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第28話 併走する厄介者達の話など
第28-7話 9人目
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○隷属の儀式
「みんなは朝の訓練に行きましたが、私も行っていいのでしょうか?」
エーネがアンジーに尋ねる。
「大丈夫よ。あいつの魔力量の問題らしいから。あなたの方には問題ないみたいよ。でも頑張りすぎないでね」
「では行ってきます」
そうしてモーラとアンジー、メアと私以外は朝の訓練に向かった。
「おぬしは一体何をしている。ズーッと上を見上げて、つぶやいているから上の空にしか見えぬぞ」
「それはもちろん。隷属の魔法の再確認ですよ」
「そうか。大丈夫なのだろうなあ」
そうして朝の訓練で一汗かいて皆さんが戻ってきてシャワーを浴びて、居間に集合しています。
昨日の話のせいなのか、皆さんから妙な緊張感が伝わってきています。エーネは知らないので平常心ですが。
私は昨日と同じ位置に立って、エーネもキャロルと同じ位置に立っています。
「さてエーネ。良いですか」
「はい、よろしくお願いいたします」
「正式なお名前をお聞きしておりませんでした。今一度お名前の方を教えてください」
「はい、まず、私の頭に手をかざしてください。そして魔力をおためください」
「ええ?大丈夫ですか?」
「そして私の名前エーネウス・ルサルカとお呼びください」
「もしかして、それが、魔族が隷属する場合の儀式呪文なのですか?そんな話は聞いていませんが。それを教えてください」
「やはりそれをお聞きになりましたか。母上。残念ですがここまでです」
「なにがここまでじゃ。おぬし母親に何か入れ知恵されてきておったな」
「はい。聞かれたら正直に話すようにとも言われていました。そのままならいけると」
「なにがいけたのかしら」
アンジーがじろりと睨む。
「私が隷属するという事は、自動的にDT様は私の生涯の伴侶となり、皆様には申し訳ありませんが、私は正妻の座につく事になります」
エーネが残念そうに言った。
「なんだと」
「どうしてですか?」
「魔王は魔族の最上位です。他の種族に隷属することはできません。ですから隷属は難しいのです」
「ほう?」
「もっともメス同士であれば、伴侶ではなく隷属になるのですが」
「それで、魔族の隷属の魔法でという事でしたか」
「聞かれて答えないのはいけないし、嘘もいけないと。隷属した段階で事実はバレるのだからそこで信頼関係を損なっては意味が無いと」
「やはりあんたの母親は策士だわ。伊達に魔王の妻をやっている訳ではないのね」
「さらに魔力量が桁違いなので、かけたDT様が魔力酔いすると思われます」
「魔力酔いですか?」聞いたことがありませんねえ。
「最後にアンジー様と同格の隷属関係となりますから、聖属性と闇属性の相反する属性が隷属することになりますので、しばらくはあなた様もアンジー様ももしかしたら私も魔力制御が不安定になると言われました」
「属性反転しますかねえ」私は顎に手をあてて考えています。
「どうしますか?伴侶でないとまずいかもしれません」
エーネがニヤリと笑った。おお意外と策士です。恋する乙女はこうなのかもしれません。
「大丈夫ですよ~」
エルフィがそこでほんわかな声で言いました。
「なんじゃその脳天気な発言は。根拠があるのなら申してみい」
「だって~これだけの大人数隷属させているんですよ~総魔力量が計り知れないですよ~」
「聖と闇の関係は大丈夫なのか?」
「それも~旦那様なら~制御できますよ~」
「私も今の話の間に、色々な事を想定してみましたが、不安は感じませんでした。たぶん大丈夫なのだと思います」
パムが考え考え言った。
「不安要素が思いつかないというのか」
「はい大丈夫かと。逆に今になって思えば、これだけの他種族を隷属させている段階で、どこかで変調が起きていてもおかしくないのです。ここまで破綻せずになんとかなっている。そちらの方がむしろ不思議です」
「言われてみれば確かにそうじゃなあ。どうして今までそこに気付かなかったのじゃろうか」
「アンジーとモーラの後は、しばらく間がありましたが、ユーリからメアさん、そしてエルフィは、日を追うごとに隷属して、あっという間でしたからねえ。考えている暇もありませんでした」
「そうねえ。私とモーラはまあ、予定調和だったから納得できるけど。今考えると、その後からはけっこう綱渡りだったのかも知れないわねえ。でも不安は感じなかったし、まあ今回も大丈夫でしょう」
「では皆さん行きますよ!」
「「「「「「「「「はい」」」」」」」」」
おや全員の声が揃いました。ああ、心が揃ってますねえ。私がそう思った途端、全員の体が淡い光に包まれた。
「これは・・・おぬし、今じゃ」
「はい」
私は慌てて手を光らせてエーネの頭に手をかざす。
「その者、この隷属の魔法の前でその真名をさらし、我に生涯付き従うか、選べ」
パムの時の祝詞をとっさに一部を変えて言葉を発した。魔力の質が、色が変わった。そう、あの時とは少し違う色だ。ああ、これはうまくいきそうだ。
「我が名はエーネウス・ルサルカ、あなた様に生涯付き従うと誓います」
「そなた、エーネウス・ルサルカ、エーネよ、我に生涯付き従い、我と共に生き、我と共に栄えるべし」
「我、エーネウス・ルサルカは、あなた様に生涯付き従い、あなた様と共に生き、あなた様と共に栄えます」
そこにいる全員が淡い光に包まれ、そして、ゆっくりと全員の光が消えていく。その後は、誰も言葉を発することができず、ただただ静寂に包まれている。
しばらくしてモーラが
「成功したのか?」
「はいたぶん」
○変調
私は、自分の首にあるものをイメージして少し念じてみる。すると全員に隷属の首輪がつながっているのがぼんやりと光っているのがわかる。そして全員にそれが見えた。
「そうか。とっさとは言え、序の台詞を書き換えるとはさすがじゃな」
「さすがに「聖なる魔法の前で」では魔族はまずいでしょう」
「全員が淡い光に包まれていたからそれでも大丈夫だったかもしれぬが。何かが起きたかもしれないしなあ」
「さて、エーネ」
「はい」
心細げに返事をするエーネ。
「どんな感じですか」
「泣きそうです」
「どうして泣きそうなのですか?」
「いままで黙っていましたが、私の能力の一つに相手の発する言葉から気持ちを感じるというものがあります。つまり、嘘がわかります」
「それは困りました」
「困っていませんよね。わざとそう言いましたよね。私を試すために」
「なるほど、そこまで正確に読み取りますか。でも、泣きそうなのはなぜですか?」
「隷属した時に高揚感がもちろんありました。でも、同時に断片的にですがあなた様の過去が見えてしまいました」
「そうでしたか。それは嫌なものを見せてしまいましたねえ」
「いいえ、あれほどの苦しみを持ち、世界に絶望してこの世界に転生して、さらにこの世界の醜い部分を見ていながら、それでもなお、この世界を呪わないでいる。あなた様は聖人か何かでしょうか」
「いいえ、記憶をなくしてこの世界に来た時にとても愛すべき人たちと心を通わせたおかげです。そして今はあなたもそのひとりなのですよ」
「そこまで・・・そこまで皆さんを愛しているのですか。すばらしいです。もっとあなた様と一緒になりたい、素敵です。ああ本当に素敵です」
エーネがそう言いながら、私に手を伸ばし抱きつこうとする。しかし、その目は私を見ずに、遠くを見ているようで、トランス状態になっている感じです。
「エーネがおかしい。DT。おぬし、一度感情を遮断しろ。これはまずい」
「どうやらそうみたいです。隷属は失敗ですか?」
「いいや単におまえの過去や思考に同調しすぎじゃ。おぬしに引っ張られておるぞ。こやつの自我がおぬしに取り込まれるかもしれん」
モーラがそう言って、私とエーネを引き離そうとする。
「隷属も解呪しますか?」
「それは最後の手段じゃ。感情を遮断すると同時に例の精神攻撃カウンターを発動させるんじゃ」
「それをして大丈夫ですか?今、エーネは精神攻撃に過敏になっていますよ」
「いいから急げ」
私は言われたとおり、思考遮断と精神攻撃カウンターを発動させる。
「ああ痛い。頭が割れるように痛い。どうしてですか?どうして私を拒絶なさるのですか、あなた様と一つになりたいのに・・・・」
そう言って、モーラを押しのけて私に近付こうとしていたエーネは途中で気を失って倒れた。
「大丈夫でしょうか」
「とりあえずおぬしは、カウンターなしの思考遮断モードで待機しておれ」
「はい」
そうして一同が見守る中、しばらくして頭を左右に振って目を開けるエーネ。
