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第28話 併走する厄介者達の話など
第28-3話 服屋と2番目の遺跡
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○拉致される厄介者達
「では町に戻りましょう」
私達は一度家に戻り、ダラダラと歩いて町の中に入って行く。
「おやDTじゃないか。めずらしいなあ居酒屋に行くのかい」
「町長さんお久しぶりです」
「そちらの方は・・・ああ長命族の時の」
「お久しぶりです。色々とご尽力いただいていますのに挨拶にも来られず不義理をしており申し訳ありません」
「いやいや、あの人達からあなたは忙しく飛び回っているから許してほしいと言われていましてなあ。実際この町は、様々な加護に守られておるのでな、安心して暮らされるがいい。何かありましたら相談に乗りますのでご連絡ください」
「様々な加護ねえ」
アンジーが不満げです。
「そういえば、以前、ベリアルに向かっていく道路沿いに遺跡がありましたよねえ、あれ以外にも遺跡が見つかったりしていませんか?」
「いや、そんな話は聞いたことがないが、山の中に入るなら気を付けるのじゃぞ。たまに魔獣が出ているらしいからな」
「魔獣ですか?変ですね。結界を張っていただいているのに」
「結界自体は、この町とベリアル、長命族を結ぶ三角形になっているけど、ほぼ一直線の三角形になっているわ。それ以外のエリアについては、さすがに範囲外になっているのよ」
「なるほど、そんなに広範囲というわけではないのですね」
「面積が増えればそれだけ魔力も使うし効果もすぐ切れるわ。だからあまり範囲を広げていないのよ」
「わかりました、魔獣には気を付けて山に入りますね」
「そうするがよい。ああそれからなあ、少しお願いがあるのじゃ」
「何でしょうか。私達にできることであれば」
「収穫祭を行うつもりで計画を立てておったのじゃが、最近、町の周囲にも人が増え続けていて、町中の広場で開催が難しくなったのじゃ、それでおぬしの元家のあった場所なんじゃが、草木も生えない荒れ地になっているだろう?せっかくじゃからあの辺を広場にしてそこで収穫祭を開催した方が良いのではと言う話になったのじゃ。一応土地の持ち主であるお主に使用する事を断っておきたくてなあ」
「土地の所有者と言われましても、所有している感覚はありません。その土地は、町の物としてください」
「ただなあ、町の外に家を建てたらその土地の所有はその者になるというルールもあるのだよ。貸してもらうということにしてくれぬか」
「かまいませんよ。ご自由にお使いください」
「それとなあ、収穫祭なのじゃが、DTの家族にはお願いがあるんだが」
「ああいつものね」とはアンジー
「いつものじゃのう」とは、モーラ
「いつものって、いつもの~」エルフィはうれしそうです
「はい、いつものです」とはメア
「いつものですか」とはユーリ
「え~いつものですか」不満そうなレイ
「そうでしたか。服は以前のを使えば良いかもしれませんが・・・」
「ああ、それじゃがなあ。耕作地を拡大するために土地を開墾していたらなあ。服が出てきたのじゃ」
「ええ、今更ですか?」
「この町は、土地もあまりない山岳地なのでなあ。おぬしの言った棚田を作ろうとして、山の中腹を掘削したのじゃよ。そこで発見したのじゃ。まあ、その布が非常に珍しい素材でな、おぬしに見てもらおうと思って取っておいたのじゃが、最近いなかったじゃろう?昔の布というのを聞きつけて、あの服屋の店長に奪われてしまったのじゃ。じゃが、発掘された服を元にあの店長が似たような服を作ったのじゃ。まあ、あまり良い趣味とは言わぬが、男どもには人気でなあ。また嘆願書があがってきておる。検討してくれぬか」
「その件については、家族と検討してからお答えします」
「そうじゃろうとも。良い答えを期待しておる。それと、エリスさん」
「検討しておきます」
「よろしくのう」
「とりあえず、その布を見せて欲しいのと見つかった場所を教えて欲しいのですが」
「ああ、布は店長のところじゃ。発見者は居酒屋の女将じゃよ」
「ありがとうございます。これから居酒屋に行きますのでさきに服屋に行ってきますね」
「そうするがいい。では、楽しい酒をなあ」
そう言ってその場を去って行く町長。全員でその後ろ姿を見送る。
「あのタイミングじゃよ」
「そうよね、あのタイミングなのよ」
「これは、確かに偶然とは言い難いですねえ」とはパム
「なにを言っているのかしら」紫さんが首をかしげる。
「ああ、うちの町長なのだが、あまりにもタイミングを心得た登場をしてくるのじゃ」
「そうそう、何でも知っている人みたいよね」
「もっともこれまでも偶然でしかないのじゃが、これはどう考えても偶然とは思えんな」
「いつも言っていますけど考えすぎです」とは、ユーリ
「気にしすぎると眉間にしわが増えますよ」とは、メア
「まあ、情報はありがたいじゃない」とはエリスさん
「おぬしは、本当に能天気じゃなあ」
「まったくね、目先のことしか考えてないからいつも損をするのよ」
「それとこれとは関係ないでしょ」
「誘導されているということですか?」
「わからん、思い出すと話の流れでふと思いついて口にしているようにも取れるのでなあ」
「情報提供をありがたく思うしかないのかしらね」
「では、まず服屋へ行きますよ」
「あ、私はちょっと」
「おう、すまぬがわしも先に居酒屋に行って席を確保しておくぞ」
「すでに席の確保はできております」
「メアがいってきたのか?」
「たった今確保に伺ったのですが、ほんの少し前に町長が来て予約していったと」
「手際が良すぎる」
「今回は、時間的にも問題ないわねえ」
「だから、皆さん考えすぎですよ」とはユーリです。
「そう思いたいがなあ」
「そうねえ」
そう話しながら服屋の前まで来てしまいました。
「待ってたわー」店の中から店長が飛び出してくる。
「お久しぶりです。ちなみにいつから待っていてくれたのですか?」
