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第26話 メアの事情

第26-4話 ほんとうのメアジスト・アスターテ

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○魔法使いの家へ
「こんにちは、こちらは魔法使いさんのおうちですか?」私はそう言って扉に手をかけた。
「はい、そうですよ・・・ああ、お久しぶりです。賢者様」扉を開けてその女の子はそう言った。ああ、確かに見覚えがあります。
「おや、あなたはロスティアの王女様のところにいた魔法使いさんではありませんか。死んだのではなかったのですか」私はまた変なことを聞いてしまいました。生きてますよねえ。
「まだ死んだことになっているのですね。それはよかったです」その魔法使いさんは、恥ずかしそうにちょっと下を向いてそう言った。
「そうですか、いつからここにいらっしゃるのですか?」
「はい、賢者様とお会いして、私が王女様にいろいろ進言するようになったのを上級魔法士の方が疎ましくなったのでしょう。多分いずれ賢者様とぶつかるであろう事を想定して、王女様の怒りを賢者様に向かわせるために私は命を狙われたようです。
 私は、それを知って、とっさに死んだ事にしてあの国を逃れました。私としては、王女様にはわかるように伝えてもらったつもりだったんですが、伝わっていなかったのですね」その魔法使いさんはちょっとションボリして言いました。
「ええ、残念ながら死んだと思い込んでいましたよ。もしかしたら洗脳されていたのかもしれません」
「やはりそうでしたか。それで、どうしてこちらに?」
「実は、この家に昔から住んでいる魔法使いさんがいると聞いて、ぜひお目にかかりたいと思って来たのです」
「はい、私のお師匠様がここに住んでいますよ」
「そうですか、今はいらっしゃいますか?」
「街に食料品などを買いに行っていると思います」
「おぬし、わしらが来るのをわかっておった」
「は・・・はい。どうしてそれがわかりましたか?」
「簡単に扉を開けたからじゃ。おぬしを追ってきた者かもしれないじゃろう」
「ああ、確かにそうですね。実は、出かける時にお師匠様から、たぶん尋ねてくる魔法使いがいると言われていました」
「なるほど、魔女じゃなあ」
「あら、そんなことはないわよ。私はただの魔法使いです」扉を開けたのがわからないくらい静かに部屋の中に入ってきました。
「初めまして私は」
「自己紹介はいいわよ。解析する魔法使いさんでしょ?」
「よくご存じで」
「それと辺境の賢者と呼ばれている土のドラゴンさんね」
「あ、ああ、よろしく頼む」モーラが気圧されている。珍しいですねえ。
「それはこちらの方ですよ。もしかして、これから災いが起きるのではなくて?」その魔法使いさんはそう畳みかけてくる。
「そんなつもりで来たわけではありませんよ。私の家族の調子が悪くて、その原因を追ってこちらまで来たのです」
「ですからその事ですよ。その事実を尋ねてくる者が来たらこの地は災いに襲われると言われているのですから」その魔法使いさんはそう言って私をジロリと見た。
「そんな話がこの地方にはあるのですか?」
「でも、あくまで言い伝えでしかないですけどね」今度はニコリと笑ってそう言いました。
「実は、その辺の話をお聞かせいただきたいのです。もちろん対価はお支払いします」
「今回の対価は決まっているわ。この街に起きるであろう災いを止めて欲しいの。それだけよ」さらりと言いましたが、結構難題そうですよねえ。
「ふむ、確実に起きるとなぜわかる?噂でしかないのであろう?何か知っておるな。魔女よ」
「まあ、そうなるかどうかわからない。でも何か起きた時には何かをしてもらう。それではどうかしら?」
「そこまでしなくてはならないのか」
