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第21話 3,000vs1

第21-2話 準備が8割

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○家族とは
 そうして全員で再び家に戻って来た。まだ木の焦げる匂いが立ちこめている。
 食べる気分でもないのですが、たぶんおなかが空いているので、メアさんが作った簡単な夕食をとり、それぞれの部屋に戻った。
 私は、部屋でも何をする気にもならないので、風呂に向かおうと廊下に出ました。階段を降りていくとそこには、モーラが立っていました。でも私は、気まずかったので私は部屋に戻ろうとした。
「何を遠慮しておる。こういう時こそ一緒に風呂に入ってわだかまりを流すのじゃ」いつもならアンジーが言いそうな言葉だ。
「それでいいんですかねえ」私は階段の途中で立ち止まってモーラに言葉を返した。
「いいも何も湯船につかればいい気持ちじゃろう?」モーラに言われるとは。これは一本取られましたねえ。
「そうですね。では一緒に入りますか」そうして再び階段を降りた。
「抜け駆けはなしよ」アンジーがすでに脱衣所にいた。しかも裸で髪をブラッシングしている。私を見ると無言でブラシを押しつけてくる。いや、脱衣所でしかも裸の女の子の髪をブラッシングさせるとかどういうフェチですか。確かに入浴前に軽く埃を落とした方が髪には良いらしいですが。そう思いながら私は黙って髪の毛をすく。おいてある鏡に映るアンジーは、目を閉じていて気持ちよさそうだ。何回か梳いた後、「ありがと」そう言って私からブラシを取り上げて棚に戻し、私の手を取って風呂場に入っていく。私は連れられていく自分の姿を、顔を、鏡で見た。そしてその顔の情けなさにシャワーを浴びながら涙を流していた。
「つらかったわね。お疲れ様」アンジーに声を掛けられ大声で泣いてしまった。2人とも別のシャワーで髪と体を洗い、すでに湯船に入っている。私は湯船につかる。涙は収まったが嗚咽は続いている。次々と家族が入ってくる。何も言わずそれぞれがお互いの髪を体をお湯で流してから湯船に入る。全員が揃った。
「しかし疲れたのう」モーラがそう言いながら肩を回している。肩が凝りますか?
「まったくです。あの獣人さんは底なしに食べましたから。あとで食費を請求したいくらいです」メアも先ほどの件には触れないでいてくれます。
「確かにすごい食べっぷりでした」レイが珍しく発言する。ああ、まだ獣化していなかったんですね。
「あのまま居座られたらたいへんじゃったなあ」
「自分の食い扶持は自分で稼いで来てもらわないと」パムがそう言いました。
「あの子は元気にしているのでしょうか」ユーリが遠い目をしている。
「久しぶりに両親とゆっくり暮らせるのじゃ幸せだろうさ」モーラが嬉しそうに言った。
「てっきりあの子が~うちの家族になるのだと~思っていましたよ~」エルフィが残念そうに言った。
「確かに素質は十分じゃし、格も問題ない」そう言ってモーラが頷いています。
「格ってなんですか?」私はようやく心を立て直してモーラに質問しました。
「なんじゃおぬしも鈍感じゃな。ここに居る者すべてこの世界の一級品ばかりじゃぞ」モーラがみんなを見回してそう言いました。
「そういう意識はなかったわね」アンジーもみんなを見回している。
「僕、わかりません」そうやって中途半端に子犬になるのやめなさい。顔だけ獣人とか気持ち悪いですよ。人面犬ですか。でも器用ですね。
「わからんか。パムは元英雄のドワーフの孫、ユーリは亡国の姫、エルフィは異色のハーフクオーターエルフでハイエルフ。レイ、お主だって弧狼族の族長の孫にして獣人の魔法使いじゃろう。そしてメア。この世界唯一無二のホムンクルス。そしてアンジー、この世界に唯一人化している天使。まあわしは、末端じゃが一応ドラゴンだしなあ」
「おや~?ドラゴンの世界の序列一桁、1柱をなす土のドラゴンでしょ。そして、異世界からの異端児で変態の空間魔法使いよね」アンジーが笑いながらそう言った。
「ただし日常生活特化型魔法使いですけどね」私は自虐風味にそう言いました。でも本心なのですよ。
