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第5話 Return to the最初の町

第5-1話 襲撃

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○ リターンとぅざ最初の町

 その日は、森の中でガサゴソと薬草採取をしています。
「のう、耕作した方が早いんじゃ無いのか?」
 そういいながらしっかり手を動かしているモーラ。作業が手慣れてきて、だいぶ様になっています。
「うーん、やってみたんですけど、薬草としての効果の伸び方がイマイチになるんですよね。地脈から魔力を吸い上げる力より太陽光を吸収し始めるので」
「この、かがんで作業するのは、子どもでも厳しいと思うが。おぬしは大丈夫なのか?」
「皆さんにコロ付きの台車を作ってから皆さんは楽になったと思うんですが、つらいですか?」
 労災の適用が必要ですかねえ。
「つらくはないが、この単調な作業が面倒なのじゃ、なんかこうぱーっと採取できんものか」
「あー、群生地を荒らすことになりますからねえ、やりたくないんですよ。乱獲は絶滅の元なので。絶滅して株自体に無くなられると繁殖もできませんので。」
「一応そこまで考えておるのじゃなあ。」
「無から有は発生させられません。現在の私の魔法技術レベルでは。」
「なんじゃ、理論上は可能なのか。」
「ええ、遺伝子レベルはこの目で見えますので、考えてはいますが、さすがに私の知っている範囲の魔法理論では、繁殖までは無理です。」
「空間はねじ曲げられるのにのう」
「いや、本当に師匠が欲しいです。」
「路銀はたまっていないのか。」
 腰をさする幼女とか、あまり見たくありませんねえ、
「お金が稼げる効率の良い仕事に就くための資格証の発行にお金がかかりまして、まだ登録できていないんですよ。生活するのが精一杯なのです。」
「なるほど、なんでも金か。先の坊主の件で魔法使いから何かもらえなかったのか。」
「最初の約束の時にそばにいたじゃないですか。モーラが今後の旅先の「幸運」を選んだじゃないですか。」
「他に何か、くれても良いものじゃが、」
「それでも、薬は高く買ってくれることになっていますから。」
「そろそろお昼ですよ。」
 メアが太陽を見ながらみんなに声を掛ける。草むらに入っていたみんながわらわらと出てくる。
「もう少しお金が欲しいですね。」
「森で獣を狩るのも楽しいのじゃが、食事がなあ単調になる」
「ドラゴンの時にはそんなこと言っていなかったじゃないですか。」
「この体になって、「おいしい」を憶えてしまってからは無理じゃのう。あとスイーツも」
「人間化と幼児化も加速していませんか?一度ドラゴンに戻った方が。」
「ドラゴンの食事、というか、わしのエネルギー摂取は特殊じゃから味気ないのじゃ。」
「一気に吸い込むとか?」
「わしの場合大地に座っているだけで、自然に吸収するからおなかがすかないのじゃ。」
「それで一日中座っていたのですか。」
「まあ、それだけの理由で座っているわけではないのだか。」
「こんにちは」
 おおう、初めての声ですよ。頭にひびく声が聞こえました。
「えーどちらさまですか?声に記憶はありませんが。どこかでお話ししたことありましたか?」
「いいえ、初めましてですね。こちらに土のドラゴンがいると聞いて尋ねて参りました。確かモーラと名乗っているはずですが。」
「ん、誰じゃ?わしの名を知っておるとは、はっ上か?」
 全員が空を見上げる。風で流れてくる雲かと思ったら、ドラゴンが滞空しています。おお、壮観です。モーラは、いつも座っていたので大きいとは思っていましたけど、このぐらいのスケールなんですね。
「あっ。おまえか」
「はい私です。」
「うむ、どこかで話そうか。山頂でも」
 モーラがメタモルフォーゼを始めました。
「いえ、こちらが小さくなります。」
「それは助かる。って小さくなるじゃと』
「はい。」
 空中で急に米粒ほどになったと思ったら、かなりのスピードで落下してきました。
 地上すれすれでふっと制止したあとふわりと降り立ちました。あれ?女性の姿ですね。
 この辺では見ない服装です。スーツっぽいスラックスにショートカットで有能なOLのようないでたちです。
「初めまして。わたくし」
 お辞儀をして挨拶してくれています。礼儀正しいですね。
「お主、真名は言うなよ。」
「ええ、その噂も聞いていますので、注意します。でも、格は私の方が上ですので大丈夫でしょう?」
