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第20話 魔族の子

第20-7話 失踪者

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○不審者を追跡

「あなたたちは一体何をしているんですか?」二階から獣人達が降りて出てきて言った。
「ああすいません。みんな考え事をしていて」
「急に扉が開いた音がして、静かになったと思ったらまた扉が開く音がしました。何かあったのかと思って出てきてみれば、皆さん会話もせず黙ったままで座っている。何があったんですか」
「ああすみません。話の中で、この周囲に何かが起きている可能性の話になって、不安になってモーラが様子を見に行ったのです。そしたら、さらに気になることがあったので、さらに調査をしにエルフィが・・・」
『発見しました~。かすかですけど数人が草原を移動しています。かなり速いです』
『わしにまかせろ。エルフィ位置と場所のイメージを送れ』
『イメージは無理ですよ~場所はこの辺です』
『わかった。わしにまかせろ』
『モーラ暴走はなしですよ。くれぐれも注意して』
『ああ、気をつける。は?ドラゴンの匂い?』
「モーラどうしました」モーラの動揺した感情に私は、思わず声に出してしまう。
「何を叫んでいるのですか」
「あ~あ」アンジーが頭を抱えている。
「何でもありません。何でもちょっとぼーっとして夢を見ていたようです」私の言葉にアンジーがさらに頭を抱えている。顔を上げ諦めたような表情のアンジーが言った。
「出てきたのなら話をしましょうか。私たちはね、元魔王がどこにいるのか考えていたのよ。そしてね。とんでもない想像に行き着いたのよ。どこだと思う?」
「この土のドラゴンの縄張り内のどこかにいるのではないかと考えたのですね」豹の獣人がつぶやくように言った。
「そう。ようやくそこに考えが至ってね、慌てて確認に行っている訳よ。ドラゴン自らがね」
「そうでしたか」そこで豹の獣人は、ため息をつく。
「あなた知っていたのね」ジロリとにらみつけるアンジー。下を向いているその獣人。
「知らされてはいませんでしたが、薄々はそうではないかと思っていました」
「知らされてはいなかったのね」
「はい」
「それなら良いわ、あなたも私達と同じ被害者だもの」
「そんな被害者だなんて」アンジーがそう言った言葉に何かを感じたのかちょっと動揺している。
「あのね、私達がそんなに温厚に見えるのかしら。まあ、細かい噂だから知らないのかも知れないわね。これまで私達は、どんな小悪党でも自分達の家族のためなら簡単に相手の両腕切り落としているのよ。わかる?」アンジーがその豹の獣人だけではなく降りてきた全員を舐めるように見回してそう言った。
「・・・・」
「じゃあ、あくまで仮定の話だけどね、貴方達が私達の家を監視していた時に私達の家族に何か危害が加えられていたら、その件と貴方達に関係があろうとなかろうと、捕まえて事実関係を確認するしているわ。
 その時に貴方達の手足はすでにないのよ。逃げられないようにまず切り落とす。あなた達は泣き叫んでも、真実が確認できるまで、手足をちぎったりつなげたりを繰り返して、痛みと絶叫のを繰り返してね。意識がなくなってもすぐに意識を取り戻させられ、それでも吐かないのなら、さらにその頭の中をかき回してのぞき込むくらいはやるのよ。そして貴方達が何も知らないと、この件に関連がないと私達が納得するまで続けられて、私達が納得した頃には、貴方達の手も足も「頭」も使い物にならなくなっているのよ。わかる?そこまでの想定が貴方達を利用した人達にあったのかしら。貴方達にその覚悟があったのかしら?」アンジーが何でも無い事を説明するように淡々と話をした。私達を除くその場にいた全員の顔が青ざめている。
「私達はお気楽にドラゴンの庇護下で、のほほんと生きているわけではないのよ。私達に害をなそうとすればその数倍の反撃を食らうという事を、これまで、その人達の身に教え込んで来ているの。二度と手を出してこないようにね。そして、今回の生け贄はもしかしたら貴方達だった可能性もあるの。これを聞いても被害者ではなかったと言えるのかしらねえ」アンジーの話し方は、一貫して子供に諭すように淡々と話している。説教と言うよりは、説諭だ。しかし聞いている方は青い顔をしている。ええ、家族もまた青い顔をしている。その言い方したら効果ありすぎじゃないですか。
「アンジーさん脅かしすぎじゃないですか」私はさすがに口に出す。
