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第5話 Return to the最初の町

第5-2話 最初の家へ

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○ 帰り道

 あの男を引き渡してから、皆さんと合流しての帰り道
「あそこは、立ち退きをさせようとしていたらしく、かえって解体の手間が省けたと笑っていましたねえ。なので、建築作業は無くなったみたいです。」
「こうしてみると、また踊らされた気がしないでもないが。」
「と思いますが。誰ですかね?彼女との戦いを止めた人は。「あの方」とエースのジョーは言っていましたが。」
「あの方・・・か」
「気になりますか?アンジー」
「え、ええ、どんな人なのでしょうか」どうも歯切れが悪いですね。誰か心当たりがあるんでしょうか。
「人なんですかねえ」
「なぜそう思うのですか?」ユーリが不思議そうに聞く。
「どうも人と言うよりは、魔族とかなんじゃないですかねえ。」
「でも、それならあなたをさっさと殺しておいた方が良いですよね、なんで中途半端に助けるんですか?」アンジーが疑問をぶつけてくる。
「ですよねえ。もしかしたら試されているのかもしれませんね。」
「試す・・・ですか?」ユーリが首をかしげている。
「敵になるかどうか、まあこれだけのことをしておいて味方になれはないでしょうけど、能力が低ければ相手にする必要もない、そう考えているのではないですかね。」
「ちょっかいをだす必要はありますか?」メアも不思議そうだ。
「まあ、成長しているかどうかを見きわめたいというのは、考えすぎですか。」
「考えてもしかたなかろう。どのみち襲ってくれば対応せざるを得ん。」
「こちらから反撃できないのがちょっと。」メアさんが不機嫌です。
「反撃できるか?」
「無理でしょうねえ。あの時、お互いの魔力がパンパンに膨れ上がっている状態で雷神一閃させて、魔力の爆発も抑えてそれぞれを無事に助けるとか、それこそ神業ですよ。」
「神業。神か。」
「ええ、神様とはいいませんけど、ものすごく能力が高いですよ。」
「そんなことはどうでもよい。どうやって帰るのじゃ。歩きか?」
「ポータル使いましょう。」
「しょうがないですね。」アンジーが同意する。早く帰りたいようです。
「うれしそうにするな。わしは使いたくないわ」
「とりあえず、見てみましょう。でも、お風呂に入りたいので、明日帰ることにして、今日は、お泊まりですね。」
「そうせざるを得んな。」
「お風呂~~~」
「おお、そうであった。あのお風呂か。久しぶりじゃ。楽しみだのう。」
「そんなに良い風呂なのですか?」ユーリが不思議そうに言う。
「おお、入ったらわかるぞ。」なんでモーラが偉そうなんですか。
「食事はどうしますか。」メアが冷静に言う。
「そうですね、保存食なんてありませんよ。あと寝具も、あちらとつないでみて、あっちから持ってきましょう。」
「しようがないのう」そうこうしているうちにお風呂場に入る扉の前に立つ。
「でわ、扉を開きまーす。」
 空間をつないだときの暗黒画面がでてきましたが、どこにもつながらず、お風呂が見えています。
「そこどこですか?」
「あれ?つながりませんね。ああ、そういえば、あちら側にマーカー打ち忘れていますね。それじゃあ、つながりませんよねえ。」
「なんじゃそれは。あちら側からはつながったじゃろう。」
「ですから、こっちにはマーカーが打ってあるんですが、あっちにはマーカーを打って無いんですよ」
「使えん奴じゃ。」
「だって使わないって言ったじゃないですか。」
「とりあえず、捕まえてきました。」
 エルフィがいなくなったと思ったら弓を手にウサギらしき獣を手に持っている。
「エルフィ、狩りは得意か。」
「はい、」
 うれしそうだ。笑顔が爽やかですね。
「じゃが、一人にならんよう気をつけろと言うたじゃろうが。」
「ここは、森の奥まで警戒用の結界が張ってありましたよ~。」
「ああ、そうじゃったな。これで食事は・・・」
 モーラがそう言ってメアを見たが、悲しそうにしている。
「メアさんその絶望的な顔は。もしかして」
「はい、調味料がありません。」
 本当に申し訳なさそうです。
「しまったあああああああ。モーラ一生の不覚。」
 なんであなたが一生の不覚のなのですか?
「もうすっかり人間らしくなりましたね。最弱無敗のドラゴンさん」
 アンジーがうれしそうに言う。ああ、いいフレーズですね。ライムツリーをうたいたくなりました。
「そう言う二つ名をつけるな恥ずかしい。」

