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第5話 DTちょっとだけ巻き込まれる

第5-4話 ネクロマンサー奇譚

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○ 夜襲
 夜に彼と合流して、倉庫に向かいます。
「こんばんは」と彼が現れて挨拶をして、
「こんばんは、緊張しますね」と私が返事をしました。
「はい、それより段取りは大丈夫でしょうか」彼が妙に気にしています。
「以前話したとおり、気付かれないように中に侵入します。」
「気付かれない様にですか?そんな話になっていましたか。」
「そういえば段取りを考えていたときにあなたは参加していませんでしたね。できるだけ知られない様にするのが一番大事だと秘密にしていたのです。」
「はあ、確かにその話はした様な気がします。」
「今日は、宴会があるらしくて、見張りの人もお酒を飲んでいるようなんですよ。」
「ならば侵入しやすそうですね。」
「はい、酒を飲んで眠っていてもらいます。」

 倉庫に到着して、様子をうかがう。案の定見張りの2人は、座り込んで寝入っている。
「大丈夫そうです。中に入りましょう。」
「扉の鍵は開けられるのですか?」
「以前来た時に見ております。細工をしていると言っていましたが、たいした仕掛けではありません。」
 メアはそう言って、手袋をして取っ手をつかみ、下に空いている鍵穴に細い棒を入れて、自然に回すとカチリと音がして鍵が解除された。
 3人は、互いに目で合図して中に滑り込む。その様子を見ていたモーラは茂みに隠れた。

○あけてびっくり魔法の箱
「さて侵入はできました。場所は奥の壁ですね」顔を近づけて小さい声で話します。彼と私の手にはそれぞれランタンを持っています。
 次の難関は棚の移動です。倉庫の奥に到着して私はメアに言いました。
「メアさん動かせますか?」
「はい、大丈夫です。」
 メアは、荷物を載せたままの状態の棚を軽々と持ち上げる。さすがに彼は驚いている。ただ、持ち上げた部分の棚板がきしみだしたので、私はあわててメアを手伝い、壁からゆっくりと離していく。
 物を持って通れるくらいの空間を確保して棚をおろしました。
 壁にランタンの灯りをあてると、床から横2メートル高さ1メートルほどの四角い線がうっすら見えていて、よく見ないと扉とはわからなくなっていました。その四角い扉には、取っ手はなくどう開けるのかわかりません。
「どう開けるのですか?」
「こうして左側に手を当てると動くはずですが」彼が手を当てて動かすと鍵のような形が現れる。
「鍵がかかっていますね。解除してもらえますか?」
「はい」彼は鍵の位置に手を当ててその鍵を押す。するとカチリと音がして鍵が開いて扉が開いた。
「あなたは、魔法の鍵を開けられるのですね。」私はびっくりしたような顔をしました。
「え?魔法の鍵なんですか。知りませんでした。」
「今、手順を何ステップも飛ばして鍵を開けましたよね。」
「知りませんでした。こうすれば開くものだと教えられていましたので。」
「そうなんですか。あなたの両親は魔法使いだったのですか?」
「いいえ違います。ああ、そう言う事ですか。」
「どうかしましたか?」
「もうわかっているんですね?私が魔法使いだと」
「やはりそうでしたか。どうも違和感があったのですが納得できました。ごめんなさい。その鍵は魔法はかかっていませんでした。ただの普通の鍵でしたよ」
「私を騙したんですか。」
「ええ騙しました。あなたが魔法使いであることを確認するために。」
「どこまで知っているんでしょうか。」
「知らないことばかりです。とりあえず中に入りませんか?」
「いえ、ここまで連れてきてくれてありがとうございました。あとは私が中に入って取り出します。」
「中の財産を持ち出さなくて良かったんですか?」
「いえ、その必要はありません。ここで結構です。」