「私は、一体何をしていたのでしょうか。ああ、あなた様と同調しすぎたのですね。大丈夫です。落ち着いています。そういえば今は、感情を遮断されていますね。さきほどはすいませんでした。あなた様の感情に触れたのがうれしくて、でも、とても悲しい感情に触れてしまい、癒やしてあげたいと思い、反面その感情を分かち合いたいと思ってしまってどうにも制御できませんでした。今は本当に大丈夫です。流されたりしません」
「それにしてもすごいものじゃな。相手の感情がわかるというのは」
「とても悲しいですよ。子どもの頃は制御できませんでしたから。子どもの素直な感情ほど残酷なものはありません」
「確かにそうじゃな」
「そうね、子どもは純真で素直で無慈悲だわ」
「さて、エーネが落ち着いたら夕食にしようか」
「そうですね。私もちょっとお腹がすきました」
「食欲と魔力の枯渇は同じように感じるのだったか」
「そうかもしれません。エーネはどうですか?」
「お腹がすいています」
メアが食事を作り始めましたが、私もエーネも居間の椅子で船を漕いでいます。
「おぬしもエーネも食事が終わったら、とっと寝るがいい」
「そうします」「はぁぁいぃぃぃ」
エーネはすでに眠っているのかもしれない返事です。
そうして食事も終わり、私は部屋に戻ろうとする。
「昨日はキャロルと一緒に寝ていたであろう?今夜はエーネと一緒に寝るがいい」
「はぁい」
私もどうやらおねむです。エーネも同じようにふらついています。
そうして、エーネと一緒にベッドに入った。エーネは首を私の右腕に乗せて、頭を枕に乗せて見つめ合いました。2人ともその時だけは妙に目が冴えていました。
「あなた様。私は今幸福です。こんなに幸せな気持ちは久しぶりです。両親と暮らしていた時のように。父様・・・母様・・・」
私の右腕の手を強く握りながらエーネは泣いている。私が抱き寄せると、彼女は私の胸で泣きながら眠った。それでも眠っている顔が笑顔に戻ったのを見て安心して、瞬く間に私も深い眠りについた。予想外にエーネとの隷属の儀式は厳しかったのです。
それにしても、隷属の儀式をやる前提で話が進んでいましたが、「伴侶でないとまずいですがどうしますか」と言われた時にやめてしまっていれば、エーネを隷属しない事もできましたねえ。
「それは・・・考えていませんでした」
「まあ、そんな事はしませんけどね」
○食事とお風呂とおねむ
翌朝、キャロルが起こしに来た時には私も復調しまして、横でまだ寝ていたエーネの顔をキャロルがツンツンするのを微笑ましく見ていました。
「なぜかちょっと悔しいです」
そう言ってキャロルはつついていたのをやめて、両手でエーネのほっぺたをムニーッと横に広げました。おお、お餅のように柔らかくよく伸びますねえ。
「イダダダダ」
エーネは痛みに目を覚まして寝ぼけ顔でキャロルを見る。
「ヒャロル、ぁにをすうんでずか」エーネは頬を掴まれたままそう言いました。
「別に。早く起きなさい。朝食の時間よ」
キャロルはそう言って手を離して立ち上がる。
「ぃ、いひゃぃれす」
エーネは頬をさすりながらキャロルを恨めしそうに見ています。
「いいから早くしなさい」
「朝からキャロルが怖いです」
エーネはすねて横を向いてしまう。
「悪かったわよ。ごめんなさい。だから早く起きて」
キャロルがエーネのそばによって顔を見ようとするが、エーネが今度は逆を向いてキャロルの顔を見ようとしません。結局キャロルがエーネの角をつかんで正面を向かせる。
「はい」
エーネは嬉しそうに笑って言った。
私は2人のそんなやりとりを見て、なぜか「尊い」と思ってしまいました。そう思った途端、2人が私を見て、恥ずかしそうに部屋を出て行きました。おや?感情が伝わったのですねえ。隷属はちゃんとできているようです。
服に着替えて居間に入っていくと、皆さんがすでに揃っていて、私をジト目で見ています。キャロルとエーネは、恥ずかしそうに下を向いています。
「さっそくあんたの「好き好き攻撃」の餌食になったのね」
「攻撃ですか?」
「ああ、初めての者には最初からきつい攻撃じゃ」
「これから慣れていくしかないでしょう」
メアがそう言ってスープを配り始める。
「お二人の様子を見ると、なぜか懐かしく感じますね」
パムが頷いています。
「そうですね~私達の時は徐々にでしたから~新鮮~」
「私は今も慣れません」
ユーリがそう言った。
「ぬし様の感情は突然ですからね」
パムが苦笑している。
「僕は大丈夫ですよ。嬉しくなります」
「レイはいいのだけれど。ねえ?」
アンジーがモーラをチラ見して言った。
「まあそうじゃな。こやつの感情は素直すぎて、受け止める方が恥ずかしくなるくらいだからな」
「あんた達は早く慣れるのよ」
アンジーはそう言って、スープが全員に行き渡ったのを見て、お祈りを始める。
全員は手を組んで同じポーズを取る。キャロルとエーネもあわてて同じポーズを取って下を向いている。
「いただきます」
アンジーの声に全員が「いただきます」と言って食事が始まる。
「隷属した全員で食事をするのは初めてですねえ。ちょっと感動しています」
私は涙を浮かべてしまいました。
「いや、昨日の夕食からだろう。おぬしとエーネは眠くてその記憶もなくなっているのか?」
「まあそうなのです。キャロルさんとエーネウスさん。我が家族へようこそ」
「2人にしたら、かなり待たされたわね」
「そんな事はありません」
「せん」
「全員で10人です。大所帯になりました。あらためて私の家族になってくれてありがとうございます」
そうして一日は始まった。
これまでも遊びに来ているとはいえ、家族になると家での役割も違ってくる。家事スキルも狩猟スキルも色々あるから、全部こなさなければならない。
キャロルは、全般的になんでもできるが料理は苦手、逆にエーネは料理はそこそこでそれ以外がダメ、狩猟についてはキャロル。魔法全般はエーネとなっている。
「狩猟については、魔獣がほとんど出なくなってしまったので、遠征することになります。もっとも日帰りですが」パムの説明に2人が頷く。ユーリとレイは準備をして待機していた。
「エーネはローブ必須で」
「はい」
○そして噂の儀式
夕食の時にお風呂の話が出て、食事の手が止まる2人がいた。もちろんキャロルとエーネだ。
「そうだったわねえ。そこの2人は初めてだものねえ」
とアンジーがニヤニヤ笑いながら言った。
「女同士では入っていたではありませんか。大丈夫ですよひとりくらい増えても」
パムがフォローになっていないフォローをする。
2人はだんだんと顔が赤くなり下を向いて食事の手が止まっています。おや、肩が震えています。
「別に入らなくてもいいじゃないですか」
私はいつもどおりのことを口にする。
「「「「「「「「「よくない!」」」」」」」」」
全員が私を見て怒って言いました。なんで、キャロルやエーネまで怒っていますか。そして怒った後、また顔を真っ赤にして下を向きます。
「本当にあんたは馬鹿よね。いいからあんたは食事をしてメアと食事の後片付けをしてからお風呂に入ってきなさい」
「はあ、そうします」
そして久しぶりに皆さんとの入浴です。そう思うと突然。き、緊張すます。おっとかみまみた。
浴室への扉を開けると水蒸気で何も見えません。ああそうですね。昔からこうしておけば良かったかもしれません。でも、手探りでシャワーにたどり着いて体を洗い、湯船までも手探りです。おや、手の先に柔らかい感触が。むにょんと。
「キャッ」
「ああすいません。皆さん湯船に入っていると思ったものですから」
私は、少し位置をずらして湯船へとまた進む。そこでも
「あっ」
またも柔らかい感触。しかもボリュームがあり思わずつかんでしまいました。
「すいません、すいません。転びそうだったので」
そこで水蒸気が一気に消える。そこには、エーネが立っていて顔を赤らめうつむいている。
「早くお風呂に入ってください」
そう言って手を引いて浴槽に向かおうとすると。誰かが私を押しました。
「ああ、あぶない」
私はそのまま前に倒れそうになり、かろうじてエーネさんにぶつからず、しかし、前に立っていた白い肌にぶつかって倒れる。ええ、引っ張っていた手も離せずエーネさんが私の後に倒れ込んできました。私は、顔に柔らかい感触、そして背中にも、もっと柔らかい感触を感じて倒れてしまった。もちろん動けません。背中の感触から逃げるわけにもいかず倒れたままです。
「はい~そこまでです~儀式は終わりです~」
エルフィが楽しそうに言った。
「これのどこが儀式じゃ。最初からそんなものあるわけないじゃろう」
「え?そうなんですか?」
私が倒れている上の方から聞こえたその声は、キャロルですか?
