上 下
180 / 255
新規プレイヤーとあれこれ

26:巣穴

しおりを挟む
 
 普通には回避できないと判断し、スタンの状態異常が切れた瞬間からダークブラストのチャージを開始する。

 ロックワイバーンの頭部が眼前に迫る中、一瞬でも時間を稼ぐためにバックステップ。地面が砂利で覆われた足場の悪い中だったため上手く後ろに下がれなかったものの、ダークブラストをギリギリ放つだけの時間は稼げた。

 チャージが完了次第すぐさにダークブラストをロックワイバーンの顔面目掛けて放つ。それと同時に体勢を低くし前方へ飛び込む。

 少ない時間で咄嗟に選んだ回避方法はロックワイバーンの脚の間を強引に通り抜けること。

 最近のゲームではそうそうないけど、攻撃判定が雑なゲームだと出来ないやつ。アバターや攻撃の当たり判定をしっかり作り込まれているUWWOなら普通に出来る。まあ、これが出来るエネミーは今のところフィールドBOSSの2体とこのワイバーンくらいだろうけど。フォレストシャドウウルフも大きいエネミーではあるけど、足の間が通り抜けられるほどではないので無理。

 ダークブラストを放ったことで視界が塞がれたけど、それはロックワイバーンも同じ。何もしないで前に移動すれば即座に噛みついてくるだろうけど、互いに見えていない状況でそんなことはしてこないはず。

 飛び込んだ後、ロックワイバーンの体や脚に当たることはなく、タイミング的に脚の間を通過した――

「へぷっ!?」

 前に飛び込んだことで両手から地面に着地し、それまで衝撃が無かったことで回避できたと判断した瞬間、真横から体が弾き飛ばされるほどの衝撃。

 衝撃によって浮いていた体が落ち、地面を滑る。
 痛覚設定のお陰で痛み自体はないけど、現実の感覚に引っ張られて痛いような気がして来る。いや、本当に痛みは感じていないのだけど何だろうこれ。
 あれかな。昔の実験で思い込みによって常温の水が熱湯に感じられて、実際はただの水を掛けられただけなのにやけどを負うとか。ノーシーボ効果だっけ? 詳しくは知らないし、実際にそれがあるかはわからないけど、そんな感じかも。

 って、これ今考えることじゃないね。

 とりあえず、何が当たったのかわからないけどダメージを受けたので攻撃を受けたらしい。
 衝撃からして、もしかしたら他のエネミーが乱入して来た可能性がある? 最悪のパターンは同種のロックワイバーンが参戦だけどそれは……、レアモンスターだからそれは無いよね?

 追撃を受けないようすぐ立ち上がり、体勢を整える。ロックワイバーンが進んで行った方を確認すると、ダークバーストに驚いたのか体勢を崩していたようだ。

 ロックワイバーンの正面に位置しない様に移動しながら、先ほどまで居た場所を確認したところ、両脚のブレーキ痕?の始まり付近に何かが横薙ぎに地面をこすったような跡が見えた。


 うーん? あぁ、なるほど。当たったのは尻尾か。それに意図した攻撃じゃなくて偶然当たった攻撃かな。ダメージも思ったほど大きくはないし、そんな感じだろう。




 ロックワイバーンとの戦いが始まってから3時間が経過。出来る限り斜面の上を取るようにしていたら、だいぶ鉱山の上の方まで来てしまった。
 想定外に時間が掛かったもののそろそろ討伐出来そう。

 HPを30%以下に減らすまでは割と順調だった。そこまでだったら1時間も掛かっていなかったと思う。ただ、ロックワイバーンのHPが30%を下回ってから思うようにダメージが稼げなかった。
 攻撃が出来ていないとか当てられなくなったとかではない。ダメージが通らなくなったのだ。

 原因はおおよそ見当がついている。
 ロックワイバーンのHPが30%を下回った時、特殊行動をしなかったのだ。70%、50%と特殊行動が続けば次は30%のはず。しかし、30%の時には何もなかった。
 いや、たぶん気付けなかっただけかな。

