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第8話 宝石の罠
第8-5話 DT出会って5秒で○○
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○出会いは宴会の始まり
「そこの馬車とまりなさい」
おっとすぐにはとめませんよ。びっくりしながらスピードを落とします。
「くりかえします。その馬車とまりなさい。」私はゆっくりと止めます。先を急いでいるんですが、そうも言っていられませんね。
いつでも発進できるよう手綱を持ったまま答えます。
「急いでいるのですが、何でしょうか。」周囲を見回しながら私は大声で叫びます。
「この先は、行き止まりよ。引き返しなさい。」張りのある女性の声ですねえ。
「この先には、ハイランディスに抜ける道があると聞いていましたが違いますか。そこを通りたいのですが。」
「なぜこの道を通りたいんだ、他に道はあっただろう」今度は男性の声です。野太い感じでは無く割と高い声です。
「急いで届けなければならない荷物がありますので、他の道は盗賊も多いですから。」
「なぜ急ぐのですか。」先ほどの女性のようですが、優しい丁寧な言葉遣いですね。
「それは言えません。」
「何かまずいものでも運んでいるのではありませんか」
「言えません。」
「通るだけなのですか」
「はいそのとおりです。」
「そうですか。それはしかたないですね。」
「そんなやつの言う事を信じるのか?うさんくさい匂いをまき散らしている馬車なのに」
『匂い?』
『ああ、わしの匂いに敏感なのであれば、その者達は獣人達かのう』
『魔族もでしょう?』
『魔族ならわしの匂いですぐわかるわ』
『そうなの?』
『一度もあったことのない低級魔族とか田舎の魔族は知らない者もおるかもしれんが、さすがにドラゴンの匂いを知らん魔族はおるまい。』
『意外と不便ねえ』
『ですね』『です』『はい』
『魔獣とか獣は、気配でその力の差を察するが、魔族や獣人は、そこに知識とか経験とか余計なものが邪魔をするのじゃ。じゃからわしの匂いとかこんなところにいるはずのないドラゴンの匂いを嗅いで、たぶん言い知れない不安や恐怖にあの反応なのじゃと思うわ』
『なるほどねえ、素直じゃないのね』
『ここでわしが出てもいいのじゃがどうする?』
『そうですねえ』
『おなかが空きました~』エルフィの空気の読めない発言きました。採用します。
「おいその馬車のやつ。なんか言えよ。」
「すいませんが、すでに夕暮れですので、ここで野宿しますから、私たちをどうするか決めてください。明日の朝には出発しますから。」
「なんだと」
「あと、一緒に夕食を食べませんか?」
「はあ? 夕食だと?おいどうする?」
「あははははは。いいねえご相伴にあずかろうかい。」丁寧な口調から今度は、男らしい口調に変わりましたね。こちらが素なのでしょうか。
「では、用意しますので。そちらは何人くらいですか?」
「そうだねえ30人分くらい用意できるかい」
「メアさん?」
「それは難しいです。この後少し食事が寂しくなりますが、行程を考慮すれば20人分くらいなら」
「わかりました。」
「20人分くらいなら大丈夫です」
「いいのですか?」団長さんが不安がる。確かに残りの距離を考えれば何かあった時に困るくらいの量です。
「まああきらめましょう。食料でここが越えられるなら。」
「しかたないのう。」
「そんなに出してここから先は大丈夫なのかい?」
「でしたら食材を提供していただければ、それなりにおいしい料理をお出しできると思いますよ。」
「言うねえ。なら食材を用意しようじゃあないか。」
「私たちは今から馬車を降りますので攻撃しないでくださいね。」
「ああ安心してくれ、攻撃しない。」
「姉貴いいのか?」
「おもしろそうじゃないか。捕まえるのはいつでもできるだろう。」
「そうなんだけどよ」
「そちらもよろしいですか?」
「ああ今姿を見せるよ。」
私が御者台から降りると、女性らしきフォルムの人が森の中から姿を現す。おや良い毛並みですねえ。ああ獣人さんですものねえ。前がはだけているのがちょっとセクシーですねえ。
『最低』
『最低です』
『まったくです』
『え~はだけて良いならわたしも~』
『おぬしはよけいじゃ』
「はじめまして。わたくし旅の魔法使いです。」ぺこりとお辞儀をする。
「はじめまして。私は・・・そうだね、この辺の獣人をまとめる者さ。」後ろの部下達を見てからそう言った。
「よろしくお願いします。」
「見るからに普通の人間だねえ。まあいいや、食材を渡そうじゃないかい。誰が料理するんだい。」
「私が」シュッと、瞬間移動のように私のそばに現れるメアさん。そういう登場の仕方は挑発になりませんか。
「なるほど。それなりの力を持った者が乗っているから安心ということかい。」なぜかウンウンと頷いています。
「うちの家族ですので、そういう言い方はちょっと。」
「ああ家族なのかい。それはすまない。ではこちらも」そう言って手を上げる。荷物を持った獣人がそちらもシュッと現れ荷物を持ったままメアに近づく。
「こいつと一緒に料理をして欲しい。いいかな?」
「かまいませんよ。お願いします。」メアはお辞儀をしてそう答えた。
「警戒しなくていいのかい?」
「だって、最初から疑っていたら切りが無いじゃないですか」
「確かにそうだねえ。まあ、あんたのそういうところが気に入ったよ。とりあえず今度はこちらのメンバーを紹介するよ。」
「こちらも全員降りますね。」
「ああそうしてくれ。」
そうしてお互いの紹介をする。こちらは、全員。あちらは獣人と人間が混じっている中の主だった3人が紹介された。そして馬車の横に広がる草原に移動して、メアとユーリとエルフィは、かまどの準備を始める。
「料理ができるまでゆっくりしようか。」その獣人さんはその場であぐらをかく。
「そうですね。ちなみにですが、こちらにはお客様も乗せていますので、お手柔らかにお願いします。」そう言って私の隣で挙動不審になっている団長さんと一緒に反対側に座る。
「そうかい。お客というのはその男の事だね」
「はい。」
「わかった。ではこの辺に陣取るか」
そう言って、その道の横に座る。
私もその向かい側に座り、数人が近づいてくる。
そんな中、モーラが先ほど声を出していた男の獣人に近づいて行く。
「お、お前は・・」その獣人は、モーラが近づいて、やっとその正体に気付いたのか急にびびりだした。
「ねえお願いがあるのだけれど。」ドンとオーラをまとうモーラ。周囲の獣人も気付いたようだ。後ろにいた人間達は、その様子を見て不思議そうにしている。
「な、なんでしょうか。」その獣人は直立不動になり小さいモーラを見るために首だけ下に下げている。
「この人達に正体ばらしたら食い殺す。」ああ、すごんでいますねモーラ。ばれたら困るのは団長さんにだけでしょう?
