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第10話 DT家族を増やす
第10-3話 谷での戦闘
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○ 谷
断崖絶壁が両側にそそりたつ谷に入りました。道沿いには川が流れていて、反対側は背丈の低い林が崖に沿って群生している。道はうねっていて切り立った石壁が先を見通せなくしている。道の真上が断崖岩壁になっているところでは、落石を使って攻撃されそうだったので、事前にパムさんが様子を見に行ってくれました。
戻ってくる時にパムさんの頭上に氷の塊が現れ、気付くのが遅れたためにパムさんは額に傷を負いました。そのままこちらに戻ってきましたが、その時には周囲に魔族や獣人が現れて私達を囲んでいました。
私は馬を止めさせ、私ひとり馬車を降りて相手に向かって大声で言いました。
「繰り返しますが、彼女は何もしていないと言っていますが」
「もうそんなことはどうでも良いんだ。さっさとそのドワーフを渡せ」中心に立っていた魔族が言いました。
先日は逆光のためよく見えなかったのですが、今日ははっきりと見えます。人型で体は一回りくらい大きいですが、筋骨隆々な感じではではなく、どちらかというと優男風です。顔は人に近いのに頭部は山羊のような立派な角が両耳のやや上の方から伸びています。着ている服も薄手ですが普通の布の服を着ています。ああでも服の後ろから特徴的な尻尾が出ていますねえ。
「嫌です」
「殺されてもか」そう言ってにやりと笑った魔族さんの歯はギザキザですねえ犬歯ばかりで食べづらそうです。
「はい。無実の罪の者を守ることは一緒にいる仲間として当然です」
「ほんの少し前に一緒になっただけでも仲間か」嘲笑気味にその魔族は言った。
「はい。二度も一緒に戦ったのです。それだけでも仲間です」
「良い心がけだな。だがそのせいで殺されても泣くなよ」本当に嬉しそうに言いますねえ。
「はい。後悔はしません」
「待ってください。私が・・・」馬車の中で手当を受けていたパムさんが馬車を降りてきて相手のところに行こうとしていました。私はパムさんの前に立ちはだかり、腕をつかまえてこう言いました。
「あなたの行動を止めて申し訳ありませんが、本当にそう思って行動していますか?」私はパムさんの目をにらみつけて言いました。
「それは・・・」パムさんは私の目を見て言い澱みます。
「私たちのことを考えて言っていませんか?」私は視線をそらしそうになるパムさんの腕を引っ張って私の方を向かせます。
「・・・・」しかし視線を外してパムさんはうつむいてしまう。
「残念ですが、私は自己犠牲が一番嫌いなのです」私は力の抜けたパムさんの腕を離してそう言いました。
「あーあ。だめですよ。この人に火をつけるようなことを言っちゃあ」そう言いながら降りてきたアンジーがあきれている。アンジーはさらに続けてこう言った
「でもひとつだけ。あなたは、自分が行けば問題が解決すると思っているけど。本当に念のため聞くけど、何もしていないのよね」アンジーがうつむいているパムさんを下から見上げるようにして目を見る。
「は、はい。それは間違いありません」アンジーを見るその瞳は真剣だった。
「この人はね、愚直に信じる人なの。もちろんやっぱり嘘でしたって後から言っても良いけど、本当にそれはないのね。ここで「嘘をついていた」って言ってもきっとこの人は味方になってくれるの。だから嘘なら嘘って言って欲しいの。そうしないとこの人今度は、相手に対してこの人はあなたと一緒になってお詫びをしようとするの。こいつはだからやっかいなの。どう?」
「それは本当です。本当に何もしていないのです」パムさんのその言葉にアンジーがモーラを見る。モーラもうなずいている。
「嘘はついてないようよ。大丈夫。攻撃してきたら反撃しましょう」アンジーがOKを出してくれました。
「はい。では思う存分行きます」
私はアンジーとパムさんに馬車に戻るように言ってからその魔族に向き直ってこう言いました。
「念のため警告しますが、ここで引いてくれるとお互い被害が少なくてすむと思うんです。それでもやりますか?」
「いいんだよ。やろうぜ」そう言って中心に立っている魔族の人。
「どうしてこう魔族の方達は好戦的なんでしょうかね」私はそう言ってため息をつく。
「魔族が好戦的なんじゃなくて、俺たちが好戦的なんだよ。強い者が弱い者を倒す。それは自然の摂理だ」
「違いますよ。食べるために殺すのならしようがありませんが、それ以上の殺戮は傲慢です。そして弱肉強食の皮を被った快楽主義でしかない」
「だからどうした。弱ければ手も足も出ないだろう?」うれしそうに笑っている。
「そうですね。私もこの力が、魔力が無ければただの人間でしかなくて、あなたと渡り合うことはできなかったでしょう。だからこそ、この力は使いすぎてはいけないと思っていますよ。あなたはそう考えられないんですか。自分より弱い者をいじめて遊ぶ幼児ですか?」私は悲しくなってしまいました。
「はあ?おまえが弱いならこんなことはしない。でも違うだろう?この前の獣人との戦いを見ていたよ。あれはすごかった。敵の俺が見ても惚れ惚れしてしまったよ。俺は強い奴が好きだ。憧れる。だからこそ、その強い奴を倒せればそれはさらに快感さ。わかるだろう?ああわからないか。ちっ、語っちまった。ごたくはここまでだ。さっさとやろうぜ」
そう言ってその魔族は、すこしずつ前に来てから止まった。
「さて面倒なのはもういい。 さっそく始めようじゃないか。 一対一だ。問題ないだろう」
「改めて言いますが、私としては不本意なのですが」
「なんだい?助けが欲しいのかい」
「いやそうではなくて。あなたと戦いたくないのです」
「臆したのか?あれだけの力を持っていて何を恐がる」
「ちゃんと部下の事を思いやれる人なのに・・・そんな人を殺してしまいそうなので」
「なめるなよ。俺がお前を殺すことはあってもお前に殺されるわけがない。殺す気で来い」ちょっとだけ彼の後ろから陽炎が見えました。かえって怒らせてしまったようです。
「そこの方との戦いを見ていたのですよねえ」私は魔族の中に見知った獣人の姿を見つけてそう言いました。
