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第9話 DT同居人が増える
第9-7話 収穫祭といえばメイド(中編)
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○ 訓練の時にはサーをつけろ
メイド服が完成してからは、実際に着て給仕の練習です。すでに露天の横の広場にかなり大きな店が作ってあります。一応、喫茶店風になるよう私が監修しました。えへん。
「けっこう大きいのう。屋内も客席の間を広く取っているのか」内覧しながらモーラが言った。その通りです。
「メイド服がぶつからないでヒラヒラ動くよう通路を広めにしてみました。キリリ」
「なるほど、お主の好きなチラリズムじゃな」モーラ、笑い方がエロいです。
「別に好きではありませんが、客商売とはそういうものです」私はモーラに向かって真面目な顔で言いました。
そうです。私は言い訳を堂々としてみました。皆さんの冷たい目はもう慣れました。
「男目線じゃのう」そこでおっさんみたいな事を言わないでください。
「さて練習を始めます」メアがパンパンと手を叩いて自分に目を向けさせます。まるでバレエの先生かメイド長のようですねえ。バレーと伸ばすとバレーボールになってしまいます。注意しましょう。
視線を感じるので周りを見ると、すでに窓には暇な男連中がべったりと張り付いています。そういうのは当日までの楽しみにしておいてください。当日店に来た時に新鮮味がありませんよ。
「窓は黒くしておくわね」エリスさんが一瞬で窓を黒くしました。魔法ですよねえ。どういう仕組みですか?
「そんなことはどうでもいいことよ」と私の言葉をスルーしました。
「では料理をすでに作ってありますから、それを運んでください」メアさんが言いました。本物の料理とコップなどが用意されていて、壊さないように運んでいます。練習に参加する必要の無いミカとキャロルもメイド服を着て参加しています。実はメアの考えで、障害物代わりにちょこちょこ店内を歩かせています。かわしながら通路を行き来するのがなかなか難しい。彼女たちが視界から消えるので確認しないとなりません。メアさんこれが目的だったのですね。さすがです。
「はいそこ!メイド同士でぶつからないように。お互いの位置関係をちゃんと把握して。あと笑顔も忘れずに」メアからの厳しい指導が入る。
「顔の筋肉が引きつりそうだわ」休憩の合間にアンジーが顔の筋肉のマッサージをしている。
「まったくじゃ」モーラさん椅子に座って大股開きでスカートをめくって手で仰ぐのはやめてください。はしたないです。それどころか下品ですから。
「無駄話は必要ありません。口を開くならその言葉はお客様のために使ってください。そして私に話す時にはサーをつけるように。おっと私はサーではありませんでした。サーをつける必要はありません」休憩中も厳しいメアさんです。
「お帰りの時の挨拶は丁寧にお辞儀を」
「ありがとうございました~」エルフィが扉で丁寧に頭を上げる。重力に逆らえないものがタワンタワンとしています。なぜかそれを見てアンジーが悲しそうな目をしています。あ、気付かれて睨まれた。
戸口にお見送りして、最後の礼の仕方を修正したりして、一連の行動のおさらいをして今日は終了です。
「疲れた~」全員が並べられた椅子に座ってげんなりしています。
全員交代で休憩していましたが、メアさんはずっと指導し続けています。さすが本職は違いますね。
「残念ながら私は給仕ではなくメイドです。それに私はホムンクルスですから」メアは淡々と私にそう言いました。
「あ、そうでしたねえ」
その特訓の数日間には、無理矢理入ってくる男達とか試食をせがむ女の子達などが現れ、その人達の対応で、無理客の対応のノウハウを取得しました。さすがに前日から屋根に登って覗こうと頑張っていた男については、当日も出入り禁止としました。たかだかお祭りの出し物にそこまで気合い入れないでください。
○祭りの初日
そしてついに当日を迎えました。私達は朝早くに着替えを持って街に入っていきます。すると広場のあの店の前にかなりの人数がすでに並んでいました。
「この行列はいったいなんじゃーーー」モーラが頭をかきむしります。せっかくメアがセットした髪とリボンが台無しです。
「開店前から行列ですか。これは想定しませんでしたねえ。整理券を配りましょうか」私はすでにこの情景を眺めながら現実逃避して打開策の検討を始めました。
「この勢いでは予約が一杯になって、さらにキャンセル待ちの行列ができそうです。早めに開店してお客様を入れて、さらに回転率をあげたほうがよろしいかと思います」メアさんが冷静に状況を分析して打開策を提案してくれました。さすがメイド長、いや店長代理・・・副店長に格上げです。店長でもいいですよ。返上します。
「今日は飲み物とお菓子だけにして、明日の分のストックもだしましょう。あとはなるようになれですね。さあ急ぎましょう」私は、この人数を見てげんなりしている全員を店の裏に誘導します。
「大盛況になりそうですな」裏口で打ち合わせをしていると、領主様が笑いながらキャロルを連れてお見えになりました。キャロルもお揃いのメイド服を着ていて、ヒメツキさんを見るとそばに飛ぶように走って行きました。
「まだ開店前なのですが、この様子ではかなり忙しい一日になりそうです」私は苦笑いしながら答えました。
「お手伝いは必要ですかな?」領主さんがにこりと笑った。
「キャロルですか?それは大歓迎ですが」戦力にはなりませんけれど、いてくれるだけで私達の癒やしになりそうです。
「裏方に必要だと思いましてうちのメイド達を連れて参りました。お好きにお使いください」後ろに付いてきたメイドさん達は、護衛を兼ねたお付きの人かと思ったら。そうでしたか事前に予想していたなら言ってくれれば良いのにとちょっと思いましたよ。
「助かります」私はお辞儀をして感謝を述べる。
「それでは、私は他の店も見て参りますので」
「お待ちください。せっかくですので領主様が一番目のお客さんとしてお茶していきませんか」
「いいのですか?」おやなんかうれしそうですね。
「ここまでしてもらっていますので、開店時間前の最後の予行演習という事でよければ」
「それはありがたいです」そうしてみんなで裏口から入り、厨房の後ろの事務室で皆さんが着替えている間に、私が、領主さんとキャロルを窓側の一番良い席に案内する。
