上 下
182 / 258
新規プレイヤーとあれこれ

28:運搬とギルドでの一幕

しおりを挟む
 
 タマゴ、どうやって運ぼうかなぁ。
 インベントリに入れられないとなると持ち運びが面倒だし……いや、待った。インベントリに入れられないというだけで、別にインベントリ以外の入れ物に入れられない訳ではないのでは?

 そう思い、インベントリの中を整理し、空にしたリュックを取り出す。リュックに入れる前に、とりあえずタマゴのSSと説明文のSSを撮っておく。

 SSは食材にならないままリュックに入れることが出来たら兄のフレチャに送ればいい。先に送っておいてリュックに入れた途端食材になったとかだったら訂正が面倒だし。

 さて、タマゴを回収。リュックに入れて……あ、クッション用に鉱山へ来る前に手に入れたフォレストディアの毛皮を入れておこう。毛皮の上にタマゴを入れて……うん。食材には変わっていない。良かった良かった。

 っと…………特に周囲で変化があるような気配は……ないかな。周囲を見た限りエネミーが出て来るような様子もないね。

 あっさりタマゴが手に入った。何も無い方が嬉しいけど、無いなら無いで釈然としない感じ。
 あれもこれも求めるのは我が儘かな。あ、いや、無い方が良いのだけども。

 問題なくタマゴをリュックに入れられたので兄へフレチャを送る。返信がすぐに来るかどうわからないので、一旦フレチャの画面を閉じた。


 〇


「ファルキン。そっち終わったらこっち来てくれ!」
「今終わったところだから今行――あ、ちょい待ってフレチャだ」

 丁度手元の作業が終わったところでエンカッセからの呼びかけに答えたところでフレチャの通知が来ていたことに気付いた。

 アユから? 食べ物は少し前に受け取っているし、返済用の素材もその時に渡しているよな?

 このタイミングで何かあっただろうかと追考するが特に思い当たることはない。見ればわかるかとすぐさま思考を放棄しフレチャを開いた。


 ア   ユ:これいる?
 ア   ユ:SS
 ア   ユ:私がそっちに着くまでに考えておいて。いらないなら食材行きデス


 連続でフレチャが届いているんだが、なんだ? いる?ってことは、まさかさらに借金しろと? まだ半分くらいしか返済していないっていうのに……
 しかし、いらないなら食材行きって何だ?

「タマゴ? …………!?」

 1枚目のSSに写っていたのは何かのタマゴ。画像を拡大してみても何のタマゴなのか一切わからないし、画像内に比較対象が無いのでサイズ感がわからなかった。しかし、これで食材云々の話は分かった。それと同時にある可能性に思い当たり、すぐさま2枚目の画像を拡大した。

「ワイバーンの卵……! きっ」

(゚∀゚)キタコレ!! と叫ぶ前に物理的に口を塞ぐ。ここで叫べば他のプレイヤーに何かがあったことがバレる。下手な騒ぎになればアユに迷惑がかかるかもしれない。

 MPを注げば羽化するのか。アユ自身が羽化させないのかとも思ったが、生まれて来るのはワイバーンだ。その辺に居る普通のエネミーではない。どう足掻いても目立つだろうな。だからこっちに持ってくるのだろう。


 ファルキン:(≻ω≺)いります! 欲しいです! いくらですか!!


 返信したが、うーん反応ないな。移動中か? それとも俺の返答に呆れているのか? まあ、移動中なら返事は難しいだろうから返事が来たらすぐに気付けるようにしておこう。
 とりあえずエンカッセにこれの事を話して、アユが来るまでにこのタマゴの扱いをどうするかを決めておかなければ。


 〇


 やっとイスタットの街に戻って来た。元来た道を戻って来たので行きよりも時間は掛からなかったけれど、それでもそこそこの時間が掛かった。

 途中通り過ぎて来た坑道の前には多くのプレイヤーが集まっていたので、アナウンス通りしっかりと坑道の封鎖は解除されたのだろう。
 そして鉱石の不足が問題になっていたようなのでその影響で坑道にプレイヤーが集中していた分、イスタットの街にはプレイヤーの姿は少ないように感じた。