「はい!!わかりました。」尻尾がまたの下に隠れるくらい萎縮したその獣人さんは、しゅんとなってしまいました。
そうして、食事が始まりました。そして党首会談です。
「この旅行のメンバーは一体なんなんだい。」
「ああ、匂いでわかりますよね。実は、あの年長の男性の方以外は私の家族です。ドラゴンに天使、エルフにホムンクルス、そして普通の人間の女の子です。」
「おまえまさか。噂になっている奴隷商人なのか。」さっきまでしゅんとしていた獣人さんが驚いています。
「こんなところにまで知られていますか。」やれやれ、噂は千里を走りますねえ。
「いや噂ではないよ。うちの領主から忠告されただけさ。そいつらには手を出すなとね。仮にここを通ったら黙って通せと言われたよ。さもないと何をされるかわからないからとね。そうかい。聞いていたイメージとずいぶん違うねえ。実際会ってみると、決してそうはみえないんだが。」女の獣人さんは私をしげしげと見た後、周囲にいるモーラやアンジーを見て不思議そうにしている。
「奴隷商人と言われるのは心外ですが、まあ、手を出さないように言われているのならそれはありがたい話です。」
「こちらも騒動は避けたいからねえ。」ニヤニヤ笑いながら女性の方は言った。
「それは、ここがいろいろな種族のるつぼだからですか?」
「よく知っているねえ。どこから聞いたんだい?」
「人間が一緒にいるのが見えましたから、もしかしたら他の種族の方々もいるのかなと。」
「さすがにエルフはいないけどね、それ以上は聞かない方が無難だよ。」
「ええ、深入りするつもりもありません。ただ静かに通してもらえれば。」
「ああそうだね。そうしてもらうと助かる。」
そうやって食事の後、私達はその場で眠って、彼女らは森に入っていった。夜は更けていき、私の知らないところでは、出会いがあったらしいのです。
夜が明けて、出発の準備をしていると、昨日の獣人さん達が食事のお礼を言いに来て、挨拶をしてそこから出発しました。
「あそこは魔族も一緒に暮らしているみたいだのう」
「見ましたか?」
「ああ昨日の夜、アンジーとユーリが見かけたようじゃ。」
「そうなんですか?」
「たき火が気になって見に来て、迷子になってしまった魔族がいたようじゃ」
「そうですか。迷子ですか?どんな人でした?」
「迷子というくらいじゃから子どもじゃ。親が探しに来て連れて行ったようじゃ」
「そうですか。よかったですね。」
「仲の良さそうな親子じゃと言っていたなあ。」
「良い集落なんですねえ。」
「そうじゃな」
そこを越えてからは、本当にスムーズに到着しました。ええ、魔獣に襲われることもなく。
「正直、拍子抜けですね。」団長さんはほっとしているようです。確かにそれまでは、モーラの匂いを消していたので、割と小物の魔獣に遭遇していましたから。
「何か獣人の方々が護衛してくれていたみたいですよ。おいしい料理のお礼だとか言っていたみたいです。」
メアさんが料理のお礼に何かと言われて提案したそうです。
「それはお礼を言わねばなりませんな。しかしさすがに早く着きすぎましたなあ。」城塞都市の見える丘の中腹に私達は到着してそこから街を見ています。
「無事につけて良かったのですが、早く着きすぎてしまいました。これは合流地点の近くで数日は野宿をしなければなりませんね。」
森の中に馬車を止めて、野宿の用意をしはじめる。用意をしながら団長さんが、
「そういえば、獣人にあったのは私も初めてでしたのでちょっとびっくりしてしまいました。人嫌いと聞いていましたので、問答無用で殺されてしまうかとちょっと恐かったですよ。もっとこう好戦的で攻撃的なのかと思っていましたがいい人達でしたね。」感心したように団長さんは言った。
「団長さんが初めてとは。もちろん私も始めてお会いしましたが、意外と友好的で安心しました。」
「さて、野宿の準備は整いましたが、食料はどうしますか。」団長さんが心配しています。そうですほとんどの食料は、獣人達との会食に使ってしまい何も残っていないのです。
「メアさん。城塞の中に食料を調達に・・・」と、私が言ったときには、メアさんは背中にリュックを背負っていました。しかも膨らんでいます。
「行って参りました。」
「は、早いですね。」
「わかっていましたから先に出発しておりました。」
「すごいですね。ああそういえばメアさんは。ホムンクルスでしたか。とてもそうはみえませんねえ」
「頼りになります。」
そうして、野宿が始まりました。あと数日ですが何とかなるでしょう。
その夜は、団長さんと二人きりになります。交代で火の番をしますので、当然火の回りで寝ています。寝ていた団長さんが起き上がり私の前に座りました。
「本当のところを教えて欲しいのです。あなたは何者で、あなた達は一体どういう関係なんですか。モーラさんなんかは、獣人のところに近づいて行って怯えさせていたようにも見えましたが」
「ええまあ、説明するには難しいです。」
「あなたは魔法使いなんですよね。奴隷商人や薬師や武術家ではなく。」
「そう思われますか?」
「はい。ユーリは自分の意志であなたに隷属していると言っておりましたし。」
「・・・」
「あと天使様ですが、本当に伝説の天使様ではないんですか」
「伝説とは?」
「私の家には災害などの天変地異の時に天より現れた神を手伝う羽の生えた子どもが降り立ったという言い伝えがあります。」
「そうですか。確かにアンジーの背中には小さいですが羽がありますね。」
「そうなんですか。そして未来が見える。」
「いえ、予知とかではありません。獣の気配を感じるだけです。」
「同じ事です。」
「そうでしょうか。」
