して、地面に吸い込ませるようにして消しました。
「戦闘時間は何分くらいですか?」
「長くても5分くらいかと思います」
「3分くらいの可能性はありますか?」
「その位かもしれません」
「ありがとうございました。すぐそちらに戻りますね」
「さて、誰か弱体化魔法を持っていませんか?」
私の言葉に全員が頭を左右に振る。
「では武器の強化はできますね」
一部の魔法使いが頷いている。
「相手はワームなので目を潰してもしょうがないので、鼻を潰しましょう」
手元に頭の部分を作って、目と鼻と口を描いて、鼻を示しました。さっきも言っていましたが、やはり同じ形状のワームだったのですね。
「外皮が硬いのですが、どこかを一点集中で傷をつけてそこから内臓に向けて魔法をぶち込むしかないですねえ」
体の形状を地面に作って、さらに蠕動する節を作ってそこが伸びているところを指しました。
「もう一つは、頭に乗って脳のある位置に振動波をぶち込んで脳を破壊するかですかね」
「その両方をやるかしかないですねえ」
「もう少し考えた方がいいんじゃない?」
「そうしましょう」
「しかし、相手の姿はわしでも見つからぬぞ」
「たぶん彼との連携でなんとかなるでしょう」
私は地震を起こした魔法使いさんを見て言いました。
○今日のあなたのラッキーポイントは周辺の岩場です。確認するときっと運命の出会いがありますよ
私は、周辺への影響を考えて周囲を回っている。重力制御を使って、空をサーフィンするように飛んでいる。砂漠を挟んで町のある緑地帯の反対側には、砂漠化を抑えるように岩場があり、徐々に岩山になって、岩山にも次第に緑が増えている。
手前の方は岩と岩の間にしがみつくように草が生えていて、 傾斜に従って草が増えている。しばらくは苔のように草原が広がり、山の上の方にやっと森林が見える。水源が山の方にあるのかもしれないが、この草たちはわずかな岩の間の土にしがみつくように生えていて、きっと自分たちの枯れた体を肥料として土に替えて生き延びているようにも見える。
そんな風景を見回していたら、屹立した岩場のところに不自然な影ができている部分があった。私はゆっくりとそこに近付いて、手前で重力制御を解除して静かに降り立った。そこはレンガ造りのように正確に岩を組み立てた洞窟で、どう見ても造られた穴だ。一応探知をしてみるが生物の反応はない。指先にちりを集めて火を灯し、その灯りを頼りに中を歩く。天井が崩れているのか、ところどころに岩が転がっていて、ぶつかって転びそうになるので、ゆっくりと歩を進めている。
途中には宮殿のような大広間と周囲に進める廊下があったが、ひときわ大きな入り口が正面にある。「あまり広いようなら一度戻りますかねえ」
そうつぶやいて私は歩を進める。もちろん探知の魔法を使ってみたが、生物は確認できなかった。
切り立った断崖は、実はこの建物だったらしく、上に続く長い階段があり、途中に部屋もあったが、気にせず一気に上に進んだ。しばらくはダラダラと階段が続くので、そろそろ心配してエルフィが泣き始めるかもしれないと思った頃、ようやく扉が見えた。
私はノックをしてから、すぐにその扉を開けようとした。もちろん誰もいないと思っていたから。
「久しぶりの来客とは。どなたかな」階段に響く声に扉にかけた手が止まる。
「危害は加えるつもりはない、入ってきてくれ。もっとも初めて会った者の言葉など信用できぬだろうがな」私はその言葉につられて扉を開ける。
内部は真っ暗で一瞬罠かと思ったが、すぐに部屋の周り壁に光が灯る。少しだけ手をかざして光を遮り、周囲を見渡す。
「何も仕掛けはしていないよ。そんな気力もない。ようこそ私の家に」
「突然お邪魔してすいません。気になる洞窟を見つけてしまい興味本位でここまで来てしまいました」
まだ目が光りに慣れていないので、その場でお辞儀をした。
「構わんよ。むしろ歓迎する。ここに客など何十年ぶり、いや何百年ぶりだろうか」
やっと光に慣れて正面を見ると、そこにはローブを着て座っている男がいた。しかし体を動かす様子がない。
「初めまして私の名前は・・・」
「魔法使いは普通名乗ってはいけないのだろう?」
「失礼しました。私を魔法使いと見破られるという事はあなたも魔法使いなのでしょうか」
「魔法使いと言えばそうなるか。すでに魔法使いのなれの果てだがな」自嘲気味に笑っているが、その顔が着ているローブにできる影のせいで良く見えない。口が動いているようだが、 違和感がある。
「なれの果てですか?」
「ああわしはすでに死んだ者。巷ではアンデッドとも呼ばれているらしい。まあ魔法を使う死人だからリッチーに属している者らしい」
「それは生物探知にひっかからないわけですねえ」
「探知魔法はおぬしが打ったものか。なかなかきれいな魔法であった。さぞかし研鑽を積んでいるのであろうなあ」
「残念ながら若輩です。独学ですし。でもお褒めいただいてありがとうございます」
「若輩と言ったが。 おぬし転生者か」
「隠すこともないでしょう。そうです。あなたにとっては最近この世界に来ました」
「勉強熱心な者なのだな。さて、ここには興味本位できたと言ったが、 面白いものなどここにはないぞ?」
「実はかくかくしかじか」
「ああ、環境への影響調査か」
「最悪の場合、こちらへも被害が及ぶかもしれませんので」
「わしのところは問題ないぞ。物理攻撃にはたぶん耐えるだろう」
「ありがとうございます。会って早々で申し訳ありません。そろそろ戻りませんと家族が心配して大変なことになりそうなのです。またこちらにお邪魔してもよろしいでしょうか?」
「ああ、面白そうな話も聞けそうなのでな。あまり間を置かずまた来てくれぬか。それまでに少しは体を動かす練習をしておくよ」
「体をうごかす練習ですか?」
「そうだ、死ねぬというのも問題でな、こうして座ったままでいると、いつの間にか体の動かし方を忘れているのだよ」
「わかりました。それと何人か連れてきてもいいですか?」
「ここは狭いのでなあ。数人であれば構わないが」
