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第14話 森を救え
第14-2話 モーラ脱ぐ
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○風のドラゴン
彼方から頭に声が響く。ああ以前にも聞いた声です。そして、人の姿になった風のドラゴンさんは、私達の所に降りてきました。
「おや風の。おまえが来たのか。よくここがわかったのう」手で顔を擦った後、モーラは風のドラゴンを見て言った。
「来たのかじゃないわよ。こんなことになってしまって。さすがに我々もあなた達のことをずーっと見ていたのよ」風のドラゴンさんは、モーラに向かってそう言いました。
「おおそうか、里にもばれたか。まあよい。これからこいつらをよろしくな」モーラの声に元気がありません。
「そうはいかないのよ。あなたに今いなくなられたらドラゴン界の均衡も崩れるのよ」風のドラゴンさんはちょっとあせっています。
「そんなのは、わしの知ったことでは無いのじゃ。この世界をこの森に生きるもの達をエルフ達の生活を守ることが今は最優先じゃ」そう言ってモーラは横を向いた。
「でも、あなたが欠けるとドラゴン大戦争になるのよ。せっかくあなたがこの世界の一部を救っても、その後この世界の人々は滅び、他の種族も滅び、最悪世界そのものがリセットされるかもしれないのよ」風のドラゴンさんがモーラと話をしていますが、相変わらず教師が子どもに説教しているようですねえ。
「どういうことですか?」私は思わず横から尋ねます。
「実はね、今回の件を手引きしたのは、魔族の中の急進派と結託した火と闇とあと草木のドラゴンらしいのよ。つまり土のドラゴンを消すことでドラゴン界の勢力バランスを崩して、そのすきに火のやつが実権を握り、ドラゴン界は魔族に不干渉を貫き、魔族は他種族に対して攻勢を強めるつもりだったの」風のドラゴンさん。そこまで話していいのでしょうか。部外者ですよ私達。
「その話は前にも聞いたが、別にそれはそれで良いでは無いか」モーラはまた横を向きました。
「現魔王ルシフェルは、今はまだそんなことまで考えていないのよ。でもその配下には、そのやり方に不満を抱いている者達、いわゆる魔族絶対主義の一派がいて、火のやつは、その者達と結託して魔王ルシフェルと最近親しくなった土のドラゴンを抹殺して、ルシフェルを再び魔族絶対主義に傾かせようとしているの。火と闇は、膠着したこの世界のままであってほしくて、でも人間やエルフなどの種族は不要と考えていて、現在の状況の打破。つまり魔族と人間との融和を図っているあなたが邪魔で、排除できれば、魔族絶対主義者達がルシフェルを説得して、人間がいなくなる中でなら、魔族と共に覇権を握ってしばらくは安泰だと考えたみたいなのよ」だからそんなに詳しく話さないでくださいよ。聞きたくありませんから。
「安易じゃのう。魔族絶対主義なんぞになったら、人間やエルフは絶対反撃するわ。そうなれば、草木のやつだってエルフに味方をするし、金のやつだってドワーフにつくじゃろうに。もしかしてドラゴン達の分断も狙いなのか?」モーラも話に乗っていますが、今はその話は良いです。
「さあね。火の奴は単に里の長になりたいだけなのかも。他の種族の事は関係なく」
「頼むからわしを巻き込まんでくれんか。いや、もう巻き込まれているし、もういなくなるからどうでもよいが」
「そこでね、この状況を打破する方法があるのだけれど」風のドラゴンさんは、そうモーラに言いました。
「そんなものあるのか?土のドラゴンであるわしにしかこの状況は変えられないと思うのだが」モーラがポカーンとしています。
「念のため聞くけど、死にたい訳ではないのね」風のドラゴンさんそれは今更では無いですか。
「当たり前じゃ。まだわしはこの世界に絶望も悲観もしていないし、むしろ今が最も充実しているのじゃ。死ぬ気などもうとうないわ。何か方法があるのか?」少し希望が見えてちょっと嬉しそうなモーラです。
「あるわ。っていうかそんなことも知らなかったのと言いたいくらいよ。ドラゴンの里から早々に飛び出したツケが回ってきたのね」なぜか風のドラゴンさんが嬉しそうです。
「いいから教えろ」ちょっとイラッとしてモーラが言った。
「はいはい。今いなくなられてはこちらにも都合が悪いのよ。準備が間に合わなくなるから」えーそこでもったいつけますか。
「おまえの企みなどしらん。早く教えろ」さらにイラッとしているモーラ。
「脱皮よ」フフンどうよと言う顔で風のドラゴンさんが言った。
「なんじゃと?脱皮?」モーラは怪訝そうな顔です。
「ほらねー。里にいれば誰かの脱皮が見られていて、憶えていれば思い出したかもしれないのにね」してやったりな感じで風のドラゴンさんが言いました。
「脱皮なら知っているわ。だからそれがどうした」モーラが逆にあきれている。
「土のドラゴンの場合は、それが「土の栄養」になるのよ」先生が諭すように風のドラゴンさんが言いました。
「それはそうだが、そんなに体はでかくないぞ」モーラがそう言い返す。