「それがね~町長と祭りの衣装の話をしていたら、「しばらくしたらあんた達が採寸のために寄るかもしれない」って町長が言っててねー、まだかなーまだかなーって思ってたらやっときた一」
「それはいつ頃の話ですか」
「祭りの話が出たのはちょっと前かな~、一着の衣装ができたのが2~3日前で~その時かなー。それより早く一早くー」そう言って、キャロルとエーネが拉致されて試着室へと連行される。
「なかなかおもしろい人が店長なのね」
紫が笑いながら後ろ姿を見ていた。
「そうね。でも店員は大丈夫よ。安心して任せられるわ」
「しかし、あれでも超一流デザイナーなのよねえ」
「そうよね。確かにデザインも洗練されているわ。ただ、日常に着る服ではないのも置いてあるのよねえ」
行ったことがあるのかエリスさんがため息をつく。
「特にワンオフはすごいものを作りますね」
メアが言った。
「そうなのですよ。アンジーが一点だけ持っているけど本当にいい出来なのです」
私はその姿を思い出してうっとりしています。アンジーは横でげんなりしています。ほっといてください。
「おや、あの店長、オリジナルデザインは絶対渡さないのではなかったかしら?」
おお、なんでシンカさんがそんな話を知っているのですか。
「アンジー様は、取引を持ち掛けて手に入れたようです」
メアがそう答えた。
「そういえば、そんなことを言っていましたねえ。対価については、話してくれませんけど」
「お金で動く人じゃないわよね」
エリスがアンジーを見る。
「そこは秘密らしいです」
パムまではその話に乗ってきた。
「ぜひ着たところを見たいけど見せてくれるのかしら」
紫さんまでどうしましたか。
「機会があればね」
アンジーがさらっと言った。
「わしらでも声が出るくらいすごいぞ」
「確かにそのとおりです」
「すごいわよね~」
「キラキラしてます~」
「それはぜひとも見たいわね」
エリスもそう言った。
そんな話をしながら、みんなでぞろぞろと店に入る。
「いらっしゃいませ~。あ、DTさんじゃないですか。お久しぶりです」
「ナナミさんお久しぶりですね。お変わりありませんか」
「店長が連れて行った2人はもしかして」
「ええ、私の所に遊びに来ている子達ですよ。これからもよろしくお願いいたします」
「こちらこそ。でも店長の洗礼を受けていますよ。助けに行かなくて大丈夫ですか?」
「ここに顔を出す限りどうしても通らねばならない試練です」
「まあ、あれだけかわいい子なら手放しませんよ。しばらく無理かもしれません」
「そうでしょうねえ」
「特に魔族の方のほうですね」
「え、エーネのほうですか?しかも魔族だとわかったんですか?」
「あーエーネちゃんと言うんですか。もう一人の金髪巻き毛の方は、なんて言う名前ですか?」
「キャロルですけど」
「ああやっぱり。ビギナギルにいらっしゃいましたよね」
「ああ、そこで見かけていますね」
「たぶん、メイド服を作った時に知っていますよ。でも、そこからかなり成長しているようですけど、店長そういうのすぐわかりますからね」
「なるほど。さすがデザイナーさんだ」
「それに、エーネちゃん可愛いので、すでに創作意欲がかき立てられていると思います。手持ちの服を試着させた後、アトリエへ旅立つと思いますよ」
「そうですか、それはうれしいですねえ」
「たぶん、角をさりげなく見せるような素敵なドレスを作ると思いますよ~」
口調まで変えてなぜかうっとりとしている店員さん。何を想像しているのでしょうか。
「それで、服を新調なさるのですか?」
「いや、少し前に土の中から発掘された布についてお聞きしたかったのですが」
「あああれですか。あれは、店長も興味をなくしてその辺に置いてあるはず。ああ、ありましたこれです」
「素材の元を知ろうといろいろ試して結局このくらいしか残りませんでした」
「はあ、どんなことを試したのですか」
「火であぶったり切り刻んだりですねえ。あぶった箇所は溶けてしまいましたけど」
「素材の元になっているものがなんなのか全くわからないと言っていました。耐火防水で伸縮性はややあり、吸湿発湿にすぐれている素材で元になっている繊維がなんなのかわからなくて、再現は無理と言っていましたねえ」
「なるほど。それは凄い素材ですねえ」
「あ、店長が戻ってきました・・・」
目が血走っている。目の前でデザインルームらしき小部屋に入るとドタンバタン音がして、旅行用のバッグだろうかパンパンに膨らませて、それを抱えて飛び出していく。いつもどおりの風景だ。
「飛び出しても馬車がないのではありませんか?」
パムが不思議そうにしている。
「この後、自分の家に行って着替えを鞄に詰めて明日の馬車に乗るんじゃ無いですかねえ。もっと急ぐのなら別料金で馬車を仕立てますよ」
「ビギナギルまでの定期便ですか」
「はい。2日に1回は出ていますよ。でも、今日は出ない日だから明日の朝イチの便ですね」
「なるほど。文化レベルが上がっていますね」
「はい、物資の輸送が頻繁になったそうで、ベリアルからファーンに寄ってビギナギルまでの輸送馬車がひっきりなしに往復しているそうですよ」
「すごいですねえ」
そんな話をしていると、虚脱感に包まれたキャロルとエーネがフラフラして試着室の方から出てくる。
「大丈夫ですか?」
ユーリとレイが近づいて声をかける。
「なんかすごいです」
キャロルの目の下にくまが出来ているように見えます。
「ええ、なんと言いますか、プレッシャーを感じました」
エーネの角を隠すためにまとめていた髪がかなりグシャグシャになっています。メアがあわてて駆け寄って髪の毛を整えています。
「あれをプレッシャーと言うのですか」
キャロルがエーネを見て言った。
「それでも、あの店長さんの言葉から感じるのは、純粋な服への愛着なのですよ。いえ、愛着と言うよりは愛、執着でもいいかもしれません」
エーネはメアに髪の毛を整えてもらっていますから静かにしていますが、かなりへばっています。
「ああ!それは感じました。それしか考えていない感じですね」