「キャロル。おぬしはわしらと一緒に暮らしていたであろう。そんなことをわしらが言ったこともやっていたとも聞いたことはなかろう?」
「でもエルフィさんが・・・だましましたね」
「とりあえず、背中のたぶんエーネウスさんをどかしてくれないと私も動けません」
「ああ、エーネは気絶しているぞ」
「本当ですか?」
「ああこれは湯あたりじゃな。メア」
「はい」
メアが水を顔にかけたようだ。私の背中に冷たい水がかかりました。
「ああ、わたし・・・」
「メアさん。水をかけるくらいなら、エーネウスさんをどかしてもよかったのではありませんか」
「ご主人様によかれと思ってどけませんでしたが、いけませんでしたか」
「ええ、下半身がいけませんになってしまいました。しばらくこのままです」
「DT様、恥ずかしいのでわたしもお風呂に入りたいのですが」
私は少しだけ上の方を見ましたが、何かの谷間から両手で顔をおおっているキャロルが見えました。しまも肩を震わせています。
「私も動きたいのですが、このまま動くととんでもないことになりそうですので、少しずつ移動してください」
その間に私は、理性と欲望の天秤を理性に傾けるまで般若心経と寿限無を唱える。ああ落ち着きました。煩悩よ飛んでいけ~
「ふう」
そして、少し狭い浴槽にみんなで入っている。
「さすがに10人は厳しいのう。これは拡張するしかないな」
「いや、無理ですよ。この木肌は、これ以上良いものにはできません」
「魔法でちょいちょいとできんのか」
「やれますけどやりません」
「まあ、あんたにしたら密着度が高い方がいいわよねえ」
「両側がモーラとアンジーでは、密着してもうれしくないですよ」
「ほう、じゃあ誰ならば良いのじゃ」
「そ、それ以外の人ならOKですよ」
「言い訳がうまくなったわね。合格よ」
「とほほ」
全員で今回の隷属の感想を話して、のぼせ始めた人から順番にお風呂から上がっていく。
私は風呂掃除のために残っています。まあ、さっきはああ言いましたが、このお風呂の拡張の算段もするつもりです。皆さんも窮屈なのは嫌でしょうから。我ながら下僕体質は変わっていませんね。
そして、少し、いやかなり遅くなって脱衣所で着替えて、台所にある冷蔵庫から牛乳を取り出し、居間に入っていくと、たった2人だけが座って待っている。
○もう一つの儀式?
キャロルとエーネが真っ赤になって座っていた。あーそういうことですか。おっと気付いてしまうとこちらも何か緊張してきました。私は、自分自身を落ち着かせてから、
「どうしましたか?」
私の声にびっくりした様子でこちらを怯えて見上げる。
「あ、あのー一緒に寝るようにと言われまして」
「ああ、嫌なら無理しない方が良いですよ。最初の頃は寝返りも打てないのでかえって眠れなかったりしますから」
「で、でも、一度は経験していた方が良いといわれまして」
「は、はい。気持ちよくなれるそうですから」
「気持ちよくなれる?ああ、まあ魔力の切れかかった時なら気持ちが良いらしいですよ」
「そ、そうなんですか?最初は痛いと言っていましたが」
「痛い?そんな話は聞いたことがありませんねえ。でも恐いなら無理しない方が」
「いいえ、一緒に寝てください。お願いします」
「私も同じです。お願いします」
「本当に大丈夫ですか?」
「は、はい。覚悟しています」
「私も覚悟しています」
「じゃあ一緒に寝ましょう」
「は、はいぃぃ」
「え、えぇぇぇぇ」
そして私の部屋に2人が来ました。
「では、右左どっちがいいですか?」
「え?先か後かの順番の話ではないのですか?」
「いや、私の両側にあなた達が寝るだけですよ。もしくは、私がどちらかを抱きかかえる形になってもう一人が私を抱えるように」
「そ、そうなんですか。で、では私が抱かれる方で」
「あ、キャキャロルずるいです」
「で、でも・・・ねえ」
「あ、ああそうね。お先にどうぞです」
「じゃあ、私が先に毛布に入っていますから、明かりを消して後から入って来てくださいね」
「は、はいい」
私が先にベッドに入った後、明かりが消えて
「ゴクリ」と言う息をのむ音がして、背中にひとり
「ゴクリ」という息をのむ音がして、前にひとり。私は入って来たのを確認して抱きかかえる。
「ん?」手触りが妙に温かい人肌です。
「キャロルさん」
「はいぃぃ。よ、よろしくお願いいたしますぅぅぅぅ」
「もしかして寝間着を脱いでいますか?」
「え?脱ぐんですよね?」
「また、あの人達は・・・とりあえず私は目をつぶっていますから、おふたりとも一度起き上がって寝間着を着てから毛布の中に入り直してください」
「え?え?え?」
2人ともはてなマークが頭の中を飛んでいるらしいが、言われたとおり寝間着を着て再び毛布の中に入ってきた。
「先輩達は、たまにこうやって後輩達をいじるのですよ。まったく」
「そうなんですか」
ほっとしたような声です。
「いいことを教えてあげましょう。最初に私と一緒に寝るようになったのは、モーラが・・・」
「わかった。わしの負けじゃ。悪かった。わしが悪かった。その話は頼むからやめてくれ」
おや、扉の方から声がします。そうですかモーラとアンジーがそこにいたのですか。
「まだ全部話していませんよ。モーラが人肌が恋しいと・・」
「そうだったんですか」
「ああ、だからその話はなしじゃというのに・・・」
そう言ってモーラは膝から崩れ落ちる。この話ってそんなに聞かれたくない話なのですか。
「そういえば、その話って、みんなにしていなかったわねえ」
「アンジー、おぬしまで・・・」
「さて、これ以上モーラをいじると天罰がありそうですのでやめておきます」
「おふたりとも、私達はこうして寝ることで気持ちを伝え合ったりお互いの愛情を再確認したりできるのですよ。だから幸せになるのです。モーラ、アンジー明かりを消してくださいね。それではおやすみなさい」
「「おやすみなさい」」
2人は明かりが消される前から目をつぶって眠り始めました。
「こやつら本当に寝始めたぞ。さすがだなあ」
「ええ、さすがね。たいした度胸だわ」
「彼女たちは、何も知らないですからねえ」
「キャロルはさすがに知っていそうですが」
「あの領主のことじゃ。「そういうのはいけないと思います」とかいいそうじゃなあ」
「まったく、どこのメイドさんの真似かしら」
「さて、わしらも寝るかのう」
「そうね」
そう言ってみんながぞろぞろと自分の部屋に戻っていった。足音が聞こえなくなった頃、その二人は、私の寝息を聞きながら、
「「ね、眠れない」」そう言って朝まで眠れず、翌日は、寝不足だったそうです。
○呼称はもうない
「もう呼び方なんてないわよねえ」
「私の語彙の中には「貴方様」位しかありませんね」
「ダ・・・ダー様」キャロルが恥ずかしそうにそう言いました。
「「えっ?」」
私とアンジーは声を揃えて驚いてしまいました。そして私とアンジーは顔を見合わせ、お互いをどうしてそこで驚く?という顔をしあってから、キャロルを見ました。
「どうしてそう呼ぼうと思ったのかしら?」
アンジーはなぜか恐る恐るそう尋ねます。何かを探るように。私も気持ち的には同じです。キャロルは私とアンジーの反応に動揺を隠しきれずに。
「えっとあのですね。つながった瞬間の時にマイ・ディアー、ダーリンと言う言葉が見えました」
「見えたのね。どんな風に?」
「見知らぬ女性がDT様を親しげにそう呼んでいました。いけませんでしたか」
「あんたどうなの」
「構いませんよ。見えたのなら仕方がないでしょう。「そういう事」なのでしょうから」
「あんた・・まあ、別に良いんじゃない?」
「よろしかったのですか?」
