上 下
165 / 229
第28話 併走する厄介者達の話など

第28-6話 8人目

しおりを挟む
○そして告白
 タイミングも良かったのでしょう。エルフィが薬草の栽培に成功して、それを私に話してくれた後だったのだから。浮かれていたのは間違いありません。
 その日も私は薬草畑に見に言っていました。
「世話をすると~枯れますから~まったく手を出さないでくださいね~」私はエルフィにそう言われていましたので、ただ単にその畑を見に来ていただけでした。
 本当に嬉しくて。エルフィが内緒で再生させたので、私が再生させた訳ではないのですが。その場所に以前と同じように薬草が生えているのをニヤニヤ笑いながら見ていました。
 毎日のように見に来ていたのですが、最近エルフィはあきれてついてこなくなっていました。
「キャロルとエーネが来ましたよ」
 レイが私を迎えに来ました。
「わかりました。行きますよ」
 そう言いながらも私は薬草畑を名残惜しそうに振り返って見てから戻りました。
「ただいま~」
 私は玄関の扉を開けて入って行く。獣化したレイが足下をすり抜けて、一緒に入ってきた。
「お帰りなさいませ」
 メアがそう言ってお辞儀をして迎えてくれる。キャロルとエーネは、立ったままメアと一緒にお辞儀をして、顔を上げると妙に緊張した表情で私を見ました。
「DT様。お話しがあります」
「ます」
「座ってからではいけませんか?」
「いえ、決心が鈍るかもしれませんので、このままでよろしいですか」
「ずいぶん緊張しているようですが、どうしましたか」
「DT様にお願いがあります」
「ます」
「なんでしょうか?」
「私も隷属していただきたいのです」
「あ、私もです」
「エーネ!ちゃんと自分で言いなさい」
「DT様。私も隷属させてください」
「お話はわかりました。決意を鈍らせるようで申し訳ありませんが、一度椅子に座りましょう。お話ししなければならない事と確認したい事があります。それからにしましょうね」
「「はい」」
 メアが全員分のお茶を入れ終えてからいつもの席に座り、顔を揃えた。
「気持ちはわかりました。具体的には話せませんが、今回の旅で、私も色々と考えなければならない事とやらなければならない事が出来てしまい、隷属すると貴方たちはその事に巻き込まれる事になります」
 私はふたりを見ながら話しています。メアが横で頷いています。
「そして、私は狙われる身です。私が隷属をしていられなくて解除するかもしれません覚悟してくださいね」
「おぬし一体何を話し始めたのじゃ」
「皆さんとはこれまで長い間隷属してきましたから、私の考えもある程度理解できているとは思いますが、皆さんのおっしゃる通り、私は研究バカです。これからは家族といえど寂しがらせる事も多々出てくる可能性もあります。これから隷属する人には事前に伝えておく必要があるかなと」
「余計な事をするんじゃないわよ」
「そうじゃ。そんな事は・・・」
「その様子では、多分、隷属しないように彼女たちを説得していただいていたのでしょうね」
「そうよ。危険だとね」
「そうじゃ。リスクがありすぎると」
「でも、私の口からも話しておきたかったのです。それでも隷属をする意志は変えませんか?」
「はい。意志は変えません」
「私もです」
「わかりました。質問も答えは用意しているようですが、念のため聞きますね。まずキャロルさん」
「はい」
「ヒメツキ様とはお話しされましたか?」
「はい。話しました。DT様と隷属したいと。そして家族になりたいと言いました」
「なんと言われましたか?」
「好きにしなさい。もし、隷属を離れたら戻って来ても良いと」
「わかりました。ではエーネさん。ご両親にはお話ししましたか?」
「はい。しました。DT様と隷属したいと。家族になりたいと話しました」
「なんと言われましたか?」
「好きにしていいよ。と言われました」
「わかりました。私なんかの隷属で良ければ儀式をして家族になりましょう」
「それは卑下しすぎです」
「そうです。言い方がおかしいです」
「私はDT様に隷属したいのです」
「私もです。そんな言い方しないでください、謙遜には聞こえません」
「そう言っていただけると信じていました」
「「え?」」
「試したつもりはありませんが、そう言ってもらえてうれしいです」
「さて、了解ももらった事だし、今すぐ儀式をするのか?」
「私の方の準備が必要です。数時間待ってもらえませんか」
「じゃあ、ふたりの帰還祝いに居酒屋にいかない?」
「はい!大賛成です!」
「その前に急いで戻ってきたようですから、おふたりともお風呂に入りにいきなさい」
 メアがそう言いました。
「わかりました。入って来ます」
 そうして2人はお風呂に行きました。
『さて、おぬし本当にいいのだな』
『隷属の事ですか?別に構いませんよ。不安はありますが、こればかりは止められないですし、止めても何度もアタックしてくるでしょう?』
『確かになあ』
『モーラ様、アンジー様。おふたりから相談されていたのですか?』パムの声がする
『ええ、されていたわ。色々と問題点をあげて全力で阻止していたわ』
『全力で阻止していたのですか?』ユーリがビックリしている。
『どうして阻止なの~』意外そうにエルフィが言った。
『そうです。家族が増える事は良い事です』レイが言った。
『むしろ、おふたりが隷属しないで旅をしていた事の方が危なかったと思いますが』パムが言った。
『危ない訳ないでしょ。ヒメツキさんも元魔王もどっちもちゃんと監視していたわよ』
『しかし、危険に遭って自分の力の無さを痛感したから鍛えて欲しいとキャロルは言っていました』ユーリが言った。
『そこの見極めがあの子達にはできていないの。相手を見て実力が測れないだけなのよ』
『経験でしょうか』パムが言った。
『そうね。だから旅をして経験すればするほど危険はなくなっていくのよ』
 脱衣所で音がし始めた。
「でも~私は嬉しいですよ~」エルフィはついに声に出した。
「僕もです」
「私もそうですね。あのふたりとは通じるものがありますから」ユーリもそうだ。
「結局、魔族も家族になりますから、エルフィの予言があたりましたね」
 メアがそう言った。
「ああ、確かにそうじゃな。長い予言だったが、また予知に昇格じゃな」
「やった~褒められた~」
 エルフィが踊って、隣でレイが真似して踊っています。
「そういえばそんな予言していたわねえ」
「あれは予言ですか?」
「レイの時もそうでしたからねえ」
「さてそれでは食事に行きましょうか」
「「「「「「「「「「はい」」」」」」」」」」


