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第6話 ファウデの壺
第6-3話 後日譚
しおりを挟む「うまくいきましたねえ。ここにいては、誰かが来たときに問題になりそうなので、一度家に戻りましょう。」
「そうそう、この服脱ぎたいし」アンジーの言葉にメアが大きく頷いている。
「「お風呂―」」そうですね、早く戻りましょう。もうかなり遅いので寝る時間ですし。
そこを出る前に私は、
「カンウ様、明日でもお昼を一緒に食べませんか?」もちろんメアとは申し合わせ済みです。
「あら、招待してくれるの?」
「顛末聞きたいですよね。」
「まあ、だいたい見てはいたのだけれど、そうね、王宮の壺をどうやって消したのか知りたいわ。」
「では、明日のお昼、太陽が一番高くなる頃においでください。」
「わかったわ」
先ほどの逆をたどり、洞窟から出て、来たときと同じようにモーラの手に乗って帰り、家まで歩いて帰りました。家について最初にしたことは、家の裏に行き、着ていた古着を焼きました。そこで裸になって着ていた服を焼いています。
「なんか体がかゆくなったような気がするのよ、着替えに部屋に行きたくなかったし。」
「そうじゃのう、どうせ、風呂に入るのじゃろう、ならば家に入る前に全部脱ぐわ。」
「メアさんは、メイド服ごと燃やすんですか。」
「はい、不潔なので、丁度変えようかと思っていましたので。」
「替えはあるのですか?」
「もちろんございます。」
「それは、よかった。」
「ユーリとエルフィは、焼かないのですか?」脱がずにそこに立っている2人。
「焼きたいのですが、恥ずかしいので、」
「ああ、ごめん。後ろを向いています。脱いですぐ家の中へお入りなさい。」男の私がいるのです、この反応が普通ですよね。
『なんじゃ、わしらが変態みたいな言い方しよって』
『そうよ、家族なんだからいいでしょ』
『そうです、ユーリとエルフィが恥ずかしがりすぎです。いいかげんあきらめた方がよいかと思いますが。』
『あなた達には、慎みというものが足りていません。』
『そういわれてものう』
『そうよね』
『そうです。』
私も服を脱いで焼いてしまったので、最後に火の始末をした後、ようやくお風呂タイムです。慎みとか言いながら、私も一緒に入っていますが。
「ユーリとエルフィは、恥ずかしがる割にはお風呂には一緒に入るわよねえ。」
アンジーがニヤニヤしながら2人を見て言った。
「それは・・・慣れです・・・皆さんと一緒に入りたいですし。」
「でも、外では恥ずかしいと」
「はい、外で裸になってあるじ様に見られるのは何か違います。」
「じゃあ、外でも裸ですごしていれば、慣れるのでしょうか。」メアが首をかしげながら言った。
「はい、そこまで!うちに裸族の習慣はありませんよ。そこまでです。」私はここで規制線を引く。
「えーっ、裸の方が快適なのに」
「元が光の人はそうでしょうね。」
「別にそういうわけでもないですけど。」
「さて、今日は皆さんお疲れ様でした。特にアンジー、お疲れ様でした。いつもながら、嫌なのに無理言ってすいません。」
「今回は、あなたが全部話してくれていたので、私は何もしていませんから。」
「そうですが、天使としての役割は嫌ですよね。」
「もうどうでも良くなってきました。本来天使なので嘘はついていませんから。」
「とりあえず、ぬしの頭の中のほうが疲れ切っているようじゃぞ。」
「精密な壺を作りましたからねえ。早く寝ます。」
私は、そう言って先にあがる。広いベッドに寝転がる。ああ、ひとりだと本当に広いベッドですねえ。
皆さんのおやすみの声が聞こえます。さすがに誰も私の部屋にはきませんね。
でも、目がさえています。あれだけ脳を使うとさすがに眠れない。窓からは満天の星の光がさしていて、真っ暗にはなっていないのです。
扉がそーっと開くのがわかった。
「起きておるのじゃろう」
「モーラですか、起きていますよ。」
「わしも久しぶりに元の姿に戻ったのでなあ。興奮したままじゃ。おぬしもそうだろうと思ってな、様子を見に来たぞ。」
「そうですか。ありがとうございます。」