「さらに薬屋の魔法使いのところのホムンクルスですよね。どうして一緒に暮らすようになったんですか。」
「ええと」
「そしてエルフのかたが突然一緒に暮らし始めました。何があったのですか」
「はあ」
「最後にモーラさんですが、子どもに見えてたぶんかなりの高齢とみました。」
「なぜですか?」
「これまでの街の噂を聞いても賢い子だ、先見の明があるなど。あまりにも知識豊富です。少なくともあの年齢で話す内容ではないと皆が言っています。」
「そうですか。」
「どうでしょうか。その辺の事情を教えてもらえませんか?」そのように詰め寄られて私も困ってしまいました。
「もうよいじゃろう。その者は他言せんと思うぞ」モーラが近づいてくる。
「はい誰にも話したりしません」団長さんの言葉を聞いて、私がまだ戸惑っていると。
「おぬしは領主や商人に知られるのが不安なのであろう。だがその者の頭の中にはユーリを託して良かったのか不安だと叫んでおる。安心させてやれ。」
「そうですか。モーラがそう言うのならいいでしょう。」そうして私は彼にこれまでの事を説明した。あくまで彼女たちとの関係を簡単にですけど。
「なるほどそういうことですか。わかりました。あなたも苦労されていますね。」
「苦労と言うほどではありません。みなさんとは、楽しく暮らさせていただいていますので。」
「腑に落ちました。特に獣人達とのやりとりであれだけ堂々と立ち振る舞いされていたのは、そういうバックボーンがあってのことなのですね。」ああ、そこですか。
「そういう訳でな。団長よ。他言無用にな。」
「はいモーラ様。先日は抱き上げた際に抱きしめていただいてありがとうございました。誇りに思います。」
「それほどのことではない。これからもわしらをよろしくな。」
「はい」
「アンジー教だけでなくモーラ教にも帰依しましたか。ブレすぎですよ。まあアンジー教は廃止となりましたので。」そう言いながらアンジーが現れる。
「いえどちら様も大事にさせてください。」
「とりあえず少しだけ後ろめたさがなくなりましたね。」
そうして数日の後、商人さん達と合流しました。
さすがにかなり疲れています。
「大分お疲れのようですが大丈夫ですか。」
「ええ何とか。この馬車に献上品がないと言うのに度重なる襲撃がありまして。ご忠告どおり別ルートで輸送してよかったです。」
「やはり王国側からですか。」
「あくまで噂を流していた程度らしいのですが。ですので国王が直接関与していたかどうかまではわかりません。」
「確かに否定されればそれまでですよね。」
○王様に謁見
さて、商人さんと一緒に城内に入り、控え室に待たされ、商人さんと入れ違いに国王の前に連れてこられました。 私とアンジーだけで行こうと思ったのですが全員に反対されました。残りのグループが人質にされてしまうのを恐れたからです。人質を取られ時の私の行動を懸念した訳では無いと思いたいです。
私達は、以前来た謁見の間にひざまずかされて待たされていました。程なく人が入ってくる音が聞こえて
「おもてをあげよ」私達は、以前聞いた政務官の声に顔を上げる。
「ほう、こうしてみると確かに似ているな」王様は私達を見た後、王妃を見てからこう言った。
「何のことでしょうか。」
「ここにあった壺を消した者達じゃ」
「何をおっしゃっているのかわかりません」
「しらを切るか。お主らが水神の言葉などとたばかってわしの壺を盗んだのであろう。」
「何をおっしゃっているのかわかりません。私どもは、街の領主の依頼で宝物をここに運んだだけです。この街に来たこともありませんし、その上盗むことなどできません。そもそも盗んだとしたら、壺は一体どこに持っているのでしょうか。」
「確かに、水神の洞窟に壺は戻っていたがな。」
「そうなんですか。であれば、なおのこと水神様の御技ではないのでしょうか。」
「にしてもお主らはその者達に似すぎている。」
「私どもの勝手な推察ですが、水神様は私たちの姿をお使いになっただけだと思います。」
「なぜお主らの姿を使う。どうしてじゃ。」
「わかりません。ここから遠い彼の地にある者の姿なら使っても問題が出ないと思ったのではないでしょうか。」
「むしろお主達が水神をかたったのではないか。そして、水神のたたりをかたり盗んだのではないのか。」
「恐れ多くも国王様。私たちがこの国まではるばるやってきて、それをして何の利益がありましょうか。疑われる気持ちはもっともですが、壺を得るわけでもなく、さらにわざわざここまで宝石の輸送の護衛をしてくることに何のメリットがありますでしょうか。」
「確かにそれは理屈が通っておる。しかしな、そやつらは理屈に合わないことを成し遂げておるのでな。そんなことができるのなら。遠い土地からここまで瞬時に来て壺を奪い、かの洞窟に置きに戻ることさえ可能であろう。」
「国王様。できないことの証明は私にはできません。」私は残念そうに言ってみた。
「なるほどな。しかし、その話し方と言い、似てるなあ。こやつらが盗んだということで終わらせようかのう」
私はひとつため息をついてからこう言った。
「水神様は壺を取り返すと宣言してその壺は間違いなく戻っているのですね?」
「ああ、確かにそうじゃ」
「その時に何か言いそうなものですが、何か言われたりしていませんでしょうか。」
「ああ、その者達に何かしたら災いが起こると言っておったな。」
「ならば、今起きるかもしれませんよ。」
「なんじゃと」