○正式な隷属なのか?
 食事から戻って、居間に全員が揃って、固唾の飲んで見守っている。私とキャロルだけが立っています。
 全員の緊張がヒシヒシと伝わってきます。あれ?隷属の時はこんなに緊張してましたっけ。もう少し適当だったような気がしますが。
「大丈夫そうです。さて、まずキャロルからですねえ。では、私に忠誠を誓いますと心の中で祈ってもらいます。祈っている間に私が名前を言いますので、ハイと言ってくださいね」
 私は、キャロルの頭に手をかざして手に魔力を集中する。
「その者、この聖なる隷属の魔法の前でその真名をさらし、我に生涯付き従うか、選べ」
「我が名はキャロライン・ルイズフェルト・ラドクリフ、あなた様に生涯付き従うと誓います」
 光がキャロルを包み静かに消える。
 光は静かに収まった。
「あ、はいだけでよかったのです」
「いけませんでしたか」
「これまで、いろいろな例がありましたけれど、名前を重ねて忠誠を誓ってしまうと、感情はシンクロするのですが、意外に冷静になるみたいです。ユーリがそうでしたね」
「まずかったですか」
「他の人のノリについて行けないことがあるかもしれません。それだけですよ」
「はあ」
「さて、次は・・・と思ったのですが、予想以上に魔力を消費しています。エーネは明日にしてもらえませんか」
「え・・・はい」
「おぬしどうした」
「実はですねえ。キャロルを見た時にはいけると思ったのですが、隷属が終わって、エーネを見たときにちょっと不安になったのです。なので魔力量がいささか不安なので明日の午後からにしてもらえませんか」
「・・・はい」
「おぬし、わしとアンジーの時には2回続けて隷属しても大丈夫だったではないか」
「あの時は、私の魔力でモーラを隷属させたのよ。モーラも脱皮前だったし」
「ああそうか。エーネは今のわしに匹敵するくらいの魔力量だしなあ」
「不安なまま隷属して何か起こっても困りますから」
「・・・はい」
 渋々頷くエーネ。両肩は落ちている。
「では、食事に向かいましょう」
 メアがみんなに声をかける。
 エーネはユーリとレイに促されて席を確保に向かった。パムとメアもそれに続く。残ったのは怒り顔のキャロルと困惑しているモーラとアンジー、そして私。玄関から出て歩きながら話をする。
「エーネの隷属をすぐしなかったのはどうしてですか?」
 キャロルが私の横を歩きながら私の顔を見ずに言った。
「・・・」
「何か不安な点があるのですね」
「わかりますか」
「はい。隷属は本当にすごいですね。あなた様の言葉を聞いていながら、その言葉の陰にある不安が伝わってきます」
「キャロル。あなたも割と敏感なのね」
「そうなのですか?アンジー様も気付いていらっしゃったのでしょう?モーラ様も」
「ああ。おぬし何が不安じゃ」
「隷属の魔法がですね。魔族に効果があるのかわからないのです」
「なんだと?」
「あんた簡単に言いすぎ。わかるように説明しなさい」
「この魔法陣は、ドラゴンの魔方陣なので魔族にかける事は想定されていないのです」
「だったら断れば良かったであろう」
「かけてダメなら諦めてもらおうと思いますが、私も万全の状態で望んでリアルタイムで補整すれば大丈夫な気もするのです」
「ダメな場合は何か障害が発生するのかしら」
 アンジーは心配そうにそう言った。
「隷属は分類で言えば呪いに近いのです。弾かれれば、私に影響が出るかもしれません。もっとも相手が拒絶していないので大丈夫だとは思います」
「もしかしたら他の隷属者にも影響が?」
 キャロルは不安げに言った。
「それはないと思います」
「エーネ・・・」
「聞かなかった事にしてくださいね。それと私達家族の間で不安は増幅します。隷属してすぐなので慣れないとは思いますが、努めて冷静にしていてください」
「難しいですね」
「さて、町に着きました。ここからは気分を切り替えましょうね」
「は・・・い」
「そんな顔をするな。一発でバレるぞ」
「そうよ。エーネはまだ隷属していないんだから心を読まれる事はないわよ」
「皆さんもご存じでしょう?エーネは、少しだけ相手の言葉から感情を読み取る事ができます。気をつけないと」
「そこは気をつけても仕方がないわよ。普通にしていなさい」
「はい」
 そうして、キャロルは、気付かれないように振る舞っていたが、どうしても考えてしまい。居酒屋の客からの酒を断り切れず、大量の酒を飲まされていた。いやむしろあえて飲まされていたのかもしれない。
 まだまだ宵の口というところだが、みんなで家路をたどる。私の背中にはいつもならエルフィがいるのだが、今日は違った。キャロルが背中で眠っている。
「隷属の後からキャロルは変だったのです」
 エーネが私の隣を歩きながら怒っている。
「自分だけ隷属した事をすまないと思っているのかもしれませんよ」
 エーネの隣を歩いているユーリがそうフォローする。
「私は、隷属してもらえると言ってもらっただけでも嬉しかったのです。皆さんと家族になれる。一緒に暮らせる。それだけでも十分な気がしています。でもちゃんと隷属はして欲しいですが、一日延びたくらいでは・・・でもちょっと寂しかったのです。それはキャロルが気にする事ではないのです」
 エーネはブンブンと手を振るので、私はそっと手を取ります。
「あ」エーネは手を握られ、思わず握り返して照れくさそうに下を向く。
「なんかうらやまし~」
 エルフィが後ろで見ていてそう言った。
「おぬしはいつも背中を占領しているではないか」
「でも~手を握って帰ってもらった事はないな~」
「エルフィ。ご主人様の反対の手は空いていますよ」メアがそう言った。
「違うの~さっきのエーネみたいに旦那様にさっと手をだされたいの~」
「そのためには、まず飲み過ぎないで一緒に歩いて帰らないとだめですね」パムがそう言った。
「そうなの~それが問題なの~」
 エルフィはそう言って両手の人差し指で眉間にしわをつくっている。レイも真似している。あれ?さっきまで獣化して走り回っていませんでしたか?