「魔法使いさんの祝福の箱が中にあるはずですが、」
「それはありますが、私が持って来ます。」
「いや、私が依頼されていますので、あなあに持ち逃げされても困ります。直接手に入れたいのですが。」
「わかりました。そこまで言われるのであれば一緒に中へどうぞ。」観念したのか、ランタンを手に持ち、先に入っていく。
「メアさんここにいてください。」私はメアに目配せをする。
「はい、何かあったら呼んでください。」にっこり微笑むメアさん
 高さ1メートルほどの扉をかがんでくぐり抜ける。先に入っていた彼が呆然とたたずんでいる。
「ない。私のコレクションがない。」彼は、手元に持っている小さなランタンで周囲を照らしているが、その部屋には何もなく、彼の影が右に左に動くだけです。
「あなたのコレクションがあったのですか。それは奪い返したかったですね。」私は言いました。すると彼は、灯りを私に向けて言いました。灯りが作る影が、彼の顔に浮かんだ怒りをより一層引き立てています。
「誰が持ち去った!あなたですか!」
 そんなに騒ぐと外の見張りが起きてしまいます。と言いたいところですが、モーラがうまくやってくれると思いますので黙って叫ばせています。
「何をコレクションしていたんですか?」私は努めて冷静に聞いた。
「私の友人達です。」
「友達?」私はその答えに驚く。
「ええ、私にとってはかけがえのない友人達。ああ、やっぱり貴様だな!貴様以外にいない。そうだ!そうに違いない。でも、いつ、どうやって運び出した。」彼は、私に向かって叫ぶ。私は、彼の持つ灯りが揺れ彼の顔が映るたびにどんどん悲しそうな顔になっていくのを黙って見ていました。
「そもそも、私たちが先に運び出したのなら、わざわざここに一緒に来る理由がないじゃないですか。どうしてそう思うのですか?」
「いや、知ってしまったなら先に運び出すかもしれない。そうかそういうことか。」
「私たちに何をさせたいのですか?ここには何も無いのに。ああ、私たちは祝福の箱の回収をしようとしていました。」
私はそう言って、周囲を見渡して傍らの棚にある箱をさりげなく手にする。なにか特別な雰囲気を持っていてあまり触りたくもないがしようがない。
「どうしてそれがその箱だとわかる。一度中に入ったからだな?」
「周囲を見渡してもそれらしい小箱はこれしかないですからね。」私はその箱を手の中で踊らせる。確かに精巧にできている。あの魔法使いさんの渾身の一作というところでしょうか。
「そんなものどうでもいい。この部屋には私のコレクションがあったはず。私の友人達。かけがえのない私の宝物。あの時の一瞬をとらえた永遠の友達たちが。」
「なるほどそういうことですか。そこのところを詳しく話してくれませんか。」
「あんたはすべて知っているのでしょう?」
「いいえ全然。」私は見えてないとは思いましたが、首を左右に振る。
 彼は、「いずれにしてもここにいることは意味がなさそうだ。ねえ、あなた一度出ませんか?」そう言ってもどろうとする。しかし私が出口を塞いでいる。
「ここで話してもらえませんか。」
「私としては、ここにいても意味が無いですし、メアさんに聞かれても別にいいのです。早く出ましょう。」そう彼は言った。一刻も早くここから出たいようだ。
「そうですか。でもここから出て叫んでも多分誰も来ませんよ。」
「そうですか。仕方がありませんね。お話しします。私は、小さいときに魔法が使えるようになりました。それを親に見つかりそうになってごまかしました。なぜなら、妹が生まれて私への愛情が減ってきた時期で子どもながら里子に出されるという危機感があったのだと思います。」そこで一旦言葉を切りました。
「最初は、かすかな魔力だったので使うことも無く普通に暮らしていました。ですが、興味を持ってつい部屋で使っていたところを妹に見られて親に告げ口され、二度と使わないよう叱られました。風聞が悪いと。」