キャロルはそう言ってエーネが髪を整えてもらっているのを見ています。ナナミさんがさりげなくキャロルの後ろに回って髪の毛を整えています。
「着せられた服は何着かありましたが、その中から1枚買わせていただきます」
エーネが少しだけ嬉しそうにそう言った。
「私も」
キャロルもそう言いました。
「別に何着買っても良いですよ。普段着でしょうから」と私は言った。
「いいえ、オーダーで無くてもあれだけの服はいつもは着ていられません。とっておきの時に着たいです」
エーネがそう言って何かを想像するかのように目をつぶっている。
「DT様、私も領主様の所で高級品を着させていただきましたが、そんなものの比ではありません。確かにさりげなく日常着られるように見えて、素材が・・・もしかしてこの辺の人たちはみんなこれを着ているのでしょうか?」
キャロルの言葉に全員が店員さんを見る。
「あらーばれました?たぶん店長が着させたのは、対アンジーちゃんとモーラちゃん用の生地の端布を使って作った物だと思います。だから、店長にしてみればリサイクルなのですよ。布の費用はゼロで、姉たちが縫わされているので、縫製代もほぼゼロ円ですねー」
「って、もう一着服を作れる布地を残して使わないんですか」
キャロルが絶句しているが、私達は店長がそういう人だと知っているので驚いてはいませんよ。
「着せたい本人がいて、その人のイメージに合わせて服をデザインして、そのイメージに合う生地を選定して作るので、大量に余ります。でも服が完成したら残りの布は使えないんだそうですよ」
ナナミさんはさりげなくそう言った。
「なんという贅沢な生地の使い方でしょう」
キャロルは途方にくれている。
「そんな高級な生地が余っているならそれが欲しいわねえ」
アンジーがさりげなく欲しいと言って見た。
「あー残念ですが、外に出していません。その生地でちょいと良いお客さん用に工房で製作してますから。うちの店はそれで成り立っていますので。もちろんデザインは、店長のデザインを量産可能なデザインにダウングレードしてその生地で作りますよ~」
「それを手に入れれば」
「それはですね、どのデザインもすでに予約でいっぱいなのです。店長のイメージが膨らんでどんどんデザインしてくれたらなんとかなるのですが、最近、モーラちゃんもアンジーちゃんもユーリさんもエルフィさんもメアさんもレイちゃんも来てくれないので、新しいデザインが浮かんでいないのですよ。ぜひ、うちの店のために人身御供に・・もとい資金源に・・・違った服を試着しに来てください」
「色々とわかったけど、一応条件を出しておくわ」
アンジーさん
「なんでしょうかー」
キャロルの髪をいじり終えたナナミさんがアンジーに聞きました。
「私達が来店して、ワンオフの試着をした時に。何着かに1着は、着る本人に渡すよう交渉しなさい。店長が嫌がるなら、私達が店に来なくなると困るから1着くらいは、我慢しろと言っておいてほしいのだけれど」
「わかりましたー。嫌がるでしょうけど、私の生活のために頑張りますー」
「普通の服も売っているのでしょう?」
紫がそう尋ねる。
「ええ、もちろんです。一応ここはデザイナーズブランドですから、ちょっとお高い目で、どちらかというと晴れ着的な扱いですね。下着とかもちょっと良い物を提供させていただいていますよ。ちょっとエロいのも取りそろえています」
「なるほどねえ」
紫が話している間に後ろの下着のコーナーでエリスとシンカがビックリしたような顔で下着を見ている。
「キャロル、エーネ、買う服決まったの」
「残念ですが、先ほど着させられたのは、普段着には程遠いものでしたので、こちらに飾ってある服をいただけますか」
「私もそうします」そう言ってエーネは私を見たので、大丈夫と頷いた。もちろんあなたのご両親にあとで請求書を送っておきますから。
「では、わしもそうするかのう」
そう言ってモーラも服を見始める。
「これから寒くなったらこれ着ようかしらね」
「あ、これが良いです。シンプルで」
「お揃いにしましょう」
「ぜひぜひ」
「何やら目的が変わってしまいましたねえ」
私は近くにいたはずの紫さんに声をかけたつもりが、そこにはすでにいらっしゃらなくて、服を見に行ってメアやみんなと話をしている。エリスさんもシンカさんも混じっている。
私は、ボーッと皆さんの様子を眺めていると、ナナミさんが私に近付いて来た。
「寂しいですかー?」
ナナミさんは嬉しそうだ。
「男なんてそんなものでしょう」
「でもこれから地獄が始まりますよ」
「え?」
そう言って離れていくナナミさん。我先に服を持った皆さんが私に詰め寄ってきます。紫さんとエリスさんはやめてくださいよ。
「とりあえず試着してください。そうしないとイメージだけではわかりませんよ。私は朴念仁なんですから」
「自分で朴念仁言うな」
モーラに怒られました。
結局、全員が試着して、みんなの評価も聞きながら、自分の気に入った服を買っていきました。
○居酒屋
「遅くなりました」
私は皆さんと共に低姿勢で居酒屋に入っていく。
広くなった居酒屋は、私には相変わらず違和感しかありませんが、一番奥の大きなテーブルに「天使様ご一行予約席」と書いた札が置かれている。
「ああ、大丈夫。まだ人が入っていないよ」
「とりあえず乾杯」
「何に乾杯じゃ」
「日々の生活に」
そうして夕食が始まりました。
「そうそう女将さん。この布を拾ったところがどこか聞きたいのですけど」
「ああそれかい。明日にでも連れて行ってやるよ。あんたにも相談するつもりだったんだ」
「何かありました」
「山を削って更地にして畑にしようと思ったんだが、削ってみたら変な物がゴロゴロ出てきてさあ。畑にならないんだよ。掘り出された物が何かに使えないかと思ってねえ」
「わかりました、現地に行ってみてみないとわかりませんね」
「明日すぐ行くのですか?」
紫さんが私をジッと見て言いました。
「優先順位は、明日のベリアルとの間にある遺跡と紫さんが見つけた遺跡ですよ。そっちは後です」
「そっちの方が面白そうですけどねえ」
紫さんがなぜか残念そうです。だって、遺跡が先でしょう?
