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第21話 3,000vs1
第21-7話 DT様お久しぶりです
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○入れ違い
「外に出た時に、村の中にキャロルの気配がしましたよ~」エルフィが楽しそうです。
「おや、これまた結界が邪魔をして家に来られませんね」
「ユーリすまんが迎えに行ってきてくれぬか」
「はい」
エーネの時のように泣いてはいませんでしたが、途方に暮れたキャロルが荷物を抱えて家の前に立っていました。
「いらっしゃいキャロル」
「事前に連絡もせず突然お邪魔して申し訳ありませんでした」キャロルは丁寧にお辞儀をした。さらに
「しかし、これまでは普通の人は玄関にたどり着けていたと思いますが」キャロルがちょっと口調がきついです。もしかして怒っていますか?
「色々あってなあ。結界を強化したのだよ」モーラがほとんど同じ事を言いました。
「色々ですか?」キャロルは玄関に荷物を置いてそして帽子を取りながら言いました。
「それにしてもどうしたのですか急に」私は椅子に座ったまま聞きました。
「実は領主様からお暇をいただきました」キャロルはそう言って頭を下げる。
「メイドを辞めたのですか?」私は椅子から飛び上がりそうになりそう言いました。
「ああ、そうではありません。休暇をいただきました」キャロルは私を見て嬉しそうに言いました。
「あそこの領主が手放す訳ないでしょう?あんたも早とちりねえ」アンジーが私を冷たい目で見て言いました。馬鹿にしてますよねえ。
「ああ確かにそうじゃな」モーラもビックリしていますから、モーラも思ったのではないでしょうか。
「キャロル。何を笑っているのですか?」メアがキャロルが少し微笑んだのを見て言いました。
「メイド長様からそう言えと言われておりました。きっと受けるだろうと」キャロルは口元を押さえて笑いをこらえています。
「確かにあの方なら言いそうですね」メアが苦笑いをしています。
「はい。 バッチリです」キャロルは嬉しそうに笑って言った。
「おぬし変わったな。違うか。やっと本来の姿になったのか」モーラもビックリしながら言いました。
「領主様の所でもヒメツキ様の前でもちゃんとしていなければなりませんから」そう言ったキャロルは真面目な顔に戻っています。
「私たちの前ではいいのね」アンジーがあきれている。
「はい。家族ですから」キャロルは少しだけはにかんで笑って言った。ああ、表情がクルクル変化して可愛いですねえ。
「エルフィとユーリがポカンとしておるな。どうした二人とも」モーラが2人の心の動きに反応したようです。
「だってキャロルが変ですよー」ユーリがキャロルを見ながらそう言いました。
「そうです~一緒に暮らしていた時の~キャロルはどこに~」エルフィはそう言って、ユーリと2人でオロオロしています。
まあ女の子の成長はあっという間ですからねえ。前よりもっさらに身長も伸びて、一段と美人になってしまいました。仕草とかが急に女の子っぽ・・・く。おや皆さんの私を見る目がちょっと怒っていますか?そして、ユーリとエルフィ。今更どうこうしたってどうにもなりませんからね。だからといってシュンとしてどうするのですか。貴方たちは、普段通りが一番可愛いですよ。2人を見ながらそう思っていたらやっと2人が明るい顔になりました。
「DT様。また頭の中で変な妄想していますね」キャロルが私をジロリと見ました。おっと脳内通信はバレているんでしたねえ。
「いえ、美人になったなあと思ったのですが、私がそう思った途端、皆さんが怒りのオーラを私に向けまして」私の言葉にキャロルが一瞬頬を染めて言葉に詰まりました。
「ごほん。そんなことはありません。確かに身長は伸びましたが、あまり変わっていないと思います」そう言ってキャロルは胸を張ります。いや身長以外にも多少は成長していますよね。
「このエロ魔人」アンジーが即言いました。
「キャロルまでエロい目で見ちゃダメ~」エルフィまでもがそう言いますか。
「まったくです」パムが言いました。
「こればかりは擁護できません」ユーリまでそちら側ですか。
「そんな目で見ていたら目がつぶれますよ」メアがたしなめるように言います。
「エッチー」レイそんな言葉いつ覚えたのですか。
「え?え?え?」真っ赤な顔をして下を見るキャロル。こんなキャロル今まで見たことありませんねえ。 ちょっと感動です。
「いい加減にせんか」モーラが本当にどうでもいいと思ってそう言いました。
「まったくもう。で、休暇ならいつまでいられるのかしら?」アンジーが聞いた。
「10日程度と思っていますが、多少長くても良いとは言われています」メアから椅子に座るよう椅子を引かれて座りながらキャロルはそう答えた。
「ヒメツキには言ってあるのか?」モーラが聞いた。
「本当は洞窟に向かうつもりだったのですが、ヒメツキ様にお話ししたところ、来なくてもいいから、DT様の所に行ってきなさいと。そして、せっかく行くのだから、話を聞いてきなさいと言われました」
「何の話を聞いてこいと言われた?」モーラの目が急に険しくなる。
「私の街でも噂になっていました。3千人の兵士とたった一人で戦った魔法使いの話です」キャロルの目が真面目モードです。
「おや?あの時は風の奴しかいなかったか?」モーラは思い出して首をかしげています。
「いえ、ヒメツキ様の縄張りのそばだったので見ていたそうです。ですが全員から一人ずつその話を皆さんの感想込みで聞いて自分の中で整理しなさいと言われました」
「そういう事か。洞窟を一人で守るとなるとそれなりの知識と経験が必要になるかもしれぬからなあ」
「洞窟の件は別にしても、私自身の経験として必要だろうと言われました」
「わかりました。そういえばパムとレイとは数回会っただけで暮らしたことがありませんね。しばらく暮らしてからその話を聞いた方が良いでしょう」私はパムとレイを見た後、キャロルを見て言いました。
「そういうものですか?」キャロルは不思議そうに私を見ています。
「相手の性格や考え方を知らないまま感想を聞いても、それがどういう意味なのか感想なのかわかりませんよ」私は優しい目で言いました。キャロルは素直な生徒さんですからね。
「なるほど」キャロルが頷いています。
「さて、面倒なことは後回しにして今日は居酒屋に行きましょう。キャロルが来ている事を皆さんにお披露目したいですね」私はウキウキしながらそう言いました。
「何を言い出しますか」キャロルがビックリしている。
「おぬしキャロルを見せびらかしたいのであろう?」モーラが私をエロいものを見るような目で見て言いました。
