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第10話 DT家族を増やす

第10-4話 DT正式な儀式をする

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○パムの決心
 その日の夕方です。夕食を終えた後、火を囲んでまったりしている時に、馬車の中でずっと口を開かなかったパムさんが話し始めました。まるで独り言のように。
「皆さん聞いてもらえますでしょうか」全員が火を囲んでいましたのでパムさんに一斉に視線が集まりました。
「実は私は間者でございます。そして暗殺者でもあります」火を挟んで正面に座る私を見てそう言いました。
「おやそうでしたか。それはまずいですねえ」私はリアクションに困ってそう言いました。
「DT様一つ質問させてください」
「かまいませんよ」
「どうしてあなたはそんなに無防備に、私とこの距離で話しているのでしょうか。 私は今、間者でしかも暗殺者だと言いました。どうして私を避けようとしないのですか。この距離なら簡単にあなたを殺すことができるというのに」パムさんそんな悲しい目で私を見ながら言わないでください。
「前にも言いましたとおり、信じてもらうためにはまず自分が信用するところから始めなければならないと教え込まれていたみたいです。それにパムさんからは殺意を全く感じていませんよ。一緒に行動を始めてからあなたを見ていましたが、感情を殺して人を殺せるとは思えませんでした」
「そうですか。私が優しいですか。そんなことは初めて言われました」
「でも、ユーリや私達への対応を見ていているとそう思えましたよ」
「ああそうなんですね。あなたはそう言う人なのですね」そこでパムはまた黙り込む。
「これまでの事をお話しします」
「これまでとは」
「皆様と一緒になる理由などです」
「お願いします」
「私は、里から転生した魔法使いを見つけて勇者かどうか探れと命じられました。色々な国で情報を集めていて、ようやくあなた達に行き当たりました。目的の魔法使いなのかわからなかったので尾行をしていました。魔族との諍いは本当に偶然でした。あなた達の馬車の様子をうかがって魔族の領地で知らぬ間に怪しい動きを取っていたようで、それを誤解されたのです。ですが結果的に皆さんに私を拾っていただき同行する事ができました」
「そうでしたか」
「皆さんの言動を監視するために休憩時間中に皆さんの散歩を探っていましたが、何も怪しいところはありませんでした。しかも先ほど聞いたところでは、そんな私を見張っていたと言います。皆さんは、それを糾弾もせず知らない振りを続けて、さらに私を家族同様に扱ってくれました。私はこの短い間に皆さんの優しさに何度も家族と一緒にいるような錯覚にとらわれました。さらに私は何度もこれが本当の家族であればと思って・・・いや願っていました」下を見ながら話しているパムさんの声は少しだけ涙声になっていました。
「私は今から間者をやめます」
「おやずいぶん早くデレたのう」モーラが雰囲気を壊そうとそう言いました。いや、そこはちゃんとしましょうよ。
「早すぎですよまったく」アンジーが頭を抱えている。
「そのデレとは何ですか」パムさん茶化されて少し怒っていますか?
「さっき言ったじゃない?私達を探っていたってみんな知っているって」
「はい」
「でもね、この人は愚直だから。きっと一番感じていたのに何か事情があると思って黙っていたのよ。メアからそう言われていたでしょう?」
「はい」
「私はパムさんに事情がありそうだとは思っていました。さて間者だったのはわかりました。いったい誰の間者だったのですか?」
「ドワーフ一族のです」
「私を調べても何も出ませんよ」
「そうなんです。それは出会ってからこれまでの魔族との戦いでよくわかりました。勇者では無いと」
「まああれじゃな。噂で変な転生者が優秀な者を次々と仲間にしていて、どうやら無敗らしい。この者達が真の勇者かどうか調べてこいというところかな」
「はいそのとおりです」
「さらに懇ろになって何かあったときにドワーフ一族を守らせようというところか」
「さすがです。すべてお見通しなのですね」
「わしでなくても、今の話を聞いただけで想像できるわ」
「さしでがましい口をききました」
「どうして間者であることを打ち明けたのでしょうか」
「それは・・・私がいたたまれなくなったのです。あなたのその懐の広いお考え、慈愛に満ちた行い。どれをとっても勇者の資質でございます。ですが・・・」