私は、魔法を使い、私達のコピーを隣に作った。もちろんフードをかぶって顔の見えないようにしたコピーです。それを作るためにわざわざローブとかもう一度買ったので手痛い出費でした。作り方は、前に壺を作った時のように霧を作り姿を投影するやり方です。今回は、その姿を私の着ていた服に重ねてコピーを取り、それを保存しておいてこの場にあわらしました。さらに私は、水神様の声をまねて
「国王よまだわからんのか。わしは警告した。しかし従わなかった。これは国王の罪。それを止められない王妃や臣下の罪。ここに今一度の警告を行う。」
そうして私は、モーラに頼んで窓にヒビが入るくらい城を揺らしてもらってからコピーを消した。私達のコピーは一言も発する事なく土くれに還った。
国王は、椅子からずり落ち、揺れが収まる前に土下座を始めました。
「すいませんでした。すいませんでした。」何やらブツブツ言っている。今更ですねえ。どうせすぐに忘れるんでしょうけど。
「やはり水神様はいらっしゃるのですねえ。では、私達はこれでおいとまさせていただきます。」
「この後、わしらはどうなるんんじゃ。」
「水神様は何もされないのではないでしょうか。私たちを守ってはくれましたが、この城を壊す訳でもなく、警告をされただけですので。ただし今後何も国王様がされなければ。よろしいでしょうか?」
そうして、なんとか説得をして解放された。
私は、控えの間で待っていた商人さん達と合流して、城を出ました。
どうやらこれで、この一件が完結したようです。それにしてもカンウさんはどこにいますか。ちょっとは顔を出してくださいよ。そう思いながら城からの道行きモーラさんに連絡が入りました。
「そうもいかないのよ。ドラゴンの里で騒ぎが起こってそちらに行っていたのよ。行ってみたらたいしたことでは無くて無駄足を踏まされたわ。それって私をこの件から遠ざけるためだったみたいよ。」
「だそうじゃ。」
「そういうことですか。しかしなぜ?」
「今回のもどうやら魔族がらみみたいなのだけれど、証拠がつかめないのよ。」
なるほど、何もわからなかったという事がわかりました。
○帰り道
そして帰り道です。商人さんとその一行と一緒ですから魔獣や獣に襲われないとなりません。
傭兵団の団長さんは、あちらの馬車に乗りました。
「帰りの道も多少は襲われないといけませんね。」
「わしは完全隔離じゃな。」
「アンジーは、襲われても静かにしていてくださいね。力が無くなったことにしますから。」
「多少は知らせないとかえって怪しまれるぞ。わざと隠していると思われないか?」
「エルフィとメアさんに頼りましょう。」
「そうじゃな。その方がよいな。」翌日には、アンジーが戻ってくる。
「お役御免になったわよ。でもちょっと複雑な気分ね。お前役に立ってないという冷たい目で傭兵団の人から見られだしたから。そういうところは彼らはシビアよね。」
「きっとまたそういう状況になるかもしれませんから。」
「それは、それでまずい事態じゃがな」
そうして行きの倍の時間を使ってこの街に帰ってきました。それでもかなり時間が短縮されているようです。
街の城壁が見えてきた時には、御者台のエルフィから見えましたよ~という声がかかり、みんなで御者台に集まりました。
「もどってきましたねえ」
「もうなにもないですよね。」
「さすがにもうないじゃろう。」
「そう願っています~」
Appendix
「初めて人間に会ったの。私を見ても怖がらないし、迷子の私に優しくしてくれたよ」
「でもね、優しい人たちばかりじゃないのよ気をつけてね。」
「はいお母様。」
「私も会ってみたかったな。」
「勘弁してください。ああいうのと関わりにあったら里が目を付けられます。」
「そうだったなあ。でも様子をうかがっていたけど面白そうな方達だったよ」
「私には、買ったまま放置してさびたナイフに見えたがねえ。」
「なんだよそのさびたナイフってどう言う意味だい」
「本当は切れ味が良いナイフなんだが使わないから錆びているけど一度使ったら切れるようになるってことさ。まあ眠れるドラゴンみたいな感じだねえ。」
「本物のドラゴンも一緒にいたんだぜ。そっちよりも怖いっていうのか。」
「ドラゴンを隷属させているんだろう?そっちよりも強そうじゃないか」
Appendix
「さすがに震えが来たぞ」
「城が揺れましたから肝が冷えましたねえ」
「違うわ、あの男よりも天使よりも連れの子どもの眼光にわしは恐れを抱いたぞ。ずっと睨まれておったから、そっちの方が恐かった。あれは一体なんなのじゃ。」
「確かにあれは不味いかもしれません。今後は手を出さない方がよろしいかと」
「あやつらは監視しなくてはならんのではないか」
「あそこの領主は私達の王国とも貿易関係にあります。定期的に情報は渡してくれるでしょう。心配するほどの事ではありません。」
「そうかそれなら良いが、余計な事をしてしまったものじゃ」
続く
「そこの馬車とまりなさい」
おっとすぐにはとめませんよ。びっくりしながらスピードを落とします。
「くりかえします。その馬車とまりなさい。」私はゆっくりと止めます。先を急いでいるんですが、そうも言っていられませんね。
いつでも発進できるよう手綱を持ったまま答えます。
「急いでいるのですが、何でしょうか。」周囲を見回しながら私は大声で叫びます。
「この先は、行き止まりよ。引き返しなさい。」張りのある女性の声ですねえ。
「この先には、ハイランディスに抜ける道があると聞いていましたが違いますか。そこを通りたいのですが。」
「なぜこの道を通りたいんだ、他に道はあっただろう」今度は男性の声です。野太い感じでは無く割と高い声です。
「急いで届けなければならない荷物がありますので、他の道は盗賊も多いですから。」
「なぜ急ぐのですか。」先ほどの女性のようですが、優しい丁寧な言葉遣いですね。
