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第10話 DT家族を増やす
第10-1話 予知の余地
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○出立
翌々日、皆さんに見送られて街を後にしました。
幌の上から、見送ってくれる街の人に元気よく手を振るエルフィ。見送りの人はこちらが見えている間はずっと手を振っていてくれたようで、エルフィは涙で顔がくしゃくしゃになりながらも元気よく手を振り続けました。
「さあ旅の始まりです。皆さん覚悟は良いですか」私は御者台から声をかける。
「覚悟といってものう」
「まあ乗り心地だけよねえ」
「それでも普通の馬車よりは格段に乗り心地は良いですよ」メアが言いました。
「それはそうですよ。本来の単なる鉄製の車軸ではなくて、センター部分で分割して、四輪独立懸架にしてありますからねえ。見た目はわかりませんがショックアブソーバーにエアサスを使ってたりしますから」私はついつい講釈をたれてしまいます。
「メア。今の話を理解できたか」モーラがやれやれといった感じでメアに尋ねる。
「わかりませんでした。しかしこの乗り心地は確かに違います。ほとんど横揺れがありませんね」
「それに直接突き上げがないとかどういう仕組みじゃ。ああいい説明せんでいい。余計わからなくなるわ」モーラが手を振って私の説明を拒みます。
「この世界にあってはならない技術なのよ。簡単に言うと空気と金属のバネで衝撃を緩和しているのよ」アンジーが説明してくれました。いや確かにわかりやすいです。
「そのとおりです。さすがアンジー」私は思わず声を上げる。
「技術バカに説明を求めるのが間違いか」ため息をつくモーラ。
「こういう人って~説明したがりますよね~」エルフィまでも”こういう人”扱いですか。
「でもあるじ様は本当にすごいです」相変わらずユーリは私を持ち上げてくれます。いい子ですねえ。
「褒められるともっと色々したくなりますねえ」
「それ以上しなくていいですからね」アンジーがちょっと怒っています。まあ、私は調子に乗ると悪ふざけし始めますから仕方が無いです。
急ぐ旅ではありません。でも久しぶりの出番に馬たちは気合いが入っています。旅の主役は自分たちだとばかりに頑張ろうとしています。
「馬の名前が「ア」と「ウン」ですが、どうしてその名前になったのでしょうか」メアさんが私に尋ねます。
「あるじ様の国の文字なら「あ」の次は「い」ではなかったですか?」ユーリよく覚えていましたね。
「そうじゃな。最初の馬の名付けの時は、最初の文字にすると言っておったから、普通は次の文字にするものだと思ったが、違うのか?」モーラも首をかしげている。
「最初は「い」にしようかと思ったのですが、どうも「い」では、呼ぶときの語感が悪いので、少し考えまして。」
「「う」って3番目の文字ですよね~1文字飛ばしたんですか~?」
「実は、阿吽の呼吸という言葉がありまして。息がぴったりと言う意味なのです」
「ほう」
「そして「阿」と「吽」それぞれが神を守護すると言われている想像上の人物の名前で実際に像として残っているのです」そして私はその像をイメージする。
「なるほどそう言うことか。もっともわしらは馬に守護される必要は無いからなあ。馬たちには荷物を守護してもらおうかのう」
「ああそういう風に考えればいいのですねえ」
「だってよ~よろしくね~アとウン~」手綱を取るエルフィが馬たちに声をかける。なぜか馬たちが声をそろえていなないたのです。
「驚いた。私達の話していることが理解できたみたいね」アンジーが驚いている。
「いい馬たちですねえ」
「そうじゃのう」
そして馬車のスピードが少しだけ速くなった。
「あ~急いじゃだめだってば~」エルフィがあわてて声をかけました。
○ 不審人物です
山あいの細い道を走っています。さすがに道が細いので馬たちも用心して、あまりスピードを上げないように走っています。
手綱を取っているのは私ですが、ほとんど馬たちが勝手にスピードを調整しているので、ただ手綱を手に持っているだけです。ええ、別に御者など必要ないみたいです。
そんな道の途中でメアさんが私の隣に来て私に声をかけました。
「囲まれていますね」
「ああ。どうやら魔族らしいのう」モーラも顔を出す。
「敵です」ユーリが馬車の中で自分の大剣を手元に引き寄せたようです。
「皆さんもわかりますか」
「かなりの人数です~馬車を囲みながら移動しています~かなりの速度ですから人間ではありませんね~」さすがエルフィそこまでわかりますか。
「馬車を壊されると困りますねえ」私は長期的展望でそう言いました。徒歩はイヤですよ。
「心配するのはそこか」モーラが呆れています。
「まあ殺されたら馬車も何も必要なくなりますけどね」アンジーがちょっと怖がっています。
「こんなところで徒歩にはなりたくないありません」メアが言いました。
「ですよねえ」私はそう言いながらもしばらく馬車を止めずに走らせます。
ちょうど良さそうな開けた場所が見えて周囲の気配も輪を縮めてきたようです。
「馬車を止めます」私はそう言って、手綱で馬に合図をする。馬たちは、周囲の気配に気付いているはずなのだけれど、静かに止まって暴れもしません。本当にこの馬達は肝が据わっています。魔族にさえ動じない良い馬です。まあ、いつもドラゴン乗せて走っていて慣れているからかも知れませんが。
馬車を止めるとさらに囲みを縮めてから人影が現れました。体格の大きさから人ではないことがわかりました。魔族なのでしょうか。そういえば、これまで魔族の方とお会いしたことがありませんでしたね。でもやけに体毛が多いような気がします。
ひときわ大きな体格の魔族さんが道を塞ぐように少しだけ前に出てきて、横には数人の魔族がついてきています。残念ながら逆光で顔立ちがよく見えませんが、立派な角だけが印象的です。
「そこの馬車に一人、客が紛れ込んだだろう。渡せ」とりあえず、馬車の手綱をエルフィに任せて、私が御者台から降りました。メアさんが私に付き添うように隣に立ちました。
「さて、私たち6人しか乗っておりませんけど」私はポカンとそう言いました。
「これだから人は。その馬車の下にへばりついている奴のことだよ」
私はメアさんに顔を近づけ耳打ちする。
「メアさん気付いていましたか?」
「ええ。追われているのか、囲まれる前に気配を殺して床下にへばりついていました。殺気も放っていなかったですし、周りの殺気の方が気になりましたので放置していました。気付いていなかったのですか?」
「残念ながらわかりませんでしたねえ。周りの方が気になって細かいところまで注意ができていませんでした。すいません」
「ご主人様のせいではありません。この気配の殺し方は訓練を受けています」
「これはまたやっかいな」
「どうした、早くしろ」
「とりあえずその人に出てきてもらいましょうか。出てきてもらえますか?」私は荷馬車の下を見ながら言いました。
「はい」そう言って馬車の下から人が出てきました。その骨格や肌の色で人ではないと思いますが、どうやら女性のようです。体格の良いグラマラスな女性が出てきました。