「紹介したい人もいますので」
「そうかそれは楽しみじゃ」
私は一礼してからその部屋を出た。洞窟を出ると、
『旦那様~』叫び声が聞こえた。
『おういたか。珍しいな消えるとは。 どこにいた?』
「やはり魔法の結界が張ってありましたか。高名な魔法使いにお会いしていました。ぜひ皆さんに紹介したいですね」
「高名な魔法使い?」
「次回お会いするときまでの楽しみにしてください」
私は洞窟を振り返りました。そこには薄暮でもないのに飛んでいる小さな蝙蝠を見ました。
『あれがそうか?』
『リッチーと言っていました。対応は好意的でしたよ』
『うむそれならば、普段通りにしていようか』
『私たちを見ていれば、害意はないと思ってくれると思いますが』
『体を乗っ取ったりしないわよねえ』
『それはないでしょう。でも可能性はありますか?』
私は皆さんのところに戻って、怪獣退治の作戦を続けます。
翌日、すぐに私は彼の元に再び会いに行った。
「すぐに来て欲しそうだったので私一人で来ました」
「蝙蝠がわしの分身というのはわかったのだな。さすがだな辺境の魔法使い」
「おやさすがですね。情報がお早い」
「わしとてかなり経験を積んでいるのでなあ。相手のことを知るまでは慎重にもなる」
「それで私は敵ですか?味方ですか?」
「残念ながらわからん。それが今のところの答えだな」どうやら口調から笑っているようだ。
「実際のところあなたはいつからこの世界にいるのですか」
「単刀直入だな。今の人類が災害にあっているがその生き残りじゃな」
「その頃から魔法はあったという事ですか」
「そうじゃ」
「災害の原因は、神が起こしていると聞きましたが」
「災害は神が起こしている。それは本当じゃ。しかし前回のは違う」
「魔法使いの里はそうは言っていませんでしたが」
「ふん、あいつらは災害の時に田舎にいて生き残ったやつらだからな。真実を知っている者はごくわずかだろう」
「災害の原因は何だったのですか」
「魔法使い達の実験の失敗じゃ」
「にわかには信じられないのですが」
「まあ、結果的にこの世界が多少は浄化されただろう。神も納得しているのではないか。いやむしろ誘導したかもしれぬな」
「確かに。各種族とも数は減ったらしいですからねえ」
「特に魔族と人は激減したからな」
「その辺の理由を何か知っているのですか?」
「いや、わしの推測でしかないわ」
「ありがとうございます」
「おぬし解析が得意なのだろう?この魔法が解析できるか?」火の魔法を指先に灯して、その灯りに照らされて、骸骨が笑って言った。
「それは炎の魔法ですね」
「ああそうだ。わかるか?」
「残念ながら。神代文字にも魔族の文字にも見えますが、どちらにも共通点がありませんね」
「なるほど。よく勉強している」
「そういえば、その文字には見覚えがありまして、遺跡に書いてあった文字だと思いますね」
「遺跡がまだあるのか」
「ええ、私の村のそばに何か所かあります」
「塔はあるのか?」
「残念ながら見つかっていません」
「そうか。あれには手を出すな。触らない方がいい。塔は見つけてはいかん。見つかったら触るな」
「それが災害の直接原因ですか」
「ああ失敗作だよ」
「関わっていたのですか」
「わしは関わっていない・・・とも言えぬな。まあ、色々あってな。わしは外されたのだよ」
「でも無事で生き残ったではないですか」
「まあな。死ねないだけだがな」その言葉は、私には自嘲気味に聞こえた。
「では、遺跡は塔が見つかるまでは安全ということですか」
「なぜ気にする?」
「近くに人が暮らしていてうんぬんかんぬん」
「起動さえしなければ安全じゃ」
○戦闘訓練を始める
「生態がわかりませんが、シミュレーションをしてみましょう」
「はーい」しかし一部の声に元気がありません。
「まだわだかまりがあるかもしれないわよ」アンジーがキャロルとエーネを見て言った。
「今回は連携が必要になりますので、その辺はドライにいきましょうね」
私はその辺はスルーしています。戦っていれば自ずと連携もしますよ。
「段取りはこんな感じです」
「ワームが砂から出てきた時に私が重量魔法で砂の上まで持ち上げて、体が全部出た時に私が砂の上に土の床を作って、砂に逃げられなくします」
「あら、モーラが手伝わなくても良いのかしら?」
「それくらいは、やってもいいが、とりあえずバックアップ要員でおるわ」
「次に土の床ができたので、拘束魔法を使えるアンジー様、フェイさん、アーシムくんが一斉に拘束を開始して、メアとパムが拘束できたところにワイヤーをかけていってください」
「しかたないわね」「了解です」「わかった」「はい」「わかりました」
「それで拘束できるのかしら?」
「一度拘束されて、しばらくしてそれを解除するくらいの力ですから、ワイヤーを追加すれば大丈夫だとは思いますが、外れるようでしたら、私がワーム全体に圧力をかけて動けなくします」
「先にそっちの方が簡単じゃない?」
「たぶん圧力を全体にかけている間に逃げ出しますよ。それか、体を自切して逃げるかもしれません」
「一気に押しつぶせばよかろう」
「土の床が耐えられないと思います」
「ああ、そっちか」
「なので固定ができたら、感覚器官を狙って総攻撃です。狙うのは鼻と口です。拘束してありますから、蠕動する時ののびている部分を狙って魔法剣でも、拳でも良いので地面に一番近い部位の一番柔らかそうな所を全員で思う存分やっちゃってください」
「魔法使いは全て単体攻撃用高威力の魔法をできれば集中して鼻の穴の奥に向かって、できれば中で爆発するタイプの攻撃をお願いします」
「鼻は両方狙いますか?」
「ディランさんとエーネは向かって右側をユーリとキャロルとレティさんは左にしましょうか、複合技は必要ありませんが、弾着が同じタイミングになるように撃ちながら調整してください」
「わかりました」
「あと、エルフィとシェフィールドさんは口の中に向かって火炎魔法の矢か爆炎魔法の矢を放ってください。できるだけ奥を狙って」
「はい」
「大体そんなところですかねえ」