「だからあの子も格という意味では十分資質はある。だがな」モーラがそこで一度間を開ける。
「だが?」私はつられて言葉を繰り返す。
「あの子にはあって、わしらにはないものがある。わしらには共通してあるものが欠けているのじゃ」なぜかモーラが悲しそうです。
「そうなのよねえ」アンジーまでも悲しい表情になっている。何が欠けているのでしょうか。
「家族・・・ですか」ユーリが寂しそうにつぶやいた。
「そうじゃ。家族という”概念”がな。エルフィやパムは多少はあるのだろうが、転生してきて記憶のない者、小さい時に家族を亡くして覚えていない者、小さい時から家族の愛情を受けなかった者、そもそも家族の概念のない者なのだ。それらが一緒にいるのじゃよ」そう言いながらモーラは天井を見上げている。
「そう言われればそうね。そんなこと今まで考えもしなかったわ」アンジーは浴槽の縁に顎をつけてボンヤリしている。
「口にしなかっただけじゃろう。言い方は悪いが、わしらは家族に憧れがあるのだろうな。だからこそ家族を大事にする。自分を省みずに。どこまでが家族にして良い事なのか、その限界も境界線もわからないままにな」モーラが顔を下げて両手でお湯をすくって見ていました。
「それだけにあの子には、このままずーっと幸せであって欲しいわね」アンジーがモーラの手をなぜかそっとお湯の中に沈ませた。
「また会いたいです」ユーリがポツリと言った。レイがユーリの所に行ってくっついた。
「きっと会えますよ」と私が言ってしばらく静かになった。
 その時、エルフィが何か感じたようだ。
「リビングで何か音がしています!」
「なんじゃと!誰も侵入できないはずじゃが」
「何か声が聞こえます」
「ここにいても始まりません。急いで出ましょう」私の言葉に皆さんバタバタと湯船を出て、シャワーを浴び、タオルを巻いて脱衣所を出て行く。みなさんパンツくらいは履きましょうよ。
 居間に行くと私やアンジーを呼ぶ声がしています。
「どこから声が聞こえていますか?」私は周囲を見渡しましたが、どこなのかわかりません。
「ああ生きていましたか」本当に声だけが聞こえて姿は見えない。
「その声はルシフェル様ですね」アンジーが声を確認して言いました。
「どうやってこの結界にいらっしゃるのですか?どうやって声を届けているのでしょうか?」私は結界を薄くしたとはいえ、侵入を許すような事は絶対にありえないし、どういう手段で声を届けているのか驚いて言いました。
「それはねえ、その結界のおかげで、直接連絡が取れなくなったので、わしの側近がそちらに行った時にちょっと連絡装置を置かせてもらったのだよ」その声をたどってパムがテーブルの裏から小さい豆粒状の物を剥がしてテーブルに載せる。
「なるほど通信機ですか」私はその装置を解析しようと思いましたが、言語が違うせいか、勉強しないと解析できなさそうです。私もまだまだ修行が足りませんねえ。
「そういうものなのか。まあ家にいてくれて良かった。というか、いるのはわかっていたが、声に反応しないので死んでいるのかと思ったぞ」
「別な部屋にいましたからねえ」
「すごいな。さらに別な部屋に結界を張っているのか」
「単に距離の問題でしょう。さて、魔王様自らが連絡をくれるという事はかなり重大なことだと思われますが、どういったご用件ですか」
「他人行儀だな。まあよい。そちらに危機が迫っている。注意するように」
「また魔族絶対主義派ですか?」
「いいや人間だよ。先程おぬしらの家を焼いたところの国がこれからおぬしの家を攻めに行くらしい」
「さきほどの事ですよ?さすがにそれは相手にはばれていないはずですが」
「ばれたようだぞ」
「ルシフェル様。その事件が起きたのは数時間前なのですよ」アンジーがそう言った。
「たぶんお主らがどう動こうと派兵するつもりだったのではないのか?」
「派兵ですか。人とは戦いたくありませんねえ」私はこれまでの経過を簡単に話した。
「それならたぶん、欲しいのは薬草の製法だろう。確かに魔族にも効果がある塗り薬だから、魔族に渡るのもやっかいだと考えたのかな?もっとも魔族は普通に自分たちの回復力で十分だから不要なのだがなあ」
「そうですよねえ」
「だが人間はそうはいかんな」