「さきほどの気配とちょっと違います。さっきの気配よりかなり大きくなっています」その大きさにメアさんが戸惑っているのがわかります。
「そうですか」私はその人のところに近づいてこう言った。
「確かにいらっしゃいましたね。隠れていたという事は何か事情があるのですね?」私はその人の目を見ながら聞きました。
「はい。この辺で道に迷ってさまよっていたのですが、何かあの方達の縄張りに入ってしまったようで、追いかけられていました。誤解なのです」その人は私の目を見て言いました。嘘はついていないようです。
「でも私達の馬車の下に隠れたのはどうしてですか?」
「色々な匂いや気配を感じたので、この中に紛れれば見つからないかもしれないと思ったからです。すいませんでした」そう言って頭を下げる。私は礼儀正しい人は嫌いではないのです。もっともその前に馬車の下に潜んでいたのは問題なのですが。
「それは仕方ないですね」
「ご主人様!」メアはびっくりしている。確かに仕方ないことではありません。私達を故意に巻き込んだのですから。
「そうでもしないと逃げ切れないと思ったのですね」
「はい。でも見つかってしまいました」
「念のためもう一度聞きますが、何もしていないのですね」
「はい。何もしていません」
「わかりました」私は、その人をそこに残して再び引き渡しを要求する魔族の方に向かって少しだけ前に出る。
「本人は誤解だと言っています。信じられませんか?」
「なんだよ。あんたそのドワーフの味方をするのか」
「ドワーフなんですね。初めてお会いしました。そうなのですかドワーフさんですか。とりあえず何もしていないという人をお渡しするのもちょっと後味が悪そうです」
「いや、おまえ達の場所の下に身を潜めて逃げようとしたんだぞ。おまえたちを巻き込んで逃げようとしているんだぞ。そんなやつの味方をするのか」
「まあ、誤解を解けないまま捕まって拷問されても嫌でしょうし、こうやって話をしている間に隙があれば逃げることもできそうじゃないですか。もっとも逃げる気はなさそうですけどねえ」そうして、そのドワーフの女性を見る。うなずいている。
「公正なジャッジをする人が欲しかったのですねえ。きっと」
「なるほどな。一方的に裁かれるのは嫌だったと」
「そうなりますかねえ」
「お前。こうやって俺らと平気で話しをしているが、普通の人間だったらさっさとそのドワーフの女を置いて逃げているだろう。だがおまえは平然と俺を見て話をしている。確かに俺らは温厚な方だから、こうやって話し合いをしているわけだが、いきなり襲われて殺されているかもしれないんだぜ。随分と腕に自信があるんだな」
「自信なんてありませんよ。ただの成り行きです。だって、止まれと言われて止まって、下に誰かいると言われて、そこから人が出てきた。たったそれだけのことが起きただけなのです。そこに私が逃げられる状況なんてありませんでしたよ」
「まあそういえばそうだが、普通は俺の姿を見て魔族だとわかった瞬間に逃げる算段に入るぜ」
「そうなのですか。それでは逃げましょうか」
「逃げられる訳無いだろう。周囲には俺の部下が逃がさないように囲んでいるんだ」
「ではどうしたらよいのでしょうか」
「とりあえず。おまえの馬車にどんなやつが乗っているのか全員出てきてもらおうか」
「わかりました。皆さん出てきてください」そう言うとみんながぞろぞろと出てくる。
「これで全員です。馬車には他に誰もいないですよ」
「確かに他に気配もないようだ。他に誰もいないようだな」
「はい、ここにいる全員。つまり7人で全員です」
「旅人。きさま名前は」
「しがない魔法使いとその家族です」本当は、貴様に名乗る名前など無いと言いたいところですがやめておきます。
その魔族の男は、全員を一瞥してある人に目がとまったようだ。同時に他の魔族がその魔族に耳打ちをしている。
「ちっわかった」その魔族は、耳打ちをした魔族にそう言うと私の方に向き直った。
「今は引いてやる。だがそいつが何かしていたら引き渡してもらうからな」そう言い残してその魔族はその場から移動しようとした。
「私の方でも聞いてみますので、それでよろしいですか?」
「ああそこのドワーフ。これですむと思うなよ」振り返りながらその魔族はドワーフを睨んで言った。
「ひとつだけ聞いて良いですか。ドワーフは魔族と共存しているのではなかったのですか」
「それでもルールはあるんだよ。縄張りを越えてちょろちょろしやがって。ここは魔族のものになっているんだ。断りもなく入ったら殺されても文句は言えないんだからな」背中を向けていたその魔族はこちらに向き直ってそう言った。
「ここは少し前まで境界線で人間の町だったはずなんですが」
「いつの話をしてやがる。もう十年近くは経っているぞ」
「では私たちも同罪ですね」
「はあ?一応俺らにもプライドって奴があるんだよ。ただ通行している奴には一応警告するが、何もなければそのまま通す。今回は、そいつを追っていたからたまたま引っかかったが、通るだけなら無視していたんだよ」
「そうですか。それはありがとうございます」
「ん?だが、おまえらは少し違うな。怪しい匂いがプンプンしている。お前らならいずれは声をかけたとは思うわ。それでも何もしないならいい。ただな、こちらで調べて証拠が何か出たら、かばったお前らごと殺す」
「私たちは何もしていないし、するつもりもありませんがねえ」
「言葉は信用できねえ。態度で示しな」
「それでは失礼します」私はお辞儀をして皆さんに馬車に乗り込むよう促した。
「メアさんその方を馬車に」
「はい」
そうして最初の騒動は、なんとかなりました。
数人の魔族が馬車を監視するために馬車を囲んでいる。構わず私達は馬車で移動を始めた。馬車の移動にあわせてその魔族達も移動しているようだ。実際には気配はあるが姿は見えない。
私達が馬車で進むのを見送った魔族の方は、残っていた魔族達の中で、頭領らしき物が数人を呼んだ。
「あいつら強いな」
「大ボスからは、遭遇したなら殺しても良いと言われている連中ですよきっと」
「あんなケチな獲物を追っていて大物が引っかかったのか。でも、あいつらもったいないなあ。殺すにしても少しは楽しみたいところだ」
「ならば罠を仕掛けますか」
「罠を?面倒だな。だが他の奴らに邪魔されたくないからな。周囲から見えないところで、どんなものなのか試してみたいぜ」
「数日のうちに渓谷がありますぜ。そこなら他の奴らの邪魔は入らないかと」
「そうするか。とりあえずあいつに連絡をしろ。後から変に難癖をつけられても困るからな」
「いいんですかねえ。連絡は必要なときはあっちからしてくると聞かされていますが」
「俺はそういう所は慎重なんだ。だからこそ色々おいしいことにもありつけているんでな」
「わかりやした。機をうかがいます」
「まあ、あの渓谷までまだ数日はあるだろう。あの馬車の他の連中に気付かれるな。もちろん俺たち以外の他のやつらにも知られるなよ」
「わかっていますよ」
エルフィに手綱を代わってもらい馬車の中に移る。