「あくまで起きた事実を受け止め、その被害を最小限に抑えるために努力する。それがその街に住む魔法使いの習わしなのですから」
「そういうものですか」
「あなたも、もうじきそうなるのよ」その魔法使いさんは嬉しそうにそう言った。
「私ですか?私は家族を守るのが精一杯で」
「そんな言い訳は通用しなくなりますよ。町の人達は必ずあなたに期待するの。わかるでしょう?ましてや土のドラゴンの恩恵を受ける魔法使いさんならね」
「その災いとやらがどんなものなのかわからないのか」モーラは話を戻す。
「私がここにいるのは、この街を追われた錬金術師からお願いされたからよ。その人とは、それまでいろいろとあったのでね。騒動が収まったらいなくなろうと思っていたけれど、ことのほか静かで暮らしやすくてねえ、そのまま居着いてしまったというところね。なので、その災いは、推測はできるけど知らないわ」
「推測ですか」
「はい、あなたの連れているホムンクルスに何かが起こった時に何かが起きるのではなくて?もしかしたら土の中から何か出てくるかもしれないですし、それならば、防げるのはあなたぐらいでしょう?それに土のドラゴンさん?」
「にしても、家族がどうしてホムンクルスだとわかっている。それと、ここで起きることにわしが出来ることはないぞ。別のドラゴンの縄張りだし、ドラゴンは不干渉なのだから。それと、ここを縄張りとするドラゴンはどうしているのかのう」
「ここはねえ、ドラゴンの里から魔法使いの里が許可をもらったドラゴンの縄張りに属さない土地なのよ。だから他のドラゴンの干渉はありませんよ。あなたが何かしても大丈夫です」その魔法使いさんは、そう言った。しかし、なぜホムンクルスだと知っていたかには答えていませんね。
「なるほど、魔族の領土や魔法使いの里の所有する土地のようなもののひとつというわけか」
「そうよ。だからこの土地を縄張りとするドラゴンはいませんよ」
「では、それについての対価は、それでよろしいのですね」
「それとね。そのホムンクルスの子を連れてきて欲しいのよ。その時に一緒に話をしてあげるわ。何度も話すのも面倒ですし」
「そうですか。では明日改めてお伺いします」
「あとね、この街には、もうひとり魔法使いがいるわ。錬金術師と名乗って街の中に住んでいる男の人がいるのよ。まあ、やっていることは魔法使いと同じですけど。今日はその人に話を聞いてみたらどうかしら」その魔法使いさんは、ちょっと嬉しそうにそう言った。
「情報ありがとうございます。こちらに来るのは朝早くからでも構いませんか?」
「構いませんよ。ぜひそうしてください。私もあなたの口からこれまでの事をお聞きしたいわ。噂ほど信用できないものはありませんからね」
「私からも、これまでのことをお話をぜひお聞かせください。お待ちしています」
「では失礼します」
 そして、モーラと2人でその家を出る。
「モーラは、ほとんど話をしませんでしたね」
「ああ、考え事をしていたのでなあ。あの魔法使い、自分は魔女ではないと言っていたが、実のところほとんど原初の魔女ではないかと思ってずっと考えていた」
「原初の魔女であれば、魔法使いの里にいるのではありませんか?」
「そこなのだよ。魔女ともなれば長命だし、引退はあまり考えないものだ、だからこそ人との交わりを捨てて里に引きこもるか、色々なところを放浪して自分が長命であることを隠して生きるのだが、ひとつの所に住み続けるのは珍しいと思ってな」
「そういえば、どうしてここはドラゴンの里の縄張りではなくなったのですかねえ」
「さあなあ。その辺の話はさすがにわからんわ。元魔王に聞いた話にも出てこなかったなあ」
 そこを出て、街への道を2人で歩いていると、レイが獣化してこちらに走ってくるのが見えた。
『どうしましたか』
『ああ、やっとつながったー。街の中からでは連絡が取れませんでした。無線機の故障ではないみたいですね』獣化しているので脳内通信です。