「ああそういうことなのね」アンジーはげんなりしています。
「可愛い子をとっかえひっかえ連れて歩くとまた何か変なあだ名をつけられますよ」メアが心配そうです。ああ、自分がその話を聞かされるのが嫌なのですね。とほほ
「とっかえひっかえとはどう言うことですか?どなたかお客様がいらっしゃいましたか?」メアのその発言だけを聞いて、お客がいた事まで思い至るものでしょうか。ああ、村で何か聞きましたね。
「どうしましょう」私はモーラとアンジーを見て言いました。
「別に言ってもいいんじゃないかしら」アンジーはむしろ聞いた後の反応に興味がありそうです。
「キャロルよ。おぬし的には納得できないかもしれんが、魔族の子が遊びに来てしばらく滞在していたのじゃ」
「魔族ですか?魔族がここに遊びに来ていたのですか?」いつも冷静なキャロルが目を見開いて言いました。
「ああそうじゃ意外か?」
「DT様ですからあり得るとは思いましたが、それはすごいですね。私にとっては倒すべき敵のイメージしかありませんでした。私は出会った事がありませんから、ぜひお会いしてみたかったですね」目が輝いていますよ。あなたはそういう反応をするのですねえ。
「そうか。会ってみたかったか」モーラは意外な反応と思ったようです。
「はい。すでにドラゴン様や天使様、エルフ族の方とはお近づきになっておりますので」
「キャロルは敵とでも話せるのか?」
「会ってみなければ判らない事も多分多いでしょう。DT様がいつも言っていらっしゃいました。人だって良い人もいれば悪い人もいると。魔族もそうではありませんか?」キャロルは当たり前のようにそう答える。
「そうなのよねえ。だから困るのよ」アンジーがため息をついた。
「アンジー様が何か困ることがあるのですか?」
「あなたは知らなかったわね。私が魔族側のスパイなのを」
「魔族側のスパイだったのですか」またまたビックリ顔です。
「だったではなく今もスパイよ。ああ連絡係に降格になったんだったか」アンジーが笑って言った。
「いいんですか?話してしまって」私はキャロルの顔が少しだけ困惑しているのを見てそう言いました。
「あら良い機会じゃない。私たちの置かれている立場を知ってもらって、あまり近づかない方がいいことをわかってもらったほうがね」珍しく辛辣にアンジーが言いました。まあ気持ちはわかりますが。
「アンジー様言いすぎです」メアが釘をさす。
「アンジ一よ。次々とイレギュラーな事が起きてイライラしているのはわかるが、キャロルにそういう言い方しなくてもよかろう。まるで前回の事件の時のこいつのようだぞ」モーラはそう言って私を指さします。
「しまった。こいつに似てきたかしら」露骨に嫌そうな顔をするアンジー。ひどい!
「似てきましたねえ」私はつい余計な事を口にします。
「あんたが言うな」アンジーはどこかから出したのかハリセンで私を叩く。痛くないけど。
「おなかがすきました~」
「おぬしはお酒が飲みたいの間違いじゃろう」
「えへへ~」
「今の話には続きがありますから。中途半端に言っていますが、以前も今も関係は変わっていませんよ」メアがキャロルにそうささやいた。
「はい」キャロルはそう返事をしてみたものの、私達の魔族との関係そしてアンジーが魔族のスパイでしかもまだ続けているとか言われて、頭が混乱しているでしょうね。
そして居酒屋に行って、久しぶりだからといつの間にか飲まされて酔いつぶされたようです。
私は、キャロルを背負って皆さんと家に戻る途中です。
「おぬしも意地悪じゃのう。ライバルは少ないほうが良いか?」モーラがアンジーを見ながら言った。
「それも少しはあるけど、こちら側にはいて欲しくないの。それを知ってもなお付き合っていくのならそれは仕方がないけどね」
「そうなるのか」
「アンジー様。私には「少しはあるけど」が大部分だと思いましたが」メアが辛辣です。
「美人さんになったものね~」いつもなら背負われているエルフィがおとなしくキャロルの顔を覗き込んで様子を見ています。
「本人にその気はないでしょう? 隷属もするつもりもないだろうし」私はアンジーが何を気にしているのかよくわかりませんでした。だってキャロルにとってヒメツキさんが一番なのですから。
「そうじゃな。アンジー考えすぎじゃ」
「そうかしら。いずれにしても知らないで付き合ってショックを受けるよりはいいでしょう?」
「それはそうですねえ」
そうして、川遊びやボードゲームなどをしながら数日が過ぎました。
「キャロルの生真面目さがでていますねえ」私はキャロルを見てそう言いました。
「そうね。いつもならメアの方についていきそうだけどパムとレイに積極的に話しかけているわね」アンジーもヤレヤレと言った感じで言います。
「そこまでしなくてもメイド喫茶の時に話しているであろうになあ」
「あれから身長だけでなく立ち居振る舞いや、物腰、そして考え方もかなり変化していませんか?」私は観察しながらそう呟きます。
「そうじゃな。何があったのかわからんが、体の成長と共に何か掴んだのであろうな」
「まだ早いかと思っていましたが、言わなければならない私達の事を話しておきますか?」
「そうじゃな。今回の事件の話と共にしておくか」
その夜にモーラがこう言いました。私は本人なので地下室に隔離されました。どうしてなのでしょう。
「そろそろあの話を聞いても良いじゃろう。とりあえず概要を一番よく知っているのはパムじゃな」
そうしてキャロルとパムが話を始める。私がいると邪魔だとアンジーに言われて地下室に籠もっています。
「最初からの経過はそんな感じですね。なので私はもっぱら敵の方を監視していました」
「そもそも人と争うことには何かお感じになりましたか」
「私は、ぬし様が戦うのであればやむを得ないと思っていました。でも、ぬし様は殺すことに抵抗がある方なので、多分大丈夫だろうと。ただ、殺さないように戦うことになるかもしれないとは思いましたね」
「殺さないのですね」
「ユーリがよく使う言葉に「不殺」という言葉があります。それはぬし様の心がそうしたいと願っているとユーリは言っていましたね」
「不殺ですか」キャロルがそう言って考え込んだ。
レイは「僕はパムさんと一緒に行動していて、最後に手紙を届けただけなので何も感じませんでした。それと人を殺す事には抵抗はありますよ。魔族とは違って親方様と同じ種族ですから」と話した。
メアも「特に何も感じていませんね。人であろうとご主人様を害する者であれば容赦するつもりもありませんし、殺す事もためらいません。もっとも、ご主人様ならばうまく乗り越えるだろうとは思っていました」と言い切りました。
「その絶対的な服従はどこから来るのでしょうか?」
「私にとってご主人様は絶対だからです。私はホムンクルスなので」メアはいつも通り淡々と話している。