「うちのみんなは、こいつと感情や知識も共有しているから、言語体系も日本語ベースで理解できるのよ」
「これはDT様の前の世界の日本語なのですか?」
「日本語ではないけど、あの世界の違う国の言葉よ。愛する人とか親愛なる人みたいな感じね」
「えー。何かずるいです」
「じゃあエーネはどうなのですか」
「母からは、隷属したならこう呼ばせてもらいなさいと。夫となったらマ・リとダメだったらルー様位しか思いつかないと言われました」
「夫となった事まで考えていたとは、あんたの母親も大概ねえ。最初から正妻の座を狙わせていたとはね」
「はい。私では皆様に勝つにはそれくらいしかアドバンテージは取れないだろうと」
「その読みはさすがねえ。エーネの事をよく知っているわね」
「それは悪意にしか取れません!」
「まあ、悪意だから」
「ひどいです」
「まあまあ。わしらは、どんな言葉でも呼び名でも感情がこもっていれば通じるじゃろう」
「そうか。言葉が違っても好きという事は伝わるのですね」
「そういう事よ」
○キャロルのお願い
エーネと共に隠れ里に向かった時、強い魔族に遭遇して、エーネの魔力でなんとか切り抜けたが、戦いに恐怖を覚えていた。振り切るために里でも鍛錬に励んだが、結論がようやく出た。
「魔法をちゃんと使えるようになりたいです」私はダー様にそう言った。ちょっと恥ずかしい。
「ユーリも何かありますか?」
「剣に魔法を付与していますが、もう少し強力なものにしたいとは思っています」
「パムさんは何かありますか?」
「私の祖父が以前見せてくれた、こぶしに魔法を乗せて殴るというのを会得したいです。これまで自己流で試してきましたがうまくいかないので、第3者のアドバイスを受けてみたいです」
「エルフィは何かありますか?」
「・・・運動します」
「はあ?」
「おなかのお肉・・・ちょっと気になります」
「変わっていませんよ」
「それは・・・旦那様ひどい・・・私の事見てくれていないのですね」
「また、夜な夜な食べる癖が復活していますね」メアがエルフィをジロリと見て言った。
「・・・はい」
「それもレイとエーネも一緒に食べていましたが」メアは同じようにレイとエーネを見て言った。
「エーネ。あなた」キャロルが目をそらすエーネを捕まえて顔を睨んで言った。
「ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい」エーネは顔を下に向けて謝り続ける。
「最近おなかを気にすると思ったらそういうことですか」キャロルがため息をついた。
「僕は運動しなくても太りませんよ」レイがキョトンとして言った。
「あんたは無駄な動きが多いからね。二人もレイについて走り回れば運動不足が解消されるのではなくて?」 アンジーが笑っている。
「アンジー様、ご自身も生活を改めていただきます」メアがそう言った。
「私は・・・霧みたいなものだからそんなこと・・・ひゃっ」アンジーが言いかけた時にモーラがアンジーの下腹をムニっと掴んだ。
「おぬしもだいぶ下腹についておらんか?」モーラはそう言いながら、アンジーの下腹を揉み続ける。
「あ・・・」
「そう言っているモーラ様も同様です。と補助脳も申しております」メアはデータを確認しながら言った。
「モーラ様も下腹が掴めますね」レイがモーラのお腹をつまんでいる。
「こらレイ何をする。ドラゴンを敬わぬか」
「ごほん。とりあえず今すぐではありませんが機会を見てお願いしたいのですが」
キャロルがそこで話を戻した。おお、まるでアンジーのようです。
「我々だけでは新鮮味がありませんね。勇者たちも呼びましょうか」パムがそう提案する。
「おお、良い案じゃな。あれからどうなっているか気にもなるからな」
「わかりました。早速連絡しておきましょう」パムが連絡を取りに町に行こうとする。
「3勇者をここに呼んでもいいのでしょうか?」メアが不安げだ。
「勇者会議の時の話が魔族至上主義者に漏れて、魔族との戦争が早まった時に簡単に倒されても困りますからね。今の状態からもう少しレベルを上げてもらわないと、あっという間に倒されてしまって人族が滅亡されかねません」
「いえ、人族とあえて関係を持つのはどうかということです」メアがそこを気にしているようです。
「わしらが言われているのは族長会議に参加している種族は不干渉と言われているだけじゃからなあ。神にしても魔族討伐の助けになるのだから文句はあるまい」モーラがそう言ってはいますが、詭弁ですねえ。
「今回は逆に神をサポートする事になるのですね、それはそれで微妙ではありますが」ユーリがそう言った。
「確かにそれは微妙じゃが、わしらは、誰かのダイエットのために勇者を呼びつけるんじゃから、それも大概な気もするがなあ」モーラはそう言って、エルフィとエーネを見た。
「一応来られた方には、特典をご用意しますよ」私はそう言いました。
「なんじゃ」
「今思いついたのですが、まあ来てもらった時にでも教えますよ」
「楽しみじゃな」
「モーラにあげるわけではありませんよ。そもそもモーラには必要のないものですから」
「その特典の話はしてもよろしいでしょうか」パムが玄関から出そうになったままそう言った。
「特典がなくても、3勇者が再度結集できるとなれば来るとは思いますが、かまいませんよ」
しかし、すぐに連絡が取れるわけでもなく、連絡待ちになった。
Appendix
これは無理です。大きすぎます。
ああ、私の鉄拳ですらダメージを与えられていない。
これは闇に落とそうにも大きすぎる。
一体どうしたらいいのか。
次の満月までに何とか対策を考えないと。
これは、あの方に連絡を取ってもらうか。
それしかないですね
続く
「みんなは朝の訓練に行きましたが、私も行っていいのでしょうか?」
エーネがアンジーに尋ねる。
「大丈夫よ。あいつの魔力量の問題らしいから。あなたの方には問題ないみたいよ。でも頑張りすぎないでね」
「では行ってきます」
そうしてモーラとアンジー、メアと私以外は朝の訓練に向かった。
「おぬしは一体何をしている。ズーッと上を見上げて、つぶやいているから上の空にしか見えぬぞ」
「それはもちろん。隷属の魔法の再確認ですよ」
「そうか。大丈夫なのだろうなあ」
そうして朝の訓練で一汗かいて皆さんが戻ってきてシャワーを浴びて、居間に集合しています。
昨日の話のせいなのか、皆さんから妙な緊張感が伝わってきています。エーネは知らないので平常心ですが。
私は昨日と同じ位置に立って、エーネもキャロルと同じ位置に立っています。
「さてエーネ。良いですか」
「はい、よろしくお願いいたします」
「正式なお名前をお聞きしておりませんでした。今一度お名前の方を教えてください」
「はい、まず、私の頭に手をかざしてください。そして魔力をおためください」
「ええ?大丈夫ですか?」
「そして私の名前エーネウス・ルサルカとお呼びください」
「もしかして、それが、魔族が隷属する場合の儀式呪文なのですか?そんな話は聞いていませんが。それを教えてください」
「やはりそれをお聞きになりましたか。母上。残念ですがここまでです」
「なにがここまでじゃ。おぬし母親に何か入れ知恵されてきておったな」
「はい。聞かれたら正直に話すようにとも言われていました。そのままならいけると」
「なにがいけたのかしら」
アンジーがじろりと睨む。
「私が隷属するという事は、自動的にDT様は私の生涯の伴侶となり、皆様には申し訳ありませんが、私は正妻の座につく事になります」
エーネが残念そうに言った。
「なんだと」
「どうしてですか?」
