上 下
112 / 229
第21話 3,000vs1

第21-6話 お久しぶりですDT様

しおりを挟む
○書状が届く
 私とメアがエリスさんの薬屋に薬草を届けに行ったところ、私宛の書状が一通届いていました。
「私はあなた宛の私書箱じゃないのだけれど」そう言いながらエリスさんは私に封書を渡してきた。
「いつもすいませんね。連絡手段が他にないものですから」私はその封書を裏返して名前を見る。名前ではなく封蝋がしてあり、サインはA.Kusabukaとなっていた。はてこのようなお名前に見覚えも聞き覚えもありません。面倒そうなので破り捨てようかと思い、両手に力を込めたところ。
「ご主人様おやめください」メアが私の手をとめた。
「得体の知れない郵便物は破棄するのが一番ですよ」私は経験則からそう言いました。
「知らないとはいえあんたも大胆ねえ。それは元魔王様からの手紙よ。封蝋みればわかるでしょう?」エリスさんがそう言って私をあざ笑った。いや、あなたこそ何で知っているんですか。
「そんな事、私は知りませんよ。でも仕方がありませんね。受け取らなかったことに・・」
「ご主人様それはいけません。あの子からの手紙かもしれませんので。その厚さからして家族宛の手紙も入っていると思われます」メアが私を諫めるようにそう言った。
「わかりました。では持ち帰ります」渋々私はその手紙を・・・メアに渡した。
「その手紙には気をつけなさい。あなた以外が開封しようとすると何か仕掛けがしてあるかもしれないわよ。必ずあなたが開封することね」エリスさんが楽しそうに言いました。
 私はメアからその手紙を受け取るとポケットにしまい込みました。肩がガックリと落ちています。私にとって手紙とは、あの世界にいた時から嫌なものでしかないのです。開けたらロクでもない事に巻き込まれる事になるように、私の世界は回っているのです。
 皆さんと合流して買い物を済ませて、家路につきました。皆さんは期待にワクワクして私が家に到着してその手紙を開封するのを心待ちにしているのです。
 そもそもこの世界に手紙という文化・通信手段は普及していません。紙はそもそも契約とか重要な事にしか使わないのです。この子達は、エルフィが里に戻された時くらいにしか見たことがないので、興味深々なのはわかります。私と他に3人ほどは少しだけ不安そうな顔で歩いています。ええ、モーラとアンジーそしてパムです。
「あんた内容を想像してみたのかしら」モーラと二人で前を歩いていたアンジーが元気なく私に尋ねる。
 陽気な皆さんは先に走って家に向かっていて、ダラダラ歩いているのは4人だけです。メアも私達の歩く速度が遅すぎて先に行ってしまいました。
「余り考えたくないのですが・・・」私にとっては内容よりも手紙へのトラウマが蘇っていてそれどころではありません。
「そうだよなあ。想像できるよなあ。なあパム」モーラが私の隣を歩いていたパムに振り向いてそう聞いた。
「はい。多分その通りかと」パムも予想していたらしいです。
「タイミング的にもバッチリなのよねえ」アンジーが深くため息をついてそう言いました。
「皆様居間でお待ちです。お急ぎください」メアが玄関前で待ち構えていた。
 玄関を入るなり、アンジーが言った。
「あんた達!手紙の中身を楽しみにしているようだけど、何が書いているかわからないのよ!」その言葉に全員がシュンとなる。アンジー八つ当たりはやめましょう。
「アンジーも予想はついておるのじゃろう?なら楽しい話じゃないか」モーラが少し自嘲気味にそう言った。
「そうなのですか?」ユーリとレイが目をキラキラさせている。その純粋さが眩しい。
「そんなのわからないでしょ」アンジーが横を向いた。
「旦那様~早く~早く~」エルフィ。私が席についた途端背中に胸をグイグイ押しつけるのはやめなさい。手紙にうまく触れません。
「どうすれば開くのでしょうか?」私は封蝋とにらめっこしています。ああ、魔法が視えました。
「封蝋に触れなさい」アンジーがそっぽを向きながら言いました。さすがに知っているのですねえ。私は封蝋に触れました。色が赤から白に変わって溶けて無くなりました。私は、メアから渡されたペーパーナイフで封筒の封を切り、中から手紙を取り出しました。あれ?家にペーパーナイフなんてありましたっけ?これは本物のナイフではありませんか。ああ、暗器ですね。
「ふむ。拝啓。皆様いかがお過ごしでしょうか。先日は色々と~」おおう、感謝の礼状だったようです。しばらくはお礼が続きましたので、口に出しませんでした。
「フンフン。おや1枚目は礼状で終わりましたねえ」私の言葉に期待して目を輝かせていた人達はちょっと肩を落としています。
「2枚目ですが。あの子がここに遊びに来たいそうですよ」
「わ~い」3人ほど椅子から飛び上がり嬉しそうにはしゃいでいます。
「想像通りね」
「ああそうじゃ」
「意外に保ちましたね」パムが言った
「そうも言えるわね」アンジーはそう言って、はしゃいでいる3人を見ている。
「どうやってこちらに来るつもりなのでしょうか?」
「もしかして!!」アンジーが手紙を私の手からひったくりました。ざっと速読して最後の1枚を見てワナワナ震えています。
「到着の日付が今日じゃない!!やられたわ!!」アンジーが手紙を握りつぶそうとしてメアに止められ奪われた。メアは全部の手紙にさっと目を通してから私に戻した。
「なるほどな。これは魔法使いの里なのか?元魔王の仕業か?」
「あんのバカ元魔王のバカ妻めえええええ」アンジーが立ち上がって天に向かって吠えている。
「あ、雨が降ってきましたよ~」浮かれていたはずのエルフィが真面目な顔になった。そういえば、最近雨の時期が少しだけずれていましたね。