「なるほど。最初から渡せばよし、渡さないなら力尽くですか。相変わらずどこが賢王なんだか」
「なので情報は教えるがわしらは静観するぞ」
「情報ありがとうございました」
「あともう一つだけ忠告しておこう。今回、国を相手に決して勝つなよ」
「ルシフェル様。勝つと私達は・・」アンジーが語尾が消えている。多分アンジーはすでに理解しているのだろう。
「魔法使いよ。おぬしが人と戦争をして勝ってしまえば、さらなる争いがおぬしを待っているだろう。顔が知られて住処が知られれば、当然安息などどこにもないであろう。村に顔を出せば誰かに狙われ、食料も物資も手に入らなくなるかもしれない。そしておぬし達の住む場所はこの世界のどこにもなくなると思うぞ」
「やはりそうなりますか」アンジーがそう呟くように言った。
「なのでアンジー。そこにいる辺境の賢者とともにうまく言い逃れできる体裁を作って難を逃れろよ」おや、モーラが辺境の賢者と呼ばれ始めたのをもう知っていますか。ドラゴンの里経由ですか?
「相手の戦力が少なければ勝ってもいいと思いますが。さすがにここまで派兵はしてこないでしょう?」私はそう反論します。
「たぶんメンツもあって意地になって攻めてくるであろう。これまでのようにうまくごまかすがよい」
「ごまかすようなことは・・・まあ、確かに水神とか使っていますねえ」
「ごまかさないと本当にそこで生活できなくなるぞ。あと、人との戦争にかこつけて横やりがはいらんとも限らん。それで勝ってしまえば、魔族にとっても脅威という事でこちらからも刺客やらが襲いに行く事になるぞ。もっとも下級魔族はお主らのことを聞いただけで戦意を失っているから、上級魔族が出て行く事になる。おぬしも無傷ではすまなくなる。大変な事になるぞ。わかるな」
「あの戦闘で逃げ帰った魔族達は見ていますからねえ」
「一応な。魔族だって義のない戦いはしたくないものよ」
「では、できるだけうまくごまかします」
「あと、いきなり国王強襲もやめておいてくれ。それが一番わしらを刺激するのでなあ」
「魔族の本拠地なんて知りませんよ。魔王相手にそんなことできませんから」
「噂というのはそういうものなのだ。一度恐怖にとりつかれるとそれを排除するまで疑心暗鬼になる」
「ああ確かにそうですね」
「おっと話しすぎた。一応この装置はこちらから一方的に音声を届けることはできるが、そちらが答えないとつながらないようにしてある。だから盗聴はできぬ。安心して置いていてくれ」
「玄関の扉の所に置いておきましょうか」
「それがいいですね」
「どこに置いてもいいが、これを使うときはたいがい緊急性があることだからな」
「情報提供ありがとうございます。何かお返しできればいいのですが」
「今回の元魔王一家の件では本当に迷惑を掛けた。むしろ感謝したいくらいだ。ありがとう」
「その言葉だけで報われました。ではまた」
「ああ、頼むからまだ生きていてくれ」
「はい」
 沈黙が部屋を包む。皆さんとりあえず服を着ませんか。湯冷めしてしまいます。
「動きが速いわね。あの時誰かに見られていたのかしら?」アンジーがエルフィを見てそう言った。しかしエルフィが首を振る。
「連絡が途絶えたり、意識が無くなったりするとわかるようにしてあったんですかねえ」私は想定できる事を口から発した。
「何らかの連絡手段があるという事ですね」パムが考えながら言った。
「まあ、魔法使いの里にはあるらしいから手に入れているのかも知れないな」
 エルフィとモーラとレイは何かに気付いた。
「夜も遅いというのに今度は来客か」モーラが仕方ないなあという感じで言った。
「この匂いは知っている人です」レイが鼻をクンクンさせながら言った。
 その人は、玄関をノックして、私の答えを待たずに扉が開きました。そしてエリスさんが入ってきた。
「あんた達何をしたのよ。あの国の軍が動き出したっていうわよ」エリスさんがかなり焦ってそう言いました。
「それにしても数時間前の事をもう知ったのですか?ああ、あの国にも魔法使いさんがいますから情報が入りましたか」パムが納得したように話す。
「あそこの国の通信は、魔法使いの通信網を使っているから私達にも筒抜けなのよ」エリスさんそれはかなり重要な情報ですよ。簡単にしゃべっていいのですか?