「親としては、赤ん坊だったらまだしも成長した私を里子にも出せず、このまま生活することにしたようです。そして、親からの愛情は一切なくなりました。食事も別、会話もしてもらえなくなり、私の心のよりどころは、一緒に遊んでくれていた友達だけになりました。」
「そして私は、友達が離れていかないようにあの箱に願ったのです。」
「でも、あの箱はかなえてはくれませんでした。あの箱を見つけ、使ったことに父親は激怒しました。これは、商売のため妻のため妹のために使うもので。お前に使わせる物では無いと言いました。」
「それは良いのです。そんなことは。でも父親は、仲の良かった友達の親に一緒に遊ぶなと言ったのだと思います。友人達から残念そうに私とは遊べないと言われました。」
「私は絶望しました。これからこの家でたったひとり誰とも会話せず、大人になるまで暮らすことを想像した時、絶望しました。そして、何か手はないかと思いました。」
「そして私は、友達を一生私のそばにおきたいと考えてしまったのです。」
「まず、突然遊ばなくなると怪しまれるからしばらくは遊んで欲しいと友達に話し、帰りに一人ずつ家に呼びました。」
「殺したんですか?」
「祝福の箱に願うと好きな子と仲良くなれる。みんなには内緒でしてあげる。と話すと簡単について来てくれました。」
「願うだけで人を殺せますか?」
「いいえ、自分が恋人になれるようにライバルを蹴落とすという願いです。恋敵を呪い殺すくらいの願いを込めないと効果は出ないと話しました。そうすれば一生幸せに一緒に暮らせるようになると。その願いが過剰になるように誘導しました。」
「それでも、願いの強さによっては殺すほどにはならないと思いますけど。」
「さすがに詳しいですね。私は、親に放置されていたので、親に内緒で魔法の勉強をしていたのです。あの箱に自分で魔法を使って、この目で何度も何度も見て、実際の動きがわかるようになっていました。ですので、横にいる私が願ったことが反射されてその子に向かうように仕向けました。」
「依り代、いや身代わりですね」
「はい。私が願った悪意を何十倍にも膨れ上がらせたものが友達に襲いかかりました。」
「そうですか。」
「一人目を初めて呪い殺したとき、罪悪感を憶えるどころか、快感を覚えました。ああ、楽しいと。心の底から楽しいと思いました。ですので、それから一人ずつどうやって呼び出してどうやって誘導するかばかり考えていました。」
「今も後悔はしていないと。」
「はい。最後の一人を死に追いやったときには、達成感を憶えました。私と友人達の友情は永遠になったと。そして、なぜ死体が腐らないのか不思議でした。」
「なぜ腐らないのですか?」
「呪いのせいなのでしょうか。眠ったように死んでいてどうもならないのです。」
「そうですか。今の話が昔の誘拐事件の顛末になるんですね。ここにあったはずの死体についての経過はわかりました。さて、私たちに協力を求めたのは、私たちに罪をおしつけるためですね。」
「おっしゃるとおりです。死体を見つけ動揺している隙に外に連絡して、彼らの仕業だと話せば、死体は回収されて終わると思いました。」
「そうですか。」
「さらに私に協力させたのは、そこに死体を隠したはいいが、鍵の開け方を知らなかったからで、さらに両親が自殺して倉庫が人の手に渡って死体がどうなったか心配になって戻ってきたのだ。と、言おうと思っていました。」
「そうですね。私は転生者ですからそれを証明する手立てはないし、誘拐事件が起きた時にどこに住んでいたか証明できる人もいませんからね。」
「はい。この件の犯人は、外から来た人でないといけないのです。」
「・・・・なるほど」
「さて、ここまで話しました。なぜ死体はないのですか?」
「それは、ここを出てからにしましょう。」
「はい。」
 そうして2人でその部屋を出てメアと合流し、見張りの寝ている隙を狙って。といっても泥酔しているので堂々と倉庫を出て、3人で薬屋を目指しました。
「ああ、そこに死体を預かってもらっていたのですか。」なぜか彼は安心したようにそう言った。