私がベッドに起き上がると、モーラはベッドに上がってきて壁を背に座る。その隣にすわって毛布の中に二人で入った。
「すまんかったなあ。」モーラは両手の指をあわせて気まずそうに言いました。
「いいえ、良い経験になりました。魔法もそうですけど、何か劇でもやっているような感じでしたからねえ。ちょっと調子に乗ったところもありますし。」
「それならよいのじゃが。アンジーにもすまんことをした。」
「それなら・・・」
「それなら本人に直接いいなさいよ。」そう言ってアンジーが入ってくる。
「お主、寝ておったろう。」
「私も目が冴えていて、寝てはいたけど、神経が起きていたのよ。」
変な言い回しですね。でも言いたいことはわかりますよ。
「アンジー、本当にすまなかった。」
「いいわよ、もう。」そう言いながら私の隣に座る。2人とも私の手を強く握った。
「わしは、最初、軽い気持ちでお主にこの役を押しつけていた。じゃが、本当に事が大きくなってきてわしも恐くなってきたのじゃ。もう、今回のようなことは・・・」
「いいのよ、モーラ。いいの。私はね、モーラのおかげで助かっている部分もあるの。これまで、光となって人を守護していた時には、本当に何もしていないのよ、ただ見守るだけだったの。この世界で実態のある天使の役をやるようになって、もちろん最初は嫌だったけど、今はそうでもないの。だからあまり自分を責めないでね。」
「そこまで、お主に言わせてしまうとなあ。」
「あまりおおっぴらに宣伝されてはこまるけど、ここに信者がいるからね。」
「いや、今回の件は特に謝らなければならない。本当にすまなかった。」
「他のドラゴンの問題を手伝わされたから?いいってば。面白かったし、ほとんど私は話していないもの。謝るのはこれでおしまいね。」
「ああ、そうさせてもらう。」
「あら、この人寝てしまいましたね。」どうやら私はここで眠ってしまったようです。
「一番疲れたのはこいつじゃからな。」
「でも、不思議よね、この人」
「ああ、不思議じゃ。」
「あと、お二人がここにいるのも不思議です。」扉の向こうから声がします。
「おや、お主達も揃ってきたのか。夜這いはいかんぞ。」
「今日は誰も旦那様を襲わない約束でしたでしょう」
「話があっただけじゃ、2人きりのな。まあ、途中でアンジーが入ってきたが、用事は終わったぞ。でも、わしもほっとしてしまって、眠い」
「あ、私も今頃睡魔が。」
「やれやれ、このままみんなでここで寝ましょうか。」
「毛布取ってきます」
「手伝いますー」
「それでは、私が一番良い場所を・・・」メアさんが膝枕です
全員が寝ようとした時に
「うーん、アキさん」どうやら私の寝言です
全員が、がばっと起き上がり、目を見合わせる。そして彼の顔を見る
「初めて聞く名前じゃ」
「記憶が戻ってきているのかな」
「そんなはずはないのですが。」
「どうしてそう思う。お主が記憶をブロックしておるのか?」
「それは言えません。私の口からは。」アンジーはあせっているのかごまかしきれていない。
「私はそんなことしていないと言ってみよ」
「言えません」
「それは、言うと嘘をついていることになるからか?」
「それも言えません」
「白状しているようなものじゃろう。」
「ですから、言えませんってば。察してください。」
「それはどうでもいいです。アキさんって名前ですか?」ユーリがちょっと強い調子で言った。
「あ、ああ、そうじゃな。女性の名前のようじゃ。とっさにイメージを見ようとしたが、ゆがんでいたので、みえなかったのじゃが。」
「誰なんでしょうか・・・気になります。」
「起きて憶えていたら問いただせるじゃろうが。」
「たぶん憶えていないと思いますよ。」
「じゃろうなあ。」
「これまでも、恋人がいたような節はあったからなあ。」
「つきあっていたんでしょうか」
「でも、普通そういう状態の人は、転生させないと思いますよ。」
「そういうものなんですか?」
「ええ、そういう元の世界に未練がある人は飛ばされません。こちら側から意図的に転生させた場合を除いてね。この人はそうじゃないですよ。」
「やけに言い切るな。」
「私の本来の転生者がそうだったとしかいえませんけど。」