「まったく変な国ですね。秘密にするべき事を堂々と通信してしまうなんて。ああ私達に教えたかったのですかね」
「そうかもしれんな」
「では、今度は本当に出かけなければなりませんね」というか皆さん早く着替えませんと風邪引きますよ。
「軍隊を3千人ほど動かして進軍を開始したそうよ」
「家にこの世界の地図ありましたっけ」私はメアを見てそう聞きました。
「簡単に作ったものならあります」メアが台所に引っ込み、大きな巻紙を持ってきてテーブルの上に広げる。
「王都からここまで来るのに、普通の道を通れば、休みなしに進んでも2週間以上かかりますねえ」私はざっと計算をしました。進軍スピードをかなり速く想定しています。
「しかし、隣国のハイランディスとの境界に兵を置いていれば10日位で来られるかもしれません」パムが地図を見ながらそう言いました。
「となれば、ここには10日くらいですかね?」
「ここに来るまで待つのか?」モーラが私を不安そうに見ました。
「いいえ。ここの村に迷惑がかかってしまいます。進軍スピードを見極めて、広い草原にてお相手しましょう」しかし、その地図には平野だとか森林だとか具体的なことは何も書いていない。
「戦うのか?」モーラがそう言うと皆さんが私を見ました。
「できるだけ血を流さずに穏便に済ませたいので、ちょっとした虚仮威しで帰ってもらいましょう。どうでしょうか?」私の言葉に皆さん皆さんが頷いた。誰だって無駄な争いはしたくないのだ。
「なのでモーラ。内緒でレイとパムを連れてモーラの縄張りのギリギリのところで降ろしてすぐこちらに戻ってください。レイとパムは、そこから山を越えてロスティア軍がどのくらいの進軍スピードなのかと、初日の宿泊地を確認して、さらに戻ってくる時に2日目に宿泊しそうな場所を確認して私達と合流してください」
「わしは手伝わなくて良いのか?」
「申し訳ないのですが、モーラの縄張りの外で交渉することになりますので」
「しかしわしも家族なのじゃぞ」
「モーラわかって。私達は、あなたの庇護下にいて安全にいられるのは、人族以外の種族に対してなのよ。でも今回は人と人のいさかいなの。だから今回は見守って」
「またわしは置き去りか」
「元魔王の時は、役割を存分に発揮してもらいましたよ。確かにモーラのしたかった活躍はできなかったでしょうけど」
「あんたの格が高いからしかたないでしょう。暴れたら追放じゃなくて、里に戻されるかもしれないのよ」
「確かにそれは嫌じゃなあ。まあしかたないのう。おとなしくしておくわ」
「エリスさん情報ありがとうございました。大変助かりました」
「あなたに情報提供しておくことが、私が生き残るために必要だという結論に達したのよ。この村が壊されても困るしね。貸しを作って積み上げておかないと、あんたはいつ敵に回るかわからないからね」
「あの時はすいませんでした。でも助かります」
「何をするのかわからないけど急ぎなさい。今回は時間が生死を分けるかもしれないわよ。じゃあね」
「ありがとうございました」
 エリスさんはそこで帰って行きました。私は皆さんに着替えてくるよう話してから部屋に戻りました。皆さんもすぐ着替えて居間に戻って来ています。
 私は皆さんが揃った後、少し考えてから皆さんに声をかけました。
「それでは出発しますか。モーラ先行してくださいお願いします」
「わかった。ちょっと試したいことがあるので、縄張りを越えて2人を置いてきてもいいか?」
「見つからないのであれば」
「もちろんじゃ。おぬしは、あの元魔王がまとっていたローブを解析していたじゃろう?あの時わしも憶えたのじゃ。さすがに体がでかくなったので、飛んでいるところを誰かに見られそうなのでな。さらにあの魔法使いが使った気配が消える魔法。あれならわしでも使えそうなのでなあ、ちょっと実験してみるわ」モーラが嬉しそうにそう言った。