「あら、あなた本当に切り落としたじゃない。小悪党の両腕を」何その邪悪な微笑み。あなた天使様ですよねえ。というか、そこで皆さんアンジーじゃなくて私を見て怯えた目をしていますね。
「いや、確かに切り落としましたけど。あの時は、事態は切迫していましたし、でもちゃんと元通りにくっつけましたよ。そんな何回も・・・ああ、相手が信じないから1度だけ切ってつなげましたけど、そんな何回も切ったりつないだりしてませんてば」私はその状況をちゃんと説明したいのですが、うまく伝わりません。
「ほらね、この人はこういうことを罪悪感もなく言えて、さらにできてしまうところがまずいのよ」アンジーが嬉しそうに笑っています。
「だからちゃんと元通りにつけたって言っているじゃないですか。ねえ、メアさんフォローしてくださいよ。笑っていないで」
「それは私も知りませんでした。さすがにそれは怖いですね」あら、なんでメアさんじゃ無くてパムさんがそれを言いますかね。しかも青い顔で。
「だからね。貴方達がどんなつもりで引き受けたかわからないけど、私達はそんなに甘いものじゃないのよ。今更聞いても遅いでしょうけどね」アンジーがそう言って出されていたお茶を涼しい顔をして飲みました。
 沈黙は気まずい。そんな時、勢いよく玄関の扉が開き、エルフィが入ってくる。その音にみんなびっくりする。
「あれ~お葬式ですか~?もうじきモーラ様が帰ってきますよ~大漁で~す」エルフィのその声にみんながホッとしている。
「大漁ってなんですか。何か釣れたのですか」私は気まずくなってエルフィにそう言った。
「はい~釣果は見てのお楽しみ~」そう言ってエルフィはメアさんに耳打ちするとメアさんは台所に向かった。
『すまぬ、薬を用意してくれぬか』
『なにがあったのですか?』
『どうしても言うことを聞かない馬鹿がわしに斬りかかりよって、けがをしたのじゃ。魔族なので薬草を頼む。多めにな』
『そうですか。ならば私が先に行きましょう』ユーリが立ち上がりかける。獣人達が突然動いたユーリを見る。
『いや、馬では遠回りになるからレイが適任じゃ、馬車は迂回して来てくれ』
『了解しました』レイが、ぱっとその子の膝から降りて、玄関に向かって駆け出そうとする。立ち上がりかけていたユーリがそのまま玄関に行き、扉を開けるために手を掛ける。
「レイ、ステイ。薬を持ちなさい」メアさんの声が聞こえ、台所から顔を出したメアさんが薬袋を扉に向かって投げる。ユーリが受け止め、レイの胸のポケットに入れ、レイは外に駆け出していく。その後をエルフィが出て行った。程なく馬の鳴き声と馬車の車輪の音が聞こえ遠ざかっていく。
 その様子を獣人達がぽかーんと見ていると、ユーリが扉を閉めて何事もなかったように椅子に座る。再び静まりかえる。
「貴方達は、頭で会話できていますね」思案した後に遠慮がちに豹の獣人はそう告げた。
「まあばれるわよね」アンジーが深いため息とともに答えを返す。
「どういうことだよ」けがをしていた獣人が2人を見比べながら尋ねる
「私達が特別なんだろうけど、隷属したことで、隷属した者達同士で脳内で会話ができるようになったのよ」
「やはりそうでしたか。先ほど意味不明な雑音が頭の中に響いていましたが、それなのですね」
「そこまで気付いているのなら話が早いわね。ただしそれは、その魔力量によって距離が変化するのよ」
「なるほど。ドラゴン様と隷属しているからかなり距離が離れても可能なのですね?」
「残念ながら違うのよ。あの土のドラゴンはある事情でこの人に隷属しているから、こいつが中心にいるの。だからこいつの魔力量なのよ。もっとも、ドラゴンの魔力量を安定して受け止めるだけの魔力量を持っていないと不可能なんだけどね。もうわかるでしょう」アンジーがその獣人に言った。
「そうでしたか。私はてっきりドラゴン様に隷属してその魔力量を貸していただいているのかと思っていましたが、浅慮でした」
「まあ普通そう思うわよねえ」
『なーんだばれたのか、つまらんのう』
「あんたが馬鹿でかい声出すから、他の人にまで聞こえているのよ」
『そうだったか。なんかすまぬ』
『まあ、他言語で話しているから雑音にしか聞こえていないので助かっているわ』
『にしても、レイはすごい早さでここまで向かって来ておるぞ。どうやっているのじゃ』
『ああ、森の中を通っていますからできることです』ユーリがそう言った。
『それがどうして速さにつながる?』
『レイは、地面から跳躍するのではなく、木の幹を蹴って跳躍しています。ですので、木に跳ね返ったボールのように加速し続けます』ユーリがそう答える。