○正式な隷属について
「パム、どうなんじゃ」
「隷属した後は皆さんとは離れていて会話していませんでしたから、よくわかりませんでしたが、合流してからは、感じるようになりましたね」
「ああ、残念ながら正式な隷属では、感情は伝わらないのですよ」
「でたな技術バカ。話してみい、そのかわり簡単にな」
「私が、パムさんの正式な隷属の術式を改変して感情が読めるようにしましたから」
「わざわざ感情を読めるようにするとか。おぬしはバカか。普通逆じゃろう」
「皆さんが私の感情を読み取れるのに、パムさん独りだけ読めないなんて不公平じゃないですか」
「確かにそうじゃが、逆にわしらに対して正式な隷属に上書きすれば、感情が伝わらなくもできたのではないか?」
「そうなのですが、それをやると何が起こるかわかりません。一生外れないかもしれないのですよ」
「なんと。それはまずいな」
「パムさん以外、正式な手順を踏んでいないのですから」
「でもねえ、勇者会議の時に一度隷属を解除したフリをしたじゃない?喪失感は確かにあったけど、再度かけ直したと言っていたわよねえ。それは高揚感もおきなかったし、何も変化はなかったけどそれはどうなの」
「隷属の魔法をかけ直しただけですよ。喪失感についてはよくわかりませんねえ」
「よくわからん。最初の隷属の魔法は、重ね掛けしてもまずくないのか」
「一層目にそれがベースとしてあるので、二層目にかけてあった全く同じ隷属の魔法を解除しても、全く同じ隷属の魔法を再度かけ直しても変わらないのですよ。でも、この上に正式な隷属魔法を重ね掛けすると二つの魔法の間にひずみがでて、たぶんおかしくなります」
「手がだせないわけか。なのに感情は伝わるようにできたのか」
「まあ、術式の中の感情を読めなくする部分を消しただけですから。この魔法を作った人の魔法。いわゆる原初の魔法では、感情もつながりっぱなしで支障が出たので、感情を通さない術式を加えたのでしょうね」
「わしらのも・・・」
「無理ですね。術式の隙間が小さすぎて、正式な術式の同じ部分を埋め込めないのです」
「まあ、確かに感情が伝わっても支障は出ておらんがなあ」
「恥ずかしいだけですけどね」
「そんな話しているうちにほら家に着きましたよ」
「わ~い、お風呂~」エルフィとレイがよくわからない踊りをしながら道を急いでいる。
「では、キャロルを客室に寝かせてきますね」
「わしらは、先に入っておるぞ」
「別々でいいじゃないですか」
「これがわしら家族のルールであろう」
「最近は、私も色々と複雑なんですから」
「いいから一緒にはいるぞ」
「寝かしつけてきますから、先に入っていてくださいね」
 私は、メアが先に行ってベッドメイクしているキャロルの使っている客室に入る。メアがキャロルを下ろそうとするが、しがみついて離れない。
「ご主人様、キャロルは寂しいのでしょう。このまま背中を貸したまま一緒にお休みください。私からお願いします」
「え、ええ。そうします」服のまま、キャロルを背負ったままベッドに入り、キャロルを背負ったまま眠った。耳元にキャロルの寝息が妙に生々しくて、ちょっと色々厳しかったです。