「どうもうちのキャロルがお世話になっております」着替えを終えたヒメツキさんが挨拶をする。
「お目にかかるのはお久しぶりですね。キャロルは元気なよい子で本当に私の子どもに欲しいくらいですよ。まあ、本人に断られましたが」あはははと笑っている。
領主様には、ひとりずつ対応しました。出迎えの挨拶をミカ、水出しをエルフィ、オーダーをユーリ、注文のお茶をアンジー、お菓子をモーラ、精算(真似だけ)をメアが順にしていったのですが、
「ミカさんたまに私の家に遊びに来てください」
「エルフィさん、居酒屋では大人気ですねえ」
「ユーリさん、うちの冒険者をしごいてくれてありがとうございます」
「アンジーさん、孤児院の方はどうですか。教会の話はいかがいたしますか?」
「モーラさん、いつも子ども達がお世話になっています。また遊んであげてください」
「メアさん、女の子達に裁縫を教えてもらってありがとうございます」
そして、領主様が伝票を持って立ち上がったところで私が近づき、
「さすがに全員の名前を詰まらずに言えるとはすごいですねえ」
「これくらいは何とかなりますよ。街の中に不審者が入って来たときに困りますから。では私はこれで裏口からこっそり帰ります。皆様のご健闘をお祈りいたします」全員にお辞儀とキャロルに手を振って領主さんが出て行った。
「それでは開店します」
私は、扉に掛けていた閉店の札を裏返して開店にする。最初に入ってきた人は昨日の夜から並んでいたらしい。
「いらっしゃいませ」メアさんが最初に席へと案内をしていった。そこからは怒濤のように客が押し寄せてくる。しかし、満員になったところで、キャロルが扉の前で通せんぼをして、入らせないようにしてくれました。さすがに子どもを押しのけてまで入っては来られませんね。
お水をお出しして、オーダーを取る際に制限時間がある事を説明しました。
「3人様ですね、こちらのお席へどうぞ」
「ご注文は」
「は~い、5番テーブル、オレンジジュースとサンドイッチで~す」
「おまたせしました」
「きゃーやっぱりかっこいいわ~」
「ねえ想像していたとおりでしょ~」
「いいえ、想像以上に似合っているわ~かっこい~」
あちらこちらで歓声やら嬌声が聞こえる。ああ、叫声というのもあるのか。静かな客も多いですが、おっさん達のダミ声も響きますねえ。
「あんたも給仕するのかい。けっこう似合ってるねえ」と、カウンターにいた私に居酒屋の女将さんが声をかけてきました。そのままカウンターに移って座った。
「ありがとうございます」
「まあ、みんなの目当ては他だろうねえ」と少し意地悪そうな言い方をしてくる。いつものいじりですね。
「でも街のみなさん楽しそうでよかったです」
「みんな昨日までここの噂でもちきりだったからねえ」女将さんが紅茶を飲みながら言った。
「いらっしゃいませ~」
「わしはモーラとキャロルを見に来たのじゃ」と、高齢の男性が入ってきたりする。本当に年齢性別問わず皆さん人気がありますねえ。
「いらっしゃいませ~」高齢の女性が入って来た時に珍しくキャロルが対応している。きっとやりたかったのだろう。席についてからキャロルが
「ご注文はなんにしますか~」
「キャロルをもらおうかい」
「も、申し訳ありません。私は商品ではありません。シャービスが商品です。何にします?」キャロルが噛みながらも対応している。
「ほほほほ。ではこのプリンとお茶をもらおうか」
「ご注文ありがとうございます。プリンに何か書きますか?」
「名前を書いてもらおうかねえ」
「はい、ではお待ちください」
「お待たせしました。何と書きますか?」
「そうだね私の名前をかいておくれ」
「はい」
「ありがとう」
「ごゆっくり」
というオプションサービスを誰かがやっていたようです。誰ですか、私の頭の中にあったメイド喫茶のイメージを勝手に実行しているのは。
だが、まれに勘違いした客も入ってくる。
「いらっしゃいませ~」エルフィが何かに気付いて、さっと、その客の相手を始める。
「おう、ビールくれビール」
「うちはお酒おいてないんです~」
「じゃああるものをくれ」
「お水ですね~」
「いやいや水はもうあるだろう」
「では、お茶を一杯ですね~他に何か注文しますか~」
「じゃあおめえのミルクでも」
「そういうのは、お酒を飲んでるときにしてくださいね~」
「ふん、ミルク無いのか。でそうな乳しているのなあ」
「子どもいませんから~出ませんよ~」
「じゃあ・・・」
「これ以上何か言うと~たたき出されますよ~」
「じゃあこのゼリーをくれ・・いや、ください」
「ご注文は以上ですか~。それではお待ちください~」
「なんだ周囲のこの殺気は」
まあ、客の方からのプレッシャーの方が強かったみたいですけど。
そうして昼前には客足も落ち着いてきたので、お客さんを少し制限して交代で休憩することにしました。本来の喫茶店なら昼の方が稼ぎ時なのでしょうが、うちはスイーツのみなのです。
昼からは予約のお客様だけにして、軽食もだしました。交代でお休みと収穫祭を見に行ってもらっています。それまでは戦場のような感じで、さすがに体力がもちませんでした。
そのせいで目当ての子が休憩に入って不在な事に文句を言うお客まで出てきました。普通のお店でも休憩時間には誰かがいないのはあたり前です。
開店時に行列を解消するために整理券を配ったため、夕方までずっとお客さんがお見えになっています。なので、ほぼ最後まで全員で働きました。もっとも、せっかくの収穫祭なのでキャロルとミカを連れて交代で外出してもらったので、少しは楽しんでもらえたのではないでしょうか。
予約をしながらもキャンセル待ちの列に並ぶ強者がいらっしゃったおかげか、夕方の予約のお客さんはまばらとなってきて、みんな少し寂しそうです。頑張った分の反動ですかねえ。
「あと何組でしょうか」私はメアに聞きました。
「一応配ったチケットでは、あと8人ほどです」メアさんがそう言いました。
「こんにちは」そう言って入ってきたのは領主様と商人さんと団長さんです。
「いらっしゃいませ~」そう言って駆け寄ったのはキャロルとミカとユーリだった。
「お席は空いていますのでお好きなところへどうぞ~」とアンジー
全員カウンターに並んで座った。
「カウンターでよろしいのですか?」私はちょっとびっくりして尋ねました。
「ここでかまいません」ニコニコ顔の領主様と、あまり笑っていない商人さんと団長さんです。何かありましたか?
