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ハブられ勇者の付き人やってます 別の場所に旅立った屑王子の体が、いつの間にか魔王に乗っ取られているんだが、どう言うことなんだ?
王子(魔王)と対峙する
しおりを挟む勇者と共に王都に入り、中を駆け抜ける。王都の様子は旅に出る前とは打って変わって重苦しい物に変わっていた。
見る限り住民は居ないようだが、これは避難したからなのか、それ以外が理由なのかがわからない。ただ、少なくとも王都の中には殆ど戦闘痕はないから、おそらく住民は避難できたのだろう。
さらに王都の中を駆け抜けていく。
王城に近付くにつれて王都に漂う黒い靄が濃くなってきている気がする。いや、確実に濃くなっているだろう。
そして住居エリアを抜け、さらに王城に近付くと次第に不快な臭いを感じるようになった。記憶違いでなければ、これは腐敗臭か血の匂いだ。
住民が王城に逃げ込むことは無いため、この先で住民が殺されたとは考え辛い。この先にある教会や騎士舎、王城で働いていた者が、この靄を作り出している存在に殺されてしまっているのかもしれない。
しかし、勇者は周囲に立ち込める匂いは気にせずに王城へ一直線に向かって行く。
途中、ゾンビのようなアンデット系のモンスターが出てきたがそれは勇者が速攻で退治していた。中には執務服を着たゾンビも居たが、おそらくそれは王城に仕えていた者のなれの果てだろう。
王城前の庭園を走り抜け、その勢いのまま王城に入り、最後に王の間に辿り着いた。
そして、王の間に入って直ぐに目に飛び込んできたのは、聖女である妹が何故か玉座に座る王子から攻撃を受けている所だった。
「てめぇええ!! 人の妹に何やってんだぁあああ!!」
俺の声に気付き王子がこちらを向いた僅かな間に勇者が妹と王子との間に到達した。そして、それと同時に王子から以前とは比べられない程に強力な魔法が放たれる。
「む?」
「おっと」
しかし、勇者はそんな魔法もあっさり防ぎ霧散させた。
妹に向かって放たれた魔法を防いでくれたのは感謝しきれないことなのだけど、あの剣って数打ちのやつよりは良い物だけど普通の剣なのだが。どうしてあれで魔法が防げるんだ? 今までもちょいちょいやっていたけど、今の魔法も防げるとかおかしいよな? 俺があれ食らったら普通に爆散するくらいの威力はあるだろ。いや、勇者の力とかそう言う奴なのだろうけどさ。
勇者が魔法を防いだことで、王子と睨み合っている内に妹、フィアの元に辿り着く。さすがにこのまま勇者の後ろに居続けるのは足手纏いどころか、足枷にしかならない。直ぐに魔力が尽きかけている所為でぐったりしているフィアを脇に抱え、王子からさらに距離を取る。
「なるほど、お前が勇者か」
「そうだね」
おかしいな。王子は勇者と面識が在ったはずなのだが忘れたのか?
そこが気になりつつもさらに距離を取る。
「聖女を殺し損ねたのは少し痛手だが、いやしかし、この場で勇者を殺せると言うのは僥倖としか言えないな」
いや本当に王子はどうしたんだ?
確かに王子が勇者のことを嫌っていたことは知っているし、あわよくば殺したいと考えていてもおかしくはない。ただ、聖女をしているフィアを殺そうとしたのは何でだ? 旅に出る前は、権力云々で無理やり娶ろうとしていたと言うのに、ここに来て心変わりでもしたのか?
「お兄ちゃん」
王子から距離を取ったから少し安心したのかフィアが口を開いた。
「大丈夫…そうではなさそうだったが、怪我は無いか?」
「怪我とかは大丈夫。ただ、魔力がもうないから私は足手纏いにしかならない。だからお兄ちゃんは、私を置いて逃げた方が良い」
泣き虫のくせに昔から責任感とかが強い子だったけど、こっちが心配しているのに俺の心配をしてくるとは。そもそも助けに言ったのに置いて逃げるなんてする訳ないだろうよ。
「とりあえずこれを飲め」
勇者用で持っていた魔力回復薬だけど、今まで使うことが無く腰のポーチに入れっぱなしになっていた物をフィアに渡す。
「え? これってゆ」
「聖女様ー!」
フィアが渡された回復薬について俺に聞こうとした瞬間、王の間に叫びながら人影が3つ駆け込んで来た。
「シア!?」
「え、何でお前がここに居るんだ!?」
王の間に駆け込んで来たのは、幼馴染であり聖騎士の長を務めているシアだった。そもそもシアはフィアの護衛として付いていたはずだよな? 何で別々で行動しているんだ?
「って聖女様!?」
「隊長! 勇者様も到着しているようです!」
「そのようだな」
シアと一緒に王の間に駆け込んで来た聖騎士が状況を見ながら、こちらに近付いて来た。
「シア。何でお前はフィアと一緒に居なかったんだ? 確か護衛として付いて行ったと思っていたのだけど」
「う、あ…えっと、そのだな」
「お姉ちゃんは悪くありません。私が悪いのです!」
「え、どういう事だ?」
渡した魔力回復薬を飲み終えたのかフィアが話に入ってきた。
と言うか、何か状況的に俺がシアを責めているみたいじゃないか? ただ、どうしてフィアが一人になったのかを聞きたかっただけなのだが、フィアが割って入って来るってことは確実にそう見えるってことだよな?
「馬車の中で待機していたら突然ここに飛ばされたのです」
「おそらく転移系の魔法だ。まさか王都の外にお手も手を出されると想定していなかった」
「まじかよ」
嘘だろ? ここから王都の外までって余裕で1キロは離れているはずなんだが。
「しかも、王都への偵察から戻って来て、その報告の際にやられた」
「なるほど、それは仕方がない」
さすがに想定外すぎるし、相手が見えない状況で相手の攻撃を躱せと言うのが無茶だ。しかも、魔法は発動してから効果を発揮するまでが短い物が大半だからな。その代わり発動させるまで時間が掛かる物も多いけど。
「おーい。すまないがそこで話していないで、こちらを手伝ってくれないかな!」
「あ!」
ヤバイ。勇者が王子と対峙しているのを忘れていた。
「そもそも王子はどうしたんだよ。さっきの事と言い、何でこっちに攻撃をして来るんだ? いくら勇者のことが気に食わなかったからって、前はここまでの事はしなかっただろう?」
「あ、あのお兄ちゃん。あれは王子ではなく魔王みたいです」
「はぁ?」
どういう事だ? あれは王子ではなく魔王? いやいや、見た目が完全に王子なのだけど?
「ああ、通りで王子とは異なる魔力を纏っている訳だ」
「魔王が言っていたことから、たぶん王子の体を乗っ取ったのだと思います」
「えぇ?」
はい? フィアが言ったことが正しいなら、王子は俺らが知らない内に魔王に体を取られたと言うことか? しかも、乗っ取られたってことは、王子は魔王と戦ったということだよな?
「まあいい。私は勇者の援護に向かう」
「すいません。回復薬は飲んだのですがまだ魔力が」
「俺も足手纏いにしかならないから後ろに下がっておく」
本来なら王の間からも出ておくべき何あろうが、既に王宮が魔王の手に落ちているのなら勇者たちの視界に入る範囲に居た方が良いだろう。
「お前らはここで、この2人の護衛をしていろ!」
「「はっ!」」
今まで口をはさんでこなかった騎士に指示を出してシアは王子、もとい魔王の元に向かって行った。
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