 私が扉をノックすると自然に開きました。
「入りますよ」
「待っていたわ。手に入れた?」
「これを」私はそう言って店長にあの箱を渡す。
「そう、ありがとう。これで契約は果たされました。ご苦労様です。」
 そう言ってその場でその箱を手の中で握りつぶした。
「嘘の情報で踊らせるのは、やめて欲しいのですが。それと私達を今回の騒動に利用したのも」
「ごめんなさい。あなたをそこまで信用していなかったので。」私と店長の会話の間、彼は黙って立っていた。
「ふたりともお座りなさい。メア、使って悪いけどお茶をお願いね。」
「かまいません。ご主人様の許可は出ています。この店に来た時は自由にして良いと」
「じゃあお願い。」その言葉にメアがお茶を用意しに奥に引っ込む。
「さて、ご両親と妹さんの自殺の件だけど。聞いても良いかしら。」
「はい、私は、両親が突然事業の拡大をしようとして商売敵と争っているのが心配でした。ただ、会話の機会のない私にはどうすることもできませんでした。」
「しかもたきつけているのは妹のようだったのです。妹も私と会話していませんでしたのではっきりとはわかりませんでしたが、居間の話し声を聞いていると、どうやら妹が積極的に誘導しているようでした。」
 店長はその話をじっと彼を見ながら聞いています。
「妹が憎くなりました。そしてそれを諫めない両親も同様に憎くなりました。ええ、私は家族を呪ったのです。その箱を使って。」彼は箱の残骸を見ながらそう言った。
「殺したいと願ったのですか?」
「はい、そうすれば、私が死ねると思ったからです。」
「ですが、呪いはかなえられ3人は死んでしまいました。その箱は一体なんなんですか?最初調べたときには願いを叶える魔方陣に見えたのに。そして、友人達に使った時にはうまく動いて、次に使ったときには効果が無かった。一体なんなんですか?私は両親と妹を殺すつもりでは無く、私が死ぬはずだったのに。」

○ 箱の正体
 少しだけ沈黙が訪れる。その時にメアがみんなにお茶を配り、お盆を持ったまま立っている。
「話しておかなければならなかったのにこれまで話せなかったのは、きっかけがなかったからね。まあ、私も話したくなかったということもあるけど。」
「まず、この箱は祝福の箱なんかではないのよ」
「え?」
「そういうふうに見えるだけ。中身は何も無いのよ。この箱に魔力を注ぎ込むと光り出して、私に魔力を使ったことを知らせるだけのただの箱よ」
「でも、魔法陣は、ちゃんとしていましたよ。」
「確かに魔方陣はそれらしく作ってあったわ。そうしないとバレますからね。そして、普通に生活をしているあなたが、独学で調べられることは少ないのよ。一般の魔法書には省略・簡略している部分も多いの。だからあの箱にそんな大層なことはできないのよ」
「では、あの箱は一体」
「あの箱はね、あなたの両親があなたの魔力に気付いて、あなたが魔法を使い始めたことを知った時に、あなたが魔法を使わないように見張るためだけの箱だったのよ。
 もちろんあなたは約束を破って魔法を使った。そしてあなたの両親は、あなたの魔力に恐怖を覚えた。自分の事業の保身もあったのかも知れないけどね。
 もっとも恐れていたのは、あなたが友達に危害を加えるのではないかということなの。その事があって、友達の親にこの子は危ない事に手を出してしまうかも知れない。なので、息子と遊ばないようにして欲しいと話したのよ。さすがに魔法のことは言ってないと思うけどね。」
「ああ、そういうことでしたか。」そう言って彼はテーブルに肘をつき頭を抱えた。下を向いているので表情は影になって見えない。
「そして7人の行方不明事件が起きた。最初からあなたは疑われていたのよ。でも、あなたの両親はそれを否定して家捜しでも何でもしろと言って実際家捜しさせたの。実際死体も何も出てこなかったからね。そう何も出なかったのよ。あの倉庫の裏の小部屋のことは誰も知らないからこれで終わると思った。でも、最近になって何かを感づいた商売敵から強請られ始めた。そしてお金が入り用になったあなたの両親は、無理なシェア争いに手を出してしまった。」