 さりげなくお話をしていますが年齢、もとい気品が感じられます。
「あ、あの時とて、こやつの邪魔が無ければ隷属などしておらんわ」
 そう言ってモーラはアンジーを見る。ニヤニヤしているアンジー。あの時はうれしそうでしたものね。
「あら、そうなんですか?その方に惚れてしまったと噂になっていますよ。だから隷属しているのだと。」
「ああ、誤解があるようじゃな。この者に隷属しているのは、この姿の時は、何かと制限されるのでな、不足する魔力を供給してもらうのに都合が良いからじゃ。隷属はいつでも破棄できるようになっているのでな。」
「あら、そうなんですか?魔力が不足する?」
 そう言いながら私を見る。
「はい、うちの皆さんは、いつでも自分から解呪できますし、魔力回復も私からできますよ。初めまして。いろいろ噂になっている当事者です。よろしくお願いします。」
「ああ、挨拶がまだでしたね。私は風のドラゴンです。こちらこそよろしくお願いします。と言っても、これでお別れかも知れませんが」
「そうなんですか?」
「わかっていますよね?」その人はモーラを見る。
「そういうことか、でも、わしは戻らんぞ。」
「誰かにお願いしてから旅立てば良かったのにどうしてそうしなかったのですか?」
 OLというよりは、教師のような説教モードです。
「いろいろ面倒だったからじゃ。」
 お二人で大きな声で話している姿は、本当に生徒と先生みたいです。まあ、子どもの方の言葉遣いはちょっと問題ですが。
「やっぱりそうだったのですね。本当にしようのない方ですね。」
「わしには知り合いもおらんしなあ」
「そういうところがダメなんです。あの町でちょっと騒動が起きていますので、対応してくださいね。」
「あ?あの騒動のことか?あんなもの、静観するしかないじゃろう。人間同士の小競り合いじゃ。一応、あの町はここから様子がわかるから知っておる。たいした話ではない」
「ならば、このあと魔法使いが出てきてもよいと?」
「え?単なる諍いだと思っていたが、そんな話になっておるのか。それはまずいな。町がなくなってしまっては、町の人も困ってしまうな。それはまずい。」
「私がここまで来ているということでその重要性がおわかりでしょう?」
「ああ、わかった。」
 今度は私の方を向いてモーラが言った
「すまぬおぬし、あのゲートを使わせてくれ。すぐに戻る必要がありそうじゃ。」
「良いですけど、一人で大丈夫ですか?手伝いますよ」
「そうじゃな、みんなすまぬが、一度戻ってもらえるか。」
「では、家に戻ってゲートであの町に戻りましょう。」
「んー。さっきはとっさに使うと行ったが、本当に大丈夫なのか?いや、それくらいの距離ならわしらならすぐ行ける距離じゃ。わしが飛ぶ」
「私たちが乗っても大丈夫ですか?」
「そんなにスピードを出さなければ、大丈夫だと思いますけど」
「みなさんも戻るのですか?」
 びっくりしたように風のドラゴンさんが言った。
「ええ、当然です。すでに私たちは家族みたいなものですから。」
「本当に変わりましたね。あなた」
 そう言ってしげしげとモーラを見ました。
「何を言うか、わしは変わっておらんぞ。」
 何を照れているのでしょうかモーラ
「人の形となる、旅をする、人々を助ける。そんなこと今までしていましたっけ。しかも町の問題を知らせに来たら、何とかしようと戻ると言い出す。少なくとも今回の問題を放り出さなかったのはほめてあげますけど、旅をしていなかったら放置して洞窟の中で静観したのではないでしょうか?」
「教えに来たお主が言うか。」
「知らせなかったらあとで外部の人からいろいろ言われますから、一応ね」
「わしの反応を見に来たな?」
「それもありますね。皆さん興味津々ですよ、不動のドラゴン、土の・・・おおっとモーラさん」
「別に真名をいっても問題ないぞ、言って欲しくはないが。」
「そうでしょうか?」
 クスリと笑った。
「では、お知らせしましたので、お役御免ということで、」
「わざわざ教えてくれて、あ、ありがとうな。」
 モーラが照れている。言われた方はびっくりしている。
「旅に出るのも良いことですね。」
 そう言うと人の体のまま風に乗るようにふわりと空中に浮き上がり、ドラゴンになって飛び去っていった。ただ、暴風を巻き起こして。飛ばされるかと思いました。
「さて、戻りますか。」
「すまぬな、」
「何を謝っているんですか。」
 アンジーが怒っている。
「いや、いろいろと」
