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第21話 三国騒(争)乱

第21-6話 陽動

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 ファーンの自宅

 窓をコツコツと叩く音がした。モーラが窓を見ると、そこには小鳥がいて窓のガラスをつついている。
「ああ、エリスの所の式紙か、」
 そう言ってモーラは窓を開ける。小鳥は中に入ってきてテーブルの上に降り立つと2つ折りにされた紙に変わった。
「ふむ、なにが書いてあるのかのう。」そう言ってモーラは紙を広げる。
「ああ、アンジーあてか、孤児院の手伝いの魔法使い達が来たから紹介したいとな。今はおらんがどうするか。」
 モーラは、独り言のように言った。
『アンジー、聞いておるか、ああ、通信機を切っていると言っておったな。ユーリ、聞こえておったらアンジーに通信機をつけるように言ってくれ。エリスから孤児院の手伝いの魔法使い達が来たから会わせたいと言ってきているのじゃ、どうしたらいい。』
『モーラ様、僕のそばにはいないので探してきます。』
『ああ、ほとぼりも冷めたからスイッチ入れておけとついでに言ってくれ。』
『了解しました。会話終了します。』
「通信機をつけてからかえって面倒になったのう。さて、DTの所に行こうか。」
 そうして、モーラは、私のいる地下室へと向かった。
「おう、生きておるか、デリカシーのない男よ」そう言ってモーラは扉をノックする。
「ひどいですねえ、事実ですけど。」
「引きこもってなにしておるのじゃ。」
「今回憶えた魔法を分析していたのですよ。」
「ほう、相変わらず勉強熱心じゃな。何かわかったのか」
「まあ、いろいろと面白いことがわかりました。特にアンジー達に悪影響が出るような罠は隠されていませんでしたね。何かありましたか。」
「ああ、エリスからアンジーあての手紙が来てな、孤児院の手伝いの魔法使い達が来たのだそうじゃ。で、どうせわしらが行くことになるからなあ。おぬしを呼びに来たのだが。」
 そう言ってモーラは手紙をヒラヒラさせ、ついてくるように私に手招きし、階段を上がっていく。私は、その後について、地下室から出てくる。
『モーラいるの?』アンジーの声が聞こえる。
『おう、わしじゃ。ユーリから聞いたろう。エリスから手紙じゃ。』
『なんて書いてあるのか正確に読んで欲しいの。』
『ああ、こんにちは、アンジー 先ほど魔法使いの子達が6人到着したから、紹介したいのですぐ来て欲しい。と書いてあるがどうした?』
『そう、6人ね。あと、その紙には、何か細工されていないか見て欲しいのだけれど。』
『特になにもされていないなあ。おぬしちょっと見てみろ。』
『はい・・・魔法的にもなにも仕掛けられていないですねえ。』
『そうですか。まず、到着が早すぎるのよ。あと2日は掛かるはずだったの、そして頼んだのは4人。どうやら、全員とは言わないけれど、2人はたぶん魔法使いの里からのスパイという所ねえ。まあ、その2人がそれぞれ見つかって、私達が安心したところで、実は4人の中にもうひとりというところかしらねえ。』
『相変わらず深読みするのう。どうしても協力したいという子がいたかもしれんじゃろう。』
『まあ、噂の魔法使いに何かを教えてもらおうとする子かもしれないけどね。それならそでもいいのだけれど。物見遊山も困るのよ。こっちだってお金払っているんだし。』
『ちゃんと働けば、スパイしても問題ないということですね。』と私が茶々をいれる。
『まあ、それでも良いんだけどね、今は、私が不在でこっちで動いていることまで知られるのはちょっとねえ。モーラ、本当に魔法使いは来ているのかしら?』
『それが、どうもなあ。いるような感じがしないのじゃ。』
『エルフィ、聞いているの?』
『はい、聞いています。』
『寝てたわね。』
『いいえ、いえ、はい。すいません。』