「あいつは獣化していたから魔法は使えなかっただろう。俺は魔族なんだ。スピードも奴より速いし魔法も使える。大丈夫だよ。あんたの期待以上に戦って、期待以上にお前を殺してやるよ」
「わかりました。わたしも死ぬ気で頑張りますね」
「調子が狂うなあ。それがあんたの戦法なのか?」そう言って頭をかく
「いいえいつでもこうですよ。ではやりましょうか」
そこは切り立った崖の下です。空間としてはやや狭いです。周囲は木立が散見される平原で横には道路と並行して川が流れています。
私は川を右手にして相手と対峙しています。 他の魔族も少し離れてこちらの様子をうかがっている。
「念のため再度確認しますが、あなたと戦ったら他の人は無事通してくれるのですよね」
「ああ、勝っても負けても俺が保証する」
「了解しました。パムさん、空高く石を投げてください。 ちょうど2人の間に落ちるように」馬車に戻るように行っていたのに結局全員馬車から降りて私を見ています。その中でも心配そうに見ているパムさんに、私は振り返ってお願いしました。パムさんは意図を理解して、こぶしより一回り大きい石を拾って、思いっきり空に向かって投げ上げました。しかししばらく落ちてきません。高く投げすぎですよ。その間にその男は詠唱に入っていました。まあ、そうですよねえ。やっと2人の間に石が落ちてきて、跳ねずにドスンと土にめり込みました。どんだけ高く投げたのでしょうか。石が地面に到着した瞬間。私の立っている地面に魔法陣が現われました。ほんのわずかに遅れて彼の足元にも魔法陣が現われます。それぞれの体が彼は炎に私は氷に突き上げられる。しかしお互い無事だ。
「詠唱勝負は俺の勝ちだな」
「事前に詠唱を始めるのはずるくないですか? 私は石が落ちてから魔法を詠唱しましたよ」
「はあ? 無詠唱だと?」
「詠唱はしていますよ。わかりました。そこはハンデにしましょう。詠唱に3秒かけますね」私はそう挑発します。まあ、基本的な心理戦で普通は乗ってこないで条件をのむのですが・・・
「なめやがって。そんなハンデはいらねえ。こうなったらまずこぶしで勝負だ」
その魔族は向かってこようとするが、私の拘束魔法が発動して体の動きを止められる。それでもその拘束を引きちぎって一瞬で私に近づいた。
「よう」その魔族は、嬉しそうに私の目前でにたりと笑った。私はニッコリ笑って自分の目の前の空間を軽くノックする。透明なシールドを張っていることを教える。これも心理戦ですよ?
「詠唱に3秒かけるんじゃなかったのかい?」イラッとした顔でその魔族は言いました。
「開始の時にはすでに張ってありましたから」私はそのイライラを増幅するようにニッコリ笑って言いました。
「なるほどな」その魔族は少し離れて右腕を突き出してそのシールドを簡単に砕く。どうだとばかりに私を見る。そしてゆっくりと近づいてくる。
その間に私は再度拘束魔法を発動させる。しかも私は、少しずつ間隔を置いて何度も詠唱をしています。
「何度やっても同じだぜ」そう言って拘束魔法を引きちぎって私に近付く。すると次の拘束魔法が発動して再び相手を拘束をする。
「そうでしょうか?少しずつ時間がかかっていますよ?」何度も何度も拘束魔法が発動して、彼は拘束魔法を引きちぎる時間が徐々に長くなり、ついには歩く事ができず引きちぎる事に時間を取られ始める。
「なるほど体力を削る作戦か」そう言いながら再び歩きだす。
「いいえ。どのくらいの拘束がいいのか測定しているだけです」私は何回も繰り返し拘束魔法を起動します。
「本当に俺の事をなめくさってるなあ。わかった方針変更だ」その魔族はそう言って少し離れた場所に立ち止まり詠唱を始める。私の周りに層の厚い魔法陣がつくれられていく。どうやらはそれは、私の体に拘束魔法をかけているようで身動きが取れなくなっています。さらに頭上には巨大な影ができています。どうやら氷塊のようです。
「これはやばそうですねえ」私は頭の上を見ながら呟きました。
「さあ。なめてくれた分は返さないとな。だがこれで死ぬなよ。それじゃあつまんねえからな」
「死にたくないですねえ」そう言って私は詠唱を始める。「1、2、3」 私は数を数えてから魔法を発動させる。
頭上に作られた巨大な氷塊が私の魔法が発動すると同時に落下してくる。私の周囲に風が巻き起こり、その氷塊を受け止めた後、相手に向かって飛ばしました。私は風の魔法とともに相手に対して拘束魔法をかけていて、一瞬だけ彼は逃げ遅れて額に傷を作る。
「多重詠唱とはなあ」何か感心して言いました。
「いいえ、先ほどから3秒ごとに魔法を詠唱していますよ?」
「なんだと」
「私は痛いのは嫌なので防御魔法に徹していました。さてこれから反撃です」
「おもしろい。おもしろいなあ。じゃあこれも受け取ってくれ」そう言って彼は私を氷壁で覆って閉じ込める。
さらに上空に鋭利な氷を作り始める。つららを多数発生させて開いている天井から落として私をつぶすつもりのようです。
「それだけ密閉していれば風が発生できないだろう。そのまま氷に押しつぶされろ」
「おや考えましたねえ」
私は目の前の氷の壁に手を当てて、「1、2、3」と数を数えてから振動を起こして氷を粉砕する。
「貴様いったい何をした!簡単にあの厚さの氷壁を一瞬にして破壊できるわけないだろう」
「企業秘密です」
「そうか。やるじゃないか。まあ面白かったよ。魔法での戦いも最後だな。これをくらえ。これをしのいだらお前の勝ちだ」彼はそう言うと自分の周りにシールドを張り、両手を上げて詠唱に入る。彼の周囲と私の周囲に魔法陣が発生して、私は拘束された。そして彼の頭上には計り知れない大きさの氷塊が発生してさらに大きくなっていく。
「親方!」なんの魔法なのか仲間の魔族達は見抜いたらしい。
「お前らはここから逃げろ。俺もただではすまない。この先の崖まで逃げて隠れていろ」そう言われて後ろにいた魔族も獣人も一目散に逃げていく。
「あんたらも逃げたほうがいいんじゃないか。このままそいつに落ちた時には爆発に巻き込まれるぞ」
「わしらか? ああ心配するな自分で何とかするから。そうじゃな」 私の家族は全員うなずいた。あれ?アンジーはやばいんじゃないんですか?