「そのあたりに埋まっているのは、昔そこに暮らしていた人の生活の痕跡。本当に遺跡ですよ。この布から見ても文化レベルが高いですから興味はありますが、もしかしたら骨まで見つかるかもしれませんよ?」
「そういう事ね。私も感心があったけど、言われてみると確かにそうだわね。でもそういうところは、現実的なのね」
「優先順位の付け方を間違うと大変な事になったりしますよ?」
「そうなのね」
その日は夕方近くで終了して、家でお風呂に入って、次の日の早朝には出かけました。
○次の遺跡ヘGO
「さて、ここの遺跡も前のと同様にフェイクの洞窟を作って封印しておきます」
私は洞窟の前で、中に入りもせずにそう言いました。
「あんたねえ。とりあえず中くらいは見なさいよ」
「やっぱりそうなりますか?」
「当り前でしょう?前回のとは違って何か収穫があるかもしれないじゃない」
「そうですか。それでは行きたい人!」私は手を上げて探検したい人を募集しました。
そこには、私の家族と、キャロルとエーネ、ヘリオトロープとサフィーネさんとエリス、トラマリ、豪炎の魔女がいました。しかし、誰も手を上げません。
「もう一度挙手してください」
「キャロル」、「エーネ」、「エリスさん」、「豪炎さん」、「ヘリオトロープさん」と言うことでよろしいですか。
「あんたと私は強制でしょ?」
○二番目の遺跡
早朝から馬車に揺られて、次の遺跡に向かいます。
次に訪れたのは、日本刀を持ったお兄さんがいた遺跡です。
ちなみにあのお兄さんはファーンに道場を作って師範代として生計を立てています。しかも美人の奥さんもらって子どもももうじき生まれるそうです。なんかちょっと悔しいです。トホホ
「あなたのところの馬車は揺れないし速いけど、この速度は速すぎないかしら」
「気にしないでください。念のため言いますけど、この世界の法則をねじ曲げたりしていませんからね。あと、ウチの馬は普通の馬より速いのです」
「確かに馬の速さが速いだけなのね」
「到着です」
「ここから山登りですね」
「馬車は行けないのかしら?」
「以前来た時は、轍の跡があったので、もう少し先まで行けましたが、その先は歩きでしたね。今は草がボウボウで道がわからなくなっています。馬車が進めなくなる可能性もありますからここからは歩きましょう」
「じゃあ私達が先に行って場所を確認してくるわ」
「お願いします」5人がそれぞれホウキに乗って飛びながら山を登っていく。以前は私に絶対見せてくれなかったのに今は簡単に見せるのですねえ。
「以前使ったチェンソーはどうしたのよ」
「4頭立てに改装した時に外しました。普通の道を走るのに使わないでしょう。でも失敗でしたかねえ」
「そもそもついているのもおかしいじゃない」
なんだかんだ言って、キャロルとユーリとパムが剣で草をなぎ払いながら前に進んでいるのですが、結構いい速度で進んでいます。しばらくしてエリスが戻ってきました。
「ないのよ」
「え?」
「以前に確認したはずの場所にないのよ」エリスがそう言って地上に降りた。
「そんなはずはないでしょう。道でも間違えましたかねえ」
「いいえご主人様。私の記憶でも間違いありません。この上にあるはずです」メアがそう言った。
「メアさんの記憶ではどの辺ですか?」
「あと数百メートルというところです」
「とりあえずそこまで行きましょう」そうして、草をなぎ払いながら道を進む。
「この辺ですね。確かに洞窟の入り口がありません」
メアが言った。すでに紫さん達も集合している。
「そうよねえ。この辺にあったわよ。やや急な上り坂に真っ直ぐ突き進む感じであったわね」
アンジーが周囲を見ながら言った。
「モーラお願いします」
「うむ」
モーラは膝をついて右手を地面にあてた。微かな地震が起きてすぐ止まった。
「何かあることは間違いないが、それだけしかわからんな」
「諦めましょうか」
「ええ?」
全員が驚いている。
「誰かが埋めたんでしょう?埋まっているものをあえて掘り出すとか面倒ですよ」
「おぬし本当に面倒になっているな」
「まったく。興味の無い事には本当に動きが鈍くなるわねえ」
「でもさっきまでは、そんな感じではありませんでしたよ」
「基本こいつは面倒くさがりなのよ。あんた町が心配でしょう?」
「それはまあそうですけど」
「いいから重力制御の練習だと思って持ち上げなさい」
アンジーに説教されています。
「はい。メアさん記憶のあった入り口はどの辺ですか?」
私はメアさんに確認をしてもらった。
「皆さん少し離れてください」
メアがそう言って、両手を広げてみんなを少し離れた位置に誘導する。
「離れるの?」
「はい、その位離れて貰えればけっこうです。この辺です」
メアはそう言って、斜面に多数の氷の針を打ち込んで、入り口の形を作った。
「こんな感じです」
「さ、さすがね」
シンカさんのちょっとビックリです。
「では、行きますよ」
私はその氷の針の作った形よりやや広めに魔方陣を描いて、そこの土を持ち上げる。
「おー。なんか初めて見ました」
レイが言った。
「私もです」
エーネも言っている。
「あんたの本来の能力を見る機会はなかったねえ。こいつの本来の魔法は重量制御なのだけど、ほとんど使わないからね」
「どうですか?ありますか?」
私は制御に神経を使っているので、見る余裕がありません。宙に浮いている土の下には、斜面に沿ってぽっかりと穴が開いていました。
「おぬし、その土はそのまま横に置け。埋め戻しに使うわ」
「はい」
私は横にずらして地面を置いた。
「扉が閉まっていますよ~」
エルフィが斜面にある穴のそばに行って見ています。
「穴になっていないのかしら?」
「確かに閉じられているわねえ、エリスも開いているのを見たのね?」
「ええ、開いていたわ」
「私達も来た時には開いていました」メアがそう言った。
「これは扉よねえ」
紫とシンカも近付いて中央の縦線を見ている。
「ここに何かを挟んで両側に引っ張れば開くかもしれないな」
モーラも下の方を見て言った。
「やめておきましょう。ここは手を出さないでおきましょうね」