「いいですか、私たちはみんなで一つなんです。前回のように3人で勝手に暴走したりするのはやめてください。まあ、足手まといの私が言っても説得力は無いですけど。話くらいはしておいてください。心配しているんですから」
「そうですよ。もう、あなたひとりじゃないんですよモーラ。」
「わしは土のドラゴンじゃ。実のところ人付き合い、ドラゴンづきあいもあまりせん。それでよしとしていた。これまでもこれからもそうで良いと思っていた。が、おぬしに会った。本来全く会わないはずなのに何度も出くわしてしまった。さらに怖がりもせず、馴れ馴れしくも無く。適当な距離を取っていてくれた。そして話し相手になってくれた。それがありがたかった。わしは本当のところあの町に何が起ころうとどうでもよいと思っていて、これまでも何が起きても静観してきた。それがドラゴンというものなんだと。でも、おぬしから町の話を聞くたび、そうではないと言うことに気付いた。ああ、気付かされた。気の良い宿屋の女主人。労働者の元締めの酒飲み、みんなで協力してやる石壁の修理。お主から聞かされ、あたかもそこに暮らしているような錯覚にとらわれたこともある。実際、遠目で見ていたりした。そして旅の話になった。その時にアンジーと初めて会ったが、すでに何度か一緒に暮らしている子どもの話は聞いていたので、天使だったという事を聞かされびっくりした。でもな、それ以上に興味を持った。なぜ今おぬしがわしの前に現れ、そして天使が現れその2人が旅に出ると。これは、わしに与えられた転機なのだと、ドラゴンの役目など何も無いと思っていたが、これがわしの役目なのではと思ったのだ。そうして、旅立つ前にお主の所に住み、馬車を作っているときに何度もあの町をおとずれ、住んでいる人々と直接触れあった。そこには、倦怠も怠惰もない。みんな生き生きしていた。生きることを精一杯頑張っていた。まぶしかった。うらやましかった。改めて自分はこの土地を守っているといいながら役目を放棄していたことに気付いた。もちろん直接的な介入をすべきではないのだ。だが、少なくともなにかしらの危機が訪れているのなら後悔しないように動かなければならん。今は、そんな気になっているのだ。」
「ならばなおのこと、私たちが必要ですね。」アンジーが言う
「あなたが困っていて、でも、あなたが直接手が出せないなら、私たちが代わりにやればよいことです。たとえそれが、ドラゴンの理にかなわないことでも、あなたは知らない顔をしていれば良いのですから。」私の言葉に全員がうなずく。
「すまぬ。わしのわがままにつきあわせることになるかもしれない。」
「まーったく。みんなお人好しですね。でも、かかわってしまったら巻き込まれましょう。それが、この人と関わってしまった者達の宿命ですから」アンジーさん、この人って私ですか。指さして言いますか。
「一度、家に戻りましょう。旅支度して、家の前に張り紙をして」
「はい。」

 結局、あのポータルを使うのは恐いという理由でモーラの手のひらに乗せられています。いや、空の旅だとみんなわくわくしていましたが、そうはなりませんでした。
『声も出せないのですが。』
 みんなかがんでそれぞれモーラの体にへばりついている。
『しようがないですよ。高速で飛んでいますから。』
『ドラゴンのうろこが固いわけがわかりました。こんな風の抵抗を受けて平気でいられるんですねえ。というか、すごく高くて恐いです。』
 ユーリが残念そうに言う。指にしがみつき風景を見る余裕もなさそうだ。
『そういわずに下を見てください。山や川が見えますよ。とても綺麗です』
『そんな余裕ありません。恐いです。』
『ユーリ慣れてください。帰りもありますよ』
『ええっ、エルフィさんどうしましょう。』
 エルフィは飛び上がったときから下を見られず、ユーリと一緒にモーラの指に捕まって震えている。
『到着じゃ。』
 ふわりと滞空してゆっくりと降りていく。風景には見覚えがある。ああ、いつものドラゴンさんの住処なんですね。
『あたりまえじゃ、お主の家に行ったら、町中大騒ぎになるわ』私たちを手から降ろして、幼女の姿に戻る。
「え?ドラゴンのままじゃないんですか?」
「うむ、一緒に行くつもりじゃ。」
「しかしその体では、」
「実際、何が起こっているのかわからないと対処のしようも方向性も決められん。連れて行ってくれ。」
「わかりました。でも、中には入らないで外で待っていてくださいね。私だけで様子を見てきます。」
 みんなで町のそばまで走って行く。アンジーはさすがにメアさんの背中に乗って移動している。