「だ・か・ら!その辺がわかっていないのよ。土のドラゴンの特性は大地に根ざすものでしょう?だから森羅万象、木の育成から火山の維持まで他の属性には真似できないことができるの。金属でさえ土の中で作られるのよ。だからあなたが脱皮した後の抜け殻は、大地の中に無限に浸透してその効果を発揮するの。もちろんあなたの意志でね。しかも未来永劫。なんらかの物理的な圧力をかけられない限り。例えば草が芽を出すとか火山が噴火するとかがないとずーっと効力を持つのね」おお、まさに先生のように懇切丁寧に教えてくれました。私達が全員頷いています。
「もっとも風や水や氷による侵食は避けられないけどね」風のドラゴンさんなんか威張ってますよ。ドヤ顔ですよ。
「だからさっさと脱皮して終わらせなさいよ。同化なんてしないで」かがんでモーラに顔を近づけて風のドラゴンさんは言いました。
「そうじゃったのか。よかった。まだわしは生きていていいんじゃな。おぬし達とともに生きていいんじゃな」モーラはそう言って私達を見る。
「よかった。本当に良かった」私はうれしくてつい泣いてしまった
「また泣くのかおぬしは」モーラが私を見てあきれています。
「うれしいときに泣くのはかまわないでしょう?」私は服の袖で涙を拭く。
「なあ風の。脱皮はどうやるんじゃ?」モーラが恥ずかしそうに風のドラゴンさんに尋ねます。
「はあ?今まで脱皮していないの?」風のドラゴンさんはびっくりしています。
「ああ、記憶のある間は一度もない」ええっ何か偉そうに胸を張って言いましたよこの人。
「なんてこと!まだ一度も脱皮していないでこの力なの。末恐ろしいわ」風のドラゴンさんがマジでビビっています。
「そうなのか?」モーラが首をかしげる。
「大体は500年に1回くらいの割合で体がかゆくなるのよ。そしてヒビが入り出すのだけれど」風のドラゴンさんはため息をつきながら言いました。
「かゆくなったことはあるがすぐおさまったぞ」モーラも身に覚えはあったらしい。
「そうかその辺が土の癒やしの力なのね。でもそのまま放って置くとその反動がくるかもしれないわよ。長命なドラゴン、特に1柱をなすドラゴンはその周期が長いらしいからそのせいもあるかもしれないわね」風のドラゴンさんが考察に入りました。
「すでに1000年近く経っておるが大丈夫なのか?」モーラもなにげに不安そうです。
「そうねえ。それはちょっと長すぎるからねえ。かなりまずいと思うのよ。つまりあなたの中の癒やしの力があなたの脱皮を妨げるくらい強くて、このままだと魔力を放出できなくて、内部で破裂して自壊する可能性があるわね」風のドラゴンさんは上を見て考えながら言っています。
「ええっ」私達までびっくりしています。
「今思えば、あなたがその幼女体型になったのも魔力を抑え込むためにとった自衛措置とも取れるわね」風のドラゴンさんはモーラをしげしげと見ながら言いました。
「よくわからん」モーラ首をかしげて言いました。おや可愛いですねえ。あ、全員が空気読めこいつとか思いましたね。
「えーとね、膨大な魔力をあの大きな体では耐えきれなくなっていたので、成人女性に変化すると人間の成人と同じなので魔力も見合うだけ持っていなければならない。でも多すぎる魔力を持つことになって耐えきれない。幼女体型なら魔力をその体に収めなくても生活できるので幼女になったということなのかな?」風のドラゴンさんがなにげに疑問形で話しています。
「確かにわしはこの姿になろうと思ってなったわけではない。その時はこの男の趣味が反映したのじゃと勝手に思っておったが。自衛措置だったと?」いや、私の趣味ではないですよと反論するのは今はやめておきましょう。
「その体ではうまく魔力を制御できないし、魔力量も少なかったでしょう?」風のドラゴンさんは、自分の考察した事を言ったようです。
「ああそのとおりじゃ」モーラは合点がいったようでです。
「からだが魔力を使えなくしていたのね。本来の魔力をその体で使っていたら自壊していたのね」
「こわ。今聞くとこわ」モーラがちょっとビビっています。なるほど。最近の様子はそういう事だったのですねえ。
「だから早く脱皮しなさいよ」風のドラゴンさんが両手を腰に当てて言いました。
「すぐ脱皮しろと言われてもできんぞ」モーラが困惑しています。珍しいですねえ。
「しかたないわね、風の風化促進か土の活性化のどちらかで試してみましょう」
「すまんな」モーラが頭をかいています。
「とりあえず大型化して」相変わらず教師のように言い聞かせています。
「おおそうであった」
急いで我々はそこから移動する。いや、モーラがドラゴンになって空中に浮かんで移動して、地上に降り立ちました。風のドラゴンさんは人の姿のままです。
「一度憶えれば大丈夫よ。まず風化ね」風のドラゴンさんがそう言うと、モーラの回りに風の渦が生じる。徐々にヒビが入ってくる。しかし風がおさまるとヒビが元に戻っていく。
「さすが癒やしの力。強力ね。今度は念じて。この壁を壊す、もしくは破る。ああ、剥がすでも良いからイメージして」
「ああ、一時期そういう夢を見ていたのう」モーラがのんきに言った。
「その時脱皮しておきなさいよ!」
「いや、なんか恐いじゃろう。体が壊れそうで。体が壊れたら周囲に何かが起きて迷惑をかけそうじゃし」声がいい訳めいていますねえ。怖がりさんだったのですか?