「揃いも揃って化け物みたいな家族だな」そう言っている間もどんどんと彼の頭の上の氷塊は大きくなっていく。
「モーラどうしましょう。私はこういう負けず嫌いな人好きなんですよ。なんとか殺さないで負けを認めさせられませんか」
「こういう輩は、最後まで負けを認めないからのう。術式を途中で止めて魔法を暴走させられてもたまらんからなあ。本人に詠唱をやめてもらうか、おぬしが受けきるのが良いのではないか?」モーラは笑いながら私にそう答えました。
「それだと受けきれなかったら負けですよね。死んじゃいますよね。それは困ります」
「まあそうじゃが。あとは」
「痛いのは嫌なのです。そうですね。彼の上にさらに大きいシールドを作って投げられなくしましょう。その中で自分の氷で自滅してもらいます。自滅したくなかったらきっと詠唱を中断しますよね」
「なるほどな」
「では、真似して詠唱を始めます。「1、2、3」」私は三つ数えてから詠唱を開始します。そしてまた3つ数えてから詠唱を始めました。一つは、彼の作っている氷塊を包み込めるほどの巨大なシールドを彼の周囲に構築します。そのシールドの高さが氷塊を超えたところでその上に平らな氷塊を作って蓋をしました。
「おいおいおい、俺の術式を真似してさらにでかいシールドを作って俺を囲むだと」氷はまだ大きくなり続けているが、詠唱が終了したようで両手を挙げたまま私を見て言った。
「はい。でないと発動した巨大な氷柱が私たちに降ってきますから。あなたは自分の氷に押しつぶされてください」私はそう言った。すでに私の張った氷のシールドに阻まれて彼の作っている巨大な氷塊は大きくなる余地を失ってミシミシときしんで、上には大きくなれずに彼の頭上に向けて大きくなり始めている。
「はあわかった。負けを認める。ノーガードの自分に自分の攻撃が降り注いだらどうなるかよくわかる。たとえ自分のシールドがあってもな」彼は再び詠唱をして、氷塊を小さくし始めた。
「ありがとうございます。負けを認めたついでにお願いもあるのですが」
「ああ?そのドワーフのことか?そんなことはもういいぜ。あんなのは口実だ」
「ではなくて。今回のこの戦いは引き分けという事にしてもらえませんか?」
「あ?別にそれはいいが。どうしてだ?」氷塊は勝手に消失し彼の周囲のシールドも霧散した。そしてその表情はぽかーんとしている。
「こちらの事情であまり強いという評判が立つと困るので」私は頭をかきながらそう言いました。
「あ~なるほどな。いいぜ、たいしたことなかったって言っておく。まあ俺も負けを認めたくはないし、再戦の機会を与えてもらったと思うことにするわ」嬉しそうにそう言いました。
「ありがとうございます。逃げていった魔族さん達にもその旨お伝えください。私たちは、発動した魔法に恐れをなして退散したと。そんな弱い奴は追いかけるほどの価値はないと言ってください」
「わかったわかった。なるほどそういうからくりか。うまくやっているなあ」視線が一瞬だけ、後ろにいた家族に向けられたようです。一体誰を見たのでしょうか?
「それではこの辺で失礼します」私はお辞儀をしてから、私のそばに来た馬車に乗り込む。
「次会う時を楽しみにしているぜ。必ず倒してやる。いや、良い勝負までもっていってやる」私を指さしてそう叫びました。
「勘弁してください。では」
「ああ、気をつけてな。他の奴に倒されるなよ。また遊んでくれ」
そうして、その場所を後に道を進みます。隠れていた魔族さん達を尻目に谷を抜けました。
○谷を抜け~
しばらく移動した後、後ろから誰も追ってきていないのを確認して馬車を止めて。全員で馬車を降りて体を動かしています。
「ありがとうございます」パムさんが私に近づいて来て頭を下げました。
「今回のはたまたま相手が私と戦いたかっただけなんですよ。だから感謝することなんてないのです」
「いえ、本当にありがとうございます。しかし、なぜ私を助けたのですか。そんなにしてまで」
「なんとなくですか。しいていえばなりゆきですね」
「わかりません。その考え方私にはわかりません」パムさんが頭を左右に振りながらそう呟く。
「私にとっては一緒に旅をしている以上、仲間とかでは無く家族なんですよ」
「家族・・・ですか。どうしてそこまで私のことを信用するのですか。 あってまだ数日ですよ?疑って当たり前じゃないですか」
「そうですねその通りです。そんな短期間で信用なんかできるわけありませんよね。普通はそうです」
「そういえばパムよ。休憩時間にわしらがバラバラになると探るようについてきているのもわかっておったぞ。何かつかめたか?」モーラが私達の言い合いを見て近づいて来てそう言いました。
「私達みんなあなたの事を気にしていたのよ。こいつ以外はね」そう言ってアンジーが私を指さします。
「私は見張られていたのですか」
「あなたがこいつを狙わないようにね。でもあなたは結果的に何もしていないし、むしろ責任を感じていて、それが後ろめたくて今はこいつを責めている。そうよね」アンジーが解説しています。たぶんパムさんにも自分の今の感情が理解できていないのでしょう。
「ご主人様はこうなる事がわかっていたのです。むしろあなた様がここまでしなければならない理由を心配していました。どうしてこんな探るような事までしなければならないのかと。きっと何か事情があるのだろうと」メアも同じようにパムさんにそう言いました。
「だから・・・どうしてそこまで見ず知らずの会って数日の得体の知れない私のことをそこまで気にかけるのですか」パムさんは拳を握りしめて何かに怒りをぶつけるように言いました。