「魔王は魔族の最上位です。他の種族に隷属することはできません。ですから隷属は難しいのです」
「ほう?」
「もっともメス同士であれば、伴侶ではなく隷属になるのですが」
「それで、魔族の隷属の魔法でという事でしたか」
「聞かれて答えないのはいけないし、嘘もいけないと。隷属した段階で事実はバレるのだからそこで信頼関係を損なっては意味が無いと」
「やはりあんたの母親は策士だわ。伊達に魔王の妻をやっている訳ではないのね」
「さらに魔力量が桁違いなので、かけたDT様が魔力酔いすると思われます」
「魔力酔いですか?」聞いたことがありませんねえ。
「最後にアンジー様と同格の隷属関係となりますから、聖属性と闇属性の相反する属性が隷属することになりますので、しばらくはあなた様もアンジー様ももしかしたら私も魔力制御が不安定になると言われました」
「属性反転しますかねえ」私は顎に手をあてて考えています。
「どうしますか?伴侶でないとまずいかもしれません」
エーネがニヤリと笑った。おお意外と策士です。恋する乙女はこうなのかもしれません。
「大丈夫ですよ~」
エルフィがそこでほんわかな声で言いました。
「なんじゃその脳天気な発言は。根拠があるのなら申してみい」
「だって~これだけの大人数隷属させているんですよ~総魔力量が計り知れないですよ~」
「聖と闇の関係は大丈夫なのか?」
「それも~旦那様なら~制御できますよ~」
「私も今の話の間に、色々な事を想定してみましたが、不安は感じませんでした。たぶん大丈夫なのだと思います」
パムが考え考え言った。
「不安要素が思いつかないというのか」
「はい大丈夫かと。逆に今になって思えば、これだけの他種族を隷属させている段階で、どこかで変調が起きていてもおかしくないのです。ここまで破綻せずになんとかなっている。そちらの方がむしろ不思議です」
「言われてみれば確かにそうじゃなあ。どうして今までそこに気付かなかったのじゃろうか」
「アンジーとモーラの後は、しばらく間がありましたが、ユーリからメアさん、そしてエルフィは、日を追うごとに隷属して、あっという間でしたからねえ。考えている暇もありませんでした」
「そうねえ。私とモーラはまあ、予定調和だったから納得できるけど。今考えると、その後からはけっこう綱渡りだったのかも知れないわねえ。でも不安は感じなかったし、まあ今回も大丈夫でしょう」
「では皆さん行きますよ!」
「「「「「「「「「はい」」」」」」」」」
おや全員の声が揃いました。ああ、心が揃ってますねえ。私がそう思った途端、全員の体が淡い光に包まれた。
「これは・・・おぬし、今じゃ」
「はい」
私は慌てて手を光らせてエーネの頭に手をかざす。
「その者、この隷属の魔法の前でその真名をさらし、我に生涯付き従うか、選べ」
パムの時の祝詞をとっさに一部を変えて言葉を発した。魔力の質が、色が変わった。そう、あの時とは少し違う色だ。ああ、これはうまくいきそうだ。
「我が名はエーネウス・ルサルカ、あなた様に生涯付き従うと誓います」
「そなた、エーネウス・ルサルカ、エーネよ、我に生涯付き従い、我と共に生き、我と共に栄えるべし」
「我、エーネウス・ルサルカは、あなた様に生涯付き従い、あなた様と共に生き、あなた様と共に栄えます」
そこにいる全員が淡い光に包まれ、そして、ゆっくりと全員の光が消えていく。その後は、誰も言葉を発することができず、ただただ静寂に包まれている。
しばらくしてモーラが
「成功したのか?」
「はいたぶん」
○変調
私は、自分の首にあるものをイメージして少し念じてみる。すると全員に隷属の首輪がつながっているのがぼんやりと光っているのがわかる。そして全員にそれが見えた。
「そうか。とっさとは言え、序の台詞を書き換えるとはさすがじゃな」
「さすがに「聖なる魔法の前で」では魔族はまずいでしょう」
「全員が淡い光に包まれていたからそれでも大丈夫だったかもしれぬが。何かが起きたかもしれないしなあ」
「さて、エーネ」
「はい」
心細げに返事をするエーネ。
「どんな感じですか」
「泣きそうです」
「どうして泣きそうなのですか?」
「いままで黙っていましたが、私の能力の一つに相手の発する言葉から気持ちを感じるというものがあります。つまり、嘘がわかります」
「それは困りました」
「困っていませんよね。わざとそう言いましたよね。私を試すために」
「なるほど、そこまで正確に読み取りますか。でも、泣きそうなのはなぜですか?」
「隷属した時に高揚感がもちろんありました。でも、同時に断片的にですがあなた様の過去が見えてしまいました」
「そうでしたか。それは嫌なものを見せてしまいましたねえ」
「いいえ、あれほどの苦しみを持ち、世界に絶望してこの世界に転生して、さらにこの世界の醜い部分を見ていながら、それでもなお、この世界を呪わないでいる。あなた様は聖人か何かでしょうか」
「いいえ、記憶をなくしてこの世界に来た時にとても愛すべき人たちと心を通わせたおかげです。そして今はあなたもそのひとりなのですよ」
「そこまで・・・そこまで皆さんを愛しているのですか。すばらしいです。もっとあなた様と一緒になりたい、素敵です。ああ本当に素敵です」
エーネがそう言いながら、私に手を伸ばし抱きつこうとする。しかし、その目は私を見ずに、遠くを見ているようで、トランス状態になっている感じです。
「エーネがおかしい。DT。おぬし、一度感情を遮断しろ。これはまずい」
「どうやらそうみたいです。隷属は失敗ですか?」
「いいや単におまえの過去や思考に同調しすぎじゃ。おぬしに引っ張られておるぞ。こやつの自我がおぬしに取り込まれるかもしれん」
モーラがそう言って、私とエーネを引き離そうとする。
「隷属も解呪しますか?」
「それは最後の手段じゃ。感情を遮断すると同時に例の精神攻撃カウンターを発動させるんじゃ」
「それをして大丈夫ですか?今、エーネは精神攻撃に過敏になっていますよ」
「いいから急げ」
私は言われたとおり、思考遮断と精神攻撃カウンターを発動させる。
「ああ痛い。頭が割れるように痛い。どうしてですか?どうして私を拒絶なさるのですか、あなた様と一つになりたいのに・・・・」
そう言って、モーラを押しのけて私に近付こうとしていたエーネは途中で気を失って倒れた。
「大丈夫でしょうか」
「とりあえずおぬしは、カウンターなしの思考遮断モードで待機しておれ」
「はい」
そうして一同が見守る中、しばらくして頭を左右に振って目を開けるエーネ。
「私は、一体何をしていたのでしょうか。ああ、あなた様と同調しすぎたのですね。大丈夫です。落ち着いています。そういえば今は、感情を遮断されていますね。さきほどはすいませんでした。あなた様の感情に触れたのがうれしくて、でも、とても悲しい感情に触れてしまい、癒やしてあげたいと思い、反面その感情を分かち合いたいと思ってしまってどうにも制御できませんでした。今は本当に大丈夫です。流されたりしません」
「それにしてもすごいものじゃな。相手の感情がわかるというのは」
「とても悲しいですよ。子どもの頃は制御できませんでしたから。子どもの素直な感情ほど残酷なものはありません」
「確かにそうじゃな」
「そうね、子どもは純真で素直で無慈悲だわ」
「さて、エーネが落ち着いたら夕食にしようか」
「そうですね。私もちょっとお腹がすきました」
「食欲と魔力の枯渇は同じように感じるのだったか」
「そうかもしれません。エーネはどうですか?」
「お腹がすいています」
メアが食事を作り始めましたが、私もエーネも居間の椅子で船を漕いでいます。