『おや、静かだったのは何もないからではなく、聞こえなかったからだったのですね』
『はい。大変です。メアさんが倒れました』
「なんですって」おっとびっくりすぎて女言葉になってしまいました。
「何があったのじゃ」
 そこでレイは私達のところに到着して獣人化した。
「メアさんと同じ顔をした女性と出くわしたら急に倒れました」レイが私に向かってそう言った。
「同じ顔じゃと?」
「はい、そっくりでしたよ」レイもビックリした様子です。そんなに似ているのでしょうか。
「とりあえずメアさんのところに行きましょう。どこにいるのですか」
「たぶんその子の家に連れて行くってパムさんが言っていました」
「パムが一緒なのだな」
「はい。」
「急ぎましょう」
 私達は街の中へ急いだ。

○メアの異変
 その少し前の事です。
 パムは、メアの後ろをついて歩いていました。上の空のメアは、いつもなら気付くパムを気にするでもなく、ふわふわと歩いていて非常に危なげです。それでも街並みを見回しながら次々と角を曲がっていきます。
 時に道を戻り、時に手前で思案しながら歩いています。そんな時、角を曲がってきた女の子とぶつかりそうになる。
「ごめんなさい」その子はぶつかりかけたメアの顔を見て驚く。
「あ・・」その声にメアもその子の顔を見て、しばらくお互いの顔を見つめる。年齢差に応じた顔は、ほとんど同じ顔だった。そしてメアはその場に膝をついて倒れ込み。その子は助け起こそうとそばに寄った。パムは近づいて、見上げるその子の顔を見て驚いた。
「あなた、メアさんの親戚ですか?」と尋ねてしまう。
「私には残念ながら身寄りはありません。母も数年前に死にました。でも、確かにこの方は私に似ていますね。それよりもどこかに休ませないと」
「私が背負いますので、どこか休める場所があれば教えてください」
「あなたは?」
「私は、この方の家族です。ああ、そう言っても信じてもらえないかもしれませんね。仲間であることは間違いありません」
「そうですか。では私の家にお連れしてください」
「わかりました。レイそこにいるのでしょう?」その場に狼が現れる。
「ぬし様に連絡を取ってください」レイは、頷きその場から消えた。
「あの子もこの女性。メアさんの家族なんですよ」ビックリして会話を聞いていたその子は怪訝そうな顔になったのでパムはそう言った。
「メアと言うのですか。正式には何という名前なのですか」メアと聞いてその女の子はちょっと考えてそうパムに尋ねた。
「メアジストよ」その声にパムとその子が振り返るとそこにはアンジーが立っていてさらに続けた。
「メアジスト・アスターテと言うのよ。アメジストの言い間違えらしいわ。どう、何か思い出した?」アンジーが真面目な顔で尋ねる。
「はい。私のおばあさんのさらにおばあさんになるのでしょうか。祖母も母もその事を言っていました。私たちの先祖には、メアジストと言う名の女性がいたと」
「そう、そうだったの」
 そうして、その子の家にみんなが集まっていった。

○その子の家に向かう
『あるじ様聞こえますか?』
『ああ、ユーリ聞こえますよ』
『あんたどこに行っていたのよ。連絡が取れなくて心配したわよ』
『旦那様~どこ~』心細げなエルフィの声がする。
『今、街中に入りました。もしかしたらこの結界は、魔法自体も遮断するのでしょうか』
『ぬし様、ああ見つかりましたか。エルフィ聞こえますか。ぬし様を誘導してください』
『ラジャー』
 そうしてその子の家に到着し、家の中に入れてもらった。寝室のあるおそらく彼女の私室のベッドにメアは寝ていてその横に彼女が座ってメアの手を握っていた。
「メアさん」かなり大きな声になっていたのでしょう。その子は静かにするように口に人刺し指を当てた。私はベッドに近づき跪いてメアの顔を見た。顔色は悪いが落ち着いた表情をしている。