「失敗したらどうするんですか?」
「その時は、見回りの時についついはみ出てしまったと言い訳するわ」
「わかりました」
「2人を置いたら、わしは馬車に戻って来て良いのじゃな」
「はい。モーラには何かあったらお願いする事がありそうですので、よろしく願いします」
「そうじゃな」
 モーラは家からから出て少し離れたところでドラゴンの姿になった。パムとレイを手に載せたとたんその姿は消えて、羽ばたく音とその風圧で揺れる木のざわめきだけが聞こえる。
「しかし分析して体得するドラゴンですか。他の属性の魔法も憶えていきそうですねえ」私は気配の方向を見上げてそう言った。
「それはさすがにやらんわ、では行ってくる」
 一瞬羽ばたきが強くなり、強い風が吹いて、モーラの気配は消えた。
「私達はどこに行きますか?」エルフィが馬の用意をしに厩舎に向かう。
「モーラが戻って来て問題の無いモーラの縄張りの境界線ギリギリのところに向かいます」
「なるほど。では食料などはどうしますか?」メアさんが私に聞きました、
「たぶん2~3日分あれば良いかと」
「そんなに簡単に終結しますか?」ユーリが聞き直します。
「そのつもりです。あとユーリ、鞍を馬車に積んだままにしておいてください。たぶん私が草原を走ることになります」
「はいわかりました」
 野宿の準備を馬車に積んだ後、家を出発した。馬車は3頭立てなので、結構なスピードで走っています。
 羽ばたきが聞こえて幌の上に人が飛び乗ったようだ。
「まだこんなところを走っておったか。もう置いてきたぞ」
「実験はどうでした?」
「大丈夫じゃ。ばれてはおらんと思う。あと、わしの洞窟の中にわしと同じ雰囲気の物体を置いてきたのでこのままわしも一緒に行けるぞ」
「それは心強いです。私が暴走した時には止めてくださいね」
「暴走する気満々じゃなあ」モーラはあきれています。
「何があるかわかりませんから」
「では、目的地はどのあたりになりますか」メアが私に尋ねる。
「ここからモーラに乗せてもらい、モーラの縄張りの端の草原に降ろしてもらいます。そこから道のない草原やら山やら進みます。アとウンとクウには大変そうですが、進軍している軍にむけて直線距離で最短を行きます」
「間に山がありますが、中腹まで行って山腹を通ることになります。まあ、山越えよりも最短になりますから」
「何やら木の妖精ドリュアデスが協力を申し出ているようですよ~」エルフィが草に耳を傾けている。
「薬草燃やされて怒っていますか。確かに株が全滅していないと良いのですけれど」
「それなら進むスピードがさらに上がりますね」
 夜が明けるまで走り通しだったので、さすがに疲れて休憩を取っています。特に馬たちには休憩が必要でした。かなり怒っているらしく夜からずっと興奮状態だったのでエルフィと私でなだめてやっと眠っています。
 みんなが寝ている間、私とエルフィは、パムとレイに連絡を取っています。さすがに2人は、次の軍の休憩地の予測までしながらなので、合流はまだ先のようです。
「もう一泊ってところかしらね」アンジーが眠い目をこすりながらこちらに来た。あなたが一番睡眠が取れているのかもしれませんねえ。アンジーは3頭の馬に回復魔法をかけてくれていますが、やはり馬にも睡眠が必要ですよね。
「本当なら次の野営地に到着する前に段取りをしたかったのですが」
「詳細を聞いても良いかしら」
「次に相手が野営地にしそうなところに到着する前に予告状を送って、到着した日の翌日にその場所から少し離れた草原で話し合いがしたいと通告します」
「で、話し合いをすると」
「どうせ決裂しますがね。そこまでは考えてあります」
「誰が来ると思いますか?」ユーリが私に尋ねます。まあ、想像はしているのでしょうがか。
「まあ、勇者様ご一行ではないですかねえ」