「おぬしもエーネも食事が終わったら、とっと寝るがいい」
「そうします」「はぁぁいぃぃぃ」
エーネはすでに眠っているのかもしれない返事です。
そうして食事も終わり、私は部屋に戻ろうとする。
「昨日はキャロルと一緒に寝ていたであろう?今夜はエーネと一緒に寝るがいい」
「はぁい」
私もどうやらおねむです。エーネも同じようにふらついています。
そうして、エーネと一緒にベッドに入った。エーネは首を私の右腕に乗せて、頭を枕に乗せて見つめ合いました。2人ともその時だけは妙に目が冴えていました。
「あなた様。私は今幸福です。こんなに幸せな気持ちは久しぶりです。両親と暮らしていた時のように。父様・・・母様・・・」
私の右腕の手を強く握りながらエーネは泣いている。私が抱き寄せると、彼女は私の胸で泣きながら眠った。それでも眠っている顔が笑顔に戻ったのを見て安心して、瞬く間に私も深い眠りについた。予想外にエーネとの隷属の儀式は厳しかったのです。
それにしても、隷属の儀式をやる前提で話が進んでいましたが、「伴侶でないとまずいですがどうしますか」と言われた時にやめてしまっていれば、エーネを隷属しない事もできましたねえ。
「それは・・・考えていませんでした」
「まあ、そんな事はしませんけどね」
○食事とお風呂とおねむ
翌朝、キャロルが起こしに来た時には私も復調しまして、横でまだ寝ていたエーネの顔をキャロルがツンツンするのを微笑ましく見ていました。
「なぜかちょっと悔しいです」
そう言ってキャロルはつついていたのをやめて、両手でエーネのほっぺたをムニーッと横に広げました。おお、お餅のように柔らかくよく伸びますねえ。
「イダダダダ」
エーネは痛みに目を覚まして寝ぼけ顔でキャロルを見る。
「ヒャロル、ぁにをすうんでずか」エーネは頬を掴まれたままそう言いました。
「別に。早く起きなさい。朝食の時間よ」
キャロルはそう言って手を離して立ち上がる。
「ぃ、いひゃぃれす」
エーネは頬をさすりながらキャロルを恨めしそうに見ています。
「いいから早くしなさい」
「朝からキャロルが怖いです」
エーネはすねて横を向いてしまう。
「悪かったわよ。ごめんなさい。だから早く起きて」
キャロルがエーネのそばによって顔を見ようとするが、エーネが今度は逆を向いてキャロルの顔を見ようとしません。結局キャロルがエーネの角をつかんで正面を向かせる。
「はい」
エーネは嬉しそうに笑って言った。
私は2人のそんなやりとりを見て、なぜか「尊い」と思ってしまいました。そう思った途端、2人が私を見て、恥ずかしそうに部屋を出て行きました。おや?感情が伝わったのですねえ。隷属はちゃんとできているようです。
服に着替えて居間に入っていくと、皆さんがすでに揃っていて、私をジト目で見ています。キャロルとエーネは、恥ずかしそうに下を向いています。
「さっそくあんたの「好き好き攻撃」の餌食になったのね」
「攻撃ですか?」
「ああ、初めての者には最初からきつい攻撃じゃ」
「これから慣れていくしかないでしょう」
メアがそう言ってスープを配り始める。
「お二人の様子を見ると、なぜか懐かしく感じますね」
パムが頷いています。
「そうですね~私達の時は徐々にでしたから~新鮮~」
「私は今も慣れません」
ユーリがそう言った。
「ぬし様の感情は突然ですからね」
パムが苦笑している。
「僕は大丈夫ですよ。嬉しくなります」
「レイはいいのだけれど。ねえ?」
アンジーがモーラをチラ見して言った。
「まあそうじゃな。こやつの感情は素直すぎて、受け止める方が恥ずかしくなるくらいだからな」
「あんた達は早く慣れるのよ」
アンジーはそう言って、スープが全員に行き渡ったのを見て、お祈りを始める。
全員は手を組んで同じポーズを取る。キャロルとエーネもあわてて同じポーズを取って下を向いている。
「いただきます」
アンジーの声に全員が「いただきます」と言って食事が始まる。
「隷属した全員で食事をするのは初めてですねえ。ちょっと感動しています」
私は涙を浮かべてしまいました。
「いや、昨日の夕食からだろう。おぬしとエーネは眠くてその記憶もなくなっているのか?」
「まあそうなのです。キャロルさんとエーネウスさん。我が家族へようこそ」
「2人にしたら、かなり待たされたわね」
「そんな事はありません」
「せん」
「全員で10人です。大所帯になりました。あらためて私の家族になってくれてありがとうございます」
そうして一日は始まった。
これまでも遊びに来ているとはいえ、家族になると家での役割も違ってくる。家事スキルも狩猟スキルも色々あるから、全部こなさなければならない。
キャロルは、全般的になんでもできるが料理は苦手、逆にエーネは料理はそこそこでそれ以外がダメ、狩猟についてはキャロル。魔法全般はエーネとなっている。
「狩猟については、魔獣がほとんど出なくなってしまったので、遠征することになります。もっとも日帰りですが」パムの説明に2人が頷く。ユーリとレイは準備をして待機していた。
「エーネはローブ必須で」
「はい」
○そして噂の儀式
夕食の時にお風呂の話が出て、食事の手が止まる2人がいた。もちろんキャロルとエーネだ。
「そうだったわねえ。そこの2人は初めてだものねえ」
とアンジーがニヤニヤ笑いながら言った。
「女同士では入っていたではありませんか。大丈夫ですよひとりくらい増えても」
パムがフォローになっていないフォローをする。
2人はだんだんと顔が赤くなり下を向いて食事の手が止まっています。おや、肩が震えています。
「別に入らなくてもいいじゃないですか」
私はいつもどおりのことを口にする。
「「「「「「「「「よくない!」」」」」」」」」
全員が私を見て怒って言いました。なんで、キャロルやエーネまで怒っていますか。そして怒った後、また顔を真っ赤にして下を向きます。
「本当にあんたは馬鹿よね。いいからあんたは食事をしてメアと食事の後片付けをしてからお風呂に入ってきなさい」
「はあ、そうします」
そして久しぶりに皆さんとの入浴です。そう思うと突然。き、緊張すます。おっとかみまみた。
浴室への扉を開けると水蒸気で何も見えません。ああそうですね。昔からこうしておけば良かったかもしれません。でも、手探りでシャワーにたどり着いて体を洗い、湯船までも手探りです。おや、手の先に柔らかい感触が。むにょんと。
「キャッ」
「ああすいません。皆さん湯船に入っていると思ったものですから」
私は、少し位置をずらして湯船へとまた進む。そこでも
「あっ」
またも柔らかい感触。しかもボリュームがあり思わずつかんでしまいました。
「すいません、すいません。転びそうだったので」
そこで水蒸気が一気に消える。そこには、エーネが立っていて顔を赤らめうつむいている。
「早くお風呂に入ってください」
そう言って手を引いて浴槽に向かおうとすると。誰かが私を押しました。
「ああ、あぶない」
私はそのまま前に倒れそうになり、かろうじてエーネさんにぶつからず、しかし、前に立っていた白い肌にぶつかって倒れる。ええ、引っ張っていた手も離せずエーネさんが私の後に倒れ込んできました。私は、顔に柔らかい感触、そして背中にも、もっと柔らかい感触を感じて倒れてしまった。もちろん動けません。背中の感触から逃げるわけにもいかず倒れたままです。
「はい~そこまでです~儀式は終わりです~」
エルフィが楽しそうに言った。
「これのどこが儀式じゃ。最初からそんなものあるわけないじゃろう」
「え?そうなんですか?」
私が倒れている上の方から聞こえたその声は、キャロルですか?