「では、ちょっと見てきますね」
 そうしてみんなを置いて、私はアンジーと二人で町の中に入っていく。


○何が起きたのか

 私は、町の一番入り口に住む男の人が、外に出たのを見て声をかけます。
「こんにちは、お久しぶりです。ずいぶん静かですが、一体何が起きているんですか?」
「あれ?おまえ、行商に出たんじゃないのか?」
「忘れ物があって戻ってきました。」
「忘れ物って、ここは、そんな簡単に帰ってこられる所か。」
「モーラがどうしてもって言うので」
「モーラ?ああ、新しく連れ子にした子どもだっけ。」
「ええ、そしたら何か町の雰囲気が変なので、何かあったのかと思いまして。」
「変なやつが魔法使いを出せだのエルフやホムンクルスがいるだろうだのと、うちの町長に因縁をつけているのさ。ここにいるはずだから隠すな。とね。
 しまいには、出さないならこの町を潰すとまで言っていて、その期限が明日なんだよ。いないものはいないし探してもらってもかまわないと言っても信じないんだ。困ったものだよ。」
「なるほど。皆さんは直接その人達には会っていないんですね。」
「ああ、だが広場に何か書いたものを立てていったから、読んでみるといい。」
「わかりました。」
 そうして、私は、一度町の外に出て、皆さんにその話をしました。
「何が書いてあるんでしょうねえ。」
「さあ、ハイエルフとかホムンクルスとか言っていたそうなので、皆さんを待たせてきて正解でしたねえ。とりあえず、その看板を見に私とアンジーで行ってきますね」
「そうか。すまないが頼む。」
「大丈夫、親子にしか見えないから。出会ったらあっちも気を許すでしょう」
「わしじゃあだめか」
「気配を消しても匂いがねえ。可愛い幼女の匂いにほんの少しドラゴンぽい匂いがしていますから。」
「そうなのか?」
 思わず匂いを嗅ぐモーラ。
「うそよ。」
「こ、こんなときに冗談を・・」
「余裕が無くなっているわよ。モーラ。落ち着いて。」
「すまぬ。どうもこういうことは初めてでな。落ち着かん。」

 そして、私とアンジーは、広場に向かっています。広場?そんなものありましたっけ。
「さて、そうは言ったものの何が起きているんでしょうねえ。」
「まあ、看板見るしかないんじゃない?」
 今回は意外に怯えていませんねえ、アンジーさん大丈夫なんですか?
「広場と言っても、そんなのどこにって、おや、でかい広場がありますね。こんなのありましたっけ。というかここにあった建物が無くなっていませんか。いつできたんでしょうか。」
「横にその建物の残骸があるわねえ。どうみても壊れているけど、」
「こんなことして、住んでいた人は大丈夫だったのでしょうか。」
「殺しちゃあいねえよ。」
 後ろから声がする。気配がありませんでした。いや、気配はありました。私が不注意でした。振り向くと男がひとり立っています。いかにも柄が悪そうな顔立ちと貧相な福相です。
「なぜこんなことを?この町の人があなたに何か悪いことをしたんですか?」
「みせしめだな。知っていることを話さないからな。」
「気に入らないから見せしめにこういうことをするんですか。迷惑な話です。」
「というか、おまえ誰よ。この町の者じゃないな」
「ええ、旅人です。以前立ち寄ったことがあるので、懐かしくなって来てみたらこんなことになっていました。あなたがやったのですか?」
「そうさ。あまりにも頑固なんでな」
「知っていることを話さないと言いましたが、本当に知らないという事はないんですか?」
「それはない、だって信頼できる奴から聞いたからな。」
「またですか。」
「またですか?だと」
「その人が嘘を言っているとは思わないんですか?」
「そんなわけないだろう。そいつが嘘をつく理由がない。」
「いいですからその人にもう一度聞いてみてください。どうするんですかこの有様。間違っていたらこの建物を元に戻せるんですか。」
「いや、そのままだよ。そんなの」
「人が生活しているんですよ。ここには、」
「だから作り直せば良いだろう。」
「あなたが直すんですよね。」
「は?なんで?俺が?」
「壊したのは、あなたなんですよね。」
「だから?」
「もし間違っていたら、直してくださいね。」
「ああ?誰に向かって言っているんだおまえ。」
「あなたに向かって言っていますよ。」
「ほう、俺に直せって言っている訳か。なるほど。」
「そうです。あなたに直せと言っています。それとも壊すしか能が無いのですか?」