「お水をどうぞ」私は3人に水を出しました。カウンターでの接客は私かメアさんなのです。
「ご注文はどうされますか」
「では、お菓子の付いたティーセットを3つお願いします」
「それでよろしいですか?」念のため2人にも聞く。うなずいているので、
「ではオーダー入ります。キャン(ディ)ティーセット3つ」
私は伝票に書いて、写しを後ろにいたメアに渡しました。
「了解で~す」誰かの声が厨房からしました。
「今回はありがとうございました」領主様が少しだけ頭を下げました。同じようにお二人も頭を下げます。
「いえ、まだ明日もありますし。こういう催しは終わるまでが遠・・もとい終わるまではなにが起きるかわかりませんから。ちゃんと頑張らないといけません」
「今回のこの喫茶店というのは、彼らの発案だったのですよ」領主様が2人を見て言いました。
「そうですか、他の国で見てきたとおっしゃっていましたが、素敵な提案でしたね」私は家族全員のメイド服姿が見られてものすごく幸せです。ええ本当に。提案者さんバンザイ。
「ですが、ここまであなたとその家族にここまでご迷惑をかけることになるとは思いもしませんでした。それをお詫び申し上げます」
「謝られても困ります。こちらとしては、この街にはかなりお世話になっていますから恩返しのつもりでしたし、出店するまでにみんな楽しく・・・まあ苦しいこともありましたが、今日はみんなうれしそうに接客していましたよ。どうしてお詫びなんか」
「今日のこの異様な数のお客についてなのです」
「はあ?」
「この2人がよかれと思って事前に手を回したそうなのです」
「繁盛したのは良いことですよね。それが何か?」
「実は・・」そう言って話し始めたのは商人さんでした。
「魔獣襲撃の時の撃退の話は、かなりの町や集落に衝撃と困惑を呼びました。ただ、災害ではなく人災だと言う事を説明して、誰かが起こしたものなので仕方ないことだと他の集落の人々も納得しました。それを救った救世主がいると噂になりまして、その人たちが今回の収穫祭に出店すると周りに言ってしまったのです」
「ああそれで。妙にエリスさんに会って感謝している人がいたのですね」
「はい。そしてこの街の人たちも当然知っているわけで、かなりの人が殺到するのは間違いないとは思っていたのですが、せっかく皆様が出店してくれるのに客が来なかったらどうしようと不安になりまして、ついつい話す範囲を広げてしまったのです。今日来てみたら、どうも数を読み違えていまして、本当にすみませんでした」商人さんと団長さんがテーブルに頭をぶつけそうなほどに頭を下げる。
「謝らないでください。私達がそんなに人に知られているわけないと思っていましたから、みんなメイド喫茶を知らないから興味本位でこんなに来てくれたんだと思っていました。そうやって客を呼び込んでくれたならむしろ良かったです。何より収穫祭にたくさんの人が来てくれて良かったじゃないですか。ご協力に感謝します」
「しかしですねえ、結果的に変な噂も立つかもしれないじゃないですか」いや奴隷商人ですよ私。これ以上変な噂がどう立つというのでしょうか。
「まあ、たかだか2日だけの催しなのですから大丈夫でしょう?」
「そう言っていただけるとありがたいです。」2人とも平身低頭です。
「さすがに奴隷商人と言われても気にせず普通にされていた方は違いますね」
「やはり噂されていますか」私もまだまだ色眼鏡で見られているとは思っていましたが、噂って意外に根強いものですねえ。
「ええ、”されていた”ですけど。色眼鏡で見られていようと気にせず堂々となにも変わらないところは、後々街の人の心が好意的になっていくのを見ていると。改めてあなたはすごい人なんだなあと思っています」
「領主様、恥ずかしいこと言わないでください。私は以前も今も変わらない・・・とは言えませんね。これだけの人と家族として一緒に暮らせているのです。前よりももっと幸せになっていますし街の皆さんにも受け入れられましたからねえ。あと人の心はそう変わりませんし、面と向かって言う人はいませんから、まだ思っている人がいるとは思いますよ」
「お待たせしました」そう言ってメアがティーセット3つを持ってきました。さすがメアさんですタイミングを計っていましたね。
「あなたにそう言っていただいて安心しました」
そう言って領主さんは、紅茶を飲む。あわてて2人も紅茶とお菓子に手をつける。
「おやこの茶葉は」領主様が私を見ました。
「メアさ~ん」私はなにも知らないのでメアさんに振った。
「領主様のお宅でお飲みになっている茶葉です。今回の来客のうち来賓用にと特別に少しお分けいただきました」
「そうでしたか。それにしても家で飲むよりおいしく感じましたが」
「この店の雰囲気かと」メアが微笑んで言った。
「でも」
「それ以上はお話になりませんように」
「そうですか。そうします。さてこの後は、予約者が5組ほど入っていると思いますが、来られなくなりましたので、店じまいができますよ」
「まさか無理にお断りさせたわけではありませんよね」
「私の使用人達にお願いして最後の時間を取ってもらいました。その人達も先にこのお店を堪能したそうですので、無理に断らせたりしていません。安心してください」
「そうでしたか。ご配慮ありがとうございます」
「実はこの後、広場の中心で踊りがあります。後片付けで参加できないとつまらないですからねえ」
「そうでしたか。この店のことで頭がいっぱいでお祭りでなにが行われているのかわかっていませんでした。お誘い感謝します」
「それではまた夜に。その後には居酒屋にも来てくださいね」そう言って領主様が出て行かれ、2人は残りました。
「本当にすいませんでした。こんなに人が来るとは思っていなくて」と商人さんが言った。
「謝らないでください。よかれと思ってしてくれたのでしょう?気にしないでお祭りを楽しんでくださいね」
「ありがとうございます。では一つだけご忠告を。この後の踊りについては、昔からこう言われています。独身の男女は、最後の曲が終わった時に手をつないでいた相手と結婚もしくは、生涯の伴侶となると言われていまして、今のところほぼ完璧に達成されているようなのですよ。なので当然それを狙って画策する輩が出ますので注意してください」商人さんはそう言いました。
「”ほぼ”なのですね」
「結婚後別れる夫婦や死別もありますから」
「なるほど。その後居酒屋で祭りのご苦労さん会ですねえ」
「そうなのです。ですから皆様に気をつけるように言ってください」
「わかりました。そうします」
「まあ噂の類いですからねえ」と団長さんは言った。
「子どもも踊るのですよねえ」
「ええ子ども達は親と一緒に踊って早い時間に家に帰ります」
「ああそうなのですか」
「くれぐれもお気をつけください。では失礼します」そう言って2人は帰って行った。
「ありがとうございました~」エルフィが扉まで見送り、店の扉に吊ってある「開店」の札を「閉店」に裏返した。
「さて明日もありますので片付けますか」
「ご主人様。すでに厨房は終わっております。店内の掃除をすれば本日は終わりです」
「みなさん大体聞いていたと思いますが、夜の踊りとその後の打ち上げがありますので十分注意してください。あとヒメツキさんは、子ども達の踊りが終わったら、キャロルとミカさんを連れて一度家に戻りませんか?」
「ええ、お酒にはちょっと惹かれるけど、キャロルが寂しがったら行かないわ」
「ミカさんは未成年ですから今回はやめておいた方が・・・」
「わしがついておる。大丈夫じゃ」
「その保護者が一番不安なのですよねえ。酔っ払わないでくださいね。」
「まあ、善処する。」
「これで終わりですね」ユーリが玄関前の掃除を終えて入ってきた。私は先に着替えをして外に出て待っている。
「皆さん着替えてくださいね。戸締まりよろしくお願いします」
「は~い」
夕日の当たる場所にもたれかかってぼーっとしている。すでに楽しそうなリズミカルな音楽が聞こえてきている。この広場の反対側なのだろうか。区画を分けているので見えてはいない。