 いくつかイスタットのギルドでしか達成できない依頼を受けていたので、その達成を報告するためにギルドに入る。

「ん?」

 ギルドの入り口を潜った瞬間違和感を覚えた。

 別サーバーに飛ばされた? イベントでも発生したのかな。でも、そんな気配と言うか条件を満たしたようなことは何もしていない……わけなかった。あれかぁ。

 不思議に思ってギルドの中を見渡していると取り押さえられている3人の人影。その影に見覚えがあったのでどうしてこうなったのかの原因を理解した。
 捉えられている3人は鉱山でロックワイバーンに追われていたプレイヤーだった。

 ただ、少し違和感。
 何と言うかほんの少しの接触だった訳だけど、あの3人組と今目の前で捕らえられている3人で印象が一致しない。別人っぽい感じ?

「ああ、貴方はこの者たちを捕らえてくれた方ですね」
「え? あ」

 ああ、そういう事か。
 レッドNAMEのプレイヤーは倒されると逃走か牢獄行きなわけだけど、実際はそのレッドNAMEプレイヤーを倒したプレイヤーが捕らえて衛兵とかに受け渡したとかそんな流れなのだろう。殆ど省略されていた上に大して気にしていなかったから知らなかったけど。

 それにあの3人組。ギルドから指名手配されていたから、捕まえたってことで報酬が支払われるはず。だから、これはそのためのイベントということか。
 となると、あの3人は別人というよりもこのイベント用に外側だけ複製されたアバターという事かな。だから印象が違うと感じたのだろうね。

「貴方のお陰で逃げていたこの者たちを捕らえることが出来ました。ありがとうございます」
「えっと」

 偶然見つけていつもの流れで倒しただけだから、感謝されても困る。

「報酬についてなのですが、受付の方へ来てもらってもよろしいでしょうか。あちらで手続きをしますので」

 何か時間が掛かりそうな気配。
 というか、これあれだ。勝手に話が進んで行くタイプのイベント。たぶん会話の受け答えに何を言っても言わなくても進行に影響がないやつ。現に受付嬢の言葉に碌な返事をしていないのに話が進んでいるし、間違ってはいないと思う。
 しかし、この手のイベントなら……あぁ、あったあった。

『このイベントをスキップしますか? YES/NO』

 報酬を受け取るだけのイベントなら時間の無駄にしかならない。雰囲気と流れからしてそれ以上のことはなさそうだし、最後までイベントを見たとしてもいい情報が手に入るような気配もなさそう。

『イベントをスキップします。
 ・・・
 ・・・
 報酬アイテムを受け取りました。
 インベントリに入りきらなかったアイテムはギルド倉庫へ移動しました。
 ギルド貢献ポイントを獲得しました。』

 イベントスキップ終了。目の前からアナウンスウィンドウが消えると同時に視界が一瞬揺らぎ、気付けば訓練所入口に立っていた。

 何でここにと思ったけど、入り口付近に戻されれば目立つからその辺に気を使ったのかな。イベント空間と同じように、訓練所も別サーバーらしいからこっちの方が戻し易い、とかもありそうだけど。

 受付に向かい、依頼の達成報告し、新しく依頼を受ける。その後にインベントリ内にある素材をギルド倉庫へ移動させた。

 ギルドでの目的を終えたのでギルドから出て噴水広場へ移動し、そこからセントリウスへ移動した。


―――――
あの巣はマップで確認するとワイバーンの巣になっています。
タマゴに触ると同時にロックワイバーンが出て来る仕様でしたが、先に倒してしまったので何も起こらず。

ギルドでのイベントはギルド職員から感謝されて報酬を渡すだけの物。報酬の内容は捕らえたプレイヤーが持っていた未使用の消耗品と素材、AS。それと、ギルド職員の好感度。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

思わず呆れる婚約破棄

志位斗 茂家波
ファンタジー
ある国のとある夜会、その場にて、その国の王子が婚約破棄を言い渡した。 だがしかし、その内容がずさんというか、あまりにもひどいというか……呆れるしかない。 余りにもひどい内容に、思わず誰もが呆れてしまうのであった。 ……ネタバレのような気がする。しかし、良い紹介分が思いつかなかった。 よくあるざまぁ系婚約破棄物ですが、第3者視点よりお送りいたします。