「とりあえず、どうにもならんじゃろう。寝るぞ。」
「はい」
そういうことがあったようですが、私は知りませんので、目を覚ましたら私の頭には大きな胸がのしかかり、腕にはメアさんとユーリが、アンジーとモーラは私の太ももを枕にして寝ておりました。大きいベッドとはいえみんな体制が苦しそうです。さて、一体あれから何が起きたのでしょうか。
「あ、起きた。ねえねえ。アキさんって誰?」
「あきさん?ああ、姉です。おや、記憶が戻ってきましたか?でも、反射的に出てきただけでそれ以上のことは思い浮かびません。」
「なあんだお姉さんか。」
「どうしてその名前を?」
「昨日、あの後みんなが来た時にあなたが寝言で言ったのよ。あきさんって」
「ああ、そうでしたか。でもそれ以上のことは思い出せませんねえ。」
「少しは記憶がもどりそうなのか?」
「いいえ全然。まあ、その程度の思い出なんですよ。きっと」
「そうなのでしょうか。」ユーリが寂しそうに言う。
「いいのですよ。たとえ誰かにブロックされていたとしても、今が幸せなら、後悔もありませんよ。」
「なるほどな。さて、起きるか。」
モーラのその声にメアさんはさっといなくなった。朝食の用意があるのだろう。私も着替えて、メアさんのところに行き、
「何か手伝えることは無いですか?」とたずねる。
「では、こちらをスープを見ていてください。」
「適当にかましていれば良いですか?」
「煮たちましたら、そちらにおいてください。」
「はい、」
「僕も手伝います。」
「ユーリは、野菜を盛り付けてください。」
「はい」
こうして、朝食はつつがなく終了した。
「私は、昼食の食材を買って参ります。」
「お金は大丈夫ですか?」
「大丈夫です。」
「本当に?」
「ええ、かなり余裕があります。」
「そうですか?本当に使っているのか不安になりますが。」
「はい、問題ありません。」
「では、お願いします。」
○カンウさんと昼食
そうして、お昼くらいになった。静かなノックのあと、カンウさんがお見えになりました。
「ほらこれ、お供え物としていただいのだけれど、野菜をどうぞ。」
「ありがとうございます。でも、お供え物ですよね。」
「私も食べるからいいのですよ。最近供えてありましたから大丈夫よ。」
「それならば、いただいて、食卓に出しましょう」
「それは、助かるわ」
「この野菜も使わせていただきますので、食事までもう少しお時間をいただいてよろしいですか。」
「かまわないわよ、」
「申し訳ありませんが、しばらくお待ちください。」
「食事前のお話しにあまりなじみませんが、昨日の話などしませんか。」
「そうそう、どうやって持ってきたのか、そして、作り直したじゃない。そして、人の前で消したじゃない、一体あれは、どういう原理なの?」魔法に詳しいカンウさんだけあって、興味津々ですねえ。
「そうなりますよねえ。まず、持ってきた方ですが、簡単に言うと、細かく砕いて塵にして、私たちみんなの周りにまとわりつかせて、持ってきてここに作り直したということです。」
「では、あそこに置いてきたのは?」
そこでメアさんから食事の準備ができたと言われたので、食事をしながらになりました。
「順番に話していきますね、その場でまず、カンウさんに見せてもらった分身の術を真似て、上から壺の虚像を水の薄い膜に映し出してみました。まあ、その前にあの壺の周囲にちょっとだけ鏡状の物を置いて、そこに映し出した像で壺自体を見えないようにしました。それから、その内側で、上から順番に細かく砕いていきまして、分解した塵を下のほうから皆さんのローブにまとわりつかせ、上の方から霧で偽物の構築を作っていきました。そしてすべて入れ替えた後、鏡の方を回収しました。あそこにはカンウさんが最初に来た時に作った影のような霧があっただけで、後には何も残っていません。」
「なるほど、私があなたの魔法を見せてもらおうとしたのに、こちらの魔法が盗まれていましたか。あなたすごい人ですね。見ただけで真似できるようになるとは、末恐ろしい。」
「いえいえ、優秀な魔法をあれだけ間近で長時間見せていただいてしまうと、どうも真似したくてしようがなかったのです。私には師匠がいないので。」