『謝る必要はないけど、町に魔法使いがいるかそこからわかる?』
『ここからではさすがにわかりません。』
 私は、エリスからの手紙に小さく何かを書く。モーラはうなずいた。
『ちょっと、じゃあ、そこからエルフを全員連れて、町に行きなさい。エルフ達に社会見学させるのよ。』
『ええーーーっ、それは、さすがに、無理ですよ。』
『全員でなくても良いから。どうせどこかに集落を作ったら、人間との交流をしなければ暮らせなくなるんだから、連絡役の人を2~3人作るよう説得して、そして、その人達を連れて、町に行ってきなさい。あんたねえ、さすがに食料をもらってるんだから恩は返しなさいよ。』
『さすが、交渉に長けたアンジー、言い方がえげつないです。』と私はフォローする。
『急いで説得しなさい。行けないとか言ったら、次は、縄張りの主であるモーラをけしかけるわよ。』
『ラジャー』
『アンジーいいんですか?』
『私がいないことを誰にも知られたくないのよ。あと2日遅く到着すると思っていたのだから。その間にこっちを決着するつもりだったのよ。』
『なるほどのう。やはり関係者が動いているのはまずいか。』
『あんたの指示で動いたことにされてもねえ。ああ、ユーリはいいのよ、ここで人々を守っているだけだから。でも、私がここにいる理由はないのだから。』
『そこの人たちの安全を一緒に守っているというのは理由になりませんか。』
『ユーリの能力を正当に評価できる人なら納得しないでしょう?』
『そうですよねえ。』
『ところでアンジー、私の方は、大丈夫ですよ。』
『あらそう』
『わしの方も大丈夫だ。』
『よかったわ。』
『なにが起きているのですか。』
『ああ、パム、なにもないわよ。安心して。』

 家の裏のモーラの洞窟がある森の中
 そこにはテントが十数張、設営されていて、エルフ達が一カ所にまとめられている。そして数人が縛られていて、その中にエルフィもいた。
「そこの魔法使い3人。焼かれたくなかったら静かにしていろ。」
 モーラは、茂みの中から出てきてそう言った。逃げようとした魔法使いは、目の前に出現した土壁の中に体だけ埋められ、顔だけが見えている。
「その隙に逃げようとしても無駄じゃ。」
 他の2人も同様に壁に塗り固められている。
「そこのエルフ、エルフィの縄を解け。」
 そのエルフは、エルフィに近づき縄を解いた。エルフィがすかさずそのエルフの頬を叩いた。あっという間にそのエルフは吹き飛んでいく。
「この恥知らず。」
 エルフィはそう言って、縛られている他のエルフの縄を解きに向かった。
「なるほどな。まあ、そういうこともある。」
「魔法使い達、事情は聞かせてもらうぞ。そのかっこうのままでなあ。もっとも無詠唱で打てる魔法があるなら使え、どうなっても知らんがなあ。まあ、使ったとしても死にはしないからやってみて、後悔してみるがいい。」

 モーラが昔すんでいた洞窟内にて
 私は、外から様子をうかがい、不可視化の魔法を使って中に入る。獣人達はその匂いに気付く。当然レイも気付く。
 縛られている獣人とそうでない獣人。レイは縛られている。なるほど
「奴が来たぞ、どこにいる。」
 そこで、私はついつい、新しい魔法を使ってみたくなり、あの小石に付与されていた魔法を使う。そこで不可視化の魔法を解いてこう言った。
「本当の敵はそこにいる魔法使いだ」
 そう言って魔法使いを指さす。残り2人の魔法使いも含めて全員がその魔法使いを見て、魔法使い達は魔法を使い、獣人達は一斉に襲いかかった。
 パンッ 私はアンジーが使った柏手を打った。洞窟内に響く柏手の音。しかし、一瞬動きが止まっただけで再び襲いかかろうとする。
「あらら、私の声ではダメですねえ」私は慌てて、「マインドガード」と叫んだ。すると全員の動きが止まった。
 私はすかさず、魔法使い3人を個別にクリスタル状の土壁に封じ込め、残りの獣人にこう言った。
「はい、そこまで」私は、レイの元に行き、縄を切った。レイは私に抱きつき顔をなめ始める。