「ああ、ついでにお前も壊してやるよ。」
 そう言って男は、私に近づこうとしたので、指を鳴らして動きを制する。
「な、なんだこりゃあ。」
 その男の周りに半透明な球体が現れ、男を包んでいる。
「あなたを囲む結界です。とりあえず。あなたにはこの町から外に出てもらいます。」
「あ?」
「転がしてね。」
「なんだと」
  球体の中に閉じ込めてその球体を蹴り飛ばす。ゴロゴロと走り出す。しかし、男の重みですぐとまる。今度は、飛んで蹴る。バウンドして転がり出す。
「とりあえずこの町から出しましたよ。」
 隣を歩くアンジーに言いました。
「やりかたが派手ですよまったく。あれだけ怒らせて、私に矛先が向いていたらどうするんですか。私が殺されるかと思いました。」
「すいません、つい怒ってしまいました。」
「でも、話に出てきた魔法使いではなさそうですね。」
「そうですねえ、魔法使いではありませんねえ。彼に教えた何者かですか。」
「用心したほうがよさそうね。」
  そう言って2人で町から出ました。一応、皆さんには、離れてついてきてもらってます。
 少し先の道路に、先ほど蹴り飛ばした球体が止まっている。さらに蹴って、森の方に向かう。球体の中で何か叫んでいますが、聞こえないふりを何回も蹴ります。そのうち目が回ってぐったりしているようですが、気にしないで蹴り続けます。
 森の中の少し開けたところで球体を蹴るのをやめる。最後の方はぐったりしてしまい。うまく転がらなかったので、ほとんど蹴り続けていました。足が痛いです。
「さて開けますか」
 私が手を触れると球体が砕け散る。その男は私に飛びかかろうとした。気絶したふりをしていたようですね。私はとっさにシールドを張ったので、彼はぶつかり、はじけ飛びます。空中で体制を立て直し、しゃがみ姿勢で着地して弾かれた勢いを殺しながら静止しました。
「やるじゃないか魔法使い。」
「このまま続けますか?ちょっと怒っていますからあなたを傷つけずに終わらせられそうにないのですが。」
「はん、やれるものならやってみな。」
「いいのですか?容赦できませんよ。」
「やってみろよ。」
「では、お言葉に甘えて。」
 パチリと指を鳴らす。その男は、とっさに右に動いた。
「ふん、おまえの話は聞いた。指を鳴らしたら、腕が切れる幻覚を見せると言っていたな。だが、当たらなければ、どうって事無いみたいだな。」
 そう言って腕を振ってみせる。
「そうですか?」
 私はそう言った。その男は腕を振った反動で自分の腕が飛んでいくのを見た。
「あ?なんだと、」
 自分の腕のあった部分をまさぐる。腕が無いことを確認している。
「急がないと元にもどせませんよ、なんせ」
 パチリと指を鳴らす。飛んでいった腕が球体のシールドに囲まれてどんどんと転がって離れていく。
「移動している?」
 その男は混乱している。
「私は怒っているので、あとは知りません。では、さよなら」
 後ろを向いて町に戻る振りをしました。
「おいまて、これは幻覚なんだろう?元に戻るんだろう。」
「誰からその話を聞いたのですか?」
 私は、振り向きながらにっこり微笑んでみます。
「お前を襲った連中からだ。あれは幻覚だと」
「あの時私は、もしかしたら魔法の効力が切れて突然腕が落ちるかも知れませんよと言っておいたのですが、それは聞いていないのですか?」
「そ、そんな。」
 その男は力なく座り込んだ。
「まあ、この技をむだにしたくないので、あなたにチャンスをあげましょう。あなたが壊したあの建物をあなたの手で直しますか?」
「ああ、直す。直すよ。」
 その男は、ニヤリと笑って私に言った。
「なんですかその笑い。反省が見られませんね。では、腕を潰しましょう。ついでにあなたを殺しましょう。」
「待て、待て、待て。わかった、直す。だから腕を元に戻してくれ。頼む。」
「では、自分の腕を取りに行きなさい。」
「ああ、」
 そう言っていつの間にか止まっていた球体を取りに行く。
「はやくつけてくれ。」
「では、はい」
 私は、パチリと指を鳴らす。シールドは砕け、腕は元のところに収まった。しかし、転がったせいかズタズタになっている。
「どういうことだこれは、元に戻ってないじゃないか。」
「傷のことですか?」
「ああ、元に戻せよ。」
「いやですよ。なんでそんなこと。腕を元のようにくっつけるだけでも大変なのに傷まで直すなんていやです。あなたはその傷を毎日見て、自分のやったことを後悔して生きなければなりません。そのために必要です。それと」
「なんだと?」
