上 下
59 / 72
母国の騒動

騎士団が帰った後

しおりを挟む
 
 アレスと辺境伯様が部屋に戻ってきました。

 想定していたよりも早く済んだようです。
 ですが、この場にアレスも呼ばれた、という事は私が出張る必要は無い……いえ、もしかしたら出て行く必要があり、それにアレスが随伴するという事なのかもしれません。

「友好としてここへ来ていたガーレット国の騎士団は既に帰った。だから、そう緊張する必要は無い」
「……そうですか」

 どうやら、私が出て行く必要は無かったという事ですね。
 そう思うと同時に緊張していた体から必要のない力が抜けていきます。

「まあ、来た者は正直言って拍子抜けも甚だしい程度の者だったがな。だが、これでガーレット国側の考えはある程度読み取れた。いや、あれは宰相の考えか」
「父上。さすがにその話しの内容を知らない私たちにそのような事を言われても、話について行けません。先になにがあったのか、教えていただけませんか?」

 1人で結論、いえ、自身が感じたことを述べていたグレシア辺境伯様にアレスがそう問いました。

「ああ、すまない」
「それで、ガーレット国の騎士団とはどのような話をしたのですか? 拍子抜けと感じたという事は、宰相の関係者はいなかったという事なのでしょうか」
「いや、おそらくその者はいた……が、あくまでも関係者というだけなのだろうな。正直、あの宰相が送り出した者とは思えなかった」
「そうですか」

 辺境伯様がここまで言われるという事はあまり能のある方ではなかったのでしょう。それに宰相の関係者という事で構えていた分、その差でより低評価になっていそうでもありますね。

「納得して帰還して貰えた。そう判断してもよろしいのでしょうか?」
「納得はしていないだろ。しかし、あの者が送られてきたという事はガーレット国側もある程度、このような状況を予測していたという事なのだろうな」
「どういう事でしょうか」
「既に説得することでどうにかなる、その段階を越えている可能性を高く見積もっていたという事だ。おそらく今回の友好と称した遠征は、レミリアを連れ戻そうとした、という事実を得るためのものだろう」
「何もしなければ、レミリアの亡命を受け入れた、そう捉えられてしまうため、それを避けるための遠征だったという事ですか」
「そのようだ。ガーレット国としてはレミリアを手放すのはあまりいい事ではないからな。国内の情勢としても、国外に対する外聞としても。まあ、要するに今回の事の原因を誰かに押し付けるための行動という訳だ」

 アレスの言葉にグレシア辺境伯様は深く頷き、そう続けました。

 私はガーレット国にとって王子と婚約していた重要な人物『だった』訳ですので、その人物が国外へ亡命している、というのは周辺国からすれば外聞が悪いでしょう。それを私の意志ではなく誰かの意図でそうなった、もしくはそうならざるを得なくなったとし、国の責任ではない、そうするための遠征だったという事なのでしょう。
 ガーレット国の上層部が考えそうな手ですね。

「とりあえず、これでガーレット国がレミリアに直接手を出すようなことは今後起きないことは確実だ。国王経由で抗議文書が送られてくる可能性もあるが、形だけの物であろうし、この事はアレンシア王国の国王も把握している。問題が起きるようなことはないだろう」
「え? 国王が関わっていたのですか?」
「他国の貴族と強引かつ最速で婚姻まで結んだのだ。それをするには王命なり、それに近い事をする必要があるだろう」

 まさか、私とアレスの婚姻に国王まで関わっているとは想像していませんでした。

「それは、凄い手間を掛けてしまったという事ですよね。申し訳ありません」
「こちらにも利があっただけの話だ。さすがに何もなければ私も手を出すことはしないし、王も動くことは無かっただろう」

 おそらくアレンシア王国はお母さまの母国ですし、それの関連で何かがあったのでしょう。さすがに利だけでは国家間でのわだかまりが起きるようなことは避けるでしょうから。

「そうかもしれません。ですが、それで私は助かっているのですから感謝すべきだと思います。本当にありがとうございました」

 そうして、私は何の憂いもなく、ここ、アレンシア王国グレシア辺境伯家の者として過ごすことが出来るようになりました。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

せっかく家の借金を返したのに、妹に婚約者を奪われて追放されました。でも、気にしなくていいみたいです。私には頼れる公爵様がいらっしゃいますから

甘海そら
恋愛
ヤルス伯爵家の長女、セリアには商才があった。 であれば、ヤルス家の借金を見事に返済し、いよいよ婚礼を間近にする。 だが、 「セリア。君には悪いと思っているが、私は運命の人を見つけたのだよ」  婚約者であるはずのクワイフからそう告げられる。  そのクワイフの隣には、妹であるヨカが目を細めて笑っていた。    気がつけば、セリアは全てを失っていた。  今までの功績は何故か妹のものになり、婚約者もまた妹のものとなった。  さらには、あらぬ悪名を着せられ、屋敷から追放される憂き目にも会う。  失意のどん底に陥ることになる。  ただ、そんな時だった。  セリアの目の前に、かつての親友が現れた。    大国シュリナの雄。  ユーガルド公爵家が当主、ケネス・トルゴー。  彼が仏頂面で手を差し伸べてくれば、彼女の運命は大きく変化していく。

幼馴染みに婚約者を奪われ、妹や両親は私の財産を奪うつもりのようです。皆さん、報いを受ける覚悟をしておいてくださいね?