「ですが?」
「ですがその無欲さ、そして揺るぎない家族愛に勇者では無いと感じました」
「そうですね。勇者では無いというところはそのとおりです」
「実は、私も間者に出されるくらいには日陰者でございます。とうにドワーフの一族とは疎遠な者であります。もちろん未練が無いわけではありませんが、たった数日あなた様とともにすごしてみて、あなた様とその家族と共にいたいという想いが大きくなってしまいました」私と皆さんを見ながら時々少し恥ずかしそうに下を向いたりしながらパムさんは話しています。
『あちゃー』アンジー心の声がダダ漏れですよ。
「そうですか。間者としては失格ですね」
「はいそうです。私を家族に・・・いえ仲間に入れていただけないでしょうか」
「私としては、仲間ではなく家族として迎えたいですね。それは皆さんかまいませんね?」私は全員を見る。否定がない事を確認しました。
「念のためお聞きしますが、ドワーフ一族に間者だとバレたらどうなりますか?」
「多分、お役御免になります」
「それ以外に何かされませんか」
「多分無いと思います」
「そうですか。とりあえず間者をしていることがばれたことを一族に連絡してくれませんか」
「はい」
「その時に、「あなたの処遇は生かすも殺すも私の意志次第。殺されてしまうかもしれないので助けて欲しい」とそう言って欲しいのです。どんな反応をするかで私の一族への対応を考えます」私は、”日陰者”というパムさんの立場が一族にとってどういう位置づけなのか知りたかったのです。
「説得力が欲しいのう」モーラがニヤニヤ笑っている。
「はあー。そうですね」アンジーがため息を深くついた。まあ2人の思っていることはわかりますよ。他のみんなも薄々気付いてうなずいていますし。
「説得力とは何をされるのですか」
「なーに簡単じゃ、わしらの前でおぬしの真名を言い、こやつに従いますと言えばよい。それで隷属完了じゃ」なんか簡単そうにヤバい事を言っていますよこのドラゴンは。
「はぁぁぁぁ。そうですねぇぇぇぇぇ」アンジー露骨に嫌そうな声を出さないでください。
「そんなことで良いのですか。わかりました」パムさん簡単に了承しないでください。あなたは隷属の意味を知っていましたよねえ。
「ちょっと待ちなさい!いいですかさっき聞いたように、ここにいる全員はこの人と」アンジーがいつになく真剣な顔で声を荒げる。
「隷属していると言う事ですよね」パムさんはアンジーが今更何を言っているのだろうと不思議そうに言いました。
「わかっていてそれを言いますか。あのね!隷属の意味を軽々しく捉えていませんか?確かに私たちはこうやってのほほんとしていますが、この人が死ねと命じれば、どうあがこうと体が従うんですよ。自分の意志にかかわらず!もちろん死ねとまでは言われなくても、何かこう・・・恥ずかしい事をしろとか命令されたら従わざるを得ないんですよ。隷属というものはそんな軽々に・・・」アンジーが話を続けようとするのをパムさんは遮った。
「はい理解しております。ですから私にとってはむしろ願ったり叶ったりです。私はこれまでもこれからも何もありませんので。むしろそのような形であなた様にそして皆様につくせるのであれば、喜ばしい事だと思っています」
「もう!これだけ言ってもわかりませんか。隷属までしなくてもこの人なら何とかしてくれるかもしれないのですよ」
「それは私が望んでいる事なのです。一族と袂を分かつために必要なけじめなのです。はい」
「あああ、もうっっ」ついにはアンジーが両手で髪をかきむしる事態になりました。パムさんはそれを不思議そうに見ています。
「アンジーもうよいか?」
「どうしてこの人にはこういうバカばかり集まってきますかね。この際だから言っておきますけど、皆さんわかっていますか。このバカが死んだらどうするんですか?」おや、アンジーさん本音が出てきましたねえ。
「その話はすでにしておるじゃろう」
「あの時は、他の世界に帰る前提でしたよ。でもね、ここまでは魔族からうまく逃げ回っていますけど、目をつけられてしまったらいつ殺されてもおかしくないんですよ」アンジーは少し冷静さを欠いているようです。
「魔族にこだわるのう」
「いや、こだわっているわけではありませんけど」そこで少し冷静になったようですねえ。
「アンジー様のおっしゃりたいこともわかります。ですが私のこの気持ちは変わることはありません」パムの言葉にアンジーが何度目かのため息をつく。