「強い力を持つ者は、力の怖さを知るがゆえにその力を行使することをためらう・・か」風のドラゴンさんがウンウン頷いています。
「しようがないのう。では、念じるのでよろしくな」モーラはそう言って目を閉じる。
「それと治すんじゃ無くて破壊することを考えてね」
「壊すのは不得意じゃなあ」モーラがまたのんきに言いました。
「い!い!か!ら!」風さんが怒って言いました。ええモーラはやはりまだ子どもだったのですねえ。
再び風が起こり、外皮に亀裂が入る。今度は外皮が剥離するように舞い上がり出す。その風の中、モーラのからだが光り出す。一瞬の閃光とともに元の状態に戻ったように見える。しかし、やや大きくなっているようだ。ここからでは残念ながらわからりません。目に見えない霧のようななにかが舞い散っていることがわかる。これは魔力なんですね。
「変わりないような気がするぞ。脱皮もしておらんし。少しずつだが、体が大きくなっているようなのは感じるが」
「あなたの場合、抜け殻は土に還るのよ。感じなさいよ抜け殻を」本当に会話を見ていると先生と生徒ですねえ。特に生徒は、先生の言う事を聞かない悪ガキですよねえ。私がそう思うと全員が頷いています。モーラを除いて。
「ふむ。おおそうか。そこに在るのか。そうかそうか。頼んだぞこの土地を育み守っていてくれ」モーラが目をつぶり、何かに語りかけていました。すごい良いシーンですねえ。しかし台無しです。
「人に話しかけているみたいですね」それでも私は、モーラの顔を見て素敵だなと思いました。
「1000年近くも経っていれば、魂が宿るかもね」アンジーが言いました。
「うむわかった。脱皮とはこういうことか」モーラは目を開けて風のドラゴンさんを見ました。
「これは貸しね」風のドラゴンさんはウィンクをモーラに帰します。
「すまぬな。すぐにでも返したいが、なにか返せるものがあるかのう」モーラは周囲を見渡します。いやそんなところに返せる物などありませんけどねえ。
「まあ貸しはいいすぎね、こちらも都合もあったから。それに今はそんな状況じゃ無いからいいわ。ああ、それなら一度あなたの家で家族と一緒に食事をさせてもらおうかしら」風のドラゴンさんが明るい顔で言いました。
「そんな事で良いのか?あ、水から何か聞いたのか?」モーラはそう言いました。
「相変わらず頭の回転が速いわね。そうよ、あの水が楽しいって言っていたから、どんなものか気になって・・って、まあそんなもので良いわよ。じゃあ」風のドラゴンさんは周囲の気配を感じたのか一瞬だけ意識をどこかに向けてから言いました。
「ああ、助かった。死ななくてすんで良かった」
「ああ、後ね。脱皮後は魔力もすっからかんだし、外皮も柔らかいから、魔力が戻るまでは、周囲の敵に気をつけてね~」そう言って風さんは手を振って飛びあがりました。
「なんじゃと?それを早く言わぬか」モーラは風のドラゴンさんの方に向かって叫びます。
「さっそく嗅ぎつけてきたわよ。私は今回、何も知らなかったことにしたいから手助けはできないの。魔法使いさんあとはよろしくね~」そう言ってまた手を振って消えました。
○ ドリルはロマン
「くっ」幼女化して降りてくるモーラ。地上に着いた時には、ふらついて立ち膝になってしまいました。
「これくらいはできるのか」モーラは自分の体を見ながら自分に言い聞かせるように言ったが、額に脂汗をかいているし息も荒い。でも、さっきの話でいくと脱皮して、幼女ではなくもっと成長した姿になるはずではないのでしょうか?別に期待したわけではありませんが。
「とりあえずこの中にいてください気配が消えるでしょう」私はパチリと指を鳴らしモーラを球体で包み込む。
「すまぬ」その中で座り込むモーラ。
「とりあえずモーラの気配が消えて混乱しているみたいですからこの隙に逃げましょう」座り込んで周囲を探っているエルフィが言った。
「しかしどこへ逃げる?逃げたとしてもすぐに追い付かれるぞ」モーラは会話すらつらそうです。
「混乱しているという事は、魔族はモーラを狙っているということですよね?」
「あ、ああ。そうなるな」モーラもそこに気付いたようです。
「さっきは黒い霧が広がるためには、私達が邪魔だった。それがモーラのせいで失敗になり、モーラが弱っているので、モーラがターゲットになったと言う事ですよね」
「再確認せんでもそういうことじゃろう」モーラが焦っています。
「じゃあ土の中へ逃げますか」私は淡々と言いました。
「ああなるほどなって、意味わからんわ」おやモーラ。セルフ突っ込みするだけの元気はあるんですね。
「土を掘ってその中に隠れてもらいます」私は良い案だと思い、胸を張って言います。
「土を掘るにしては時間が無いのでは無いか?」モーラが自信ありそうな私を見て疑い深げに聞きます。
「もちろんドリルを使って地下を掘り進みます」私は鼻息荒く言いました。
「ドリル?」モーラはその言葉の意味を知りませんので首をかしげます。
「ドリルですよドリル。男のロマンです」私はさらに混乱させる事を言いました。
「だから意味不明です。その変な人の形をしたもの(合体ロボ)のイメージも」ユーリに突っ込みを入れられました。
「そもそもドリルって構造上、土を外に排出できないですよ。トンネルを掘るならやっぱりシールド工法ですよ」なぜか得意そうにアンジーが言いました。やけに詳しいですねアンジー。
「詳しいですね。でもそのまま埋めたら見つかってしまいますね。メアさん。すいませんがあの辺に穴を開けてもらえませんか」そう言ってかなり遠く離れた地点を指さしました。
「どういう風にですか?」メアがびっくりして聞き返します。
「我々が立っているくらいの範囲を拳でも足でも良いので、地面を大きい蓮の葉みたいな感じにへこませてください。イメージはこんな感じに」私は身振り手振りで説明しました。イメージは頭の中にあるのですが、慌ててしまってうまく表現できません。
「なんとなくわかりました」メアは、かなりの距離を取って、膝をつき地面に向かって正拳突きをする。
「はっ!」かけ声とともに思っていた以上のくぼみができる。その周囲に蓮の葉のようなへこみができている。そうですか私の頭の中のイメージが見えましたか。イメージぴったりです。もう慣れましたよ。とほほ。