「やはり~王女が出てきますか~」エルフィもちょっと嫌そうだ。知り合いですから当然ですね。
「国のメンツもかかっていますから、必勝体制で望まれるかと」メアが言った。
「そうなるわよねえ。勝ったらまずいんじゃないの?」アンジーが言った。
「王女は私と会った事がありますので、私と会った段階で、このまま戦えば無傷では済まないと思うでしょう。どこかに引き際を探してくると思いたいのですが」
「変な横槍が入らなければね」アンジーが言いました。そこなんですよねえ。
「王女が出てこなければどうするのじゃ」モーラが言います。当然その可能性もありますね。
「指揮官に私の力を見てもらうしかないですね。そうなると相手に手傷を負わせなければならないでしょう」
「手傷を負わせるのですか?」ユーリが私を見て聞きました。悲しそうな目で。
「戦わないで帰るのは、指揮官のプライドが許さないでしょうし、無傷では帰ってくれません。指揮官としてのプライドがそれを許さないと思いますから。その隊長が国王への言い訳のためにも傷を負っている必要があります」メアが言った。ナイスフォローありがとうございます。
「そこが厄介ですね。本当なら私の実力を国王の前で見せるのが一番効果的なのですが」
「さすがに直接国王のところに出現してしまったら、その事を知った他国からも脅威認定されますよ」ユーリでさえその結論になりますよね。
「旦那様~明日の野営地の予想が立ったそうです~」エルフィがパムからのイメージを受け取ったようです。
「エルフィ。パムの言っている場所は私達からは近いですか?」
「山を越えて頑張って進んできたおかげでかなり近くにありますよ~この後すぐ出発すれば、夕方には到着しそうなところです」
「内緒でハイランディスの領地も駆け抜けてきましたからねえ。あと、その近くに広い草原はありますか?」
「大丈夫だそうです。かなり広い平原で3千人が反対側に整列するくらいの余裕があります」
「そうですか。ではそこにしましょう。パムさん。レイに書状を持たせてください」
『はい、書状には何と書きましょうか』
『明後日の昼にこの場所もしくは、そちらの野営地でお話し合いをしましょう。とね。残念ながら急いでもそこに到着するのが精一杯だと。こちら側はもちろん私ひとりです。と必ず書いておいてください。あと、その書状は、明日の朝に届けてください。なので、書状には、明日の昼にとなりますね』
「大丈夫なの?」アンジーもさすがに今回は心配していますね。
「まあ何とかなりますよ。パムさん指揮官は誰ですか?」
『現在は代行らしく、本当の指揮官は明日合流するようです』
『誰なのか確認できていますか?』
『姫と言っていましたから、たぶん王女様ではないでしょうか』
『それは良い。話が早く進みそうです。パムさんレイ、申し訳ありませんがもう1泊だけそちらでお願いします』
『わかりました。ああ、レイが帰ったら頭をいっぱい撫でて欲しいと小声で言っています』
『レイ聞こえているんでしょう。大きな声で言わないと聞こえませんよ』
『帰ったら僕の頭を撫でてください!』
『いっぱい撫でてあげますからもう少し頑張ってくださいね』
『ワン』ああ、尻尾を振っているイメージまで伝わってきます。でもどうしてワンなのでしょうか。
「さて休んだらもう少しだけその場所に近づきますかね」
「さすがに斥候がいるんじゃないの?」
「なので近づくだけで周囲から様子を窺います。気付かれそうなら引き上げますよ」
 仮眠を取った後、食事をしてから、その草原が見える森の外れまで到着して息を殺している。さすがに森の中で火を使うわけにもいかず干し肉を食べています。もぐもぐ
『エルフィ誰かいますか』
『誰もいません。周辺には本当に誰もいませんよ』
『明日の朝までここで待機ですねえ』
『本当にうまくいくの?』