「バーナビー君はどうするの?」
「モーラとエルフィと一緒におびき出してもらいます。その後は、攻撃に参加してもらいます」
「わかりました。頑張ります!」緊張しすぎでしょう。
「では、チームを組んでタイミングとかを練習してくださいね」
「はい」
おお、みんなやる気です。
全員がそれぞれのパートごとに別れたところでパムが私の所に来た。
「ぬし様気付いておられましたか」パムはそちらを見ないように私に声を掛ける。
「それはもうあからさまに見つけてくれという感じで立っていましたから」
「行ってきましょうか?」
「今回は、私が行ってきます。たぶんあのワームの製作者でしょうから」
「わかりました。念のため私は、ぬし様の後ろからついていきますので、ご容赦ください」
「今回は大丈夫だと思いますよ」
「メアさんと交代で見守ります」
「メアさんはまずいですよ。メイド服なので」
「そうでした」
私は、町の丘の方から私達を見ていた人が、攻撃練習を始めた時に姿を消したのを見て、移動を開始した。
もっとも、ここから移動するとしたら、あの町に行くくらいしかないと思い、ダラダラと町に入る。
町の中を見て歩きながら、居酒屋を何軒か物色する。おお、いたいた。
○サクシーダの居酒屋
その居酒屋は大変暗く、各テーブルやカウンターの席ごとに灯りを置いていて、客の顔がほとんど見えないようにしている。私は、明度を上げて居酒屋の中を見回し、私達を見ていた男を確認した。カウンターの隅で食事をしていた。私はその男の隣にさりげなく座る。食事と水を注文して。先に来た水に代金を払い、水の入った容器を見ながら料理を待っている。しばらくして肉と芋の炒め物が出てきたので代金を払って食べ始める。
「私が誰か気づいていますよね」隣の席の男が私を見ないで言った。
「さっきから話しかけたそうにしていましたね」私は食事をしながらそう答える。
「今話しかけても良いですか?」相変わらずこちらは見ずに、店員を呼んで飲み物のおかわりを注文している。
「はい。かまいません」私も水を追加で注文する。
「名前を名乗らなくても良いですか?」追加で頼んだ飲み物が届いて少しだけ口をつける。
「ここは酒場ですからかまいません。もちろん私も名乗りませんが」私はそう言って水を少し飲む。
「ありがとうございます。失礼ですがもしかしたら魔法を使われますか?」その声からは、探るような感じだ。
「ああ、見られていましたか。それがわかるという事はあなたも魔法使いなのですね」私は残っていた食事を食べ終わる。
「多少心得はありますが、攻撃魔法とかは不得手なのですよ」彼はそう言いながら周囲を見渡している。
「それで頻繁に周囲を見ているのですか?」私は疑問に思った。なぜ、隅に座っているのだろうと。
「それもありますが・・・」そこで言い淀んだ。
「何か後ろめたい事でも?」私は、直接的な表現で尋ねた。
「実は・・・ ・あります」諦めたような口調でその男は言った。
「そうでしたか。私は気になってこちらに来たのです。あなたを探して」
「やはり見られていましたか」飲み物の入った容器を見つめてその男は言った。
「これまでの経過を教えていただけませんか。南の方の砂漠でもワームを育てていらっしゃいましたよね」
「あの時の方でしたか。あの時はありがとうございました。さらに今回までもご迷惑をおかけしております」
「なぜ巨大なワームを作り出そうと思ったのですか?」
「食糧問題です。あの子達は高たんぱくの食料資源として開発していました」
「そうだったのですか。それはすごいですね」私はつい感心してしまいました。
「前回は何の対策もせずあの砂漠に放ちました。家でのシミュレーションでもあんなに巨大化するわけがなかったのです。しかし、実際には環境というよりエサが豊富にありすぎて巨大化しました」
「本当に?」
「不思議なのですが、飼育時には、大きさが変わらなかったので安心してあの砂漠に放流したのですが、どうやら環境に適合しすぎたのかもしれません。何度もあそこの砂を使って試験をしたはずだったのですが、あそこに放って、しばらく様子を見て、一度その場を離れてしばらくして戻って来たらあの大きさまで育っていました。それで怖くなって逃げてしまいました」彼は飲み物の入った容器を持ったまま下を向いてしまう。
「そうでしたか」私はなんとなく察してしまいました。
「で、今回は?どうしたのですか?」
「今回はちゃんと檻を作り、成長を抑制するように改良していたのです」
「ではどうして・・・」
「わかりませんが、もしかしたら環境を改善する因子です」
「環境を改善する因子ですか?」
「食べ物や砂を取り込み排出する時に糞が土壌改良するようにしていて、これは最初からそう組み込んでいたのです。そしてあそこの砂を使い飼育し、土壌改良の成果を確認していました。しかし誤算だったのは金属でした。砂漠の境界にある岩場、そしてその先にある鉱床を求めて檻を破って進んだのです。そして金属を取り込んで外皮を硬質化していったようなのです。どうやって鉱床まで行きついたのか、それがわからないのです」
「ああ、それで危険だと周囲に噂を流したのですね」
「はいそうです。私は2回も皆さんを危険に合わせています。それでも研究もやめたくない」
「捕まえれば何かわかりますか?」
「何がですか?」
「暴走した原因と肥大した原因です」
「捕まえてみない事にはわかりませんが、改善はできると思います」
「そうですか。では約束してください。今後は研究成果を魔法使いの里か知り合いの研究者に報告をして、必ず検証を行うと」
「2回も失敗して周囲に迷惑をかけているのに研究を続けろと言いますか」彼は驚いたように私を見て、ハッとしてすぐ視線を飲み物の入っていた容器に戻した。
「魔法使いは研究のために人を殺しても気にしないのではありませんか?」
「それは・・・そう言われていますが、私にはそんなことはできません。そもそも僻地の食料事情を良くしたくて研究したのです。人殺しなんてとてもできません。それに魔法使いですので友達もいません」