『走った方が速くないか?』
『森の中では着地すると草が邪魔をして視界が狭いのです。しかし、草の上を跳ぶと視界が広いので、かなり先まで見通せます』
『そういうことか』
「おお、到着じゃ速かったのう。とりあえず薬を・・・おう、これを使え。わかったレイ、撫でて欲しいのじゃろう?褒めて欲しいのじゃろう?よーくやったほれほれ全身なでまくりじゃ。ほれほれ」
『なんかくやしいです』ユーリが悔しがっています。
『ユーリ、わしがおぬしを撫で回したら気持ち悪いだけじゃろう』
『はい。でもなんかレイのうれしさいっぱいの感情がなんかくやしいです』
『わかったから。そっちで今日の活躍をあやつにいっぱいなでなでしてもらえ』
『はい』もうね、みなさん感情ダダ漏れですね。
「なにかユーリさんうれしそうですが、何か話していたのですか」その子がユーリを見ながら言った。
「まあそうね、頭の中の会話は感情まで伝わるのよ。わかるでしょう?」
「ええ?そうなんですか?隠し事はできませんね」その子がビックリしています。
「そうよ、好きとか嫌いとかうれしいとか悲しいとかダダ漏れな訳なのよ」
「それはすごいですね。色々と」
「そういうことよ。だから家族としての連帯感は他の家族と比べものにならないわね」
「恥ずかしくないですか。そのなんというか」豹の獣人は言いよどんでいる
「好きという感情はね。私とモーラ以外は、こんなやつが好きというところから隷属しているから、そう問題はないのよ。問題は隠し事ができないのよ。不安とか不満とか悪意とか嫉妬とかね。心を冷静にして会話すれば少しは伝わらないのだけれど」
「そういうものですか?」
「悪意は幸いないわね。嫉妬もちゃんとお互い解消しているから大丈夫だわ。でもねえ、こいつのエロい気持ちはねえ。ダダ漏れにしているから」
「よけいなことは言わないでください。だから貴方たちは、年齢とかサイズとかいろいろと私のエロの対象ではないって言っているでしょう」
「そうね、でもたまにでるじゃない。チラリズムが良いとか」
「それはまあそうですけど」
「わりい。ということは、それらもみんな許容しているということなのか?」ヒウマと呼ばれた獣人がビックリして言った。
「ええそうです。慣れますよ」パムが言った。そういいながらも意外に照れている。
「だって、尊敬している人のエロの部分なんてあまり知りたくないだろう。普通」パムを見ながら獣人が言った。
「ええ、でもそういうところもひっくるめて好きになっていますから」恥ずかしそうにパムが言う。うわ、萌えますねえ。
「あ、今ムラムラしてますね」
「ええ、ムラムラしています」
「そんな、私にムラムラするんですか?」頬を染めないでくださいもっと萌えてしまいます。
「いや、可愛いなあと思っていますよ」
「これは、あなたとは隷属はしないほうが良いですね」
「うちが特殊なんだと思いますよ。なんせ出来損ないの魔法使いですからね」私は頭をかいてごまかしています。
「いいんですか?そこまで話して」豹の獣人が私を怒った目で見て言いました。
「私は、正式な隷属がわからないので。もしかしたら本当の隷属は、お互いの感情は伝わらないのかもしれませんので」
「いや、普通の隷属は感情など相互通行しませんよ」なぜか豹の獣人さんから言い切られていましました。
「そうですよね。安心しました」
「さて、くだらない話は終わりにしましょうか。そろそろ着いたみたいだから」アンジーがそう言って扉に向かう。
 扉を開け全員で出迎える。前回の獣人の時と一緒だ。馬車から降りたフードをかぶった2人の姿を見てあの子は一目散に走り出し小柄な方に抱きついた。
「お母さん」正確に言葉になっていなかったがそう言ったのだろう。その後はお互いに座り込んでしまい、ただただ泣いていた。もうひとりはその二人を抱きかかえ二人もそれを受け入れ今度は3人で泣き始めた。他に3人の魔族が降りてきて、その様子を見て泣いている。
 扉の方にいた獣人3人も同様に泣いている。私達はその様子に涙を流すこともなく、全員がこの場所を見張る小高い丘に人影を見ていた。
「行きますか」メアが私を見て言いました。
「いや、泳がせます」私は手を前に出し風に乗せるように何かを放った。エルフィは、馬車を厩舎にいれ、レイは、私のところに来て命令を待っていた。いや、なでなでを要求していた。
 落ち着いたところで全員に声をかける。
「とりあえず中に入ってください。お話があります」私は怒りのオーラを声に乗せていたようで、全員がビクッとして、なんかすごすごと家の中に入ってきました。まあ本当に怒っていたのですけど。