「大丈夫だとそちらのアンジーさんがいっていましたよ」その子の声に私はその子の方に顔を向ける。
「声までよく似ていますね」私はこの子の顔を驚いて凝視してしまう。
「そうなんですね」困ったように私から視線を外して下を向いた。
「ああ、初めまして。私、メアの・・・」
「ご主人様なんですね。そして家族なんですね」顔を上げて私をじっと見る。
「ええ家族です。その、倒れたメアさんを家に入れてくれてベッドまでお貸しいただいて。ありがとうございます」
「いいえ、私の肉親ですもの問題ありません」
「肉親ですか?」
「はい、彼女の、メアさんの姓である、アスターテは、曾祖父の名前ですので」
「ああそうでしたか。ってメアさんは、ホム・・・」そこで後ろに立っていたモーラが私の口を塞ぐ。
「わしの家族が迷惑をかけてすまん。わしはモーラじゃよろしくな。ああ、この口調は昔からなのでなあ直りはせぬ。すまんが勘弁してくれ」
「はい、よろしくお願いします。私は、エルミラ・クロックワークと申します」椅子に座ったまま軽くお辞儀をする。
「落ち着いているようだから。私達は宿屋に戻っているわ。夕方には一度顔を出すからその時はみんなで一緒にご飯を食べましょう。エルミラさんも一緒にね」
「よろしいのでしょうか」
「メアにとって親戚なら私達にとっても家族のようなものだもの。それとも一緒は嫌かしら?」
「そんなことはありません。ぜひ」
「あんた、わかっているわね」アンジーは、私にそう言った。
「ええ、わかっていますよ」
「本当かしらねえ。まあ、メアが目を覚ますまではちゃんと見ているのよ」
「了解しました。アンジー様」
「もう!ではね」アンジーは最後に扉を閉めた。
「私は残ってしまいましたが、よろしかったですか?」
「かまいません。私も話し相手が欲しかったところなので。メアさんの事をいろいろ教えてください」
「そうですね、まず私と家族になったことからお話ししましょう」
 そして彼女と私は話し始めました。

○停車場前噴水
 一方、モーラと他のみんなは、馬車のある噴水の前に集まって、それぞれが街を回って聞いて来た事をまとめはじめたようです。
「ここは、どの国にも属さない街だったわ。そして子どもはほとんどいない。ここには住めないそうよ」ひとり歩き回っていたアンジーが話し始める。
「それはどういう事なのですか?」パムが尋ねた。
「人は、生まれて老いて死ぬまで50年くらいなのよ。でもこの街の人は、200歳以上生きるそうよ。そして、子どもが生まれにくい。まあ長命になればなるほど、その傾向が強くなるからしかたないのかもしれないわね。そして、生まれて青年になる頃までは、ここで暮らすからみんなが同じスピードで歳を取っていくので、長命であることを知らないのよ。でも、仕事を探しに他の街に行ったり、ここでの暮らしに飽きて旅をしたりして自分たちが普通の人達と違うことがわかってしまう。そうなると、人の中では生きられなくなりこの街に戻ってくるしかない」
「不老不死ではないのですね」パムが尋ねる。
「ええ。例えば、腕を切断したり、大きなけがをしたら再生して、その分生命力を削られて死期が近くなるみたいよ。もちろん致命的なけがなら死ぬこともある。もっとも生命力は強いみたいなので、瀕死の状態でも生き残ることが出来るみたいで、その場合も死期の訪れは早くなるみたい。
 つまり最初に300という生命力を持っていて、腕が切断したら生命力50を使って再生して、残り250をこれからの生活で消費していき、それが無くなったら。突然死ぬみたいな感じかしらね。それでも200年は長いわね。他の人たちと同じ所に住んでいたら、さすがに不思議がられるでしょう。一般の人の4世代分ですものね」
「あまり人と接触しないで世捨て人のように生きるしかないという事ですか」ユーリがそう言った。