○その男の事
 最初に会った時から、その男の人は優しかった。私が逃げるようにヒメツキ様の後ろに隠れても、不安そうな顔で見上げても、いつでも優しい微笑みを向けてくれた。
 ヒメツキ様が私を引き渡そうとした時も一緒にいるように言ってくれていたのだという。今まで出会った男の人達は、たいがい最初は優しい顔をして近づき、あとで豹変する。でも、この男の人は違った。怒るところは怒るけれど、優しい人だ。でも、信用するのは恐かった。周りにいる人がみんな女性なのも変に思った。そして、全員が家族だと言っている。それも変だった。
 ヒメツキ様とミカさんと一緒に暮らさせてくれたのもこの男の人だ、この家に住む人たち全員が女性(メス?)でその人だけが男だった。
 私は恐かった。きっと優しい男の人に近づいて裏切られるのが嫌だったのだ。だから不用意に近づかなかったし、彼も見守るだけで話はするけれど、適度な距離を保ってくれていて、いつしかそれで安心し、逆に親しくなる機会を失っていた。
 メイドとして領主様のところに住み込む事になり、色々な人を見る機会に触れ、恐い男の人たちだけではないことも知った。もちろん子ども同士で遊ぶことも増えた。だが物足りないのだ。私には両親の記憶があまりない。叔父には両親を殺したのはお前だと言われ、事実だと知る事が恐ろしくて他の人にも聞けず。そのうちにヒメツキ様に捧げられた。もしかしたら父親を求めているのかもしれないとも思った。
 領主様には父親を感じてる。でもその男の人には、それとは違う感情が芽生えていた。ああ、憧れなのだ。私の元をたまに訪れるヒメツキ様やミカさんから聞かされる色々な事件、その話からとてつもなく過酷な戦いに身を置き、信じられないようなすごい結果をもたらしている。そして、それが結果的にこの世界の平和を守っている。とてもすごいことなのだと素直に思う。それでも、会うときには、いつもどおりの変わらぬ優しさがあふれている。一緒に暮らすきっかけになったヒメツキ様の事件を解決した話を後から聞かされた。ああ、これは、あの人やその家族への憧れなのだと。そして、今回、旅をしてみて、そのすごさを改めて感じる。尊敬は、憧れは、会えなかった期間に好意に変わっていた。年端のいかぬ子供の戯れ言であると言われるのはわかっている。でも、これはきっと恋。初恋なのだ。