○お説教タイム
 各部屋から集められた椅子を居間に持ち込み、全員がテーブルを囲んでいる。全員といってもスペースが限られるため、何人かは椅子だけです。
「さて元魔王様。何か言いたいことがあれば言ってください」察したのか、テーブルに手をついて深々と頭を下げる。
「このたびは、あなたとその家族を巻き込んで申し訳ありませんでした。知人でも何でもない貴方たちを今回の騒動に巻き込んだのは私の一存によるもので、その責も私にあります。どのようなことでも罰を受けます。ですから、ここにいる他の者達には何の責任もありません。寛大な配慮をお願いします」
 思わず吹き出しかけて、アンジーに足を踏まれ、モーラからは肘でどつかれました。
 スペースに余裕がなく立っているパムとメアさんに笑われていました。
「私の謝罪がなにか不興を買いましたか」怪訝そうに元魔王は私を見る。
「いえ、まるでだれかにそう言えとそそのかされたくらいに想定した謝罪でしたので、つい」
「ああ。おおかたドラゴンの里か魔法使いの里からの入れ知恵じゃろうなあ」その言葉に喉を詰まらせる元魔王。隣の妻は青ざめている。
「どこまでお知りになられているのですか?」恐る恐る尋ねる元魔王様。威厳はありませんねえ。
「普通そこは「ご存じなのですか?」じゃろう?」モーラが笑って言った。
「私達は何も知らないわよ。私達のあくまで推測よ。まったくあいつらろくでもない連中だわ」アンジーが付け加える。
「まあまあ。で、私が貴方たち夫婦とその子が死んだら勘弁してやると言ったらどうするんですか?」私は真顔でそう答える。
「え?」予想外の反応に戸惑っている。
「そんな答えが返ってくるとは思っていなかったと言う顔ですが、本気なんですよ。実は」私は表情を崩さず言った。
「・・・・」
「さて、もうお二方、やっと到着しましたので、その方を招き入れてから話を続けましょう」
「おうやっと来たか。遅かったのう」扉を開いてボロボロになった2人が入ってくる。
「何なのよあの結界は」エリスさんの登場です。
「どうして僕までこんな目に」ミカさんの登場です。
「どうしてそんなにボロボロなのですか?私の家の結界なんて簡単に解除できるのではありませんでしたか?」私は嬉しくなってそう言いました。やったぜ!
「はいはいそうですよ。前回もかなりかかりました。トラップも散々です。しかも何?今回のはひどすぎない?何もない空間から、たらいは降ってくるし、熱湯はかけられるし。しまいには、冷気と氷とか。遊びすぎなんじゃないの?」
「それはあなた専用のトラップですから他の人にはありません。そうですか。もっと生死をかけたものが良かったですか?次からはそうしますね」
「ちょっとそれどういうことよ」
「あなただから、それで済んでいるということです。わかりませんか?突然の来訪は、死に直結していると言っているんですよ。それとミカさん」私はちょっと苛ついているので語気が荒くなっています。
「はい」
「ドラゴンとして人と慣れすぎです。これは、私が水のドラゴンの方には話していて伝わっていると思っていたんですが残念です。ちゃんとドラゴンと人とのスタンスを保ってください。その結果がこれですよ。人に甘えるのもいい加減にしてください。本当に人に殺されますよ」私はそう言いました。
「そんな」私の言葉に笑っているミカさんに怒りを覚えた私は、ならない指を動かし、お二人にそれぞれ縄状の物でぐるぐる巻きにした。
「何をするんですか」ミカさんの表情が硬くなる。