○同時刻
 私は浮かれていた。急に玄関を叩いてビックリさせるんだと楽しくなっていた。ワクワクしながら親衛隊の人に連れられて、この村に到着した。私は親衛隊の人に「ここまででありがとうございました」と言って、私はあの家を目指した。家は見えている。でもいつの間にか通り過ぎている。何度か往復しても、どうやっても家を見つけられない。途方に暮れて、最後にはなぜか涙が出てきた。
 お母様にこのサプライズをお願いして、お母様が嬉しそうに賛成してくれて、ここに到着したはずだった。でも家に辿り着けずにどうしていいかわからなくなっていた。そのうちに雨が降り出した。急に強い雨が降り出した。ずぶ濡れだ。どうして良いかわからず、そこにたたずんだまま雨に打たれている。
 村に入って誰かに尋ねた方が良いのか?でもこの前来た時に迷惑を掛けているから村の中には入りづらい。ましてや前回だって魔族だと言うだけですごい騒ぎになった。あの時の事を思い出してさらに心細くなり涙がとまらない。
「エーネ!!」私の名前を呼ぶ声がする。ハッとして後ろを振り向く。雨の中ユーリさんが私に向かって走ってくる。レイも一緒だ。私は2人に向かって走り出した。獣化したレイが私に飛びつき、ユーリが私を抱きしめてくれた。嬉しい。本当に嬉しかった。
「ユーリさんレイさん」私がそう呼んだ後、3人で抱き合っていた。3人でどの位の時間そうしていたのだろう。
「3人とも家に入りなさい。体が冷えますよ」ああ、メアさんの声だ。ユーリが私の手を取り、レイが横を歩いて家まで到着した。いままでどんなに探しても到着しなかった家に入ることができた。