聖女の証を義妹に奪われました。ただ証だけ持っていても意味はないのですけどね? など 恋愛作品集

にがりの少なかった豆腐
恋愛
こちらは過去に投稿し、完結している作品をまとめたものになります 章毎に一作品となります これから投稿される『恋愛』カテゴリの作品は投稿完結後一定時間経過後、この短編集へ移動することになります ※こちらの作品へ移動する際、多少の修正を行うことがあります。 ※タグに関してはおよそすべての作品に該当するものを選択しています。

またね。次ね。今度ね。聞き飽きました。お断りです。

朝山みどり
ファンタジー
ミシガン伯爵家のリリーは、いつも後回しにされていた。転んで怪我をしても、熱を出しても誰もなにもしてくれない。わたしは家族じゃないんだとリリーは思っていた。 婚約者こそいるけど、相手も自分と同じ境遇の侯爵家の二男。だから、リリーは彼と家族を作りたいと願っていた。 だけど、彼は妹のアナベルとの結婚を望み、婚約は解消された。 リリーは失望に負けずに自身の才能を武器に道を切り開いて行った。 「なろう」「カクヨム」に投稿しています。

俺の召喚獣だけレベルアップする

摂政
ファンタジー
【第10章、始動!!】ダンジョンが現れた、現代社会のお話 主人公の冴島渉は、友人の誘いに乗って、冒険者登録を行った しかし、彼が神から与えられたのは、一生レベルアップしない召喚獣を用いて戦う【召喚士】という力だった それでも、渉は召喚獣を使って、見事、ダンジョンのボスを撃破する そして、彼が得たのは----召喚獣をレベルアップさせる能力だった この世界で唯一、召喚獣をレベルアップさせられる渉 神から与えられた制約で、人間とパーティーを組めない彼は、誰にも知られることがないまま、どんどん強くなっていく…… ※召喚獣や魔物などについて、『おーぷん2ちゃんねる:にゅー速VIP』にて『おーぷん民でまじめにファンタジー世界を作ろう』で作られた世界観……というか、モンスターを一部使用して書きました!! 内容を纏めたwikiもありますので、お暇な時に一読していただければ更に楽しめるかもしれません? https://www65.atwiki.jp/opfan/pages/1.html

婚約破棄されて勝利宣言する令嬢の話

Ryo-k
ファンタジー
「セレスティーナ・ルーベンブルク! 貴様との婚約を破棄する!!」 「よっしゃー!! ありがとうございます!!」 婚約破棄されたセレスティーナは国王との賭けに勝利した。 果たして国王との賭けの内容とは――

異世界は流されるままに

椎井瑛弥
ファンタジー
 貴族の三男として生まれたレイは、成人を迎えた当日に意識を失い、目が覚めてみると剣と魔法のファンタジーの世界に生まれ変わっていたことに気づきます。ベタです。  日本で堅実な人生を送っていた彼は、無理をせずに一歩ずつ着実に歩みを進むつもりでしたが、なぜか思ってもみなかった方向に進むことばかり。ベタです。  しっかりと自分を持っているにも関わらず、なぜか思うようにならないレイの冒険譚、ここに開幕。  これを書いている人は縦書き派ですので、縦書きで読むことを推奨します。

ギフト【ズッコケ】の軽剣士は「もうウンザリだ」と追放されるが、実はズッコケる度に幸運が舞い込むギフトだった。一方、敵意を向けた者達は秒で

竹井ゴールド
ファンタジー
 軽剣士のギフトは【ズッコケ】だった。  その為、本当にズッコケる。  何もないところや魔物を発見して奇襲する時も。  遂には仲間達からも見放され・・・ 【2023/1/19、出版申請、2/3、慰めメール】 【2023/1/28、24hポイント2万5900pt突破】 【2023/2/3、お気に入り数620突破】 【2023/2/10、出版申請(2回目)、3/9、慰めメール】 【2023/3/4、出版申請(3回目)】 【未完】

悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます

綾月百花   
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。

処理中です...