「しかもあそこに置いてきたのは、時限式じゃぞ、それもすごいんじゃろう。」
「そうなんでしょうねえ、私にはその発想はありませんでしたから。しかも壺を壊して運びやすくして持ち帰り、作り直すなんて発想がそもそもできませんでしたね。」
「壊し方が空気中に舞う塵よりも細かいレベルなんでなあ。再構築できるか不安とか言っておったが。ちゃんと復元したのでなあ。すごいものじゃ」
「一応、分子レベルと言いながらもちゃんと破片の形に番号を振り分けて、再構築しやすくしてありましたよ。」
「分子レベルって、この世界の人ではわかりませんよ。そういうところが天然なんです。普通は隠すところですよその技術。」アンジーがつっこむ。
「あ、いっちゃだめなんでしたか。」
「その辺の話はわかりました。お礼がまだでしたね。問題を解決してもらい、ありがとうございます。あと、このルールブロークンをまっとうにしてくれてありがとうございます。」
「わしがまるでまっとうでなかったような物言いじゃが」
「あなたが破った里の掟を最低10個は話せますけどどうします?話しましょうか?」
「わかった。甘んじてその二つ名をうけよう。」
「そうしてください。」
「あのー。できれば、2個くらい聞かせてはもらえませんか?」
「言わんで良い。」
「まあ、「功労者には報償を」が私の持論ですので、一つだけ。私たちの世界では、決闘を申し込まれたら受けなくてはなりません。これがルールです。そして、決闘を受けた方は、戦う方法を決めなければなりません。ですが、この人は、決闘を受けたものの、戦う方法を「会わないで戦う方法を見つけたらそれを使って挑んでこい。」と言って決闘を受けもせず放置したということがありました。そうよね。」
「あれは、ひとりだけ遠隔魔法で挑んできたやつがいたぞ、わしの目の前にな。」
「ですが、鼻息で消しましたよね。さすがにあれは悲しかったです。」
「さきに挑戦してくると言ってくれてればちゃんと対応したのだが。なにぶん予告が無かったのでな。」
「なるほど、面倒くさがりさんなんですね。」
「お主には、前にも話してあったろう。何回か適当にあしらっていたら、ムキになる奴が出始めてな。寝込みを襲うやつとかが現れて、おちおち寝てもいられんのだ。なので、条件を出したまでじゃ。それ以降、全く誰も決闘を申し込まなくなったわ。」
「なるほどねえ、私以外誰もそういうことを考えなくなったのですか。あの人たちがおとなしくなったのは、それもあったのですねえ。」
そうして、カンウさんは、私たちの暮らす街の昔あったことや、今の慣習などをユーリやアンジーエルフィなどに話してくれて、昼食は一段落した。食器を下げてデザートになった時に例のことをモーラがカンウさんにお願いというか交渉し始めました。
「あと、カンウよ、今回の件わしらが勝手に住んだのは悪かったが、その対価としては、今回の件は、ちょっと高すぎやせんか。なのでなあ、その差額分を労働という対価で払う気はないか」
「私を働かせると高くつくわよ。」ちょっと怒っている風ですが、そうではないみたいです。
「まあ、そう言うな。わしらは、薬を売って人間界に通じる通貨を得ている。お主も神とは呼ばれているが、人の通貨を手にして買い物をしてみたいと思わんか。」
「そうねえ、確かに供物だけではさすがに何もできないわねえ。でも、本来竜族はそういうことに関わってはいけないんじゃ無くて?」
「神に祭られておいて今更じゃろう。」
「さて、私に何をさせたいのかしら。」
「水竜なんじゃから。水をまいてくれ。」
「それだけ?」
「ああ、それだけじゃ。これからこの地方は乾燥期に入るが、薬草の収量が減ると暮らしが苦しくなるのでな。手伝ってくれんか。もちろん報酬も出すから。」
「それは魅力的ねえ。ご飯は食べさせてくれるのかしら。」
「それは、もちろんじゃ。労働の後の食事はうまいぞ」
「へえ、あなたそんなこともしているのね」
「雑草取りやら薬草摘みとかな。けっこうしんどいが、これが売れてお金になり、わしが食べる食事になると思うとなあ。少しは頑張る気にもなる。」
「その割には、いつも愚痴ばかりですけどね。」アンジーそこでつっこまない