「怖かったでしょう。仲間に裏切られるのは。でもね、そうでない人もいます。その人達の縄を外してあげてください。」
 レイは、落ち着いたのか、その場に立ちすくんでいる獣人達にうなり牙を見せてから、縛られている獣人達のところに向かった。
「一応獣人さん達に言っておきますが、私強いですよ。レイはもっと強いですけどね、ですから、私を襲ったらレイに殺されますから注意してくださいね。」
 私はそう言いながら、ひとりの魔法使いのところに向かう。
「この洞窟は、ここの縄張りのドラゴンがかつて使っていた遺跡なのですよ。ここをけがすなんて貴方たちどうなるかわかっていますよねえ。まあ、何をしたかは、これから貴方たちにたっぷり聞かせてもらいますよ。ええ、体にねえ。」
 そうして洞窟の方もあっけなく片付いた。

 魔法使いを閉じ込めたクリスタルを獣人達が押して、レイを縛った獣人は、私特製のロープで縛って足かせをつけて歩かせて、モーラの元に合流する。
 そこに私は、地面に巨大な穴をあける。両脇に掘った土が山になっている。
「とりあえず貴方たちは、どこかに行って欲しいのですが、さすがに戦争に決着がつくまでは、放置できないので、この土壁の檻の中で暮らしてくださいね。」
 私は穴の中に土壁を作りそのそれぞれに重力制御を使ってぞんざいにエルフと獣人をぶち込む。そして天井に柵を作った。
「土壁の中って、これは、穴の中だろう。」落とされるように入れられた獣人の一人が天井の穴を見上げて言った。
 確かに、地上から見ると長方形に穴を開け、地面に柵を作っただけの粗末なものだ。しかし、深さは10メートル近くあり、オーバーハングをつけて上れないようにもしてある。
「念のため言っておきますけど、このオーバーハングは、昇ればたやすく崩れるように作ってありますから、崩れて生き埋めになるかもしれませんよ。掘った残土をその上に置いてありますから確実に埋まりますから。まあ、試してみてください。そして勝手に死んでくださいね。」
「それと、ご飯はあげませんから勝手に飢え死にしてください。」
「貴様・・」
「いや、飢えたら共食いでもしたら良いでしょう?さっきまで同族を売りとばそうとしておいて、それはないでしょう。それでも、エルフと獣人一緒に入れたら、エルフが先に食われそうですから、さすがに別々にしておきましたよ。でも、土壁を壊せればエルフを食えるかもしれませんよ。では、さようなら。戦争が早く終わることを祈っていた方が良いですよ。」
 私は、そう言ってその場を離れようとする。さすがに残されたエルフと獣人達は私を冷たい目で見ている。
「相変わらずえげつないことをするのう。」
「モーラ、私いつも言っているでしょう。私の家族に手を出した者は、死ぬほど後悔させることにしている。と。」
「公にはそうしているがなあ。まあ、レイとエルフィにはわしから定期的に食料と水を与えるよう指示しておくわ」
「よろしくお願いします。」
 そうしてモーラはレイとエルフィの所に行った。どうやら安心したようだ。もちろん残された人たちも。
「さて、こっちがまだでしたねえ。」
 私は反対側に円を描いて設置された6つのこぶに話しかける。
 そのこぶは、よく見ると6人の人の頭だ。6人とも立ったまま生き埋めにされている。
「いっそ殺せ」
「嫌ですよ、人殺しなんてそんな野蛮な。ちゃんと生かしておきますよ。」
「なにもしゃべらないぞ。」
「その決意は買いますけど、無駄なんですよね。」
「なんでだ」
「それは、しゃべりたくなるんですよ。不思議ですね。」
 そう言って、私はその人の頭を囲むように手を広げて頭を包む。
「では質問です、貴方たちは誰から依頼されましたか。ドラゴンの里ですか?」
「魔王様ですか」
「・・・・」
「ドワーフの里ですか」
「・・・・」
「魔法使いの里ですか」
「・・・・」
「天界ですか」
「・・・・」
 そうですか、魔法使いの里ですか。
「なっ」
「魔法使いの里の誰ですか」
「・・・・」
「ナンバーツーですか」
「・・・・」
「ナンバースリーですか」