「おぬし、出番じゃ。土をかぶせ直すのじゃ」
「はいはい。よっとこらしょ」
私は土を持ち上げてそこに戻す。全員でその上から隙間を踏み固めている。
「最初の遺跡とどう違うのでしょうか?」
「次の遺跡を見てみましょう」
「そうね」
続く
「では町に戻りましょう」
私達は一度家に戻り、ダラダラと歩いて町の中に入って行く。
「おやDTじゃないか。めずらしいなあ居酒屋に行くのかい」
「町長さんお久しぶりです」
「そちらの方は・・・ああ長命族の時の」
「お久しぶりです。色々とご尽力いただいていますのに挨拶にも来られず不義理をしており申し訳ありません」
「いやいや、あの人達からあなたは忙しく飛び回っているから許してほしいと言われていましてなあ。実際この町は、様々な加護に守られておるのでな、安心して暮らされるがいい。何かありましたら相談に乗りますのでご連絡ください」
「様々な加護ねえ」
アンジーが不満げです。
「そういえば、以前、ベリアルに向かっていく道路沿いに遺跡がありましたよねえ、あれ以外にも遺跡が見つかったりしていませんか?」
「いや、そんな話は聞いたことがないが、山の中に入るなら気を付けるのじゃぞ。たまに魔獣が出ているらしいからな」
「魔獣ですか?変ですね。結界を張っていただいているのに」
「結界自体は、この町とベリアル、長命族を結ぶ三角形になっているけど、ほぼ一直線の三角形になっているわ。それ以外のエリアについては、さすがに範囲外になっているのよ」
「なるほど、そんなに広範囲というわけではないのですね」
「面積が増えればそれだけ魔力も使うし効果もすぐ切れるわ。だからあまり範囲を広げていないのよ」
「わかりました、魔獣には気を付けて山に入りますね」
「そうするがよい。ああそれからなあ、少しお願いがあるのじゃ」
「何でしょうか。私達にできることであれば」
「収穫祭を行うつもりで計画を立てておったのじゃが、最近、町の周囲にも人が増え続けていて、町中の広場で開催が難しくなったのじゃ、それでおぬしの元家のあった場所なんじゃが、草木も生えない荒れ地になっているだろう?せっかくじゃからあの辺を広場にしてそこで収穫祭を開催した方が良いのではと言う話になったのじゃ。一応土地の持ち主であるお主に使用する事を断っておきたくてなあ」
「土地の所有者と言われましても、所有している感覚はありません。その土地は、町の物としてください」
「ただなあ、町の外に家を建てたらその土地の所有はその者になるというルールもあるのだよ。貸してもらうということにしてくれぬか」
「かまいませんよ。ご自由にお使いください」
「それとなあ、収穫祭なのじゃが、DTの家族にはお願いがあるんだが」
「ああいつものね」とはアンジー
「いつものじゃのう」とは、モーラ
「いつものって、いつもの~」エルフィはうれしそうです
「はい、いつものです」とはメア
「いつものですか」とはユーリ
「え~いつものですか」不満そうなレイ
「そうでしたか。服は以前のを使えば良いかもしれませんが・・・」
「ああ、それじゃがなあ。耕作地を拡大するために土地を開墾していたらなあ。服が出てきたのじゃ」
「ええ、今更ですか?」
「この町は、土地もあまりない山岳地なのでなあ。おぬしの言った棚田を作ろうとして、山の中腹を掘削したのじゃよ。そこで発見したのじゃ。まあ、その布が非常に珍しい素材でな、おぬしに見てもらおうと思って取っておいたのじゃが、最近いなかったじゃろう?昔の布というのを聞きつけて、あの服屋の店長に奪われてしまったのじゃ。じゃが、発掘された服を元にあの店長が似たような服を作ったのじゃ。まあ、あまり良い趣味とは言わぬが、男どもには人気でなあ。また嘆願書があがってきておる。検討してくれぬか」
「その件については、家族と検討してからお答えします」
「そうじゃろうとも。良い答えを期待しておる。それと、エリスさん」
「検討しておきます」
「よろしくのう」
「とりあえず、その布を見せて欲しいのと見つかった場所を教えて欲しいのですが」
「ああ、布は店長のところじゃ。発見者は居酒屋の女将じゃよ」
「ありがとうございます。これから居酒屋に行きますのでさきに服屋に行ってきますね」
「そうするがいい。では、楽しい酒をなあ」
そう言ってその場を去って行く町長。全員でその後ろ姿を見送る。
「あのタイミングじゃよ」
「そうよね、あのタイミングなのよ」
「これは、確かに偶然とは言い難いですねえ」とはパム
「なにを言っているのかしら」紫さんが首をかしげる。
「ああ、うちの町長なのだが、あまりにもタイミングを心得た登場をしてくるのじゃ」
「そうそう、何でも知っている人みたいよね」
「もっともこれまでも偶然でしかないのじゃが、これはどう考えても偶然とは思えんな」
「いつも言っていますけど考えすぎです」とは、ユーリ
「気にしすぎると眉間にしわが増えますよ」とは、メア
「まあ、情報はありがたいじゃない」とはエリスさん
「おぬしは、本当に能天気じゃなあ」
「まったくね、目先のことしか考えてないからいつも損をするのよ」
「それとこれとは関係ないでしょ」
「誘導されているということですか?」
「わからん、思い出すと話の流れでふと思いついて口にしているようにも取れるのでなあ」
「情報提供をありがたく思うしかないのかしらね」
「では、まず服屋へ行きますよ」
「あ、私はちょっと」
「おう、すまぬがわしも先に居酒屋に行って席を確保しておくぞ」
「すでに席の確保はできております」
「メアがいってきたのか?」
「たった今確保に伺ったのですが、ほんの少し前に町長が来て予約していったと」
「手際が良すぎる」
「今回は、時間的にも問題ないわねえ」
「だから、皆さん考えすぎですよ」とはユーリです。
「そう思いたいがなあ」
「そうねえ」
そう話しながら服屋の前まで来てしまいました。
「待ってたわー」店の中から店長が飛び出してくる。
「お久しぶりです。ちなみにいつから待っていてくれたのですか?」