「少しは落ち着きましたか」
「はい大丈夫です」体は少し小さくなったように見えますが、気のせいですかね。
「また来ると言っていましたね」
「ですから私を相手に引き渡せば良かったではありませんか」ああ、その怒っているようなすがるような、そしてちょっとうれしそうな目が私の心を動かしますね。
「でも何もしていないんですよね」
「はい。勘違いされるようなことを何かしたのかもしれませんが」
「ならばこちらに非はありません」
「それにしてもひとり旅なんて。あなたはこれからどちらに行かれるのですか」メアが心配そうに聞いた。
「修行のためのひとり旅ですので、行く先は決めておりません。ですがこんなことに遭ってしまうと少し先行きが不安になりました」
「そうですか。しばらく一緒に旅をしましょうか。ああ言いながらもこの地域を抜けるまでは、襲ってくる可能性がありますから。少なくともここを出るまでは一緒に行きませんか?」
「あんたねえ相手の都合も考えずに」アンジーが怒っています。
「私は別にかまいません。むしろお願いしたいくらいですが、それでいいのですか?」
「私は「旅は道連れ世は情け、情けは人のためならず、旅の仲間は皆家族」というのを座右の銘としておりますので」
「いつからそんな座右の銘を刻むようになったんですか。突っ込みどころ満載です」アンジーが吠えています。
「さきほどからです」私は涼しい顔で言いました。だってあんな顔をされたら助けたくなるでしょう。可愛いですし。
『はあ、やはりそこですか』アンジーさんそう言いましてもねえ
『すけべ~』エルフィにまで言われますか
『まったくじゃ』モーラこれは人助けなのですよ
『それが全てとは思いませんが一部はそう思っていらっしゃいますね』メアさん・・・
『ええご主人様のやさしさですよね』ユーリあなただけですよ
「何から何までありがとうございます。私はパムと申します。見ての通りドワーフです。失礼ですがお名前を」
「今回は「大丈夫」だったようじゃのう」
「本当に。いつもこうなら良いですけど」そこの2人余計な事は言わない。
「私はしがない旅の魔法使いです。DTとは仮の名前です。何と呼ばれましてもかまいません」
「私アンジー職業子役。4人姉妹の3女役ね」
「ちがうじゃろ、3女役では無くてニセ天使じゃろう」
「モーラその話はなしで、誤解されるから」
「わしはモーラ。職業子役、末っ子役じゃ」
「私はメア。職業メイドです」
「私はユーリ。職業子役?えーと次女役になるのですか」
「私は~エルフィ~職業は~冒険者で~す。役は長女?」御者台から叫ばないでください。よく聞こえていましたね
「違う飲んだくれ」
「泥酔者でしょう」
「ひどいです~最近飲んでないのに~」だから御者台から叫ぶなと。
「皆さん勝手なことを言っていますね。気にしないでください全部冗談ですから」
「でも、その方が天使様で全員で6人ならば、噂の天使様ではないのですか?」
「ほほう有名になったものじゃのう」
「モーラのせいですからね」
「あの噂は誤解なのですよ。私たちはたまにそういう目で見られてしまいますが、そんな噂の方々とは全然違います。そのことでかなり迷惑しています」
「そうなのですか。魔族の襲来を予知できる天使様と水神様のお使いの天使様の噂があります。どちらか一方の方々なのかと思いました」
「水神様のお使いの方は、水神様のお作りになった虚像だったと聞いていますよ。魔族の襲来を予知する天使様は、力が無くなったと聞きました」
「ずいぶんお詳しいんですね」おおするどいつっこみ。
「はい~本にん・・・」口が軽いですねエルフィ。その口を塞ぎに瞬間移動したメアさんに瞬殺されてください。でもその動きを見てパムさんがびっくりしていますよ
「旅をしているといろいろな情報が入って来ますから。特にその噂はどちらもその商隊の人達から聞いたので間違いないですよ」そうなのです。私は間違いなく聞きましたよ。
「そうですか。実は先ほど修行と言いましたが。もちろん修行もして旅しているのですが、その方達にお会いできないかと思っていて、その噂を求めて旅していました。皆さん全員で6人ですし、魔法使いの従者の方だけが男で、残りの方が全員女性だと。さらにはその中にはエルフの方もいらっしゃると言っておりましたので、もしやと思っていましたが違うのですね」
『ずいぶん詳細なことを知っておるな。もしや手配書でも回っておるのか?』
『さすがにそれはないでしょう。でもあまりにも正確すぎますね』
「そうですか。そんなに具体的な噂がでているんですね。確かにそれならうちの家族が間違われてもしかたがありませんね」
「家族ですか」
「血はつながっていませんけれど家族ですねえ」
「うらやましいです」なぜかパムさんのその言葉が私に刺さりました。本心だからですかねえ。
「そうですか?少なくともこの子は、私が村から預けられた孤児ですので」不安そうなアンジーの頭を抱えて撫でる。そうですこれは本当です。大きな嘘は、小さな本当をまぶすと本当に見えてくるものらしいです。
「あとの子達も同様に身寄りがありませんから身を寄せ合って旅をしています」
「そうなのですか。複雑なのですね」
「わしらは気にしておらんがなあ」
「これこれ、そういう話し方はやめてくださいっていったでしょ」私は慌ててモーラを止める。本当にこのロリばばあはやめてください。
「いいじゃろう別に。わしが育ったところではこういう話し方をするもんじゃと教えられていたんじゃから」
「そうなのですか、けっこう老人のようですね」パムさんそこは、素直に頷くのではなくツッコミましょうよ。
「ああ誰に対してもじゃ。年齢も性別も関係なくつこうておる。すまんな勘弁してくれ」確かにこの中では最高年齢ですしねえ。
「今手綱を持っているエルフの方もですか?」
「そうですよ~訳ありで~す」手を振っている。今の話し声聞こえていましたか?耳が良いんですねエルフィ。脳内通信では他人の声まで中継できないですよね。
「そういうこともありますか。皆さん良い関係なのですね。うらやましいです」
「立ち入ったことをお聞きしますが、お一人なのですか?」
「はい一人です。身寄りはありません」
「故郷にもいらっしゃらないのですか?」
「はい天涯孤独です」
「すいません立ち入りすぎました」
「いえ、これまで私のことを聞いてくれる方もおりませんでしたので」
「修行と言っていましたが、どのような修行をしているのですか」
「私たちドワーフは魔力がほとんどありません。ですので、この腕一本で生きていかなければなりません。幸いなことに鍛えれば鍛えるほど体力・筋力はついていきますので、こうやっていろいろなところを回って冒険者まがいのことをしながら旅をしております」
「そうなんですか。これからというところですね」
「はい、道は始まったばかりです」
「ところで、噂の天使様の一行を探しているといっておったが、会ってどうするつもりじゃ」モーラが尋ねる。いや、話題そらしたばっかりでしょう。どうしてそこはスルーしないのですか。
「もちろんお手合わせをお願いしたいと思いまして」