 要は、HPが30%の時の特殊行動はステータスアップ系だったのだろう。そして、その結果ダメージが通らなくなった。攻撃のモーションや移動速度に変化がなかったから気付かなかったけど、防御面で変化があったということだね。

 カッチカチだよ。元からの耐久もあって本当に硬い。状態異常の耐性も上がってそうだよね。

 ともあれ3時間も掛かったけれどようやくロックワイバーンのHPが10%以下になった。

 10%の時の特殊行動は普通にブレスだった。いや、普通って言うのはおかしいけどフィールドBOSSのワイバーンが使ってきた連続ブレスと同じ感じの奴。ただ、少し色?が違ったので風属性ではなさそう。毒属性かな?
 回避したから効果がどうなのかわからないけど、明らかに食らったら不味そうな色だった。

「グギャア!」

 突然ロックワイバーンが私から視線を外し、他の所へ移動していった。

 逃げ出した? よくわからないけど戦闘中に背を向けるのは愚策だよね。そう思いながら追撃。

 しかし、どうして今更逃げるのかなぁ? たしかにHPがそろそろ尽きそうだからというのはあるけど、それだったらもう少し前に逃げ出していてもおかしくはないはず。なら他に理由がある? 

 背後から攻撃を受けてもこちらを見る気配がない。まあ、ダメージにして十数だから振り向く必要がないだけかもしれないけど。
 それに逃げているようには見えないね。表情からあまり感情は読み取れないけど若干焦っている気配? でも逃げるならこちらを気にしないものおかしい気が。

 ん? あれは……何だろう。穴……洞窟?

 ロックワイバーンが向かった先には地面が隆起した場所があり、そこにロックワイバーンが通過できるくらいの穴が開いていた。
 ロックワイバーンはその穴の前に到着すると、こちらを向いて威嚇の姿勢を取った。

 何故そこで……あ! あの場所が巣穴ってこと? もしかしてあの追われていた犯人3人組ってあの中に入って隠れようとしたら見つかって追いかけられていたとか?

 まあ、その辺はどうでもいいか。
 とりあえずロックワイバーンを倒してからあの先を確認しよう。



「グギョァァァ……」

 巣穴の前に陣取ってから30分弱。ようやくHPが尽きたことでロックワイバーンが地に伏した。

 最後の数%が本当に長かった。明らかに巣穴の前に居たことで背水の陣みたいなバフが載っていたから、耐久どころか攻撃も結構気が抜けないくらいには上昇していたと思う。おそらく一撃食らえば即死していたくらいには強化されていた。
 幸い速度は上がっていなかったから慎重に攻めることで攻撃を食らうことはなかった。その所為で時間がより掛かったけど、死ぬくらいならそっちの方が断然いい。

 ロックワイバーンからドロップした素材を回収する。回収できた素材は普通のワイバーンとほぼ同じ感じで、アイテム名にワイバーンではなく劣岩竜と付いていた。

 アイテムの回収も終わったので穴の中に入ってみることにする。ただ、何があるのかわからないので【感知】で周囲の状況を探りながら慎重に進む。

 ロックワイバーンが守っていた穴は奥に30メートル程続いていた。そしてその先に大きな空間があり、上空から光が差しているのが見えた。そしてその空間の地面には大きな枝などで組まれた巣と思われるものがある。

 光が差しているという事は上に穴が繋がっているってことで、メインの入り口がそこって感じなのかな。そもそもここってロックワイバーンの巣ってことで良いのだよね? あまり飛ぶのが得意そうになかったから、上から出入りするイメージが湧かないのだけど。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