「そうですねえ。あなたの目が叫んでいたのです。そう私には見えてしまったのです。助けて欲しいと。おかれたこの環境から解放して欲しいと。そう見えてしまったからなのです」
「最初に出会った時からですか」パムさんは握っていた拳を開いてその手のひらを見つめる。
「あの時は本当にどうしようか迷いました。でもあのすがるような目に私は弱いのです。あれは演技だったかもしれません。でもあそこで引き渡すような事は私にはできませんでした。それからお話を続けるうちにパムさんがいい人なのは良くわかりましたから、あとは黙って待っていました。いつかお話ししてくれるのをね」私はそう言いながらパムさんを見る。
「もしかしたら私があなたを殺すかもしれなかったのですよ」そう言ってパムさんは私を睨む。睨んだあと悲しい目に変わる。
「こちらから信用しなければ始まらないでしょう? もっとも殺されるつもりもありませんでしたけど。そういう意味では私もあなたを試していたのです。お互い様ですね」
「信用してもらうにはまず信用すると言う事ですか」パムさんはまたうなだれてしまった。
「そうなのよ。この人本当にバカだから。まず相手を信じるでしょう?そして一度家族と認識するととことん世話を焼き始めたり、面倒見たりして、最後には責任まで感じ始めるのよ。この人には深入りしないように気をつけないとダメなのよ」アンジーがため息交じりにそう言った。
「そうなんですよ~気をつけないと~いつの間にか隷属させられてしまいます~」エルフィ!あなたはそれを言ってはいけませんよ。というか、いつの間にか隷属した人なんてこの中にはいませんよね。
「隷属しているのですか?全員がですか?」パムさんはびっくりして顔を上げて私をマジマジと見ます。いやん照れちゃいます。
「ええまあ。結果的にそうなってしまっていますね」
「隷属はそう簡単にできるものではありませんし、高位の魔法使い一人でできるものでもありません。しかも強制的な隷属も格が極端に違わなければできないはずです」パムさん本当にびっくりしていますね。
「確かにそうじゃな」モーラが頷いています。
「もしかして、本当の天使様なのですか。ですが、DT様を高位の魔法使いだとしてもお二人ではまだ一人足りないのでは・・・」パムさんはまずアンジーを見て最後にモーラを見て言った。
「いいや、2人いれば成立するぞ。3人いれば完璧だがな」ニヤリと笑ってモーラが答える。
「なるほど。どうも気配が違われると思っておりましたが、やはりドラゴン種の方でしたか。ならば強制的な隷属も可能ですね」パムさんが納得したように頷いています。いや誤解です。
「確かにな」どうしてそこでモーラが頷きますか。
「なにを言っているのですか。私は一度も強制していませんよ。そもそもアンジーとかモーラとかメアさんなんてハプニングですし、ユーリはまあ彼女が希望しましたけど、エルフィなんて私をだまして隷属しましたよねえ」私は少し怒っています。いや、知らないパムさんに強制をしたなどと誤解されては困ります。
「はいはいそうですね。いつの間にか隷属させていますね」アンジーが嬉しそうに言いました。もうすでに遊んでいますね。
「とほほ。なんか悪者です」
「そうなのですか?それであれば解除してあげればいいのではないですか」当然のようにパムさんが言いました。
「もちろん自分で解除できるようにしてありますよ」
「ええ?隷属した側から解除できるのですか?本来はあり得ないですよ。仮にそうだとしてなぜそのまま隷属しているのですか?」パムさんが皆さんを見回して言いました。
「わしらにも都合があってなあ。隷属していた方が楽じゃし便利なのじゃよ」
「誘拐されてもすぐ見つけてもらえるし、変な催眠をかけられても大丈夫なのです。アンジーが言っていました。これは保護者機能だと」ユーリが言いました。もっとも一度も催眠なんてかけられたことなんてないですよね。
「もちろん僕は、あるじ様にお願いして忠誠を誓い隷属しています」そこで無い胸を張りますかユーリ。おっと誰か来たようだ。ユーリが一瞬で私の後ろに回ってポカポカ背中をたたいています。やりますねユーリ。
「そうですか、あなた達の関係がよくわかりました」
「そうですか?まだ片鱗しか見せていませんよ」
「そうかもしれません、でも私は初めてのこの感情がどういうものなのかようやくわかったような気がします」
「はあ」
馬たちがいなないて、そろそろ出発しようと言い出しましたので、馬車に乗り込みました。馬車の中がちょっと静かだったので雰囲気を変えようと休憩にしたのですが、休憩後もみんな黙ったままです。
Appendix
速報が入りました。やはりあの地域で魔族と例の転生者がやりあったそうです。
あそこは血の気の多い奴らばかりだから思った通りにいきましたねえ。で、どうだったのですか。
残念ながら逃げ出したそうです。
またですか。倒す事もなく逃げ出したと。
いいえ。リーダーをしていた魔族とタイマン勝負になって、リーダーの自爆モードの魔法を見て逃げ出したそうです。
不甲斐ないですね。また実力は測れなかったのですね。
そうなりますね。
あの魔法使いと互角に戦えたのなら今回の魔族なんて簡単に倒せるはずなのに逃げたのですか。
逃げ回っています。
やっぱり性格的に勇者にはなり得ないですね。殺しましょう。
そうなりますか。
次は刺客を送り込みなさい。
わかりました。何人ほど送り込みますか?
3人もいれば大丈夫でしょう?実際戦うのは本人入れて4人ですから。
4人でなくてもよろしいのでしょうか?