「どうしたんじゃ。黄昏れておるようじゃが」
着替え終わって最初に出てきたのはモーラだった。いつもの髪型に戻っている。
「髪の毛も元に戻したのですか?」
「ああ、ポニーテールは、髪の毛が根元から引っ張られるのでなあ、いつもと違う感覚で嫌だったのじゃ」
「そうでしたか。けっこう似合っていましたよ。美少女なのでどんな髪型でも似合いそうですけどねえ」
「相変わらず恥ずかしいことをヌケヌケと言いおるのう」モーラは顔が少し赤い。
「恥ずかしくないですよ。だって似合うものは似合いますから」
「あーもうやめんか」そう言ってポカポカ殴るのはやめてください。それだって萌え死にしそうですよ私は。
「おや、相変わらず仲が良いわねえ」そう言ってエリスさんと皆さんが出てきます。キャロルは少し怒っています。
「モーラ様ずるい。鍵の確認を一緒にしないで逃げた。仕事しないで逃げたそれが一番ずるい」おおキャロルの激おこぷんぷん丸ですねえ。こちらも可愛いです。
「なにバカなことしてるのよ。ごめんねうちのダメ人間が。怒らないでね。さあ一緒に行こう」アンジーがキャロルのそばに行って頭を撫でながら声を掛ける。渋々歩き出すキャロル。ミカさんは先に少し走って行って、こちらを振り返り、
「キャロルおいで!あそこまで競争だー」そう言って走る真似をする。キャロルは急に走り出し、
「私が一番~」と言ってダッシュしている。ミカさんを通り過ぎたところでミカさんがその後を追う。結構良いスピードで走ってましたが、子どもって意外に足が速いんですねえ。
「転ばないでよー」と言ってヒメツキさんが小走りで追いかける。ああその姿はまさしくお母さんですねえ。
「そうですね」歩き出した私の横にユーリが並ぶ。モーラが軽くジャンプして私の肩に乗る。スカートを頭にかぶせないで欲しいのですが。
「あまり派手なジャンプはダメですよ、皆さんに見られては誤解を招きます」そう言ってメアが私の隣に並びました。ユーリとメアに手を差し出すとどちらも腕を組んできました。
「あ~ずるい~」エルフィが私の背中にぶつかります。
「倒れるまでぶつかってはいけません」メアさんが先生口調で言った。
「は~い」エルフィは、そう言いながらも私の胸に両手を回してグイグイと押しつけてくる。
「幸せそうねえ」と横からのぞき込むアンジー
「私に力が合ったら両肩にアンジーとモーラを乗せられたのですがねえ。今回はメアさんが一番頑張ってくれましたので許してあげてくださいね」
「私が一番サボってたみたいじゃない」
「たまにつまみ食いをしているのを見てましたからねえ」
「あんたよく見ているわねえ。ま、しかたない今回は譲るわ」そう言って、エリスさんと並んで先を歩く。
「本当ならモーラなんでしょうけど」ヒメツキさんが笑いながら言いました。
「なにを言っておる。わしはつまみ食いはしておらんぞ、お客からア~ンっていってお裾分けをいただいただけじゃ」
「客商売でそれはやってはいけないんですよ。まあ、本当のお店じゃないですからいいんですけどね」私は念のため言いました。もしかして普通の店の手伝いでもやっているんじゃなでしょうか。気になります。
そうして踊りの場所に着く。すでに中心に火の櫓が作られ、その周りに踊りの輪ができて皆さん踊っています。2重の輪が作られていて、仲の輪は子ども達のようだ。手をつないでステップを踏んだり手を交差させたりしている。
「意外に簡単なステップねえ」そう言ってその場でステップを踏むアンジー。炎を背景に綺麗なシルエットが浮かび上がる。
「綺麗に踊るのう」モーラはそう言って私の頭をペシペシと叩く。下ろせの合図だ。私はモーラの体を抱いて下ろす。すかさず走って行ってアンジーの隣でステップを踏んでいる。
中にいた子ども達がそれを見て、モーラとアンジーを引っ張って踊りの輪の中に連れて行って一緒に踊り始める。私達も外の輪の人達から手を引っ張られ、踊りの輪に連れ込まれる。それぞれ見よう見まねでステップを踏む。ヒメツキさんは、キャロルと一緒に子どもの輪の中にいましたた。
違う曲に変わり、2人一組で踊り出す。曲の途中で前の人と交代して、次々と相手が変わっていく。
「そうですか。この曲が最後にかかるんですね」そう独り言を言うと、手をつないで踊っていた相手の方がうなずいている。そしてまた違う曲になり、今度は4人組で踊りながら、2人だけ次の組へと移っていくダンス。これもリズムに乗ってステップを踏むのでなかなか難しい。
そうして、リ~ンゴ~ンと鐘が鳴らされて、内側の踊りの輪が切れて周囲へと散っていき親御さんと手をつないで帰って行く。
「ヒメツキさん」私達は外側の輪を抜けて全員で声を掛ける。すでにキャロルはおねむのようだ。
「これでは、あとで合流は無理そうね」
ヒメツキさんがキャロルをおぶって、ミカの手を引いて帰って行った。なぜか後ろ姿が育児に疲れた母親のように見えてしまった。しかしみんなも限界そうです。
「残念ですが帰りましょうか」
「そうねえ明日もあるしねえ」アンジーの声を聞いて、私に強烈な疲労が襲ってきました。ああ、緊張の糸が切れましたねえ。
「私が領主様に挨拶してきます。先に歩いていてください」みんなの様子を察してメアさんがすでにその場からいなくなりました。
「よろしくお願いします」私は、すでにいないメアさんに聞こえるはずもないのに言っていました。
「あんた肩車して」アンジーが当たり前のように要求する。そう言いながら手を差し伸べてくるところを見ると手をつなぎたかったのでしょう。
「ええーーーっ、これから家までですか?」
「おぶっても良いわよ」そう言ったアンジーを見る皆さんの目がお怒りモードです。
「私もおぶって欲しい~」
「僕もできれば」
街から出たところでみんながぐずるので、私は
「じゃあじゃんけんで勝った人だけ3分だけおぶってあげます。その後またじゃんけんで決めましょう。それで勘弁してください」
「よ~し、ジャンケン」
「はいそこまで!ストップ」メアさんが追いついてきました。
「ご主人様も疲れておいでです。ご主人様を私が背負います。他の人は歩いてください」
「ええーーーっ」なんですか本当に残念そうな叫びは。何とかしてあげたいのですが、私の体力もすでにありません。
「皆さんの健康状態を観察しまして、今一番問題なのはご主人様であると判断しました」とメアさんが私の手を取り簡単に背負いました。でも少し恥ずかしいですねえ。
皆さんは、不平を言うわけでもなく歩き出します。
「そういえば、準備期間中ずーっと色々やっていたものねえ」とアンジー
「まあなあ、ここ一週間くらいは睡眠時間削っていたからのう」とモーラ
「最初は、スイーツ用の皿やコップを作って、食材の搬入手順や搬入量の調整、メニューなどを作って、昼間は、給仕の特訓につきあって、最後にはデザートの仕込みも朝まで掛かってやっていましたので」メアが言った。
「あるじ様は、やるとなったらとことん頑張りますから」ユーリが言った
「そうなんですよね~その頑張りを私に向けてくれても良いと思うですよね~」しかし私は反応できませんでした。すでに眠っていましたから。
「やはり寝おったか。まあ仕方ない。明日倒れられても困るからなあ」
「ですが、明日の食材の仕込みをしませんとなりません」
「そういえばそうよね。明日の分のスイーツを出したはずだから」
「はい、昼からは軽食も出しましたので、少なくとも明日の朝一番用のスイーツが必要になります」
「どのくらいの時間がかかるのじゃ。」
「ご主人様が起きていれば数時間ですが」
「今日は早めに寝て朝早く起きようではないか」
「その方が良いわね」
「急ぐぞ」
そうして、メアさんが走っている心地よい振動で気持ちよく眠りました。
Appendix
私が背負っているこの方は、私のご主人様です。
そしてご主人様の周りにいる皆様
私の食事を美味しいと言ってくれて、
私の厳しい指導にも笑顔で頑張ってくれている。
ご主人様と共に暮らし皆様と共に笑い合う
こんな嬉しい事はない。
この喜びを誰かに伝えたい。
私はホムンクルスなのにどうしてこんな感情が芽生えたのでしょうか?