「あなたは人に気を許しすぎていると言っているんです。その縄は少しずつ締まっていきます。そこから逃げるなり巨大化するなりして脱出してください」
「巨大化したら皆さんが」
「気にしなくて良いです。実際、あなたなんかには脱出できませんから」
「ならば、・・・そんな巨大化できない」何も出来ずに締まっていく縄に顔が青ざめていくミカさん。
「だから人に気を許してはいけないと言っているんです」
「でも、モーラ様は」
「モーラは私の家族です。私に何かあったら必ず動くでしょう。私も同じです。ですがあなたは違います。いつからかは知りませんがドラゴンの里の側についた時から私にとっては敵です。ですから今は敵です。エリスさん、これまでいろいろありがとうございました。ギブアンドテイクと思っていましたが、あなたが魔法使いの里についていますから敵です。2人とも敵です。ここで死んでください」
「そ、そんな」
「おぬし主もう許してやれ。相変わらず過激な事を言う」モーラがため息をつきながら言った。
「モーラがそう言うのでしたら。どうです?その縄はずれますか?なんならこのまま締め上げながら話を続けますか?死ぬ寸前まで」私は薄ら笑いをしていたようで、他の皆さんはドン引きです。
「わ、わかりました。許してください」
「私も許してね、じゃない許してください」
「わかりました」指を鳴らす真似で縄を解除する。2人とも座り込む。
「メアさん申し訳ありません。お二人に冷たい水をさしあげてください」
「わかりました」メアが水差しとコップを2個持って来て、2人に渡して、2人ともゴクゴクと水をおかわりする。2人の水を飲む音が聞こえるくらいの沈黙が部屋を包む。
「相変わらず突然ドSが発動するのう」モーラがあきれた顔で私を見て言った。
「これまでの傾向で言うと、ためてきた怒りが敵を発見できた時に発動しているようね」アンジーも冷たい目で私を分析して言いました。
「ああ、そうかそうじゃな」モーラがポンと手を手を叩いてそう言いました。
「なるほど、そうですね」パムが頷いています。
「そうか~」エルフィも頷いています。
「うんうん」レイまでもですか?
「なんでみんな頷いているんですか。まあ確かにそうですけど」ユーリまでもですか。
「じゃが、使いの者に当たってもなあ」モーラが言った。
「直接乗り込んだら戦争ですよ。だから使いの者に私の怒りの信憑性を伝えて欲しくてですねえ」
「しかし、これだけ付き合いの長い者にまで躊躇なく発動するとなると人としてどうなんじゃ」
「まあそうなんですけど。お二人を信じていたのにだまされたってのが大きいですねえ」
「全員今の聞いたじゃろう。こやつは裏切られるのが一番嫌いなんじゃ。見ていてようわかったな。なに、こやつは、先に正直に話してくれれば、何もしないし協力さえしてくれる。順番を違えぬ事じゃ」みんなうんうんと頷いている。
「さて、これで全員らしいのでなあ、話を聞こうか。とりあえずこやつが元魔王様に言った「死んでくれ」は、保留じゃ。わしらが誤解していたら困るのでな。わかっているとは思うが、話す内容に嘘やねつ造や隠すという行為があった場合、どんなことが起きるかたった今わかったろう。素直にすべて話せ」今度はモーラが脅しています。
しかし、全員が言い出せずに戸惑っている。
「話しづらそうね。なら元魔王様、あの里を出るところから話して欲しいのですけど」アンジーが元魔王様を見ながら言った。
「それでは私から話します」かなりビビりながら元魔王様は話し始めました。