「ああそうでしたね。でも感情があるようにしか見えませんが」
「ありがとうございます。そうありたいと。そうあるようにと、ご主人様からは言われております」
エルフィは「薬草を焼かれたのが悔しくてね~でも~旦那様も立ち直ったし~今は平気かな~。そしてあまり人を殺すとかは~考えたくないけど~ためらいがある訳ではないですけどね~」そう答えた。
そしてアンジーがこう答えた。
「あいつは大したことはしてないわよ。事前に罠を設置していたし、誰でも知っている簡単な魔法しか使っていないのよ。間者が冷静に見ていれば騒ぐほどの事もないのよ。予想外だったのは主任なんたらが気を失った事ね。そのおかげであれがフェイクだと思われなかったことだわ」
「それが問題だったのですか」
「こちらの勝利条件が最小限の魔法を使って、相手を無傷で追っ払っう事だったのよ。各国であいつは脅威じゃなくて、戦力にもならない。でも何か仕掛けると返り討ちに遭うから手を出さない方がいいと思わせたかったの。二度とこんな事をする国を出さないようにしたかっただけなのよ。あとね私は殺すくらいなら逃げるからね」
「なるほど。加減が必要なんですね。ありがとうございました」
モーラは「あやつがその場から消えたように見せたのを転移魔法と勘違いしたのが問題じゃな。ほとんどの間者がそれを見て散っていったからなあ。あやつが転移魔法を使えるという思い込みと言うのはすごいな。これまでは噂だけで使ったことは一切ないのだから。逆に手を出せばいきなり国王を襲うかもしれないと思わせて手は出しにくくなったかも知れぬ。人族ならばそれでよかろう」とモーラは答えた。
最後になったユーリはこう答えた。「人と戦う時ががついに来てしまったのかと思いました。私自身、人が一番問題のある種族だと思っていますが、あるじ様はそれでも希望は捨てていません。幸いあるじ様は誰も殺しませんでしたが、戦闘になった場合、あるじ様に危機が及んでいたら、私は人を殺していたかも知れません」
「不殺という考えであるとお聞きしましたが」
「その考えは、あるじ様からお聞きしたのではなく私が勝手にそうしているだけです。あるじ様からは私自身が死の危険に至った時には迷わずやめるよう言われています。自分の主義で命を落とすなど言語道断と怒られています」
「そうなのですか」
「もう一つ。間者対策ですが、あそこにある遊園地で遊んだでしょう?あれを作ったのはあるじ様なのです。あるじ様の性格の悪さが出ていますよ。最初に家を焼かれた時から方向性を決めて確実に相手のプライドを折りに行っているのです。あの国も間者達も。間者をあそこまでいじめたら、さすがに他の国は越境してまで攻め込む気にはならないでしょう?でもそれは、自分の事よりもビギナギルやファーンを守るためには必要だと思われたからなのでしょうけど」
「ありがとうございました。他には何かお聞かせいただける話はありますか?」
「ユーリ目線ではそうかも知れないけど、あいつは自暴自棄になっていたと思うわよ。丹精込めて作った薬草の苗床を焼かれて、帰ってからエルフィの胸で号泣していたのよ」アンジーが私が聞いていないと思ってぶちまけたらしいです。
「エルフィさんの胸でですか?」キャロルがビックリしています。
「一緒に土地や採光やら湿度やらを検討してやっとベストな場所を見つけてこれからだったらしいからね」ぶっちゃけておきながらアンジーも少し悲しそうです。
「そうなのですよ~それでも旦那様はよく耐えて事件を終わらせましたからね~もっとも暴走しそうになった時は~皆さんで何とか押しとどめました~」
「そうね。最初は盗賊たちを連れて城に乗り込むつもりだったわねえ」
「ああ、しかもわしの背中に乗ってな。むろん乗せはしないが。それでも単独で乗り込んでいたら世界から抹殺されていたであろうがな」
「世界から抹殺ってどうやれば世界から抹殺されるのですか?」
「ああ、世界の脅威として族長会議で決められるのじゃよ」
「族長会議って何ですか?」
「知らなくて当然じゃな。天界、ドラゴン、魔族、魔法使い、ドワーフ、獣人、エルフ他の各種族の長は一堂に会する事が可能でな。こやつがそんな危険な奴だと判明した段階で緊急会議が開催される。そして、会議で討伐対象と認定されて、全種族が共同して攻めてくるわ。その時わしらは共犯とされるかどうかだが、あの時に止められなかったから多少は処罰されていたかもしれんな」モーラは笑って言った。
「処罰されるのですか」
「今では有名無実化しているが、わしは最初、あやつの監視役だったからなあ」
「ええっそうだったのですか?」キャロルは目を大きく開けて口も開けている。
「一緒に暮らしていた時に言っていなかったか」
「言ってなかったわよ。あえて言わなくてもいいのに」
「まあ、アンジーがさっき言ったからなあ、わしもそうじゃ。実際には監視はしていたが里にはなんの報告もしておらぬがな。あとの者は断っているらしいしその話はよい」
「隷属までしているのに・・・スパイですか」頭の上をはてなマークが飛び回っていそうです。
「まあ、その辺はいい。あいつはまずロスティアの城に行って国王を締め上げて王女に王権交代させて、帰ってくるだろうな。そして、緊急族長会議が開催されてあやつの抹殺指令がでるじゃろう」
「しかしあいつは、抹殺命令が宣言されてる間に姿を消して、次々と種族を根絶やしにして歩くわね。「ああ、族長だけ殺していくかも」
「いや、一族の者を殺されたら獣人達なら黙って帰すわけないだろう。全員襲ってくるだろうから結果的に全滅じゃ」
「そう言われればそうだったわね。そして孤狼族、ドワーフ、エルフと回って魔法使いの里ね。当然待ち伏せしているでしょうから、ゲリラのように夜討ち朝駆けで襲うわね」
「ドラゴンと天界はどうするのかのう?」
「襲ってきた敵を一人だけ残して、その頭から場所を特定するんじゃない?」
「ああそれがあるか。魔族が一番問題じゃなあ」
「そこまでくれば自殺覚悟でしょうから魔王城に一気に飛び込んでルシフェル様を殺してから城に籠城するんじゃない?」
「そうかそこまで考えられるか」
「まあそんなところね」
「どうしてそんなところまで考えられますか」
「あやつはわしら家族の誰かひとりでも殺された時にたぶん同じ行動に出るんじゃよ。わしらはいつもそれを想定してその前にどうあやつを抑えるかを考えてしまうのだ」
「家族を殺される前に止めないとあいつは止まらないの。無理なのよ」
「大殺戮になりますね」
「あの男が異世界から来ているのは知っているわよね」
「はい知っています」
「送り込まれた理由がわからないのだけれど。もしかしたらこの世界の壊滅だったかもしれないのよ」
「そうなのですか」
「あくまで可能性の話なのだけれど。記憶があったら、来た時すぐに抹殺されているかもしれないような危険なやつなのよ」