 とりあえず、食事と入浴して寝ました。当然、ベッドでは無く居間で雑魚寝です。
 なぜか、ベッドは、3人分しかありません、しかも1つは子供用で小さいですし。
 さすがに魔力量が落ちていますので、早寝遅起きです。でも、遅起きはできませんでした。

 朝になりました。すがすがしい朝です。朝食はやはり簡素な物になってしまいました。
「あー物足りん。醤油が欲しい。」
「贅沢は敵です、我慢してください。」私の言葉にメアさんが申し訳なさそうです。
「一度生活レベルを上げるとなかなか下げることができませんからねえ」
 アンジーさんそうですよね。でも我慢は大事ですよ。
「ユーリはそうでもなさそうじゃが」モーラがユーリを見て言った。
「おいしい食事だけで十分幸せです。」ユーリがうれしそうに元気に食べています。
「それはそうなんじゃが。早くもっとおいしい料理が食べたいのう。」
「おばあちゃんそれは言わない約束でしょう?」
「くだらない小芝居はやめてください。」まったくどこのコントですか。

 食事を終えて一息ついた時に私は、立ち上がりました。
「さて、ちょっと町に行ってきますね?」
「どうするのじゃ」
「あの街に戻る算段をしに、アンジーとメアさんと一緒に行ってきます。」
「うむ、」
「それで、申し訳ないのですが、」
「わしに残れというのじゃな。」
「はい、本当は全員で行きたいのですが、エルフィとユーリをお願いします。」
「エルフィは、あまり人混みに行きたくないじゃろうしな」うなずいている。
「でも、メアは一緒に行くのか?」
「ええ、メアさんは、当面の物資調達もありますので、」
「しかたないのう。」この辺は大人ですねえ。
「ユーリもエルフィも、たぶんモーラがそばにいれば安心できると思いますし。」
「ああ、こやつらに必要なのは、修羅場の経験値か。」
「はい、能力的には十分なのですが、なにぶん怖がりなので。そばで誰か叱咤してくれる人がいれば戦闘になっても大丈夫かと。」
「うむ、しかたないのう」
「本当は全員で行けると良いのですが。メアさんだけでなく、ユーリ、エルフィといきなり3人も増えるとさすがに周囲の目が気になりますので。」
「奴隷商人の面目躍如じゃのう。でも、昨日の男がホムンクルスとかエルフとか騒いでいたのじゃろう?嫌われたりせんか?一緒に帰るのであれば、しばらくいることになるし、ばれるのではないか。」
「その辺を一度行って感触を見てきます。」
「そうか、ここの町のみんなは、そんなこと気にせんと思うがな。」
「私もそう思うのですが、ユーリやエルフィにとっては、初めての土地です。しかも、最終的にはここで暮らすことになります。お互いあまり悪いイメージを持って欲しくないので」
「ああ、そうじゃな。ここで暮らすことになるんじゃな。」モーラが遠い目をしています。
「もちろんモーラも一緒に暮らすんですからね。」アンジーがさっと強く告げる。
「その話は後じゃ。さっさと行ってこんか。」
「はいはい、それではユーリ、エルフィ、おばあちゃんの面倒を見ていてくださいね。」
むくれているユーリの頭をなでてから玄関に向かう。
「なにがばばあじゃ。とっと行け。」
「では、行ってきます。」
「気をつけてな」「気をつけて行ってきてください。」「お気をつけて。」