「ではこの件が無事終了したら、知り合いの魔法使いを紹介しますので、その人と仲良くなってください」
「私は研究を続けても良いのですか?」
「はい。その代わりあなたの持っているワームの情報を全て教えてください。私は別の意味であの子を殺したくないと今思いました」
「あの子を殺さないのですか」
「まあ私も保証はできませんが、できるだけ生かす方法で考えます」
「よろしくお願いします。では生態ですが・・・」
「場所を変えましょう。店を出て左に向かうとその先に喫茶店が見えてくるはずです。私は先に出ますから、しばらくしたら追ってきてください」私はそう言って席を立った。
「いらっしゃい。おや今日はゲスト付きかい?」
「ちょっと込み入った話ですので」
「じゃあ奥の別室で話しなさい。他の客の迷惑になるからね」
「助かります」
そうして私はその男と話し始める。もちろんコーヒーを飲みながら。
「この飲み物は苦いですね。でも癖になりそうです」
○超巨大サンドワームの生態
彼から聞けた事は次のとおり。
砂の中に住んでいる。
食べているのは砂に住む昆虫、爬虫類、獣などの死体と糞。砂と一緒に飲み込み消化して排泄する。
大きくされてしまい岩を飲み込むことですりつぶしている。
短時間であれば地上を進む (おおむね餌場の移動のため)
彼の遺伝子操作により生物の栄養摂取効率が最大限にされたため、これだけ大きくなってしまったが、栄養源がなく人や動物をエサとして認識してしまった。これ以上は重力のため大きくなれない成長限界。基本的に行動周期があり、1か月に数日しか動かない。満月に影響されているわけではない。もっぱら体内時計によるらしい。
視覚はほとんどなく明暗くらいが知覚でき、聴覚もあるが、もっぱら嗅覚にたよる。蠕動運動により移動しているので伸縮自在。地上に出てしばらくすると干からびて圧縮された長さになる=最小サイズ。蛇腹状態なので伸びた時に外皮と外皮の間にやわらかい肉が見える。
○砂の中の探索方法
私はモーラに探索をお願いする。
「この中にいるのじゃな」モーラが両手を砂に当てて目をつぶる。
「感触がありませんか?」
「たまに岩にぶつかってきているようだ。深く潜られたら対応できんぞ」
「岩の中を進めるとはいっても表層部に何かが見つからないと中に入らないのです」
「岩に入らないのなら、砂を巻き上げて土の上に出して攻撃するのが得策か」
「できれば生きたまま捕まえたいのです」
「どうせサクシーダで何かつかんだのであろう?」
「そんなところです。この場では言えませんが、協力していただけませんか?」
「あとで事情が聞かせてもらおうか。ここのドラゴンにも説明が必要じゃ」
「でもあの硬さであの重さですよ。どうやって取り押さえるのですか?」パムがそう言って私を見る。
「まず彼の位置を把握します」
「わしでもつかめないのにどうする気じゃ」
「モーラとバーナビー君の能力にエルフィをリンクさせます」
「するとどうなる」
「3次元で対象を捉えることができます。もっともこの砂の中央深くにいる場合は特定できませんが、岩を食べるというのなら、岩場に近づいていると思いますので」
「両側から砂の中に地震を起こすのか」
「岩のように安定していませんが、流砂が起きれば、嫌がって周辺もしくは中央に移動すると思います」
Appendix
私は何回かリッチーさんのところに遊びに行っていました。
「どうも~提案なんですが、私たちの所で暮らしませんか?」
「ここから出ろと?」
「あなたの知識が、私には必要なのです。もっともあなたにはメリットはないようですけど」
「わしには願いがある。殺してくれ」
「私があなたの持っている全ての知識をもらった時に殺してあげますよ」
「本当か?」
「嘘です」
「わしをいじるな」
「でも、こういう会話は楽しいでしょう?」
「・・・まあな」
「私の所にはドラゴンも天使もエルフ族もドワーフも魔族もいますよ。みんな長命です」
「ああ、いろいろ調べたわ。おぬしが変態である事もな」
「あのう。噂を信用しないでくださいね」
「古代語を翻訳してどうするつもりなんだ?」
「遺跡を調べます。もっともまだ先ですけどね」
「おぬし何か知ったな」
「言えません」
「なるほど。話すと死ぬらしいからなあ」
「だから言えませんよ」
「それは面白そうだ。わかった手伝おうか」
「よろしくお願いいたします」
「うむ。しばらくはここにいさせてくれ。この場所の整理と体を動かせるようにまるまではな」
「わかりました」
続く
○前回の戦闘をおさらい
「戻ったぞ」
「何かわかりましたか?」
「怪獣のせいかはわからんが、岩が風化しているらしい」
「は?」
「岩の中を掘り進めるワームなんじゃと」
「そうなのですか」
「ああ、そのおかげで砂漠化が進行しているらしい。止めねばこの先、あの町まで砂漠化が進み、住む土地がなくなるわ」
「モーラ。前回の攻撃の様子を見る前に砂の中の怪獣の動きを確認してください」
「ああやってみるか」モーラは膝をついて右手を地面に当てている。しばらくして。
「どこにもおらんな。どこへ行った?土の中でわしの探索にひっかからないなどありえんがなあ」
「わかりました。では前回の攻撃の再現をしてもらいます。怪獣役は私が」
「どうするつもりなのか?」
「砂の上で土人形を作ります」
「わしがやろうか?」
「じゃあお願いします。土人形を作るだけですよ」
そうして、砂漠からかなり離れたまだ砂漠化していない土地に移動して、前回の戦闘を再現しました。
「準備できました。始めます」
「このぐらいの高さですかー」
私はモーラに土人形を作ってもらいました
「もうちょっと大きいです」
「このぐらいですか?」
「そのぐらいです。見てもいないのにずいぶんあのワームに似ているのですが?」
「ワームなんてそんなものじゃ」
「そうですか。そこにジャガーさんが突進しました」
実際にジャガーが走って行ってパンチを入れる真似をする。
「お腹のあたりにパンチを入れると少し後ろにのけぞりましたが、すぐジャガーさんを食べようとしました」