「それがね~町長と祭りの衣装の話をしていたら、「しばらくしたらあんた達が採寸のために寄るかもしれない」って町長が言っててねー、まだかなーまだかなーって思ってたらやっときた一」
「それはいつ頃の話ですか」
「祭りの話が出たのはちょっと前かな~、一着の衣装ができたのが2~3日前で~その時かなー。それより早く一早くー」そう言って、キャロルとエーネが拉致されて試着室へと連行される。
「なかなかおもしろい人が店長なのね」
紫が笑いながら後ろ姿を見ていた。
「そうね。でも店員は大丈夫よ。安心して任せられるわ」
「しかし、あれでも超一流デザイナーなのよねえ」
「そうよね。確かにデザインも洗練されているわ。ただ、日常に着る服ではないのも置いてあるのよねえ」
行ったことがあるのかエリスさんがため息をつく。
「特にワンオフはすごいものを作りますね」
メアが言った。
「そうなのですよ。アンジーが一点だけ持っているけど本当にいい出来なのです」
私はその姿を思い出してうっとりしています。アンジーは横でげんなりしています。ほっといてください。
「おや、あの店長、オリジナルデザインは絶対渡さないのではなかったかしら?」
おお、なんでシンカさんがそんな話を知っているのですか。
「アンジー様は、取引を持ち掛けて手に入れたようです」
メアがそう答えた。
「そういえば、そんなことを言っていましたねえ。対価については、話してくれませんけど」
「お金で動く人じゃないわよね」
エリスがアンジーを見る。
「そこは秘密らしいです」
パムまではその話に乗ってきた。
「ぜひ着たところを見たいけど見せてくれるのかしら」
紫さんまでどうしましたか。
「機会があればね」
アンジーがさらっと言った。
「わしらでも声が出るくらいすごいぞ」
「確かにそのとおりです」
「すごいわよね~」
「キラキラしてます~」
「それはぜひとも見たいわね」
エリスもそう言った。
そんな話をしながら、みんなでぞろぞろと店に入る。
「いらっしゃいませ~。あ、DTさんじゃないですか。お久しぶりです」
「ナナミさんお久しぶりですね。お変わりありませんか」
「店長が連れて行った2人はもしかして」
「ええ、私の所に遊びに来ている子達ですよ。これからもよろしくお願いいたします」
「こちらこそ。でも店長の洗礼を受けていますよ。助けに行かなくて大丈夫ですか?」
「ここに顔を出す限りどうしても通らねばならない試練です」
「まあ、あれだけかわいい子なら手放しませんよ。しばらく無理かもしれません」
「そうでしょうねえ」
「特に魔族の方のほうですね」
「え、エーネのほうですか?しかも魔族だとわかったんですか?」
「あーエーネちゃんと言うんですか。もう一人の金髪巻き毛の方は、なんて言う名前ですか?」
「キャロルですけど」
「ああやっぱり。ビギナギルにいらっしゃいましたよね」
「ああ、そこで見かけていますね」
「たぶん、メイド服を作った時に知っていますよ。でも、そこからかなり成長しているようですけど、店長そういうのすぐわかりますからね」
「なるほど。さすがデザイナーさんだ」
「それに、エーネちゃん可愛いので、すでに創作意欲がかき立てられていると思います。手持ちの服を試着させた後、アトリエへ旅立つと思いますよ」
「そうですか、それはうれしいですねえ」
「たぶん、角をさりげなく見せるような素敵なドレスを作ると思いますよ~」
口調まで変えてなぜかうっとりとしている店員さん。何を想像しているのでしょうか。
「それで、服を新調なさるのですか?」
「いや、少し前に土の中から発掘された布についてお聞きしたかったのですが」
「あああれですか。あれは、店長も興味をなくしてその辺に置いてあるはず。ああ、ありましたこれです」
「素材の元を知ろうといろいろ試して結局このくらいしか残りませんでした」
「はあ、どんなことを試したのですか」
「火であぶったり切り刻んだりですねえ。あぶった箇所は溶けてしまいましたけど」
「素材の元になっているものがなんなのか全くわからないと言っていました。耐火防水で伸縮性はややあり、吸湿発湿にすぐれている素材で元になっている繊維がなんなのかわからなくて、再現は無理と言っていましたねえ」
「なるほど。それは凄い素材ですねえ」
「あ、店長が戻ってきました・・・」
目が血走っている。目の前でデザインルームらしき小部屋に入るとドタンバタン音がして、旅行用のバッグだろうかパンパンに膨らませて、それを抱えて飛び出していく。いつもどおりの風景だ。
「飛び出しても馬車がないのではありませんか?」
パムが不思議そうにしている。
「この後、自分の家に行って着替えを鞄に詰めて明日の馬車に乗るんじゃ無いですかねえ。もっと急ぐのなら別料金で馬車を仕立てますよ」
「ビギナギルまでの定期便ですか」
「はい。2日に1回は出ていますよ。でも、今日は出ない日だから明日の朝イチの便ですね」
「なるほど。文化レベルが上がっていますね」
「はい、物資の輸送が頻繁になったそうで、ベリアルからファーンに寄ってビギナギルまでの輸送馬車がひっきりなしに往復しているそうですよ」
「すごいですねえ」
そんな話をしていると、虚脱感に包まれたキャロルとエーネがフラフラして試着室の方から出てくる。
「大丈夫ですか?」
ユーリとレイが近づいて声をかける。
「なんかすごいです」
キャロルの目の下にくまが出来ているように見えます。
「ええ、なんと言いますか、プレッシャーを感じました」
エーネの角を隠すためにまとめていた髪がかなりグシャグシャになっています。メアがあわてて駆け寄って髪の毛を整えています。
「あれをプレッシャーと言うのですか」
キャロルがエーネを見て言った。
「それでも、あの店長さんの言葉から感じるのは、純粋な服への愛着なのですよ。いえ、愛着と言うよりは愛、執着でもいいかもしれません」
エーネはメアに髪の毛を整えてもらっていますから静かにしていますが、かなりへばっています。
「ああ!それは感じました。それしか考えていない感じですね」