「特技は皆様のようにありません。唯一誇れるとすれば、私はドワーフ一族の中で最強です。ですから多少なりとも家族のお手伝いができることもあると思います。是非家族の末席に加えてください。お願いします。」
「ちょっとまってドワーフ最強って言いましたか?」アンジーが聞き返す
「はい言いました」
「お、お、お、女の子ですよね」声が震えていますよアンジー
「はい」
「ほかに屈強な男の人もいますよね」
「はい体格のいい者はたくさんいます」
「なのに最強?」
「はい。残念ながらここ数十年私に勝てる者はいません」
「これだからドワーフは」アンジーはその場に片膝をつく。そんなに大変な事なのでしょうか。
「どういうことですか?」私はアンジーに尋ねました。
「ドワーフは、外見を変えられます。つまり」
「はい。今は服が破けるのがいやなのでさすがにしませんが、限界の力を出す時には体格はかなり大きくなります」
「なるほどそういうことですか」
「ぼ、僕の立場が危うい」ユーリの顔に縦線が入った。
「いえ。聞けば魔法剣士であらせられるとか。私は体力バカなのです。魔法耐性はあるものの、魔法行使力・魔力量がありません。ですので物理的には最強でも魔法戦闘においては魔法耐性を活用して盾になるくらいしかないのです」
『タンカーきたー』いや、アンジーその叫びはおかしいでしょう。どこのネトゲーもといMMORPGですか
「追われていたときに見せた素早さはなんだったのでしょうか?」メアが念のためというように尋ねる。
「あれは、この体よりも小さくなった時に、筋力をさげて速さに配分しているだけです。体格を変化させるとそのぶん筋力がそちらに振り分けられて体が大きくなり速度は遅くなります」
「なるほど。モーラさん魔力量を測ってください」
「うむ、ちょっとおでこをくっつけようか」
「はい」モーラがパムさんの額に額をつける。
「なるほどこやつも特化型じゃな。魔力の流れによって筋肉や骨変形を行うが、そもそもの魔力量はさすがに少ないのう。まあ近距離での通話くらいは、おぬしをバイパスすれば可能じゃがな。ユーリ大丈夫じゃ。ぬしの剣技と魔力量・魔法力なら引けを取らぬわ。むしろ互いに戦えば練習にもなるし、共に戦えば戦いの幅も広がる。二人で組めば物理最強じゃな」モーラはユーリに笑いかける。
「よ、よかったー」無い胸をなで下ろすユーリ。あ、睨まれた。聞かれていましたか。
「あるじ様嫌い」横を向かれてしまいました。とほほ
「何を言っているのですか?」さすがに頭の中で会話しているのでわかるわけはないですね。
「まあその辺はおいおいな。さてアンジー。覚悟は決まったか?」モーラはなぜかアンジーを見る。
「いいですか、これ以上の戦力強化は目立ちすぎるんですよ」
「わしらが黙っていればわかるまい。あと騒動をおこさなければ。もあるがな」
「そうなんですけど」
「アンジー様お嫌でしょうか」
「そうじゃない、そうじゃないのよ。もうわかりました。わかりました!」
「アンジー様が懸念しているのは、たぶん勇者として見られてしまうと言う事ですよね」メアが助け船を出す。
「そうなのよ。私が探している人は、もしかしたら勇者の中にいるかもしれないのよ、年齢的にはまだ無理でしょうけど。でも、勇者になる資質を持ち、勇者を目指していれば、私たちのような存在は邪魔でしかないの。こんなメンバーを前に、勇者を名乗るなんて到底できなくなってしまうから。
 たぶん私達の噂を聞いて、目指す前に気持ちが折れるような気がするのよ。でもねそんなことにはしたくないのよ。心が折れるのを見たくないの。
 転生理由が、勇者になることなのかもわからないけどね。私としては、可能性がある以上、彼を守護していた者として、自分が阻害する要因になりたくはないの。
 もう一つは、私の家族のところにどんどん優秀な仲間が増えれば、そして勝ち続ければ、自分たちの意志にかかわらず本当に勇者に仕立て上げられてしまうかもしれないでしょ」
「なるほどのう、守護する者が守護される者の心を折るなど本意では無いと。もしかしたら、勇者にさせるのが目的で転生させられたのに、目的を果たせなければ、お主も帰られなくなるかもしれないしなあ」
「まあそんなところね。でもね、私はパムが家族になることは嫌じゃ無いのよ。そこは誤解しないでね」
「難しい話ですね~でもそんなの気にしていてもしようが無いですよ~だってこういうのは~縁ですから~」