 町への道すがらメアが言った。
「全員で移動しなくてよかったのでしょうか」
「しようがないのよ、メア。ここは良くも悪くも田舎なの。なじむまでが大変なのよ。」
「そうなんですか?」
「私はね、有翼人だから、この人に預けられたの。」
「そういえばそうでしたねえ。私も流れ者が居着いたということになっていますしね。」
「そうそう。それでこいつは私を預かることになったのよ。」
「はあ、そうなんですか」
「でも、あなたも私に懐いたフリをしていたじゃないですか。」
「そうなんだけど、でもね、他の人には懐けなかったのもあるのよ。」
「そういえば独りでしたね。」
「ええ、どこにいても独り。世話をしてもらったり、食事ももらえるけど、好奇の目で見られていたのよ。さらし者よね。」
「寝るところとかはどうしていたのですか?」
「あの、外壁の外の壊れた小屋ね。」
「最初にあった場所ですか?あそこには寝具なんて無かったと思いますが。」
「今更?そうよ着の身着のままであそこで雑魚寝よ。知らなかったの?」
「初めて聞きました。あの頃あなたは、口数が極端に少なくずーっと私の服の裾をつかんでいましたから。」
「ええ、その前はあなたが現れるまで静かにしていたわ。でもすぐあなたと出会ったの。こちらから探していたから偶然では無く必然ね。」
「そうだったんですか。あの時はそんなことになっていたなんて言わなかったじゃないですか。」
「言いたくないわよ。その後は、普通以上に町のみんなに良くしてもらっているもの。その落差がひどいのよね。」
「田舎あるあるですね。定住すると、とたんに馴れ馴れしくなるし、いろいろ世話も焼いてくる。」
「日々の暮らしに変化が無いから、好奇心の塊がやってくるのよ。まあ、無言でやりすごしていれば、勝手に解釈するからかわせもするし」
「あなたもたいがいひねくれていますね。」
「これまでも世界を外から眺めて生きていますから。」
「さて、昔話はここまでにしましょう。とりあえず情報収集してそれから、あの街に戻る算段を考えましょう。」
「はい、それと食料とか衣類の調達もします。」
「それもありますねえ。」
「お金あるの?」
「心許ないですけど。メアさん」
「大丈夫です。こんな事もあろうかと、お金は持ってきました。」
「ありがたいことです。」
「モーラも連れてくれば良かった。」
「それは、さすがにエルフィとユーリだけにはできないでしょう。」
「そうよね、メアには来てもらわないと生活必需品は用意できないし。」
 そんな話をしながら歩いているとようやく町が見えてきました。
 おや見張りがいますねえ。ああ、拉致されました。というか、いきなり町長さんのところに連れて行かれました。何かしくじりましたかねえ。