「キャロル。おぬしはわしらと一緒に暮らしていたであろう。そんなことをわしらが言ったこともやっていたとも聞いたことはなかろう?」
「でもエルフィさんが・・・だましましたね」
「とりあえず、背中のたぶんエーネウスさんをどかしてくれないと私も動けません」
「ああ、エーネは気絶しているぞ」
「本当ですか?」
「ああこれは湯あたりじゃな。メア」
「はい」
メアが水を顔にかけたようだ。私の背中に冷たい水がかかりました。
「ああ、わたし・・・」
「メアさん。水をかけるくらいなら、エーネウスさんをどかしてもよかったのではありませんか」
「ご主人様によかれと思ってどけませんでしたが、いけませんでしたか」
「ええ、下半身がいけませんになってしまいました。しばらくこのままです」
「DT様、恥ずかしいのでわたしもお風呂に入りたいのですが」
私は少しだけ上の方を見ましたが、何かの谷間から両手で顔をおおっているキャロルが見えました。しまも肩を震わせています。
「私も動きたいのですが、このまま動くととんでもないことになりそうですので、少しずつ移動してください」
その間に私は、理性と欲望の天秤を理性に傾けるまで般若心経と寿限無を唱える。ああ落ち着きました。煩悩よ飛んでいけ~
「ふう」
そして、少し狭い浴槽にみんなで入っている。
「さすがに10人は厳しいのう。これは拡張するしかないな」
「いや、無理ですよ。この木肌は、これ以上良いものにはできません」
「魔法でちょいちょいとできんのか」
「やれますけどやりません」
「まあ、あんたにしたら密着度が高い方がいいわよねえ」
「両側がモーラとアンジーでは、密着してもうれしくないですよ」
「ほう、じゃあ誰ならば良いのじゃ」
「そ、それ以外の人ならOKですよ」
「言い訳がうまくなったわね。合格よ」
「とほほ」
全員で今回の隷属の感想を話して、のぼせ始めた人から順番にお風呂から上がっていく。
私は風呂掃除のために残っています。まあ、さっきはああ言いましたが、このお風呂の拡張の算段もするつもりです。皆さんも窮屈なのは嫌でしょうから。我ながら下僕体質は変わっていませんね。
そして、少し、いやかなり遅くなって脱衣所で着替えて、台所にある冷蔵庫から牛乳を取り出し、居間に入っていくと、たった2人だけが座って待っている。
○もう一つの儀式?
キャロルとエーネが真っ赤になって座っていた。あーそういうことですか。おっと気付いてしまうとこちらも何か緊張してきました。私は、自分自身を落ち着かせてから、
「どうしましたか?」
私の声にびっくりした様子でこちらを怯えて見上げる。
「あ、あのー一緒に寝るようにと言われまして」
「ああ、嫌なら無理しない方が良いですよ。最初の頃は寝返りも打てないのでかえって眠れなかったりしますから」
「で、でも、一度は経験していた方が良いといわれまして」
「は、はい。気持ちよくなれるそうですから」
「気持ちよくなれる?ああ、まあ魔力の切れかかった時なら気持ちが良いらしいですよ」
「そ、そうなんですか?最初は痛いと言っていましたが」
「痛い?そんな話は聞いたことがありませんねえ。でも恐いなら無理しない方が」
「いいえ、一緒に寝てください。お願いします」
「私も同じです。お願いします」
「本当に大丈夫ですか?」
「は、はい。覚悟しています」
「私も覚悟しています」
「じゃあ一緒に寝ましょう」
「は、はいぃぃ」
「え、えぇぇぇぇ」
そして私の部屋に2人が来ました。
「では、右左どっちがいいですか?」
「え?先か後かの順番の話ではないのですか?」
「いや、私の両側にあなた達が寝るだけですよ。もしくは、私がどちらかを抱きかかえる形になってもう一人が私を抱えるように」
「そ、そうなんですか。で、では私が抱かれる方で」
「あ、キャキャロルずるいです」
「で、でも・・・ねえ」
「あ、ああそうね。お先にどうぞです」
「じゃあ、私が先に毛布に入っていますから、明かりを消して後から入って来てくださいね」
「は、はいい」
私が先にベッドに入った後、明かりが消えて
「ゴクリ」と言う息をのむ音がして、背中にひとり
「ゴクリ」という息をのむ音がして、前にひとり。私は入って来たのを確認して抱きかかえる。
「ん?」手触りが妙に温かい人肌です。
「キャロルさん」
「はいぃぃ。よ、よろしくお願いいたしますぅぅぅぅ」
「もしかして寝間着を脱いでいますか?」
「え?脱ぐんですよね?」
「また、あの人達は・・・とりあえず私は目をつぶっていますから、おふたりとも一度起き上がって寝間着を着てから毛布の中に入り直してください」
「え?え?え?」
2人ともはてなマークが頭の中を飛んでいるらしいが、言われたとおり寝間着を着て再び毛布の中に入ってきた。
「先輩達は、たまにこうやって後輩達をいじるのですよ。まったく」
「そうなんですか」
ほっとしたような声です。
「いいことを教えてあげましょう。最初に私と一緒に寝るようになったのは、モーラが・・・」
「わかった。わしの負けじゃ。悪かった。わしが悪かった。その話は頼むからやめてくれ」
おや、扉の方から声がします。そうですかモーラとアンジーがそこにいたのですか。
「まだ全部話していませんよ。モーラが人肌が恋しいと・・」
「そうだったんですか」
「ああ、だからその話はなしじゃというのに・・・」
そう言ってモーラは膝から崩れ落ちる。この話ってそんなに聞かれたくない話なのですか。
「そういえば、その話って、みんなにしていなかったわねえ」
「アンジー、おぬしまで・・・」
「さて、これ以上モーラをいじると天罰がありそうですのでやめておきます」
「おふたりとも、私達はこうして寝ることで気持ちを伝え合ったりお互いの愛情を再確認したりできるのですよ。だから幸せになるのです。モーラ、アンジー明かりを消してくださいね。それではおやすみなさい」
「「おやすみなさい」」
2人は明かりが消される前から目をつぶって眠り始めました。
「こやつら本当に寝始めたぞ。さすがだなあ」
「ええ、さすがね。たいした度胸だわ」
「彼女たちは、何も知らないですからねえ」
「キャロルはさすがに知っていそうですが」
「あの領主のことじゃ。「そういうのはいけないと思います」とかいいそうじゃなあ」
「まったく、どこのメイドさんの真似かしら」
「さて、わしらも寝るかのう」
「そうね」
そう言ってみんながぞろぞろと自分の部屋に戻っていった。足音が聞こえなくなった頃、その二人は、私の寝息を聞きながら、
「「ね、眠れない」」そう言って朝まで眠れず、翌日は、寝不足だったそうです。
○呼称はもうない
「もう呼び方なんてないわよねえ」
「私の語彙の中には「貴方様」位しかありませんね」
「ダ・・・ダー様」キャロルが恥ずかしそうにそう言いました。
「「えっ?」」
私とアンジーは声を揃えて驚いてしまいました。そして私とアンジーは顔を見合わせ、お互いをどうしてそこで驚く?という顔をしあってから、キャロルを見ました。
「どうしてそう呼ぼうと思ったのかしら?」
アンジーはなぜか恐る恐るそう尋ねます。何かを探るように。私も気持ち的には同じです。キャロルは私とアンジーの反応に動揺を隠しきれずに。
「えっとあのですね。つながった瞬間の時にマイ・ディアー、ダーリンと言う言葉が見えました」
「見えたのね。どんな風に?」
「見知らぬ女性がDT様を親しげにそう呼んでいました。いけませんでしたか」
「あんたどうなの」
「構いませんよ。見えたのなら仕方がないでしょう。「そういう事」なのでしょうから」
「あんた・・まあ、別に良いんじゃない?」
「よろしかったのですか?」
「うちのみんなは、こいつと感情や知識も共有しているから、言語体系も日本語ベースで理解できるのよ」
「これはDT様の前の世界の日本語なのですか?」
「日本語ではないけど、あの世界の違う国の言葉よ。愛する人とか親愛なる人みたいな感じね」
「えー。何かずるいです」
「じゃあエーネはどうなのですか」
「母からは、隷属したならこう呼ばせてもらいなさいと。夫となったらマ・リとダメだったらルー様位しか思いつかないと言われました」
「夫となった事まで考えていたとは、あんたの母親も大概ねえ。最初から正妻の座を狙わせていたとはね」
「はい。私では皆様に勝つにはそれくらいしかアドバンテージは取れないだろうと」
「その読みはさすがねえ。エーネの事をよく知っているわね」
「それは悪意にしか取れません!」
「まあ、悪意だから」
「ひどいです」
「まあまあ。わしらは、どんな言葉でも呼び名でも感情がこもっていれば通じるじゃろう」