「確かにな、そういう愚痴を言い合うのもまた楽しいのじゃ。」
「そうなの、じゃあ用があったらこれを使って呼んでね。」そう言って、草笛を置いた。
「呼び出しはしませんので、気の向いたときにおいでください。」
「さて、いつもおいしい食事をありがとうメアさん」
「いえ、こちらこそ。お褒めの言葉ありがとうございます。」
「私は自分の山に戻ります。また、遊びに来ても良いかしら?モーラ?」
「わしは、居候じゃ、こいつに聞くが良い。」
「私はかまいませんけど、皆さんはどうですか?」
「ぜひおいでください。」
「今度はもっといろいろなお話を伺いたいです。」
「私の里の噂話は是非聞かせてください。」
「大人気ですよ。今度は時間をお取りいただいて、夕食でもどうですか?」
「そうねえ。考えておくわ。あと、人も紹介したいし。連れてきても良いかしら?」
「かまわぬと思うが、どうじゃ。」
「夕食は賑やかな方がいいので、ぜひ。ただし、人数などは、事前に連絡をいただければありがたいです。なにぶん用意がありますので。」
「そうね、そうするわ」
「わしらには時間の概念が無いからのう、慣れるまでちょっと戸惑うが、むしろ生活のリズムができてよいぞ。」
「あのねモーラ、そういうのは、小さいときに里で憶えるものなのよ。」
「はは、そうであったか。すまぬなあ」
「まったく。でも本当によかった。あなたがまっとうになって。」
「何度も言うな。はずかしいわ。」
「では、今度こそ本当に戻ります。」そう言って席を立ち玄関から外に出る。みんなで見送りのため一緒に外に出る
「お気をつけて。」
「ありがとう。」
ふっと消えて、空に巨大な影ができたと思ったらすぐに消えた。
「相変わらず素早いのう、カンウは」
「そうですね。」
「さて、これでしばらくは、普段の生活に戻れますかね」
「薬草摘みの仕事か。けっこうつらいのう。」
「これが、平和を実感する良い方法です。」
○傷薬なのですが
あれから1ヶ月くらいが経過し、薬草摘みから出荷までなんとか納品ができました。
バタバタしましたが、薬の売れ行きはけっこう良く。入荷待ちの状態が続いているといい、催促されていました。
「追加の薬はまだできませんか?」
「最近バタバタと騒ぎがありましたので、察してください。」
「好評すぎて困りものなのよ。どこから噂を聞きつけてくるのか、魔法使いまで買いに来る始末なのよ。まったく自分のスキルを上げて作れば良いのに。」
「分析して自分で作れるのですがねえ。」私は、自分が少し加工していることを秘密にしているので、あまり魔法使いには売りたくないのですが。
「薬草自体の組成が違うらしくてね、あなたの住んでいた地域の薬草でないとダメみたいなのよ。」
「はあ、それじゃあこの地方で採れた薬草では十分な薬効は出なくなりますよね。」
「でも出ているわよね。」
「はい、出ていると思いますが。」
「そういうわけで、魔法使いの中でも人気の薬草なのでできるだけ早く納めてね」
「努力はしますが、魔法使いにまで売ることになるとは思いませんでしたよ。」
「私もここの一般の人にしか売っていないのだけれど、うちに在庫が無いと知ると、複数の魔法使いに頼みに行ったらしくてね、その時にサンプルを持って行ったらしいのよ。」
「ああ、なるほど。」
「こちらも、魔法使い同士なので、しがらみとかで無碍に断るわけにも行かないしね。研究材料に少しずつだけど、けっこうな人数から言われていて、正直断りたいのよ。問屋としてはどうなの?」
「こちらとしては、一般の人に売ることを優先して欲しいのです。一般の人なら、そんなにケガするわけでもないので、一度買ったらしばらくは、買わないと思いますし、それで、この地域の欲しいと思っている皆さんにだいたい行き渡れば、ちょうど出発できるくらいの路銀が貯まると思っていたのですよ。」
「ああ、そうなの、でもね、魔法使い達は、研究に失敗すれば何度も買いに来るかもしれないわよ。」
「私の認識が甘かったのでしようがないですが、魔法使いさんにはお一人様一種類につき一つということでは、だめですか?重ねてになりますが、私としては、一般の人が万が一の時に使える常備薬として欲しいのです。」