「なるほどのう。じゃがそもそもそんな者達がいないとすればどうする」モーラが嬉しそうに笑って言いました。だから年齢設定を考えてくださいよ。
「どういうことですか」パムさんは身を乗り出してくる。
「噂だけで実際に存在しない。まあ童話の中でてくるような架空の人物の可能性じゃ」嬉しそうにモーラが言った。
「確かに可能性としてそれはありますが、さきほどこの方が、その商隊の方から聞いたと言っていましたが」そう言ってパムさんは私を見る。
「そこじゃ。わしらも実際見たことが無い。その商隊の者は見たと言っているが、それが真実なのかとな。そやつらが噂を流していて、わしらがそれに騙されている可能性じゃよ」なに偉そうにロリババアが講釈をたれますか。
「なるほど。わざと噂を流していると」パムさんもそれに乗らないでください。
「ああ、どんなことも斜めに見なければいかんと思うのじゃ」このガキさらに偉そうにふんぞり返ってますよ。
「モーラあんたねえ。本の読み過ぎ。ばばあしゃべりといい、こんな変な講釈をたれたりと、年齢にそぐわないでしょ。自重しなさい」おお、アンジーのお姉ちゃん発言。なじんでいますね。
「しようがなかろう。そういう環境で育ったのじゃから」環境のせいで逃れるつもりですか。ドラゴンの里のことを環境と言うのはちょっと無理があるでしょう。私が脳内で全部突っ込んでいるのを聞いて、メアやユーリは笑うのを我慢している感じが伝わっています。
「確かにその可能性は否定できませんねえ、実際私たちは見ていないのですから」そりゃあ本人達ですから見られるわけがありません。詭弁ですね。
「メアさんどう思いますか?」私は笑いをごまかしているメアに話題を振る。意趣返しですよ。
「私ですか。結局周囲がどう見るかでしょう。私たちのことを見れば、そういう風に見えても仕方が無いと思います」ナイスフォローです思わずサムズアップしそうになりましたよ
「僕もそう思います。相手がそう思ってしまうと、どう誤解を解こうとしてもそう解釈されてしまいます」ユーリが雄弁です。まあ自分自身の経験でしょうから仕方がないでしょうね。
「私は誤解されていませんよ~エルフはエルフです~そんなすごい人達の仲間だったら逃げ出していますね~」ぼろを出すなっていうのにだしますかこのダメエルフ。
「どんな風にすごいのですか?」ほーら言われた。
「エルフィが答えるまでも無く、魔族の襲来を予知できるのならすごいわなあ」モーラがごまかしにかかる。
「でも今、人達と言いましたよね。何か情報を持っているんですか?」おお、パムさん良いところをつきますね。
「天使と魔法使いで達ですねえ。天使様は何も話さずその魔法使いが語ったとか」
「ああそうなんですか。ひとつ勉強になりました」
「あくまでその商隊の者から聞いた話じゃ」
「でも、水神の使いの方の天使様についてはほとんど情報が無いのです。その魔法使いしか話さなかったようだというのは初めて聞きました。情報として有用です」
『あ』
『ばかもの!おぬしが墓穴を掘ってどうするのじゃ』
『だってエルフィがよけいなことを』
『てへ?』
『てへじゃないですよ』
『そうです。声に反省の色が見えません』メアが脳内で語りました
『だって~この人みるからに悪い人じゃ無いですよ~ばれても大丈夫な気がします~』
『出たな根拠の無い推測が』とはモーラ
『確かにエルフィの勘というか感覚はこれまで外れていませんけどね』アンジーがなぜかそこでそっち側に賛成しています。
『でしょう~そろそろ信じてくださいよ~』
『信じているからと言って、従うかと言えばそういうものではないわ』アンジー、的確にあげてから落としていますねえ。
「皆さん急に黙り込みましたがどうしましたか」
「確かにその情報が私の思い込みで無いのか?と記憶をたどっていました。どうも私が勝手に思い込んでいただけだったみたいです」うむ軌道修正はできそうです。
「ああそうでしたか。皆さん全員黙ってしまわれたのでどうしたのかと思いました」
「たぶん皆さん今の指摘で記憶をたどったのだと思います」
「全員で、ですか?」
「みんな私の記憶があやふやなのを気にしていますから」
「そうなのですか。うらやましいです」
「うらやましい・・か?」
「ええ、そんな風に他人に気にしてもらったことがないので」
「ああそうか。まあ一緒にいればそういうことも多々あるじゃろう。これからしばらくはな」
そしてしばらく馬車は進む。光の加減かチラチラと木漏れ日が入ってくる。アンジーが急に嫌そうな顔をしてそわそわしだし、めずらしく御者台に移った。
しばらくしてアンジーが言った
「そろそろ休憩にしませんか。馬車を止めてください」
「どうしましたか」
「ちょっと酔ったかも」
「大丈夫ですか?最近はなかったのに」
「気晴らしに少し歩いてくれば治ると思うの」
「はいはい。あまり離れないでくださいね。嫌でなければご一緒しますが」
「はあ?で、あなたの目の前でしろと言いますか?」
「ああそっちですか。そうでしたかすいません。それでも気をつけてください。皆さんも散策して気分転換しましょう」
全員が気分転換をしに森の中を散策している。残された2頭の馬は、逃げもせず静かに待っている。ええ賢い子達なので大丈夫です。
「まったく急な連絡はやめて欲しいです」アンジーが周囲を見回ししゃがみながらつぶやく。
「なるほど。彼女はわざとあなたたちに接触して、襲われて私たちの方に逃げたようだと。最初からそれが目的のようだというのね。あなた達の間者では無いのね。それが聞けたのはありがたいわ」
「私たちを襲うの?襲うにしてもケガしないように気をつけてね。させないようにじゃなくてしないようによ。いつも急に襲うから私も気が気では無いのですけどね。ええ?今度はけっこうきついのですか。それでも私も巻き添えにするくらいにやってくださいね。でないと私が間者なのがばれてしまいます。本当に直接の連絡はやめてください。本当に連絡が欲しいのは、彼を暗殺するとかそういうときだけにして欲しいのだから」
アンジーは立ち上がってその場を去り、馬車の方に戻っていく。離れたところから見られていた事にアンジーは気付いていなかった。
アンジーは戻りながらつぶやく「いちいち知らせに来ないで欲しいわ。こうやって連絡を取っている方が怪しまれるのだから。もっとも今回の事でみんなにはバレたとは思うわね。そろそろ決断する時期かしらねえ」
そうしてアンジーが戻ってきた。メアさんもいつの間にかいなくなりいつの間にか戻ってきていた。
Appendix
私は、たまにくだらないことを想像していたりします。ええ本当にくだらないことを。
「今「マジシャンズセブン」とか思いつきましたね。これ以上仲間を増やすとかありえませんから」アンジーが私に怒ったように言った。
「ばれましたか。ちょっと頭を横切りましたねえ。7人なら私を除いて2人ずつ組にできるなあと」
「まったく何を不謹慎なことを考えているんですか。今のところ私は戦力外ですし、メアとモーラとエルフィとユーリ。4人で2組でちょうど良いですよね。それをどうしてあと2人も増やすとか考えますかねえ。そんなことをしたら・・・まあ目立ちすぎますよ」そこで何を言いかけたのでしょうか?