「この街以外ではそうなるわねえ」
「なるほどな。それはこの魔法の障壁と関係するのかな」モーラがそう聞いた。
「たぶん。モーラからの話と組み合わせると、あいつの解析を待たなくても推論できるわ。この街は魔法使いの里の実験場で、その実験はまだ続いているのではないかしら」
「ここが実験場ですか」私は、ついつい脳内会話の言葉をつぶやいてしまう。
「実験・・・ですか?」彼女は首をかしげる。
「ああすいません。別なことをぼんやり考えてしまって」
「そういえば、祖母もそんなことを言っていました。この街は呪われた街だ。神の実験に使われた街だと」
「あなたはそんな呪われた場所は怖くはないのですか?」
「私は、母からここを離れては生きていけないからここに住み続けなさいと言われていました。祖母から呪われている街と言われても私にはよくわからなくて。私は、外の世界にもあまり興味が持てなかったのもあり、友人達は違う街に行って、寂しそうに戻って来たりして、外の話を聞いても聞かせてくれなかったりするので、ここより厳しい世界なんだろうなあと。だから出て行かない方が良いと思っています」
「あなたは何か仕事をしているのですか?」
「趣味の手芸をしていて、それが結構良い値段で買ってくれるので、それで生活しています」
「食事とか衣類とかもそのお金で買っているのですか?」
「食料品は必要な品物が売っていますし、衣類などの雑貨も売っていますので、お金はそんなにかかっていませんよ。町の税金でまかなわれているのです」
「お金はかかっていないと」
「お金は払うのですが、税金の還付金というのですか、ほとんど全額戻ってきます」
「では、お金はあまり減らないんですねえ。優秀な街ですね」
「そうみたいです」
 メアの手がピクリと動いて、彼女の手を握った。そしてうっすらと目を開ける。
「メアさん」彼女は手を両手で握りしめる。そして互いに見つめ合う。メアの瞳から涙がこぼれる。
「ああ、あなた。お名前は何というのでしょうか」メアがそうその子に尋ねる。
「私は、エルミラです。エルミラ・クロックワークです。初めまして」
「エルミラ・・・クロックワーク。ああ、私の母方の姓ですね。そうですか」
「憶えていらっしゃったのですね」
「はい、今、はっきりと。」・・・そう言いながら私の気配に気付くメア。
「ご主人様。ああ、私は、私は」私の顔を見ながらうろたえる。
「メアさんには、記憶があったのですか」
「記憶。私にはないはずの記憶。今、思い出しました。私は、メアジスト・アスターテ。父はブリュネー・アスターテ、母はパープル・アスターテその夫婦の長女です。そう、死んだ長女なのです」
「死んだ?」
「はい、私は8歳の時に死に、その後父親に蘇らされました」
「そ、そんな」エルミラは、驚いている。
「ごめんなさい。死んだというのは誤解を生みますね、私の頭を死なないように保存して、ボディを魔法で作り出して中に入れたのです」
「そんな事が出来るのですか?」
「はい、私の父は錬金術師を名乗っていた魔法使いなのです。そう聞いてエルミラさんは、私のことが怖いですか?」
「いいえ怖くないです。よくここに尋ねてくる錬金術師の方もそんな話をしてくれていましたから。でもそれが本当だったなんて」
「どんな話ですか」
「はい、人が不治の病を患った時、頭だけを生きながらえさせて、その間に新しい体を作って、その体に入れ替えることが出来るとか、そんな話ですね」
「ああ、そういう話を聞かされていたのですね。その錬金術師さんは、こちらの街にお住まいなのですか」
「はい、いらっしゃいますよ」
「ご主人様。私はもう大丈夫です。エルミラさんお願いですが、その錬金術師さんのところに連れて行ってくれませんか」
「メアさん、いえ、メアジスト様、私のことはルミとお呼びください。呼ばれ慣れていますので」