3対4で戦って負けたなら納得して死んでくれそうですし。
そう言う事ですか。
続く
断崖絶壁が両側にそそりたつ谷に入りました。道沿いには川が流れていて、反対側は背丈の低い林が崖に沿って群生している。道はうねっていて切り立った石壁が先を見通せなくしている。道の真上が断崖岩壁になっているところでは、落石を使って攻撃されそうだったので、事前にパムさんが様子を見に行ってくれました。
戻ってくる時にパムさんの頭上に氷の塊が現れ、気付くのが遅れたためにパムさんは額に傷を負いました。そのままこちらに戻ってきましたが、その時には周囲に魔族や獣人が現れて私達を囲んでいました。
私は馬を止めさせ、私ひとり馬車を降りて相手に向かって大声で言いました。
「繰り返しますが、彼女は何もしていないと言っていますが」
「もうそんなことはどうでも良いんだ。さっさとそのドワーフを渡せ」中心に立っていた魔族が言いました。
先日は逆光のためよく見えなかったのですが、今日ははっきりと見えます。人型で体は一回りくらい大きいですが、筋骨隆々な感じではではなく、どちらかというと優男風です。顔は人に近いのに頭部は山羊のような立派な角が両耳のやや上の方から伸びています。着ている服も薄手ですが普通の布の服を着ています。ああでも服の後ろから特徴的な尻尾が出ていますねえ。
「嫌です」
「殺されてもか」そう言ってにやりと笑った魔族さんの歯はギザキザですねえ犬歯ばかりで食べづらそうです。
「はい。無実の罪の者を守ることは一緒にいる仲間として当然です」
「ほんの少し前に一緒になっただけでも仲間か」嘲笑気味にその魔族は言った。
「はい。二度も一緒に戦ったのです。それだけでも仲間です」
「良い心がけだな。だがそのせいで殺されても泣くなよ」本当に嬉しそうに言いますねえ。
「はい。後悔はしません」
「待ってください。私が・・・」馬車の中で手当を受けていたパムさんが馬車を降りてきて相手のところに行こうとしていました。私はパムさんの前に立ちはだかり、腕をつかまえてこう言いました。
「あなたの行動を止めて申し訳ありませんが、本当にそう思って行動していますか?」私はパムさんの目をにらみつけて言いました。
「それは・・・」パムさんは私の目を見て言い澱みます。
「私たちのことを考えて言っていませんか?」私は視線をそらしそうになるパムさんの腕を引っ張って私の方を向かせます。
「・・・・」しかし視線を外してパムさんはうつむいてしまう。
「残念ですが、私は自己犠牲が一番嫌いなのです」私は力の抜けたパムさんの腕を離してそう言いました。
「あーあ。だめですよ。この人に火をつけるようなことを言っちゃあ」そう言いながら降りてきたアンジーがあきれている。アンジーはさらに続けてこう言った
「でもひとつだけ。あなたは、自分が行けば問題が解決すると思っているけど。本当に念のため聞くけど、何もしていないのよね」アンジーがうつむいているパムさんを下から見上げるようにして目を見る。
「は、はい。それは間違いありません」アンジーを見るその瞳は真剣だった。
「この人はね、愚直に信じる人なの。もちろんやっぱり嘘でしたって後から言っても良いけど、本当にそれはないのね。ここで「嘘をついていた」って言ってもきっとこの人は味方になってくれるの。だから嘘なら嘘って言って欲しいの。そうしないとこの人今度は、相手に対してこの人はあなたと一緒になってお詫びをしようとするの。こいつはだからやっかいなの。どう?」
「それは本当です。本当に何もしていないのです」パムさんのその言葉にアンジーがモーラを見る。モーラもうなずいている。
「嘘はついてないようよ。大丈夫。攻撃してきたら反撃しましょう」アンジーがOKを出してくれました。
「はい。では思う存分行きます」
私はアンジーとパムさんに馬車に戻るように言ってからその魔族に向き直ってこう言いました。
「念のため警告しますが、ここで引いてくれるとお互い被害が少なくてすむと思うんです。それでもやりますか?」
「いいんだよ。やろうぜ」そう言って中心に立っている魔族の人。
「どうしてこう魔族の方達は好戦的なんでしょうかね」私はそう言ってため息をつく。
「魔族が好戦的なんじゃなくて、俺たちが好戦的なんだよ。強い者が弱い者を倒す。それは自然の摂理だ」
「違いますよ。食べるために殺すのならしようがありませんが、それ以上の殺戮は傲慢です。そして弱肉強食の皮を被った快楽主義でしかない」
「だからどうした。弱ければ手も足も出ないだろう?」うれしそうに笑っている。
「そうですね。私もこの力が、魔力が無ければただの人間でしかなくて、あなたと渡り合うことはできなかったでしょう。だからこそ、この力は使いすぎてはいけないと思っていますよ。あなたはそう考えられないんですか。自分より弱い者をいじめて遊ぶ幼児ですか?」私は悲しくなってしまいました。
「はあ?おまえが弱いならこんなことはしない。でも違うだろう?この前の獣人との戦いを見ていたよ。あれはすごかった。敵の俺が見ても惚れ惚れしてしまったよ。俺は強い奴が好きだ。憧れる。だからこそ、その強い奴を倒せればそれはさらに快感さ。わかるだろう?ああわからないか。ちっ、語っちまった。ごたくはここまでだ。さっさとやろうぜ」
そう言ってその魔族は、すこしずつ前に来てから止まった。
「さて面倒なのはもういい。 さっそく始めようじゃないか。 一対一だ。問題ないだろう」
「改めて言いますが、私としては不本意なのですが」
「なんだい?助けが欲しいのかい」
「いやそうではなくて。あなたと戦いたくないのです」
「臆したのか?あれだけの力を持っていて何を恐がる」
「ちゃんと部下の事を思いやれる人なのに・・・そんな人を殺してしまいそうなので」
「なめるなよ。俺がお前を殺すことはあってもお前に殺されるわけがない。殺す気で来い」ちょっとだけ彼の後ろから陽炎が見えました。かえって怒らせてしまったようです。
「そこの方との戦いを見ていたのですよねえ」私は魔族の中に見知った獣人の姿を見つけてそう言いました。