○寝ぼける
 私、キャロルが目を開けると、そこにはDT様の顔があった。私はその時見ていた夢の中だから何をしても良いと思って、この際だからと私は想いを告げた。
「DT様、好きです。お慕い申し上げております」
 私はそう言って、抱きしめてもらおうと両手を広げていた。どうせ夢だものと。
 そこに、エルフィさんの顔がのぞき込む。
「キャロルちゃん抜け駆けはだめよ~」
 エルフィさんはそう言ってにっこり笑った。
「え?夢・・・じゃない?」
 キャロルは一瞬で目が覚めたが、発した言葉は取り返しがつかない。
「旦那様~起きて~一大事よ~」
 エルフィさんが私の隣に寝ているDT様を起こそうと揺らしている。
「エルフィ揺らさないで、せっかく、キャロルが告白してくれている良い夢を見ていたのに、台無しですよ」
 DT様も夢を見ていたらしく。私の言葉を夢の中で聞いていたようだ。安心したようでちょっと残念でもあった。
「ひ~ど~い~。でも夢じゃないんですよ~だから一大事~」
 エルフィが私を起こし続ける。
「エルフィさんお願いがあります。このことは・・・」
 私は、エルフィさんの腕を掴んでお願いした。
「わかったよ~みんなには話さない~でも~もう聞いているから~」
「え?あっ脳内通信・・・ですか」
 キャロルは、諦めたようにがっくりと肩を落とす。
「ああ、エルフィおはようございます。起こしに来てくれたのですね。ありがとう。ああ、そういえばキャロルが離れなくて一緒に寝ていたのでした。どうりで良い夢を見られたわけです」
「どんな夢~?」
 エルフィがキャロルを挑発するような目で見て言った。
「それは、本人の前では言えませんよ。とってもうれしかったですけど」
「あ~うれしかったんだ~」
 エルフィさんはちょっと微笑んでいる。
「それはそうでしょう。かわいい女の子から・・・おっと私、寝ぼけていますねえ。ああ、キャロルおはようございます。よく眠れましたか?」
「おはようございます。その・・・よく眠れました。一緒に寝てくれてありがとうございます」
「腕しびれていませんか?おや顔が赤いですねえ。熱でもあるのではありませんか?」
 おでこに手を当てようとしたDT様の手を、私は咄嗟によけてしまいました。それに多分顔は赤く火照っていたのです。
「ああごめんなさいつい。でも大丈夫ですか」
 DT様から覗き込まれて私はさらに下を向いた。
「はいそこまで~、キャロルは~大丈夫ですから~旦那様はとっとと起きて~着替えてください~」
 エルフィさんはDT様を引っ張って立たせて、部屋から追い出す。
「さ~キャロルちゃんは~これからシャワー浴びてお着替えですよ~」
 私は赤い顔をしたままうなだれていて、エルフィさんのなすがままになっている。
「旦那様~なにぼーっと突っ立ってるんですか~レディの着替え覗くなんて最低~」
 言われてDT様は、そそくさと部屋に戻ったようです。