○ご到着
 ユーリとレイが飛び出して行き、その子を連れて戻って来た。メアが誘導してくれたおかげで家に入ることができた。3人は嬉しそうにしていて、ずぶ濡れのその子と一緒に脱衣所に行って、3人でお風呂に入ったようです。嬉しそうな声が居間にまで聞こえてきました。
「まったく。わしらのことを何も知らんのにどうしてそんなに甘いのかのう」モーラが苦虫を噛み潰したような顔をして言いました。
「魔族は絶対に入れないようにしてあるというのに、ひとりで訪問させるとか。無謀としか言いようがありませんよ」私はそう言いました。事前に連絡をしてくれていれば泣かせることなどしなくてすんだのですから。
「でも、魔族や魔法使いは逆に誘導して罠にはめるのではなかったのですか?」パムが不思議そうに尋ねます。
「魔族も魔法使いも入れないようにしてあったのですよ」私はボンヤリとそう言いました。
「あんた。今回のロスティアの件で単に戻し忘れただけじゃないの?」
「そうとも言います」てへ。あの子が無事で良かったです。
「まあ結果的に良かったがなあ」モーラが私の方を見てそう言いました。
「やっぱり来ちゃったのねえ」アンジーがポツリと言いました。
 アンジーもおそらくはモーラもパムも予想していたのでしょう。彼女にとって新しい里は、友達も少なく、そしてつまらない。一度本当に心が開ける相手と出会ってしまったら恋しくなる。その気持ちは後戻りできないものだと。
 お風呂からあがって、ニコニコ顔のその子とその両隣に座ってニコニコ笑っているユーリとレイを見ながら、その子から差し出された手紙を開封する。もちろん封蝋などはされていない。
「しばらくこの子をよろしくお願いいたします。できれば人の知識。特に読み書き計算を教えていただきたいのです。それと文化と慣習なども出来ればお願いいたします」私は2回ほど繰り返し読んだ後、隣に座っていたアンジーに渡しました。アンジーはサラッと読んで私の反対隣に座っているモーラに、察したメアがモーラから手紙を受け取ってパムにそしてエルフィに渡した。ユーリとレイを除いて全員がそれを読んだ後、私は言いました。
「お名前はエーネさんでいいですか?」
「はい。エーネと呼び捨てでお願いします」まぶしいほどの笑顔です。
「では、エーネ。この手紙の中身はご存じですか?」
「いいえ。お母さまからは、この手紙に書いてお願いするから、いっぱい頑張るのよと言われてきました」
「文字は読めますか?」
「多少は」
「ではこれを読んでみてください」私はエーネに手紙を渡した。ユーリとレイが両側から手紙を覗き込んでいます。二人ともはしたないですよ。エーネは読みながら少しだけしょんぼりしています。遊んでばかりはいられない事がわかったようです。それはユーリとレイもそんな感じです。ユーリは元気づけるようにこう言いました。
「あるじ様の教え方はわかりやすくて楽しいですよ。大丈夫です」
「そうです。楽しいです」レイはちょっと言い淀んでいます。その様子を見てエーネはレイを疑わしい目で見ています。そして、
「DT様、 勉強もよろしくお願いします」エーネは座ったまま頭を下げた。
「頑張れますか?」
「いえ。両親からは勉強しろと言われていました。私は必要ないと思っていました。しかし、ここに来るまでに付き添ってくれた親衛隊の方が、両親も苦労していたことを色々と話してくれました」
「わかりました。でも先生はユーリとレイにやってもらいますね」私は楽しそうに言いました。
「「ええええ」」ユーリとレイが驚いています。
「ユーリは大丈夫ですが、レイはちゃんと覚えているか怪しい部分があります。なので先生をして覚えているはずの内容を復習しながらエーネに教えてもらいましょう」
「とほほ」そんなレイの姿にユーリが不安そうです。
「大丈夫よ。私かメアかパムがそばにいるわ。それにあんたは、そういいながら絶対様子を伺っているでしょうからね」
「そうじゃな。のう心配性」嬉しそうにモーラが言った。
「言われなくてもそうします。 誤った知識は一生ついて回りますから。最初が肝心です」そこは曲げられませんからね。
「だそうよ。よかったわね」
「滞在期間は1か月とします」私は念のため期限を設定しました。
「どういう理由ですか?」パムが尋ねます。
「そこで教育の成果を見て、生徒がダメなのか、先生がダメなのかを判断します。ダメだったら教育のし甲斐がありませんので教えない方向で考えます」
「そんな」
「3人とも一生懸命勉強しなさいね」アンジーが3人を見て笑いながら言った。
「3人ですか?」ユーリがビックリしている。
「そうよ。生徒が頑張っても先生が足を引っ張るようでは勉強の効率があがらないわよ」アンジーが嬉しそうです。
「そうそう」私は頷いています。
「「「とほほ」」」
 そうは言っても、勉強の時間はお昼までとして、午後からは遊ぶ事にしました。