「記憶があったらですか」
「怖いであろう?」
「ええ、まあ」
「この話を聞いて怖くない訳ないわよね」
「でも、そうやって家族だけではなく人でさえも守っているのだとヒメツキ様からは聞いています」
「今回の話はここまでで良いかしら」アンジーはそう言った。
「はい。ありがとうございました。大変参考になりました」
「貴方たちと離れてからこれまでの事を話しておこうと思うのよ。聞いてもらってもいいかしら」
「はい。黒い霧の事件とかは概略は聞かせていただいていますが、詳細までは聞かせてもらっていないので、ぜひ」
「長いわよ」
「いいえ、お聞きしたいです」キャロルは違った意味でも聞きたかったようです。
「話だけで夜が更けていきますよ~」
「そんな事はないわよ」
そうアンジーは言ったが、簡単に話が終わる訳でもなく、本当に夜が更ける頃まで話は終わらなかった。
「あの方は本当にすごい方なのですね。黒い霧事件にしても氷の神殿の話でもとても大変だったと思います」
「そんな事をあいつが聞いたらのぼせ上がるから言っちゃだめよ」
「そうなのですか」
○武器
「久しぶりに運動しますか」ユーリがそう言ってキャロルを見ました。
「何をするのですか?」
「獣狩りです」すでに準備をしているパムはそう言いました。後ろにはエルフィとレイもすでに狩猟の準備をしています。
「それが運動なのですか」
「趣味と実益ですね。さすがに遊んでばかりはいられません」パムが笑って言いました。メアが着替えを持ってキャロルの元に来ました。
「あいにく私は、武器を持って来ていませんが」渡された服を持ってキャロルは言った。
「あいつが昨日の夜に頑張って用意していたわよ。相変わらず研究馬鹿ね」
「私を呼びましたか?」私は玄関の扉を開けて居間に入ってくる。手には一振りの剣を持って。
「馬鹿と言ったら本当に馬鹿が来たわね」
「DT様、それは」
「キャロルの戦闘スタイルに合うように作ってみました。一度使ってみてください」剣の鞘ごとキャロルに渡す。
剣にしてはやや細身のどちらかと言うと日本刀に近い形になっているが、両刃の剣になっている。キャロルは何回か振ってみる。
「使いやすい剣ですね」
「まだ、キャロルの本格的な戦闘スタイルを見たことがないので、まだ中途半端な作品ですが、少し使ってもらって感想を聞かせてください」
「わかりました」
「では皆さん行きますよ~」エルフィ大声で叫んだ。
「おー」
私とモーラとアンジーはお留守番です。
「おぬし本当はもっと良い物が作れたのではないか?」
「イメージはあるのですが、普通の剣を使ってからその剣にいきなり換える違和感がかなりあって、悩んで使えなくなるかもしれません。あえて中途半端な剣にしてみました」
「意地悪なやつじゃなあ」
「そうではないのですよ。段階を踏んで慣れないと変な癖がつきそうなのでダメなんです」
「ただいま帰りました」キャロルは頭を下げて玄関に入ってくる。
「おかえりなさいどうでしたか?」
「明日、ユーリさんとパムさんに訓練をつけてもらおうと思います」キャロルがそう言うとユーリだけが玄関から入って来てこう言った。
「あるじ様お願いがあります」
「なんでしょうか」
「私にも新しい剣を作ってください」
「無理です」
「えーー。しょぼん」
「ユーリの剣は作ったばかりでしょう。馴染んでいないのに早すぎます。なにか問題があったのですか?」
「いえ・・・ありません」
「ユーリ。キャロルが作ってもらってうらやましいのはわかるけど。あきらめなさい」アンジーがぴしゃりと言った。
「トホホ」そう言ってユーリは玄関から出て行った。
「あやつも子どもじゃのう」
「なんで張り合って武器が欲しいとかいうのかしらねえ。女の子ならもっと別な物を欲しがりなさいよ」
「確かにそうじゃなあ」
翌日のユーリとキャロルの訓練でキャロルはその剣を使いこなしています。
「普通の剣よりも使い勝手が良い感じがします。しかも耐久性はすごいですね」タオルで汗を拭きながらキャロルは嬉しそうに言った。
「どうしてそう思いましたか?」
「私が普通の剣を使うとすぐ壊れそうになるのですが、この剣は徐々に力を強くしていっても決して壊れないのです。安心して戦えます」
「これまでは力をセーブしていたのですか」
「はい。もっともまだ狩りには連れて行ってもらっていませんでした。でもこれで狩りに行けそうです」
「余計な事をしてしまいましたかねえ」
「仕方がなかろう。訓練の様子を見て、持たせたい剣を領主あてに送っておけ。何かあった時に使えるようにな」
「そうですね。そうします」
帰るまでに間に合わせようと思ったのですが、結局、間に合わなかったので、グリップと剣の長さを少し長くした物を持たせました。
○休暇明け
「色々とお世話になりました」
「楽しかったのでまた遊びに来てくださいね」
「その時は事前に連絡をしたいのですが、どうしたら良いですか?」
「ビギナギルにいる薬屋さんの魔法使い三を使って連絡するしかないですかねえ」
「エリスが嫌がりそうじゃがそれしかなさそうじゃな」
出発しようとした時にちょっとしたトラブルがありました。馬がキャロルから離れようとしないのです。しかも私の家の馬ではありません。どこから出てきたのでしょうか。
「この子が離れようとしないのです」
「ちょっと待ってね~」
「この子はついて行きたいみたいですよ~」
「ですが私は馬に乗れません」
「わかりました。ユーリパムレイよろしくお願いします」
「責任を持って送り届けます」3人とも敬礼しないように。
「えええええ」
「名前はどうしますか~」
「名はテンですね」
「どうしてですか?」
「あんた、クウカイときたらリクじゃないの?」
「うちの馬ではないので・・・天地人でいこうかと」
「うんうんそれで良いって~」
Appendix
あんた達。短い間だったけどありがとうね。しかも送らせてしまって
まあ、あの子をちゃんと乗せるんやで
当然よ
また来る事になるやろ遊びに来いや
ああそうするわ。あの草は良い草だったからね
メシが良かったか。まあ元気でな
あんた達もね
続く
「外に出た時に、村の中にキャロルの気配がしましたよ~」エルフィが楽しそうです。
「おや、これまた結界が邪魔をして家に来られませんね」
「ユーリすまんが迎えに行ってきてくれぬか」
「はい」
エーネの時のように泣いてはいませんでしたが、途方に暮れたキャロルが荷物を抱えて家の前に立っていました。
「いらっしゃいキャロル」
「事前に連絡もせず突然お邪魔して申し訳ありませんでした」キャロルは丁寧にお辞儀をした。さらに
「しかし、これまでは普通の人は玄関にたどり着けていたと思いますが」キャロルがちょっと口調がきついです。もしかして怒っていますか?