「確かに奴隷商人の面目躍如ですけど、モーラは手を出せないですし、アンジーは戦ったら光になって死んでしまうかもしれません。戦えるのは実際のところ3人なんですよ。ですからねえ。何とかもう2人くらい欲しいかなと思ったのですが、確かに目立ちすぎますよねえ」
「そうです多すぎます。そんなこと考えないでください」
「考えたとしてもそんなことにはなりませんよねえ」
「そうですか~?意外に増えるかも知れませんよ~」エルフィが嬉しそうに笑いながら言った。ああ予言するときの顔ですねえ。実際、本当になるとは思っていませんでしたけれど。
Appendix
「ご主人様、お話ししたい事がございます」
「おや改まって何でしょうか」
「アンジー様がどなたかと会話をしておられました。残念ながら相手はわかりませんでしたが」
「そうですか。馬車に酔ったとか言っていましたが、これまでありませんでしたからねえ」
「はい。ですので少し様子をうかがっていました」
「だからと言ってアンジーに聞いたところで話さないでしょうし。話してくれる事を待つしか無いですね」
「はい。そうは思っていましたが念のためお伝えしました」
「わかりましたメアさん。お願いです。そのことは誰にも言わないでください。今回のパムさんについても事情を抱えているようです。私たちは家族です。隷属をした段階で皆さんはそれぞれ知られたくない事や葛藤を抱えているのはわかっていたことです。ですから本人が話すまで黙っていてください。これは命令ではなくお願いです」
「命令ではなくお願いですか」
「モーラもアンジーもエルフィだってみんな秘密を持っているのですよ。もちろん私だってね」
「ご主人様もですか?」
「いつも感情はダダ漏らしにしています。たぶん皆さんもわかっているのだと思います」
「まだ私にはそういうものを察することができていないのかも知れません」
「ごめんなさいね。メアさんの家族としての経験が積み上がればわかってくるかもしれません」
「わかりました」
私はご主人様にそう言いながらも、納得できていませんでした。そして、アンジー様に対してなぜか悲しいと思ってしまったのです。心の中でカチリと歯車が進んだ気がしました。
続く
翌々日、皆さんに見送られて街を後にしました。
幌の上から、見送ってくれる街の人に元気よく手を振るエルフィ。見送りの人はこちらが見えている間はずっと手を振っていてくれたようで、エルフィは涙で顔がくしゃくしゃになりながらも元気よく手を振り続けました。
「さあ旅の始まりです。皆さん覚悟は良いですか」私は御者台から声をかける。
「覚悟といってものう」
「まあ乗り心地だけよねえ」
「それでも普通の馬車よりは格段に乗り心地は良いですよ」メアが言いました。
「それはそうですよ。本来の単なる鉄製の車軸ではなくて、センター部分で分割して、四輪独立懸架にしてありますからねえ。見た目はわかりませんがショックアブソーバーにエアサスを使ってたりしますから」私はついつい講釈をたれてしまいます。
「メア。今の話を理解できたか」モーラがやれやれといった感じでメアに尋ねる。
「わかりませんでした。しかしこの乗り心地は確かに違います。ほとんど横揺れがありませんね」
「それに直接突き上げがないとかどういう仕組みじゃ。ああいい説明せんでいい。余計わからなくなるわ」モーラが手を振って私の説明を拒みます。
「この世界にあってはならない技術なのよ。簡単に言うと空気と金属のバネで衝撃を緩和しているのよ」アンジーが説明してくれました。いや確かにわかりやすいです。
「そのとおりです。さすがアンジー」私は思わず声を上げる。
「技術バカに説明を求めるのが間違いか」ため息をつくモーラ。
「こういう人って~説明したがりますよね~」エルフィまでも”こういう人”扱いですか。
「でもあるじ様は本当にすごいです」相変わらずユーリは私を持ち上げてくれます。いい子ですねえ。
「褒められるともっと色々したくなりますねえ」
「それ以上しなくていいですからね」アンジーがちょっと怒っています。まあ、私は調子に乗ると悪ふざけし始めますから仕方が無いです。
急ぐ旅ではありません。でも久しぶりの出番に馬たちは気合いが入っています。旅の主役は自分たちだとばかりに頑張ろうとしています。
「馬の名前が「ア」と「ウン」ですが、どうしてその名前になったのでしょうか」メアさんが私に尋ねます。
「あるじ様の国の文字なら「あ」の次は「い」ではなかったですか?」ユーリよく覚えていましたね。
「そうじゃな。最初の馬の名付けの時は、最初の文字にすると言っておったから、普通は次の文字にするものだと思ったが、違うのか?」モーラも首をかしげている。
「最初は「い」にしようかと思ったのですが、どうも「い」では、呼ぶときの語感が悪いので、少し考えまして。」
「「う」って3番目の文字ですよね~1文字飛ばしたんですか~?」
「実は、阿吽の呼吸という言葉がありまして。息がぴったりと言う意味なのです」
「ほう」
「そして「阿」と「吽」それぞれが神を守護すると言われている想像上の人物の名前で実際に像として残っているのです」そして私はその像をイメージする。
「なるほどそう言うことか。もっともわしらは馬に守護される必要は無いからなあ。馬たちには荷物を守護してもらおうかのう」
「ああそういう風に考えればいいのですねえ」
「だってよ~よろしくね~アとウン~」手綱を取るエルフィが馬たちに声をかける。なぜか馬たちが声をそろえていなないたのです。
「驚いた。私達の話していることが理解できたみたいね」アンジーが驚いている。
「いい馬たちですねえ」
「そうじゃのう」
そして馬車のスピードが少しだけ速くなった。
「あ~急いじゃだめだってば~」エルフィがあわてて声をかけました。
○ 不審人物です
山あいの細い道を走っています。さすがに道が細いので馬たちも用心して、あまりスピードを上げないように走っています。
手綱を取っているのは私ですが、ほとんど馬たちが勝手にスピードを調整しているので、ただ手綱を手に持っているだけです。ええ、別に御者など必要ないみたいです。
そんな道の途中でメアさんが私の隣に来て私に声をかけました。
「囲まれていますね」
「ああ。どうやら魔族らしいのう」モーラも顔を出す。
「敵です」ユーリが馬車の中で自分の大剣を手元に引き寄せたようです。
「皆さんもわかりますか」
「かなりの人数です~馬車を囲みながら移動しています~かなりの速度ですから人間ではありませんね~」さすがエルフィそこまでわかりますか。
「馬車を壊されると困りますねえ」私は長期的展望でそう言いました。徒歩はイヤですよ。
「心配するのはそこか」モーラが呆れています。
「まあ殺されたら馬車も何も必要なくなりますけどね」アンジーがちょっと怖がっています。
「こんなところで徒歩にはなりたくないありません」メアが言いました。
「ですよねえ」私はそう言いながらもしばらく馬車を止めずに走らせます。
ちょうど良さそうな開けた場所が見えて周囲の気配も輪を縮めてきたようです。
「馬車を止めます」私はそう言って、手綱で馬に合図をする。馬たちは、周囲の気配に気付いているはずなのだけれど、静かに止まって暴れもしません。本当にこの馬達は肝が据わっています。魔族にさえ動じない良い馬です。まあ、いつもドラゴン乗せて走っていて慣れているからかも知れませんが。
馬車を止めるとさらに囲みを縮めてから人影が現れました。体格の大きさから人ではないことがわかりました。魔族なのでしょうか。そういえば、これまで魔族の方とお会いしたことがありませんでしたね。でもやけに体毛が多いような気がします。
ひときわ大きな体格の魔族さんが道を塞ぐように少しだけ前に出てきて、横には数人の魔族がついてきています。残念ながら逆光で顔立ちがよく見えませんが、立派な角だけが印象的です。
「そこの馬車に一人、客が紛れ込んだだろう。渡せ」とりあえず、馬車の手綱をエルフィに任せて、私が御者台から降りました。メアさんが私に付き添うように隣に立ちました。
「さて、私たち6人しか乗っておりませんけど」私はポカンとそう言いました。
「これだから人は。その馬車の下にへばりついている奴のことだよ」
私はメアさんに顔を近づけ耳打ちする。