そのことに気付いた時に自分の中でカチリと音がしたような気がした。
怒りを感じた時にも同様にカチリと音がした気がしたけれど
それは間違いではなかったようです。
続く
メイド服が完成してからは、実際に着て給仕の練習です。すでに露天の横の広場にかなり大きな店が作ってあります。一応、喫茶店風になるよう私が監修しました。えへん。
「けっこう大きいのう。屋内も客席の間を広く取っているのか」内覧しながらモーラが言った。その通りです。
「メイド服がぶつからないでヒラヒラ動くよう通路を広めにしてみました。キリリ」
「なるほど、お主の好きなチラリズムじゃな」モーラ、笑い方がエロいです。
「別に好きではありませんが、客商売とはそういうものです」私はモーラに向かって真面目な顔で言いました。
そうです。私は言い訳を堂々としてみました。皆さんの冷たい目はもう慣れました。
「男目線じゃのう」そこでおっさんみたいな事を言わないでください。
「さて練習を始めます」メアがパンパンと手を叩いて自分に目を向けさせます。まるでバレエの先生かメイド長のようですねえ。バレーと伸ばすとバレーボールになってしまいます。注意しましょう。
視線を感じるので周りを見ると、すでに窓には暇な男連中がべったりと張り付いています。そういうのは当日までの楽しみにしておいてください。当日店に来た時に新鮮味がありませんよ。
「窓は黒くしておくわね」エリスさんが一瞬で窓を黒くしました。魔法ですよねえ。どういう仕組みですか?
「そんなことはどうでもいいことよ」と私の言葉をスルーしました。
「では料理をすでに作ってありますから、それを運んでください」メアさんが言いました。本物の料理とコップなどが用意されていて、壊さないように運んでいます。練習に参加する必要の無いミカとキャロルもメイド服を着て参加しています。実はメアの考えで、障害物代わりにちょこちょこ店内を歩かせています。かわしながら通路を行き来するのがなかなか難しい。彼女たちが視界から消えるので確認しないとなりません。メアさんこれが目的だったのですね。さすがです。
「はいそこ!メイド同士でぶつからないように。お互いの位置関係をちゃんと把握して。あと笑顔も忘れずに」メアからの厳しい指導が入る。
「顔の筋肉が引きつりそうだわ」休憩の合間にアンジーが顔の筋肉のマッサージをしている。
「まったくじゃ」モーラさん椅子に座って大股開きでスカートをめくって手で仰ぐのはやめてください。はしたないです。それどころか下品ですから。
「無駄話は必要ありません。口を開くならその言葉はお客様のために使ってください。そして私に話す時にはサーをつけるように。おっと私はサーではありませんでした。サーをつける必要はありません」休憩中も厳しいメアさんです。
「お帰りの時の挨拶は丁寧にお辞儀を」
「ありがとうございました~」エルフィが扉で丁寧に頭を上げる。重力に逆らえないものがタワンタワンとしています。なぜかそれを見てアンジーが悲しそうな目をしています。あ、気付かれて睨まれた。
戸口にお見送りして、最後の礼の仕方を修正したりして、一連の行動のおさらいをして今日は終了です。
「疲れた~」全員が並べられた椅子に座ってげんなりしています。
全員交代で休憩していましたが、メアさんはずっと指導し続けています。さすが本職は違いますね。
「残念ながら私は給仕ではなくメイドです。それに私はホムンクルスですから」メアは淡々と私にそう言いました。
「あ、そうでしたねえ」
その特訓の数日間には、無理矢理入ってくる男達とか試食をせがむ女の子達などが現れ、その人達の対応で、無理客の対応のノウハウを取得しました。さすがに前日から屋根に登って覗こうと頑張っていた男については、当日も出入り禁止としました。たかだかお祭りの出し物にそこまで気合い入れないでください。
○祭りの初日
そしてついに当日を迎えました。私達は朝早くに着替えを持って街に入っていきます。すると広場のあの店の前にかなりの人数がすでに並んでいました。
「この行列はいったいなんじゃーーー」モーラが頭をかきむしります。せっかくメアがセットした髪とリボンが台無しです。
「開店前から行列ですか。これは想定しませんでしたねえ。整理券を配りましょうか」私はすでにこの情景を眺めながら現実逃避して打開策の検討を始めました。
「この勢いでは予約が一杯になって、さらにキャンセル待ちの行列ができそうです。早めに開店してお客様を入れて、さらに回転率をあげたほうがよろしいかと思います」メアさんが冷静に状況を分析して打開策を提案してくれました。さすがメイド長、いや店長代理・・・副店長に格上げです。店長でもいいですよ。返上します。
「今日は飲み物とお菓子だけにして、明日の分のストックもだしましょう。あとはなるようになれですね。さあ急ぎましょう」私は、この人数を見てげんなりしている全員を店の裏に誘導します。
「大盛況になりそうですな」裏口で打ち合わせをしていると、領主様が笑いながらキャロルを連れてお見えになりました。キャロルもお揃いのメイド服を着ていて、ヒメツキさんを見るとそばに飛ぶように走って行きました。
「まだ開店前なのですが、この様子ではかなり忙しい一日になりそうです」私は苦笑いしながら答えました。
「お手伝いは必要ですかな?」領主さんがにこりと笑った。
「キャロルですか?それは大歓迎ですが」戦力にはなりませんけれど、いてくれるだけで私達の癒やしになりそうです。
「裏方に必要だと思いましてうちのメイド達を連れて参りました。お好きにお使いください」後ろに付いてきたメイドさん達は、護衛を兼ねたお付きの人かと思ったら。そうでしたか事前に予想していたなら言ってくれれば良いのにとちょっと思いましたよ。
「助かります」私はお辞儀をして感謝を述べる。
「それでは、私は他の店も見て参りますので」
「お待ちください。せっかくですので領主様が一番目のお客さんとしてお茶していきませんか」
「いいのですか?」おやなんかうれしそうですね。
「ここまでしてもらっていますので、開店時間前の最後の予行演習という事でよければ」
「それはありがたいです」そうしてみんなで裏口から入り、厨房の後ろの事務室で皆さんが着替えている間に、私が、領主さんとキャロルを窓側の一番良い席に案内する。
「どうもうちのキャロルがお世話になっております」着替えを終えたヒメツキさんが挨拶をする。