「色々あってなあ。結界を強化したのだよ」モーラがほとんど同じ事を言いました。
「色々ですか?」キャロルは玄関に荷物を置いてそして帽子を取りながら言いました。
「それにしてもどうしたのですか急に」私は椅子に座ったまま聞きました。
「実は領主様からお暇をいただきました」キャロルはそう言って頭を下げる。
「メイドを辞めたのですか?」私は椅子から飛び上がりそうになりそう言いました。
「ああ、そうではありません。休暇をいただきました」キャロルは私を見て嬉しそうに言いました。
「あそこの領主が手放す訳ないでしょう?あんたも早とちりねえ」アンジーが私を冷たい目で見て言いました。馬鹿にしてますよねえ。
「ああ確かにそうじゃな」モーラもビックリしていますから、モーラも思ったのではないでしょうか。
「キャロル。何を笑っているのですか?」メアがキャロルが少し微笑んだのを見て言いました。
「メイド長様からそう言えと言われておりました。きっと受けるだろうと」キャロルは口元を押さえて笑いをこらえています。
「確かにあの方なら言いそうですね」メアが苦笑いをしています。
「はい。 バッチリです」キャロルは嬉しそうに笑って言った。
「おぬし変わったな。違うか。やっと本来の姿になったのか」モーラもビックリしながら言いました。
「領主様の所でもヒメツキ様の前でもちゃんとしていなければなりませんから」そう言ったキャロルは真面目な顔に戻っています。
「私たちの前ではいいのね」アンジーがあきれている。
「はい。家族ですから」キャロルは少しだけはにかんで笑って言った。ああ、表情がクルクル変化して可愛いですねえ。
「エルフィとユーリがポカンとしておるな。どうした二人とも」モーラが2人の心の動きに反応したようです。
「だってキャロルが変ですよー」ユーリがキャロルを見ながらそう言いました。
「そうです~一緒に暮らしていた時の~キャロルはどこに~」エルフィはそう言って、ユーリと2人でオロオロしています。
まあ女の子の成長はあっという間ですからねえ。前よりもっさらに身長も伸びて、一段と美人になってしまいました。仕草とかが急に女の子っぽ・・・く。おや皆さんの私を見る目がちょっと怒っていますか?そして、ユーリとエルフィ。今更どうこうしたってどうにもなりませんからね。だからといってシュンとしてどうするのですか。貴方たちは、普段通りが一番可愛いですよ。2人を見ながらそう思っていたらやっと2人が明るい顔になりました。
「DT様。また頭の中で変な妄想していますね」キャロルが私をジロリと見ました。おっと脳内通信はバレているんでしたねえ。
「いえ、美人になったなあと思ったのですが、私がそう思った途端、皆さんが怒りのオーラを私に向けまして」私の言葉にキャロルが一瞬頬を染めて言葉に詰まりました。
「ごほん。そんなことはありません。確かに身長は伸びましたが、あまり変わっていないと思います」そう言ってキャロルは胸を張ります。いや身長以外にも多少は成長していますよね。
「このエロ魔人」アンジーが即言いました。
「キャロルまでエロい目で見ちゃダメ~」エルフィまでもがそう言いますか。
「まったくです」パムが言いました。
「こればかりは擁護できません」ユーリまでそちら側ですか。
「そんな目で見ていたら目がつぶれますよ」メアがたしなめるように言います。
「エッチー」レイそんな言葉いつ覚えたのですか。
「え?え?え?」真っ赤な顔をして下を見るキャロル。こんなキャロル今まで見たことありませんねえ。 ちょっと感動です。
「いい加減にせんか」モーラが本当にどうでもいいと思ってそう言いました。
「まったくもう。で、休暇ならいつまでいられるのかしら?」アンジーが聞いた。
「10日程度と思っていますが、多少長くても良いとは言われています」メアから椅子に座るよう椅子を引かれて座りながらキャロルはそう答えた。
「ヒメツキには言ってあるのか?」モーラが聞いた。
「本当は洞窟に向かうつもりだったのですが、ヒメツキ様にお話ししたところ、来なくてもいいから、DT様の所に行ってきなさいと。そして、せっかく行くのだから、話を聞いてきなさいと言われました」
「何の話を聞いてこいと言われた?」モーラの目が急に険しくなる。
「私の街でも噂になっていました。3千人の兵士とたった一人で戦った魔法使いの話です」キャロルの目が真面目モードです。
「おや?あの時は風の奴しかいなかったか?」モーラは思い出して首をかしげています。
「いえ、ヒメツキ様の縄張りのそばだったので見ていたそうです。ですが全員から一人ずつその話を皆さんの感想込みで聞いて自分の中で整理しなさいと言われました」
「そういう事か。洞窟を一人で守るとなるとそれなりの知識と経験が必要になるかもしれぬからなあ」
「洞窟の件は別にしても、私自身の経験として必要だろうと言われました」
「わかりました。そういえばパムとレイとは数回会っただけで暮らしたことがありませんね。しばらく暮らしてからその話を聞いた方が良いでしょう」私はパムとレイを見た後、キャロルを見て言いました。
「そういうものですか?」キャロルは不思議そうに私を見ています。
「相手の性格や考え方を知らないまま感想を聞いても、それがどういう意味なのか感想なのかわかりませんよ」私は優しい目で言いました。キャロルは素直な生徒さんですからね。
「なるほど」キャロルが頷いています。
「さて、面倒なことは後回しにして今日は居酒屋に行きましょう。キャロルが来ている事を皆さんにお披露目したいですね」私はウキウキしながらそう言いました。
「何を言い出しますか」キャロルがビックリしている。
「おぬしキャロルを見せびらかしたいのであろう?」モーラが私をエロいものを見るような目で見て言いました。
「ああそういうことなのね」アンジーはげんなりしています。
「可愛い子をとっかえひっかえ連れて歩くとまた何か変なあだ名をつけられますよ」メアが心配そうです。ああ、自分がその話を聞かされるのが嫌なのですね。とほほ
「とっかえひっかえとはどう言うことですか?どなたかお客様がいらっしゃいましたか?」メアのその発言だけを聞いて、お客がいた事まで思い至るものでしょうか。ああ、村で何か聞きましたね。
「どうしましょう」私はモーラとアンジーを見て言いました。
「別に言ってもいいんじゃないかしら」アンジーはむしろ聞いた後の反応に興味がありそうです。