「確かにこんな傷薬をほいほい使うような人は危ないわよねえ」
「はい、でも卸し元としては、売主に注文はつけられませんので、お願いするしかありません。」
「わかったわ、もってきた物のうち1割だけ魔法使いに順番に売るわ。あちらは急いでいないしね。残りについては、魔法使いが一般の人に買わせていたら、次からその人には売らないとあらかじめ釘を刺しておくわね。」
「お任せします。」
「うちも久しぶりに良い稼ぎになっているので、助かってはいるのだけれど。でも、今更、値をつり上げて売ったりしないから安心しなさい。」
「複雑ですが、お任せします。」
「それにしてもどこから漏れたのかしら。」
「その辺はもういいですので。」
「あらそうなの?あなたがそういうならこれ以上何も探らないわ。」
「人の口には戸は立てられないので。」
「じゃあこの話はおしまいね。そうそう、いろいろバタバタした方の話だけれど、まったく、魔法使いだけではなく、竜族にも貸しを作るなんてね。」
「貸しではありませんね、居住権を賭けた取引です。」
「居住権ですか、そういうことなのね。あの人は、竜族との関係を面倒臭がっていましたからね。まあ、良い薬になったんじゃないですか。」
「付き合いが長いとそういうことも知っているんですね。」
「まあそうね。ここを縄張りにしている竜族は、一応、神として祭られているし、格は高いですからねえ。」
「変な話はしておらんじゃろうな。」モーラが店に入ってきた。
「していないわよ。これでも少しは、配慮しているわ。」
「こやつにいろいろ知られるのは、まあ、恥ずかしいからのう。」
「あら、ルールブロークンは、そういうことを気にしないのでは無かったかしら?」
「そのあだ名でよばんでくれ、もう、そうではなくなったからな。」
「今度はなんて呼べばいいですか?」
「モーラでよいわ。みんなから呼ばれ慣れてもうこの名前でなじんでしまったのでな。」
「はいはい。」
○ユーリのモテ期 閑話
スカートがやっぱり性に合わなくてキュロットスカートにしている。それでさえ、たまに会う傭兵団の人に見られるのは、さすがに恥ずかしい。
「どんな服装をしていたっけ」思い出してみるとブーツにズボン、長袖の厚手のシャツを腕まくりしていた覚えしかない。だからスカートに憧れがあったので履いてみたけれど、以外にたいしたことが無くて、むしろ動きに制約が出る。ズボンに戻すと今度は足にまとわりついていて邪魔に感じる。僕ってわがままなんだろうか。エルフィの真似をしてショートパンツにしてみたけど、それも足が出すぎてすごく恥ずかしくて嫌だったので、膝上まで来るキュロットスカートにしてみた。メアさんやアンジーからはスカートも慣れれば楽と言われていた。短くすれば大丈夫とか言われたけど、膝が見えるくらいでも動きに制約が出ているし、風のせいでまくれて下着が見えたりする。確かに暑いときにはバサバサやって風が通るから良いけど、それをすると回りからうるさく言われる。特にアンジーさんから。あ、あるじ様からも言われました。
泣き虫にはなった気がする。泣いてはいけないと言われていたのが、泣いても良いと言われて、ガードは甘くなっているとは思う。でも、それでいいとあるじ様は言ってはくれるし、自分もそう思っているけど、私の周りの人達は泣いていない。あるじ様にその話をすると、容姿にだまされてはいけません。彼女らは少なくともあなたの10倍以上は生きているので、涙も枯れているんですから。と言ってくれましたが、全員から冷たい目で見られていました。
お漏らしの件・・・思い出したくないです。死の恐怖というものを実感しました。でも、最後まで背を向けなかったのはおじいさんに褒めて欲しいと思いました。
傭兵団を抜けてから、同世代の男の子や、ちょっと年上の男達によく声を掛けられている。傭兵団時代のクセでついつい男言葉で返すとすごい嫌そうな顔をされた。
そして、あるじ様の町からこの街に戻ってくるときに一緒にいた男達は、一応女の子であることを意識してもらっていたが、盗賊との初めての戦闘の時に経験者だった僕が何回か声を掛けて戦局を挽回したことがあり、それから妙に声を掛けられるようになった。