「それは言えません。」
「何かまずいものでも運んでいるのではありませんか」
「言えません。」
「通るだけなのですか」
「はいそのとおりです。」
「そうですか。それはしかたないですね。」
「そんなやつの言う事を信じるのか?うさんくさい匂いをまき散らしている馬車なのに」
『匂い?』
『ああ、わしの匂いに敏感なのであれば、その者達は獣人達かのう』
『魔族もでしょう?』
『魔族ならわしの匂いですぐわかるわ』
『そうなの?』
『一度もあったことのない低級魔族とか田舎の魔族は知らない者もおるかもしれんが、さすがにドラゴンの匂いを知らん魔族はおるまい。』
『意外と不便ねえ』
『ですね』『です』『はい』
『魔獣とか獣は、気配でその力の差を察するが、魔族や獣人は、そこに知識とか経験とか余計なものが邪魔をするのじゃ。じゃからわしの匂いとかこんなところにいるはずのないドラゴンの匂いを嗅いで、たぶん言い知れない不安や恐怖にあの反応なのじゃと思うわ』
『なるほどねえ、素直じゃないのね』
『ここでわしが出てもいいのじゃがどうする?』
『そうですねえ』
『おなかが空きました~』エルフィの空気の読めない発言きました。採用します。
「おいその馬車のやつ。なんか言えよ。」
「すいませんが、すでに夕暮れですので、ここで野宿しますから、私たちをどうするか決めてください。明日の朝には出発しますから。」
「なんだと」
「あと、一緒に夕食を食べませんか?」
「はあ? 夕食だと?おいどうする?」
「あははははは。いいねえご相伴にあずかろうかい。」丁寧な口調から今度は、男らしい口調に変わりましたね。こちらが素なのでしょうか。
「では、用意しますので。そちらは何人くらいですか?」
「そうだねえ30人分くらい用意できるかい」
「メアさん?」
「それは難しいです。この後少し食事が寂しくなりますが、行程を考慮すれば20人分くらいなら」
「わかりました。」
「20人分くらいなら大丈夫です」
「いいのですか?」団長さんが不安がる。確かに残りの距離を考えれば何かあった時に困るくらいの量です。
「まああきらめましょう。食料でここが越えられるなら。」
「しかたないのう。」
「そんなに出してここから先は大丈夫なのかい?」
「でしたら食材を提供していただければ、それなりにおいしい料理をお出しできると思いますよ。」
「言うねえ。なら食材を用意しようじゃあないか。」
「私たちは今から馬車を降りますので攻撃しないでくださいね。」
「ああ安心してくれ、攻撃しない。」
「姉貴いいのか?」
「おもしろそうじゃないか。捕まえるのはいつでもできるだろう。」
「そうなんだけどよ」
「そちらもよろしいですか?」
「ああ今姿を見せるよ。」
私が御者台から降りると、女性らしきフォルムの人が森の中から姿を現す。おや良い毛並みですねえ。ああ獣人さんですものねえ。前がはだけているのがちょっとセクシーですねえ。
『最低』
『最低です』
『まったくです』
『え~はだけて良いならわたしも~』
『おぬしはよけいじゃ』
「はじめまして。わたくし旅の魔法使いです。」ぺこりとお辞儀をする。
「はじめまして。私は・・・そうだね、この辺の獣人をまとめる者さ。」後ろの部下達を見てからそう言った。
「よろしくお願いします。」
「見るからに普通の人間だねえ。まあいいや、食材を渡そうじゃないかい。誰が料理するんだい。」
「私が」シュッと、瞬間移動のように私のそばに現れるメアさん。そういう登場の仕方は挑発になりませんか。
「なるほど。それなりの力を持った者が乗っているから安心ということかい。」なぜかウンウンと頷いています。
「うちの家族ですので、そういう言い方はちょっと。」
「ああ家族なのかい。それはすまない。ではこちらも」そう言って手を上げる。荷物を持った獣人がそちらもシュッと現れ荷物を持ったままメアに近づく。
「こいつと一緒に料理をして欲しい。いいかな?」
「かまいませんよ。お願いします。」メアはお辞儀をしてそう答えた。
「警戒しなくていいのかい?」
「だって、最初から疑っていたら切りが無いじゃないですか」
「確かにそうだねえ。まあ、あんたのそういうところが気に入ったよ。とりあえず今度はこちらのメンバーを紹介するよ。」
「こちらも全員降りますね。」
「ああそうしてくれ。」
そうしてお互いの紹介をする。こちらは、全員。あちらは獣人と人間が混じっている中の主だった3人が紹介された。そして馬車の横に広がる草原に移動して、メアとユーリとエルフィは、かまどの準備を始める。
「料理ができるまでゆっくりしようか。」その獣人さんはその場であぐらをかく。
「そうですね。ちなみにですが、こちらにはお客様も乗せていますので、お手柔らかにお願いします。」そう言って私の隣で挙動不審になっている団長さんと一緒に反対側に座る。
「そうかい。お客というのはその男の事だね」
「はい。」
「わかった。ではこの辺に陣取るか」
そう言って、その道の横に座る。
私もその向かい側に座り、数人が近づいてくる。
そんな中、モーラが先ほど声を出していた男の獣人に近づいて行く。
「お、お前は・・」その獣人は、モーラが近づいて、やっとその正体に気付いたのか急にびびりだした。
「ねえお願いがあるのだけれど。」ドンとオーラをまとうモーラ。周囲の獣人も気付いたようだ。後ろにいた人間達は、その様子を見て不思議そうにしている。
「な、なんでしょうか。」その獣人は直立不動になり小さいモーラを見るために首だけ下に下げている。
「この人達に正体ばらしたら食い殺す。」ああ、すごんでいますねモーラ。ばれたら困るのは団長さんにだけでしょう?