キャロルはそう言ってエーネが髪を整えてもらっているのを見ています。ナナミさんがさりげなくキャロルの後ろに回って髪の毛を整えています。
「着せられた服は何着かありましたが、その中から1枚買わせていただきます」
エーネが少しだけ嬉しそうにそう言った。
「私も」
キャロルもそう言いました。
「別に何着買っても良いですよ。普段着でしょうから」と私は言った。
「いいえ、オーダーで無くてもあれだけの服はいつもは着ていられません。とっておきの時に着たいです」
エーネがそう言って何かを想像するかのように目をつぶっている。
「DT様、私も領主様の所で高級品を着させていただきましたが、そんなものの比ではありません。確かにさりげなく日常着られるように見えて、素材が・・・もしかしてこの辺の人たちはみんなこれを着ているのでしょうか?」
キャロルの言葉に全員が店員さんを見る。
「あらーばれました?たぶん店長が着させたのは、対アンジーちゃんとモーラちゃん用の生地の端布を使って作った物だと思います。だから、店長にしてみればリサイクルなのですよ。布の費用はゼロで、姉たちが縫わされているので、縫製代もほぼゼロ円ですねー」
「って、もう一着服を作れる布地を残して使わないんですか」
キャロルが絶句しているが、私達は店長がそういう人だと知っているので驚いてはいませんよ。
「着せたい本人がいて、その人のイメージに合わせて服をデザインして、そのイメージに合う生地を選定して作るので、大量に余ります。でも服が完成したら残りの布は使えないんだそうですよ」
ナナミさんはさりげなくそう言った。
「なんという贅沢な生地の使い方でしょう」
キャロルは途方にくれている。
「そんな高級な生地が余っているならそれが欲しいわねえ」
アンジーがさりげなく欲しいと言って見た。
「あー残念ですが、外に出していません。その生地でちょいと良いお客さん用に工房で製作してますから。うちの店はそれで成り立っていますので。もちろんデザインは、店長のデザインを量産可能なデザインにダウングレードしてその生地で作りますよ~」
「それを手に入れれば」
「それはですね、どのデザインもすでに予約でいっぱいなのです。店長のイメージが膨らんでどんどんデザインしてくれたらなんとかなるのですが、最近、モーラちゃんもアンジーちゃんもユーリさんもエルフィさんもメアさんもレイちゃんも来てくれないので、新しいデザインが浮かんでいないのですよ。ぜひ、うちの店のために人身御供に・・もとい資金源に・・・違った服を試着しに来てください」
「色々とわかったけど、一応条件を出しておくわ」
アンジーさん
「なんでしょうかー」
キャロルの髪をいじり終えたナナミさんがアンジーに聞きました。
「私達が来店して、ワンオフの試着をした時に。何着かに1着は、着る本人に渡すよう交渉しなさい。店長が嫌がるなら、私達が店に来なくなると困るから1着くらいは、我慢しろと言っておいてほしいのだけれど」
「わかりましたー。嫌がるでしょうけど、私の生活のために頑張りますー」
「普通の服も売っているのでしょう?」
紫がそう尋ねる。
「ええ、もちろんです。一応ここはデザイナーズブランドですから、ちょっとお高い目で、どちらかというと晴れ着的な扱いですね。下着とかもちょっと良い物を提供させていただいていますよ。ちょっとエロいのも取りそろえています」
「なるほどねえ」
紫が話している間に後ろの下着のコーナーでエリスとシンカがビックリしたような顔で下着を見ている。
「キャロル、エーネ、買う服決まったの」
「残念ですが、先ほど着させられたのは、普段着には程遠いものでしたので、こちらに飾ってある服をいただけますか」
「私もそうします」そう言ってエーネは私を見たので、大丈夫と頷いた。もちろんあなたのご両親にあとで請求書を送っておきますから。
「では、わしもそうするかのう」
そう言ってモーラも服を見始める。
「これから寒くなったらこれ着ようかしらね」
「あ、これが良いです。シンプルで」
「お揃いにしましょう」
「ぜひぜひ」
「何やら目的が変わってしまいましたねえ」
私は近くにいたはずの紫さんに声をかけたつもりが、そこにはすでにいらっしゃらなくて、服を見に行ってメアやみんなと話をしている。エリスさんもシンカさんも混じっている。
私は、ボーッと皆さんの様子を眺めていると、ナナミさんが私に近付いて来た。
「寂しいですかー?」
ナナミさんは嬉しそうだ。
「男なんてそんなものでしょう」
「でもこれから地獄が始まりますよ」
「え?」
そう言って離れていくナナミさん。我先に服を持った皆さんが私に詰め寄ってきます。紫さんとエリスさんはやめてくださいよ。
「とりあえず試着してください。そうしないとイメージだけではわかりませんよ。私は朴念仁なんですから」
「自分で朴念仁言うな」
モーラに怒られました。
結局、全員が試着して、みんなの評価も聞きながら、自分の気に入った服を買っていきました。
○居酒屋
「遅くなりました」
私は皆さんと共に低姿勢で居酒屋に入っていく。
広くなった居酒屋は、私には相変わらず違和感しかありませんが、一番奥の大きなテーブルに「天使様ご一行予約席」と書いた札が置かれている。
「ああ、大丈夫。まだ人が入っていないよ」
「とりあえず乾杯」
「何に乾杯じゃ」
「日々の生活に」
そうして夕食が始まりました。
「そうそう女将さん。この布を拾ったところがどこか聞きたいのですけど」
「ああそれかい。明日にでも連れて行ってやるよ。あんたにも相談するつもりだったんだ」
「何かありました」
「山を削って更地にして畑にしようと思ったんだが、削ってみたら変な物がゴロゴロ出てきてさあ。畑にならないんだよ。掘り出された物が何かに使えないかと思ってねえ」
「わかりました、現地に行ってみてみないとわかりませんね」
「明日すぐ行くのですか?」
紫さんが私をジッと見て言いました。
「優先順位は、明日のベリアルとの間にある遺跡と紫さんが見つけた遺跡ですよ。そっちは後です」
「そっちの方が面白そうですけどねえ」
紫さんがなぜか残念そうです。だって、遺跡が先でしょう?