水上
恋愛
「僕は幼馴染みのベラと結婚して、幸せになるつもりだ」 結婚して幸せになる……、結構なことである。 祝福の言葉をかける場面なのだろうけれど、そんなことは不可能だった。 なぜなら、彼は幼馴染み以外の人物と婚約していて、その婚約者というのが、この私だからである。 伯爵令嬢である私、キャサリン・クローフォドは、婚約者であるジャック・ブリガムの言葉を、受け入れられなかった。 しかし、彼は勝手に話を進め、私は婚約破棄を言い渡された。 幼馴染みに婚約者を奪われ、私はショックを受けた。 そして、私の悲劇はそれだけではなかった。 なんと、私の妹であるジーナと両親が、私の財産を奪おうと動き始めたのである。 私の周りには、身勝手な人物が多すぎる。 しかし、私にも一人だけ味方がいた。 彼は、不適な笑みを浮かべる。 私から何もかも奪うなんて、あなたたちは少々やり過ぎました。 私は、やられたままで終わるつもりはないので、皆さん、報いを受ける覚悟をしておいてくださいね?

妹に全部取られたけど、幸せ確定の私は「ざまぁ」なんてしない!

石のやっさん
恋愛
マリアはドレーク伯爵家の長女で、ドリアーク伯爵家のフリードと婚約していた。 だが、パーティ会場で一方的に婚約を解消させられる。 しかも新たな婚約者は妹のロゼ。 誰が見てもそれは陥れられた物である事は明らかだった。 だが、敢えて反論もせずにそのまま受け入れた。 それはマリアにとって実にどうでも良い事だったからだ。 主人公は何も「ざまぁ」はしません(正当性の主張はしますが)ですが...二人は。 婚約破棄をすれば、本来なら、こうなるのでは、そんな感じで書いてみました。 この作品は昔の方が良いという感想があったのでそのまま残し。 これに追加して書いていきます。 新しい作品では ①主人公の感情が薄い ②視点変更で読みずらい というご指摘がありましたので、以上2点の修正はこちらでしながら書いてみます。 見比べて見るのも面白いかも知れません。 ご迷惑をお掛けいたしました

運命の歯車が壊れるとき

和泉鷹央
恋愛
 戦争に行くから、君とは結婚できない。  恋人にそう告げられた時、子爵令嬢ジゼルは運命の歯車が傾いで壊れていく音を、耳にした。    他の投稿サイトでも掲載しております。

【完結】ブスと呼ばれるひっつめ髪の眼鏡令嬢は婚約破棄を望みます。

はゆりか
恋愛
幼き頃から決まった婚約者に言われた事を素直に従い、ひっつめ髪に顔が半分隠れた瓶底丸眼鏡を常に着けたアリーネ。 周りからは「ブス」と言われ、外見を笑われ、美しい婚約者とは並んで歩くのも忌わしいと言われていた。 婚約者のバロックはそれはもう見目の美しい青年。 ただ、美しいのはその見た目だけ。 心の汚い婚約者様にこの世の厳しさを教えてあげましょう。 本来の私の姿で…… 前編、中編、後編の短編です。

甘やかされて育ってきた妹に、王妃なんて務まる訳がないではありませんか。

木山楽斗
恋愛
侯爵令嬢であるラフェリアは、実家との折り合いが悪く、王城でメイドとして働いていた。 そんな彼女は優秀な働きが認められて、第一王子と婚約することになった。 しかしその婚約は、すぐに破談となる。 ラフェリアの妹であるメレティアが、王子を懐柔したのだ。 メレティアは次期王妃となることを喜び、ラフェリアの不幸を嘲笑っていた。 ただ、ラフェリアはわかっていた。甘やかされて育ってきたわがまま妹に、王妃という責任ある役目は務まらないということを。 その兆候は、すぐに表れた。以前にも増して横暴な振る舞いをするようになったメレティアは、様々な者達から反感を買っていたのだ。

記憶がないので離縁します。今更謝られても困りますからね。

せいめ
恋愛
 メイドにいじめられ、頭をぶつけた私は、前世の記憶を思い出す。前世では兄2人と取っ組み合いの喧嘩をするくらい気の強かった私が、メイドにいじめられているなんて…。どれ、やり返してやるか!まずは邸の使用人を教育しよう。その後は、顔も知らない旦那様と離婚して、平民として自由に生きていこう。  頭をぶつけて現世記憶を失ったけど、前世の記憶で逞しく生きて行く、侯爵夫人のお話。   ご都合主義です。誤字脱字お許しください。

精霊に愛されし侯爵令嬢が、王太子殿下と婚約解消に至るまで〜私の婚約者には想い人がいた〜

水都 ミナト
恋愛
精霊王を信仰する王国で、マナの扱いに長けた侯爵家の娘・ナターシャ。彼女は五歳でレイモンド王太子殿下の婚約者に抜擢された。 だが、レイモンドはアイシャ公爵令嬢と想い合っていた。アイシャはマナの扱いが苦手で王族の婚約者としては相応しくないとされており、叶わない恋であった。 とある事件をきっかけに、ナターシャは二人にある提案を持ち掛けるーーー これはレイモンドとアイシャ、そしてナターシャがそれぞれの幸せを掴むまでのお話。 ※1万字程度のお話です。 ※他サイトでも投稿しております。

処理中です...