 私は、連絡手段がないのでエリスさんのところに行きました。
「だから私はポストウーマンではないのよ。まあ仕方が無いから請け負ってあげるけど」私が薬屋に行ってエリスさんに手紙を託すとそう言われました。
「他に頼むところがありませんよ。どうやってあの手紙届いたのですか?」
「付近の街の薬屋やっている魔法使いが頼まれたそうよ。定期的に薬草を売りに来ているそうなの」
「すいませんが、手紙をよろしくお願いします」
「しかたがないわね。今回は元魔王のところからかなり対価をもらっているらしいからそっちからもらうわ」
 私はエーネが到着した事を知らせる手紙と里に戻す日を知らせる手紙を託しました。

○勉強やらなんやら
「レイ。記憶違いをしていませんか?」
「シュン」
「ユーリは相手の表情を見て理解しているか感じてくださいね。理解できていなくてもわかりましたと言っている場合がありますから」
「はい」
「あの~DT様。私に対してよりもお二人に厳しくありませんか?」
「先生がどれだけ大変か、わかって欲しいのと、これから先、必ず誰かに教える事になりますから」
「僕はならないと思いますけど」レイがそう言いきりました。
「自分に子どもが出来て教えないとでも?」
「頑張ります」
「レイそこで頑張れるの?」
「おかしいですか?」
「そういうものなのですかねえ」
 どうやらそうらしいです。

「村~」3人が先に走って村に行きました。エーネは頭の角を髪の毛でカバーして、羽と尻尾はたたむ練習をして服の中に入れているのでちょっと違和感があるみたいですが、何とか見つからないようにしています。店長がいないのを確認して服屋に行って服も新調しました。当然露天も回っています。
 そして、リンゴを取った露天の所では、ちゃんとお金を渡してリンゴを買いました。あの時も手に取っただけでリンゴに手をつけたわけではなかったのですけどねえ。
「特訓~」魔法の訓練も武器の訓練もしました。これからは自衛ができないと助けを呼ぶ事も出来なくなります。エーネは魔法を使うのを躊躇していましたが、使い方を覚えないと何かが起きたとき暴発するかも知れませんので、まずは魔法を絞る練習からしていきました。有り余る魔力量を制御するのは結構大変のようです。火炎放射器で爪楊枝に火をつけるような事をさせているイメージですね。
 武器については、その有り余る力で武器を壊したり相手を砕いてしまいそうなので、加減を覚えてもらいました。というかそういう事は親が教えておくべき事でしょうが。確かに里では一生使わないかもしれませんが使わないのではなく使えないのは問題ですよ。
「川~」3人とエルフィがはしゃいで足を水につけて遊んでいます。
 例の遊園地から誘導される河原に来ているのです。そこに到着する少し前までは獣を狩っていました。かなり森の奥まで行かないと獣がいないのです。モーラのせいで「仕方なかろう安全と引き換えなんじゃから」とモーラは言いました。
 パムとメアと私は木の柱を2本立てて狩ってきた獣を吊るして血抜きをしています。パムは丁寧に皮を剥いでメアが近くの岩を砕いて平たくして作業台を作っていました。私は血抜きを加速させるためにちょっとだけ圧力をかけました。メアは保存用の肉を捌いて馬車で持って来た箱に入れて氷を吹き付けています。凍らさないらしいです。氷温冷蔵らしいです。
 全員がびしょ濡れになっていますが、すぐに乾かせるので問題ないみたいです。ユーリはさすがにタオルを使ってましたが。
 まあ、川遊びもエーネにとっては新鮮で楽しくて良かったようです。
「水着回~」エルフィが叫んでいます。確かにあなたの独壇場ですからねえ。
「そんなものあるわけなかろう」モーラが一喝しています。
「ポロリは?」エルフィが余計な事を口走ります。
「ないわよ!!」アンジーの叫びにエルフィがシュンとなっています。