「はい!!わかりました。」尻尾がまたの下に隠れるくらい萎縮したその獣人さんは、しゅんとなってしまいました。
そうして、食事が始まりました。そして党首会談です。
「この旅行のメンバーは一体なんなんだい。」
「ああ、匂いでわかりますよね。実は、あの年長の男性の方以外は私の家族です。ドラゴンに天使、エルフにホムンクルス、そして普通の人間の女の子です。」
「おまえまさか。噂になっている奴隷商人なのか。」さっきまでしゅんとしていた獣人さんが驚いています。
「こんなところにまで知られていますか。」やれやれ、噂は千里を走りますねえ。
「いや噂ではないよ。うちの領主から忠告されただけさ。そいつらには手を出すなとね。仮にここを通ったら黙って通せと言われたよ。さもないと何をされるかわからないからとね。そうかい。聞いていたイメージとずいぶん違うねえ。実際会ってみると、決してそうはみえないんだが。」女の獣人さんは私をしげしげと見た後、周囲にいるモーラやアンジーを見て不思議そうにしている。
「奴隷商人と言われるのは心外ですが、まあ、手を出さないように言われているのならそれはありがたい話です。」
「こちらも騒動は避けたいからねえ。」ニヤニヤ笑いながら女性の方は言った。
「それは、ここがいろいろな種族のるつぼだからですか?」
「よく知っているねえ。どこから聞いたんだい?」
「人間が一緒にいるのが見えましたから、もしかしたら他の種族の方々もいるのかなと。」
「さすがにエルフはいないけどね、それ以上は聞かない方が無難だよ。」
「ええ、深入りするつもりもありません。ただ静かに通してもらえれば。」
「ああそうだね。そうしてもらうと助かる。」
そうやって食事の後、私達はその場で眠って、彼女らは森に入っていった。夜は更けていき、私の知らないところでは、出会いがあったらしいのです。
夜が明けて、出発の準備をしていると、昨日の獣人さん達が食事のお礼を言いに来て、挨拶をしてそこから出発しました。
「あそこは魔族も一緒に暮らしているみたいだのう」
「見ましたか?」
「ああ昨日の夜、アンジーとユーリが見かけたようじゃ。」
「そうなんですか?」
「たき火が気になって見に来て、迷子になってしまった魔族がいたようじゃ」
「そうですか。迷子ですか?どんな人でした?」
「迷子というくらいじゃから子どもじゃ。親が探しに来て連れて行ったようじゃ」
「そうですか。よかったですね。」
「仲の良さそうな親子じゃと言っていたなあ。」
「良い集落なんですねえ。」
「そうじゃな」
そこを越えてからは、本当にスムーズに到着しました。ええ、魔獣に襲われることもなく。
「正直、拍子抜けですね。」団長さんはほっとしているようです。確かにそれまでは、モーラの匂いを消していたので、割と小物の魔獣に遭遇していましたから。
「何か獣人の方々が護衛してくれていたみたいですよ。おいしい料理のお礼だとか言っていたみたいです。」
メアさんが料理のお礼に何かと言われて提案したそうです。
「それはお礼を言わねばなりませんな。しかしさすがに早く着きすぎましたなあ。」城塞都市の見える丘の中腹に私達は到着してそこから街を見ています。
「無事につけて良かったのですが、早く着きすぎてしまいました。これは合流地点の近くで数日は野宿をしなければなりませんね。」
森の中に馬車を止めて、野宿の用意をしはじめる。用意をしながら団長さんが、
「そういえば、獣人にあったのは私も初めてでしたのでちょっとびっくりしてしまいました。人嫌いと聞いていましたので、問答無用で殺されてしまうかとちょっと恐かったですよ。もっとこう好戦的で攻撃的なのかと思っていましたがいい人達でしたね。」感心したように団長さんは言った。
「団長さんが初めてとは。もちろん私も始めてお会いしましたが、意外と友好的で安心しました。」
「さて、野宿の準備は整いましたが、食料はどうしますか。」団長さんが心配しています。そうですほとんどの食料は、獣人達との会食に使ってしまい何も残っていないのです。
「メアさん。城塞の中に食料を調達に・・・」と、私が言ったときには、メアさんは背中にリュックを背負っていました。しかも膨らんでいます。
「行って参りました。」
「は、早いですね。」
「わかっていましたから先に出発しておりました。」
「すごいですね。ああそういえばメアさんは。ホムンクルスでしたか。とてもそうはみえませんねえ」
「頼りになります。」
そうして、野宿が始まりました。あと数日ですが何とかなるでしょう。
その夜は、団長さんと二人きりになります。交代で火の番をしますので、当然火の回りで寝ています。寝ていた団長さんが起き上がり私の前に座りました。
「本当のところを教えて欲しいのです。あなたは何者で、あなた達は一体どういう関係なんですか。モーラさんなんかは、獣人のところに近づいて行って怯えさせていたようにも見えましたが」
「ええまあ、説明するには難しいです。」
「あなたは魔法使いなんですよね。奴隷商人や薬師や武術家ではなく。」
「そう思われますか?」
「はい。ユーリは自分の意志であなたに隷属していると言っておりましたし。」
「・・・」
「あと天使様ですが、本当に伝説の天使様ではないんですか」
「伝説とは?」
「私の家には災害などの天変地異の時に天より現れた神を手伝う羽の生えた子どもが降り立ったという言い伝えがあります。」