○居間に向かうDT
 私は自室に戻って着替えて、居間に戻った。全員の冷たい目が私をにらみます。私が何をしたのでしょうか。また何かやらかしましたか。
「おぬし本当に女たらしじゃなあ」
 モーラがあきれている。
「もうね、勘弁して欲しいのよ。あんたのその性格」
 アンジーがやさぐれています。
「一体何の話でしょうか。何かしましたか?」
「あるじ様、キャロルのことをどう思っていらっしゃいますか」
 ユーリどうしました。怒った目で言わないでください。こわいです。
「ユーリどうしたんですか。ああ、昨日キャロルと一緒に寝たのですねているんですか?そりゃあ確かに・・・」
 そこで、みんなの恐い視線にオーラが追加されました。
「確かに、なんでしょうか」
 メアさんも恐いです。レイも唸らないように。
「最近、すごく魅力的になったじゃないですか。かわいいと言うよりきれいな方にシフトしてきていて、メイドの修行の成果か、立ち居振る舞いが華麗になってさらに磨きがかかったと・・あれ?」
 私の力説中に視線が台所の方に向いている。おや、誰か来ましたか・・・ってエルフィに連れられて下着姿のキャロルが・・・恥ずかしそうに下を向いてもじもじしている。おや、その姿もかわいいですねえ。
「変態じゃ」
「変態ね」
「確かに変態です」
「変態~」
「変態かも」
「私は変態でも大丈夫です」
「私もあるじ様が変態でも大丈夫です。でもちょっと嫌かも」
 私は、キャロルにばかり目をやっていましたが、エルフィも下着姿でしたよ。
「エルフィ、おまえは露出狂か!」
「え~キャロルの時と反応が違う~」
「確かに露出狂だわね」
「ああ、確かに露出狂じゃ」
「まあ、いつものことですし、今更ではないかと」
「はい、いつもだらしないなあと思っています」
「でも、僕も裸の方が楽ですよ」
「私は、この辺がうらやましいです」
 ユーリが胸のあたりに手を当てている。
「みんなひどい~」
「いいから早くシャワー浴びてきなさい!」
 アンジーがいい加減にしろとばかりに大きな声で言った。
「はいい」
 エルフィは、下を向いているキャロルを連れてそこからいなくなった。
「まったく」
 ため息をついたアンジーが私を向いた。
「それでどうすんのよ」
「いや、何をどうするのですか、言っている意味がさっぱりわかりません。どうもしませんよ」
「まあそうじゃなあ。どうもしないであろうな」
「あれだけ可愛い可愛いと言っておいて、放置ですか?ぬし様ひどいですねえ」
 ニヤニヤしながらパムが言った。そう言う言い方はやめてください。
「まあ、あちらから言い寄ってこなければこのままじゃろう。なあ」
「そう願いたいわね」
 そう言ってアンジーが私をにらむ。
「だからそう言う目では見られませんよ。ましてやヒメツキさんから何を言われるか」
「むしろそれを望んでいるかもしれんぞ」
「ありえませんよ。ヒメツキさんはキャロルが自分の意志で自由に生きていく事を望んでいるのでいるのですから」
「それでもキャロルがそれを望んだならヒメツキ様は認めるでしょうね」
 メアが言った。
「こどもの憧れじゃ、少しは収まるじゃろう」
「そうね、そう思うことにするわ」
 脳内通信を聞いていないエーネはすっかり蚊帳の外です。