○一ヶ月後
 そしてあっという間に1ヶ月が経ち、帰る日が来ました。たくさん遊んだユーリ、レイ、エーネの3人は、寂しそうにしています。
「大丈夫。また遊びにおいで」ユーリがそう言ってエーネの背中をポンポンと叩いた。レイは獣化してエーネの膝に乗っている。
「はい」エーネは小さな声でそう言った。
「私から注意点をひとつだけ。私は礼儀を持って接するようにあなたの両親にも言っていました。ですので、来訪の際は事前に連絡をいただけるようにご両親にお伝えください。今回は結界が魔族を攻撃しないようになっていて、たまたま運が良かっただけなのです。次に家に来たときに安全でいられる保証はありません。特に手紙による連絡手段を使うのならこちらからの返事を待ってからお越しいただけるようお願いします」
「わかりました」エーネは青菜に塩状態です。
「エーネよ。おぬしの両親も世情に疎いところがある。そういった部分をおぬしが補う事になるかもしれん。頼むな」
「はい」
「あんたもモーラもそれは私の役目でしょう?それにあんたはとっととお土産を持って来なさいよ」
「お土産ですか?もういただいていますが」エーネが抱えきれないほどのお土産を背中と両手に持っています。
「今回の勉強のご褒美だそうよ」アンジーが優しく微笑んでそう言った。
「なんでしょうか」
 メアがローブと杖を持って来てくれました。
「これを私にですか?」
「勉強も魔法も戦いの練習も一生懸命頑張ったでしょう?だからご褒美です」私がそう言っている間にメアがローブを着せ、手に杖を握らせました。
「ありがとうございます」ローブの袖で涙を拭いながら立ち上がるエーネ。エルフィが道路にでて親衛隊の人を出迎えて一緒に家に入ってくる。
 道路まで全員で出て飛んで帰る2人を見送った。親衛隊の人がたくさんの荷物を抱えて大変そうだった。
「寂しくなるな」
「でも、また騒がしくなりますよ~入れ違いにお客様がきます~」エルフィが嬉しそうに言った。
「お客様ですか?」

Appendix
おうなんやお前、いきなり入って来よって。
ん?牝馬やないか。
あら、男臭いと思ったら野郎ばっかりなのね
まず挨拶せんかい
それは失礼したわ。初めまして。ここに金髪の女の子が来なかったかしら。
ああ、来とるで。それがどないしたんや
その子に興味があってねえ来てみたのよ
まあ、飯でも食え。
あら良いのかしら。
わしらのあるじは、魔族でも獣人でもとりあえず飯を食うのがしきたりや
そうなの?
まあ、確かに仲良うなるために飯を食うとるなあ
だから食べ
おや良いもの食べているのね
わしらが厳選した草やからなあ
選ばせてくれるの?
そうやで
しかし、簡単に会話してるけど、話せる馬なんて早々おらんがどこにいたんや
まあ色々あってね
きかんとこ