「あいつは獣化していたから魔法は使えなかっただろう。俺は魔族なんだ。スピードも奴より速いし魔法も使える。大丈夫だよ。あんたの期待以上に戦って、期待以上にお前を殺してやるよ」
「わかりました。わたしも死ぬ気で頑張りますね」
「調子が狂うなあ。それがあんたの戦法なのか?」そう言って頭をかく
「いいえいつでもこうですよ。ではやりましょうか」
そこは切り立った崖の下です。空間としてはやや狭いです。周囲は木立が散見される平原で横には道路と並行して川が流れています。
私は川を右手にして相手と対峙しています。 他の魔族も少し離れてこちらの様子をうかがっている。
「念のため再度確認しますが、あなたと戦ったら他の人は無事通してくれるのですよね」
「ああ、勝っても負けても俺が保証する」
「了解しました。パムさん、空高く石を投げてください。 ちょうど2人の間に落ちるように」馬車に戻るように行っていたのに結局全員馬車から降りて私を見ています。その中でも心配そうに見ているパムさんに、私は振り返ってお願いしました。パムさんは意図を理解して、こぶしより一回り大きい石を拾って、思いっきり空に向かって投げ上げました。しかししばらく落ちてきません。高く投げすぎですよ。その間にその男は詠唱に入っていました。まあ、そうですよねえ。やっと2人の間に石が落ちてきて、跳ねずにドスンと土にめり込みました。どんだけ高く投げたのでしょうか。石が地面に到着した瞬間。私の立っている地面に魔法陣が現われました。ほんのわずかに遅れて彼の足元にも魔法陣が現われます。それぞれの体が彼は炎に私は氷に突き上げられる。しかしお互い無事だ。
「詠唱勝負は俺の勝ちだな」
「事前に詠唱を始めるのはずるくないですか? 私は石が落ちてから魔法を詠唱しましたよ」
「はあ? 無詠唱だと?」
「詠唱はしていますよ。わかりました。そこはハンデにしましょう。詠唱に3秒かけますね」私はそう挑発します。まあ、基本的な心理戦で普通は乗ってこないで条件をのむのですが・・・
「なめやがって。そんなハンデはいらねえ。こうなったらまずこぶしで勝負だ」
その魔族は向かってこようとするが、私の拘束魔法が発動して体の動きを止められる。それでもその拘束を引きちぎって一瞬で私に近づいた。
「よう」その魔族は、嬉しそうに私の目前でにたりと笑った。私はニッコリ笑って自分の目の前の空間を軽くノックする。透明なシールドを張っていることを教える。これも心理戦ですよ?
「詠唱に3秒かけるんじゃなかったのかい?」イラッとした顔でその魔族は言いました。
「開始の時にはすでに張ってありましたから」私はそのイライラを増幅するようにニッコリ笑って言いました。
「なるほどな」その魔族は少し離れて右腕を突き出してそのシールドを簡単に砕く。どうだとばかりに私を見る。そしてゆっくりと近づいてくる。
その間に私は再度拘束魔法を発動させる。しかも私は、少しずつ間隔を置いて何度も詠唱をしています。
「何度やっても同じだぜ」そう言って拘束魔法を引きちぎって私に近付く。すると次の拘束魔法が発動して再び相手を拘束をする。
「そうでしょうか?少しずつ時間がかかっていますよ?」何度も何度も拘束魔法が発動して、彼は拘束魔法を引きちぎる時間が徐々に長くなり、ついには歩く事ができず引きちぎる事に時間を取られ始める。
「なるほど体力を削る作戦か」そう言いながら再び歩きだす。
「いいえ。どのくらいの拘束がいいのか測定しているだけです」私は何回も繰り返し拘束魔法を起動します。
「本当に俺の事をなめくさってるなあ。わかった方針変更だ」その魔族はそう言って少し離れた場所に立ち止まり詠唱を始める。私の周りに層の厚い魔法陣がつくれられていく。どうやらはそれは、私の体に拘束魔法をかけているようで身動きが取れなくなっています。さらに頭上には巨大な影ができています。どうやら氷塊のようです。
「これはやばそうですねえ」私は頭の上を見ながら呟きました。
「さあ。なめてくれた分は返さないとな。だがこれで死ぬなよ。それじゃあつまんねえからな」
「死にたくないですねえ」そう言って私は詠唱を始める。「1、2、3」 私は数を数えてから魔法を発動させる。
頭上に作られた巨大な氷塊が私の魔法が発動すると同時に落下してくる。私の周囲に風が巻き起こり、その氷塊を受け止めた後、相手に向かって飛ばしました。私は風の魔法とともに相手に対して拘束魔法をかけていて、一瞬だけ彼は逃げ遅れて額に傷を作る。
「多重詠唱とはなあ」何か感心して言いました。
「いいえ、先ほどから3秒ごとに魔法を詠唱していますよ?」
「なんだと」
「私は痛いのは嫌なので防御魔法に徹していました。さてこれから反撃です」
「おもしろい。おもしろいなあ。じゃあこれも受け取ってくれ」そう言って彼は私を氷壁で覆って閉じ込める。
さらに上空に鋭利な氷を作り始める。つららを多数発生させて開いている天井から落として私をつぶすつもりのようです。
「それだけ密閉していれば風が発生できないだろう。そのまま氷に押しつぶされろ」
「おや考えましたねえ」
私は目の前の氷の壁に手を当てて、「1、2、3」と数を数えてから振動を起こして氷を粉砕する。
「貴様いったい何をした!簡単にあの厚さの氷壁を一瞬にして破壊できるわけないだろう」
「企業秘密です」
「そうか。やるじゃないか。まあ面白かったよ。魔法での戦いも最後だな。これをくらえ。これをしのいだらお前の勝ちだ」彼はそう言うと自分の周りにシールドを張り、両手を上げて詠唱に入る。彼の周囲と私の周囲に魔法陣が発生して、私は拘束された。そして彼の頭上には計り知れない大きさの氷塊が発生してさらに大きくなっていく。
「親方!」なんの魔法なのか仲間の魔族達は見抜いたらしい。
「お前らはここから逃げろ。俺もただではすまない。この先の崖まで逃げて隠れていろ」そう言われて後ろにいた魔族も獣人も一目散に逃げていく。
「あんたらも逃げたほうがいいんじゃないか。このままそいつに落ちた時には爆発に巻き込まれるぞ」
「わしらか? ああ心配するな自分で何とかするから。そうじゃな」 私の家族は全員うなずいた。あれ?アンジーはやばいんじゃないんですか?