到着してからは我先に2人だけでデートしようと言われ、あるじ様に相談すると。たぶん誰も襲ってこないと思うので一人で会っておいで。と言われた。本当は行きたくなかったのだけど、家族や女友達からは、人生経験を積んでおいでと背中を押された。いろいろな話をしてご飯を食べさせてもらったりした。でも、ついあるじ様と比較しあるじ様の事をうれしそうに話していたらしい。
その事から、察してくれる人がほとんどだったけれども、かまわず好きです、付き合ってくださいと何人かの人には言われた。
そもそも付き合うって何だかよくわからない。そもそも好きだから付き合うのなら、好きでも無い人から付き合ってと言われたら嫌だとしかいえない。
「断り方に気をつけてくださいね。男はデリケートなので、変なことをされるかもしれませんよ。」確かにあなたとは無理ですと言ったら。怒り出しました。
「今がモテ期ですねえ。」あるじ様の話では人生に3度ほどモテ期というのがあるのだそうです。男の子の場合だけかもしれませんとは言っていましたが、
「まあ、可愛い子はいつでもモテ期じゃろう」
「そうよね。いつでもだれでもほっておかないから。私はありませんけどね。光だし」
「天使同士ではそういうのはないのか?」
「あるにはありますが、光の塊で、人の時には、完全雌雄同体の人もいますから、異性も同性も関係ありませんよ。」
「ものすごく背徳感があるのう。」
「まあ、その気になる人達はほんの一握りですが。」
「あとの人達は、どうなんですか。」
「あとは、使命感にかられて、教えを説いて回ったり、神の啓示を伝えに行ったり忙しく天界と地上とを往復していますよ。あとは、地上に行ったまま帰ってこない人とか。まあ、使命に燃えすぎて病んだり、人に恋愛感情を持って堕天したりですねえ。」
「堕天したのに人に恋していないんですが。」
「私は、地上に降りて仕事をしているのです。恋愛はしていません」
「本当ですか~?」
「コメントできません」
「嘘は言えないですしねえ。」
「でも、私モテ期ありませんでしたよ~」
「エルフにとって100歳なんて子どもじゃろう」
「他の子はモテてましたよ~やっぱりだめですかね~」
「まあ、持って生まれたものじゃからのう」
「というか、あんた特殊な生まれでしょう?」
「そうですけど、けっこうエロい目では見られていましたんですけど~。直接のアタックはありませんでしたよー」
「メアさん」
「私は、惚れっぽいので自分から行きますから。惚れられた事はありませんね。」
「それであれがつぼったと」
「はい、それはそうです。私の反応速度を超えたとっさの瞬発力、そして有無を言わせず口を塞いだあの強引さ、たいへん衝撃でした。ですので、たやすく好きになりました。」メアは、頬を染めて話している。恥ずかしいですね。
「あのシチュエーションでねえ。わからないわ」アンジーが頭を振っている。
「ギャップ萌えという奴ですね。」メアがさらりと言う。
「私の頭除いたの?」アンジーが驚いている。
「いえ、薬屋の魔法使い様の頭の中です。以前聞いた言葉のデータベースから拾い出しました。」
「やっぱりそういうことなのね。本当にあっちにもこっちにもそんなのばかりが現れて、ここの神様は一体何をしたいのかなあ。」アンジーがため息をついた。
続く
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いきなり第二部から読んでも面白い話になるよう作っています。
更新は不定期です……気長に待って下さい。
異世界でのんびり暮らしたい!?
日向墨虎
ファンタジー
前世は孫もいるおばちゃんが剣と魔法の異世界に転生した。しかも男の子。侯爵家の三男として成長していく。家族や周りの人たちが大好きでとても大切に思っている。家族も彼を溺愛している。なんにでも興味を持ち、改造したり創造したり、貴族社会の陰謀や事件に巻き込まれたりとやたらと忙しい。学校で仲間ができたり、冒険したりと本人はゆっくり暮らしたいのに・・・無理なのかなぁ?
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