「これでよかったですか」メアは戻ってきて言った。
「ありがとうございます」
「急がないとかなり近づいてきています」エルフィが焦りの表情を浮かべている。
「エルフィさん申し訳ありませんが、あのくぼみの中心部の少し横で薄い防御フィールドを広範囲に展開してください。軽めの魔法に対抗する感じで」
どうせ私の頭の中のイメージを見ているのでしょうから簡単な説明です。
「わかりました」走って行って、そこに立って、両腕を天に向け天球状にシールドを展開する。しかし、その顔はかなりつらそうだ。さきほどの黒い霧を拡大させない防波堤の魔法でかなり疲労しているみたいです。長くは持たなさそうですね。
「ではメアさんモーラをここに持ってきてください」
できたくぼみからかなり遠くて森に近い位置。防御フィールドの範囲を考えてその端のギリギリのところに私は立ちました。そこにメアとユーリが球を持ち上げて私の所に持ってくる。
「おぬしらがわしを守るのか?」モーラは球の中から尋ねる。
「違いますよ。モーラを土の中に埋めた後、あそこに移動して魔族の攻撃をしのいでから私たちは逃げます」
「なんじゃと?」
「数日、土の中で眠っていてください」
私はモーラの入っていた球を破壊して、再びモーラをシールドで覆います。今度は下に三角錐がついた円筒形にして、下の三角錐が地面に刺さって立っています。そして地面に刺さった先端の三角錐がくるくると回り始め、徐々に土に埋まっていきます。土を外に掻き出しながらどんどん地下に沈んでいきます。
「これはすごいですね」ユーリが目を輝かせている。ドリルは男の子のロマンなんですが、ユーリも好きですか。
「でもこのままだとモーラは魔力が吸収できなくて干からびてしまうのである程度の地下に進んだらシールドの下を少しだけ壊しますね」
「わしは元の体には戻れないのか?このまま魔力を補充するとかなり時間がかかると思うぞ」円柱の中から
「襲われない方を優先します。体が大きくなると気配も大きくなるので発見されやすくなりますから、そのままのほうが良いと思います」
「なんとか巨大化したまま埋められんのか」モーラは、少し焦っているようです。
「それだけの大きさの穴を掘っている時間がありません。それとそれだけ大きなシールドを構築したことがないのですよ。前の大きさより2倍以上ありそうなので」
「しかたないか。この体だと魔力の回復が遅いのじゃが」
「じゃあ7日間くらいはかかりますかね?」
「そのくらいかのう。しかたない。その間メアのおいしい食事も風呂もダメという事か。ううっ地獄じゃ」おどけてみせるモーラ。余裕が出てきたようです。うれしいですね。
「本当に俗世にまみれましたね。さきほどのドラゴンとしての尊厳はどうしましたか。死ぬよりましでしょう。魔力は地中から吸収できるのですから」私は軽口に軽口で返します。
「おいしい料理を用意してお戻りをお待ちしています」メアが微笑む。
「そうですよ。出られたら一緒にお風呂入りましょう。モーラ」ユーリが素直に言う。
「おお、ユーリはやさしいなあ。わかった数日でなんとかしてみせよう」
「覚悟は決まりましたか。ではしばらくお休みください」
私は魔法をさらにかけると少しだけ沈降速度が速くなる。
「しばらくは眠っているからな、ちゃんと起こしに来いよ」
「何かあると困りますからちゃんと近くにいます。安心してください」
「うむ頼んだ」
「さて~鬼の居ぬ間に籠絡しよう。ピト」そう言ってアンジーが私の腕に胸を押し当てる。
「おいアンジー!抜け駆けは許さんぞ。協定はどうした」顔をシールドに貼り付けてモーラが言いました。
「冗談よ。でも早く戻らないとこうなるわよ。モーラ」真剣な顔でアンジーが言う。
「ふふ、これは寝ているわけにはいかなそうだ。わかった。わしなりに全力で事に当たろう。どうせ暇だしな。研究してみるわ」
「そうよ。寝ているなんてあなたらしくないわ。弱音?」そう言ったアンジーの表情がくるくると変わる。そこがアンジーの良いところだ。
「ふふん、言いおったな。アンジーおぬしには戻ったらべとべとになった髪を洗ってもらうからな」モーラを入れた円筒はすでに目の近くまで隠れてしまったのでモーラは髪の毛を持ち上げてアンジーに見せている。
「はいはい待ってますよー」モーラの頭が土に隠れて、声だけになってからは、心配そうな顔になるアンジー。私はいつもどおりの会話をしてくれたことがうれしかった。
そうして土の中にモーラは消えた。盛り上がった土はユーリが踏み固めている。魔力による連絡もシールドの下の方が解放されるまでしばらくは無理だ。さすがに土圧の中を突き進むために魔力を濃く、厚めに使っている。停止してシールドの下が開くまでは難しいだろう。
「ねえ大丈夫なんでしょうね」アンジーが私を睨み付ける。
「それは、土の中ですからモーラの領分です。おまかせするしかないです。それよりも、エルフィのシールドに気付いてそろそろ敵が来ます。エルフィありがとうございます。これだけ地下に潜ったら土の中のモーラは探知されないと思います。もういいですよ」
エルフィは、高く掲げた両腕のまま倒れ込む。メアが抱きとめる。
「さてもう少しだけ頑張りますか」
Appendix
英雄が同族に死に追いやられその子孫は迫害されていた。
長老達はやり過ぎていたとは思わないか。結果あのように殺されてはいないが復讐されている。
今回のことで全てが明るみに出て今後里はどうなっていくのだろう
変わらなければならないのに変わらない気もしている
この里の家の下を覆っている石のように固く冷たいだけで意味の無い、必要のないものなのかもしれない
おい、それを言ってはいけない
だが、外に出た事がある者達ならわかっているだろう。こんな里は考え方が古いのだと
だがどうにも変えようがないだろう
里を正すか、里を去るか。そう俺は考え始めている。
そうなのか?今は聞かなかったことにするよ。だが里を出る時は声を掛けてくれ
ふふ。追放が怖いか?
まあな。でも追放されたとして、ここから出て行くのだから同じでは無いか?