「メアさん気付いていましたか?」
「ええ。追われているのか、囲まれる前に気配を殺して床下にへばりついていました。殺気も放っていなかったですし、周りの殺気の方が気になりましたので放置していました。気付いていなかったのですか?」
「残念ながらわかりませんでしたねえ。周りの方が気になって細かいところまで注意ができていませんでした。すいません」
「ご主人様のせいではありません。この気配の殺し方は訓練を受けています」
「これはまたやっかいな」
「どうした、早くしろ」
「とりあえずその人に出てきてもらいましょうか。出てきてもらえますか?」私は荷馬車の下を見ながら言いました。
「はい」そう言って馬車の下から人が出てきました。その骨格や肌の色で人ではないと思いますが、どうやら女性のようです。体格の良いグラマラスな女性が出てきました。
「さきほどの気配とちょっと違います。さっきの気配よりかなり大きくなっています」その大きさにメアさんが戸惑っているのがわかります。
「そうですか」私はその人のところに近づいてこう言った。
「確かにいらっしゃいましたね。隠れていたという事は何か事情があるのですね?」私はその人の目を見ながら聞きました。
「はい。この辺で道に迷ってさまよっていたのですが、何かあの方達の縄張りに入ってしまったようで、追いかけられていました。誤解なのです」その人は私の目を見て言いました。嘘はついていないようです。
「でも私達の馬車の下に隠れたのはどうしてですか?」
「色々な匂いや気配を感じたので、この中に紛れれば見つからないかもしれないと思ったからです。すいませんでした」そう言って頭を下げる。私は礼儀正しい人は嫌いではないのです。もっともその前に馬車の下に潜んでいたのは問題なのですが。
「それは仕方ないですね」
「ご主人様!」メアはびっくりしている。確かに仕方ないことではありません。私達を故意に巻き込んだのですから。
「そうでもしないと逃げ切れないと思ったのですね」
「はい。でも見つかってしまいました」
「念のためもう一度聞きますが、何もしていないのですね」
「はい。何もしていません」
「わかりました」私は、その人をそこに残して再び引き渡しを要求する魔族の方に向かって少しだけ前に出る。
「本人は誤解だと言っています。信じられませんか?」
「なんだよ。あんたそのドワーフの味方をするのか」
「ドワーフなんですね。初めてお会いしました。そうなのですかドワーフさんですか。とりあえず何もしていないという人をお渡しするのもちょっと後味が悪そうです」
「いや、おまえ達の場所の下に身を潜めて逃げようとしたんだぞ。おまえたちを巻き込んで逃げようとしているんだぞ。そんなやつの味方をするのか」
「まあ、誤解を解けないまま捕まって拷問されても嫌でしょうし、こうやって話をしている間に隙があれば逃げることもできそうじゃないですか。もっとも逃げる気はなさそうですけどねえ」そうして、そのドワーフの女性を見る。うなずいている。
「公正なジャッジをする人が欲しかったのですねえ。きっと」
「なるほどな。一方的に裁かれるのは嫌だったと」
「そうなりますかねえ」
「お前。こうやって俺らと平気で話しをしているが、普通の人間だったらさっさとそのドワーフの女を置いて逃げているだろう。だがおまえは平然と俺を見て話をしている。確かに俺らは温厚な方だから、こうやって話し合いをしているわけだが、いきなり襲われて殺されているかもしれないんだぜ。随分と腕に自信があるんだな」
「自信なんてありませんよ。ただの成り行きです。だって、止まれと言われて止まって、下に誰かいると言われて、そこから人が出てきた。たったそれだけのことが起きただけなのです。そこに私が逃げられる状況なんてありませんでしたよ」
「まあそういえばそうだが、普通は俺の姿を見て魔族だとわかった瞬間に逃げる算段に入るぜ」
「そうなのですか。それでは逃げましょうか」
「逃げられる訳無いだろう。周囲には俺の部下が逃がさないように囲んでいるんだ」
「ではどうしたらよいのでしょうか」
「とりあえず。おまえの馬車にどんなやつが乗っているのか全員出てきてもらおうか」
「わかりました。皆さん出てきてください」そう言うとみんながぞろぞろと出てくる。
「これで全員です。馬車には他に誰もいないですよ」
「確かに他に気配もないようだ。他に誰もいないようだな」
「はい、ここにいる全員。つまり7人で全員です」
「旅人。きさま名前は」
「しがない魔法使いとその家族です」本当は、貴様に名乗る名前など無いと言いたいところですがやめておきます。
その魔族の男は、全員を一瞥してある人に目がとまったようだ。同時に他の魔族がその魔族に耳打ちをしている。
「ちっわかった」その魔族は、耳打ちをした魔族にそう言うと私の方に向き直った。
「今は引いてやる。だがそいつが何かしていたら引き渡してもらうからな」そう言い残してその魔族はその場から移動しようとした。
「私の方でも聞いてみますので、それでよろしいですか?」
「ああそこのドワーフ。これですむと思うなよ」振り返りながらその魔族はドワーフを睨んで言った。
「ひとつだけ聞いて良いですか。ドワーフは魔族と共存しているのではなかったのですか」
「それでもルールはあるんだよ。縄張りを越えてちょろちょろしやがって。ここは魔族のものになっているんだ。断りもなく入ったら殺されても文句は言えないんだからな」背中を向けていたその魔族はこちらに向き直ってそう言った。
「ここは少し前まで境界線で人間の町だったはずなんですが」
「いつの話をしてやがる。もう十年近くは経っているぞ」
「では私たちも同罪ですね」
「はあ?一応俺らにもプライドって奴があるんだよ。ただ通行している奴には一応警告するが、何もなければそのまま通す。今回は、そいつを追っていたからたまたま引っかかったが、通るだけなら無視していたんだよ」
「そうですか。それはありがとうございます」
「ん?だが、おまえらは少し違うな。怪しい匂いがプンプンしている。お前らならいずれは声をかけたとは思うわ。それでも何もしないならいい。ただな、こちらで調べて証拠が何か出たら、かばったお前らごと殺す」
「私たちは何もしていないし、するつもりもありませんがねえ」
「言葉は信用できねえ。態度で示しな」
「それでは失礼します」私はお辞儀をして皆さんに馬車に乗り込むよう促した。
「メアさんその方を馬車に」
「はい」
そうして最初の騒動は、なんとかなりました。
数人の魔族が馬車を監視するために馬車を囲んでいる。構わず私達は馬車で移動を始めた。馬車の移動にあわせてその魔族達も移動しているようだ。実際には気配はあるが姿は見えない。
私達が馬車で進むのを見送った魔族の方は、残っていた魔族達の中で、頭領らしき物が数人を呼んだ。
「あいつら強いな」
「大ボスからは、遭遇したなら殺しても良いと言われている連中ですよきっと」
「あんなケチな獲物を追っていて大物が引っかかったのか。でも、あいつらもったいないなあ。殺すにしても少しは楽しみたいところだ」
「ならば罠を仕掛けますか」
「罠を?面倒だな。だが他の奴らに邪魔されたくないからな。周囲から見えないところで、どんなものなのか試してみたいぜ」
「数日のうちに渓谷がありますぜ。そこなら他の奴らの邪魔は入らないかと」
「そうするか。とりあえずあいつに連絡をしろ。後から変に難癖をつけられても困るからな」
「いいんですかねえ。連絡は必要なときはあっちからしてくると聞かされていますが」
「俺はそういう所は慎重なんだ。だからこそ色々おいしいことにもありつけているんでな」
「わかりやした。機をうかがいます」
「まあ、あの渓谷までまだ数日はあるだろう。あの馬車の他の連中に気付かれるな。もちろん俺たち以外の他のやつらにも知られるなよ」
「わかっていますよ」
エルフィに手綱を代わってもらい馬車の中に移る。
「少しは落ち着きましたか」
「はい大丈夫です」体は少し小さくなったように見えますが、気のせいですかね。
「また来ると言っていましたね」
「ですから私を相手に引き渡せば良かったではありませんか」ああ、その怒っているようなすがるような、そしてちょっとうれしそうな目が私の心を動かしますね。