「揃いも揃って化け物みたいな家族だな」そう言っている間もどんどんと彼の頭の上の氷塊は大きくなっていく。
「モーラどうしましょう。私はこういう負けず嫌いな人好きなんですよ。なんとか殺さないで負けを認めさせられませんか」
「こういう輩は、最後まで負けを認めないからのう。術式を途中で止めて魔法を暴走させられてもたまらんからなあ。本人に詠唱をやめてもらうか、おぬしが受けきるのが良いのではないか?」モーラは笑いながら私にそう答えました。
「それだと受けきれなかったら負けですよね。死んじゃいますよね。それは困ります」
「まあそうじゃが。あとは」
「痛いのは嫌なのです。そうですね。彼の上にさらに大きいシールドを作って投げられなくしましょう。その中で自分の氷で自滅してもらいます。自滅したくなかったらきっと詠唱を中断しますよね」
「なるほどな」
「では、真似して詠唱を始めます。「1、2、3」」私は三つ数えてから詠唱を開始します。そしてまた3つ数えてから詠唱を始めました。一つは、彼の作っている氷塊を包み込めるほどの巨大なシールドを彼の周囲に構築します。そのシールドの高さが氷塊を超えたところでその上に平らな氷塊を作って蓋をしました。
「おいおいおい、俺の術式を真似してさらにでかいシールドを作って俺を囲むだと」氷はまだ大きくなり続けているが、詠唱が終了したようで両手を挙げたまま私を見て言った。
「はい。でないと発動した巨大な氷柱が私たちに降ってきますから。あなたは自分の氷に押しつぶされてください」私はそう言った。すでに私の張った氷のシールドに阻まれて彼の作っている巨大な氷塊は大きくなる余地を失ってミシミシときしんで、上には大きくなれずに彼の頭上に向けて大きくなり始めている。
「はあわかった。負けを認める。ノーガードの自分に自分の攻撃が降り注いだらどうなるかよくわかる。たとえ自分のシールドがあってもな」彼は再び詠唱をして、氷塊を小さくし始めた。
「ありがとうございます。負けを認めたついでにお願いもあるのですが」
「ああ?そのドワーフのことか?そんなことはもういいぜ。あんなのは口実だ」
「ではなくて。今回のこの戦いは引き分けという事にしてもらえませんか?」
「あ?別にそれはいいが。どうしてだ?」氷塊は勝手に消失し彼の周囲のシールドも霧散した。そしてその表情はぽかーんとしている。
「こちらの事情であまり強いという評判が立つと困るので」私は頭をかきながらそう言いました。
「あ~なるほどな。いいぜ、たいしたことなかったって言っておく。まあ俺も負けを認めたくはないし、再戦の機会を与えてもらったと思うことにするわ」嬉しそうにそう言いました。
「ありがとうございます。逃げていった魔族さん達にもその旨お伝えください。私たちは、発動した魔法に恐れをなして退散したと。そんな弱い奴は追いかけるほどの価値はないと言ってください」
「わかったわかった。なるほどそういうからくりか。うまくやっているなあ」視線が一瞬だけ、後ろにいた家族に向けられたようです。一体誰を見たのでしょうか?
「それではこの辺で失礼します」私はお辞儀をしてから、私のそばに来た馬車に乗り込む。
「次会う時を楽しみにしているぜ。必ず倒してやる。いや、良い勝負までもっていってやる」私を指さしてそう叫びました。
「勘弁してください。では」
「ああ、気をつけてな。他の奴に倒されるなよ。また遊んでくれ」
そうして、その場所を後に道を進みます。隠れていた魔族さん達を尻目に谷を抜けました。
○谷を抜け~
しばらく移動した後、後ろから誰も追ってきていないのを確認して馬車を止めて。全員で馬車を降りて体を動かしています。
「ありがとうございます」パムさんが私に近づいて来て頭を下げました。
「今回のはたまたま相手が私と戦いたかっただけなんですよ。だから感謝することなんてないのです」
「いえ、本当にありがとうございます。しかし、なぜ私を助けたのですか。そんなにしてまで」
「なんとなくですか。しいていえばなりゆきですね」
「わかりません。その考え方私にはわかりません」パムさんが頭を左右に振りながらそう呟く。
「私にとっては一緒に旅をしている以上、仲間とかでは無く家族なんですよ」
「家族・・・ですか。どうしてそこまで私のことを信用するのですか。 あってまだ数日ですよ?疑って当たり前じゃないですか」
「そうですねその通りです。そんな短期間で信用なんかできるわけありませんよね。普通はそうです」
「そういえばパムよ。休憩時間にわしらがバラバラになると探るようについてきているのもわかっておったぞ。何かつかめたか?」モーラが私達の言い合いを見て近づいて来てそう言いました。
「私達みんなあなたの事を気にしていたのよ。こいつ以外はね」そう言ってアンジーが私を指さします。
「私は見張られていたのですか」
「あなたがこいつを狙わないようにね。でもあなたは結果的に何もしていないし、むしろ責任を感じていて、それが後ろめたくて今はこいつを責めている。そうよね」アンジーが解説しています。たぶんパムさんにも自分の今の感情が理解できていないのでしょう。
「ご主人様はこうなる事がわかっていたのです。むしろあなた様がここまでしなければならない理由を心配していました。どうしてこんな探るような事までしなければならないのかと。きっと何か事情があるのだろうと」メアも同じようにパムさんにそう言いました。
「だから・・・どうしてそこまで見ず知らずの会って数日の得体の知れない私のことをそこまで気にかけるのですか」パムさんは拳を握りしめて何かに怒りをぶつけるように言いました。