Appendix 3,000vs1の始まり
「私は宝石商といいまして、高貴な方々にきれいな装飾品を提供している者でございます」
「どんなものを見せてくれるのかしら」
「このように光り輝くまぶしい石でございます。光を反射すると虹色の光を映し出します」
「あら確かにきれいねえ。 いかほどかしら」
「これほどの大きさになりますとかなり高価になります」
「いかほどになるの?」
「このくらいに」
「おやかなり高価なのねえ」
「ですから高貴な方々。特に王家の方くらいにしかお売りできません」
「さすがに王に聞かないと買えない値段だわ」
「王様に直接お話しさせていただきませんか?」
「そうね、一緒に話してもらわないと厳しい値段だわ」
「ぜひお願いします」
「このような石ころに何の価値があるのか?ガラス玉であろう」
「では、小さいほうのこの宝石とガラス板どちらが強いと思いますか?」
「ではこうやってガラスを切ることもできます。逆はこのように傷がつきません。この光と輝きが未来永劫続くのです。この輝きと共に」
「なるほど」
「ぜひ奥様と娘さんお2人にお揃いでどうでしょうか」
「下の娘はまあ欲しがるかもしれないが、上の娘はこういうのをあまり好かんがなあ」
「最近喧嘩などしていませんか?」
「ああ、たまにわしの事を批判している時がある」
「そうですか原因は何かあるのでしょうか?
「田舎の魔法使いのたわごとに惑わされてな。あれこれわしに文句を言いのだ。それで喧嘩になる」
「こんな物でも送れば少しはわしを見直すかのう」
「それよりもその魔法使いを何とかした方がよろしいのではないでしょうか?」
「どういうことだ」
「その魔法使いよりも国王様の方が強いところを見せればよいではありませんか」
「国王が田舎の魔法使いなど相手にか」
「簡単ではありませんか。国力を戦力をみせつけてまいったと跪かせればよろしいのでは?そうすれば王女様も目が覚めるのではないでしょうか」
「うむ。確かにな」
「何か発端があればよろしいのではありませんか?例えば必要な物資を確保するためとか」
「なるほどな」
「おっと私が話すべきことではありませんでした。私は一介の小物売りです。ここでお話したことを真に受けませんように」
「それでは、宝石をお買いになる時にはお呼びいただければ馳せ参じますので、ごひいきにお願いします」
「王様。今の者は?」
「宝石とかいう女性用の小物を売りに来たものだ。気にするような者ではないな」
「そうでしたか。実は最近魔族や近隣諸国と小競り合いが頻繁に起きていまして、薬の備蓄が心もとなくなってきております。ぜひとも追加の予算をお願いします」
「既決予算で対応すればよいではないか」
「しかし、今回の薬草はやや高いものでして」
「安いものでよかろう」
「効果が違います。しかも生産量があまり多くないのです」
「どうやら扱っているのは田舎の村の薬屋だそうで、噂では魔族の治療にも効果を発揮する大した薬草なのです。実際に使ってみた者からは、効果がありすぎて」
「ならば買い占めればよかろう」
「卸し先が不明であります。どうやら田舎の魔法使いがそれを作っているようで」
「どうしてそれがわかった?」
「王女様はお会いした時にお礼としていただいたようです」
「ふむ。例の田舎の魔法使いだな。効果があるならば奪え。レシピ諸共な」
「しかし間に国を挟んでおります。ハイランディスがあります」
「特使を使え。荒事に強い奴を厳選しろ強引に奪うくらいのやつらをな」
「脅しにはあの魔法使いも使えるな。戦力には魔法には魔法だ」
「最終的にはそいつを屈服させてレシピを出させる」
「そこまでやりますか?」
「わしの国の力を見せつけるのが一番だろう?」
「兵士はいかほど準備しますか?」
「3千じゃな」
「そんなにですか?」
「一目見ただけで怯えるくらいの兵力を出せば何も言えなくなるであろう」
「確かにそうかもしれませんが、国の守りが手薄になりませんか?」
「ハイランディスは通過するからな。公国の方は国境付近に兵を増員しておけ。 それでしばらく様子を見るはずだ」
「魔族の方はどうしますか?」
「放置すればよい。 被害の出るところはそんなにないはずだ」
「わかりました」
「さて、あとは交渉を待つか。決裂した時のために国境付近まで兵を移動しろ」


続く
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

月が導く異世界道中extra

あずみ 圭
ファンタジー
 月読尊とある女神の手によって癖のある異世界に送られた高校生、深澄真。  真は商売をしながら少しずつ世界を見聞していく。  彼の他に召喚された二人の勇者、竜や亜人、そしてヒューマンと魔族の戦争、次々に真は事件に関わっていく。  これはそんな真と、彼を慕う(基本人外の)者達の異世界道中物語。  こちらは月が導く異世界道中番外編になります。

私の家族はハイスペックです! 落ちこぼれ転生末姫ですが溺愛されつつ世界救っちゃいます!