「お目にかかるのはお久しぶりですね。キャロルは元気なよい子で本当に私の子どもに欲しいくらいですよ。まあ、本人に断られましたが」あはははと笑っている。
領主様には、ひとりずつ対応しました。出迎えの挨拶をミカ、水出しをエルフィ、オーダーをユーリ、注文のお茶をアンジー、お菓子をモーラ、精算(真似だけ)をメアが順にしていったのですが、
「ミカさんたまに私の家に遊びに来てください」
「エルフィさん、居酒屋では大人気ですねえ」
「ユーリさん、うちの冒険者をしごいてくれてありがとうございます」
「アンジーさん、孤児院の方はどうですか。教会の話はいかがいたしますか?」
「モーラさん、いつも子ども達がお世話になっています。また遊んであげてください」
「メアさん、女の子達に裁縫を教えてもらってありがとうございます」
そして、領主様が伝票を持って立ち上がったところで私が近づき、
「さすがに全員の名前を詰まらずに言えるとはすごいですねえ」
「これくらいは何とかなりますよ。街の中に不審者が入って来たときに困りますから。では私はこれで裏口からこっそり帰ります。皆様のご健闘をお祈りいたします」全員にお辞儀とキャロルに手を振って領主さんが出て行った。
「それでは開店します」
私は、扉に掛けていた閉店の札を裏返して開店にする。最初に入ってきた人は昨日の夜から並んでいたらしい。
「いらっしゃいませ」メアさんが最初に席へと案内をしていった。そこからは怒濤のように客が押し寄せてくる。しかし、満員になったところで、キャロルが扉の前で通せんぼをして、入らせないようにしてくれました。さすがに子どもを押しのけてまで入っては来られませんね。
お水をお出しして、オーダーを取る際に制限時間がある事を説明しました。
「3人様ですね、こちらのお席へどうぞ」
「ご注文は」
「は~い、5番テーブル、オレンジジュースとサンドイッチで~す」
「おまたせしました」
「きゃーやっぱりかっこいいわ~」
「ねえ想像していたとおりでしょ~」
「いいえ、想像以上に似合っているわ~かっこい~」
あちらこちらで歓声やら嬌声が聞こえる。ああ、叫声というのもあるのか。静かな客も多いですが、おっさん達のダミ声も響きますねえ。
「あんたも給仕するのかい。けっこう似合ってるねえ」と、カウンターにいた私に居酒屋の女将さんが声をかけてきました。そのままカウンターに移って座った。
「ありがとうございます」
「まあ、みんなの目当ては他だろうねえ」と少し意地悪そうな言い方をしてくる。いつものいじりですね。
「でも街のみなさん楽しそうでよかったです」
「みんな昨日までここの噂でもちきりだったからねえ」女将さんが紅茶を飲みながら言った。
「いらっしゃいませ~」
「わしはモーラとキャロルを見に来たのじゃ」と、高齢の男性が入ってきたりする。本当に年齢性別問わず皆さん人気がありますねえ。
「いらっしゃいませ~」高齢の女性が入って来た時に珍しくキャロルが対応している。きっとやりたかったのだろう。席についてからキャロルが
「ご注文はなんにしますか~」
「キャロルをもらおうかい」
「も、申し訳ありません。私は商品ではありません。シャービスが商品です。何にします?」キャロルが噛みながらも対応している。
「ほほほほ。ではこのプリンとお茶をもらおうか」
「ご注文ありがとうございます。プリンに何か書きますか?」
「名前を書いてもらおうかねえ」
「はい、ではお待ちください」
「お待たせしました。何と書きますか?」
「そうだね私の名前をかいておくれ」
「はい」
「ありがとう」
「ごゆっくり」
というオプションサービスを誰かがやっていたようです。誰ですか、私の頭の中にあったメイド喫茶のイメージを勝手に実行しているのは。
だが、まれに勘違いした客も入ってくる。
「いらっしゃいませ~」エルフィが何かに気付いて、さっと、その客の相手を始める。
「おう、ビールくれビール」
「うちはお酒おいてないんです~」
「じゃああるものをくれ」
「お水ですね~」
「いやいや水はもうあるだろう」
「では、お茶を一杯ですね~他に何か注文しますか~」
「じゃあおめえのミルクでも」
「そういうのは、お酒を飲んでるときにしてくださいね~」
「ふん、ミルク無いのか。でそうな乳しているのなあ」
「子どもいませんから~出ませんよ~」
「じゃあ・・・」
「これ以上何か言うと~たたき出されますよ~」
「じゃあこのゼリーをくれ・・いや、ください」
「ご注文は以上ですか~。それではお待ちください~」
「なんだ周囲のこの殺気は」
まあ、客の方からのプレッシャーの方が強かったみたいですけど。
そうして昼前には客足も落ち着いてきたので、お客さんを少し制限して交代で休憩することにしました。本来の喫茶店なら昼の方が稼ぎ時なのでしょうが、うちはスイーツのみなのです。
昼からは予約のお客様だけにして、軽食もだしました。交代でお休みと収穫祭を見に行ってもらっています。それまでは戦場のような感じで、さすがに体力がもちませんでした。
そのせいで目当ての子が休憩に入って不在な事に文句を言うお客まで出てきました。普通のお店でも休憩時間には誰かがいないのはあたり前です。
開店時に行列を解消するために整理券を配ったため、夕方までずっとお客さんがお見えになっています。なので、ほぼ最後まで全員で働きました。もっとも、せっかくの収穫祭なのでキャロルとミカを連れて交代で外出してもらったので、少しは楽しんでもらえたのではないでしょうか。
予約をしながらもキャンセル待ちの列に並ぶ強者がいらっしゃったおかげか、夕方の予約のお客さんはまばらとなってきて、みんな少し寂しそうです。頑張った分の反動ですかねえ。
「あと何組でしょうか」私はメアに聞きました。
「一応配ったチケットでは、あと8人ほどです」メアさんがそう言いました。
「こんにちは」そう言って入ってきたのは領主様と商人さんと団長さんです。
「いらっしゃいませ~」そう言って駆け寄ったのはキャロルとミカとユーリだった。
「お席は空いていますのでお好きなところへどうぞ~」とアンジー
全員カウンターに並んで座った。
「カウンターでよろしいのですか?」私はちょっとびっくりして尋ねました。
「ここでかまいません」ニコニコ顔の領主様と、あまり笑っていない商人さんと団長さんです。何かありましたか?