 一方、家の3人はというと。静かにしていました。何もすることがないのです。本当に。
「そういえば、買い物と一緒に帰る算段をしにあやつらが出かけていたがどうなったのか」
 家に残してあった乾パンをポリポリと食べながらモーラが言う。子どものようです。
「噂をすれば~帰ってきたようですよ~」
 エルフィが声とは裏腹にほっとした表情になった。
「ただいま帰りました。」
「どうじゃった」
「ええ、帰る方法が見つかりました。ここからあの街まで馬車を仕立てるそうで、結構な人が行くことになりました。」
「なるほど、で、わしらは乗れるのか?」
「はい、馬車は5両編成です。」
「すごい数じゃないか。」
「まあ、こちらの交渉の手駒がメアさんというホムンクルスでして、能力的に段違いなものを見せつけましたので。あと、」
 アンジーをつい見てしまう。むくれているアンジーを
「天使の加護です。絶大でしたよ。」メアが微笑みながら言う。
「ふ、不本意ながら」アンジーがすごーく嫌そうですが。
「そうじゃろう?こんなこともあろうかとあらかじめ用意しておいたのじゃ。」
「そうなんです。実はあの商隊の噂を聞いた方が、この町に行商に来た時に、アンジーさんの事を大げさに話したようで、噂が噂を呼んで大人気になっていました。」メアがうれしそうに言っている。げんなりしているアンジー。
「うんうんそうじゃろう。」モーラ満足そうですね。
「人を見世物みたいに・・・ぐす。本当はモーラがやっていればいいのに」
 いじられて涙目になってきました。そっと近づいて頭をなでます。私に抱きついてすんすん泣いています。本当に幼児化していませんか?
「わるかったとは思っておる。じゃが、わしは、表に出てはまずいと言っておろう。すまんがよろしくな。」
「か、傀儡政権ってなんですか~?」ってエルフィまで私の頭覗かないでください。
「すいません、リンクしやすくなっているんだと思います。ああ、これって浮気はすぐわかりますね~、でも、私は、浮気を3回までなら許しますよ~。」
 いや、あなたと夫婦になるとは一度も言っていませんが。私のストライクゾーン知っていますよね。
「ひどいです~、私のこと~、もてあそんだんですね~」いやいや、そんな事実はどこにありますか。
「勝手に~私を隷属させておいて~、ひどいです~。しかも年増とか~行き送れとか~思っているんですね~。」
 いやいやそんなことも思っていませんよ。エルフにしては若い方なんですよね。でも、エルフさん早熟ですから、もう私のストライクゾーンをとうに越えています。
「ひどい~、ひどいです~。」
「もうそのへんで小芝居はやめておけ。それで、いつ出発じゃ。」
「2週間くらいはかかりそうです。なにせ皆さんここぞとばかりに街に行きたがりまして、旅団を編成するのに時間がかかるそうです。」
「なんじゃそれは、大丈夫なのか?帰りは命の保証はないのじゃぞ。」
「それは、次の商隊について帰ってくるそうです。」
「そんなにすぐ来るのか?」
「これを機に貿易を拡大するみたいです。そのための交渉とルートの調査だそうで。」
「死んでもしらんぞ」
「だから!!こんなややこしいことにしたので誰ですか。」
「まあ、それならしようがないのう。」
「とほほ、やっぱりモーラの手の上に乗って帰った方がいいんじゃないですか?」
「じゃから縄張り侵犯じゃと何度言えば。」
「これを機にどなたか友達を」
「今更無理じゃ。」
「しばらくはここで平和に暮らせそうですね。」
「たぶんそうなるのじゃろう」

 翌日、エルフィとユーリを連れて町まで行ったが、アンジーとともに暮らす家族であると紹介するとすんなり受け入れられた。(のちにアンジー効果と言われる)
さらに馬車の護衛の戦力として加わることになった。
「ユーリは経験者ですけど、エルフィは、大丈夫ですかね」
「一応冒険者やっておったのだから大丈夫じゃろう?」
「そういえばそうでした。」