「あ、ああ」彼は声にならないうめき声を上げている。
「あなたも妹の叫び声が聞こえて、薄々自分のせいだとわかっていたのでしょう?でもあなたは、自分に対する両親の愛情が信じられなかった。そしてあの箱に祈った。いや呪った。」
「でも、あの箱にそんな力がないのなら、両親と妹は死なないでしょう?」
「それはね。あなたが呪術や死霊術に向いた魔法使いだったのよ」店長は、彼を見ながら言った。
「あ・ああ・ああ・ああ」彼は、両手を顔に当て震えるように声を出す。
「少し戻るけど、あの行方不明事件の時、私は真っ先に疑われていて犯人を捜す必要があったの。その時はあなただとは知らなかったので必死で探したわ。
 あなたの両親は、私があなたを疑っていると知ると「息子が犯人ではないから大丈夫」と自信を持って言っていた。そして私には、せっかくここでの商売がうまく行き始めているのだから、息子が魔法を使えることは知らなかったことにして欲しいとね。
 実際のところ、疑われている新参者の私があなたを犯人だと言っても信じてくれないでしょうし、むしろ子どもに濡れ衣をかぶせる卑劣な人と言われかねないので、自己保身のために私は沈黙するしかありませんでしたよ。」店長は、その声とは裏腹に悲しそうな顔をしている。
「そして、私があなたの魔法使いの適性がどの方向なのかを確信したのは、7人の子どもが行方不明になった事件が沈静化した後の事なのよ。あなた、あの後も色々と箱を使ってテストしていたわよね。」
「私は冷たい人間だから。あなたの両親にあの箱を渡した時に、あなたを手放すように言っていたのよ。早ければ早いほうが良いとね。遅くなればなるだけ情がわいて手放せなくなると。それでも周りに危害を加えなければいいのだと。ただどう接して良いかわからないと私に言っていたのよ。」
 一息ついて店長は話を続ける。
「私には、もう手の出しようがなくなっていたのよ。でも、あなたの両親が脅迫され始めたと知った時、すでにあなたとその家族が後戻りのできない状態になっていることがわかったの。でもね、私は一応古い友人に相談に行っていたのね。あなたを引き取ってもらうようにとね。でも遅かった。あなたは、事故とはいえ人を呪い殺してしまった。唯一の理解者であった家族をね」
「・・・・・」
「私の後悔はね。あの箱を作るときに何度もあなたの両親に箱を作るよりもあなたをあきらめるよう言っていて、でも逆らえずに箱を作ってしまったことだけよ。あとは私にはどうしようもなかったもの。話したかったのはこれだけよ。」
「その引取先の人は受け入れてくれると言っていたんですか?」私はつい尋ねてしまった。
「結論をもらう前に身元引受人である両親が死んでしまったのでどうにもできないわね。呪術師とか死霊術士なんて世捨て人になってからでも遅くないのよ。あなたみたいに魔法を使う必要がなく普通に暮らしていけるならその方がいいの。」
 しばらく沈黙が続いた。
「ああ、DT。箱をありがとう。報酬は明日にでも来てくれれば話すわ」店長は私に言った。
「あなたがあんな箱なんか作るからこんな結果になったんじゃないか!」彼は顔を上げて泣きながら言った。
「ええ?あなたはこの期に及んで私のせいにしたいの?最後にあの箱を使ったときの事を憶えていないの?あなたは、反射で自分が死ぬだろうと思っていたとしても、両親と妹を殺そうと祈ったのよ。普通肉親を相手に願わないわよね。どうして両親?先生でもあなたの家の使用人でも犬や猫でもよかったんじゃないの。どうしてかしらね?」
「店長さん・・・」
「この子はね、必死に自分を正当化しようとしているの。友達を7人も平気で殺して、しかも自分のネクロマンサーとしての能力を使って彼らに死ぬことも許さないひどい男なのよ。たとえそれが無意識でやったことだとしても。」