土人形なのですがモーラがすこしだけのけぞらせた後、前の方に頭を曲げました。
「そこで、雷撃を打ち込みましたが、ひるむ事無くジャガーさんを口に入れかけました。ジャガーさんは、その口の上唇に掴まり、頭を上げた怪獣から跳躍して、怪獣の顔を蹴って怪獣の顔が横に向きました」
ジャガーは飛び上がって土人形の口を掴もうとしましたが、土なので簡単に崩れて掴めずにそのまま落下します。おお、うまく着地しました。
「その鼻先をレティシアさんが炎と風の混合魔法で焼きましたが、煤が着いただけで動きに変化はありませんでした」
実際にレティさんが土人形を焼きましたが、確かに黒くなっただけで崩れませんでした。モーラやりますね。
「ジャガーさんが着地したところに怪獣が突き進んで来たので、拘束魔法をかけましたが一瞬で拘束が解けて、怪獣は砂に潜りました。
しばらく様子を見ていたら、再び出てきたので、ジャガーさんが同じように攻撃を仕掛けますが、やはり効果がなく、今度は拘束魔法から闇魔法で闇に落とそうとしましたが、地面の下の体が予想以上に大きくて闇魔法が解除されました」
さすがに同じ攻撃なのでモーラは何もしないで、ジャガーにパンチを打たせて、穴を開けさせています。
「そこで怪獣が土に潜って出てこなくなりました」
モーラはそこで、土人形を崩して、地面に吸い込ませるようにして消しました。
「戦闘時間は何分くらいですか?」
「長くても5分くらいかと思います」
「3分くらいの可能性はありますか?」
「その位かもしれません」
「ありがとうございました。すぐそちらに戻りますね」
「さて、誰か弱体化魔法を持っていませんか?」
私の言葉に全員が頭を左右に振る。
「では武器の強化はできますね」
一部の魔法使いが頷いている。
「相手はワームなので目を潰してもしょうがないので、鼻を潰しましょう」
手元に頭の部分を作って、目と鼻と口を描いて、鼻を示しました。さっきも言っていましたが、やはり同じ形状のワームだったのですね。
「外皮が硬いのですが、どこかを一点集中で傷をつけてそこから内臓に向けて魔法をぶち込むしかないですねえ」
体の形状を地面に作って、さらに蠕動する節を作ってそこが伸びているところを指しました。
「もう一つは、頭に乗って脳のある位置に振動波をぶち込んで脳を破壊するかですかね」
「その両方をやるかしかないですねえ」
「もう少し考えた方がいいんじゃない?」
「そうしましょう」
「しかし、相手の姿はわしでも見つからぬぞ」
「たぶん彼との連携でなんとかなるでしょう」
私は地震を起こした魔法使いさんを見て言いました。
○今日のあなたのラッキーポイントは周辺の岩場です。確認するときっと運命の出会いがありますよ
私は、周辺への影響を考えて周囲を回っている。重力制御を使って、空をサーフィンするように飛んでいる。砂漠を挟んで町のある緑地帯の反対側には、砂漠化を抑えるように岩場があり、徐々に岩山になって、岩山にも次第に緑が増えている。
手前の方は岩と岩の間にしがみつくように草が生えていて、 傾斜に従って草が増えている。しばらくは苔のように草原が広がり、山の上の方にやっと森林が見える。水源が山の方にあるのかもしれないが、この草たちはわずかな岩の間の土にしがみつくように生えていて、きっと自分たちの枯れた体を肥料として土に替えて生き延びているようにも見える。
そんな風景を見回していたら、屹立した岩場のところに不自然な影ができている部分があった。私はゆっくりとそこに近付いて、手前で重力制御を解除して静かに降り立った。そこはレンガ造りのように正確に岩を組み立てた洞窟で、どう見ても造られた穴だ。一応探知をしてみるが生物の反応はない。指先にちりを集めて火を灯し、その灯りを頼りに中を歩く。天井が崩れているのか、ところどころに岩が転がっていて、ぶつかって転びそうになるので、ゆっくりと歩を進めている。
途中には宮殿のような大広間と周囲に進める廊下があったが、ひときわ大きな入り口が正面にある。「あまり広いようなら一度戻りますかねえ」
そうつぶやいて私は歩を進める。もちろん探知の魔法を使ってみたが、生物は確認できなかった。
切り立った断崖は、実はこの建物だったらしく、上に続く長い階段があり、途中に部屋もあったが、気にせず一気に上に進んだ。しばらくはダラダラと階段が続くので、そろそろ心配してエルフィが泣き始めるかもしれないと思った頃、ようやく扉が見えた。
私はノックをしてから、すぐにその扉を開けようとした。もちろん誰もいないと思っていたから。
「久しぶりの来客とは。どなたかな」階段に響く声に扉にかけた手が止まる。
「危害は加えるつもりはない、入ってきてくれ。もっとも初めて会った者の言葉など信用できぬだろうがな」私はその言葉につられて扉を開ける。
内部は真っ暗で一瞬罠かと思ったが、すぐに部屋の周り壁に光が灯る。少しだけ手をかざして光を遮り、周囲を見渡す。
「何も仕掛けはしていないよ。そんな気力もない。ようこそ私の家に」
「突然お邪魔してすいません。気になる洞窟を見つけてしまい興味本位でここまで来てしまいました」
まだ目が光りに慣れていないので、その場でお辞儀をした。
「構わんよ。むしろ歓迎する。ここに客など何十年ぶり、いや何百年ぶりだろうか」
やっと光に慣れて正面を見ると、そこにはローブを着て座っている男がいた。しかし体を動かす様子がない。
「初めまして私の名前は・・・」
「魔法使いは普通名乗ってはいけないのだろう?」
「失礼しました。私を魔法使いと見破られるという事はあなたも魔法使いなのでしょうか」
「魔法使いと言えばそうなるか。すでに魔法使いのなれの果てだがな」自嘲気味に笑っているが、その顔が着ているローブにできる影のせいで良く見えない。口が動いているようだが、 違和感がある。
「なれの果てですか?」
「ああわしはすでに死んだ者。巷ではアンデッドとも呼ばれているらしい。まあ魔法を使う死人だからリッチーに属している者らしい」