○そうしてしばらくはお家に
 久しぶりの家ですが、なにぶんにも人数が増えてしまい、部屋を作ろうにも時間も無いので、毎日リビングで雑魚寝です。
「2週間のしんぼうじゃなあ」
 あれから、私は、町に行って、旅行中の魔獣対策として戦闘訓練を本格的にしないとまずいと力説しまして、訓練期間を1週間増やしました。そのくらいでは何も変わらないとは思いますが、天使の加護が薄れているから何が起こるかわからないということにしましたので。
「ですね。」
「あのお風呂すごいですね。入っていてリラックスできるし、入った後も湯冷めしない、どういう原理なんですか?」ユーリが目をキラキラさせている。
「浴槽の木の材質と脱衣所の気密に秘密がありますよ。」
「そうなんですか。やはりこだわりは必要なんですね。」
「この家で一番こだわった部屋ですから。」
「自室とか厨房とかにはこだわりませんでしたねえ」
 一緒に作っていたアンジーもその時のことを思い出しながら言いました。
「自室は、寝るだけでしたし、厨房は、こだわるほど料理しませんでしたしねえ。調味料も塩とこしょうくらいでしたから。」
「私は納得いきません。このような狭い厨房では、料理がしづらくて。まったく料理をする人の動線を考慮していませんね。」
「そうですね。なにぶん2人暮らしを想定していましたから。」
「そうです。私との愛の巣になる予定・・・おっと誰か来たようだ。あわわ」
 アンジーすっかり立ち直ってよかったです。
「何をくだらない芝居をしておるのじゃ。しかし、確かにあの街の借家からすればかなり小さいし稚拙ではあるな。」
「初めて建てた家ですよ、勘弁してください。それならこちらに皆さんと戻ってこられた時には新しい家を建てましょうか。」
「良いですね。そうしましょう。」
「わしが遊びに来ることも考えてくれるじゃろうか。」
「え?一緒に暮らさないんですか?ああ、ネストもありますし。その姿じゃ不便ですものねえ。」
「一緒に暮らさないのですか?」ユーリが寂しそうに聞く。
「そう言ってくれるのはうれしいのう。」手を伸ばしてあたまをなでる。微笑ましいですね。
「そういうのは帰ってきてから考えましょう。ね。」
「そうですね。」
「ご主人様、お願いがあります。厨房のレイアウトを直していただいても良いですか?」
 メアさんが真剣な顔で言う。
「いいですけど、すぐできますか?」
「はい、すぐできると思います。」
 そう言って私の腕をつかみ腕を抱え、胸をぐいぐいと押しつけながら台所まで移動します。ちょっとドキドキしています。
「どうしますか?」
「では、この洗い場を少しずらして、作業場所を大きくしたいのです。」
「であれば、対面型にしますか。」
「どういう形ですか?」「調理したものを手渡しで居間にすぐ渡せる仕組みです。」
「なるほど、そういう仕組みもあるのですね。」
「メアさんの料理する後ろ姿が見られなくなりますが、顔が見えるようになりますよ。」
「ぜひ。」ちょっと頬を染めているのが可愛いです。
 そう言って、厨房のレイアウトを変える。水の配管が少し面倒でしたけど、火は元から調理台の下に炭が入るようになっていますので、移動は簡単でしたね。

「なるほどのう、うまく変更するものじゃ。」
 居間から台所が直接のぞけるようになりましたので、ひょこっと顔を出しています。
「これでかなり作業がしやすくなります。」
「6人分だから大変ですものね。」
「作業スペースがあれば、そんなに面倒ではないのですが、何分狭いので」
「さあ、これで夕食にとりかかれます。」
「食材は大丈夫ですか?」
「はい、先ほど皆さんから天使様への貢ぎ物としてたくさんいただきましたので。」
「アンジー、リクエストはありますか?」
「ご飯よりもお菓子食べたい。」
「それは、明日以降ですね。」
「本当?」
「ええ、材料が確保できたらですけど。」
「わーい」子どもですか
「その際にご主人様。かまどがもう一つ欲しいのですが。」
「えーーーー。」
「お父ちゃん頑張ってー。」
「ええ、頑張ります。今回は、アンジーが一番頑張ってくれていますから。」
「う、うえーーーんありがどう」アンジー、最近涙もろくなっていませんか。
「違うもん。地が出てきただけだもん。」
「いままで、しっかり者を演じてきたのですね。で、ちょっと甘えてみたくなったんですね。」
 メアさんがダメ押しのようにつぶやいた。
「知らない!!」アンジーは、そう言って居間に走っていった。なんだかエルフィの胸にダイブして胸をめちゃくちゃに揉んでいますけどいいんですかねえ。
「ご主人様、失礼な想像はやめてください。」
「え?ああ、そうですねすいません。」
「そうです。メア母さんと4姉妹とか、私は母ではありません。」
「そうですねえ。エルフィがおっとりおばあちゃん的な感じになるので、3姉妹ですか。」
「私が母親の立場は変わらないと。」
「しっかりしたメイドさんですかねえ。」
「それなら良いです。」
「いいんですか?」
「少なくとも、妻になる可能性がありますから。」
「ああ、なるほど。」
 厨房のかまどは、翌朝作りました。いろいろと注文が多いので何回も作り直しました。なんでもピザが作れるような奴なんだそうです。作れるんですか?