「ちがう、ちがう、ちがう」彼は、首を左右に振りながらそうつぶやく。
「友達と引き離されそうになった時だって、両親に「頼むから友達と遊ぶことを許してください」と頼みもしていないんでしょう?なぜ?」
「それは・・・言ってもしかたないと思ったからで。」
「必死に頼む程の価値もない、それだけの友達だったの?」
「そうではないです・・・けど。」
「言い訳ばかりね。もういいわ。魔法使いとしてやりたいことをやっただけとも言えないんじゃ魔法使いにもなれなさそうだし。もう帰ってちょうだい。」
「はい」そう言って彼は扉から出て行った。私は彼に掛ける言葉もなく、一緒に出て行くこともできず、しばらくそこにいた。

○宴の始末
「ずいぶん厳しく言いましたね。彼のために」
「言いたい事を言っただけよ。魔法使いになるためにはそれなりの資質が必要なんですから。魔法が使えるだけではなく、心もね。あなたのように途中で魔法が使えるようになるとそれがやっかいなのよ。」
「私ですか?」突然私に矛先が向けられました。
「ええ。あなたは能力に振り回されていないけれど、大多数の転生者は、魔法が使えるとなると自分が何でもできるようになったと勘違いして暴走するのよ。そして、ぼーん」店長さんは、握っていた手を上に向けてパッと開いた。
「死ぬのですか?」
「魔力に潰されるのよ。無理に使いすぎて自分で止められなくて魔力が暴走することもあれば、慎重になりすぎて使わずにいて危機が迫った時に無理して使って暴走することもあるわ。そんなところね。常に魔法と向きあって、ここまでが自分の限界とか魔力の限界とか、覚えて使っていかないといつか破綻するのよね。」
「はあ」
「あなたはバランスが取れているのね。一度くらい失敗していないの?」
「実はかなり失敗しています。」言えませんが、放射能あびたこともありますよ。中性子爆弾作りそうになるし。
「それを支える基礎知識がしっかりしていたのね。」
「基礎知識ですか?」
「魔法の基礎知識では無いわよ。この世の理の基礎知識。きっとあなたの世界ではいろいろと解明されているのね。」
「でも魔法はありませんよ。」
「だからいいのよ。魔法は便利すぎるの。理論も知らずに魔法を使うのは、猿が見よう見まねで火を使ってやけどするようなものだから。」
「!その逸話を話せるということは、もしや」
「さあ?昔、転生者と話をしたとき聞いた話かも知れないわね。昔過ぎて憶えていないわ」店長さんは私を見てニコリと笑う。
「えーーー。」
「さあ早くお帰りなさい。きっとみんなが心配しているわよ。」店長は立ち上がって、お盆を持って立っていたメアからお盆を取り上げてカップを乗せ、彼の飲み残しのカップと私の前に置いてあったカップもお盆にのせてしまう。
「朝になりそうですね。あの子はどうなるんですか?というかどうするつもりなんですか。」私もつられて立ち上がり、そう言った。
「死体は昨日、あなたから渡された時に森に埋葬しました。彼には私からその場所を教えておきます。あとは知りません。それと、あなたが彼に会ったら、私に復讐しようとするなら好きにして欲しいと話してください。」
「損な役回りですね。」
「人間と関わりを持つ魔法使いは、こういうことがよくあるのよ。もう慣れた・・・とは言いませんが、仕方の無いことなの。こういうことには関わりたくなかったのですがね。あと、あなたたちに危害は加えないと思いますが、しばらくは気をつけてくださいね。」
「そうですか。気をつけます。」
 そう言って私は、メアと共に薬屋を出ました。
 すでに星は見えなくなり、すこしずつ明るくなってきています。でも、家に帰りづらくてゆっくりとメアと歩いています。メアは察して歩調を合わせて後ろからついてきてくれています。
 疲労のせいもあるのか、気持ちが暗くて足取りがおぼつきません。そんな時、突然横の茂みから人影が出てきました。