「それは生物探知にひっかからないわけですねえ」
「探知魔法はおぬしが打ったものか。なかなかきれいな魔法であった。さぞかし研鑽を積んでいるのであろうなあ」
「残念ながら若輩です。独学ですし。でもお褒めいただいてありがとうございます」
「若輩と言ったが。 おぬし転生者か」
「隠すこともないでしょう。そうです。あなたにとっては最近この世界に来ました」
「勉強熱心な者なのだな。さて、ここには興味本位できたと言ったが、 面白いものなどここにはないぞ?」
「実はかくかくしかじか」
「ああ、環境への影響調査か」
「最悪の場合、こちらへも被害が及ぶかもしれませんので」
「わしのところは問題ないぞ。物理攻撃にはたぶん耐えるだろう」
「ありがとうございます。会って早々で申し訳ありません。そろそろ戻りませんと家族が心配して大変なことになりそうなのです。またこちらにお邪魔してもよろしいでしょうか?」
「ああ、面白そうな話も聞けそうなのでな。あまり間を置かずまた来てくれぬか。それまでに少しは体を動かす練習をしておくよ」
「体をうごかす練習ですか?」
「そうだ、死ねぬというのも問題でな、こうして座ったままでいると、いつの間にか体の動かし方を忘れているのだよ」
「わかりました。それと何人か連れてきてもいいですか?」
「ここは狭いのでなあ。数人であれば構わないが」
「紹介したい人もいますので」
「そうかそれは楽しみじゃ」
私は一礼してからその部屋を出た。洞窟を出ると、
『旦那様~』叫び声が聞こえた。
『おういたか。珍しいな消えるとは。 どこにいた?』
「やはり魔法の結界が張ってありましたか。高名な魔法使いにお会いしていました。ぜひ皆さんに紹介したいですね」
「高名な魔法使い?」
「次回お会いするときまでの楽しみにしてください」
私は洞窟を振り返りました。そこには薄暮でもないのに飛んでいる小さな蝙蝠を見ました。
『あれがそうか?』
『リッチーと言っていました。対応は好意的でしたよ』
『うむそれならば、普段通りにしていようか』
『私たちを見ていれば、害意はないと思ってくれると思いますが』
『体を乗っ取ったりしないわよねえ』
『それはないでしょう。でも可能性はありますか?』
私は皆さんのところに戻って、怪獣退治の作戦を続けます。
翌日、すぐに私は彼の元に再び会いに行った。
「すぐに来て欲しそうだったので私一人で来ました」
「蝙蝠がわしの分身というのはわかったのだな。さすがだな辺境の魔法使い」
「おやさすがですね。情報がお早い」
「わしとてかなり経験を積んでいるのでなあ。相手のことを知るまでは慎重にもなる」
「それで私は敵ですか?味方ですか?」
「残念ながらわからん。それが今のところの答えだな」どうやら口調から笑っているようだ。
「実際のところあなたはいつからこの世界にいるのですか」
「単刀直入だな。今の人類が災害にあっているがその生き残りじゃな」
「その頃から魔法はあったという事ですか」
「そうじゃ」
「災害の原因は、神が起こしていると聞きましたが」
「災害は神が起こしている。それは本当じゃ。しかし前回のは違う」
「魔法使いの里はそうは言っていませんでしたが」
「ふん、あいつらは災害の時に田舎にいて生き残ったやつらだからな。真実を知っている者はごくわずかだろう」
「災害の原因は何だったのですか」
「魔法使い達の実験の失敗じゃ」
「にわかには信じられないのですが」
「まあ、結果的にこの世界が多少は浄化されただろう。神も納得しているのではないか。いやむしろ誘導したかもしれぬな」
「確かに。各種族とも数は減ったらしいですからねえ」
「特に魔族と人は激減したからな」
「その辺の理由を何か知っているのですか?」
「いや、わしの推測でしかないわ」
「ありがとうございます」
「おぬし解析が得意なのだろう?この魔法が解析できるか?」火の魔法を指先に灯して、その灯りに照らされて、骸骨が笑って言った。
「それは炎の魔法ですね」
「ああそうだ。わかるか?」
「残念ながら。神代文字にも魔族の文字にも見えますが、どちらにも共通点がありませんね」
「なるほど。よく勉強している」
「そういえば、その文字には見覚えがありまして、遺跡に書いてあった文字だと思いますね」
「遺跡がまだあるのか」
「ええ、私の村のそばに何か所かあります」
「塔はあるのか?」
「残念ながら見つかっていません」
「そうか。あれには手を出すな。触らない方がいい。塔は見つけてはいかん。見つかったら触るな」
「それが災害の直接原因ですか」
「ああ失敗作だよ」
「関わっていたのですか」
「わしは関わっていない・・・とも言えぬな。まあ、色々あってな。わしは外されたのだよ」
「でも無事で生き残ったではないですか」
「まあな。死ねないだけだがな」その言葉は、私には自嘲気味に聞こえた。
「では、遺跡は塔が見つかるまでは安全ということですか」
「なぜ気にする?」
「近くに人が暮らしていてうんぬんかんぬん」
「起動さえしなければ安全じゃ」
○戦闘訓練を始める
「生態がわかりませんが、シミュレーションをしてみましょう」
「はーい」しかし一部の声に元気がありません。
「まだわだかまりがあるかもしれないわよ」アンジーがキャロルとエーネを見て言った。
「今回は連携が必要になりますので、その辺はドライにいきましょうね」
私はその辺はスルーしています。戦っていれば自ずと連携もしますよ。
「段取りはこんな感じです」
「ワームが砂から出てきた時に私が重量魔法で砂の上まで持ち上げて、体が全部出た時に私が砂の上に土の床を作って、砂に逃げられなくします」
「あら、モーラが手伝わなくても良いのかしら?」
「それくらいは、やってもいいが、とりあえずバックアップ要員でおるわ」
「次に土の床ができたので、拘束魔法を使えるアンジー様、フェイさん、アーシムくんが一斉に拘束を開始して、メアとパムが拘束できたところにワイヤーをかけていってください」
「しかたないわね」「了解です」「わかった」「はい」「わかりました」