「そうですか。確かにアンジーの背中には小さいですが羽がありますね。」
「そうなんですか。そして未来が見える。」
「いえ、予知とかではありません。獣の気配を感じるだけです。」
「同じ事です。」
「そうでしょうか。」
「さらに薬屋の魔法使いのところのホムンクルスですよね。どうして一緒に暮らすようになったんですか。」
「ええと」
「そしてエルフのかたが突然一緒に暮らし始めました。何があったのですか」
「はあ」
「最後にモーラさんですが、子どもに見えてたぶんかなりの高齢とみました。」
「なぜですか?」
「これまでの街の噂を聞いても賢い子だ、先見の明があるなど。あまりにも知識豊富です。少なくともあの年齢で話す内容ではないと皆が言っています。」
「そうですか。」
「どうでしょうか。その辺の事情を教えてもらえませんか?」そのように詰め寄られて私も困ってしまいました。
「もうよいじゃろう。その者は他言せんと思うぞ」モーラが近づいてくる。
「はい誰にも話したりしません」団長さんの言葉を聞いて、私がまだ戸惑っていると。
「おぬしは領主や商人に知られるのが不安なのであろう。だがその者の頭の中にはユーリを託して良かったのか不安だと叫んでおる。安心させてやれ。」
「そうですか。モーラがそう言うのならいいでしょう。」そうして私は彼にこれまでの事を説明した。あくまで彼女たちとの関係を簡単にですけど。
「なるほどそういうことですか。わかりました。あなたも苦労されていますね。」
「苦労と言うほどではありません。みなさんとは、楽しく暮らさせていただいていますので。」
「腑に落ちました。特に獣人達とのやりとりであれだけ堂々と立ち振る舞いされていたのは、そういうバックボーンがあってのことなのですね。」ああ、そこですか。
「そういう訳でな。団長よ。他言無用にな。」
「はいモーラ様。先日は抱き上げた際に抱きしめていただいてありがとうございました。誇りに思います。」
「それほどのことではない。これからもわしらをよろしくな。」
「はい」
「アンジー教だけでなくモーラ教にも帰依しましたか。ブレすぎですよ。まあアンジー教は廃止となりましたので。」そう言いながらアンジーが現れる。
「いえどちら様も大事にさせてください。」
「とりあえず少しだけ後ろめたさがなくなりましたね。」
そうして数日の後、商人さん達と合流しました。
さすがにかなり疲れています。
「大分お疲れのようですが大丈夫ですか。」
「ええ何とか。この馬車に献上品がないと言うのに度重なる襲撃がありまして。ご忠告どおり別ルートで輸送してよかったです。」
「やはり王国側からですか。」
「あくまで噂を流していた程度らしいのですが。ですので国王が直接関与していたかどうかまではわかりません。」
「確かに否定されればそれまでですよね。」
○王様に謁見
さて、商人さんと一緒に城内に入り、控え室に待たされ、商人さんと入れ違いに国王の前に連れてこられました。 私とアンジーだけで行こうと思ったのですが全員に反対されました。残りのグループが人質にされてしまうのを恐れたからです。人質を取られ時の私の行動を懸念した訳では無いと思いたいです。
私達は、以前来た謁見の間にひざまずかされて待たされていました。程なく人が入ってくる音が聞こえて
「おもてをあげよ」私達は、以前聞いた政務官の声に顔を上げる。
「ほう、こうしてみると確かに似ているな」王様は私達を見た後、王妃を見てからこう言った。
「何のことでしょうか。」
「ここにあった壺を消した者達じゃ」
「何をおっしゃっているのかわかりません」
「しらを切るか。お主らが水神の言葉などとたばかってわしの壺を盗んだのであろう。」
「何をおっしゃっているのかわかりません。私どもは、街の領主の依頼で宝物をここに運んだだけです。この街に来たこともありませんし、その上盗むことなどできません。そもそも盗んだとしたら、壺は一体どこに持っているのでしょうか。」
「確かに、水神の洞窟に壺は戻っていたがな。」
「そうなんですか。であれば、なおのこと水神様の御技ではないのでしょうか。」
「にしてもお主らはその者達に似すぎている。」
「私どもの勝手な推察ですが、水神様は私たちの姿をお使いになっただけだと思います。」
「なぜお主らの姿を使う。どうしてじゃ。」
「わかりません。ここから遠い彼の地にある者の姿なら使っても問題が出ないと思ったのではないでしょうか。」
「むしろお主達が水神をかたったのではないか。そして、水神のたたりをかたり盗んだのではないのか。」
「恐れ多くも国王様。私たちがこの国まではるばるやってきて、それをして何の利益がありましょうか。疑われる気持ちはもっともですが、壺を得るわけでもなく、さらにわざわざここまで宝石の輸送の護衛をしてくることに何のメリットがありますでしょうか。」
「確かにそれは理屈が通っておる。しかしな、そやつらは理屈に合わないことを成し遂げておるのでな。そんなことができるのなら。遠い土地からここまで瞬時に来て壺を奪い、かの洞窟に置きに戻ることさえ可能であろう。」
「国王様。できないことの証明は私にはできません。」私は残念そうに言ってみた。
「なるほどな。しかし、その話し方と言い、似てるなあ。こやつらが盗んだということで終わらせようかのう」
私はひとつため息をついてからこう言った。