「でも何もしていないんですよね」
「はい。勘違いされるようなことを何かしたのかもしれませんが」
「ならばこちらに非はありません」
「それにしてもひとり旅なんて。あなたはこれからどちらに行かれるのですか」メアが心配そうに聞いた。
「修行のためのひとり旅ですので、行く先は決めておりません。ですがこんなことに遭ってしまうと少し先行きが不安になりました」
「そうですか。しばらく一緒に旅をしましょうか。ああ言いながらもこの地域を抜けるまでは、襲ってくる可能性がありますから。少なくともここを出るまでは一緒に行きませんか?」
「あんたねえ相手の都合も考えずに」アンジーが怒っています。
「私は別にかまいません。むしろお願いしたいくらいですが、それでいいのですか?」
「私は「旅は道連れ世は情け、情けは人のためならず、旅の仲間は皆家族」というのを座右の銘としておりますので」
「いつからそんな座右の銘を刻むようになったんですか。突っ込みどころ満載です」アンジーが吠えています。
「さきほどからです」私は涼しい顔で言いました。だってあんな顔をされたら助けたくなるでしょう。可愛いですし。
『はあ、やはりそこですか』アンジーさんそう言いましてもねえ
『すけべ~』エルフィにまで言われますか
『まったくじゃ』モーラこれは人助けなのですよ
『それが全てとは思いませんが一部はそう思っていらっしゃいますね』メアさん・・・
『ええご主人様のやさしさですよね』ユーリあなただけですよ
「何から何までありがとうございます。私はパムと申します。見ての通りドワーフです。失礼ですがお名前を」
「今回は「大丈夫」だったようじゃのう」
「本当に。いつもこうなら良いですけど」そこの2人余計な事は言わない。
「私はしがない旅の魔法使いです。DTとは仮の名前です。何と呼ばれましてもかまいません」
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「わしはモーラ。職業子役、末っ子役じゃ」
「私はメア。職業メイドです」
「私はユーリ。職業子役?えーと次女役になるのですか」
「私は~エルフィ~職業は~冒険者で~す。役は長女?」御者台から叫ばないでください。よく聞こえていましたね
「違う飲んだくれ」
「泥酔者でしょう」
「ひどいです~最近飲んでないのに~」だから御者台から叫ぶなと。
「皆さん勝手なことを言っていますね。気にしないでください全部冗談ですから」
「でも、その方が天使様で全員で6人ならば、噂の天使様ではないのですか?」
「ほほう有名になったものじゃのう」
「モーラのせいですからね」
「あの噂は誤解なのですよ。私たちはたまにそういう目で見られてしまいますが、そんな噂の方々とは全然違います。そのことでかなり迷惑しています」
「そうなのですか。魔族の襲来を予知できる天使様と水神様のお使いの天使様の噂があります。どちらか一方の方々なのかと思いました」
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「ずいぶんお詳しいんですね」おおするどいつっこみ。
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「旅をしているといろいろな情報が入って来ますから。特にその噂はどちらもその商隊の人達から聞いたので間違いないですよ」そうなのです。私は間違いなく聞きましたよ。
「そうですか。実は先ほど修行と言いましたが。もちろん修行もして旅しているのですが、その方達にお会いできないかと思っていて、その噂を求めて旅していました。皆さん全員で6人ですし、魔法使いの従者の方だけが男で、残りの方が全員女性だと。さらにはその中にはエルフの方もいらっしゃると言っておりましたので、もしやと思っていましたが違うのですね」
『ずいぶん詳細なことを知っておるな。もしや手配書でも回っておるのか?』
『さすがにそれはないでしょう。でもあまりにも正確すぎますね』
「そうですか。そんなに具体的な噂がでているんですね。確かにそれならうちの家族が間違われてもしかたがありませんね」
「家族ですか」
「血はつながっていませんけれど家族ですねえ」
「うらやましいです」なぜかパムさんのその言葉が私に刺さりました。本心だからですかねえ。
「そうですか?少なくともこの子は、私が村から預けられた孤児ですので」不安そうなアンジーの頭を抱えて撫でる。そうですこれは本当です。大きな嘘は、小さな本当をまぶすと本当に見えてくるものらしいです。
「あとの子達も同様に身寄りがありませんから身を寄せ合って旅をしています」
「そうなのですか。複雑なのですね」
「わしらは気にしておらんがなあ」
「これこれ、そういう話し方はやめてくださいっていったでしょ」私は慌ててモーラを止める。本当にこのロリばばあはやめてください。
「いいじゃろう別に。わしが育ったところではこういう話し方をするもんじゃと教えられていたんじゃから」
「そうなのですか、けっこう老人のようですね」パムさんそこは、素直に頷くのではなくツッコミましょうよ。
「ああ誰に対してもじゃ。年齢も性別も関係なくつこうておる。すまんな勘弁してくれ」確かにこの中では最高年齢ですしねえ。
「今手綱を持っているエルフの方もですか?」
「そうですよ~訳ありで~す」手を振っている。今の話し声聞こえていましたか?耳が良いんですねエルフィ。脳内通信では他人の声まで中継できないですよね。
「そういうこともありますか。皆さん良い関係なのですね。うらやましいです」
「立ち入ったことをお聞きしますが、お一人なのですか?」
「はい一人です。身寄りはありません」
「故郷にもいらっしゃらないのですか?」
「はい天涯孤独です」
「すいません立ち入りすぎました」
「いえ、これまで私のことを聞いてくれる方もおりませんでしたので」
「修行と言っていましたが、どのような修行をしているのですか」
「私たちドワーフは魔力がほとんどありません。ですので、この腕一本で生きていかなければなりません。幸いなことに鍛えれば鍛えるほど体力・筋力はついていきますので、こうやっていろいろなところを回って冒険者まがいのことをしながら旅をしております」
「そうなんですか。これからというところですね」
「はい、道は始まったばかりです」
「ところで、噂の天使様の一行を探しているといっておったが、会ってどうするつもりじゃ」モーラが尋ねる。いや、話題そらしたばっかりでしょう。どうしてそこはスルーしないのですか。
「もちろんお手合わせをお願いしたいと思いまして」
「なるほどのう。じゃがそもそもそんな者達がいないとすればどうする」モーラが嬉しそうに笑って言いました。だから年齢設定を考えてくださいよ。
「どういうことですか」パムさんは身を乗り出してくる。
「噂だけで実際に存在しない。まあ童話の中でてくるような架空の人物の可能性じゃ」嬉しそうにモーラが言った。
「確かに可能性としてそれはありますが、さきほどこの方が、その商隊の方から聞いたと言っていましたが」そう言ってパムさんは私を見る。
「そこじゃ。わしらも実際見たことが無い。その商隊の者は見たと言っているが、それが真実なのかとな。そやつらが噂を流していて、わしらがそれに騙されている可能性じゃよ」なに偉そうにロリババアが講釈をたれますか。
「なるほど。わざと噂を流していると」パムさんもそれに乗らないでください。
「ああ、どんなことも斜めに見なければいかんと思うのじゃ」このガキさらに偉そうにふんぞり返ってますよ。
「モーラあんたねえ。本の読み過ぎ。ばばあしゃべりといい、こんな変な講釈をたれたりと、年齢にそぐわないでしょ。自重しなさい」おお、アンジーのお姉ちゃん発言。なじんでいますね。
「しようがなかろう。そういう環境で育ったのじゃから」環境のせいで逃れるつもりですか。ドラゴンの里のことを環境と言うのはちょっと無理があるでしょう。私が脳内で全部突っ込んでいるのを聞いて、メアやユーリは笑うのを我慢している感じが伝わっています。
「確かにその可能性は否定できませんねえ、実際私たちは見ていないのですから」そりゃあ本人達ですから見られるわけがありません。詭弁ですね。