「それで拘束できるのかしら?」
「一度拘束されて、しばらくしてそれを解除するくらいの力ですから、ワイヤーを追加すれば大丈夫だとは思いますが、外れるようでしたら、私がワーム全体に圧力をかけて動けなくします」
「先にそっちの方が簡単じゃない?」
「たぶん圧力を全体にかけている間に逃げ出しますよ。それか、体を自切して逃げるかもしれません」
「一気に押しつぶせばよかろう」
「土の床が耐えられないと思います」
「ああ、そっちか」
「なので固定ができたら、感覚器官を狙って総攻撃です。狙うのは鼻と口です。拘束してありますから、蠕動する時ののびている部分を狙って魔法剣でも、拳でも良いので地面に一番近い部位の一番柔らかそうな所を全員で思う存分やっちゃってください」
「魔法使いは全て単体攻撃用高威力の魔法をできれば集中して鼻の穴の奥に向かって、できれば中で爆発するタイプの攻撃をお願いします」
「鼻は両方狙いますか?」
「ディランさんとエーネは向かって右側をユーリとキャロルとレティさんは左にしましょうか、複合技は必要ありませんが、弾着が同じタイミングになるように撃ちながら調整してください」
「わかりました」
「あと、エルフィとシェフィールドさんは口の中に向かって火炎魔法の矢か爆炎魔法の矢を放ってください。できるだけ奥を狙って」
「はい」
「大体そんなところですかねえ」
「バーナビー君はどうするの?」
「モーラとエルフィと一緒におびき出してもらいます。その後は、攻撃に参加してもらいます」
「わかりました。頑張ります!」緊張しすぎでしょう。
「では、チームを組んでタイミングとかを練習してくださいね」
「はい」
おお、みんなやる気です。
全員がそれぞれのパートごとに別れたところでパムが私の所に来た。
「ぬし様気付いておられましたか」パムはそちらを見ないように私に声を掛ける。
「それはもうあからさまに見つけてくれという感じで立っていましたから」
「行ってきましょうか?」
「今回は、私が行ってきます。たぶんあのワームの製作者でしょうから」
「わかりました。念のため私は、ぬし様の後ろからついていきますので、ご容赦ください」
「今回は大丈夫だと思いますよ」
「メアさんと交代で見守ります」
「メアさんはまずいですよ。メイド服なので」
「そうでした」
私は、町の丘の方から私達を見ていた人が、攻撃練習を始めた時に姿を消したのを見て、移動を開始した。
もっとも、ここから移動するとしたら、あの町に行くくらいしかないと思い、ダラダラと町に入る。
町の中を見て歩きながら、居酒屋を何軒か物色する。おお、いたいた。
○サクシーダの居酒屋
その居酒屋は大変暗く、各テーブルやカウンターの席ごとに灯りを置いていて、客の顔がほとんど見えないようにしている。私は、明度を上げて居酒屋の中を見回し、私達を見ていた男を確認した。カウンターの隅で食事をしていた。私はその男の隣にさりげなく座る。食事と水を注文して。先に来た水に代金を払い、水の入った容器を見ながら料理を待っている。しばらくして肉と芋の炒め物が出てきたので代金を払って食べ始める。
「私が誰か気づいていますよね」隣の席の男が私を見ないで言った。
「さっきから話しかけたそうにしていましたね」私は食事をしながらそう答える。
「今話しかけても良いですか?」相変わらずこちらは見ずに、店員を呼んで飲み物のおかわりを注文している。
「はい。かまいません」私も水を追加で注文する。
「名前を名乗らなくても良いですか?」追加で頼んだ飲み物が届いて少しだけ口をつける。
「ここは酒場ですからかまいません。もちろん私も名乗りませんが」私はそう言って水を少し飲む。
「ありがとうございます。失礼ですがもしかしたら魔法を使われますか?」その声からは、探るような感じだ。
「ああ、見られていましたか。それがわかるという事はあなたも魔法使いなのですね」私は残っていた食事を食べ終わる。
「多少心得はありますが、攻撃魔法とかは不得手なのですよ」彼はそう言いながら周囲を見渡している。
「それで頻繁に周囲を見ているのですか?」私は疑問に思った。なぜ、隅に座っているのだろうと。
「それもありますが・・・」そこで言い淀んだ。
「何か後ろめたい事でも?」私は、直接的な表現で尋ねた。
「実は・・・ ・あります」諦めたような口調でその男は言った。
「そうでしたか。私は気になってこちらに来たのです。あなたを探して」
「やはり見られていましたか」飲み物の入った容器を見つめてその男は言った。
「これまでの経過を教えていただけませんか。南の方の砂漠でもワームを育てていらっしゃいましたよね」
「あの時の方でしたか。あの時はありがとうございました。さらに今回までもご迷惑をおかけしております」
「なぜ巨大なワームを作り出そうと思ったのですか?」
「食糧問題です。あの子達は高たんぱくの食料資源として開発していました」
「そうだったのですか。それはすごいですね」私はつい感心してしまいました。
「前回は何の対策もせずあの砂漠に放ちました。家でのシミュレーションでもあんなに巨大化するわけがなかったのです。しかし、実際には環境というよりエサが豊富にありすぎて巨大化しました」
「本当に?」
「不思議なのですが、飼育時には、大きさが変わらなかったので安心してあの砂漠に放流したのですが、どうやら環境に適合しすぎたのかもしれません。何度もあそこの砂を使って試験をしたはずだったのですが、あそこに放って、しばらく様子を見て、一度その場を離れてしばらくして戻って来たらあの大きさまで育っていました。それで怖くなって逃げてしまいました」彼は飲み物の入った容器を持ったまま下を向いてしまう。
「そうでしたか」私はなんとなく察してしまいました。
「で、今回は?どうしたのですか?」
「今回はちゃんと檻を作り、成長を抑制するように改良していたのです」
「ではどうして・・・」
「わかりませんが、もしかしたら環境を改善する因子です」
「環境を改善する因子ですか?」