「お水をどうぞ」私は3人に水を出しました。カウンターでの接客は私かメアさんなのです。
「ご注文はどうされますか」
「では、お菓子の付いたティーセットを3つお願いします」
「それでよろしいですか?」念のため2人にも聞く。うなずいているので、
「ではオーダー入ります。キャン(ディ)ティーセット3つ」
私は伝票に書いて、写しを後ろにいたメアに渡しました。
「了解で~す」誰かの声が厨房からしました。
「今回はありがとうございました」領主様が少しだけ頭を下げました。同じようにお二人も頭を下げます。
「いえ、まだ明日もありますし。こういう催しは終わるまでが遠・・もとい終わるまではなにが起きるかわかりませんから。ちゃんと頑張らないといけません」
「今回のこの喫茶店というのは、彼らの発案だったのですよ」領主様が2人を見て言いました。
「そうですか、他の国で見てきたとおっしゃっていましたが、素敵な提案でしたね」私は家族全員のメイド服姿が見られてものすごく幸せです。ええ本当に。提案者さんバンザイ。
「ですが、ここまであなたとその家族にここまでご迷惑をかけることになるとは思いもしませんでした。それをお詫び申し上げます」
「謝られても困ります。こちらとしては、この街にはかなりお世話になっていますから恩返しのつもりでしたし、出店するまでにみんな楽しく・・・まあ苦しいこともありましたが、今日はみんなうれしそうに接客していましたよ。どうしてお詫びなんか」
「今日のこの異様な数のお客についてなのです」
「はあ?」
「この2人がよかれと思って事前に手を回したそうなのです」
「繁盛したのは良いことですよね。それが何か?」
「実は・・」そう言って話し始めたのは商人さんでした。
「魔獣襲撃の時の撃退の話は、かなりの町や集落に衝撃と困惑を呼びました。ただ、災害ではなく人災だと言う事を説明して、誰かが起こしたものなので仕方ないことだと他の集落の人々も納得しました。それを救った救世主がいると噂になりまして、その人たちが今回の収穫祭に出店すると周りに言ってしまったのです」
「ああそれで。妙にエリスさんに会って感謝している人がいたのですね」
「はい。そしてこの街の人たちも当然知っているわけで、かなりの人が殺到するのは間違いないとは思っていたのですが、せっかく皆様が出店してくれるのに客が来なかったらどうしようと不安になりまして、ついつい話す範囲を広げてしまったのです。今日来てみたら、どうも数を読み違えていまして、本当にすみませんでした」商人さんと団長さんがテーブルに頭をぶつけそうなほどに頭を下げる。
「謝らないでください。私達がそんなに人に知られているわけないと思っていましたから、みんなメイド喫茶を知らないから興味本位でこんなに来てくれたんだと思っていました。そうやって客を呼び込んでくれたならむしろ良かったです。何より収穫祭にたくさんの人が来てくれて良かったじゃないですか。ご協力に感謝します」
「しかしですねえ、結果的に変な噂も立つかもしれないじゃないですか」いや奴隷商人ですよ私。これ以上変な噂がどう立つというのでしょうか。
「まあ、たかだか2日だけの催しなのですから大丈夫でしょう?」
「そう言っていただけるとありがたいです。」2人とも平身低頭です。
「さすがに奴隷商人と言われても気にせず普通にされていた方は違いますね」
「やはり噂されていますか」私もまだまだ色眼鏡で見られているとは思っていましたが、噂って意外に根強いものですねえ。
「ええ、”されていた”ですけど。色眼鏡で見られていようと気にせず堂々となにも変わらないところは、後々街の人の心が好意的になっていくのを見ていると。改めてあなたはすごい人なんだなあと思っています」
「領主様、恥ずかしいこと言わないでください。私は以前も今も変わらない・・・とは言えませんね。これだけの人と家族として一緒に暮らせているのです。前よりももっと幸せになっていますし街の皆さんにも受け入れられましたからねえ。あと人の心はそう変わりませんし、面と向かって言う人はいませんから、まだ思っている人がいるとは思いますよ」
「お待たせしました」そう言ってメアがティーセット3つを持ってきました。さすがメアさんですタイミングを計っていましたね。
「あなたにそう言っていただいて安心しました」
そう言って領主さんは、紅茶を飲む。あわてて2人も紅茶とお菓子に手をつける。
「おやこの茶葉は」領主様が私を見ました。
「メアさ~ん」私はなにも知らないのでメアさんに振った。
「領主様のお宅でお飲みになっている茶葉です。今回の来客のうち来賓用にと特別に少しお分けいただきました」
「そうでしたか。それにしても家で飲むよりおいしく感じましたが」
「この店の雰囲気かと」メアが微笑んで言った。
「でも」
「それ以上はお話になりませんように」
「そうですか。そうします。さてこの後は、予約者が5組ほど入っていると思いますが、来られなくなりましたので、店じまいができますよ」
「まさか無理にお断りさせたわけではありませんよね」
「私の使用人達にお願いして最後の時間を取ってもらいました。その人達も先にこのお店を堪能したそうですので、無理に断らせたりしていません。安心してください」
「そうでしたか。ご配慮ありがとうございます」
「実はこの後、広場の中心で踊りがあります。後片付けで参加できないとつまらないですからねえ」
「そうでしたか。この店のことで頭がいっぱいでお祭りでなにが行われているのかわかっていませんでした。お誘い感謝します」
「それではまた夜に。その後には居酒屋にも来てくださいね」そう言って領主様が出て行かれ、2人は残りました。
「本当にすいませんでした。こんなに人が来るとは思っていなくて」と商人さんが言った。
「謝らないでください。よかれと思ってしてくれたのでしょう?気にしないでお祭りを楽しんでくださいね」
「ありがとうございます。では一つだけご忠告を。この後の踊りについては、昔からこう言われています。独身の男女は、最後の曲が終わった時に手をつないでいた相手と結婚もしくは、生涯の伴侶となると言われていまして、今のところほぼ完璧に達成されているようなのですよ。なので当然それを狙って画策する輩が出ますので注意してください」商人さんはそう言いました。
「”ほぼ”なのですね」
「結婚後別れる夫婦や死別もありますから」
「なるほど。その後居酒屋で祭りのご苦労さん会ですねえ」
「そうなのです。ですから皆様に気をつけるように言ってください」
「わかりました。そうします」
「まあ噂の類いですからねえ」と団長さんは言った。
「子どもも踊るのですよねえ」
「ええ子ども達は親と一緒に踊って早い時間に家に帰ります」
「ああそうなのですか」
「くれぐれもお気をつけください。では失礼します」そう言って2人は帰って行った。
「ありがとうございました~」エルフィが扉まで見送り、店の扉に吊ってある「開店」の札を「閉店」に裏返した。
「さて明日もありますので片付けますか」
「ご主人様。すでに厨房は終わっております。店内の掃除をすれば本日は終わりです」
「みなさん大体聞いていたと思いますが、夜の踊りとその後の打ち上げがありますので十分注意してください。あとヒメツキさんは、子ども達の踊りが終わったら、キャロルとミカさんを連れて一度家に戻りませんか?」
「ええ、お酒にはちょっと惹かれるけど、キャロルが寂しがったら行かないわ」
「ミカさんは未成年ですから今回はやめておいた方が・・・」
「わしがついておる。大丈夫じゃ」
「その保護者が一番不安なのですよねえ。酔っ払わないでくださいね。」
「まあ、善処する。」
「これで終わりですね」ユーリが玄関前の掃除を終えて入ってきた。私は先に着替えをして外に出て待っている。
「皆さん着替えてくださいね。戸締まりよろしくお願いします」
「は~い」
夕日の当たる場所にもたれかかってぼーっとしている。すでに楽しそうなリズミカルな音楽が聞こえてきている。この広場の反対側なのだろうか。区画を分けているので見えてはいない。
「どうしたんじゃ。黄昏れておるようじゃが」
着替え終わって最初に出てきたのはモーラだった。いつもの髪型に戻っている。
「髪の毛も元に戻したのですか?」
「ああ、ポニーテールは、髪の毛が根元から引っ張られるのでなあ、いつもと違う感覚で嫌だったのじゃ」