 そうしてほぼ毎日のように町に行き、合流して、森で魔物や獣を追い立てて訓練をしました。なにげにメアさんの気合いが入ってしまい、鬼軍曹と呼ばれていました。軍曹ってこの辺の言葉ではありませんよね。メアさんが軍曹と呼べと言っていたんですか。なるほど。

 ついに前々日になりました。しかし町では盛大な壮行会になっていました。
 うかれすぎていませんか?大丈夫なのでしょうか。
 その日の夜、ここの町長の発声で宴会が進む。もちろん、肉などは、遠征組のコンビネーションを訓練するためにわざわざ森の中で魔獣を狩っていたので、かなりの量になりました。あとは、酒、酒、酒です。どこにこれだけの量があるというのか、と思えるぐらいの量が酒場にあった。樽が酒場の裏にあったようだが、どんなに追加しても出てくる。その場で醸造していませんか? 

 宴会と言えば、ケンカもよくあります。でも今回は、酔っ払いの小競り合い程度ですんでいます。もちろん、険悪な雰囲気も何度かあったのですが、うちのドラゴンと天使様が間に入って双方を諫めるという役回りで和やかな雰囲気で進んでいました。それでも、モーラが飲み過ぎて酔っ払ったため、ちょっと迷惑な存在になってしまい、さらにいわゆる絡み酒になりそうだったので、酔っ払う幼女には早々に退場いただくことにしました。
「ユーリお願いできますか。」
「はい、こんなモーラさん初めて見ました」
「まあ、モーラの正体なんてこんなものよ。」アンジーがうそぶく。
「にゃにおう、わらしのなにがわかるぅというのら」いや、机たたいても可愛いだけですから。
「ようしわかっら、ここでわらしのほんろうのすがらを・・・」服を脱ぎ出そうとする。
「いやいや、ここで本当の姿さらしたら建物壊すでしょう。」
 私は、服を脱ごうとするモーラを止めて、ユーリと一緒にモーラを抱えて外に出る。アンジーにはあとよろしくと目で合図して。
「楽しかったんですねえ」酔いを覚ますために少し外で座っている。
「そうみたいです。お祭りだからとけっこうお酒飲まされていましたから。」
「悪い大人が多いですね。まあ、モーラはお酒大好きなのでしようがないですけど」
「そうなんですか?」
「ええ、この姿になったのも飲み過ぎて暴れるのを防ぐためだと言っていましたから」
「そうですか。」
「連れ出してしまって今更ですが、ユーリは残りたかったですか?」
「どうでしょう、お酒はあまり好きではないです。苦いので」
「そうですね、わたしもあまり好きではありませんよ。でも、傭兵団の方々は大好きでしょう?うまく避けられたのですか?」
「ええ、まあ、乾杯の後、具合悪いふりをして逃げ出していましたから。」
「そういうのは、うまくなりますよね。」
「あるじ様もそうだったんですか。」
「そうみたいですね。でも、宴会で騒いでいるのを見るのは好きでしたよ。うらやましいなあって思って見ていたみたいです。」
「僕も今なら、皆さんと騒いでみたい気がします。でも、お酒が・・・」
「お酒じゃなくても宴会は楽しいですよ。」
「そうですね。」
「さて、眠ったようですし家まで戻りましょうか。」
「いいのですか?」
「アンジーもメアさんもいるので大丈夫かと思います。それに女の子を夜に一人歩きさせることはできませんから。」
「ありがとうございます。うれしいです。デートみたいで。」
「では、手をつないで帰りますか。」
「はい」モーラを背中におぶりユーリと手をつないで帰りました。