そうだな
続く
彼方から頭に声が響く。ああ以前にも聞いた声です。そして、人の姿になった風のドラゴンさんは、私達の所に降りてきました。
「おや風の。おまえが来たのか。よくここがわかったのう」手で顔を擦った後、モーラは風のドラゴンを見て言った。
「来たのかじゃないわよ。こんなことになってしまって。さすがに我々もあなた達のことをずーっと見ていたのよ」風のドラゴンさんは、モーラに向かってそう言いました。
「おおそうか、里にもばれたか。まあよい。これからこいつらをよろしくな」モーラの声に元気がありません。
「そうはいかないのよ。あなたに今いなくなられたらドラゴン界の均衡も崩れるのよ」風のドラゴンさんはちょっとあせっています。
「そんなのは、わしの知ったことでは無いのじゃ。この世界をこの森に生きるもの達をエルフ達の生活を守ることが今は最優先じゃ」そう言ってモーラは横を向いた。
「でも、あなたが欠けるとドラゴン大戦争になるのよ。せっかくあなたがこの世界の一部を救っても、その後この世界の人々は滅び、他の種族も滅び、最悪世界そのものがリセットされるかもしれないのよ」風のドラゴンさんがモーラと話をしていますが、相変わらず教師が子どもに説教しているようですねえ。
「どういうことですか?」私は思わず横から尋ねます。
「実はね、今回の件を手引きしたのは、魔族の中の急進派と結託した火と闇とあと草木のドラゴンらしいのよ。つまり土のドラゴンを消すことでドラゴン界の勢力バランスを崩して、そのすきに火のやつが実権を握り、ドラゴン界は魔族に不干渉を貫き、魔族は他種族に対して攻勢を強めるつもりだったの」風のドラゴンさん。そこまで話していいのでしょうか。部外者ですよ私達。
「その話は前にも聞いたが、別にそれはそれで良いでは無いか」モーラはまた横を向きました。
「現魔王ルシフェルは、今はまだそんなことまで考えていないのよ。でもその配下には、そのやり方に不満を抱いている者達、いわゆる魔族絶対主義の一派がいて、火のやつは、その者達と結託して魔王ルシフェルと最近親しくなった土のドラゴンを抹殺して、ルシフェルを再び魔族絶対主義に傾かせようとしているの。火と闇は、膠着したこの世界のままであってほしくて、でも人間やエルフなどの種族は不要と考えていて、現在の状況の打破。つまり魔族と人間との融和を図っているあなたが邪魔で、排除できれば、魔族絶対主義者達がルシフェルを説得して、人間がいなくなる中でなら、魔族と共に覇権を握ってしばらくは安泰だと考えたみたいなのよ」だからそんなに詳しく話さないでくださいよ。聞きたくありませんから。
「安易じゃのう。魔族絶対主義なんぞになったら、人間やエルフは絶対反撃するわ。そうなれば、草木のやつだってエルフに味方をするし、金のやつだってドワーフにつくじゃろうに。もしかしてドラゴン達の分断も狙いなのか?」モーラも話に乗っていますが、今はその話は良いです。
「さあね。火の奴は単に里の長になりたいだけなのかも。他の種族の事は関係なく」
「頼むからわしを巻き込まんでくれんか。いや、もう巻き込まれているし、もういなくなるからどうでもよいが」
「そこでね、この状況を打破する方法があるのだけれど」風のドラゴンさんは、そうモーラに言いました。
「そんなものあるのか?土のドラゴンであるわしにしかこの状況は変えられないと思うのだが」モーラがポカーンとしています。
「念のため聞くけど、死にたい訳ではないのね」風のドラゴンさんそれは今更では無いですか。
「当たり前じゃ。まだわしはこの世界に絶望も悲観もしていないし、むしろ今が最も充実しているのじゃ。死ぬ気などもうとうないわ。何か方法があるのか?」少し希望が見えてちょっと嬉しそうなモーラです。
「あるわ。っていうかそんなことも知らなかったのと言いたいくらいよ。ドラゴンの里から早々に飛び出したツケが回ってきたのね」なぜか風のドラゴンさんが嬉しそうです。
「いいから教えろ」ちょっとイラッとしてモーラが言った。
「はいはい。今いなくなられてはこちらにも都合が悪いのよ。準備が間に合わなくなるから」えーそこでもったいつけますか。
「おまえの企みなどしらん。早く教えろ」さらにイラッとしているモーラ。
「脱皮よ」フフンどうよと言う顔で風のドラゴンさんが言った。
「なんじゃと?脱皮?」モーラは怪訝そうな顔です。
「ほらねー。里にいれば誰かの脱皮が見られていて、憶えていれば思い出したかもしれないのにね」してやったりな感じで風のドラゴンさんが言いました。
「脱皮なら知っているわ。だからそれがどうした」モーラが逆にあきれている。
「土のドラゴンの場合は、それが「土の栄養」になるのよ」先生が諭すように風のドラゴンさんが言いました。
「それはそうだが、そんなに体はでかくないぞ」モーラがそう言い返す。