『予想通りならですが。あ、ちょっと催してきました。失礼』
『まったく!早く行ってきなさいよ』
『はいはい』そう言って私は適当な場所を探しますが、意外に適当な場所がないのです。広すぎるのですよ。そうして私は草原をうろうろしている。違う目的もありますが、まあ色々仕掛けを作りながら花を摘める場所を探しています。
『あんた遅くない?何しているの?』アンジーから聞かれた。
『見晴らしが良すぎて、なかなかするところが見つからないんですよ』これは本当です。中々良い場所がありません。
『誰もいないんでしょう?』
『でもいつ到着するかわかりませんよねえ。見つかって鉢合わせというのは、ちょっとねえ。見られたら恥ずかしいですし』
『ばっ、ばっかじゃないの』
『真剣ですよ』
『本当に誰もいませんよ~、ゆっくりしてきてくださいね~』
『エルフィはやさしいですね。さて戻りますか』私は段取りを終えてその場所から立ち上がろうとしました。
『ご主人様まずいです。誰か来ました』メアがそう告げる。
『そうですか。では逃げましょう』
 かなり遠回りして移動して、さらに時間をかけて私は皆さんのところに戻りました。馬車はこの森を越えたところに止めていてユーリが見張っている。
『ただいま~』
『まったく、いつもは用を足しに行くとか言わないくせに』
『今回みたいな時は、言っておかないと誰かさんが心配して探しに来そうでしたからねえ』
『そういうことは言わなくて言いの!』
『はいはい』
『斥候はここに居続けますかねえ』
『普通は、ひとりは部隊に戻りますよね』
『2人とも一度戻ったみたいですね~』
『ここではなくて野営地まで戻りましたか。確かに野営地の方がここよりは、防衛しやすそうですものね』
『ここは定期的に見に来るつもりなのかも知れないわよ』
『我々も馬車まで戻りましょう。交代で見張れば良いと思います』メアがそう言ったので全員でそこから移動しました。
 そして夜が明けました。明日の昼まではまだ時間があります。
『レイは書状を届けました。私達はどうしますか?』
『レイは見られていますので、そのまま街道沿いに戻ってください。しばらく走って追っ手から逃げられたと思っても街道をゆっくりで良いですから歩いていてください。パムさんは、進軍している隊のそばにいて、つかず離れず見張ってください。そして、合流したのが王女なのを確認してからこちらに戻って来てください』
『了解しました』
『では私は、アと一緒にモーラの手に乗って、ちょうど明日の昼くらいにここに到着するような場所に降ろしてもらい、街道に出てレイと合流してぶらぶらとここを目指します』
 馬車に向かって移動し、アに鞍をつけてモーラの手に乗って街道の横に降ろしてもらう。そこには、すでにレイが座って待っていた。いや獣人化していてください。残念ですが馬に乗ったままでモフモフはできませんよ。そしてパムさんから連絡が入る。
『たぶん王女と思われる一行が合流しました。このまま続けますか』
『いえ、無理しないでくださいね。かなり迂回しながらみんなに合流してください』
『はい』
『ひまじゃー』
『確かにそうですが、もう少ししたら森も探索されますから、さらに森から離れた方が良いですよ』
『あ?さきほどその兆候があったので、あの場所からかなり離れているぞ。というかおぬしには、すでに周りに何人か張り付いておるのではないか』
『ええ、攻撃してこないだけ楽ですねえ。もっとも寝込みは襲われそうですけど。その時はレイもいますしね。あらレイ、寝ていましたね』
『馬が狙われないか?刻限に間に合わなくさせるという手も打てるぞ』
『そこまでしますかねえ。レイの毛が逆立っていないので大丈夫だと思いますよ』
『ではそろそろ星が見えてきましたのでここで野宿しますね』
『ああ、何かあったら言ってくれ』