「待っておったぞ。」モーラの声です。メアさんはきっと見えていたのでしょうね、私のようにびっくりはしていません。でも、こんなのわかっていてもびっくりしますよ。
「帰っていてもいいと言っていたのに。夜は危険ですよ・・ああ、魔物でさえ寄ってきませんか。」
「さすがに人間もこの時間は出歩かん。いや、そろそろ夜が明けるぞ。今まで何をしておった。」
「事後処理を少々。薬屋さんで。」
「そうか。やはり行っていたか。」
「収まりつかないじゃないですか。にしても家で待っていてもよかったのに」
「わしひとり帰ってみろ、根掘り葉掘り聞かれるに決まっておる。わしも全貌は聞かされておらんのに。」
「そうですよね。でも、さすがに私も眠いです。」
「わしもその辺で居眠りしておったわ」
「人さらいにさらわれますよ。」
「そんな奴は返り討ちじゃ」かっかっかと笑っています。ご老公ですか
「道すがら一度聞かせてくれんか。やつらに話しづらい事も含めてな。」
「親子の誤解。すれ違いですかね。」
「それで済ますな。」
「だってお互い歩み寄って話していればこんな事にはなっていないんですよ。」
「あの箱は・・・」
「ダミーですね。なにも効果の無い」
「あの男の子はやっぱり・・・」
「ええ、呪術師とか死霊術士の素質があるそうです。」
「死体はおぬしの言うゾンビになっていると。」
「はい。動かないのは、彼が死体だと思い込んで動かそうとしていないからなのか、行使する魔法を知識として持っていないからなのでしょうね。」
「親を自殺に追い込んだのは、呪術か」
「本当は自殺するつもりであの箱に親を殺すと念じたらしいです。でも箱はダミーなのでそのまま両親と妹に呪いが。それでも彼が呪術師としての資質が無ければ・・・」
「何も起きなかったと」
「ええ。そして、彼が7人の友達を殺したのは、単に一生そばにいて欲しかったらしいですよ。そしてその結果については満足しているのです。あの箱のおかげで願いが叶ったと」
「隠し通せたのはなぜじゃ。」
「ご両親が知っていて隠していたというところです。彼を守るためなのか風聞を気にしたのかはわかりませんが。」
「じゃが両親が死んで倉庫は人の物になり。見つかるのが不安になった」
「何も知らない誰かに。まあ我々にですけど。濡れ衣を着せて一件落着させようとしていましたね。」
「そこは読みどおりじゃな。」
「7人を殺した動機が不明でしたが、わかって良かったですよ。すっきりしました。」
「他の奴らにはなんて言うのじゃ。」
「そのまま教えますよ。隠すことでもないですし。」
「まあ、あまり血なまぐさくもないしな。」
「アンジーさんが心配です。」
「気にしてもしようがないじゃろう。嘘で隠してもばれるわ」
「ですね」
 こうして魔法使いさんの依頼は終了しました。翌日魔法使いさんのところに行くつもりでしたが、薬の納品の時でもいいと思い行きませんでした。エルフィが通っている居酒屋では、彼が突然いなくなって、昔の7人の行方不明事件の生き残りだった彼が誰かに連れて行かれたのではと噂になっていたらしいです。
 数日後、魔法使いさんのところに薬草を納品に行くと
「そうそう。7人の子ども達の死体ね。掘り起こされていたわよ。やったのは彼しかいないけど。魔法使いになる気になったのね。」そんな事をさらっと言わないでください。
「我々は安心して良いですかね。」
「あの手の魔法使いは、性格的に根に持つ人が多いけど彼は大丈夫だと思うわよ」
「あっさりしてますね」
「だって、死体の場所を教えてすぐ連れて逃げたのよ。少なくとも一人じゃ持って歩けないでしょ。つまり自分で考えて、すぐ使役できるようになったのよ。」
「ああ、確かにそうですね」
「そのまま山にこもるかも知れないしね。あ、自分の食料の調達とか魔獣対策とかは必要になるわね。でもなんとかするでしょう。賢い彼ならね。」
「そう思いたいです。」
「まあ、災害は忘れた頃にやってくるって良い言葉ね」あ、私の頭に浮かんだのを見ましたね。もうみんなして。私の頭の中をおもちゃ箱のように思っていませんか?