「そうです。皆さんそうですよね」ユーリが珍しく言った。アンジーを除く全員がうなずく。いやパムさん、君はうなずいてはいかんでしょ。
「あなた様ぜひお願いします」パムさんそういう決意の目はねえ。してあげたくなりますねえ。
「そういえば~正式な隷属って~どうやるんですか~見たい見たい~」お気楽エルフが言った。
「おおそうじゃな。これまでは一度たりとも正式な儀式をしておらなかった。今回の場合は、相手のところに行ってきてもらうから、特に正式にやっておくべきじゃのう」モーラさんノリノリですねえ。
「正式にやるとなにか違うのですか?」私は技術的な関心のみでそう尋ねます。
「ああ、隷属した者に致命的な危害が加えられるとはね返すことができるらしい。まあ、致命的な危害が加えられた時のみらしいがな。そうなった時は、隷属の魔法に付与されている魔法で体全体を包むので不死身じゃな。まあ瀕死状態で保存という事らしいが」
「ええ?」
「もちろん隷属させる方の魔力量の範囲内で可能なことに限られると聞いているぞ」モーラさん偉そうです。
「そんな大事なこと今頃教えないでくださいよ」
「これまで正式に儀式を行っておらんじゃろう。だから効果があるかどうかわからんかったからな。過信されても困るしなあ」
「そういうことですか」なんかとってつけたような言い訳にも聞こえますねえ。
「まあ、全員必要がないくらい強い者達じゃからそもそも必要なかったじゃろう」
「確かに違いがあるのか比較してみたいですねえ」
「おぬし相変わらず技術的な話になると興味津々じゃな」
「そうなんですけど。そんな理由で隷属させたら人間としてダメですよねえ」
「今回の場合は良いのでは無いか?本来は、間者であることがばれた段階で殺されてもしようがないのに、無事に帰されておる。つまり相手の間者に・・・おお、おぬしの頭の中にあるダブルスパイってやつじゃなあ。そう思われても当然じゃ。なので下手したら捕らえられて殺されるかもしれん。それを回避するためにはいい事じゃろう」
「私自身は里の誰にも負けることはありません」パムさんが少し怒っています。なんかプライドを傷つけられたように感じたようです。
「おぬしが言っているのは一対一の正式な戦いではな。じゃが、薬を使われるとか卑怯な手を使われることまでは想定していないじゃろう」モーラが急に厳しい目でそう言った。
「それは一族同士の争いでは、あってはならないことです」モーラのオーラにちょっとたじろいだパムさんです。
「それは一族の者だと認めた場合じゃ。お主はすでに裏切り者。敵と思われているとしたらどうじゃ」
「・・・・」
「モーラそんなに追い詰めないで。あくまで最悪の結果の話でしょ?」アンジーがフォローを入れる。
「お前達が思っているほどドワーフ族はきれいではないからな」モーラさん何を知っているのですか?
「そうなの?」アンジーが聞き返す。ひょっとしてアンジーも知らないのでしょうか。
「まあわしが知っているのはかなり昔の話じゃから変わっているかもしれん。しかしこういうのはそうそう変わるものではあるまい?」モーラがパムさんを見て言いました。
「・・・・」パムさんが何も答えません。
「何か覚えがあるようね。聞かないけど」アンジーがすかさずフォローにもならない事を言った。
「ごほん。そういうのはいいのです~本人の気持ちが一番なのです~」エルフィの方がフォローに・・・なってませんねえ。
「じゃが、安易に・・・」
「目を見ればわかるのです~」無理を押し通すエルフィでした。
「ああエルフィ。そうか、そうじゃったな。すまぬ。わしも少し言いすぎた」
「DT様お願いします。私に隷属の儀式を」片足を立ててひざまずいて見上げられました。弱いんですよねえこういうすがるような目に。

○正式な隷属契約
 私は、大きく息を吸って心を落ち着けてこう言いました。
「ここにいる方達はみんな隷属をしています。それは、偶然によるもの。作為によるもの。願いによるものと様々です。でも、皆さんそれをよしとして隷属しています。そしてその隷属の魔法は、いつでもそれぞれ自身が自分で解除できるようにしています。今回初めて正式な儀式による隷属ですので、解析ができるまで解除ができなくなるかもしれません。いいですか?」私は事前説明をします。
「かまいません。皆さんと共にありたいと。あなた様に従いたいと願っております」
「わかりました。ではモーラさん。方法を教えてください」
「おぬしなら簡単じゃ。魔力を高め、それを手に集中し、この者の頭に当て、次の言の葉をわしについて唱えるが良い」