○その日の事
「その日は朝に第1陣が到着し、私夫婦と子供の3体の死体が届く予定でした。しかし届くことはなく、私達のエクソダス計画がそこで破綻しました。ですが想定もしていたので、次案である家を焼いて私達が失踪したことにする。という案に変更せざるを得ませんでした。
 第3陣が来た時に、またしても想定外の事が起きました。当初の計画では、間者を殺す事としていて、私が反対してそれをしない事になっていたはずなのですが、第3陣の馬車に乗ってきた者達が、間者とその家族を殺し、私達夫婦をも殺そうとしたのです」
「家族もですか?それは間違いではありませんか、家族は皆生きていましたが」パムがあわてて確認する。
「残念ですが、殺されていたのは皆男だと聞きました。間者には女もいたのです」残念そうに元魔王様が言った。
「なるほど。妻が間者だったのを間違って夫の方を殺したと、里に残っていた家族のうち、間者がまだ生きていたということですか」
「その辺は私も詳しく知りません。間者の情報は何一つ私には知らされていなかったのです。ただ、この里に住み始めた頃、間者には男も女もいるので注意してくださいと言われていました」
「何度も話の腰を折ってすいませんが、里に住み始めた頃から間者がいることを知っていたと言うことですか?」現地に行ってきたパムが驚いた表情で再び発言する。
「少なくとも私は知らされていました。さすがに住んでいる者全てに話すわけにもいかず、会話する時などに用心していただけですが」
「すいません話を続けてください」
「はい。襲われた時、妻をかばい傷を受けました。妻はあわててこの子の部屋に駆け込み、転移の玉を渡して発動させました」元魔王の妻が頷いている。
「妻がこの子を転移させたのを見て、襲ってきた者達はそれ以上攻撃せず逃げていきました。その時には、私も何が何だかわからなくなり、子どもの後を追うために第3陣の馬車に乗って移動して、領地を出た後、馬車から逃げ出しました」
「それはなぜですか」
「この子を探すためです」
「どうやって探すつもりだったのですか」
「まず、転移の玉は使用すると魔族領の北の端に転移するはずだったのです。そしてこの子のいる場所は、この子の服に縫い付けた小さな水晶をたどればわかるようになっています。しかし、水晶の反応は最初はこの辺境の地を示した後、反応が消えてしまったのです」
「なるほどこの結界か」
「私達は慌てました。近づけば近づくほど手元の水晶が輝くようになっているはずなのに消えてしまった。もしかして、何か良くないことが起きたのかと。それで、この転移の玉をくれた人たちに連絡を取りました」
「その転移の玉がなければ元魔王様も転移できないと。転移の魔法を持っていないということなんですね」
「はい。転移の魔法を持っていたなら、襲撃してきた者を撃退してから、この子の後を追うこともできたでしょう。しかもその玉は転移発動までの時間も速いものでした。相当高価な物だと思われます」
「そうそうもらえる物ではないわよね」アンジーがそう尋ねる。
「私が魔王に就任した時にもらった物ですから」
「転移先が変えられていたと言いますが、これまで誰かに渡しませんでしたか?」
「よくおわかりですね。里を移すにあたって、根回しのためにドラゴンの里と魔法使いの里に行きました。その時に持ってくるよう言われていまして、お渡したところすぐ返してくれました」
「なるほど。ようやくわかったわ。そういう仕切りか」モーラが頷いています。
「さすがにずる賢いわねえ。どちらかわからないように両方に持ってこいといってたのね」アンジーが少し悔しそうです。
「何かお気に障るようなことを言いましたか?」何をびくついているのでしょうか。元魔王なのに。
「いいえあなたにではありませんよ。続けてください」
「それで、使いの者を双方に送りまして、何か情報が欲しいと言ったところ、その方角で唯一確認できない場所があるので、その付近ではないのかと聞かされました。それがこちらでした」
「なるほど。この強固な結界は、何もないように見えて調査不可能な地点と認識されましたか。うまい言い逃れですね」アンジーが悔しそうに言いました。
「理屈が通っているところが悔しいですねえ」私もちょっと悔しいです。
「続けてもよろしいですか?」
「すいませんお願いします」
「その方角に向かいましたが、さすがに馬が使えず、歩きとなりましたのでかなり時間がかかりましたが、やっとの思いで到着しました。しかし、水晶の反応もなく落胆していると様子を探っていた獣人の子達から連絡が入り、そこに暮らす魔法使いが保護しているという噂があると言いまして、様子をうかがっていたのです。