「キャロルよ。おぬし的には納得できないかもしれんが、魔族の子が遊びに来てしばらく滞在していたのじゃ」
「魔族ですか?魔族がここに遊びに来ていたのですか?」いつも冷静なキャロルが目を見開いて言いました。
「ああそうじゃ意外か?」
「DT様ですからあり得るとは思いましたが、それはすごいですね。私にとっては倒すべき敵のイメージしかありませんでした。私は出会った事がありませんから、ぜひお会いしてみたかったですね」目が輝いていますよ。あなたはそういう反応をするのですねえ。
「そうか。会ってみたかったか」モーラは意外な反応と思ったようです。
「はい。すでにドラゴン様や天使様、エルフ族の方とはお近づきになっておりますので」
「キャロルは敵とでも話せるのか?」
「会ってみなければ判らない事も多分多いでしょう。DT様がいつも言っていらっしゃいました。人だって良い人もいれば悪い人もいると。魔族もそうではありませんか?」キャロルは当たり前のようにそう答える。
「そうなのよねえ。だから困るのよ」アンジーがため息をついた。
「アンジー様が何か困ることがあるのですか?」
「あなたは知らなかったわね。私が魔族側のスパイなのを」
「魔族側のスパイだったのですか」またまたビックリ顔です。
「だったではなく今もスパイよ。ああ連絡係に降格になったんだったか」アンジーが笑って言った。
「いいんですか?話してしまって」私はキャロルの顔が少しだけ困惑しているのを見てそう言いました。
「あら良い機会じゃない。私たちの置かれている立場を知ってもらって、あまり近づかない方がいいことをわかってもらったほうがね」珍しく辛辣にアンジーが言いました。まあ気持ちはわかりますが。
「アンジー様言いすぎです」メアが釘をさす。
「アンジ一よ。次々とイレギュラーな事が起きてイライラしているのはわかるが、キャロルにそういう言い方しなくてもよかろう。まるで前回の事件の時のこいつのようだぞ」モーラはそう言って私を指さします。
「しまった。こいつに似てきたかしら」露骨に嫌そうな顔をするアンジー。ひどい!
「似てきましたねえ」私はつい余計な事を口にします。
「あんたが言うな」アンジーはどこかから出したのかハリセンで私を叩く。痛くないけど。
「おなかがすきました~」
「おぬしはお酒が飲みたいの間違いじゃろう」
「えへへ~」
「今の話には続きがありますから。中途半端に言っていますが、以前も今も関係は変わっていませんよ」メアがキャロルにそうささやいた。
「はい」キャロルはそう返事をしてみたものの、私達の魔族との関係そしてアンジーが魔族のスパイでしかもまだ続けているとか言われて、頭が混乱しているでしょうね。
そして居酒屋に行って、久しぶりだからといつの間にか飲まされて酔いつぶされたようです。
私は、キャロルを背負って皆さんと家に戻る途中です。
「おぬしも意地悪じゃのう。ライバルは少ないほうが良いか?」モーラがアンジーを見ながら言った。
「それも少しはあるけど、こちら側にはいて欲しくないの。それを知ってもなお付き合っていくのならそれは仕方がないけどね」
「そうなるのか」
「アンジー様。私には「少しはあるけど」が大部分だと思いましたが」メアが辛辣です。
「美人さんになったものね~」いつもなら背負われているエルフィがおとなしくキャロルの顔を覗き込んで様子を見ています。
「本人にその気はないでしょう? 隷属もするつもりもないだろうし」私はアンジーが何を気にしているのかよくわかりませんでした。だってキャロルにとってヒメツキさんが一番なのですから。
「そうじゃな。アンジー考えすぎじゃ」
「そうかしら。いずれにしても知らないで付き合ってショックを受けるよりはいいでしょう?」
「それはそうですねえ」
そうして、川遊びやボードゲームなどをしながら数日が過ぎました。
「キャロルの生真面目さがでていますねえ」私はキャロルを見てそう言いました。
「そうね。いつもならメアの方についていきそうだけどパムとレイに積極的に話しかけているわね」アンジーもヤレヤレと言った感じで言います。
「そこまでしなくてもメイド喫茶の時に話しているであろうになあ」
「あれから身長だけでなく立ち居振る舞いや、物腰、そして考え方もかなり変化していませんか?」私は観察しながらそう呟きます。
「そうじゃな。何があったのかわからんが、体の成長と共に何か掴んだのであろうな」
「まだ早いかと思っていましたが、言わなければならない私達の事を話しておきますか?」
「そうじゃな。今回の事件の話と共にしておくか」
その夜にモーラがこう言いました。私は本人なので地下室に隔離されました。どうしてなのでしょう。
「そろそろあの話を聞いても良いじゃろう。とりあえず概要を一番よく知っているのはパムじゃな」
そうしてキャロルとパムが話を始める。私がいると邪魔だとアンジーに言われて地下室に籠もっています。
「最初からの経過はそんな感じですね。なので私はもっぱら敵の方を監視していました」
「そもそも人と争うことには何かお感じになりましたか」
「私は、ぬし様が戦うのであればやむを得ないと思っていました。でも、ぬし様は殺すことに抵抗がある方なので、多分大丈夫だろうと。ただ、殺さないように戦うことになるかもしれないとは思いましたね」
「殺さないのですね」
「ユーリがよく使う言葉に「不殺」という言葉があります。それはぬし様の心がそうしたいと願っているとユーリは言っていましたね」
「不殺ですか」キャロルがそう言って考え込んだ。
レイは「僕はパムさんと一緒に行動していて、最後に手紙を届けただけなので何も感じませんでした。それと人を殺す事には抵抗はありますよ。魔族とは違って親方様と同じ種族ですから」と話した。
メアも「特に何も感じていませんね。人であろうとご主人様を害する者であれば容赦するつもりもありませんし、殺す事もためらいません。もっとも、ご主人様ならばうまく乗り越えるだろうとは思っていました」と言い切りました。
「その絶対的な服従はどこから来るのでしょうか?」
「私にとってご主人様は絶対だからです。私はホムンクルスなので」メアはいつも通り淡々と話している。
「ああそうでしたね。でも感情があるようにしか見えませんが」
「ありがとうございます。そうありたいと。そうあるようにと、ご主人様からは言われております」
エルフィは「薬草を焼かれたのが悔しくてね~でも~旦那様も立ち直ったし~今は平気かな~。そしてあまり人を殺すとかは~考えたくないけど~ためらいがある訳ではないですけどね~」そう答えた。