「メアさんどう思いますか?」私は笑いをごまかしているメアに話題を振る。意趣返しですよ。
「私ですか。結局周囲がどう見るかでしょう。私たちのことを見れば、そういう風に見えても仕方が無いと思います」ナイスフォローです思わずサムズアップしそうになりましたよ
「僕もそう思います。相手がそう思ってしまうと、どう誤解を解こうとしてもそう解釈されてしまいます」ユーリが雄弁です。まあ自分自身の経験でしょうから仕方がないでしょうね。
「私は誤解されていませんよ~エルフはエルフです~そんなすごい人達の仲間だったら逃げ出していますね~」ぼろを出すなっていうのにだしますかこのダメエルフ。
「どんな風にすごいのですか?」ほーら言われた。
「エルフィが答えるまでも無く、魔族の襲来を予知できるのならすごいわなあ」モーラがごまかしにかかる。
「でも今、人達と言いましたよね。何か情報を持っているんですか?」おお、パムさん良いところをつきますね。
「天使と魔法使いで達ですねえ。天使様は何も話さずその魔法使いが語ったとか」
「ああそうなんですか。ひとつ勉強になりました」
「あくまでその商隊の者から聞いた話じゃ」
「でも、水神の使いの方の天使様についてはほとんど情報が無いのです。その魔法使いしか話さなかったようだというのは初めて聞きました。情報として有用です」
『あ』
『ばかもの!おぬしが墓穴を掘ってどうするのじゃ』
『だってエルフィがよけいなことを』
『てへ?』
『てへじゃないですよ』
『そうです。声に反省の色が見えません』メアが脳内で語りました
『だって~この人みるからに悪い人じゃ無いですよ~ばれても大丈夫な気がします~』
『出たな根拠の無い推測が』とはモーラ
『確かにエルフィの勘というか感覚はこれまで外れていませんけどね』アンジーがなぜかそこでそっち側に賛成しています。
『でしょう~そろそろ信じてくださいよ~』
『信じているからと言って、従うかと言えばそういうものではないわ』アンジー、的確にあげてから落としていますねえ。
「皆さん急に黙り込みましたがどうしましたか」
「確かにその情報が私の思い込みで無いのか?と記憶をたどっていました。どうも私が勝手に思い込んでいただけだったみたいです」うむ軌道修正はできそうです。
「ああそうでしたか。皆さん全員黙ってしまわれたのでどうしたのかと思いました」
「たぶん皆さん今の指摘で記憶をたどったのだと思います」
「全員で、ですか?」
「みんな私の記憶があやふやなのを気にしていますから」
「そうなのですか。うらやましいです」
「うらやましい・・か?」
「ええ、そんな風に他人に気にしてもらったことがないので」
「ああそうか。まあ一緒にいればそういうことも多々あるじゃろう。これからしばらくはな」
そしてしばらく馬車は進む。光の加減かチラチラと木漏れ日が入ってくる。アンジーが急に嫌そうな顔をしてそわそわしだし、めずらしく御者台に移った。
しばらくしてアンジーが言った
「そろそろ休憩にしませんか。馬車を止めてください」
「どうしましたか」
「ちょっと酔ったかも」
「大丈夫ですか?最近はなかったのに」
「気晴らしに少し歩いてくれば治ると思うの」
「はいはい。あまり離れないでくださいね。嫌でなければご一緒しますが」
「はあ?で、あなたの目の前でしろと言いますか?」
「ああそっちですか。そうでしたかすいません。それでも気をつけてください。皆さんも散策して気分転換しましょう」
全員が気分転換をしに森の中を散策している。残された2頭の馬は、逃げもせず静かに待っている。ええ賢い子達なので大丈夫です。
「まったく急な連絡はやめて欲しいです」アンジーが周囲を見回ししゃがみながらつぶやく。
「なるほど。彼女はわざとあなたたちに接触して、襲われて私たちの方に逃げたようだと。最初からそれが目的のようだというのね。あなた達の間者では無いのね。それが聞けたのはありがたいわ」
「私たちを襲うの?襲うにしてもケガしないように気をつけてね。させないようにじゃなくてしないようによ。いつも急に襲うから私も気が気では無いのですけどね。ええ?今度はけっこうきついのですか。それでも私も巻き添えにするくらいにやってくださいね。でないと私が間者なのがばれてしまいます。本当に直接の連絡はやめてください。本当に連絡が欲しいのは、彼を暗殺するとかそういうときだけにして欲しいのだから」
アンジーは立ち上がってその場を去り、馬車の方に戻っていく。離れたところから見られていた事にアンジーは気付いていなかった。
アンジーは戻りながらつぶやく「いちいち知らせに来ないで欲しいわ。こうやって連絡を取っている方が怪しまれるのだから。もっとも今回の事でみんなにはバレたとは思うわね。そろそろ決断する時期かしらねえ」
そうしてアンジーが戻ってきた。メアさんもいつの間にかいなくなりいつの間にか戻ってきていた。
Appendix
私は、たまにくだらないことを想像していたりします。ええ本当にくだらないことを。
「今「マジシャンズセブン」とか思いつきましたね。これ以上仲間を増やすとかありえませんから」アンジーが私に怒ったように言った。
「ばれましたか。ちょっと頭を横切りましたねえ。7人なら私を除いて2人ずつ組にできるなあと」
「まったく何を不謹慎なことを考えているんですか。今のところ私は戦力外ですし、メアとモーラとエルフィとユーリ。4人で2組でちょうど良いですよね。それをどうしてあと2人も増やすとか考えますかねえ。そんなことをしたら・・・まあ目立ちすぎますよ」そこで何を言いかけたのでしょうか?
「確かに奴隷商人の面目躍如ですけど、モーラは手を出せないですし、アンジーは戦ったら光になって死んでしまうかもしれません。戦えるのは実際のところ3人なんですよ。ですからねえ。何とかもう2人くらい欲しいかなと思ったのですが、確かに目立ちすぎますよねえ」
「そうです多すぎます。そんなこと考えないでください」
「考えたとしてもそんなことにはなりませんよねえ」
「そうですか~?意外に増えるかも知れませんよ~」エルフィが嬉しそうに笑いながら言った。ああ予言するときの顔ですねえ。実際、本当になるとは思っていませんでしたけれど。
Appendix
「ご主人様、お話ししたい事がございます」
「おや改まって何でしょうか」
「アンジー様がどなたかと会話をしておられました。残念ながら相手はわかりませんでしたが」
「そうですか。馬車に酔ったとか言っていましたが、これまでありませんでしたからねえ」
「はい。ですので少し様子をうかがっていました」
「だからと言ってアンジーに聞いたところで話さないでしょうし。話してくれる事を待つしか無いですね」
「はい。そうは思っていましたが念のためお伝えしました」
「わかりましたメアさん。お願いです。そのことは誰にも言わないでください。今回のパムさんについても事情を抱えているようです。私たちは家族です。隷属をした段階で皆さんはそれぞれ知られたくない事や葛藤を抱えているのはわかっていたことです。ですから本人が話すまで黙っていてください。これは命令ではなくお願いです」
「命令ではなくお願いですか」
「モーラもアンジーもエルフィだってみんな秘密を持っているのですよ。もちろん私だってね」
「ご主人様もですか?」
「いつも感情はダダ漏らしにしています。たぶん皆さんもわかっているのだと思います」
「まだ私にはそういうものを察することができていないのかも知れません」
「ごめんなさいね。メアさんの家族としての経験が積み上がればわかってくるかもしれません」
「わかりました」
私はご主人様にそう言いながらも、納得できていませんでした。そして、アンジー様に対してなぜか悲しいと思ってしまったのです。心の中でカチリと歯車が進んだ気がしました。
続く
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【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/166917524】
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