 そうして、朝食が始まった。いつもは静かなキャロルが常に話題を作って話している。まるで、朝の事を話させないようにしているようだった。
「今更のような気もするがなあ。なぜ隠そうとするのか」
「そうよねえ。もうバレバレになのにねえ」
「まったく」

続く
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

傍若無人な姉の代わりに働かされていた妹、辺境領地に左遷されたと思ったら待っていたのは王子様でした!? ~無自覚天才錬金術師の辺境街づくり~

日之影ソラ
恋愛
【新作連載スタート!!】 https://ncode.syosetu.com/n1741iq/ https://www.alphapolis.co.jp/novel/516811515/430858199 【小説家になろうで先行公開中】 https://ncode.syosetu.com/n0091ip/ 働かずパーティーに参加したり、男と遊んでばかりいる姉の代わりに宮廷で錬金術師として働き続けていた妹のルミナ。両親も、姉も、婚約者すら頼れない。一人で孤独に耐えながら、日夜働いていた彼女に対して、婚約者から突然の婚約破棄と、辺境への転属を告げられる。 地位も婚約者も失ってさぞ悲しむと期待した彼らが見たのは、あっさりと受け入れて荷造りを始めるルミナの姿で……?

婚約破棄された公爵令嬢は、真実の愛を証明したい

香月文香
恋愛
「リリィ、僕は真実の愛を見つけたんだ!」 王太子エリックの婚約者であるリリアーナ・ミュラーは、舞踏会で婚約破棄される。エリックは男爵令嬢を愛してしまい、彼女以外考えられないというのだ。 リリアーナの脳裏をよぎったのは、十年前、借金のかたに商人に嫁いだ姉の言葉。 『リリィ、私は真実の愛を見つけたわ。どんなことがあったって大丈夫よ』 そう笑って消えた姉は、五年前、首なし死体となって娼館で見つかった。 真実の愛に浮かれる王太子と男爵令嬢を前に、リリアーナは決意する。 ——私はこの二人を利用する。 ありとあらゆる苦難を与え、そして、二人が愛によって結ばれるハッピーエンドを見届けてやる。 ——それこそが真実の愛の証明になるから。 これは、婚約破棄された公爵令嬢が真実の愛を見つけるお話。 ※6/15 20:37に一部改稿しました。

別れた婚約者が「俺のこと、まだ好きなんだろう?」と復縁せまってきて気持ち悪いんですが

リオール
恋愛
婚約破棄して別れたはずなのに、なぜか元婚約者に復縁迫られてるんですけど!? ※ご都合主義展開 ※全7話  

義妹ばかりを溺愛して何もかも奪ったので縁を切らせていただきます。今さら寄生なんて許しません!