「そうか。言葉が違っても好きという事は伝わるのですね」
「そういう事よ」
○キャロルのお願い
エーネと共に隠れ里に向かった時、強い魔族に遭遇して、エーネの魔力でなんとか切り抜けたが、戦いに恐怖を覚えていた。振り切るために里でも鍛錬に励んだが、結論がようやく出た。
「魔法をちゃんと使えるようになりたいです」私はダー様にそう言った。ちょっと恥ずかしい。
「ユーリも何かありますか?」
「剣に魔法を付与していますが、もう少し強力なものにしたいとは思っています」
「パムさんは何かありますか?」
「私の祖父が以前見せてくれた、こぶしに魔法を乗せて殴るというのを会得したいです。これまで自己流で試してきましたがうまくいかないので、第3者のアドバイスを受けてみたいです」
「エルフィは何かありますか?」
「・・・運動します」
「はあ?」
「おなかのお肉・・・ちょっと気になります」
「変わっていませんよ」
「それは・・・旦那様ひどい・・・私の事見てくれていないのですね」
「また、夜な夜な食べる癖が復活していますね」メアがエルフィをジロリと見て言った。
「・・・はい」
「それもレイとエーネも一緒に食べていましたが」メアは同じようにレイとエーネを見て言った。
「エーネ。あなた」キャロルが目をそらすエーネを捕まえて顔を睨んで言った。
「ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい」エーネは顔を下に向けて謝り続ける。
「最近おなかを気にすると思ったらそういうことですか」キャロルがため息をついた。
「僕は運動しなくても太りませんよ」レイがキョトンとして言った。
「あんたは無駄な動きが多いからね。二人もレイについて走り回れば運動不足が解消されるのではなくて?」 アンジーが笑っている。
「アンジー様、ご自身も生活を改めていただきます」メアがそう言った。
「私は・・・霧みたいなものだからそんなこと・・・ひゃっ」アンジーが言いかけた時にモーラがアンジーの下腹をムニっと掴んだ。
「おぬしもだいぶ下腹についておらんか?」モーラはそう言いながら、アンジーの下腹を揉み続ける。
「あ・・・」
「そう言っているモーラ様も同様です。と補助脳も申しております」メアはデータを確認しながら言った。
「モーラ様も下腹が掴めますね」レイがモーラのお腹をつまんでいる。
「こらレイ何をする。ドラゴンを敬わぬか」
「ごほん。とりあえず今すぐではありませんが機会を見てお願いしたいのですが」
キャロルがそこで話を戻した。おお、まるでアンジーのようです。
「我々だけでは新鮮味がありませんね。勇者たちも呼びましょうか」パムがそう提案する。
「おお、良い案じゃな。あれからどうなっているか気にもなるからな」
「わかりました。早速連絡しておきましょう」パムが連絡を取りに町に行こうとする。
「3勇者をここに呼んでもいいのでしょうか?」メアが不安げだ。
「勇者会議の時の話が魔族至上主義者に漏れて、魔族との戦争が早まった時に簡単に倒されても困りますからね。今の状態からもう少しレベルを上げてもらわないと、あっという間に倒されてしまって人族が滅亡されかねません」
「いえ、人族とあえて関係を持つのはどうかということです」メアがそこを気にしているようです。
「わしらが言われているのは族長会議に参加している種族は不干渉と言われているだけじゃからなあ。神にしても魔族討伐の助けになるのだから文句はあるまい」モーラがそう言ってはいますが、詭弁ですねえ。
「今回は逆に神をサポートする事になるのですね、それはそれで微妙ではありますが」ユーリがそう言った。
「確かにそれは微妙じゃが、わしらは、誰かのダイエットのために勇者を呼びつけるんじゃから、それも大概な気もするがなあ」モーラはそう言って、エルフィとエーネを見た。
「一応来られた方には、特典をご用意しますよ」私はそう言いました。
「なんじゃ」
「今思いついたのですが、まあ来てもらった時にでも教えますよ」
「楽しみじゃな」
「モーラにあげるわけではありませんよ。そもそもモーラには必要のないものですから」
「その特典の話はしてもよろしいでしょうか」パムが玄関から出そうになったままそう言った。
「特典がなくても、3勇者が再度結集できるとなれば来るとは思いますが、かまいませんよ」
しかし、すぐに連絡が取れるわけでもなく、連絡待ちになった。
Appendix
これは無理です。大きすぎます。
ああ、私の鉄拳ですらダメージを与えられていない。
これは闇に落とそうにも大きすぎる。
一体どうしたらいいのか。
次の満月までに何とか対策を考えないと。
これは、あの方に連絡を取ってもらうか。
それしかないですね
続く
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基本スローライフを目指してます(笑)
※挿絵有りますが、自作です。
無断転載はしてません。
イラストは、あくまで私のイメージです
※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが
少し趣向を変えて、
若干ですが恋愛有りになります。
※カクヨム、なろうでも公開しています
勇者じゃないと追放された最強職【なんでも屋】は、スキル【DIY】で異世界を無双します
華音 楓
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旧題:re:birth 〜勇者じゃないと追放された最強職【何でも屋】は、異世界でチートスキル【DIY】で無双します~
「役立たずの貴様は、この城から出ていけ!」
国王から殺気を含んだ声で告げられた海人は頷く他なかった。
ある日、異世界に魔王討伐の為に主人公「石立海人」(いしだてかいと)は、勇者として召喚された。
その際に、判明したスキルは、誰にも理解されない【DIY】と【なんでも屋】という隠れ最強職であった。
だが、勇者職を有していなかった主人公は、誰にも理解されることなく勇者ではないという理由で王族を含む全ての城関係者から露骨な侮蔑を受ける事になる。
城に滞在したままでは、命の危険性があった海人は、城から半ば追放される形で王城から追放されることになる。 僅かな金銭で追放された海人は、生活費用を稼ぐ為に冒険者として登録し、生きていくことを余儀なくされた。
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【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
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12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
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色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
【完結】いせてつ 〜TS転生令嬢レティシアの異世界鉄道開拓記〜
O.T.I
ファンタジー
レティシア=モーリスは転生者である。
しかし、前世の鉄道オタク(乗り鉄)の記憶を持っているのに、この世界には鉄道が無いと絶望していた。
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そう決意する彼女は如何にして異世界に鉄道を普及させるのか、その半生を綴る。
冷宮の人形姫
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冷宮に閉じ込められて育てられた姫がいた。父親である皇帝には関心を持たれず、少しの使用人と母親と共に育ってきた。
幼少の頃からの虐待により、感情を表に出せなくなった姫は、5歳になった時に母親が亡くなった。そんな時、皇帝が姫を迎えに来た。
※すみません、完全にファンタジーになりそうなので、ファンタジーにしますね。
※皇帝のミドルネームを、イント→レントに変えます。(第一皇妃のミドルネームと被りそうなので)
そして、レンド→レクトに変えます。(皇帝のミドルネームと似てしまうため)変わってないよというところがあれば教えてください。
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