「だ・か・ら!その辺がわかっていないのよ。土のドラゴンの特性は大地に根ざすものでしょう?だから森羅万象、木の育成から火山の維持まで他の属性には真似できないことができるの。金属でさえ土の中で作られるのよ。だからあなたが脱皮した後の抜け殻は、大地の中に無限に浸透してその効果を発揮するの。もちろんあなたの意志でね。しかも未来永劫。なんらかの物理的な圧力をかけられない限り。例えば草が芽を出すとか火山が噴火するとかがないとずーっと効力を持つのね」おお、まさに先生のように懇切丁寧に教えてくれました。私達が全員頷いています。
「もっとも風や水や氷による侵食は避けられないけどね」風のドラゴンさんなんか威張ってますよ。ドヤ顔ですよ。
「だからさっさと脱皮して終わらせなさいよ。同化なんてしないで」かがんでモーラに顔を近づけて風のドラゴンさんは言いました。
「そうじゃったのか。よかった。まだわしは生きていていいんじゃな。おぬし達とともに生きていいんじゃな」モーラはそう言って私達を見る。
「よかった。本当に良かった」私はうれしくてつい泣いてしまった
「また泣くのかおぬしは」モーラが私を見てあきれています。
「うれしいときに泣くのはかまわないでしょう?」私は服の袖で涙を拭く。
「なあ風の。脱皮はどうやるんじゃ?」モーラが恥ずかしそうに風のドラゴンさんに尋ねます。
「はあ?今まで脱皮していないの?」風のドラゴンさんはびっくりしています。
「ああ、記憶のある間は一度もない」ええっ何か偉そうに胸を張って言いましたよこの人。
「なんてこと!まだ一度も脱皮していないでこの力なの。末恐ろしいわ」風のドラゴンさんがマジでビビっています。
「そうなのか?」モーラが首をかしげる。
「大体は500年に1回くらいの割合で体がかゆくなるのよ。そしてヒビが入り出すのだけれど」風のドラゴンさんはため息をつきながら言いました。
「かゆくなったことはあるがすぐおさまったぞ」モーラも身に覚えはあったらしい。
「そうかその辺が土の癒やしの力なのね。でもそのまま放って置くとその反動がくるかもしれないわよ。長命なドラゴン、特に1柱をなすドラゴンはその周期が長いらしいからそのせいもあるかもしれないわね」風のドラゴンさんが考察に入りました。
「すでに1000年近く経っておるが大丈夫なのか?」モーラもなにげに不安そうです。
「そうねえ。それはちょっと長すぎるからねえ。かなりまずいと思うのよ。つまりあなたの中の癒やしの力があなたの脱皮を妨げるくらい強くて、このままだと魔力を放出できなくて、内部で破裂して自壊する可能性があるわね」風のドラゴンさんは上を見て考えながら言っています。
「ええっ」私達までびっくりしています。
「今思えば、あなたがその幼女体型になったのも魔力を抑え込むためにとった自衛措置とも取れるわね」風のドラゴンさんはモーラをしげしげと見ながら言いました。
「よくわからん」モーラ首をかしげて言いました。おや可愛いですねえ。あ、全員が空気読めこいつとか思いましたね。
「えーとね、膨大な魔力をあの大きな体では耐えきれなくなっていたので、成人女性に変化すると人間の成人と同じなので魔力も見合うだけ持っていなければならない。でも多すぎる魔力を持つことになって耐えきれない。幼女体型なら魔力をその体に収めなくても生活できるので幼女になったということなのかな?」風のドラゴンさんがなにげに疑問形で話しています。
「確かにわしはこの姿になろうと思ってなったわけではない。その時はこの男の趣味が反映したのじゃと勝手に思っておったが。自衛措置だったと?」いや、私の趣味ではないですよと反論するのは今はやめておきましょう。
「その体ではうまく魔力を制御できないし、魔力量も少なかったでしょう?」風のドラゴンさんは、自分の考察した事を言ったようです。
「ああそのとおりじゃ」モーラは合点がいったようでです。
「からだが魔力を使えなくしていたのね。本来の魔力をその体で使っていたら自壊していたのね」
「こわ。今聞くとこわ」モーラがちょっとビビっています。なるほど。最近の様子はそういう事だったのですねえ。
「だから早く脱皮しなさいよ」風のドラゴンさんが両手を腰に当てて言いました。
「すぐ脱皮しろと言われてもできんぞ」モーラが困惑しています。珍しいですねえ。
「しかたないわね、風の風化促進か土の活性化のどちらかで試してみましょう」
「すまんな」モーラが頭をかいています。
「とりあえず大型化して」相変わらず教師のように言い聞かせています。
「おおそうであった」
急いで我々はそこから移動する。いや、モーラがドラゴンになって空中に浮かんで移動して、地上に降り立ちました。風のドラゴンさんは人の姿のままです。
「一度憶えれば大丈夫よ。まず風化ね」風のドラゴンさんがそう言うと、モーラの回りに風の渦が生じる。徐々にヒビが入ってくる。しかし風がおさまるとヒビが元に戻っていく。
「さすが癒やしの力。強力ね。今度は念じて。この壁を壊す、もしくは破る。ああ、剥がすでも良いからイメージして」
「ああ、一時期そういう夢を見ていたのう」モーラがのんきに言った。
「その時脱皮しておきなさいよ!」
「いや、なんか恐いじゃろう。体が壊れそうで。体が壊れたら周囲に何かが起きて迷惑をかけそうじゃし」声がいい訳めいていますねえ。怖がりさんだったのですか?