そしてアンジーがこう答えた。
「あいつは大したことはしてないわよ。事前に罠を設置していたし、誰でも知っている簡単な魔法しか使っていないのよ。間者が冷静に見ていれば騒ぐほどの事もないのよ。予想外だったのは主任なんたらが気を失った事ね。そのおかげであれがフェイクだと思われなかったことだわ」
「それが問題だったのですか」
「こちらの勝利条件が最小限の魔法を使って、相手を無傷で追っ払っう事だったのよ。各国であいつは脅威じゃなくて、戦力にもならない。でも何か仕掛けると返り討ちに遭うから手を出さない方がいいと思わせたかったの。二度とこんな事をする国を出さないようにしたかっただけなのよ。あとね私は殺すくらいなら逃げるからね」
「なるほど。加減が必要なんですね。ありがとうございました」
モーラは「あやつがその場から消えたように見せたのを転移魔法と勘違いしたのが問題じゃな。ほとんどの間者がそれを見て散っていったからなあ。あやつが転移魔法を使えるという思い込みと言うのはすごいな。これまでは噂だけで使ったことは一切ないのだから。逆に手を出せばいきなり国王を襲うかもしれないと思わせて手は出しにくくなったかも知れぬ。人族ならばそれでよかろう」とモーラは答えた。
最後になったユーリはこう答えた。「人と戦う時ががついに来てしまったのかと思いました。私自身、人が一番問題のある種族だと思っていますが、あるじ様はそれでも希望は捨てていません。幸いあるじ様は誰も殺しませんでしたが、戦闘になった場合、あるじ様に危機が及んでいたら、私は人を殺していたかも知れません」
「不殺という考えであるとお聞きしましたが」
「その考えは、あるじ様からお聞きしたのではなく私が勝手にそうしているだけです。あるじ様からは私自身が死の危険に至った時には迷わずやめるよう言われています。自分の主義で命を落とすなど言語道断と怒られています」
「そうなのですか」
「もう一つ。間者対策ですが、あそこにある遊園地で遊んだでしょう?あれを作ったのはあるじ様なのです。あるじ様の性格の悪さが出ていますよ。最初に家を焼かれた時から方向性を決めて確実に相手のプライドを折りに行っているのです。あの国も間者達も。間者をあそこまでいじめたら、さすがに他の国は越境してまで攻め込む気にはならないでしょう?でもそれは、自分の事よりもビギナギルやファーンを守るためには必要だと思われたからなのでしょうけど」
「ありがとうございました。他には何かお聞かせいただける話はありますか?」
「ユーリ目線ではそうかも知れないけど、あいつは自暴自棄になっていたと思うわよ。丹精込めて作った薬草の苗床を焼かれて、帰ってからエルフィの胸で号泣していたのよ」アンジーが私が聞いていないと思ってぶちまけたらしいです。
「エルフィさんの胸でですか?」キャロルがビックリしています。
「一緒に土地や採光やら湿度やらを検討してやっとベストな場所を見つけてこれからだったらしいからね」ぶっちゃけておきながらアンジーも少し悲しそうです。
「そうなのですよ~それでも旦那様はよく耐えて事件を終わらせましたからね~もっとも暴走しそうになった時は~皆さんで何とか押しとどめました~」
「そうね。最初は盗賊たちを連れて城に乗り込むつもりだったわねえ」
「ああ、しかもわしの背中に乗ってな。むろん乗せはしないが。それでも単独で乗り込んでいたら世界から抹殺されていたであろうがな」
「世界から抹殺ってどうやれば世界から抹殺されるのですか?」
「ああ、世界の脅威として族長会議で決められるのじゃよ」
「族長会議って何ですか?」
「知らなくて当然じゃな。天界、ドラゴン、魔族、魔法使い、ドワーフ、獣人、エルフ他の各種族の長は一堂に会する事が可能でな。こやつがそんな危険な奴だと判明した段階で緊急会議が開催される。そして、会議で討伐対象と認定されて、全種族が共同して攻めてくるわ。その時わしらは共犯とされるかどうかだが、あの時に止められなかったから多少は処罰されていたかもしれんな」モーラは笑って言った。
「処罰されるのですか」
「今では有名無実化しているが、わしは最初、あやつの監視役だったからなあ」
「ええっそうだったのですか?」キャロルは目を大きく開けて口も開けている。
「一緒に暮らしていた時に言っていなかったか」
「言ってなかったわよ。あえて言わなくてもいいのに」
「まあ、アンジーがさっき言ったからなあ、わしもそうじゃ。実際には監視はしていたが里にはなんの報告もしておらぬがな。あとの者は断っているらしいしその話はよい」
「隷属までしているのに・・・スパイですか」頭の上をはてなマークが飛び回っていそうです。
「まあ、その辺はいい。あいつはまずロスティアの城に行って国王を締め上げて王女に王権交代させて、帰ってくるだろうな。そして、緊急族長会議が開催されてあやつの抹殺指令がでるじゃろう」
「しかしあいつは、抹殺命令が宣言されてる間に姿を消して、次々と種族を根絶やしにして歩くわね。「ああ、族長だけ殺していくかも」
「いや、一族の者を殺されたら獣人達なら黙って帰すわけないだろう。全員襲ってくるだろうから結果的に全滅じゃ」
「そう言われればそうだったわね。そして孤狼族、ドワーフ、エルフと回って魔法使いの里ね。当然待ち伏せしているでしょうから、ゲリラのように夜討ち朝駆けで襲うわね」
「ドラゴンと天界はどうするのかのう?」
「襲ってきた敵を一人だけ残して、その頭から場所を特定するんじゃない?」
「ああそれがあるか。魔族が一番問題じゃなあ」
「そこまでくれば自殺覚悟でしょうから魔王城に一気に飛び込んでルシフェル様を殺してから城に籠城するんじゃない?」
「そうかそこまで考えられるか」
「まあそんなところね」
「どうしてそんなところまで考えられますか」
「あやつはわしら家族の誰かひとりでも殺された時にたぶん同じ行動に出るんじゃよ。わしらはいつもそれを想定してその前にどうあやつを抑えるかを考えてしまうのだ」
「家族を殺される前に止めないとあいつは止まらないの。無理なのよ」
「大殺戮になりますね」
「あの男が異世界から来ているのは知っているわよね」
「はい知っています」
「送り込まれた理由がわからないのだけれど。もしかしたらこの世界の壊滅だったかもしれないのよ」
「そうなのですか」
「あくまで可能性の話なのだけれど。記憶があったら、来た時すぐに抹殺されているかもしれないような危険なやつなのよ」
