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騒動の収束
リーシャの今後 ※他視点
しおりを挟む第1王子がオグラン侯爵家に訪れた翌日。王城内の端にある一室。
牢屋に入れられるようなことはなかったもののリーシャは狭い部屋の中に拘束されていた。
ここへ来てもう数日が経っている。食事は普通に運ばれてくる。基本的な生活はこの部屋の中でも十分にすることは出来るが、それ以上のことは何もすることが出来ない。
少しでも立場の改善を、とリーシャは何度も申し出ているが、それは叶っていない。そして、これも実家に帰れさえすればどうにか他の者に罪を擦り付けられると想定しているが、当然それが叶いそうな気配はなかった。
既にリーシャはいろいろと不満を溜めていた。しかし、食事を運んでくる意外に使用人が訪れることはなく、不満を漏らす相手もいない。
「厭きたわ」
リーシャの声は他に誰もいない部屋の中に消える。
最初は何もやらなくてもいい、それを少しだけ喜んでいたリーシャだったが2日目になると、既にこの環境に嫌気がさしていた。もともとじっとしていることがあまり好きでも得意でもないリーシャにとって、この環境はなかなか精神的に堪えるものであった。
しかし、下手な行動をすればこの状況よりも悪いことになる事は目に見えて明らかだったため、リーシャはどうにか我慢を続けていた。
「中に入ってもよろしいだろうか?」
やることが無いためリーシャがふて寝でもしようかと考えていたところで、不意に部屋のドアがノックされ、部屋の外から声を掛けられた。
「どうぞ」
食事は先ほど終わらせたところ。そのためどうしてこの部屋に人が訪れるのか、それをリーシャは探る。
「失礼する」
そう言って部屋の中に入ってきたのは、リーシャが一切想定していなかった人物であった。
「王太子様?」
リーシャが拘束されている部屋に入ってきたのはなんと第1王子であった。
「どうしてここへ?」
「ああ、今回の事の顛末の処理を私が担当することになったからだ」
「処理?」
そう言われても、第1王子が言っている内容を詳しく知らないリーシャはただただ小首をかしげた。
「君の姉であるレミリア・オグランが他国へ亡命していた事の後処理になる。既にオグラン家への処分は言い渡している」
「え?」
まさか、自身の実家にまで責任が発生するとは思いもしていなかったリーシャの頭の中は、盛大に混乱していた。
まず、姉であるレミリアが亡命していることはここへ連れて来られてからすぐに聞かされている。それについて思う事が無かったわけではなかったリーシャだったが、既に自ら何をすることも出来なかったため、今まで記憶の片隅に追いやっていた訳だ。
そんな中でいきなり実家に責を取らせたと聞けば、混乱するのも無理はないだろう。
「オグラン家への処分内容は貴族籍からの除籍だ。故にオグラン侯爵は既に貴族ではなく、さらに言えば君も貴族ではなくなった」
オグラン家へ戻れれば自身の立場を改善する可能性を見出していたリーシャにとって、その事実は最悪の状況だった。
「貴族という盾が無くなったことで、意図的に人を害した君にその罪を回避する手立てが無くなっている。
故に問う。君はレミリアよりも力が弱いとは言え、数少ない回復魔法の使い手だ。こちらとしても安易に処分はしたくない。そのため、君には2つの選択肢を与えることにした」
「選択肢?」
突然の展開に頭が追い付いていないリーシャはオウム返しのようにそう繰り返した。
「1つは軍属の回復士になる事。これは完全に軍の所属になる。そのため、軍が動いている際には自由はほぼ無い。その代わり立場はこちらが保証することになるため、君が起こした罪は帳消しとなる。
もう1つは、グリーの第2夫人になる事だ」
「グリー王子の……第2夫人?」
グリー第2王子とリーシャは婚約していた。いや、少なくともリーシャは未だにグリーと婚約していると思っている。
しかし、第1王子から提示された内容からして、既にその婚約は破棄されていたことがわかる。それにどうして第2夫人なのかとリーシャは疑問を抱いた。
「グリーに関してはオグラン家の事とは関係ないが、とある事情により王族から排斥することが決まっている」
「……え?」
とある事情、という部分は何となく理由はわからなくはなかったが、ただでさえ王族が少ない中でグリーの事を王族から排除すると想定していなかったリーシャは驚きを隠せなかった。
「また、本来であれば正妻として君を据える予定であったが、その関係でそれが出来なくなった。その理由についてこの場では詳しく述べることは出来ないため、そういう物だと思ってくれ」
「……グリー王子が王族から外れる、という事ですが、今後一貴族として過ごすことになる、ということでしょうか?」
「そうなるな。爵位に関しては廃爵となったオグラン侯爵家の穴埋めという形で、侯爵の位を与える予定だ」
「……それならば、私はグリー様の第2夫人の方を選びます。軍属だけは何があっても嫌です」
リーシャは軍、という存在が好きではなかった。それは小さい頃から母親が軍の行動に振り回されていたというのもあるし、嫌っていたとは言え姉であるレミリアもある意味、あの母親と同じように軍に振り回される将来が決まっていたのだ。
そのため、それを知っていたリーシャはあのようにはなりたくないという思いが強い。
「そうか。ならばそのように事を進めて行く。事が固まり次第、こちらに知らせは出す。それまでは今まで通りここで待機しているように」
「……はい」
そうして、数日後この部屋から出た後はリーシャはグリーの第2夫人として今後の生活を送ることとなった。
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