「強い力を持つ者は、力の怖さを知るがゆえにその力を行使することをためらう・・か」風のドラゴンさんがウンウン頷いています。
「しようがないのう。では、念じるのでよろしくな」モーラはそう言って目を閉じる。
「それと治すんじゃ無くて破壊することを考えてね」
「壊すのは不得意じゃなあ」モーラがまたのんきに言いました。
「い!い!か!ら!」風さんが怒って言いました。ええモーラはやはりまだ子どもだったのですねえ。
再び風が起こり、外皮に亀裂が入る。今度は外皮が剥離するように舞い上がり出す。その風の中、モーラのからだが光り出す。一瞬の閃光とともに元の状態に戻ったように見える。しかし、やや大きくなっているようだ。ここからでは残念ながらわからりません。目に見えない霧のようななにかが舞い散っていることがわかる。これは魔力なんですね。
「変わりないような気がするぞ。脱皮もしておらんし。少しずつだが、体が大きくなっているようなのは感じるが」
「あなたの場合、抜け殻は土に還るのよ。感じなさいよ抜け殻を」本当に会話を見ていると先生と生徒ですねえ。特に生徒は、先生の言う事を聞かない悪ガキですよねえ。私がそう思うと全員が頷いています。モーラを除いて。
「ふむ。おおそうか。そこに在るのか。そうかそうか。頼んだぞこの土地を育み守っていてくれ」モーラが目をつぶり、何かに語りかけていました。すごい良いシーンですねえ。しかし台無しです。
「人に話しかけているみたいですね」それでも私は、モーラの顔を見て素敵だなと思いました。
「1000年近くも経っていれば、魂が宿るかもね」アンジーが言いました。
「うむわかった。脱皮とはこういうことか」モーラは目を開けて風のドラゴンさんを見ました。
「これは貸しね」風のドラゴンさんはウィンクをモーラに帰します。
「すまぬな。すぐにでも返したいが、なにか返せるものがあるかのう」モーラは周囲を見渡します。いやそんなところに返せる物などありませんけどねえ。
「まあ貸しはいいすぎね、こちらも都合もあったから。それに今はそんな状況じゃ無いからいいわ。ああ、それなら一度あなたの家で家族と一緒に食事をさせてもらおうかしら」風のドラゴンさんが明るい顔で言いました。
「そんな事で良いのか?あ、水から何か聞いたのか?」モーラはそう言いました。
「相変わらず頭の回転が速いわね。そうよ、あの水が楽しいって言っていたから、どんなものか気になって・・って、まあそんなもので良いわよ。じゃあ」風のドラゴンさんは周囲の気配を感じたのか一瞬だけ意識をどこかに向けてから言いました。
「ああ、助かった。死ななくてすんで良かった」
「ああ、後ね。脱皮後は魔力もすっからかんだし、外皮も柔らかいから、魔力が戻るまでは、周囲の敵に気をつけてね~」そう言って風さんは手を振って飛びあがりました。
「なんじゃと?それを早く言わぬか」モーラは風のドラゴンさんの方に向かって叫びます。
「さっそく嗅ぎつけてきたわよ。私は今回、何も知らなかったことにしたいから手助けはできないの。魔法使いさんあとはよろしくね~」そう言ってまた手を振って消えました。
○ ドリルはロマン
「くっ」幼女化して降りてくるモーラ。地上に着いた時には、ふらついて立ち膝になってしまいました。
「これくらいはできるのか」モーラは自分の体を見ながら自分に言い聞かせるように言ったが、額に脂汗をかいているし息も荒い。でも、さっきの話でいくと脱皮して、幼女ではなくもっと成長した姿になるはずではないのでしょうか?別に期待したわけではありませんが。
「とりあえずこの中にいてください気配が消えるでしょう」私はパチリと指を鳴らしモーラを球体で包み込む。
「すまぬ」その中で座り込むモーラ。
「とりあえずモーラの気配が消えて混乱しているみたいですからこの隙に逃げましょう」座り込んで周囲を探っているエルフィが言った。
「しかしどこへ逃げる?逃げたとしてもすぐに追い付かれるぞ」モーラは会話すらつらそうです。
「混乱しているという事は、魔族はモーラを狙っているということですよね?」
「あ、ああ。そうなるな」モーラもそこに気付いたようです。
「さっきは黒い霧が広がるためには、私達が邪魔だった。それがモーラのせいで失敗になり、モーラが弱っているので、モーラがターゲットになったと言う事ですよね」
「再確認せんでもそういうことじゃろう」モーラが焦っています。
「じゃあ土の中へ逃げますか」私は淡々と言いました。
「ああなるほどなって、意味わからんわ」おやモーラ。セルフ突っ込みするだけの元気はあるんですね。
「土を掘ってその中に隠れてもらいます」私は良い案だと思い、胸を張って言います。
「土を掘るにしては時間が無いのでは無いか?」モーラが自信ありそうな私を見て疑い深げに聞きます。
「もちろんドリルを使って地下を掘り進みます」私は鼻息荒く言いました。
「ドリル?」モーラはその言葉の意味を知りませんので首をかしげます。
「ドリルですよドリル。男のロマンです」私はさらに混乱させる事を言いました。
「だから意味不明です。その変な人の形をしたもの(合体ロボ)のイメージも」ユーリに突っ込みを入れられました。
「そもそもドリルって構造上、土を外に排出できないですよ。トンネルを掘るならやっぱりシールド工法ですよ」なぜか得意そうにアンジーが言いました。やけに詳しいですねアンジー。
「詳しいですね。でもそのまま埋めたら見つかってしまいますね。メアさん。すいませんがあの辺に穴を開けてもらえませんか」そう言ってかなり遠く離れた地点を指さしました。
「どういう風にですか?」メアがびっくりして聞き返します。
「我々が立っているくらいの範囲を拳でも足でも良いので、地面を大きい蓮の葉みたいな感じにへこませてください。イメージはこんな感じに」私は身振り手振りで説明しました。イメージは頭の中にあるのですが、慌ててしまってうまく表現できません。
「なんとなくわかりました」メアは、かなりの距離を取って、膝をつき地面に向かって正拳突きをする。
「はっ!」かけ声とともに思っていた以上のくぼみができる。その周囲に蓮の葉のようなへこみができている。そうですか私の頭の中のイメージが見えましたか。イメージぴったりです。もう慣れましたよ。とほほ。