りーさん
ファンタジー
 ある日、突然生まれ変わっていた。理由はわからないけど、私は末っ子のお姫さまになったらしい。 でも、このお姫さま、なんか放置気味!?と思っていたら、お兄さんやお姉さん、お父さんやお母さんのスペックが高すぎるのが原因みたい。 こうなったら、こうなったでがんばる!放置されてるんなら、なにしてもいいよね! のんびりマイペースをモットーに、私は好きに生きようと思ったんだけど、実は私は、重要な使命で転生していて、それを遂行するために神器までもらってしまいました!でも、私は私で楽しく暮らしたいと思います!

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

悠々自適な転生冒険者ライフ ~実力がバレると面倒だから周りのみんなにはナイショです~

こばやん2号
ファンタジー
とある大学に通う22歳の大学生である日比野秋雨は、通学途中にある工事現場の事故に巻き込まれてあっけなく死んでしまう。 それを不憫に思った女神が、異世界で生き返る権利と異世界転生定番のチート能力を与えてくれた。 かつて生きていた世界で趣味で読んでいた小説の知識から、自分の実力がバレてしまうと面倒事に巻き込まれると思った彼は、自身の実力を隠したまま自由気ままな冒険者をすることにした。 果たして彼の二度目の人生はうまくいくのか? そして彼は自分の実力を隠したまま平和な異世界生活をおくれるのか!? ※この作品はアルファポリス、小説家になろうの両サイトで同時配信しております。

このステータスプレート壊れてないですか?~壊れ数値の万能スキルで自由気ままな異世界生活~

夢幻の翼
ファンタジー
 典型的な社畜・ブラックバイトに翻弄される人生を送っていたラノベ好きの男が銀行強盗から女性行員を庇って撃たれた。  男は夢にまで見た異世界転生を果たしたが、ラノベのテンプレである神様からのお告げも貰えない状態に戸惑う。  それでも気を取り直して強く生きようと決めた矢先の事、国の方針により『ステータスプレート』を作成した際に数値異常となり改ざん容疑で捕縛され奴隷へ落とされる事になる。運の悪い男だったがチート能力により移送中に脱走し隣国へと逃れた。  一時は途方にくれた少年だったが神父に言われた『冒険者はステータスに関係なく出来る唯一の職業である』を胸に冒険者を目指す事にした。  持ち前の運の悪さもチート能力で回避し、自分の思う生き方を実現させる社畜転生者と自らも助けられ、少年に思いを寄せる美少女との恋愛、襲い来る盗賊の殲滅、新たな商売の開拓と現実では出来なかった夢を異世界で実現させる自由気ままな異世界生活が始まります。

『モンスターカード!』で、ゲットしてみたらエロいお姉さんになりました。

ぬこぬっくぬこ
ファンタジー
 えっ、なんで?なんで絵柄が――――バニーガールなの?  おかしい、ゲットしたのはうさぎのモンスターだったはず…  『モンスターカード』というスキルがある。  それは、弱ったモンスターをカードに取り込む事により、いつでも、どこにでも呼び出す事が出来るようになる神スキルだ。  だがしかし、実際に取り込んでみるとなぜか現物と掛け離れたものがカードに描かれている。 「もしかしてこれは、ゲットしたらエロいお姉さんになる18禁モンスターカード!?」 注)当作品は決してエロいお話ではありません☆  小説家になろう様、カクヨム様でも掲載しております。

処理中です...