「それと、魔力が切れたらいつ腕が落ちるかわかりませんよ。いいですか。だからといって私を恨んだり、町に悪さをしたら、わかりますよね。」
「どうするつもりだ。」
「あなたを探し出して、生きたまま、一生火あぶりですね。死なないように治療しつつ。何度も痛みを感じてもらいます。あとは、逃げないように両手足切り落としてしまうのもいいかもしれません。そして町の皆さんに毎日朝夕に蹴っ飛ばしてもらいましょう。どうですか?楽しそうでしょう?」
「わかったよ。おまえ本当にやりそうだしな。」
「はい、約束しましたね。それともう一つだけお聞きします。あなたに入れ知恵した人は誰ですか?」
「それは言えない。俺が殺されてしまう。」
「いや、死なせませんよ。でも、そこにいるんでしょう?」
 私はそう言って、森の方の茂みに向かって言った。
「いやだなあ。知っていて話していたんですか。人が悪い。彼は小悪人なので許してあげてください。私が嘘でだましたところもあります。」
 そう言ってフードをかぶった女の人が近くの木陰から現れました。
「じゃああなたが代わりに罰を受けると。」
「それは、あなた次第ですね。これをご覧なさい」
 そう言うとその人の横に画面が現れた。
「空間魔法ですか?」
「いいえ、なんですかそれは、単に人質の傍らの者の見ているイメージを覗いているだけです。」
「そうですか、それは残念です。でも、人質ですか、姑息ですね。」
「なんとでも。私は弱者なので、どんな卑怯な手を使ってでも相手に勝たなければなりません。そうやって生きてきました。相手を屈服させなければならないので。」
「従わなかったら?」
「差し違える覚悟ですね。」
「じゃあ死んでもらいましょうか。」
「こちらには人質がいるんですよ。」
「それはね、あなたを殺して、さらに助けることができる人間には効かないんですよ。」
「見捨てるというのですか。家族ではないのですか?あれだけ楽しそうに暮らしているのに、あっさり見捨てるんですか。」
「見捨てる?言っている意味がわかりません。私は今すぐあなたを殺して、助けに行き、すべてを守りますよ。ええ、私の手の中のものすべてをね。」
「ならば殺しましょう、人質を。」
「じゃあ、時間の勝負ですね。あなたが言葉を発する前に」
 私は指を鳴らそうとする。しかし、その女は、何か知らないけれど恍惚とした表情になり、こう叫びました。
「ああっ。もう我慢できません。これは、あの方の方針ではないのですがしょうがないですよね。そうですよね。だからこれは、この戦いは仕方の無いことなのです。人質を殺す前にあなたを殺しましょう。そして、殺す寸前、人質にそれを見せて、絶望する人質の悲痛な顔を見ながら、あなたを殺しましょう。」
「ああ、あなたは戦いたかったのですね。自分の持てる技量をすべてぶつけられる対象を探していたのですね。悲しいことです。でも、それがあなたの本望なのでしょう。私には理解できませんが。でも、やるからには今後に遺恨が残らないように完璧に潰します。」
「そうです、それが聞きたかった。人質なんか関係ない。いらないんです。あなたの殺意を引き出せれば。私は殺す気で行きますからね。ためらわないでください。殺さないようにとか手加減とか考えないでください。そんなの、つまらないですから。」
「いいから来なさい。あ、アンジー」
 私は、パチリと指を鳴らし、さっきのシールドを張る。
「相打ちになったらよろしくお願いします。ああ、そこの男が邪魔ですね。これを」
 再度指を鳴らし、今度は、男の胴を縄状の物で縛る。
「おい、何だよこれは。」
「それは、徐々にきつくなる縄です。時間が経って解除されないとじわじわ死にます。」
「お、おい。改心したって言っているだろう。」
「わかりませんよ。私が死んだら、アンジーに何するかわかったものじゃない。」
「頼む、助けてくれ。」
「相手が勝ったら頼みなさい。」
「では、行きます。」
 相手に向き直り姿勢を正す。フードの女は、手に持った杖を前にかざし、呪文を唱えている。 
 鮮やかな魔方陣が幾重にも発生し、消えていく。私は、ただ目を見開き念じるだけです。
 チリチリと空気がぶつかり合い、二人の間にある空間の一部がゆがんで見えます。たぶんお互いの魔力がぶつかり合っているのでしょう。お互いの魔力を量る意味合いがあるのかもしれません。しばらくして2人の間のチリチリがとまる。
「すごい魔力量ですね。さすが転生者。でも、魔力の操作にまだ慣れていませんね。」