「わかりました。ではいきます」私の体から光があふれます。そしてその流れが手に集中すると手のひらに渦を巻き始めました。
「その者。聖なる魔法の前でその真名をさらし、我に生涯付き従うか、選べ」モーラがそう言いました。
「その者、聖なる魔法の前でその真名をさらし、我に生涯付き従うか、選べ」私がその言葉を発することで魔力の質が、色が変わりました。ああそうなのですね。こういうことなのですね。
「我が名は、バルミリア・エイス・ドゥーワディス、あなた様に生涯付き従うと誓います」パムさんがモーラの助けもなくそう言いました。モーラがそれを見て驚いています。ハッとしてモーラが続きを言いました。
「ならば、その名を   と与えん」
「ならば、その名をバルミリア・エイス・ドゥーワディスと与えん」私がそう告げると、手の中の光がパムさんの体全体を包みました。
「そなた、  よ、我に生涯付き従い、我と共に生き、我と共に滅されん」
「そなた、バルミリア・エイス・ドゥーワディスよ、我に生涯付き従い、我と共に生き、我と共に滅されん」私はそう言います。私の首に光が現れる。
「我、バルミリア・エイス・ドゥーワディスは、あなた様に生涯付き従い、あなた様と共に生き、あなた様と共に滅されます」パムさんの言葉に私の首のあたりにあった光からパムさんの首に光の鎖が届いてつながったあとその鎖と首輪が消えて、パムさんを包んでいた光がゆっくりと消えて、あたりは静寂に包まれました。
「さあ、立ってください。大丈夫ですか?その身に何か変化はありませんか?」
「加護を。魔法による加護を感じます。それと、隷属したときに一瞬だけ見えました。あなた様につながる鎖が」
「そうですか。私にも見えました。これが正式の儀式による隷属なんですねえ」私は感慨深げに言いました。
「解除はできそうなのか?」モーラが心配している。
「これからです。言葉の中にかなり魔法術式が編み込まれています。古代語なのでしょうか?現在使われている言葉では無いですね。解析を進めれば大丈夫かと思います」
「もうそこまでわかったのか」
「今回のは、脳の中に直接響いていましたから脳に刻み込まれた感じですねえ」
「それにしても、パムも途中の言葉も最後の言葉も、誰から聞いておったのじゃ」
「それは、頭の中に自然に現れました」
「そういうことか」
「パムさん~さきほど真名をおっしゃりましたけど~ドゥーワディスと言われましたよね~」エルフィがめずらしく尋ねる。
「はい言いました。お嫌でしたか?」パムさんはそう言った後、顔を曇らせて下を向いた。
「エルフィ。本人が話しづらいこともあるじゃろう、無理に聞くなよ。まあ話すつもりがあるなら話してみよ」
「はい、私はドゥーワディスと言います。以前族長だった者の孫です。だからといって一族の転覆など考えてもいませんし何をする気もありません。ですが・・・里はそうは考えなかったのです」
「自分の身の潔白を証明したいなら、間者をやれと言われたというあたりですかねえ」私はそう考えました。真面目な厄介者には一番都合の良いやりかたですからねえ。
「なぜその話を先にしなかったのじゃ」
「里から逃げるためにあなた達にすがったように見えるのが嫌だったのです。私は、私の考えであなた様に隷従し、皆さんと一緒にいたい。そう思えたのです。偏見無く私を見て欲しかったのです」
「確かにそうじゃな」
「パムさん大丈夫ですよ。ここにいる皆さんは決してそんなことはありません。話してもいいし話さなくても良いのです。それが家族です。家族にはそれぞれ秘密があったとしても家族は家族なんですよ。大丈夫です」私はそう言ってパムさんの背中をポンポンと叩きます。
「ありがとうございます。里にいたときからどうしてもそうなってしまって」
「おやアンジーどうしました」私はアンジーが頭を抱えているのを見てそう言いました。
「もしかして先代の族長の孫なのですか?あの豪腕ゴルディーニの」アンジーがすがるような目でパムを見て言いました。すがる?実はそうであって欲しくないという感じで見ていましたねえ。
「そうです。その豪腕ゴルディーニの孫です。その名前よくご存じでしたね」パムさんが驚いています。
「そんなにすごい人なんですか?」ユーリがちょっと関心を持って尋ねました。
「そういえば、町で遊んでいた子ども達が知っている童話の中に出てくるのじゃ。伝説級のドワーフじゃよ。その強さ神のごとしとね。しかも清廉潔白で人間も助けるようなお人好し。人間界にも伝説として童話になって残るほどのな」モーラとアンジーはきっと街で子供達に読み聞かせをした時に憶えていたのですね。