「さて、ここへ来たという事は、私に約束を果たせという事ね。」
「お聞かせいただけませんか、その情報の人のこと。」
「名前がね「エースのジョー」と言うのよ。」
「なんですかその頬袋を膨らませたリスみたいな人の名前は。」
「なんじゃ、おぬしの頭の中には違う男の顔が浮かんでおるが。」
「それは一応大人の事情ですよ。」
 こうして薬屋の魔女さんの箱の件は終了しました。
 そうそう、あとから聞いた話では、彼には借金など何もなかったのだそうです。


○主人公の息抜き
「あの小僧の話。ようやく解決したのう」
「そうね解決したわ」
「長かったですねえ。それにしてもお二人とも、その格好はなんですか?」モーラとアンジーが変な服を着ています。
「あの古着屋の店長に特別に作ってもらったぞ。良いじゃろう」そう言って私に見せびらかします。
 モーラは、鳥打ち帽にインバネスコートを着てパイプを口にくわえています。
「私も作ってもらったわ。どうかしら。」
 アンジーは、スリーピースのスーツに蝶ネクタイ。そのちょび髭は付けひげですか。
「どうして急にそんな格好をしたいと思ったのですか。 まさか私の頭を覗きましたね。」
「ご明察じゃよワトスン君。たばこスパスパ」
「そうねご明察だわヘイスティングズ。モナ~ミ」
「お二人とも。一人は鷲鼻のイギリス人ですし、一人は中年のかなり太ましいちょび髭のベルギー人ですよ。お二人ではどう見たってチビッコのコスプレにしか見えません。しかもモーラ、原作のホームズはそんな格好していないのですから。」
「そういうツッコミは止めてくれないかね、ワトスン君」妙に鋭い口調でモーラが言う。
「ボン。細かい突っ込みありがとうね。ムッシュー」アンジーさんそう言う物まねとかも良いですから。
「それに声がですねえ。一人は広川太一郎だし。一人は熊倉一雄ですからねえ。」
「 あら、広川太一郎は違うんじゃない?ジェレミー・ブレットが演じた方なら露口茂でしょう普通は。」
「確かにそうですね。私はどうして勘違いしたのでしょうか」
「ああ、もしかして犬のほうかしら。あんたもマニアックねえ」
「念のため言っておきますが、原作は「シャーロック・ホームズ」で、アニメは「名探偵ホームズ」ですからね。
 それと登場人物も原作がワトスンでアニメがワトソン。ハドスンさんとハドソンさんと日本語記述も分けられていますから注意してくださいね。」
「これだからこだわりのある奴は嫌いじゃ。おぬしはシャーロキアンか。」
「ち、違います。単なる推理小説マニアです。」


続く


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婚約者が隣国の王子殿下に夢中なので潔く身を引いたら病弱王女の婚約者に選ばれました。

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辺境伯爵家の次男シオンは八歳の頃から伯爵令嬢のサンドラと婚約していた。 我儘で少し夢見がちのサンドラは隣国の皇太子殿下に憧れていた。 その為事あるごとに… 「ライルハルト様だったらもっと美しいのに」 「どうして貴方はライルハルト様じゃないの」 隣国の皇太子殿下と比べて罵倒した。 そんな中隣国からライルハルトが留学に来たことで関係は悪化した。 そして社交界では二人が恋仲で悲恋だと噂をされ爪はじきに合うシオンは二人を思って身を引き、騎士団を辞めて国を出ようとするが王命により病弱な第二王女殿下の婚約を望まれる。 生まれつき体が弱く他国に嫁ぐこともできないハズレ姫と呼ばれるリディア王女を献身的に支え続ける中王はシオンを婿養子に望む。 一方サンドラは皇太子殿下に近づくも既に婚約者がいる事に気づき、シオンと復縁を望むのだが… HOT一位となりました! 皆様ありがとうございます!

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後味が悪かったり、救いの無い短編集を書いていこうかと思います。 テーマは様々です。

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