 その魔法使いは、そう言って、再び杖を振り出す。今度は何度もこちらに向けて魔法を放つように手を振っている。そうまるで指揮者のように。しかし、私は、中間地点ではじき返している。でもそれを何回も繰り返している。私は、だまってそれを受ける。何を無駄なことを続けるのかと思えるほど、はじき返したときに、私の立っている場所を中心に地面が光り出す。いつの間にか私の回りに魔方陣ができている。
「やっと起動しましたか。あなたのシールドを破壊するのにどれだけの魔力を注ぎ込まなければならないんですか。でも、これで終わりで・・・」
 その魔法使いに言い終わらせないうちに私は、彼女の前まで近づきその顔面を手で捕まえる。アイアンクローですね。
「そんな、あの魔方陣を越えて、さらに私の周りの結界を越えて私の顔に手を触れるなど」
「できないと思っているならそれはおごりです。実際につかんでいるのですから。あなた、顔の部分だけ様子が見らられるよう結界を薄くしていましたでしょう。」
 私は、つかんだだけで力は入れていませんが、魔法で空気を圧縮して頭の周りを押しつぶそうとしています。
「なるほど、稚拙に見えているのはフェイクだったんですね」
「いいえ、ああいう魔法による攻防は実践を積まないと難しいのです。なので今回は、大変勉強になりました。ありがとうございました。臨時の先生。でも、」
 魔法使いは、私の話の途中で、私から視線を外しあらぬ方を見ると笑い出した。
「あーははは。楽しかったよ魔法使いさん。でも、まだここで終わりじゃないみたいです。」
 その時、空に雲が発生して真っ暗になる。そして、本来ならありえない裂け目が頭上に現れ、光の刃が私とその女の間に落ちてきました。おかげで、私は手を離さざるを得なくなりました。離れた刹那、その女は、瞬時に遠距離へと跳躍した。
「楽しいなあ、でも、残念まだ死ねなかったよ、この快感のまま君の手で死にたかったけど。でもね、次がまたありそうだ。あの方のおかげでね。まだ私には、あの方にとって利用価値があるみたいだ。だから、次を楽しみにしているよ、また会おうね魔法使い。愛しているわ」
「この魔方陣置いていかないでくださいよ。どうするんですかこれ、あと名前教えてください。」
「その魔方陣を壊すのは申し訳ないがお願いするよ。あと、名前はすでに誰かから聞いているだろうジョーだよ。エースのジョー。」
「頼むからもう顔を見せないで欲しいのですがね」
「それは無理ですよ。私はあなたにもう一度会いたい。あなたと戦うために会いたいからね。じゃあね愛しているよ。」
「愛しているとか勘弁してください。まったく。」
 自分の立っていた位置にあった魔方陣を分析して慎重に消していく。時限式で良かった。あのままそこに立っていたら、爆散していましたねきっと。
「終わったか」
 草むらから顔を出すモーラとユーリ、エルフィ、メア。
 モーラが朽ち果てた人形をポーンと放り投げる。ああ、これが、彼女の言う「傍らの人」ですか。人じゃないですねえ。
「おやモーラさんこんな近くにいたんですね。見ていたんですね。」
「ああ、わかっておったのじゃろう。」
「最初からなんか人質を取るタイプではないとは思っていましたが、戦いを誰かに見ていて欲しいタイプの変態さんだったんですね。」
「にしてもおぬしは、ひどいことを言っておったな。」
「そうでも言わないと引いてくれないと思って言ったんですが、すいません逆効果でした。」
「見てみい、みんなへこんでいるぞ。」
「でも、ちゃんと最後にすべて守るといったじゃないですか。」
「そんなのは詭弁じゃろう。実際どうするつもりだったんじゃ、あの場面。」
「いや、本当だったら、あのイメージ投影している魔法の中に、空間ねじ曲げて通路を作って、その場所に行っていますよ。」
「なんじゃと、そんなことができるのか。」
「無理にでもやっていたでしょう。でも、見たときからフェイクだってわかりましたからねえ。」
「そういうことか。みんな聞いたか?こやつの能力は計り知れんな。」
「ご主人様すごすぎます。私を創造した錬金術師様よりも数段上を行っています。」
「そんなわけないですよ。私にはあなたを作ることはできません。」
「いいえ、多分数年後には作れるようになります。創造主は、50年以上かかっていますから。」
「まあ、そんなことはどうでもよい。このあとどうするのじゃ」
「この男に誤解だったことを町に謝まらせて建物を作り直すところまで見届けますか?」メアさんが言いました。転がっている男を見下すような目で見ながら。