 ただ、あそこの住人にはうかつに近づいてはならない、現魔王と対立していると聞かされ、実際、家の周囲には人族以外の対魔族、対獣人の結界が張り巡らされ、近づける状態ではありませんでした。しかたなく周囲から見守るしかありませんでした」
「あー確かにねえ。魔族からの襲撃よけにかなり多重の結界を敷いていたわねえ」アンジーが私を見て言いました。
「確かに。今までの経験上、魔法使いやら魔族やら獣人が襲ってきていましたからねえ。すべてに対して対策を取っていましたから。そりゃあ近づける訳ないですねえ」私も妙に納得しています。
「笑えない話じゃなあ」モーラはそう言いながら少し笑っています。
「でも私たちは定期的に村に買い物には行っていましたよね」メアが思い出したように言った。
「はい。でも我々魔族には近寄りがたい方が乗っておられました」
「あーそうか。今回は必ず天使様が乗っていましたねえ」今度は私がアンジーを見ました。
「はい。これでは、我々が近づいても逃げられるだけだと。逆にこの子がこの家にいることが確信できました。ですので、近くに見張りを置かせていただき、あの子がいることを確認できたら接触しようと思っていました」
「場所はあの洞窟じゃな」
「はい。土のドラゴンの恩恵の残っているあの場所は、魔族が身を隠すにはちょうど良かったのです」
「しかし逃げ出したではないか」
「当初から見張りを交代でつけていましたが、その子達が捕まった段階で、一度この場所から逃げることに決めておりました。ですので、あの洞窟からすぐ逃げ出しました」
「どうやって、捕まったことがわかったのですか?」
「それは・・・」
「私達は、元魔王様に隷属しているからです」豹の獣人がサラッと言いました。
「ああそういうことね」アンジーが深く頷きました。
「あの変な球体に閉じ込められた時につながっていたものが切れた感じになりました。たぶんそれでしょう」豹の獣人が言いました。
「はい。絆が切れた段階で逃げる算段をしてすぐそこから逃げました」
「むしろ逃げない方が見つからなかったのではありませんか」パムが不思議そうに聞きました。
「ですが、一刻も早く逃げた方が良いと言われていました」
「誰にとか一応聞くけど、答えないわよね」
「はい。聞かれても話すなと言われています。残念ながらお話しできません」
「なるほど。我々に見つけさせる気、満々ですねえそれ」
「教えて欲しいのですが、この獣人さん達は、元魔王が拉致されていると、しかも他の獣人達も捕まっていると話していましたけど、そこは話が食い違っているんですが」パムがそう尋ねると。獣人さん達はちょっとだけビクッとしています。
「それについては、私たち家族と共にいた私の元親衛隊の者達が、我々を狙っている者達を攪乱する目的で、あえて身内にその情報を流していました。もう一つは、そのことで、あなた達が私達と獣人達を絶対探してくれるだろうと、そうすれば接触する機会もできるのではないか。その上で説得して、この子をお渡しいただけるのでは、と思っておりました」
「では、実際に魔族の方々は拉致されてはいないと言うことですか」
「最初の段階で、連絡のつかない者はいなかったと思います」
「なるほどね。どんどん悪い方に動いていたわね。この後に及んで嘘をついているとか」アンジーが嫌な笑いをしています。
「ああ、元魔王よ。お主も乗せられていた口じゃな」
「そうなんでしょうか」
「正直、あなた魔王には向いていないわよ。そんなふぬけでよく魔王をやってこられたわね」アンジーが毒舌です。
「この子が生まれてからは毒が抜けたというか、なんというか」そう言って元魔王様はその子を見る。
「まあよい。さて、だいたいわかったわ。まあ、本当の黒幕までたどり着けぬが。ミカ、わしの名付け子たるミカよ。それと、魔法使いたるエリス、いやエリス”嬢ちゃん”何か良い足りないことはないか?」
「今回の・・・」エリスがなにか言いかける。
「おおっと言い訳は聞かんぞ。謝罪もじゃ。今回の件の元魔王が話した内容に相違点があれば聞きたい。付け加えることができれば聞きたい。それだけじゃが何かあるか?」モーラがドスを効かせて言いました。
「ありません」ミカは、ただそれだけを言った。それを見ておどろくエリス。
「私の立場を理解してくれるのかしら。土のドラゴン。今はモーラと呼べば良いかしら」
「そんな話は聞いてはおらん。元魔王の話に相違はないのか、付け加えて話せる事がないのかと聞いている。あれば話すがいい」
「ないわ」歯がみしながら下を向いてつぶやくエリス。
「だそうじゃが、おぬしどうする?」私を見て言わないでくださいよ。わかっているくせに。
「やはり一家心中でしょうねえ」元魔王一家と獣人達が驚く。エリスもミカも同様だ。でも私達は動揺していない。それが一番良いからだ。