「そうですねえ。あなたの目が叫んでいたのです。そう私には見えてしまったのです。助けて欲しいと。おかれたこの環境から解放して欲しいと。そう見えてしまったからなのです」
「最初に出会った時からですか」パムさんは握っていた拳を開いてその手のひらを見つめる。
「あの時は本当にどうしようか迷いました。でもあのすがるような目に私は弱いのです。あれは演技だったかもしれません。でもあそこで引き渡すような事は私にはできませんでした。それからお話を続けるうちにパムさんがいい人なのは良くわかりましたから、あとは黙って待っていました。いつかお話ししてくれるのをね」私はそう言いながらパムさんを見る。
「もしかしたら私があなたを殺すかもしれなかったのですよ」そう言ってパムさんは私を睨む。睨んだあと悲しい目に変わる。
「こちらから信用しなければ始まらないでしょう? もっとも殺されるつもりもありませんでしたけど。そういう意味では私もあなたを試していたのです。お互い様ですね」
「信用してもらうにはまず信用すると言う事ですか」パムさんはまたうなだれてしまった。
「そうなのよ。この人本当にバカだから。まず相手を信じるでしょう?そして一度家族と認識するととことん世話を焼き始めたり、面倒見たりして、最後には責任まで感じ始めるのよ。この人には深入りしないように気をつけないとダメなのよ」アンジーがため息交じりにそう言った。
「そうなんですよ~気をつけないと~いつの間にか隷属させられてしまいます~」エルフィ!あなたはそれを言ってはいけませんよ。というか、いつの間にか隷属した人なんてこの中にはいませんよね。
「隷属しているのですか?全員がですか?」パムさんはびっくりして顔を上げて私をマジマジと見ます。いやん照れちゃいます。
「ええまあ。結果的にそうなってしまっていますね」
「隷属はそう簡単にできるものではありませんし、高位の魔法使い一人でできるものでもありません。しかも強制的な隷属も格が極端に違わなければできないはずです」パムさん本当にびっくりしていますね。
「確かにそうじゃな」モーラが頷いています。
「もしかして、本当の天使様なのですか。ですが、DT様を高位の魔法使いだとしてもお二人ではまだ一人足りないのでは・・・」パムさんはまずアンジーを見て最後にモーラを見て言った。
「いいや、2人いれば成立するぞ。3人いれば完璧だがな」ニヤリと笑ってモーラが答える。
「なるほど。どうも気配が違われると思っておりましたが、やはりドラゴン種の方でしたか。ならば強制的な隷属も可能ですね」パムさんが納得したように頷いています。いや誤解です。
「確かにな」どうしてそこでモーラが頷きますか。
「なにを言っているのですか。私は一度も強制していませんよ。そもそもアンジーとかモーラとかメアさんなんてハプニングですし、ユーリはまあ彼女が希望しましたけど、エルフィなんて私をだまして隷属しましたよねえ」私は少し怒っています。いや、知らないパムさんに強制をしたなどと誤解されては困ります。
「はいはいそうですね。いつの間にか隷属させていますね」アンジーが嬉しそうに言いました。もうすでに遊んでいますね。
「とほほ。なんか悪者です」
「そうなのですか?それであれば解除してあげればいいのではないですか」当然のようにパムさんが言いました。
「もちろん自分で解除できるようにしてありますよ」
「ええ?隷属した側から解除できるのですか?本来はあり得ないですよ。仮にそうだとしてなぜそのまま隷属しているのですか?」パムさんが皆さんを見回して言いました。
「わしらにも都合があってなあ。隷属していた方が楽じゃし便利なのじゃよ」
「誘拐されてもすぐ見つけてもらえるし、変な催眠をかけられても大丈夫なのです。アンジーが言っていました。これは保護者機能だと」ユーリが言いました。もっとも一度も催眠なんてかけられたことなんてないですよね。
「もちろん僕は、あるじ様にお願いして忠誠を誓い隷属しています」そこで無い胸を張りますかユーリ。おっと誰か来たようだ。ユーリが一瞬で私の後ろに回ってポカポカ背中をたたいています。やりますねユーリ。
「そうですか、あなた達の関係がよくわかりました」
「そうですか?まだ片鱗しか見せていませんよ」
「そうかもしれません、でも私は初めてのこの感情がどういうものなのかようやくわかったような気がします」
「はあ」
馬たちがいなないて、そろそろ出発しようと言い出しましたので、馬車に乗り込みました。馬車の中がちょっと静かだったので雰囲気を変えようと休憩にしたのですが、休憩後もみんな黙ったままです。
Appendix
速報が入りました。やはりあの地域で魔族と例の転生者がやりあったそうです。
あそこは血の気の多い奴らばかりだから思った通りにいきましたねえ。で、どうだったのですか。
残念ながら逃げ出したそうです。
またですか。倒す事もなく逃げ出したと。
いいえ。リーダーをしていた魔族とタイマン勝負になって、リーダーの自爆モードの魔法を見て逃げ出したそうです。
不甲斐ないですね。また実力は測れなかったのですね。
そうなりますね。
あの魔法使いと互角に戦えたのなら今回の魔族なんて簡単に倒せるはずなのに逃げたのですか。
逃げ回っています。
やっぱり性格的に勇者にはなり得ないですね。殺しましょう。
そうなりますか。
次は刺客を送り込みなさい。
わかりました。何人ほど送り込みますか?
3人もいれば大丈夫でしょう?実際戦うのは本人入れて4人ですから。
4人でなくてもよろしいのでしょうか?
3対4で戦って負けたなら納得して死んでくれそうですし。
そう言う事ですか。
続く
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