「・・・・」
「ナンバーワンですか」
「・・・・」
「そうですか、里の長ですか」
「なぜだ、なぜわかる」
「いや、わかりませんよ。あなたが今自白したじゃないですか。」
「今のはフェイクか。」
「まあ、そういうことにしておきましょう。でもね、詳細を聞くにはこれではわからないんですよ。なので、少し苦しいですよ。」
「なにをする。なに・・をヲ、ウガアアアアア」
「いやまだなにもしてませんよ。まだなのに失神しましたか。しかたないですねえ。」
 私は他の5人を見回す。全員視線をそらす。
「あなた、さっき、3人セットで動いていた時にリーダーしていましたねー。じゃああなたで。」
「まって、なにをするの。」
「いや、なにをするのって、その人に私がしたこと見てたでしょう。」
「いや、やめて、全部話すから。お願い。」
「いいですけど、嘘を言っていると困るので他の人には同じようにしますけどね。他は誰が良いかな?」
「私はなにも知らないの、本当よ、だって連れてこられて指示に従っただけだし。本当になにも知らないのっ」
「わたしもそう。本当に知らないからなにをされても答えられない。お願いします、私だけは許して。」
「あんたは知っているでしょ、リーダーから教えてもらっていたから。でも私は聞いていないわ本当よだから許してお願い。いえ、お願いします。」
「あんた、人を売るようなこと、この人も横で一緒に聞かされていたのだから同罪よ。」
「君たちうるさい。では、話すならひとりずつわたしにこっそり話してください。もし違っていたらどっちが正しいか2人とも頭の中に聞きますからね。いいですか。」全員がうなずいている。
「では、リーダーさん話してね。」
 私にリーダーと呼ばれた人は、必死に話をする。
「ああ、そういうことなのですねえ。わかった。では次の人」
 そう言って私は隣の人の口元に耳を近づける。その人も必死になって話をしている。
「少し違うけど、こういうことなのかしら。」
 私がそう言うとその子は必死になって頷いている。
「では、次の人」そして5人全員の話しを聞いた。
「ありがとうございました。でもね、安心するのはまだはやいですよ。最後のひとりの話を聞きますから。もしその人の話と違っていたら。全員わかりますよね。あと話が終わるまで静かにしていてくださいね。その人が話を終えるまで。もちろんさえぎったらその人が嘘をついているとして全員・・・皆さんわかりましたか?」全員がうなずいている
 私は、眠っている最初の人に声をかける。
「おーい起きてください。大丈夫ですか。」
その人は首を振って目を開ける。
「だいぶ眠っていましたがよく眠れましたか。さて、続けましょう。」
 私はそう言って、一度立ち上がる。その時ににやりと笑っていたようだ。
「では、お話しください。」
「ああ、魔法使いの里の長から依頼されたのは、単にこの地方のドラゴンの縄張りを混乱させることにあったのさ。だから、この地に流れ込んだ獣人が出た時に事を起こすだけでいいと言われてきたんだ。それだけだ。もちろん殺す気なんてない。」
「それで終わりですか?」
「ああ、それで終わりだ。」
「やめて、嘘を言わないで。」リーダーと呼ばれた人が叫ぶ。
「なにを言っている。」
「全員本当のことを話したわ。嘘つきはその人よ。お願い殺さないで。」
「貴様ら、全員つじつまを合わせておけと言っただろう。」
「そうでしょうねえ。そう知っていましたよ。」
「なんだと」
「あなたは、私が最初に頭に触った時に絶叫をあげて失神したんですよ。」
「え、うそ。そうなのか?」そうして他の人たちをみる。全員頷いている。
「それを見て、皆さん正直に話してくれましたよ。あなた以外はね。」
「そんな、目覚めでは気持ちよく寝ていてすっきりしていたのに。」
「そうでしたか気持ちよかったんですねえ。さて、私はね嘘をつかれるのは嫌いなんですよ。ここで2択です。今のあなたの話しが本当なのかそれともあとの5人から聞いた話が本当なのかどっちなんでしょうかねえ。」