『私が行きます』ユーリの声がとがっている。ウンに乗って出かけるつもりで用意しています。
『必ず街道を来てくださいね。あと明日の朝には馬とレイを託しますので、すごすごと帰ってください』
『わかりました。しばらくしましたら合流できます』そして、夜遅くにユーリが合流した。わたしは、ユーリに「なぜ追ってきたのか」と怒っているふりをしました。ユーリもしょぼんとしたふりをしています。最後には私が抱きしめて許すという演技をしています。
『ユーリ~ずるい~、私が代わりたい~』
『えへへ』そうして2人とも私の膝枕で寝ていました。まあ、朝方には交代してユーリの膝枕で寝ていましたが。どうだ!見張りの人うらやましいだろう。
 起きてから、ユーリにアとレイを託し、そこからは歩いて現地に向かいます。昼を過ぎ、おなかがすいた頃、草原の傍らに到着しました。すでに3千人の兵士が隊列をきれいに組んで待ち構えていました。


Appendix
よいか、進軍して接敵してもこちらから手を出してはならない
手を出した者に対して、あの方なら必ず手足を切るぞ。だから兵士はうかつに手を出すな。
私があの方と対峙するまでは待つが良い。私の大事な魔法使いを殺したあの方とは私が決着をつけなければならない。


続く
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「前世の知識で楽しく暮らそう! ……えっ? 俺が予言者? 千里眼?」  未来を見通す千里眼を持つエルカ・マクフェイルはその能力を生かして国の発展のため、長きにわたり尽力してきた。その成果は人々に認められ、エルカは「奇跡の予言者」として絶大な支持を得ることになる。だが、ある日突然、エルカは聖女カタリナから神託により追放すると告げられてしまう。それは王家をこえるほどの支持を得始めたエルカの存在を危険視する王国側の陰謀であった。  国から追いだされたエルカだったが、その心は浮かれていた。実は彼の持つ予言の力の正体は前世の記憶であった。この世界の元ネタになっているゲームの開発メンバーだった頃の記憶がよみがえったことで、これから起こる出来事=イベントが分かり、それによって生じる被害を最小限に抑える方法を伝えていたのである。  追放先である魔境には強大なモンスターも生息しているが、同時にとんでもないお宝アイテムが眠っている場所でもあった。それを知るエルカはアイテムを回収しつつ、知性のあるモンスターたちと友好関係を築いてのんびりとした生活を送ろうと思っていたのだが、なんと彼の追放を受け入れられない王国の有力者たちが続々と魔境へとやってきて――果たして、エルカは自身が望むようなのんびりスローライフを送れるのか!?

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

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 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

前世ポイントッ! ~転生して楽しく異世界生活~

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 17歳の夏、俺は強盗を捕まえようとして死んだ――そして、俺は神様と名乗った爺さんと話をしていた。話を聞けばどうやら強盗を捕まえた事で未来を改変し、転生に必要な【善行ポイント】と言う物が人より多く貰えて異世界に転生出来るらしい。多く貰った【善行ポイント】で転生時の能力も選び放題、莫大なポイントを使いチート化した俺は異世界で生きていく。 なろうでも掲載しています。

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