「ではルミ、私のことは先ほどのようにメアと呼んでもらえますか」
「はい、その、メア様、一緒に行かせてください」
「ありがとうルミ」そう言ってメアは、ベッドから起き上がる。
「メア様」
「では、ご主人様参りましょう」
 そう言ってその家を出たが、エルミラさんは、メアの手を握ったままで、玄関の扉に鍵もかけずにそのまま歩いている。
「玄関の鍵はよろしいのですか」私は心配になりエルミラさんにそう聞いた。
「ここに鍵をかける習慣はありませんよ?」不思議そうに首をかしげながらルミは言った。
「ああそうなんですね」
『そこにいるのは、おぬしとメアか?』モーラの声が脳内に響く。
『はいそうですが。メアもこの会話聞いていますよ』
『いや、聞かれても構わぬ。わしが察知しているメアの魔力が切り替わった感じがするのじゃ。何か変わったことでもあったのか。エルフィも同じ事を言っておるので気になってな』
『ああ、メアさんの記憶が戻ったのです。全部ではないようですが。もしかしてそれで変わったのかと思います』
『そうなのです。私はホムンクルスではなく。魔力を筐体とした生体サイボーグになります』
『ああそうなのか。人だったのじゃな』
『はい、戦闘などの特殊な状況下ではホムンクルスとして動き、それ以外の時は、感情を優先して動いておりました。ですから脳はその行動をバックアップしていました』
『では、私が出会った時にメアさんが私に隷属したのは、もしかして、ホムンクルスとしてなのでしょうか?』
『最初に出会った時には、この方なら一緒にいて安心であるという期待値が一定以上超えたので宿主を変更しました』
『宿主ですか』
『その期待値のうちには、愛情も含まれております。ええ、私の好みだったと言うことです』
 メアは、エルミラと話しながら、こちらを振り向いて頬を赤らめた。
『これからエルミラさんと一緒に錬金術師さんに会いにいってきます』
『そうか。わしらはもう少しこの街を回ってみる。何かあったら連絡する』
『通信機なしで大丈夫ですか?』
『街の中なら大丈夫だろう、だが連絡は怠るな。メアの兆候を見逃すなよ』
『わかりました気をつけます』

○ヘイミスターエリクソン
 そうして、その錬金術師の家を訪ねる。街の反対側にその家があり、その家だけ少し庭が広かった。
「エリクソンさんこんにちは~」そう言ってエルミラが扉の前に行って声を掛ける。
 扉から顔を出した初老の男性。顔のしわとふくよかな体型。年齢は不明だ。
「おやどうしたんだいルミ。久しぶりだね」
「お客さんを連れてきたの」
「お客だなんてめずらしい。どなた・・・おお、マダムパープル・・いやそれはない、そうか、メアジストさん・・・なのか?」
「はい、初めましてエリクソン様、メアジスト・アスターテと申します」メアは丁寧にお辞儀をした。
「はは、そうだ。確かに初めましてだ。そうかあいつは、体だけではなく、すべてを完成させていたのだな。見せにも来ないで。まったくあいつらしい。おやそちらの方は?」そこで私の存在に気付いて怪訝そうな顔で私を見た。
「はい、わたくしがお仕えしている。ご主人様であり。私の家族です」
「どうも初めまして。わたくしDTと言います」
「ああ、魔法使いなのですね。私はエリクソンと言います。よろしく」そう言って握手を求められた。私は思わず手を差し伸べる。
「転生者の方ですね」エリクソンさんは、そう言って自分で手を出しておきながら握手をしなかった。
「ああ、ばれてしまいましたか。そうです魔法使いです。あなたも転生者なのですね」
「残念ながら私は違います。他の世界から来た人を見分ける簡単な方法が握手だとスタに。失礼、彼女の父アスターテに教えてもらったのです」嬉しそうにそう言った。
「そうですか。引っかかりましたねえ。でもこちらでも握手はしていましたが」確かに回数は多くないが握手をした記憶はある・・・・ないかな?