「水神様は壺を取り返すと宣言してその壺は間違いなく戻っているのですね?」
「ああ、確かにそうじゃ」
「その時に何か言いそうなものですが、何か言われたりしていませんでしょうか。」
「ああ、その者達に何かしたら災いが起こると言っておったな。」
「ならば、今起きるかもしれませんよ。」
「なんじゃと」
私は、魔法を使い、私達のコピーを隣に作った。もちろんフードをかぶって顔の見えないようにしたコピーです。それを作るためにわざわざローブとかもう一度買ったので手痛い出費でした。作り方は、前に壺を作った時のように霧を作り姿を投影するやり方です。今回は、その姿を私の着ていた服に重ねてコピーを取り、それを保存しておいてこの場にあわらしました。さらに私は、水神様の声をまねて
「国王よまだわからんのか。わしは警告した。しかし従わなかった。これは国王の罪。それを止められない王妃や臣下の罪。ここに今一度の警告を行う。」
そうして私は、モーラに頼んで窓にヒビが入るくらい城を揺らしてもらってからコピーを消した。私達のコピーは一言も発する事なく土くれに還った。
国王は、椅子からずり落ち、揺れが収まる前に土下座を始めました。
「すいませんでした。すいませんでした。」何やらブツブツ言っている。今更ですねえ。どうせすぐに忘れるんでしょうけど。
「やはり水神様はいらっしゃるのですねえ。では、私達はこれでおいとまさせていただきます。」
「この後、わしらはどうなるんんじゃ。」
「水神様は何もされないのではないでしょうか。私たちを守ってはくれましたが、この城を壊す訳でもなく、警告をされただけですので。ただし今後何も国王様がされなければ。よろしいでしょうか?」
そうして、なんとか説得をして解放された。
私は、控えの間で待っていた商人さん達と合流して、城を出ました。
どうやらこれで、この一件が完結したようです。それにしてもカンウさんはどこにいますか。ちょっとは顔を出してくださいよ。そう思いながら城からの道行きモーラさんに連絡が入りました。
「そうもいかないのよ。ドラゴンの里で騒ぎが起こってそちらに行っていたのよ。行ってみたらたいしたことでは無くて無駄足を踏まされたわ。それって私をこの件から遠ざけるためだったみたいよ。」
「だそうじゃ。」
「そういうことですか。しかしなぜ?」
「今回のもどうやら魔族がらみみたいなのだけれど、証拠がつかめないのよ。」
なるほど、何もわからなかったという事がわかりました。
○帰り道
そして帰り道です。商人さんとその一行と一緒ですから魔獣や獣に襲われないとなりません。
傭兵団の団長さんは、あちらの馬車に乗りました。
「帰りの道も多少は襲われないといけませんね。」
「わしは完全隔離じゃな。」
「アンジーは、襲われても静かにしていてくださいね。力が無くなったことにしますから。」
「多少は知らせないとかえって怪しまれるぞ。わざと隠していると思われないか?」
「エルフィとメアさんに頼りましょう。」
「そうじゃな。その方がよいな。」翌日には、アンジーが戻ってくる。
「お役御免になったわよ。でもちょっと複雑な気分ね。お前役に立ってないという冷たい目で傭兵団の人から見られだしたから。そういうところは彼らはシビアよね。」
「きっとまたそういう状況になるかもしれませんから。」
「それは、それでまずい事態じゃがな」
そうして行きの倍の時間を使ってこの街に帰ってきました。それでもかなり時間が短縮されているようです。
街の城壁が見えてきた時には、御者台のエルフィから見えましたよ~という声がかかり、みんなで御者台に集まりました。
「もどってきましたねえ」
「もうなにもないですよね。」
「さすがにもうないじゃろう。」
「そう願っています~」
Appendix
「初めて人間に会ったの。私を見ても怖がらないし、迷子の私に優しくしてくれたよ」
「でもね、優しい人たちばかりじゃないのよ気をつけてね。」
「はいお母様。」
「私も会ってみたかったな。」
「勘弁してください。ああいうのと関わりにあったら里が目を付けられます。」
「そうだったなあ。でも様子をうかがっていたけど面白そうな方達だったよ」
「私には、買ったまま放置してさびたナイフに見えたがねえ。」
「なんだよそのさびたナイフってどう言う意味だい」
「本当は切れ味が良いナイフなんだが使わないから錆びているけど一度使ったら切れるようになるってことさ。まあ眠れるドラゴンみたいな感じだねえ。」
「本物のドラゴンも一緒にいたんだぜ。そっちよりも怖いっていうのか。」
「ドラゴンを隷属させているんだろう?そっちよりも強そうじゃないか」
Appendix
「さすがに震えが来たぞ」
「城が揺れましたから肝が冷えましたねえ」
「違うわ、あの男よりも天使よりも連れの子どもの眼光にわしは恐れを抱いたぞ。ずっと睨まれておったから、そっちの方が恐かった。あれは一体なんなのじゃ。」
「確かにあれは不味いかもしれません。今後は手を出さない方がよろしいかと」
「あやつらは監視しなくてはならんのではないか」
「あそこの領主は私達の王国とも貿易関係にあります。定期的に情報は渡してくれるでしょう。心配するほどの事ではありません。」
「そうかそれなら良いが、余計な事をしてしまったものじゃ」
続く
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