「言い忘れましたが、私、執念深いのです。例えば、あなたの話が本当で、あの人達は、魔法使いの里に言い含められて口裏を合わせていたとしましょう。その時には嘘つきの方を地の果てまで探して復讐しますよ。今のこの状態を見てもわかるでしょう?ですから、そちらの5人にも弁明の機会を与えますが、真実はどれですか。それとも他にあるのでしょうか?」
私はそう言って全員の顔を見回す。
「あんたの実力は噂でだいたい知っているさ。だから里の長も本当のことは言わずに私らを送り出したんだろう。全部本当のことを言うよ。」
「リーダー、だめです。それをしたら里から除名されて研究が・・・妹さんが」
「無理だよ。魔法使いの里は、私が断れないのを知ってここによこしているんだから」
「あーもうイライラする。」
 私は、怒っています。
「茶番はやめなさい。そのシナリオも破綻していますよ。あなた、リーダと呼ばれた人。名前は、バービス・カストロール。里の中の10番目くらいかな。水系の魔法を操り他にもいろいろ習得しいていますが、妹なんていない。いたとしてもすでに死んでいるし、そのせいで里に縛られているわけでもない。そうですね。」
「どうして真名まで知っている。私の記憶を覗いたのか。」
「知りませんよ、子ども殺し、自分の子どもを研究に使い殺した女」
「おまえ、私の記憶を」
「だから知りませんよ。あんたのことなんか。さて、そこで見てるんでしょ。魔法使いの里の長。降りてきなさい。」
「何じゃ、ばれておったか。」
「これは、明確な協定違反ではないですか。」
「その者たちはとうに里から除名しているわ。」
「そんな、うそですよねえ。」
「帰ってこようにも来られぬぞ鍵は変えてある。」
「そ、そんな。」
「本当に汚い魔女ですね。でも次こんなことしたら乗り込みますからね。」
「なにを言う、里の場所など誰にもわからぬわ。」
「ぼけ老人は早く引退した方が良いですよ。」
 私は指を鳴らす。その魔女の周囲のシールドにヒビが入る。
「まだまだじゃな。それではまたな。」そうして魔女は消えた。
 地面には、放心した魔法使い達が土に埋まってうなだれている。私は土の中から彼女たちを土ごと掘り出す。
「さて、私は記憶をのぞけるわけではありませんよ。あなたの情報は意図的に流されていたのです。魔法使いの里からね。私は、あなたの名前も素性も何もかも事前に知っていたのです。他の5人と一緒にね」
「それとこれを。」
 私はホログラムを見せる。彼女が叫び声を上げているホログラムだ。
「私は、こういうのも得意なんですよ。なので、あなたに危害は加えていません。怖くないのですよ。」
「でも、そんなこと種明かししたら。」
「次の人が現れないことを祈りますね。」
「はい、」
「しておぬしら、今回の本当のシナリオは何じゃ。」
「リーダーの言ったとおり、獣人とエルフをそれぞれ、自分たちの嘘で操り分断させて、内部に混乱を起こせと言われていました。そして、あなたかモーラが出てきたら、逃げろと逃げられなければ、助けに行く部隊が待機しているから大丈夫だと。」
「これは、あの長である魔女のお遊びに付き合わされたとみるのが正解じゃな。」
「大丈夫ですよ、ちゃんとお仕置きしておきましたら。」
「なんじゃとシールドに阻まれたのではないのか。」
「実は、メアが親書を届けに行った時にすでにどこに里があるか特定していたのですよ。この世界のどこかにはあるとわかったので、そこに大穴開けておきました。帰ったらうれしそうにするでしょうねえ。」
「なんということをするんじゃ。全面戦争に・・・ならんか」
「ええ、先に不可侵地域に入ったのは魔法使いです。しかも私達は長がいたのを見ています。つまり里の者ではなくても魔法使いがこの地で悪さするのを止めもせず見ていたのですから、煽動したと取られても仕方ないのですよ。だからこのことを族長会議にかけられるわけないじゃないですか。」
「また襲ってきそうじゃな。」