「そうでしたか。けっこう似合っていましたよ。美少女なのでどんな髪型でも似合いそうですけどねえ」
「相変わらず恥ずかしいことをヌケヌケと言いおるのう」モーラは顔が少し赤い。
「恥ずかしくないですよ。だって似合うものは似合いますから」
「あーもうやめんか」そう言ってポカポカ殴るのはやめてください。それだって萌え死にしそうですよ私は。
「おや、相変わらず仲が良いわねえ」そう言ってエリスさんと皆さんが出てきます。キャロルは少し怒っています。
「モーラ様ずるい。鍵の確認を一緒にしないで逃げた。仕事しないで逃げたそれが一番ずるい」おおキャロルの激おこぷんぷん丸ですねえ。こちらも可愛いです。
「なにバカなことしてるのよ。ごめんねうちのダメ人間が。怒らないでね。さあ一緒に行こう」アンジーがキャロルのそばに行って頭を撫でながら声を掛ける。渋々歩き出すキャロル。ミカさんは先に少し走って行って、こちらを振り返り、
「キャロルおいで!あそこまで競争だー」そう言って走る真似をする。キャロルは急に走り出し、
「私が一番~」と言ってダッシュしている。ミカさんを通り過ぎたところでミカさんがその後を追う。結構良いスピードで走ってましたが、子どもって意外に足が速いんですねえ。
「転ばないでよー」と言ってヒメツキさんが小走りで追いかける。ああその姿はまさしくお母さんですねえ。
「そうですね」歩き出した私の横にユーリが並ぶ。モーラが軽くジャンプして私の肩に乗る。スカートを頭にかぶせないで欲しいのですが。
「あまり派手なジャンプはダメですよ、皆さんに見られては誤解を招きます」そう言ってメアが私の隣に並びました。ユーリとメアに手を差し出すとどちらも腕を組んできました。
「あ~ずるい~」エルフィが私の背中にぶつかります。
「倒れるまでぶつかってはいけません」メアさんが先生口調で言った。
「は~い」エルフィは、そう言いながらも私の胸に両手を回してグイグイと押しつけてくる。
「幸せそうねえ」と横からのぞき込むアンジー
「私に力が合ったら両肩にアンジーとモーラを乗せられたのですがねえ。今回はメアさんが一番頑張ってくれましたので許してあげてくださいね」
「私が一番サボってたみたいじゃない」
「たまにつまみ食いをしているのを見てましたからねえ」
「あんたよく見ているわねえ。ま、しかたない今回は譲るわ」そう言って、エリスさんと並んで先を歩く。
「本当ならモーラなんでしょうけど」ヒメツキさんが笑いながら言いました。
「なにを言っておる。わしはつまみ食いはしておらんぞ、お客からア~ンっていってお裾分けをいただいただけじゃ」
「客商売でそれはやってはいけないんですよ。まあ、本当のお店じゃないですからいいんですけどね」私は念のため言いました。もしかして普通の店の手伝いでもやっているんじゃなでしょうか。気になります。
そうして踊りの場所に着く。すでに中心に火の櫓が作られ、その周りに踊りの輪ができて皆さん踊っています。2重の輪が作られていて、仲の輪は子ども達のようだ。手をつないでステップを踏んだり手を交差させたりしている。
「意外に簡単なステップねえ」そう言ってその場でステップを踏むアンジー。炎を背景に綺麗なシルエットが浮かび上がる。
「綺麗に踊るのう」モーラはそう言って私の頭をペシペシと叩く。下ろせの合図だ。私はモーラの体を抱いて下ろす。すかさず走って行ってアンジーの隣でステップを踏んでいる。
中にいた子ども達がそれを見て、モーラとアンジーを引っ張って踊りの輪の中に連れて行って一緒に踊り始める。私達も外の輪の人達から手を引っ張られ、踊りの輪に連れ込まれる。それぞれ見よう見まねでステップを踏む。ヒメツキさんは、キャロルと一緒に子どもの輪の中にいましたた。
違う曲に変わり、2人一組で踊り出す。曲の途中で前の人と交代して、次々と相手が変わっていく。
「そうですか。この曲が最後にかかるんですね」そう独り言を言うと、手をつないで踊っていた相手の方がうなずいている。そしてまた違う曲になり、今度は4人組で踊りながら、2人だけ次の組へと移っていくダンス。これもリズムに乗ってステップを踏むのでなかなか難しい。
そうして、リ~ンゴ~ンと鐘が鳴らされて、内側の踊りの輪が切れて周囲へと散っていき親御さんと手をつないで帰って行く。
「ヒメツキさん」私達は外側の輪を抜けて全員で声を掛ける。すでにキャロルはおねむのようだ。
「これでは、あとで合流は無理そうね」
ヒメツキさんがキャロルをおぶって、ミカの手を引いて帰って行った。なぜか後ろ姿が育児に疲れた母親のように見えてしまった。しかしみんなも限界そうです。
「残念ですが帰りましょうか」
「そうねえ明日もあるしねえ」アンジーの声を聞いて、私に強烈な疲労が襲ってきました。ああ、緊張の糸が切れましたねえ。
「私が領主様に挨拶してきます。先に歩いていてください」みんなの様子を察してメアさんがすでにその場からいなくなりました。
「よろしくお願いします」私は、すでにいないメアさんに聞こえるはずもないのに言っていました。
「あんた肩車して」アンジーが当たり前のように要求する。そう言いながら手を差し伸べてくるところを見ると手をつなぎたかったのでしょう。
「ええーーーっ、これから家までですか?」
「おぶっても良いわよ」そう言ったアンジーを見る皆さんの目がお怒りモードです。
「私もおぶって欲しい~」
「僕もできれば」
街から出たところでみんながぐずるので、私は
「じゃあじゃんけんで勝った人だけ3分だけおぶってあげます。その後またじゃんけんで決めましょう。それで勘弁してください」
「よ~し、ジャンケン」
「はいそこまで!ストップ」メアさんが追いついてきました。
「ご主人様も疲れておいでです。ご主人様を私が背負います。他の人は歩いてください」
「ええーーーっ」なんですか本当に残念そうな叫びは。何とかしてあげたいのですが、私の体力もすでにありません。
「皆さんの健康状態を観察しまして、今一番問題なのはご主人様であると判断しました」とメアさんが私の手を取り簡単に背負いました。でも少し恥ずかしいですねえ。
皆さんは、不平を言うわけでもなく歩き出します。
「そういえば、準備期間中ずーっと色々やっていたものねえ」とアンジー
「まあなあ、ここ一週間くらいは睡眠時間削っていたからのう」とモーラ
「最初は、スイーツ用の皿やコップを作って、食材の搬入手順や搬入量の調整、メニューなどを作って、昼間は、給仕の特訓につきあって、最後にはデザートの仕込みも朝まで掛かってやっていましたので」メアが言った。
「あるじ様は、やるとなったらとことん頑張りますから」ユーリが言った
「そうなんですよね~その頑張りを私に向けてくれても良いと思うですよね~」しかし私は反応できませんでした。すでに眠っていましたから。
「やはり寝おったか。まあ仕方ない。明日倒れられても困るからなあ」
「ですが、明日の食材の仕込みをしませんとなりません」
「そういえばそうよね。明日の分のスイーツを出したはずだから」
「はい、昼からは軽食も出しましたので、少なくとも明日の朝一番用のスイーツが必要になります」
「どのくらいの時間がかかるのじゃ。」
「ご主人様が起きていれば数時間ですが」
「今日は早めに寝て朝早く起きようではないか」
「その方が良いわね」
「急ぐぞ」
そうして、メアさんが走っている心地よい振動で気持ちよく眠りました。
Appendix
私が背負っているこの方は、私のご主人様です。
そしてご主人様の周りにいる皆様
私の食事を美味しいと言ってくれて、
私の厳しい指導にも笑顔で頑張ってくれている。
ご主人様と共に暮らし皆様と共に笑い合う
こんな嬉しい事はない。
この喜びを誰かに伝えたい。
私はホムンクルスなのにどうしてこんな感情が芽生えたのでしょうか?
そのことに気付いた時に自分の中でカチリと音がしたような気がした。
怒りを感じた時にも同様にカチリと音がした気がしたけれど
それは間違いではなかったようです。
続く
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―作品について―
完結しました。
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