「これでよかったですか」メアは戻ってきて言った。
「ありがとうございます」
「急がないとかなり近づいてきています」エルフィが焦りの表情を浮かべている。
「エルフィさん申し訳ありませんが、あのくぼみの中心部の少し横で薄い防御フィールドを広範囲に展開してください。軽めの魔法に対抗する感じで」
どうせ私の頭の中のイメージを見ているのでしょうから簡単な説明です。
「わかりました」走って行って、そこに立って、両腕を天に向け天球状にシールドを展開する。しかし、その顔はかなりつらそうだ。さきほどの黒い霧を拡大させない防波堤の魔法でかなり疲労しているみたいです。長くは持たなさそうですね。
「ではメアさんモーラをここに持ってきてください」
できたくぼみからかなり遠くて森に近い位置。防御フィールドの範囲を考えてその端のギリギリのところに私は立ちました。そこにメアとユーリが球を持ち上げて私の所に持ってくる。
「おぬしらがわしを守るのか?」モーラは球の中から尋ねる。
「違いますよ。モーラを土の中に埋めた後、あそこに移動して魔族の攻撃をしのいでから私たちは逃げます」
「なんじゃと?」
「数日、土の中で眠っていてください」
私はモーラの入っていた球を破壊して、再びモーラをシールドで覆います。今度は下に三角錐がついた円筒形にして、下の三角錐が地面に刺さって立っています。そして地面に刺さった先端の三角錐がくるくると回り始め、徐々に土に埋まっていきます。土を外に掻き出しながらどんどん地下に沈んでいきます。
「これはすごいですね」ユーリが目を輝かせている。ドリルは男の子のロマンなんですが、ユーリも好きですか。
「でもこのままだとモーラは魔力が吸収できなくて干からびてしまうのである程度の地下に進んだらシールドの下を少しだけ壊しますね」
「わしは元の体には戻れないのか?このまま魔力を補充するとかなり時間がかかると思うぞ」円柱の中から
「襲われない方を優先します。体が大きくなると気配も大きくなるので発見されやすくなりますから、そのままのほうが良いと思います」
「なんとか巨大化したまま埋められんのか」モーラは、少し焦っているようです。
「それだけの大きさの穴を掘っている時間がありません。それとそれだけ大きなシールドを構築したことがないのですよ。前の大きさより2倍以上ありそうなので」
「しかたないか。この体だと魔力の回復が遅いのじゃが」
「じゃあ7日間くらいはかかりますかね?」
「そのくらいかのう。しかたない。その間メアのおいしい食事も風呂もダメという事か。ううっ地獄じゃ」おどけてみせるモーラ。余裕が出てきたようです。うれしいですね。
「本当に俗世にまみれましたね。さきほどのドラゴンとしての尊厳はどうしましたか。死ぬよりましでしょう。魔力は地中から吸収できるのですから」私は軽口に軽口で返します。
「おいしい料理を用意してお戻りをお待ちしています」メアが微笑む。
「そうですよ。出られたら一緒にお風呂入りましょう。モーラ」ユーリが素直に言う。
「おお、ユーリはやさしいなあ。わかった数日でなんとかしてみせよう」
「覚悟は決まりましたか。ではしばらくお休みください」
私は魔法をさらにかけると少しだけ沈降速度が速くなる。
「しばらくは眠っているからな、ちゃんと起こしに来いよ」
「何かあると困りますからちゃんと近くにいます。安心してください」
「うむ頼んだ」
「さて~鬼の居ぬ間に籠絡しよう。ピト」そう言ってアンジーが私の腕に胸を押し当てる。
「おいアンジー!抜け駆けは許さんぞ。協定はどうした」顔をシールドに貼り付けてモーラが言いました。
「冗談よ。でも早く戻らないとこうなるわよ。モーラ」真剣な顔でアンジーが言う。
「ふふ、これは寝ているわけにはいかなそうだ。わかった。わしなりに全力で事に当たろう。どうせ暇だしな。研究してみるわ」
「そうよ。寝ているなんてあなたらしくないわ。弱音?」そう言ったアンジーの表情がくるくると変わる。そこがアンジーの良いところだ。
「ふふん、言いおったな。アンジーおぬしには戻ったらべとべとになった髪を洗ってもらうからな」モーラを入れた円筒はすでに目の近くまで隠れてしまったのでモーラは髪の毛を持ち上げてアンジーに見せている。
「はいはい待ってますよー」モーラの頭が土に隠れて、声だけになってからは、心配そうな顔になるアンジー。私はいつもどおりの会話をしてくれたことがうれしかった。
そうして土の中にモーラは消えた。盛り上がった土はユーリが踏み固めている。魔力による連絡もシールドの下の方が解放されるまでしばらくは無理だ。さすがに土圧の中を突き進むために魔力を濃く、厚めに使っている。停止してシールドの下が開くまでは難しいだろう。
「ねえ大丈夫なんでしょうね」アンジーが私を睨み付ける。
「それは、土の中ですからモーラの領分です。おまかせするしかないです。それよりも、エルフィのシールドに気付いてそろそろ敵が来ます。エルフィありがとうございます。これだけ地下に潜ったら土の中のモーラは探知されないと思います。もういいですよ」
エルフィは、高く掲げた両腕のまま倒れ込む。メアが抱きとめる。
「さてもう少しだけ頑張りますか」
Appendix
英雄が同族に死に追いやられその子孫は迫害されていた。
長老達はやり過ぎていたとは思わないか。結果あのように殺されてはいないが復讐されている。
今回のことで全てが明るみに出て今後里はどうなっていくのだろう
変わらなければならないのに変わらない気もしている
この里の家の下を覆っている石のように固く冷たいだけで意味の無い、必要のないものなのかもしれない
おい、それを言ってはいけない
だが、外に出た事がある者達ならわかっているだろう。こんな里は考え方が古いのだと
だがどうにも変えようがないだろう
里を正すか、里を去るか。そう俺は考え始めている。
そうなのか?今は聞かなかったことにするよ。だが里を出る時は声を掛けてくれ
ふふ。追放が怖いか?
まあな。でも追放されたとして、ここから出て行くのだから同じでは無いか?
そうだな
続く
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