「人間界でそんなに知られているとは知りませんでした。お恥ずかしい限りです」
「それじゃあ里の一番も当然ね。でも世代交代するにはまだ早かったと思うけど」アンジーはちょっと不思議そうに尋ねます。
「私の祖父は、人間や魔族との共存を願っていました。当然里の意見とは違いましたので・・・」
「なるほどそういうことか」
「それなら失脚させて終わりよねえ。でも、屈強で長命なはずのドワーフが若くして死んだのはなぜ?」
「わかりません。狩りの途中で死んだとしか聞かされていないのです。それからは族長が交代して私が生まれた頃には里の端の方で生活していました」
「ご家族は里にいらっしゃるのでしょう?」
「いいえ、原因不明の病気が流行り、里でもかなりの人が死にました。その時に両親は2人とも死んでいます」
「そうですか」
「これも縁かのう。どうやら本当に勇者パーティーになりかけておるな」
「ですよねー」アンジーがまた頭を抱えた。
 儀式も終わりその日も終わりみんなで寝ました。何か忘れているような気もしますが。

○再会を期して
 谷を抜けた時にパムが故郷へ旅立ちました。
「私は、里に戻って事の次第を話し、袂を分かってきます」
「それがいいでしょう。一緒に行きますか?」
「いえ、エルフの里ほどではありませんが、一族以外にはあまり知られないようにしておりますので」
「そうですか。気をつけて」
「いつ頃戻ってこられるのでしょうか」メアがそう尋ねる。
「そうですね、季節がひと巡りするくらいはかかるかと思います」
「そんなに距離があるのですか?」
「距離はそうでもありませんが、何かと物入りだったので、途中で路銀を稼いで移動していましたので」
「ではこのお金を持っていってください」そう言って私は一袋のお金を渡しました。
「こんなにですか」パムさんは袋の中を開けて驚いています。一応私のお小遣いの一部です。
「その代わりなるべく早く里に行ってください。それと旅の間に考えて欲しい事があります。ひとつは一族に戻れるなら戻ることをもう一度考えて見て欲しいこと。ひとつは私たちと本当に一緒に暮らしていくのかどうかを考えること。もちろん途中で考えが変わってもかまいません。私の所に戻って来た時に、明るい顔であなたの答えをあなたの気持ちを聞かせて欲しいのです」
「私の気持ちですか」
「はいあなたの気持ちです。一族に籍を残したまま私たちと暮らすでも良いのです。里に住み続けるのならそれでも良いのです。自分なりの結論を出して教えてください」
「わかりました考えてみます。今までそんなことを考えたこともありませんでした」
「お願いしますね」
「パムよ。里との関わりを切りたいだけなら隷属する必要はない。自由にして良いんじゃよ」
「それについても考えてみます」
 そうしてパムは私たちの元を離れました。ええ、別れたでも帰ったでもなく離れたのです。
 馬にゆられながら私は思いました。
「うまく誤解を解いてほしいものですねえ」
「おぬしは性善説の信奉者じゃのう」
「そうありたいと思っていますよ。たぶん昔何かあったのかもしれませんね」
「記憶は相変わらず戻らんのか」
「ええまあ」
「昔何かあったとしても。この世界でのおぬしは良い人じゃ。安心せい。過去に何があったとしても、たとえ殺人鬼だったとしてもとうに罪は許されていると思うがな」
「ありがとうございます。私は自分の過去を気にしてはいないのです」私はそうモーラには言いました。
 ただこうは思っています。前の世界でこれだけの力を持っていたら、こうありたかったという自分の願いを叶えられていたのかも知れない。前の世界でそれができなかったから、この世界でこの力を得て、こうありたかったという自分を、願いを、成し遂げようとしているのかもしれないと。

「さて、旅は続きますよー。」手綱を持ったエルフィがそう声を出した。


Appendix
一緒にいたドワーフはどうした
別れたみたいですよ
ああ、仲間になった訳ではないのか
そのようです
出会ったら即家族みたいな奴だからなあ
そんな事を言ったら他にも結構出会っていましたけど
まあそうか
それで次はどこへ向かった?
いや道は一本道ですからロスティアの地方都市に向かっていますよ。
そうか

続く

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