 その頃、宴会をやっている酒場では、次なる騒動が起きていた。
「いってぇ」そう言って、手を振っている男がいる。エルフィがテーブルで寝ている。
「なんだよ、こいつは、寝ているので手を貸そうとしたらいきなり・・」
「おや、下心が気付かれたね。」宿屋兼居酒屋のおかみさんが笑っている。
「いや、そんなことは、まあ、少しはあったけどよ」
「どけよ俺が」手を肩に掛けようと触った瞬間。見えない手がそれをはらう。
「うわっ、なんだ手が見えねえ。起きてるんじゃないのか?」
「これはすごい、条件反射じゃのう。」町長が笑ってみている。モーラじゃないよ。
「男はこれだから、どれ、わたしが」そう言って女店員が手をかけると。やさしく手を払った。
「なるほど、悪意を感知しているんでしょうか。」
「すごいですねえ。」
 メアさんが感心しているが、周囲はシーンとなってしまっている。まあ、興味本位というのが本当のところでしょうか。
「では、わたしが」メアさんが近づき、手を掛ける。エルフィが手を払う。その攻防が何度も繰り返される。どんどんスピードがあがり、お互いの手が見えなくなる。
「すごい、すごい速さだ」
 何でか知らないが、見ている方から拍手がでて、拍手がだんだん大きくなる。
 メアさんが、「これで終わりにします。」そう言って、周囲の空気が冷たく感じるほどの気合いを込めて、手を突き出す。それさえも反射的に止めたエルフィの裏拳をメアさんは受け止め、腕を決めつつ、脇からすくい上げ軽々と抱え上げる。そこまでされてもなお、相変わらず、エルフィは寝ている。
「猛獣使い・・」
 周囲からはどよめきと共に言葉が漏れる。そして、再び拍手が沸き起こる。
「いえ、そのようなことはありませんよ。酔っ払いの対応は初めてではありませんので。では、これにて失礼します。場の雰囲気を壊してしまったことをお詫びします。」
「いやいや、結構な余興をありがとうございました。明後日はよろしくお願いします。」村長が微笑んでいる。
「それでは失礼します。」
 エルフィを抱えたままスカートの裾をつまみ膝を落としてお辞儀をして、扉を開けてくれたアンジーの横を通って外に出て行く。アンジーはお辞儀をして扉を閉める。
「助かったわ、どうしようかと思ったもの」
「いえ、すでに酔いは覚めていると思われます。」
「そうなの?」
「はい、肩に担ぎ上げるときには、すでに素直にしていましたから」
「エルフィ?起きてる?」
「・・・はい・・・」
「あれって条件反射なのよね」
「どうも、そうらしいんです。」
「それは、大変な苦労をしていますね。」
「・・・は・・・い・・・恥ずかしくて起きられません。出発日までどうしたら・・・」
「誰も気にしてないわよ。」
「でも、旦那様に知られたら・・・」
「ちょっと前に酔っ払ったモーラを連れ出しているから、気にしないと思うわよ」
「そうでしょうか。」
「気になるなら黙っていてあげるわよ。でもお酒が好きでも弱くて、さらにすぐ醒めるってすごいわね。」
「はい、でも、寝ているときの記憶が無いので、不安で。起きたら周囲が苦笑いしていることも多くて。」
「それでもお酒が好きなのね。」
「はい、お酒を飲んで寝てしまうとき、そして酔いが醒めて起きだすとき、周囲の雑然とざわついている雰囲気が好きです。うれしくなります。」
「そうなのね。」
「そろそろ降ろしてください。」
「大丈夫ですか?」
「それよりも胸が苦しくて。」
「抱え方が悪かったですね。」
「ごめんなさい。」
「謝る必要はありません。持てる者のつらさですね、参考になりました。」
「とほほ。ないものの悲しさを感じるわ。」
「そうですね」
 そうして、3人には家に戻った。居間でみんなで寝ていたが、モーラのいびきであまり眠れなかったのです。ええ、最初から別な部屋に隔離したのにです。


 続く
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