「信頼の置ける人としかしませんね。初対面では握手はしません」そう言い切られました。
「なるほど。さて、私が他の世界から来たとして、何か話してもらえることは変わりますか?」
「いいえ、単に話が早いだろうと確認しただけです。立ち話も何ですので中へお入りください」そう言ってエリクソンさんは私達を家の中へ誘った。
「ありがとうございます。お邪魔します」
 中は薄暗く、テーブルの上には乱雑に食器が置かれている。エルミラは、慣れているのかそこを片付けてお茶の用意を始める。
「ミラ、すまないねえ」
「いつものことだから気にしないで」
 そしてテーブルに向かい合って座った。
「それで、こちらに来た目的はなんでしょうか。まさかメアジストと会わせるために来たというわけでもないでしょう」
「はい。私と彼女が出会った時。一緒に暮らしていた魔法使いからホムンクルスとして紹介され、色々あって一緒に暮らすようになりました。最近、彼女が少女時代のことを夢で見ると言われて、ホムンクルスのはずがどうして。と悩んでいて、彼女の体を作ったブリュネーさんの足跡を追ってここまで来ました」
「なるほど。最初はホムンクルスと思っていたと」
「ええ、ここでそちらにいるエルミラさんにばったり出会って、記憶を取り戻して、エルミラさんからあなたの事を紹介されました」
「そうでしたか。ちなみに彼は生きていると思いますか」
「私がメア・・メアジストさんとお会いした時には、生きているかどうかわからないと言われましたが、探すことはその時に決めていました。死んでいる可能性はかなり高いと思います」
「やはりそうですか。あなたは嘘を言っていないようだ。正直にお話ししますと。私が知っているのは、彼がここで暮らしていた事、ここを追放された事。その後は、度々ここを訪れていた事くらいなのです。そして、メアジストさん。あなたにお渡しするものがあります」
「なんでしょうか」
「その前に少し昔話をしましょう。記憶の整理ができると思いますので。よろしいですか?」
「かまいません。私も幼少時の記憶があいまいですので」
「そうですか。あなたもよろしいですか。ああ、エルミラは良いのかい?」
「聞きたいです」
「まず彼は、この街から少し離れたところに家を建てて暮らしていました。この街が出来て、私が住み始めた頃には、すでにこの街にいたのです。彼は、他の世界から来た転生者で膨大な魔力量をほこる魔法使いでした。私は後から知ったのですが、彼はここである研究をしていました」

「彼は私の事を知っていて、ここに暮らすようになると、お互いの情報交換を始めました、そして、彼が最初から錬金術師を名乗っていたのを私が真似して錬金術師と名乗るようになったのです」
「彼の研究は、生命の活性化、細胞の変異などでした。光の魔法でも闇の魔法でもなく属性は不明でした」
「やがて近くに住んでいたパープルさんと結婚し、子を成しました。それがメアジストさんあなたです。彼は、あなたを溺愛し、手元から離そうとしませんでした。その頃には一時期ですが研究が滞ったくらいです。しかしあなたは、8歳の時に突然死んでしまうのです。彼は嘆き悲しみ、そして、魔力により体を錬成する研究に没頭し始めます。その頃には、私も彼とは会うこともできず、どうなったのか知りませんでした。私が知ったのは、彼の研究が、生と死をもてあそぶものだとしてこの街から追放になったと言う事。その時には妻ともうひとりの娘とは疎遠にしていたので、そちらには影響は及ばなかったということですね」
「もうひとり娘がいたのですか」
「それが、彼女、エルミラの曾祖母です」


Appendix
ああ、そこに行き着いてしまったのですか。それは仕方ないですねえ。
始末しなければならないものがたくさんあるのに
さて、どこまで真実に近づけるのでしょうか


続く
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