前世で八十年。今世で二十年。合わせて百年分の人生経験を基に二週目の人生を頑張ります

京衛武百十
ファンタジー
俺の名前は阿久津安斗仁王(あくつあんとにお)。いわゆるキラキラした名前のおかげで散々苦労もしたが、それでも人並みに幸せな家庭を築こうと仕事に精を出して精を出して精を出して頑張ってまあそんなに経済的に困るようなことはなかったはずだった。なのに、女房も娘も俺のことなんかちっとも敬ってくれなくて、俺が出張中に娘は結婚式を上げるわ、定年を迎えたら離婚を切り出されれるわで、一人寂しく老後を過ごし、2086年4月、俺は施設で職員だけに看取られながら人生を終えた。本当に空しい人生だった。 なのに俺は、気付いたら五歳の子供になっていた。いや、正確に言うと、五歳の時に危うく死に掛けて、その弾みで思い出したんだ。<前世の記憶>ってやつを。 今世の名前も<アントニオ>だったものの、幸い、そこは中世ヨーロッパ風の世界だったこともあって、アントニオという名もそんなに突拍子もないものじゃなかったことで、俺は今度こそ<普通の幸せ>を掴もうと心に決めたんだ。 しかし、二週目の人生も取り敢えず平穏無事に二十歳になるまで過ごせたものの、何の因果か俺の暮らしていた村が戦争に巻き込まれて家族とは離れ離れ。俺は難民として流浪の身に。しかも、俺と同じ難民として戦火を逃れてきた八歳の女の子<リーネ>と行動を共にすることに。 今世では結婚はまだだったものの、一応、前世では結婚もして子供もいたから何とかなるかと思ったら、俺は育児を女房に任せっきりでほとんど何も知らなかったことに愕然とする。 とは言え、前世で八十年。今世で二十年。合わせて百年分の人生経験を基に、何とかしようと思ったのだった。

VRMMO~鍛治師で最強になってみた!?

ナイム
ファンタジー
ある日、友人から進められ最新フルダイブゲーム『アンリミテッド・ワールド』を始めた進藤 渚 そんな彼が友人たちや、ゲーム内で知り合った人たちと協力しながら自由気ままに過ごしていると…気がつくと最強と呼ばれるうちの一人になっていた!?

【第1章完結】デスペナのないVRMMOで一度も死ななかった生産職のボクは最強になりました。

鳥山正人
ファンタジー
デスペナのないフルダイブ型VRMMOゲームで一度も死ななかったボク、三上ハヤトがノーデスボーナスを授かり最強になる物語。 鍛冶スキルや錬金スキルを使っていく、まったり系生産職のお話です。 まったり更新でやっていきたいと思っていますので、よろしくお願いします。 「DADAN WEB小説コンテスト」1次選考通過しました。

VRMMOでチュートリアルを2回やった生産職のボクは最強になりました

鳥山正人
ファンタジー
フルダイブ型VRMMOゲームの『スペードのクイーン』のオープンベータ版が終わり、正式リリースされる事になったので早速やってみたら、いきなりのサーバーダウン。 だけどボクだけ知らずにそのままチュートリアルをやっていた。 チュートリアルが終わってさぁ冒険の始まり。と思ったらもう一度チュートリアルから開始。 2度目のチュートリアルでも同じようにクリアしたら隠し要素を発見。 そこから怒涛の快進撃で最強になりました。 鍛冶、錬金で主人公がまったり最強になるお話です。 ※この作品は「DADAN WEB小説コンテスト」1次選考通過した【第1章完結】デスペナのないVRMMOで〜をブラッシュアップして、続きの物語を描いた作品です。 その事を理解していただきお読みいただければ幸いです。

ダンジョン菌にまみれた、様々なクエストが提示されるこの現実世界で、【クエスト簡略化】スキルを手にした俺は最強のスレイヤーを目指す

名無し
ファンタジー
 ダンジョン菌が人間や物をダンジョン化させてしまう世界。ワクチンを打てば誰もがスレイヤーになる権利を与えられ、強化用のクエストを受けられるようになる。  しかし、ワクチン接種で稀に発生する、最初から能力の高いエリート種でなければクエストの攻略は難しく、一般人の佐嶋康介はスレイヤーになることを諦めていたが、仕事の帰りにコンビニエンスストアに立ち寄ったことで運命が変わることになる。

OLサラリーマン

廣瀬純一
ファンタジー
女性社員と体が入れ替わるサラリーマンの話

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

処理中です...