「まあ、そうなるのう。」
「あ」
 私は、パチリと指を鳴らしアンジーの周りの球体を砕く。
「ふう、やっとでられたわ。でも、こんなものいつ作れるようになったの?」
「ああ、モーラの手の中で風を防ぐためのシールドを研究していまして、モーラさんの頭部とか前面に張っている見えないシールドを解析してみたんですよ。でも、どうやっても球体にしかならなくて。もっと研究しないと。」
「それをすぐ使えるようになると。はあ、そういうことですか。」
 そう言ってアンジーが頭を抱える。
「人の体の秘密を勝手に暴くな」
「いや、秘密って言っても自分で理解して使っているわけじゃありませんよね、その仕組み。飛ぼうとすると自動的に起動していますよねえ。」
「そりゃあ本能じゃからのう。」
「でも次からは快適な旅ができそうですね。皆さんも安全に空の旅ができますよ」
 全員、首を横に振る。モーラさえも首を振っています。
「え?楽しいじゃないですか」
「みんながみんな空の旅を楽しいと思えるとは限りませんよ。」アンジーの言葉に全員うなずく。
「悪いがわしも同じじゃ。」
「ええ?今回飛んだのは?」
「あれは、風の奴が来て今回のことを言ったから飛んだだけで、あまり頻繁に飛ぶと周りのドラゴンの目を引くのでなあ。縄張り侵犯ということになりかねん。」
「ええ、じゃあ陸上を行ったって同じじゃないですか。」
「陸上をこの姿で行くということは、こちらには危害を加える意志がないと思ってくれるのでなあ。それでも、これまで勝負を申し込まれて、回避してきた奴らのところを通れば確実に攻撃されるかもしれん。いや、かもしれんではなく、確実に攻撃されるな。縄張り侵犯じゃから、いい攻撃の機会じゃし。」
「ああ、なるほど。ドラゴンの世界も大変なんですね。」
「いや、わしだけじゃ。これまであまりにも他のドラゴンと交流していなかったからのう。」
「引きこもりですか」
「それでも生きていられるのがドラゴンじゃ。」
「モーラ様、ドラゴンの世界の末席と言っていますが、もしかして自分の力がどのくらいかわかっていないということですか?」
 ユーリがめずらしく尋ねる。
「そうなるな。なんせ、勝負を挑まれてもすぐに降参していたので相手にしようと思わなくなってくれたのでな。」
「それまでは、どうだったのですか?」
「ああ、最初の頃は、イヤイヤ相手をしていたが、一応負けてはおらん。そのうち試合が面倒くさくなって相手をしなくなったわ。飽きてしまってな。それでも何度も再戦申し込む奴とかその噂を聞きつけて挑戦してくる連中も増えて、本当にいやになったのじゃ」
「でもそれってほぼ最強なのでは?」
「わしだって、一時期そう思ったが、よく考えれば、本当に強い奴はそもそも仕掛けてこないものなのじゃよ。強い弱いで一喜一憂しているのは、それこそ末端なのじゃよ。」
「なんかすごいです。」
 ユーリが感心している。
「わしは単なる引きこもりじゃ。それ以上でもそれ以下でもないわい。」
「さて、そろそろ縛っているひもを解きますか。」
「は、早くしてくれ。死ぬ。」
「しゃべられるということは、まだ大丈夫ですね。骨の2・3本もヒビ入れときますか?痛いんですよ、夜眠られないくらいに。」
「よせ、もういいじゃろう。こんな小物に。」
「はいそうします。」パチンと指を鳴らすと縄が消える。
「その縄みたいのいったいどうやるんじゃそれ。」
「企業秘密です。」
「さて、あなたは勝手に誤解したことをあそこの町長に謝って、建物を直してくださいね。」
「わかった。」
「あと、これからは本当に気をつけて生活してくださいね。腕落ちるかも知れませんから」
「おい、それ本当なのか。」
「ええ、一度切っていますから。切断面がちゃんとくっついていないと取れますよ。」
「本当か」
「試してみますか、一度切った腕を再度切り落とすと取れやすくなりますけど。」
「いや、いい。やめておく。」
「決して無理はしないように。」
「ああ、そうする」
「それと、私たちのことは誰にも言わないでくださいね。まあ、事の顛末を聞かれて、拷問されそうなら殺されないように話しても良いですけど。」
「それは助かる。」
「とりあえず、町長のところに行きますか。」
 おとなしくなった彼を引き渡し、謝罪させていました。しきりと肩のあたりを気にしていますが、大丈夫ですよちゃんとくっついていますから。


 続く
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