「記憶があったらですか」
「怖いであろう?」
「ええ、まあ」
「この話を聞いて怖くない訳ないわよね」
「でも、そうやって家族だけではなく人でさえも守っているのだとヒメツキ様からは聞いています」
「今回の話はここまでで良いかしら」アンジーはそう言った。
「はい。ありがとうございました。大変参考になりました」
「貴方たちと離れてからこれまでの事を話しておこうと思うのよ。聞いてもらってもいいかしら」
「はい。黒い霧の事件とかは概略は聞かせていただいていますが、詳細までは聞かせてもらっていないので、ぜひ」
「長いわよ」
「いいえ、お聞きしたいです」キャロルは違った意味でも聞きたかったようです。
「話だけで夜が更けていきますよ~」
「そんな事はないわよ」
そうアンジーは言ったが、簡単に話が終わる訳でもなく、本当に夜が更ける頃まで話は終わらなかった。
「あの方は本当にすごい方なのですね。黒い霧事件にしても氷の神殿の話でもとても大変だったと思います」
「そんな事をあいつが聞いたらのぼせ上がるから言っちゃだめよ」
「そうなのですか」
○武器
「久しぶりに運動しますか」ユーリがそう言ってキャロルを見ました。
「何をするのですか?」
「獣狩りです」すでに準備をしているパムはそう言いました。後ろにはエルフィとレイもすでに狩猟の準備をしています。
「それが運動なのですか」
「趣味と実益ですね。さすがに遊んでばかりはいられません」パムが笑って言いました。メアが着替えを持ってキャロルの元に来ました。
「あいにく私は、武器を持って来ていませんが」渡された服を持ってキャロルは言った。
「あいつが昨日の夜に頑張って用意していたわよ。相変わらず研究馬鹿ね」
「私を呼びましたか?」私は玄関の扉を開けて居間に入ってくる。手には一振りの剣を持って。
「馬鹿と言ったら本当に馬鹿が来たわね」
「DT様、それは」
「キャロルの戦闘スタイルに合うように作ってみました。一度使ってみてください」剣の鞘ごとキャロルに渡す。
剣にしてはやや細身のどちらかと言うと日本刀に近い形になっているが、両刃の剣になっている。キャロルは何回か振ってみる。
「使いやすい剣ですね」
「まだ、キャロルの本格的な戦闘スタイルを見たことがないので、まだ中途半端な作品ですが、少し使ってもらって感想を聞かせてください」
「わかりました」
「では皆さん行きますよ~」エルフィ大声で叫んだ。
「おー」
私とモーラとアンジーはお留守番です。
「おぬし本当はもっと良い物が作れたのではないか?」
「イメージはあるのですが、普通の剣を使ってからその剣にいきなり換える違和感がかなりあって、悩んで使えなくなるかもしれません。あえて中途半端な剣にしてみました」
「意地悪なやつじゃなあ」
「そうではないのですよ。段階を踏んで慣れないと変な癖がつきそうなのでダメなんです」
「ただいま帰りました」キャロルは頭を下げて玄関に入ってくる。
「おかえりなさいどうでしたか?」
「明日、ユーリさんとパムさんに訓練をつけてもらおうと思います」キャロルがそう言うとユーリだけが玄関から入って来てこう言った。
「あるじ様お願いがあります」
「なんでしょうか」
「私にも新しい剣を作ってください」
「無理です」
「えーー。しょぼん」
「ユーリの剣は作ったばかりでしょう。馴染んでいないのに早すぎます。なにか問題があったのですか?」
「いえ・・・ありません」
「ユーリ。キャロルが作ってもらってうらやましいのはわかるけど。あきらめなさい」アンジーがぴしゃりと言った。
「トホホ」そう言ってユーリは玄関から出て行った。
「あやつも子どもじゃのう」
「なんで張り合って武器が欲しいとかいうのかしらねえ。女の子ならもっと別な物を欲しがりなさいよ」
「確かにそうじゃなあ」
翌日のユーリとキャロルの訓練でキャロルはその剣を使いこなしています。
「普通の剣よりも使い勝手が良い感じがします。しかも耐久性はすごいですね」タオルで汗を拭きながらキャロルは嬉しそうに言った。
「どうしてそう思いましたか?」
「私が普通の剣を使うとすぐ壊れそうになるのですが、この剣は徐々に力を強くしていっても決して壊れないのです。安心して戦えます」
「これまでは力をセーブしていたのですか」
「はい。もっともまだ狩りには連れて行ってもらっていませんでした。でもこれで狩りに行けそうです」
「余計な事をしてしまいましたかねえ」
「仕方がなかろう。訓練の様子を見て、持たせたい剣を領主あてに送っておけ。何かあった時に使えるようにな」
「そうですね。そうします」
帰るまでに間に合わせようと思ったのですが、結局、間に合わなかったので、グリップと剣の長さを少し長くした物を持たせました。
○休暇明け
「色々とお世話になりました」
「楽しかったのでまた遊びに来てくださいね」
「その時は事前に連絡をしたいのですが、どうしたら良いですか?」
「ビギナギルにいる薬屋さんの魔法使い三を使って連絡するしかないですかねえ」
「エリスが嫌がりそうじゃがそれしかなさそうじゃな」
出発しようとした時にちょっとしたトラブルがありました。馬がキャロルから離れようとしないのです。しかも私の家の馬ではありません。どこから出てきたのでしょうか。
「この子が離れようとしないのです」
「ちょっと待ってね~」
「この子はついて行きたいみたいですよ~」
「ですが私は馬に乗れません」
「わかりました。ユーリパムレイよろしくお願いします」
「責任を持って送り届けます」3人とも敬礼しないように。
「えええええ」
「名前はどうしますか~」
「名はテンですね」
「どうしてですか?」
「あんた、クウカイときたらリクじゃないの?」
「うちの馬ではないので・・・天地人でいこうかと」
「うんうんそれで良いって~」
Appendix
あんた達。短い間だったけどありがとうね。しかも送らせてしまって
まあ、あの子をちゃんと乗せるんやで
当然よ
また来る事になるやろ遊びに来いや
ああそうするわ。あの草は良い草だったからね
メシが良かったか。まあ元気でな
あんた達もね
続く
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―作品について―
完結しました。
全302話(プロローグ、エピローグ含む),約100万字。
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