ユウ
恋愛
10歳の頃から伯爵家の嫁になるべく厳しい花嫁修業を受け。 貴族院を卒業して伯爵夫人になるべく努力をしていたアリアだったが事あるごと実娘と比べられて来た。 実の娘に勝る者はないと、嫌味を言われ。 嫁でありながら使用人のような扱いに苦しみながらも嫁として口答えをすることなく耐えて来たが限界を感じていた最中、義妹が出戻って来た。 そして告げられたのは。 「娘が帰って来るからでていってくれないかしら」 理不尽な言葉を告げられ精神的なショックを受けながらも泣く泣く家を出ることになった。 …はずだったが。 「やった!自由だ!」 夫や舅は申し訳ない顔をしていたけど、正直我儘放題の姑に我儘で自分を見下してくる義妹と縁を切りたかったので同居解消を喜んでいた。 これで解放されると心の中で両手を上げて喜んだのだが… これまで尽くして来た嫁を放り出した姑を世間は良しとせず。 生活費の負担をしていたのは息子夫婦で使用人を雇う事もできず生活が困窮するのだった。 縁を切ったはずが… 「生活費を負担してちょうだい」 「可愛い妹の為でしょ?」 手のひらを返すのだった。

異世界ゆるり紀行 ~子育てしながら冒険者します~

水無月 静琉
ファンタジー
神様のミスによって命を落とし、転生した茅野巧。様々なスキルを授かり異世界に送られると、そこは魔物が蠢く危険な森の中だった。タクミはその森で双子と思しき幼い男女の子供を発見し、アレン、エレナと名づけて保護する。格闘術で魔物を楽々倒す二人に驚きながらも、街に辿り着いたタクミは生計を立てるために冒険者ギルドに登録。アレンとエレナの成長を見守りながらの、のんびり冒険者生活がスタート! ***この度アルファポリス様から書籍化しました! 詳しくは近況ボードにて!

婚約者が隣国の王子殿下に夢中なので潔く身を引いたら病弱王女の婚約者に選ばれました。

ユウ
ファンタジー
辺境伯爵家の次男シオンは八歳の頃から伯爵令嬢のサンドラと婚約していた。 我儘で少し夢見がちのサンドラは隣国の皇太子殿下に憧れていた。 その為事あるごとに… 「ライルハルト様だったらもっと美しいのに」 「どうして貴方はライルハルト様じゃないの」 隣国の皇太子殿下と比べて罵倒した。 そんな中隣国からライルハルトが留学に来たことで関係は悪化した。 そして社交界では二人が恋仲で悲恋だと噂をされ爪はじきに合うシオンは二人を思って身を引き、騎士団を辞めて国を出ようとするが王命により病弱な第二王女殿下の婚約を望まれる。 生まれつき体が弱く他国に嫁ぐこともできないハズレ姫と呼ばれるリディア王女を献身的に支え続ける中王はシオンを婿養子に望む。 一方サンドラは皇太子殿下に近づくも既に婚約者がいる事に気づき、シオンと復縁を望むのだが… HOT一位となりました! 皆様ありがとうございます!

短編集【BLACK】

タピオカ
ホラー
後味が悪かったり、救いの無い短編集を書いていこうかと思います。 テーマは様々です。

没落した元名門貴族の令嬢は、馬鹿にしてきた人たちを見返すため王子の騎士を目指します!

日之影ソラ
ファンタジー
 かつては騎士の名門と呼ばれたブレイブ公爵家は、代々王族の専属護衛を任されていた。 しかし数世代前から優秀な騎士が生まれず、ついに専属護衛の任を解かれてしまう。それ以降も目立った活躍はなく、貴族としての地位や立場は薄れて行く。  ブレイブ家の長女として生まれたミスティアは、才能がないながらも剣士として研鑽をつみ、騎士となった父の背中を見て育った。彼女は父を尊敬していたが、周囲の目は冷ややかであり、落ちぶれた騎士の一族と馬鹿にされてしまう。  そんなある日、父が戦場で命を落としてしまった。残されたのは母も病に倒れ、ついにはミスティア一人になってしまう。土地、お金、人、多くを失ってしまったミスティアは、亡き両親の想いを受け継ぎ、再びブレイブ家を最高の騎士の名家にするため、第一王子の護衛騎士になることを決意する。 こちらの作品の連載版です。 https://ncode.syosetu.com/n8177jc/

処理中です...