続く

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15歳になり、女神からの神託の儀で魔法使い(ウィザード)のジョブを授かった少年ショーンは、幼馴染で剣闘士(ソードファイター)のジョブを授かったデライラと共に、冒険者になるべく街に出た。 しかし、着々と実績を上げていくデライラとは正反対に、ショーンはまともに魔法を発動する事すら出来ない。 相棒のデライラからは愛想を尽かされ、他の冒険者たちからも孤立していくショーンのたった一つの心の拠り所は、森で助けた黒ウサギのノワールだった。 そんなある日、ショーンに悲劇が襲い掛かる。しかしその悲劇が、彼の人生を一変させた。 無双あり、ザマァあり、復讐あり、もふもふありの大冒険、いざ開幕!

おっさん、勇者召喚されるがつま弾き...だから、のんびりと冒険する事にした

あおアンドあお
ファンタジー
ギガン城と呼ばれる城の第一王女であるリコット王女が、他の世界に住む四人の男女を 自分の世界へと召喚した。 召喚された四人の事をリコット王女は勇者と呼び、この世界を魔王の手から救ってくれと 願いを託す。 しかしよく見ると、皆の希望の目線は、この俺...城川練矢(しろかわれんや)には、 全く向けられていなかった。 何故ならば、他の三人は若くてハリもある、十代半ばの少年と少女達であり、 将来性も期待性もバッチリであったが... この城川練矢はどう見ても、しがないただの『おっさん』だったからである。 でもさ、いくらおっさんだからっていって、これはひどくないか? だって、俺を召喚したリコット王女様、全く俺に目線を合わせてこないし... 周りの兵士や神官達も蔑視の目線は勿論のこと、隠しもしない罵詈雑言な言葉を 俺に投げてくる始末。 そして挙げ句の果てには、ニヤニヤと下卑た顔をして俺の事を『ニセ勇者』と 罵って蔑ろにしてきやがる...。 元の世界に帰りたくても、ある一定の魔力が必要らしく、その魔力が貯まるまで 最低、一年はかかるとの事だ。 こんな城に一年間も居たくない俺は、町の方でのんびり待とうと決め、この城から 出ようとした瞬間... 「ぐふふふ...残念だが、そういう訳にはいかないんだよ、おっさんっ!」 ...と、蔑視し嘲笑ってくる兵士達から止められてしまうのだった。 ※小説家になろう様でも掲載しています。

いじめられて死のうとしていた俺が大魔導士の力を継承し、異世界と日本を行き来する

タジリユウ
ファンタジー
 学校でのいじめを苦に自殺を図ろうとする高校生の立原正義。だが、偶然に助かり部屋の天井に異世界への扉が開いた。どうせ死んだ命だからと得体の知れない扉へ飛び込むと、そこは異世界で大魔導士が生前使っていた家だった。  大魔導士からの手紙を読むと勝手に継承魔法が発動し、多大な苦痛と引き換えに大魔導士の魔法、スキル、レベルを全て継承した。元の世界と異世界を自由に行き来できるようになり、大魔導士の力を継承した正義は異世界と日本をどちらもその圧倒的な力で無双する。

【完結】いせてつ 〜TS転生令嬢レティシアの異世界鉄道開拓記〜

O.T.I
ファンタジー
レティシア=モーリスは転生者である。 しかし、前世の鉄道オタク(乗り鉄)の記憶を持っているのに、この世界には鉄道が無いと絶望していた。 …無いんだったら私が作る! そう決意する彼女は如何にして異世界に鉄道を普及させるのか、その半生を綴る。

冷宮の人形姫

りーさん
ファンタジー
冷宮に閉じ込められて育てられた姫がいた。父親である皇帝には関心を持たれず、少しの使用人と母親と共に育ってきた。 幼少の頃からの虐待により、感情を表に出せなくなった姫は、5歳になった時に母親が亡くなった。そんな時、皇帝が姫を迎えに来た。 ※すみません、完全にファンタジーになりそうなので、ファンタジーにしますね。 ※皇帝のミドルネームを、イント→レントに変えます。(第一皇妃のミドルネームと被りそうなので) そして、レンド→レクトに変えます。(皇帝のミドルネームと似てしまうため)変わってないよというところがあれば教えてください。

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