「そのあたりに埋まっているのは、昔そこに暮らしていた人の生活の痕跡。本当に遺跡ですよ。この布から見ても文化レベルが高いですから興味はありますが、もしかしたら骨まで見つかるかもしれませんよ?」
「そういう事ね。私も感心があったけど、言われてみると確かにそうだわね。でもそういうところは、現実的なのね」
「優先順位の付け方を間違うと大変な事になったりしますよ?」
「そうなのね」
その日は夕方近くで終了して、家でお風呂に入って、次の日の早朝には出かけました。
○次の遺跡ヘGO
「さて、ここの遺跡も前のと同様にフェイクの洞窟を作って封印しておきます」
私は洞窟の前で、中に入りもせずにそう言いました。
「あんたねえ。とりあえず中くらいは見なさいよ」
「やっぱりそうなりますか?」
「当り前でしょう?前回のとは違って何か収穫があるかもしれないじゃない」
「そうですか。それでは行きたい人!」私は手を上げて探検したい人を募集しました。
そこには、私の家族と、キャロルとエーネ、ヘリオトロープとサフィーネさんとエリス、トラマリ、豪炎の魔女がいました。しかし、誰も手を上げません。
「もう一度挙手してください」
「キャロル」、「エーネ」、「エリスさん」、「豪炎さん」、「ヘリオトロープさん」と言うことでよろしいですか。
「あんたと私は強制でしょ?」
○二番目の遺跡
早朝から馬車に揺られて、次の遺跡に向かいます。
次に訪れたのは、日本刀を持ったお兄さんがいた遺跡です。
ちなみにあのお兄さんはファーンに道場を作って師範代として生計を立てています。しかも美人の奥さんもらって子どもももうじき生まれるそうです。なんかちょっと悔しいです。トホホ
「あなたのところの馬車は揺れないし速いけど、この速度は速すぎないかしら」
「気にしないでください。念のため言いますけど、この世界の法則をねじ曲げたりしていませんからね。あと、ウチの馬は普通の馬より速いのです」
「確かに馬の速さが速いだけなのね」
「到着です」
「ここから山登りですね」
「馬車は行けないのかしら?」
「以前来た時は、轍の跡があったので、もう少し先まで行けましたが、その先は歩きでしたね。今は草がボウボウで道がわからなくなっています。馬車が進めなくなる可能性もありますからここからは歩きましょう」
「じゃあ私達が先に行って場所を確認してくるわ」
「お願いします」5人がそれぞれホウキに乗って飛びながら山を登っていく。以前は私に絶対見せてくれなかったのに今は簡単に見せるのですねえ。
「以前使ったチェンソーはどうしたのよ」
「4頭立てに改装した時に外しました。普通の道を走るのに使わないでしょう。でも失敗でしたかねえ」
「そもそもついているのもおかしいじゃない」
なんだかんだ言って、キャロルとユーリとパムが剣で草をなぎ払いながら前に進んでいるのですが、結構いい速度で進んでいます。しばらくしてエリスが戻ってきました。
「ないのよ」
「え?」
「以前に確認したはずの場所にないのよ」エリスがそう言って地上に降りた。
「そんなはずはないでしょう。道でも間違えましたかねえ」
「いいえご主人様。私の記憶でも間違いありません。この上にあるはずです」メアがそう言った。
「メアさんの記憶ではどの辺ですか?」
「あと数百メートルというところです」
「とりあえずそこまで行きましょう」そうして、草をなぎ払いながら道を進む。
「この辺ですね。確かに洞窟の入り口がありません」
メアが言った。すでに紫さん達も集合している。
「そうよねえ。この辺にあったわよ。やや急な上り坂に真っ直ぐ突き進む感じであったわね」
アンジーが周囲を見ながら言った。
「モーラお願いします」
「うむ」
モーラは膝をついて右手を地面にあてた。微かな地震が起きてすぐ止まった。
「何かあることは間違いないが、それだけしかわからんな」
「諦めましょうか」
「ええ?」
全員が驚いている。
「誰かが埋めたんでしょう?埋まっているものをあえて掘り出すとか面倒ですよ」
「おぬし本当に面倒になっているな」
「まったく。興味の無い事には本当に動きが鈍くなるわねえ」
「でもさっきまでは、そんな感じではありませんでしたよ」
「基本こいつは面倒くさがりなのよ。あんた町が心配でしょう?」
「それはまあそうですけど」
「いいから重力制御の練習だと思って持ち上げなさい」
アンジーに説教されています。
「はい。メアさん記憶のあった入り口はどの辺ですか?」
私はメアさんに確認をしてもらった。
「皆さん少し離れてください」
メアがそう言って、両手を広げてみんなを少し離れた位置に誘導する。
「離れるの?」
「はい、その位離れて貰えればけっこうです。この辺です」
メアはそう言って、斜面に多数の氷の針を打ち込んで、入り口の形を作った。
「こんな感じです」
「さ、さすがね」
シンカさんのちょっとビックリです。
「では、行きますよ」
私はその氷の針の作った形よりやや広めに魔方陣を描いて、そこの土を持ち上げる。
「おー。なんか初めて見ました」
レイが言った。
「私もです」
エーネも言っている。
「あんたの本来の能力を見る機会はなかったねえ。こいつの本来の魔法は重量制御なのだけど、ほとんど使わないからね」
「どうですか?ありますか?」
私は制御に神経を使っているので、見る余裕がありません。宙に浮いている土の下には、斜面に沿ってぽっかりと穴が開いていました。
「おぬし、その土はそのまま横に置け。埋め戻しに使うわ」
「はい」
私は横にずらして地面を置いた。
「扉が閉まっていますよ~」
エルフィが斜面にある穴のそばに行って見ています。
「穴になっていないのかしら?」
「確かに閉じられているわねえ、エリスも開いているのを見たのね?」
「ええ、開いていたわ」
「私達も来た時には開いていました」メアがそう言った。
「これは扉よねえ」
紫とシンカも近付いて中央の縦線を見ている。
「ここに何かを挟んで両側に引っ張れば開くかもしれないな」
モーラも下の方を見て言った。
「やめておきましょう。ここは手を出さないでおきましょうね」
「おぬし、出番じゃ。土をかぶせ直すのじゃ」
「はいはい。よっとこらしょ」
私は土を持ち上げてそこに戻す。全員でその上から隙間を踏み固めている。
「最初の遺跡とどう違うのでしょうか?」
「次の遺跡を見てみましょう」
「そうね」
続く
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