「里を移すのにどのくらい掛かるかわかりませんけど、絶対突き止められるよう、一応タネはばらまいておきましたので。」
「おぬしは、本当に用心深いのか短絡的なのかよくわからんな。」
「短絡的で申し訳ないです」
「さてポカーンとしている魔法使いの皆さん。怖い思いをしてとっと帰りたいでしょうけど、そこの町の孤児院の手伝いをして欲しいので、そこに行ってくださいね。その前にその町の薬屋に顔を出してエリスさんにこの顛末を報告しておいてくださいね。」
 一同、ほっとしている様子。そして一礼してそそくさとその場所を後にした。
「よかったのか?」
「里の方はすぐに里に帰れるようになるでしょう。そもそも里から追放は方便でしょうし。」
「あそこで言った情報が流されたも嘘じゃな。頭の中を覗いたのであろうそして絶叫させた。」
「本人憶えていないし。その後頭がすっきりしているみたいだし、足つぼマッサージをしてあげたようなものですよ。」
「いつもやりすぎじゃよ。」
「この世界は、甘やかすとつけあがる人たちばかりですからねえ。」
「確かになあ。こうして離れて見てみると。この世界は矛盾だらけだしなあ。好戦的な魔族、支配欲の人間、閉鎖的なエルフ。まとまりのない獣人族、無駄な争いを回避するドワーフか。どこも一長一短じゃな。」
「一長ありませんよ一短ばかりですねえ。」
「まあそう言うな。町の人だって元魔王の家族だっていい人はいるであろう。」
「そうなんですよねえ。」

 町の薬屋にて
 エリスの元に魔法使い達が押しかけている。バービス・カストロールが経過を話している。かなり詳細に話させられていた。
「それは、本当に災難だったわねビスちゃん。」
「そのちゃんづけやめてよ。ええとエリス。」
「まあ、たぶん里には戻れるわよ、除籍処分なんてうそよ。」
「ほんとう?」
「そうなんですか。」
「え、どうして?」
「あそこではそう言わないと長がまずいからよ。まあ、あの人もそう思っているわよ。」
 そこで臨時のベルがけたたましく鳴った。
「おや、里からねえ。どうしたのかしら。」
 裏手に回り何かを操作しているらしい。
「ええ、本当なの?里に穴が空いた?誰の仕業?不明?あのバカがやったというの。やられたわ。わかったこっちで裏を取るわ。では」
「里に何か起こったのですか。」
「まあ、帰ればわかると思うけど。里にでっかい穴が開けられたそうよ。誰の仕業か知らないけどね。」
「え、それってもしかして。」
「今の話の中であいつが長に指を鳴らしてシールドを傷つけたとか言っていたわね。」
「はい、確かに」
「なるほどね。間違いないわ。でもどうやって里の位置を知ったのかしら。」
 エリスは顎に手を当て考え込む。
「やられたわ。あいつ。メアと私が一緒に行った時に何か仕掛けたわね。」
「どういうことですか。」
「まあ、しようがない。あれは、長が直接会っているのだから。なんだ、行こうと思えばいつでも行けたんじゃない。でも、里も移動させるかしらねえ。もう昔ほどの体力も残ってないし。おっと。」
 思わず口を押さえるエリス。
「まあ、様子がわかるまではここにいて、何日かは孤児院の手伝いをしていた方が良いかもしれないわね。やっていかないとあいつが見にくるかもしれないわよ。」
 全員が怯えている。
 苦笑いをしながらエリスはそう言って。宿の手配と次に来る魔法使いの子達と連絡を取り、日程等を調整して、孤児院に一緒に行って顔合わせをしている。
「アンジーさん来てよ~。ここから先は別料金にしておくわ。」
 そう言いながら、エリスは、私の家に向かった。

 無線機による中継無しでの脳内会話
『アンジーさんありがとうございました。気付きませんでしたよ。本当に助かりました。』
『礼ならエリスに言ってちょうだい。あの人のおかげよ。まあ、これは、言ってはいけないのでしょうけど。』
『本当に良かったです。これは、秘密ですねえ。』


 - 続く -

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