「食べ物や砂を取り込み排出する時に糞が土壌改良するようにしていて、これは最初からそう組み込んでいたのです。そしてあそこの砂を使い飼育し、土壌改良の成果を確認していました。しかし誤算だったのは金属でした。砂漠の境界にある岩場、そしてその先にある鉱床を求めて檻を破って進んだのです。そして金属を取り込んで外皮を硬質化していったようなのです。どうやって鉱床まで行きついたのか、それがわからないのです」
「ああ、それで危険だと周囲に噂を流したのですね」
「はいそうです。私は2回も皆さんを危険に合わせています。それでも研究もやめたくない」
「捕まえれば何かわかりますか?」
「何がですか?」
「暴走した原因と肥大した原因です」
「捕まえてみない事にはわかりませんが、改善はできると思います」
「そうですか。では約束してください。今後は研究成果を魔法使いの里か知り合いの研究者に報告をして、必ず検証を行うと」
「2回も失敗して周囲に迷惑をかけているのに研究を続けろと言いますか」彼は驚いたように私を見て、ハッとしてすぐ視線を飲み物の入っていた容器に戻した。
「魔法使いは研究のために人を殺しても気にしないのではありませんか?」
「それは・・・そう言われていますが、私にはそんなことはできません。そもそも僻地の食料事情を良くしたくて研究したのです。人殺しなんてとてもできません。それに魔法使いですので友達もいません」
「ではこの件が無事終了したら、知り合いの魔法使いを紹介しますので、その人と仲良くなってください」
「私は研究を続けても良いのですか?」
「はい。その代わりあなたの持っているワームの情報を全て教えてください。私は別の意味であの子を殺したくないと今思いました」
「あの子を殺さないのですか」
「まあ私も保証はできませんが、できるだけ生かす方法で考えます」
「よろしくお願いします。では生態ですが・・・」
「場所を変えましょう。店を出て左に向かうとその先に喫茶店が見えてくるはずです。私は先に出ますから、しばらくしたら追ってきてください」私はそう言って席を立った。
「いらっしゃい。おや今日はゲスト付きかい?」
「ちょっと込み入った話ですので」
「じゃあ奥の別室で話しなさい。他の客の迷惑になるからね」
「助かります」
そうして私はその男と話し始める。もちろんコーヒーを飲みながら。
「この飲み物は苦いですね。でも癖になりそうです」
○超巨大サンドワームの生態
彼から聞けた事は次のとおり。
砂の中に住んでいる。
食べているのは砂に住む昆虫、爬虫類、獣などの死体と糞。砂と一緒に飲み込み消化して排泄する。
大きくされてしまい岩を飲み込むことですりつぶしている。
短時間であれば地上を進む (おおむね餌場の移動のため)
彼の遺伝子操作により生物の栄養摂取効率が最大限にされたため、これだけ大きくなってしまったが、栄養源がなく人や動物をエサとして認識してしまった。これ以上は重力のため大きくなれない成長限界。基本的に行動周期があり、1か月に数日しか動かない。満月に影響されているわけではない。もっぱら体内時計によるらしい。
視覚はほとんどなく明暗くらいが知覚でき、聴覚もあるが、もっぱら嗅覚にたよる。蠕動運動により移動しているので伸縮自在。地上に出てしばらくすると干からびて圧縮された長さになる=最小サイズ。蛇腹状態なので伸びた時に外皮と外皮の間にやわらかい肉が見える。
○砂の中の探索方法
私はモーラに探索をお願いする。
「この中にいるのじゃな」モーラが両手を砂に当てて目をつぶる。
「感触がありませんか?」
「たまに岩にぶつかってきているようだ。深く潜られたら対応できんぞ」
「岩の中を進めるとはいっても表層部に何かが見つからないと中に入らないのです」
「岩に入らないのなら、砂を巻き上げて土の上に出して攻撃するのが得策か」
「できれば生きたまま捕まえたいのです」
「どうせサクシーダで何かつかんだのであろう?」
「そんなところです。この場では言えませんが、協力していただけませんか?」
「あとで事情が聞かせてもらおうか。ここのドラゴンにも説明が必要じゃ」
「でもあの硬さであの重さですよ。どうやって取り押さえるのですか?」パムがそう言って私を見る。
「まず彼の位置を把握します」
「わしでもつかめないのにどうする気じゃ」
「モーラとバーナビー君の能力にエルフィをリンクさせます」
「するとどうなる」
「3次元で対象を捉えることができます。もっともこの砂の中央深くにいる場合は特定できませんが、岩を食べるというのなら、岩場に近づいていると思いますので」
「両側から砂の中に地震を起こすのか」
「岩のように安定していませんが、流砂が起きれば、嫌がって周辺もしくは中央に移動すると思います」
Appendix
私は何回かリッチーさんのところに遊びに行っていました。
「どうも~提案なんですが、私たちの所で暮らしませんか?」
「ここから出ろと?」
「あなたの知識が、私には必要なのです。もっともあなたにはメリットはないようですけど」
「わしには願いがある。殺してくれ」
「私があなたの持っている全ての知識をもらった時に殺してあげますよ」
「本当か?」
「嘘です」
「わしをいじるな」
「でも、こういう会話は楽しいでしょう?」
「・・・まあな」
「私の所にはドラゴンも天使もエルフ族もドワーフも魔族もいますよ。みんな長命です」
「ああ、いろいろ調べたわ。おぬしが変態である事もな」
「あのう。噂を信用しないでくださいね」
「古代語を翻訳してどうするつもりなんだ?」
「遺跡を調べます。もっともまだ先ですけどね」
「おぬし何か知ったな」
「言えません」
「なるほど。話すと死ぬらしいからなあ」
「だから言えませんよ」
「それは面白そうだ。わかった手伝おうか」
「よろしくお願いいたします」
「うむ。しばらくはここにいさせてくれ。この場所の整理と体を動かせるようにまるまではな」
「わかりました」
続く
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